弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成24年1月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10101号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年12月15日
判決
原告三星電子株式会社
同訴訟代理人弁理士亀谷美明
平山淳
被告特許庁長官
同指定代理人北川創
服部秀男
田部元史
板谷玲子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのた
めの付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2009-15312号事件について平成22年11月8日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記
2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請求は
成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のと
おり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,発明の名称を「テープキャリヤパッケージ,テープキャリアパッ
ケージを有する液晶表示パネルアセンブリ,液晶パネルアッセンブリを採用した液
晶表示装置及びその組立方法」とする発明につき,平成11年(1999年)4月
16日に大韓民国においてした特許出願に基づくパリ条約による優先権を主張して,
平成12年4月17日に特許出願(出願番号:特願平12-121080。請求項
の数は26である。)を行った(甲2)。
(2)原告は,平成21年4月14日付けで拒絶査定を受け,同年8月21日,
不服の審判を請求するとともに(甲4),手続補正書を提出した(甲3。以下「本
件補正」という。請求項の数は35である。)。
(3)特許庁は,上記請求を不服2009-15312号として審理し,平成2
2年11月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その
謄本は同月24日,原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
本件審決が対象とした本件補正後の請求項29の記載は,以下のとおりである。
以下,その発明を「本願発明」といい,本件出願に係る明細書(甲2,3,7)を
「本願明細書」という。なお,文中の「/」は,原文の改行部分を指す。
第1基板と,/前記第1基板の一部の上部に形成された第2基板と,/前記第1
基板に形成された複数のゲートライン及び複数のデータラインと,/前記第1基板
に形成され,前記ゲートラインと電気的に接続され,走査信号を伝送する第1ゲー
ト駆動信号伝送パターンと,/を含み,/前記第1ゲート駆動信号伝送パターンは,
/前記複数のデータラインからなるデータライン群と実質的に隣接するように形成
され,第1フレキシブルフィルムと電気的に接続された入力端子と,/前記複数の
ゲートラインからなるゲートライン群と実質的に隣接するように形成され,前記ゲ
ートラインと接続され,第2フレキシブルフィルム上に設けられたゲートオン・オ
フ電圧発生ユニットと電気的に接続された出力端子と,/前記入力端子及び前記出
力端子との間に電気的に接続された主信号パターンと,/を含むことを特徴とする,
平板パネルディスプレイ
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,特開平10-307301号
公報(甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」とい
う。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法2
9条2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
(2)なお,本件審決は,その判断の前提として,引用発明並びに本願発明と引
用発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア引用発明:入力した複合同期信号から分離されたソース駆動信号とゲート駆
動信号を各々出力するためのコントロールユニット,このコントロールユニットか
ら出力された前記ソース駆動信号を伝送するための多数の第1配線及び前記コント
ロールユニットから出力されたゲート駆動信号を伝送するための多数の第2配線を
有する印刷回路基板と,上部パネル及び下部パネルと,これら上部パネルと下部パ
ネルとの間に介在された液晶を有し,前記下部パネルはマトリックス配列された画
素とこの各画素をスイッチングするためにソース,ドレイン,ゲートを含む多数の
薄膜トランジスタが配置された液晶表示パネルと,前記コントロールユニットから
前記ソースにソース駆動信号を伝送するための第3配線と,前記印刷回路基板の前
記コントロールユニットから入力されたゲート駆動信号を伝送するための第4配線
と,選択されたゲート駆動信号を伝送するための第5配線と,前記下部パネルの前
記第3配線にその一端が連結されるとともに前記印刷回路基板の前記第1配線に他
端が連結され,前記コントロールユニットから前記第1配線を通じて入力されたソ
ース駆動信号を前記第3配線を通じて,選択された前記画素のソースに印加するた
めのソース駆動回路部と,前記下部パネルの第4配線と前記印刷回路基板の第2配
線を電気的に連結するための連結手段と,前記連結手段と前記下部パネルの前記第
4配線を通じて入力されたゲート駆動信号から選択したゲート駆動信号を前記下部
パネルの第5配線を通じて前記下部パネルの選択されたゲートに印加するためのゲ
ート駆動回路部とを備える液晶表示モジュールであって,前記ソース駆動回路部は
少なくとも一つのテープキャリヤパッケージを備え,前記ゲート駆動回路部は少な
くとも一つのテープキャリヤパッケージを備えた,液晶表示モジュールにおいて,
液晶表示パネルは,下部パネルと上部パネルとを含み,前記下部パネルは上部パネ
ルと対向するように配列され,これら上部パネルと下部パネルとの間に液晶が介在
され,下部パネルは,マトリックス状に配列された多数の画素と,この画素をスイ
ッチングするための多数の薄膜トランジスタ(TFT)とを有し,液晶表示パネル
の行方向に沿って印刷回路基板(PCB)が提供され,印刷回路基板上には,外部
回路から複合同期信号を受けて,ソース駆動信号とゲート駆動信号を発生するため
のコントロールユニットが提供され,印刷回路基板は液晶表示パネルから分離,離
隔して配置され,前記印刷回路基板と液晶表示パネルとの間には,液晶表示パネル
の行方向に沿っていくつかのTCP(第1群のTCP又はソース駆動回路部)が配
列され,このTCPは,薄膜トランジスタのソースと連結されているデータライン
中の選択されたデータラインにソース駆動信号を発生させるためのものであり,前
記第1群のTCPの各々は,ソース駆動集積回路チップと多数の配線を有する柔軟
性ある絶縁フィルムを含み,前記ソース駆動集積回路チップは前記絶縁フィルム上
に実装され,前記配線と電気的に連結され,前記ソース駆動集積回路チップの他側
の配線は,下部パネルの行方向に沿って配列される多数の第3配線と電気的に連結
され,この第3配線は,ソース駆動信号(データ駆動信号)をソース駆動集積回路
チップから薄膜トランジスタのソースと連結されたデータラインに伝送するための
ものであり,データラインが延長された,第1群のTCPの各々に対応した複数の
配線群であり,コントロールユニットから薄膜トランジスタのゲートに,ゲート駆
動信号を伝送するために,下部パネルのダミー部分(上部パネルと対向しない下部
パネルの所定部分)上に,上部パネルの列方向に沿っていくつかのTCP(第2群
のTCP又はゲート駆動回路部)が提供され,第2群のTCPは,コントロールユ
ニットから薄膜トランジスタのゲートに,ゲート駆動信号を発生させるためのもの
であり,前記第2群のTCPは,その各々がゲート駆動集積回路チップと多数の配
線を有する柔軟性ある絶縁フィルムを含み,前記ゲート駆動集積回路チップは前記
絶縁フィルム上に実装され,前記配線と電気的に連結され,信号伝達部材がコント
ロールユニットとゲート駆動集積回路チップ間の信号伝送のために提供され,この
信号伝達部材は,配線が柔軟性あるフィルム内に形成された構造を有したフレキシ
ブルプリント回路フィルム(FPCフィルム)であり,FPCフィルムは,前記印
刷回路基板と液晶表示パネルとの間に,液晶表示パネルの行方向に沿って配列され
るTCPと並んで配置され,コントロールユニットは多数の第2配線を通じ,前記
FPCフィルムは第4配線を通じてゲート駆動集積回路チップと連結され,前記第
4配線は,前記FPCフィルムからゲート駆動集積回路チップにゲート駆動信号を
伝送するためのものであり,第4配線は,下部パネルの行方向に沿って配列される
多数の第3配線と並んで,下部パネルの角部に配置され,下部パネルの列方向の縁
にあるダミー部分には,入力された駆動信号中の選択された信号を,選択されたゲ
ートラインに伝送するための多数の第5配線が提供され,この第5配線は,ゲート
ラインが延長された,第2群のTCPの各々に対応した複数の配線群であり,ゲー
ト駆動信号のための信号伝達経路は,印刷回路基板上のコントロールユニット,第
2配線,FPCフィルム,下部パネル上の第4配線,そして第2群のTCPのゲー
ト駆動集積回路チップの順番であり,前記第5配線から入力されたゲート駆動信号
は,下部パネル上の選択された薄膜トランジスタに対応するゲートを駆動し,第2
群のTCPの各々において,ゲート集積回路チップを基準として柔軟性ある絶縁フ
ィルムの一側部分は下部パネルの外側に配置され,前記一側部は下部パネルの列方
向に沿って前記下部パネルの縁線上に形成されたスリットを有し,モジュールの組
立工程の間,前記一側部は前記スリットに沿って折られ,パネル後面に付着され,
モジュールはコンパクトになり,前記第4配線は第2群のTCPの各ゲート駆動集
積回路チップにゲート信号を供給し,前記第4配線からの延長線は第5配線と重畳
しないように,下部パネルの外側にあるFPCフィルムの前記一側部を通じて前記
第2群のTCPの各チップに連結される,液晶表示モジュール
イ一致点:第1基板と,前記第1基板の一部の上部に形成された第2基板と,
前記第1基板に形成された複数のゲートライン及び複数のデータラインと,前記第
1基板に形成され,前記ゲートラインと電気的に接続され,走査信号を伝送する第
1ゲート駆動信号伝送パターンと,を含み,前記第1ゲート駆動信号伝送パターン
は,第1フレキシブルフィルムと電気的に接続された入力端子と,前記ゲートライ
ンと接続され,第2フレキシブルフィルム上に設けられたゲートオン・オフ電圧発
生ユニットと電気的に接続された出力端子と,前記入力端子及び前記出力端子との
間に電気的に接続された主信号パターンと,を含む,平板パネルディスプレイ
ウ相違点1:第1ゲート駆動信号伝送パターンの「入力端子」が,本願発明で
は,「前記複数のデータラインからなるデータライン群と実質的に隣接するように
形成され」ているのに対し,引用発明の「入力端子」が,そのように形成されてい
るものか明らかでない点
エ相違点2:第1ゲート駆動信号伝送パターンの「出力端子」が,本願発明で
は,「前記複数のゲートラインからなるゲートライン群と実質的に隣接するように
形成され」ているのに対し,引用発明の「出力端子」が,そのように形成されてい
るものか明らかでない点
4取消事由
容易想到性に係る判断の誤り
(1)対比の誤り(取消事由1)
(2)相違点1に係る判断の誤り(取消事由2)
(3)相違点2に係る判断の誤り(取消事由3)
第3当事者の主張
1取消事由1(対比の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件審決は,引用発明は,「前記第1ゲート駆動信号伝送パターンは,第
1フレキシブルフィルムと電気的に接続された入力端子と,前記ゲートラインと接
続され,第2フレキシブルフィルム上に設けられたゲートオン・オフ電圧発生ユニ
ットと電気的に接続された出力端子と,前記入力端子及び前記出力端子との間に電
気的に接続された主信号パターンと,を含む」点で,本願発明の「前記第1ゲート
駆動信号伝送パターンは,前記複数のデータラインからなるデータライン群と実質
的に隣接するように形成され,第1フレキシブルフィルムと電気的に接続された入
力端子と,前記複数のゲートラインからなるゲートライン群と実質的に隣接するよ
うに形成され,前記ゲートラインと接続され,第2フレキシブルフィルム上に設け
られたゲートオン・オフ電圧発生ユニットと電気的に接続された出力端子と,前記
入力端子及び前記出力端子との間に電気的に接続された主信号パターンと,を含
む」との特定事項と一致すると認定した。
(2)しかし,引用発明は,「前記複数のデータラインからなるデータライン群
と実質的に隣接するように形成され,第1フレキシブルフィルムと電気的に接続さ
れた入力端子」及び「前記複数のゲートラインからなるゲートライン群と実質的に
隣接するように形成され,前記ゲートラインと接続され,第2フレキシブルフィル
ム上に設けられたゲートオン・オフ電圧発生ユニットと電気的に接続された出力端
子」を有するものではないから,本願発明の「前記複数のデーダラインからなるデ
ータライン群と実質的に隣接するように形成され,第1フレキシブルフィルムと電
気的に接続された入力端子」及び「前記複数のゲートラインからなるゲートライン
群と実質的に隣接するように形成され,前記ゲートラインと接続され,第2フレキ
シブルフィルム上に設けられたゲートオン・オフ電圧発生ユニットと電気的に接続
された出力端子」との発明特定事項と一致するものではない。
(3)よって,本件審決の対比は誤りである。
〔被告の主張〕
(1)本件審決は,本願発明と引用発明との相違点として,相違点1及び相違点
2をそれぞれ認定し,各相違点について容易想到性の判断を行ったものであるから,
原告主張に係る「前記複数のデーダラインからなるデータライン群と実質的に隣接
するように形成され,第1フレキシブルフィルムと電気的に接続された入力端子」
及び「前記複数のゲートラインからなるゲートライン群と実質的に隣接するように
形成され,前記ゲートラインと接続され,第2フレキシブルフィルム上に設けられ
たゲートオン・オフ電圧発生ユニットと電気的に接続された出力端子」を一致点と
して本願発明の容易想到性の判断を行ったものでないことは明らかである。
よって,原告の主張は,本件審決の結論に影響を及ぼすものではないから,主張
自体失当である。
(2)本件審決は,原告が主張するように,引用発明が,本願発明の特定事項と
一致すると認定したのではなく,引用発明が,その点で本願発明の上記特定事項と
一致すると認定したものであることは,その説示から明らかである。
したがって,原告の主張は,本件審決の内容を正解しないものであって,失当で
ある。
2取消事由2(相違点1に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,相違点1について,引用発明において,「第4配線」は,その入力
側(FPCに接続される側)において「下部パネルの行方向に沿って配列される多
数の第3配線と並んで,下部パネルの角部に配置され」ているものであるから,引
用発明の「第4配線」の「入力端子」を,「第3配線」(本願発明の「複数のデー
タラインからなるデータライン群」に相当する。)と実質的に隣接するように形成
されたものとすることは,当業者が適宜なし得たことであると判断した。しかし,
以下のとおり,引用例の記載から,引用発明の「第4配線」の「入力端子」を,
「第3配線」と実質的に隣接するように形成する動機付けを見つけ出すことはでき
ない。
(1)引用発明において,「第4配線」の「入力端子」を,「第3配線」と実質
的に隣接させると,「下部パネル」上に形成される「第4配線」の総延長が長くな
り,製造コストを削減できるとともに,製造上の困難さを解消して製品歩留まりの
向上を図るという引用発明の課題の解決と矛盾する。
(2)引用例には,「FPCが直線形態を有する構成となることから,その製造
が容易となって不良率を減少させて製品歩留まりを向上させることができ,かつ,
小型軽量である液晶モジュールとすることができる」と記載されている。
引用例に記載された従来技術では,FPCが曲折した状態となっており(【00
05】,図3),引用発明は,このような従来技術の問題点を解消すべく,FPC
を直線状態として,第2配線,FPC,第4配線を,下部パネルの一の縁部に沿っ
て直線状に形成しているものである。したがって,FPCをさらにTCPに近接さ
せたり,「第4配線」の「入力端子」を,「第3配線」と実質的に隣接させたりす
ることは,引用発明では考慮されていないものである。
(3)引用発明において,「第4配線」の「入力端子」を,「第3配線」と実質
的に隣接させると,FPCが直線形態を有する構成とならず,FPCが曲折した状
態となることは明らかであり,この結果,引用発明の課題及び効果と矛盾すること
になるため,引用発明の「第4配線」の「入力端子」を,「第3配線」と実質的に
隣接するように形成する動機付けを見出すことができない。
〔被告の主張〕
(1)引用例の記載によれば,引用発明において課題とされる「製造コスト」と
は,従来の液晶表示モジュールにおいて,ゲート側の印刷回路基板を必要とするこ
とによる,材料費の増加を指すものであり,「製造上の難しさ」とは,ゲート側の
印刷回路基板とソース側の印刷回路基板が分離しているため,両者を接続してソー
ス駆動信号を伝送するために設けられるFPCを曲折させる必要があることを指す
ものである。そして,引用例には,ゲート側の印刷回路基板をなくし,ゲート駆動
集積回路を液晶表示パネルの縁に沿って実装し,液晶表示パネルに形成されたバス
ラインとFPCを通じてソース側の集積回路と連結することにより,部品点数を減
らして製造コストを削減し,また,FPCが直線形態を有する構成となることによ
って製造が容易になることが記載されている(【0006】【0027】)。
(2)引用発明において課題とされる「製造コスト」及びかかる課題を解決する
ための構成は,上記のとおりであり,第4配線の長さと全く関係がない。
したがって,引用例に上記課題に関する記載があることは,引用発明において,
「第4配線」の「入力端子」を,「第3配線」と実質的に隣接するように形成され
たものとして,相違点1に係る本願発明の構成とすることを妨げるものではない。
また,引用例には,第2配線,FPC,第4配線を,下部パネルの一の縁部に沿
って直線状に形成することは記載されておらず,原告の主張は,引用例の記載に基
づかないものである。
3取消事由3(相違点2に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,引用発明において,「第4配線」は,「第2群のTCPの各ゲート
駆動集積回路チップにゲート信号を供給し,前記第4配線からの延長線は第5配線
と重畳しないように,下部パネルの外側にあるFPCフィルムの前記一側部を通じ
て前記第2群のTCPの各チップに連結される」ものであるから,引用発明の「第
4配線」の「出力端子」を,「第5配線」(本願発明の「複数のゲートラインから
なるゲートライン群」に相当する。)と実質的に隣接するように形成されたものと
することは,当業者が適宜なし得たことであると判断した。しかしながら,以下の
とおり,引用例の記載から,引用発明の「第4配線」の「出力端子」を,「第5配
線」と実質的に隣接するように形成する動機付けを見つけ出すことができず,本件
審決の上記判断は誤りである。
(1)本願発明の目的の一つに,統合印刷回路基板で処理された駆動信号がテー
プキャリアパッケージを経由して,液晶表示パネルのゲートラインとデータライン
に印加されるとき,駆動信号の遅延が発生しないようにすることがある(【001
6】)。そのために,本願発明では,「第1駆動信号伝送パターン」が,「複数の
ゲートラインからなるゲートライン群と実質的に隣接するように形成され,ゲート
ラインと接続され,第2フレキシブルフィルム上に設けられたゲートオン・オフ電
圧発生ユニットと電気的に接続された出力端子」を含む構成を有する。かかる構成
を有することで,本願発明は,テープキャリアパッケージの数を削減でき,さらに,
液晶表示パネルのゲートラインとデータラインに印加されるとき,駆動信号の遅延
が発生しないようにできるという,本願発明に特有の効果を奏するものである
(【0098】)。
これに対し,引用例には,かかる本願発明が解決しようとする課題については何
らの記載もなく,そのような課題の解決を示唆するような記載もない。
(2)引用例の「第4配線」の「出力端子」を,「第5配線」と実質的に隣接さ
せるようにするには,TCPの幅を拡げる必要がある。TCPの幅を広げなければ,
「第4配線」がTCPに形成できないからである。
引用発明は,製造コストを削減できるとともに,製造上の困難さを解消して製品
歩留まりの向上を図るものであるところ,引用発明において,TCPの幅を広げる
ことは,製造コストを削減するという,上記課題の解決と矛盾することになる。
(3)引用例では,「第4配線からの延長線は第5配線と重畳しないように,下
部パネルの外側にあるFPCフィルムの前記一側部を通じて前記第2群のTCPの
各チップに連結されることが望ましい」とされている(【0022】)。したがっ
て,引用発明は,第4配線と第5配線とを離間させることを前提とするものであり,
本願発明のように,複数のゲートラインからなるゲートライン群と実質的に隣接す
るように形成することを前提とするものではない。
(4)引用例において,ゲート駆動集積回路チップを,下部パネルの縁に沿って
実装し,FPC,第4配線を直線形態にすると,必ず第4配線と第5配線とは離間
する。引用例は,下部パネルの輪郭に沿ってゲート駆動集積回路チップ,FPC,
第4配線を配置することを開示又は示唆するものであって,第4配線と第5配線と
を「実質的に隣接」させることを示唆するものではない。
(5)引用発明は,FPCを直線形態として,第2配線,FPC,第4配線を,
下部パネルの一の縁部に沿って直線状に形成しているものであり,液晶表示モジュ
ールの構造にのみ着目するものである。
これに対し,本願発明は,平板パネルディスプレイの構造のみならず,駆動信号
の遅延が発生しないようにする点について着目してなされたものである。したがっ
て,引用発明は,本願発明とその発明に至る着目点で相違するものである。
〔被告の主張〕
(1)本願明細書には,相違点2に係る本願発明の構成について,特許請求の範
囲と同旨の記載があるにすぎず,当該構成の技術上の意義を説明する記載は全くな
く,かかる構成が,原告の主張に係る目的を達成するための手段であることをうか
がわせる記載はない。すなわち,相違点2に係る本願発明の構成は,原告の主張に
係る目的とは関係がない。
したがって,引用例に,原告の主張に係る目的についての記載がないことは,相
違点2の判断に何ら影響しない。
(2)引用発明において課題とされる「製造コスト」とは,前記2のとおりであ
って,TCPの幅とは全く関係がない。
したがって,引用例に上記課題に関する記載があることは,引用発明において,
「第4配線」の「出力端子」を,「第5配線」と実質的に隣接するように形成され
たものとして,相違点2に係る本願発明の構成とすることを妨げるものではない。
(3)引用例には,第4配線と第5配線とを離間させることは記載されていない。
すなわち,引用発明において,第4配線からの延長線は第5配線と重畳しないよ
うに構成することは,「第4配線」の「出力端子」を,「第5配線」と実質的に隣
接するように形成されたものとして相違点2に係る構成とすることを妨げるもので
はない。
(4)引用例には,「下部パネルの輪郭に沿ってゲート駆動集積回路チップ,F
PC,第4配線を配置すること」や「第2配線,FPC,第4配線を,下部パネル
の一の縁部に沿って直線状に形成」することは記載されていない。
(5)原告の主張は,いずれも引用例の記載に基づかないもので,失当である。
第4当裁判所の判断
1本願発明について
本願発明の特許請求の範囲の記載は前記第2の2のとおりであり,本願明細書に
は,本願発明について,以下の記載がある(甲2,3,7)。
(1)発明が属する技術分野
本願発明は,テープキャリヤパッケージ,テープキャリアパッケージを有する液
晶表示パネルアセンブリ,液晶パネルアッセンブリを採用した液晶表示装置及びそ
の組立方法に関するものである(【0001】)。
(2)従来の技術
従来の液晶表示装置の液晶パネル(図8)では,データ印刷回路基板から発生し
たゲート電圧及びゲート電圧制御信号をゲート印刷回路基板に印加するためにはデ
ータ印刷回路基板とゲート印刷回路基板に各々インタフェース装置であるコネクタ
を設置する必要があったが,コネクタは,ゲート印刷回路基板及びデータ印刷回路
基板の両面の中でいずれの一側面にだけ形成されるため,コネクタの厚さに該当す
るほどの液晶表示装置の厚さが必然的に増加するので,液晶表示装置の薄形化を阻
害する要因となっていた(【0003】【0009】【0010】)。また,2つ
のコネクタを接続するFPCは,液晶表示装置の組立工程数を増加させると共に液
晶表示装置の製造コストを上昇させる問題点があった(【0011】)。
また,最近,液晶表示装置を一層コンパクトに製作するため,主にゲート印刷回
路基板及びデータ印刷回路基板をバックライトアセンブリの反射板の後面に折曲す
る印刷回路基板ベンディング方式が採用されているが,この方式では,ゲート印刷
回路基板は導光板の側面に折曲されることにより導光板の最も厚い部分とゲート印
刷回路基板が重なり,ゲート印刷回路基板の厚さ分だけ液晶表示装置の厚さが増加
するという問題点があった(【0012】【0013】)。
(3)発明が解決しようとする課題
本願発明は,上記問題点に着眼して案出されたもので,その目的は,①ゲート印
刷回路基板とデータ印刷回路基板を一つで統合して,一つの統合印刷回路基板から
別のコネクタあるいはフレキシブルプリントサーキットを使用せず液晶表示パネル
のゲートラインとデータラインに駆動信号が印加できるようにすること,②テープ
キャリヤパッケージが統合印刷回路基板から駆動信号の入力を受けて隣接したテー
プキャリヤパッケージに駆動信号が伝送できるようにすること,③統合印刷回路基
板で処理された駆動信号がテープキャリヤパッケージを経由して液晶表示パネルの
ゲートラインとデータラインに印加されるとき,駆動信号の遅延が発生しないよう
にすること,④テープキャリヤパッケージとTFT基板の組立方法を改良して液晶
表示パネルの取扱いを容易にすると共に液晶表示パネルの厚さを減少させることに
ある(【0014】~【0017】)。
(4)発明の効果
本願発明は,従来各々の印刷回路基板で処理されたゲート駆動信号又はデータ駆
動信号を一つの統合印刷回路基板で統合処理することにより,液晶表示モジュール
で印刷回路基板が占めた空間を減少させて液晶表示モジュールのサイズを一層減少
させることができ,また,本願発明によると,統合印刷基板を使用することにより
従来複数個の印刷回路基板で信号を印加するため必須であった印刷回路基板接続用
コネクタ及び信号伝送用フレキシブルプリントサーキットの使用が不要になり,印
刷回路基板接続用コネクタ及び信号伝送用フレキシブルプリントサーキットが占め
た空間をさらに減少する。したがって,印刷回路基板接続用コネクタ及びフレキシ
ブルプリントサーキットを組み立てる組立工程を省略できるので全体組立工程数が
節減される(【0124】【0125】)。
2取消事由1(対比の誤り)について
(1)引用発明について
引用例には,引用発明について,以下の記載がある(甲1)。
ア引用発明は,液晶表示モジュール(Module)の技術に関し,特にゲート駆動用
集積回路を有する印刷回路基板と液晶表示パネルの組立構造の技術に関する(【0
001】)。
イ従来の液晶表示モジュールは,ソース駆動集積回路にソース駆動信号を印加
するために,複合同期信号が入力するコントロールユニットを備えるゲート側の第
1印刷回路基板を必ず必要とするため,ゲート側の第1印刷回路基板を必要とする
ことによる材料費の増加とともにモジュールサイズのコンパクト化及び軽量化のた
めの阻害要因となっている。また,第1印刷回路基板と第2印刷回路基板とが分離
していることから,両者を接続してソース駆動信号を伝送するために設けられるF
PCを曲折させる必要があり,これがFPCの製造上の難しさとなっているという
問題点があった(【0005】)。
ウ引用発明は,前記問題点に鑑みて創案されたものであり,ソース駆動信号や
ゲート駆動信号中のいずれか一つの信号の伝送のための一つの印刷回路基板だけを
有する液晶表示モジュールとすることにより,製造コストを削減することができる
とともに,製造上の困難さを解消して製品歩留りの向上を図り,かつ,小型軽量で
ある液晶表示モジュールの提供をその目的としている(【0006】)。
エ引用発明による液晶表示モジュールによれば,ゲート側の印刷回路基板をな
くし,ゲート駆動集積回路を液晶表示パネルの縁に沿って実装し,液晶表示パネル
に形成されたバスラインとFPCを通じてソース側の集積回路と連結することによ
り,部品点数を減らすことができ,これにより製造コストを削減することができる。
また,FPCが直線形態を有する構成となることから,その製造が容易となって不
良率を減少させて製品歩留りを向上させることができ,かつ,小型軽量である液晶
モジュールとすることができる(【0027】)。
(2)原告の主張について
ア原告は,引用発明は,「前記複数のデータラインからなるデータライン群と
実質的に隣接するように形成され,第1フレキシブルフィルムと電気的に接続され
た入力端子」及び「前記複数のゲートラインからなるゲートライン群と実質的に隣
接するように形成され,前記ゲートラインと接続され,第2フレキシブルフィルム
上に設けられたゲートオン・オフ電圧発生ユニットと電気的に接続された出力端
子」を有するものではないから,本件審決における対比の判断は誤っているなどと
主張する。
イ確かに,引用例には,入力端子が,前記複数のデータラインからなるデータ
ライン群と「実質的に隣接するように形成されること」や,出力端子が,前記複数
のゲートラインからなるゲートライン群と「実質的に隣接するように形成されるこ
と」についての記載はない。
しかしながら,本件審決は,引用発明は,「前記第1ゲート駆動信号伝送パター
ンは,第1フレキシブルフィルムと電気的に接続された入力端子と,前記ゲートラ
インと接続され,第2フレキシブルフィルム上に設けられたゲートオン・オフ電圧
発生ユニットと電気的に接続された出力端子と,前記入力端子及び前記出力端子と
の間に電気的に接続された主信号パターンと,を含む」点で,本願発明の「前記第
1ゲート駆動信号伝送パターンは,前記複数のデータラインからなるデータライン
群と実質的に隣接するように形成され,第1フレキシブルフィルムと電気的に接続
された入力端子と,前記複数のゲートラインからなるゲートライン群と実質的に隣
接するように形成され,前記ゲートラインと接続され,第2フレキシブルフィルム
上に設けられたゲートオン・オフ電圧発生ユニットと電気的に接続された出力端子
と,前記入力端子及び前記出力端子との間に電気的に接続された主信号パターンと,
を含む」との特定事項と一致すると判断したものの,相違点1及び相違点2を認定
し,その上で,各相違点について容易想到性の判断を行ったものである。そして,
本件審決は,「入力端子」が「複数のデータラインからなるデータライン群と実質
的に隣接するように形成されている」こと,「出力端子」が「複数のゲートライン
からなるゲートライン群と実質的に隣接するように形成されている」ことを一致点
として認定したわけではない。
そうすると,本件審決は,これを全体として読めば,引用発明における「入力端
子」が,本願発明における「複数のデータラインからなるデータライン群と実質的
に隣接するように形成されている」ことと一致することを前提にするものではなく,
また,引用発明における「出力端子」が,「複数のゲートラインからなるゲートラ
イン群と実質的に隣接するように形成されている」ことと一致することを前提にす
るものでもないと解することができる。そして,本件審決は,上記の点を相違点と
して認定して,本願発明の容易想到性を判断したものであり,原告主張の誤りの有
無は,本件審決の相違点に係る判断の是非に帰する。
(3)小括
以上のとおり,原告主張の取消事由1は,採用することができない。
3取消事由2(相違点1に係る判断の誤り)について
(1)「実質的に隣接するように形成する」ことの技術的意義について
ア第1ゲート駆動信号伝送パターンの「入力端子」と「前記複数のデータライ
ンからなるデータライン群」との位置関係及び第1ゲート駆動信号伝送パターンの
「出力端子」と「前記複数のゲートラインからなるゲートライン群」との位置関係
について,本願明細書(甲2,3,7)には,実施例の説明として,「前記第1ゲ
ート駆動信号伝送線(「第1ゲート駆動信号伝送パターン」に対応する。)は,最
外郭のゲートライングループの端部が形成されたTFT基板の側面に一側端部
(「出力端子」に対応する。)が形成されて,最外郭であるがゲートライングルー
プと最も近接したデータライングループの端部が形成されたTFT基板の側面に他
側端部(「入力端子」に対応する。)が形成される。」との記載(甲2【005
5】)と,実質的に隣接していることを示す図面(図3)があるにすぎず,「実質
的に隣接するように形成する」ことの理由やそれによる効果については,何らの記
載もない。
なお,「実質的に隣接するように形成する」ことを発明特定事項に含む請求項2
9に係る本願発明は,出願当初明細書(甲2)には記載がなく,平成20年1月8
日付手続補正書(甲7)において,請求項31として追加されたものであり,その
後,平成20年6月5日付の手続補正書(甲10)及び平成21年1月22日付の
手続補正書(甲13)の請求項30に,それぞれ補正され,本件補正(甲3)によ
って,請求項29となったものである。発明の詳細な説明欄の記載(甲7【003
1】)も,請求項の記載と変わるところはない。
イしたがって,本願発明において,第1ゲート駆動信号伝送パターンの「入力
端子」を「前記複数のデータラインからなるデータライン群と実質的に隣接するよ
うに形成」すること及び第1ゲート駆動信号伝送パターンの「出力端子」を「前記
複数のゲートラインからなるゲートライン群と実質的に隣接するように形成」する
ことについて,格別の技術的意義があるということはできない。
(2)相違点1について
引用発明において,「第4配線」の「入力端子」は,下部パネルの行方向に沿っ
て配列される多数の第3配線と並んで,下部パネルの角部に配置され」るものであ
るところ,「第4配線」の「入力端子」と「第3配線」とをどのように配置するか
は,上部パネルと重畳しない下部パネル部分の省スペース化や各配線に関係する部
品の小型化等を考慮して,当業者が適宜決定し得るものであって,しかも,上記
(1)のとおり,第1ゲート駆動信号伝送パターンの「入力端子」を「前記複数のデ
ータラインからなるデータライン群と実質的に隣接するように形成」することにつ
いて,技術的意義がない以上,引用発明における「第4配線」の「入力端子」の位
置関係について,これを「第3配線」と「実質的に隣接するように形成」すること
は,当業者において適宜想到し得たものであるということができる。
(3)原告の主張について
ア原告は,引用発明において,「第4配線」の「入力端子」を,「第3配線」
と実質的に隣接させると,「下部パネル」上に形成される「第4配線」の総延長が
長くなり,製造コストを削減できるとともに,製造上の困難さを解消して製品歩留
まりの向上を図るという引用発明の課題の解決と矛盾すると主張する。
しかしながら,引用発明は,「ソース駆動信号やゲート駆動信号中のいずれか一
つの信号の伝送のための一つの印刷回路基板だけを有する液晶表示モジュールとす
ること」によって,製造コストを削減することができるとともに,製造上の困難さ
を解消して製品歩留りの向上を図り,かつ,小型軽量である液晶表示モジュールの
提供をその目的とするものであり,「第4配線」の長さを変更することによって上
記課題を解決するものではない。よって,「第4配線」の長さは,上記課題の解決
には関係なく,「第4配線」の「入力端子」を,「第3配線」と実質的に隣接させ
る際に,「第4配線」の総延長が長くなったとしても,上記課題の解決と矛盾する
とはいえない。
イ原告は,引用例に記載された従来技術では,FPCが曲折した状態となって
おり,引用発明は,かかる従来技術の問題点を解消すべく,FPCを直線形態とし
て,第2配線,FPC,第4配線を,下部パネルの一の縁部に沿って直線状に形成
しているものであるから,FPCをさらにTCPに近接させたり,「第4配線」の
「出力端子」を,「第3配線」と実質的に隣接させたりすることは,引用発明では
考慮されていないものであるとして,引用例の記載からは,引用発明の「第4配
線」の「入力端子」を,「第3配線」と実質的に隣接するように形成する動機付け
を見出すことができないと主張する。
しかしながら,引用発明は,FPCを直線形態とすることによって従来の問題点
を解決するものであって,第2配線,FPC,第4配線を,下部パネルの一の縁部
に沿って直線状に形成することによって,従来の問題を解決するものではない
(【0027】)。そして,引用発明において,FPCを直線形態とすることは,
「第4配線」の「出力端子」と「第3配線」とを実質的に隣接させることを妨げる
ものではない。
よって,原告の上記主張は,その前提において誤っている。
ウまた,原告は,引用発明において,「第4配線」の「入力端子」を,「第3
配線」と実質的に隣接させると,FPCが直線形態を有する構成とならず,FPC
が曲折した状態となることは明らかであり,この結果,引用発明の課題及び効果と
矛盾することになるため,引用発明の「第4配線」の「入力端子」を,「第3配
線」と実質的に隣接するように形成する動機付けを見出すことができないとも主張
する。
しかし,上記イのとおり,引用発明は,FPCを直線形態とすることによって従
来の問題点を解決するものであるから,「第4配線」の「入力端子」を「第3配
線」と実質的に隣接させる際には,FPCを直線形態のまま行うのが自然である。
そして,FPCを直線形態のまま絶縁フィルムに隣接させれば,「第4配線」の
「入力端子」を「第3配線」と実質的に隣接して形成できるから,原告の上記主張
は,採用することができない。
(4)小括
よって,取消事由2は,理由がない。
4取消事由3(相違点2に係る判断の誤り)について
(1)相違点2について
引用発明において,「第4配線」の「出力端子」は,「第2群のTCPの各ゲー
ト駆動集積回路チップにゲート信号を供給し,前記第4配線からの延長線は第5配
線と重畳しないように,下部パネルの外側にあるFPCフィルムの前記一側部を通
じて前記第2群のTCPの各チップに連結される」ものであるところ,「第4配
線」の「出力端子」と「第5配線」とをどのように配置するかは,上部パネルと重
畳しない下部パネル部分の省スペース化や各配線に関係する部品の小型化等を考慮
して,当業者が適宜決定し得るものであって,しかも,前記3のとおり,第1ゲー
ト駆動信号伝送パターンの「出力端子」を「前記複数のゲートラインからなるゲー
トライン群と実質的に隣接するように形成」することについて,技術的意義がない
以上,引用発明における「第4配線」の「出力端子」の位置関係について,これを
「第5配線」と「実質的に隣接するように形成」することは,当業者において適宜
想到し得たものであるということができる。
(2)原告の主張について
ア原告は,本願発明では,「第1駆動信号伝送パターン」が,「複数のゲート
ラインからなるゲートライン群と実質的に隣接するように形成され,ゲートライン
と接続され,第2フレキシブルフィルム上に設けられたゲートオン・オフ電圧発生
ユニットと電気的に接続された出力端子」を含む構成を有することで,テープキャ
リアパッケージの数を削減でき,さらに,液晶表示パネルのゲートラインとデータ
ラインに印加されるとき,駆動信号の遅延が発生しないようにできるという特有の
効果を奏するものであるのに対し,引用例には,かかる本願発明が解決しようとす
る課題については何らの記載もなく,そのような課題の解決を示唆するような記載
もないと主張する。
確かに,本願発明の目的の一つは,統合印刷回路基板で処理された駆動信号がテ
ープキャリアパッケージを経由して,液晶表示パネルのゲートラインとデータライ
ンに印加されるとき,駆動信号の遅延が発生しないようにすることである(甲2
【0016】)。しかし,そもそも,本願発明の特許請求の範囲には,「統合印刷
回路基板」が特定されていない。
また,本願明細書には,別の印刷回路基板にゲート駆動信号伝送線を形成しなく
てもゲート駆動信号の遅延及びゲート電圧の変調が発生しないようにする複数の実
施例が記載されている(甲2【0098】~【0117】)。そして,各実施例に
おいては,「各々のゲート駆動信号伝送線グループを各々のゲート駆動ドライブI
Cに並列に接続」すること(【0102】),「各々のゲート駆動信号伝送線グル
ープの長さに比例して各々のゲート駆動信号伝送線グループの断面積を差等的に増
加させること」(【0105】),「ゲート駆動信号伝送線グループの長さに比例
して大きくなる抵抗を予め算出した後,抵抗により変更されたゲート信号の変更値
を考慮して統合印刷回路基板から既にゲート信号を差等印加すること」(【010
6】),又は「各々のゲート駆動信号伝送用グループ又は統合印刷回路基板には各
々のゲート駆動ドライブICに入力されるゲート信号の変調および遅延が発生しな
いように駆動信号調節用チューニング抵抗を接続させること」(【0107】)に
よって,駆動信号の遅延が発生しないようにしているものと認められる。しかし,
本願発明の特許請求の範囲には,上記各実施例に記載された駆動信号の遅延が発生
しないようにするための構成が,いずれも特定されていない。
しかも,前記3のとおり,本願発明において,第1ゲート駆動信号伝送パターン
の「入力端子」を,「前記複数のデータラインからなるデータライン群と実質的に
隣接するように形成」することに格別な技術的意義があるとはいえない。したがっ
て,本願発明は,「第1駆動信号伝送パターン」が,「複数のゲートラインからな
るゲートライン群と実質的に隣接するように形成され,ゲートラインと接続され,
第2フレキシブルフィルム上に設けられたゲートオン・オフ電圧発生ユニットと電
気的に接続された出力端子」を含む構成を有することによって,テープキャリアパ
ッケージの数を削減でき,さらに,液晶表示パネルのゲートラインとデータライン
に印加されるとき,駆動信号の遅延が発生しないようにできるという効果を奏する
とはいえない。
以上のとおり,原告の主張は,特許請求の範囲の記載及び本願明細書の記載に基
づいたものではない。
イ原告は,引用例の「第4配線」の「出力端子」を,「第5配線」と実質的に
隣接させるようにするには,TCPの幅を拡げる必要があるところ,引用発明にお
いて,TCPの幅を広げることは,製造コストを削減するという,引用発明の課題
の解決と矛盾することになると主張する。
しかし,引用発明は,「ソース駆動信号やゲート駆動信号中のいずれか一つの信
号の伝送のための一つの印刷回路基板だけを有する液晶表示モジュールとするこ
と」によって課題を解決するものであることは,前記のとおりであって,TCPの
幅を変更することによって上記課題を解決するものではない。
そうすると,TCPの幅は,引用発明の上記課題の解決とは関係がなく,「第4
配線」の「出力端子」を,「第5配線」と実質的に隣接させる際に,TCPの幅を
広げることになったとしても,引用発明の課題の解決と矛盾するとはいえない。
ウ原告は,引用発明は,第4配線と第5配線とを離間させることを前提とする
ものであり,本願発明のように,複数のゲートラインからなるゲートライン群と実
質的に隣接するように形成することを前提とするものではないと主張する。
しかし,「第4配線からの延長線は第5配線と重畳しない」ことは,第4配線と
第5配線とを実質的に隣接させることを妨げるものではなく,第4配線と第5配線
とを離間させることを前提とするものでもない。
エ原告は,引用例において,ゲート駆動集積回路チップを,下部パネルの縁に
沿って実装し,FPC,第4配線を直線形態にすると,必ず第4配線と第5配線と
は離間し,下部パネルの輪郭に沿ってゲート駆動集積回路チップ,FPC,第4配
線を配置することを開示又は示唆するものであって,第4配線と第5配線とを「実
質的に隣接」させることを示唆するものではないと主張する。
しかし,引用発明は,FPCを直線形態とすることによって従来の問題点を解決
するものであって,FPC,第4配線が直線であることは必須ではなく,結果とし
て直線形態になったとしても,そのことによって課題を解決するものではない。そ
して,引用発明において,FPCを直線形態とすることは,第4配線と第5配線と
を「実質的に隣接」させることを妨げるものではない。
オ原告は,引用発明は,FPCを直線形態として,第2配線,FPC,第4配
線を,下部パネルの一の縁部に沿って直線状に形成しているものであり,液晶表示
モジュールの構造にのみ着目するものであるのに対し,本願発明は,平板パネルデ
ィスプレイの構造のみならず,駆動信号の遅延が発生しないようにする点について
着目してされたものであり,その発明に至る着目点で相違するものであると主張す
る。
しかし,本願発明は,FPCを直線形態とすることによって従来の問題点を解決
するものであって,下部パネルの輪郭に沿ってゲート駆動集積回路チップ,FPC,
第4配線を配置することによって,従来の問題点を解決しようとしたものではない。
また,上記アのとおり,本願発明は,駆動信号の遅延が発生しないようにするため
の構成が特定されていないから,駆動信号の遅延が発生しないようにする点につい
て着目してされたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおり,原告主張の取消事由3には理由がない。
5結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官髙部眞規子
裁判官齋藤巌

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛