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平成17年(行ウ)第12号財産管理を怠る事実の違法確認請求事件
(判示事項の要旨)
市が,住民により組織された町内会に対し,神社の存する市有地につき地方自治法
法238条の5第1項に基づいて譲与した行為が,憲法20条3項,89条に違反
しないとされた事例
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が,別紙物件目録記載の各土地について,別紙登記目録記載の各所有権
移転登記の抹消登記手続を請求することを怠る事実が違法であることを確認す
る。
第2事案の概要
本件は,北海道砂川市が,同市A地区に所在する砂川市A町内会(以下「A
町内会」という)に対し,A神社が存する市有地である別紙物件目録記載の。
各土地を譲与(以下「本件譲与」という)した行為は,憲法20条3項,8。
9条に定める政教分離原則に違反する行為であり,砂川市長である被告は,別
紙登記目録記載の各所有権移転登記の抹消登記手続を請求すべき義務があるに
もかかわらず,これを怠っているとして,砂川市の住民である原告が,被告に
対し,地方自治法242条の2第1項3号の規定に基づき,上記怠る事実の違
法確認を求めた事案である。
1争いのない事実等(証拠等により認定した事実は括弧内に掲記した)。
()当事者等1
ア原告は,普通地方公共団体である北海道砂川市(昭和33年7月1日の
市制施行前は北海道空知郡砂川町。以下「砂川市」という)の住民であ。
り,被告は,砂川市長の地位にある者である。
イA町内会は,砂川市A地区(以下「A地区」という)に所在する町内。
会である。
()本件各土地の状況2
」,別紙物件目録記載の各土地(以下,同目録1記載の土地を「本件土地1
同目録2記載の土地を「本件土地2」といい,これらを総称して「本件各,
土地」という)上には,北側正面入口の外壁上部に「A神社」の文字を刻。
した板が取り付けられ,床面積が25.92㎡,木造亜鉛メッキ鋼板葺南京
下見板張り平家建の建物(以下「本件施設」という)が存在し,本件施設。
の入口から中に入ると,その奥には,祠(以下「本件祠」という)が存在。
する。また,本件各土地上には,鳥居,地神宮,清心及び灯籠等の施設(以
下「本件附属施設」といい「本件施設」と併せて「本件各施設」とい,,
う)が存在する。本件各施設等の位置関係の概略は,別紙図面記載のとお。
りである。
(甲10,11の1∼11の23,12,21,27∼31,35,乙10,
11,12の1∼12の23)
()本件譲与に至る経緯3
ア前住民監査請求及び監査結果
(ア)原告は,平成16年9月27日,砂川市監査委員に対し,砂川市が,
その所有する本件各土地をA神社とその附属する宗教施設の敷地として
使用させ,A神社で神事が行われていることなどが,憲法20条3項,
89条に定める政教分離原則に違反するとして,地方自治法(以下
「法」という)242条1項の規定に基づき,住民監査請求(以下。
「前住民監査請求」という)をした(甲1。。)
(イ)砂川市監査委員は,平成16年11月22日,A神社の祭事は伝統
的習俗的な行事にとどまっており,宗教上の目的を持つものではなく,
政教分離原則には違反しないとして,砂川市がA神社につき固定資産税
を賦課,徴収するための家屋台帳や家屋補充課税台帳を作成,保存して
いない点を除いて,原告の前住民監査請求には理由がないと判断したが,
併せて「A地域住民の共有財産であるA神社用地は,A小学校の教員,
住宅を建設するために砂川市に寄付したが,当該用地は,当時からも地
域住民の自主的な管理のもとにあった。長年,A神社で行われている祭
事は,A地域の慣習に従った伝統的習俗的な行事にとどまっており,特
別に宗教的活動を目的とするものではないが,市有地に地域神社の祠が
存在しており,宗教上の目的がないとはいえ,祭事という利用の実態は
一部市民に不信の念を抱かせるものである。…教員住宅を取り毀した後
は,今日まで使用目的をもたない実態にあり,地域住民の共有財産とし
ての管理と,これまでの返還要求を考慮すると,当該市有地をA地域住
民へ譲与するなどの方策を講ずる必要があると考える」との意見(以。
下「本件監査意見」という)を付記した上,原告に対し,監査結果を。
通知した(甲1。)
イ前訴訟の提起及び訴えの取下げ
(ア)原告は,平成16年12月20日,上記ア(イ)の監査結果を不服と
して,被告が,A町内会に対し,本件各施設を収去して本件各土地を砂
川市に明け渡せと請求することを怠る事実が違法であることの確認を求
め,札幌地方裁判所に訴えを提起(同裁判所・平成16年(行ウ)第32
号,以下「前訴訟」という)した(甲21,弁論の全趣旨。。)
(イ)原告は,後記エのとおり,砂川市がA町内会に対し,本件各土地を
譲与したことを踏まえ,平成17年7月28日,前訴訟に係る訴えを取
)。り下げ,被告は,同年8月1日付けでこれに同意した(弁論の全趣旨
ウ地縁による団体の認可
A町内会は,平成17年3月24日,砂川市に対し,不動産又は不動産
に関する権利等を保有するため,法260条の2の規定に基づき,A地区
の住民の地縁に基づいて形成された団体(以下「地縁による団体」とい
う)の認可申請をしたところ,砂川市は,同月31日付けでこれを認可。
し,同日,告示した(乙6,7。)
エ本件譲与
砂川市は,平成17年4月1日,A町内会との間で,法238条の5第
1項の規定に基づき,本件譲与の仮契約を締結した上,同月15日,法9
6条1項6号の規定に基づき,本件譲与を承認する旨の砂川市議会の議決
を得て,A町内会に対し,本件各土地につき別紙登記目録記載の各所有権
移転登記(以下「本件各登記」という)手続をした(甲2,3,21,。
22の1∼22の3,乙1。)
()住民監査請求及び監査結果4
ア原告は,平成17年4月25日,A町内会はA神社の氏子集団と一体と
なって宗教的活動を行っている団体であるから,本件譲与は,憲法20条,
89条に規定する政教分離原則に違反するなどとして,法242条1項の
規定に基づき,新たに住民監査請求をした(甲4,5。)
イ砂川市監査委員は,平成17年5月25日,A町内会は宗教的活動を行
う団体ではなく,また,本件譲与は前住民監査請求の監査結果において砂
川市監査委員が付記した本件監査意見に基づくものであるとして,前記ア
の住民監査請求を却下し,原告に対し,監査結果を通知した(甲6。)
()本件訴訟の提起5
原告は,前記()イの監査結果を不服として,平成17年6月23日,本4
件訴訟を提起した。
2争点
本件譲与が憲法20条3項,89条に定める政教分離原則に違反するか,否
か。
(原告の主張)
()本件各施設の宗教施設性1
本件各施設は,以下に述べるとおり,大国主命を神として祀っているA神
社の社殿及びその附属施設であり,宗教施設であることは明らかである。
ア由来
A神社は,明治27年12月,A地区に移住してきた住民らが中心とな
って小祠を建設したことに始まり,その当時はB神社と呼ばれていた。そ
して,大正11年に現在の社殿(本件施設)が本件各土地上に建設され,
その後,本件附属施設が順次増設された。本件施設が砂川市内に所在する
神社であることは,北海道神社本庁作成の北海道神社庁誌や砂川市作成の
砂川市史にも掲載されている。
イ宗教施設の存在
本件各土地は,A神社の境内地として利用されており,敷地内には神社
神道の象徴的な宗教施設,すなわち,社殿,鳥居,地神宮,清心,燈籠及
び参道等の各施設が設置されている。具体的には,本件施設がA神社の社
殿であり,例大祭の期間中,入口で礼拝ができるように鈴等が取り付けら
れ,賽銭箱も置かれる。社殿の奥には本件祠があり,大国主命が祭神とし
て祭られ,鏡も置かれている。そして,本件附属施設についてみると,鳥
居や地神宮は,神社神道では代表的な宗教施設であるし,清心は,参拝者
が拝殿する前に心を清めるための手洗場であり,また,燈籠は,神霊が祭
られている施設である。さらに,鳥居から社殿まで玉砂利が敷かれた参道
が続いており,例大祭の期間中には,A神社の象徴である幟が立てられる。
ウ氏子集団の存在
A神社には,A地区の住民からなる氏子によって構成された集団(以下
「本件氏子集団」という)が存在し,本件氏子集団がA神社を所有し,。
その維持運営にあたっている。また,本件氏子集団には,世話役として氏
子総代と氏子役員が存在する。
エ宗教的活動
A神社では,毎年,初詣のほか春と秋に例大祭が行われ,宗教法人C神
社(以下「C神社」という)から宮司や巫女を招き,神社神道に従った。
祭祀が行われている。A神社の社殿の中で宮司が祝詞を奏上するなどの儀
式を行い,氏子総代や氏子が参列し,また,直会等の神事も行われている。
さらに,毎年8月に挙行されるC神社の例大祭の際には,C神社の御輿が
A神社を巡行し,C神社の宮司がA神社の境内地で神式の行事を行い,神
楽が演奏され,巫女が舞を奉納している。
()A町内会の宗教団体性2
A町内会は,本件氏子集団を内部に包摂し,日常的にA神社の維持運営等
の宗教的活動を行っている宗教団体である。すなわち,①本件氏子集団の氏
子総代や氏子役員には,A町内会の会員が持ち回りで就任していること,②
A町内会は,A神社の初詣や春,秋の例大祭に協賛し,一体的活動を行って
おり,A町内会の歴代会長や会員が,例大祭の当日,氏子として神事に参加
していること,③A町内会では,A神社の維持運営費用として1世帯当たり
年間1500円を,C神社への寄付金として1世帯当たり年間200円をそ
れぞれ各世帯から徴収していること,④A町内会は,A神社の会計を管理し
ており,町内会総会で会計報告していること,⑤A町内会では,広報や回覧
板を通じて,C神社の御札の宣伝,販売を行っていること,さらに,⑥昭和
48年,49年ころ,A神社の氏子総代が,砂川市に対し,本件各土地の借
用願いを申し入れたが,その際,A地区の住民によって組織されたA第一部
落会及び同第二部落会(A町内会の前身であり,以下「A各部落会」とい
う)の各会長が連帯保証人として連名していること等の事情にかんがみる。
と,A町内会と本件氏子集団が一体的関係にあることは明らかである。
()本件譲与の違憲性3
ア本件譲与に至る経緯
(ア)A各部落会の住民らは,昭和10年当時,本件各土地を実質的に共
同所有し,A神社を維持運営していたが,砂川市によるA小学校の教員
住宅の建設に協力することによって,A神社と砂川市との結び付きを強
め,A神社の社会的地位や影響力を高めることを目的として,砂川市に
対し,本件各土地を寄付した。
(イ)A各部落会の住民らは,昭和51年ころ,前記教員住宅が取り壊さ
れたのを機に,砂川市に対し,本件各土地の返還要請をした。砂川市は,
当該返還要請には応じなかったものの,当該住民らがA神社を維持,管
理している実態にかんがみ,A各部落会との間で,本件各土地につき期
限の定めのない使用貸借契約を締結し,A各部落会が本件各土地をA神
社の境内地として無償で使用し続けることを容認した。
(ウ)砂川市は,A神社の施設に対し,固定資産税を賦課,徴収する必要
があったにもかかわらず,長年の間これを怠り,A神社に対する便宜供
与を継続してきた。
(エ)砂川市は,砂川市監査委員が,前住民監査請求の監査結果において,
本件監査意見を付記したため,A町内会に対し市有地である本件各土地
を無償で使用させている状態を解消する必要に迫られた。そこで,本来
であれば,砂川市は,本件町内会に対しA神社の撤去を求めるなどし,
砂川市の財産管理のための最善の方法を選択すべきであった。然るに,
砂川市は,A神社の存続を図る目的で,法260条の2の規定を悪用し,
A町内会に地縁による団体の認可申請をするよう積極的に働きかけ,同
条の要件を充足していないにもかかわらず,地縁による団体の認可をし
た上で,本件譲与を行った。
イ本件譲与の違憲性
以上によれば,砂川市は,A神社の維持,存続を図り,神社神道を援助
する目的で,宗教団体であるA町内会を地縁による団体として認可した上,
本件譲与を行うことによって,A町内会において,本件各土地を宗教施設
であるA神社の境内地として継続的に使用することを可能にしたというべ
きであるから,本件譲与の目的が宗教的意義をもち,その効果が宗教に対
する援助,助長及び促進になることは明らかである。したがって,本件譲
与は,憲法20条3項,89条に定める政教分離原則に違反するものであ
り,無効と解すべきである。
()怠る事実4
よって,被告は,本件各登記の抹消登記手続を請求すべき義務を負ってい
るから,被告がこれを行わないことは,違法に財産の管理を怠っているとい
うべきである。
(被告の主張)
()本件各施設の非宗教施設性1
本件各施設は,以下に述べるとおり,A神社と称する歴史的建造物が残存
しているものにすぎず,宗教施設である神社としての実態を備えるものでは
ない。
ア施設
本件各土地上に本件各施設が存在する事実は認めるが,それらが神社の
社殿及び宗教的な附属施設であるとの評価は争う。この点,原告は,本件
施設がA神社の社殿であると主張するが,A町内会の住民は,本件施設に
神を祀っているとは考えておらず,祖先が建設した歴史的建造物を管理し
ているとの認識しかない。また,清心等の本件附属施設も宗教的な機能を
何ら果たしていない。
イ組織
A神社には,特段の内部規約は存在せず,神職が常駐しているわけでも
なく,日常的な参拝者も全くいない。A神社には世話役として総代及び会
計係が各1名存在するが,神社神道の信者ではない。また,所定の選任方
法があるわけでもなく,実際には他に引受手がいないため,地域住民の年
配者などが持ち回りで就任しているにすぎない。
ウ氏子集団の不存在
A神社がA町内会の住民の信仰を集めているという実態などなく,当該
住民の中に神社神道を信仰している者や,自らをA神社の氏子であると意
識している者は一人もいない。
エ活動
A神社では,毎年初詣や春,秋の祭りが行われるが,いずれも習俗化さ
れた行事にすぎず,宗教的な儀式や活動は行われていない。また,8月の
砂川市民祭りの際,C神社の御輿がA神社にも立ち寄るが,地域のホテル
や福祉施設等を巡行する一環として行われているものにすぎず,習俗化さ
れた行事である。
()A町内会の非宗教団体性2
アA町内会の組織及び活動
(ア)組織及び活動
A町内会は,A地区の住民によって組織された,いわゆる町内会とし
ての実質を備えた団体であり,内部規約として「A町内会規約(乙」
6)が存在する。A町内会の活動の目的は,地域的な活動を行い,良好
な地域社会の維持及び形成に資するというものである(A町内会規約1
条。また,A町内会には,役員として会長1名,副会長2名,会計1)
名,班長4名及び監事2名が存在し,総会において,会員の中から選任
されることになっている(A町内会規約9条,10条。)
(イ)地縁による団体の認可
A町内会は,平成17年3月24日,地域的な共同活動のための不動
産又は不動産に関する権利等を保有する目的で,被告に対し,地縁によ
る団体の認可申請をした。被告は,法260条の2第2項の要件に該当
するかどうかを関係書類に基づき審査し,いずれの要件にも該当すると
判断したため,同月31日,地縁による団体として認可した。
イA町内会とA神社との関係
A町内会は,以下に述べるとおり,A神社とは別個の組織であり,神社
神道とも無関係である。
(ア)前記主張のとおり,A町内会の会員の中には神社神道の信者は存在
せず,A神社の氏子であるという意識を持つ者も全くいない。また,A
町内会の会員の中からA神社の総代及び会計係を選任しているという事
実はあるが,前記主張のとおり,それは他に引受手がいないため,地域
の年配者などが持ち回りで就任しているものにすぎない。
(イ)A町内会とA神社は全くの別会計で管理,運営されている。A神社
の維持,運営費用等についても,A神社の総代名でA地区の各世帯から
徴収しているものであり,A町内会は全く関与していない。
(ウ)A町内会の会員の中には,A神社で行われる初詣や春,秋の祭りに
参加する者もいるが,これらは地域のお祭りとして世俗化,慣習化され
た行事であり,住民の意識も専ら世俗的,慣習的なものである。
()本件譲与の合憲性3
ア本件譲与に至る経緯
(ア)本件各土地は,もともとA各部落会の実質的な共有状態にあったと
ころ,不動産登記制度上の制約のため,地域住民の個人名義で登記され
ていた。砂川市は,昭和10年,A各部落会からA小学校の教員住宅を
建設してほしい旨の要望があったため,その建設用地として本件各土地
を利用することとし,教育行政目的のため当該住民から本件各土地の寄
付を受けた。
(イ)その後,昭和50年に前記教員住宅が取り壊されたのを機に,A各
部落会から,砂川市に対し,本件各土地の返還を求める要請があったが,
砂川市は,本件各土地が市の普通財産となっているため,前記寄付の当
初の目的が消滅したとしても,直ちにこれを返還すべき理由にはならな
いこと,また,仮に返還するにしても返還先が判然としないことから,
上記返還要請には応じられないと判断した。もっとも,その当時,本件
各土地は,A各部落会の住民が収穫した農作物を保管するための倉庫若
しくは青年会館の敷地として又は農機具の洗車場として当該住民に利用
されていたという実態にかんがみ,砂川市は,本件各土地を部落共同目
的の用に供することとし,A各部落会との間で,本件各土地につき草刈
り等の対価を伴った管理委託契約を締結した。
(ウ)しかし,砂川市は,砂川市監査委員が,前住民監査請求の監査結果
において,本件監査意見を付記したことから,同監査委員会の指摘する
「一部市民に不信の念を抱かせる」という事態を解消するため,A町内
会との協議の結果に基づき,A町内会を地縁による団体として適法に認
可した上で,本件監査意見に従って,A町内会との間で,本件譲与の契
約を締結し,砂川市議会の議決を得て,本件各登記手続をした。なお,
砂川市がA町内会に対し地縁による団体の認可申請を強要したり,積極
的に働きかけたことはない。
イ憲法20条3項と本件譲与
(ア)憲法20条3項にいう「宗教的活動」の意義
憲法20条3項にいう「宗教的活動」とは,およそ国及びその機関の
活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく,
そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られる
というべきであって,当該行為の目的が宗教的意義をもち,その効果が
宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になるような行為をい
うものと解すべきである。そして,その検討にあたっては,当該行為の
外形的側面のみにとらわれることなく,当該行為の行われる場所,当該
行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が当該行為を行うについ
ての意図,目的及び宗教的意識の有無,程度,当該行為の一般人に与え
る効果,影響等,諸般の事情を考慮し,社会通念に従って,客観的に判
)。断しなければならない(最高裁昭和52年7月13日大法廷判決参照
(イ)上記の判断基準に照らして,本件譲与が憲法20条3項にいう「宗
教的活動」に当たるか否かについて検討すると,前記主張のとおり,①
本件各施設は,A神社と称する歴史的建造物が残存しているものにすぎ
ず,宗教施設としての実態を備えるものではなく,本件各施設で行われ
ている初詣や春,秋の祭り等の行事は,長年にわたり地域において伝承
されてきた世俗的なものであって,これに参加するA地区の住民の間に
宗教的意識は存在しないこと,②本件各土地は,A地区の住民が使用す
る農機具の洗車場として利用されており,今後は,隣接するA地区コミ
ュニティセンターの駐車場としても利用されることが予定されているこ
と,③A町内会は,地域的な共同活動のためにA地区の住民によって組
織された,いわゆる町内会としての実質を備え,かつ,法260条の2
の規定に基づき適法に認可された地縁による団体であり,A神社や神社
神道とは無関係であること,④A町内会の会員の中には,神社神道の信
者やA神社の氏子は存在しないこと,⑤本件譲与に至る経緯,すなわち,
砂川市は,教員住宅建設のためにA各部落会の住民から寄付を受けた本
件各土地につき,当該教員住宅が取り壊されたのを機に,A各部落会か
ら返還の要請を受けたものの,返還の具体的方法がなかったため,A各
部落会との間で,管理委託契約を締結したが,その後,砂川市監査委員
が,前住民監査請求の監査結果において,本件監査意見を付記したこと
から,同監査委員の指摘する「一部市民に不信の念を抱かせる」という
事態を解消するため,本件監査意見に従って,本件譲与を行ったもので
あり,砂川市には「無償でもらったものを無償で返還した」という程度
の認識しかないこと,⑥本件譲与の結果,本件各施設が市有地上に存在
するという状態が解消されたこと等の事情に照らせば,砂川市による本
件譲与の目的は,専ら世俗的なものであって,その効果も,特定の宗教
を援助,助長,促進し又は他の宗教に圧迫,干渉を加えるものではない
というべきである。
したがって,本件譲与は,憲法20条3項にいう「宗教的活動」には
当たらず,政教分離原則に違反しない。
ウ憲法89条と本件譲与
(ア)憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」の意義
憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは,宗教と何らか
のかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味
するのではなく,国家が当該組織ないし団体に対し特権を付与したり,
また,当該組織ないし団体の使用,便益若しくは維持のため,公金その
他の公の財産を支出し又はその利用に供したりすることが,特定の宗教
に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になり,憲法上の政教分離
規定に反すると解されるものをいうのであり,換言すると,特定の宗教
の信仰,礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組
織ないし団体を指すものと解するのが相当である(最高裁平成5年2月
16日第三小法廷判決。)
(イ)上記の判断基準に照らして,A町内会が憲法89条にいう「宗教上
の組織若しくは団体」に当たるか否かについて検討すると,前記主張の
とおり,A町内会は,地域的な共同活動のためにA地区の住民によって
組織された,いわゆる町内会としての実質を備え,かつ,法260条の
2の規定に基づき適法に認可された地縁による団体であり,神社神道や
A神社とは無関係というべきであるから,特定の宗教の信仰,礼拝又は
普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体には
該当しないことは明らかである。したがって,A町内会は,憲法89条
にいう「宗教上の組織若しくは団体」には当たらず,A町内会に対する
本件各土地の譲与は,政教分離原則には違反しない。
第3争点に対する判断
1前記争いのない事実等,証拠(括弧内に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,
以下の事実が認められる。
()本件譲与に至る経緯について1
アA地区は,明治26年ころから入植が始まったが,翌27年,富山県人
7戸及び新潟県人20余戸の団体移住者があり,次第に部落としてのまと
まりを持つようになり,A各部落会(A町内会の前身)を構成するに至っ
た。本件各土地は,その当時から,実質的にはA各部落会の所有地として
地域住民に利用されていたが,形式的には地域住民らの個人名義で登記さ
れていた(甲16∼21,22の2,乙4の2,5の2,13,14,証
人D,証人E。)
イ砂川市は,昭和10年,A各部落会から本件各土地上にA小学校の教員
住宅を建設してほしいとの要望を受け,当該教員住宅の敷地として利用す
るために前記住民らから本件各土地の寄付を受け,同年6月8日,各所有
権移転登記の手続がされた(甲20,21,22の2,乙4の1∼4の3,
5の1∼5の3,13,14,証人D,証人E。)
ウその後,昭和50年にA小学校の教員住宅が別の場所に新築,移転され
るのに伴い,本件各土地上の前記教員住宅は,取り壊されることとなり,
それと前後して,砂川市は,A地区の住民から本件各土地の返還を求めら
れるようになった。当初,昭和48年12月20日ころと同49年9月1
7日ころの二度にわたり,A神社総代を借地願人,A各部落会代表を連帯
保証人として,本件各土地を神社用地等として借用したい旨の市有地借用
願等が砂川市に提出されたが,その後の昭和51年,A町内会が,砂川市
に対し,教員住宅の敷地として利用しなくなったときには返還約束があっ
たことを理由に,本件各土地の返還を求める旨の申入れをした。これに対
し,砂川市は,本件各土地は既に同市の普通財産となっているため,本件
各土地の使用目的が変更されたとしても,A各部落会に返還する原因には
ならないと判断し,前記申入れを拒否した上で,同年4月1日,管理目的
を遊園地等A各部落会の共同目的の用に供することに限定し,同部落会と
の間で,無償による本件各土地の管理委託契約を締結した。以後,本件各
土地は,A各部落会及びその後身であるA町内会が自主的に管理,活用す
ることとなった。
なお,その当時,本件各土地の上には,本件各施設のほか,農協の倉庫
や青年会館があり,また,児童公園としても利用されていた(甲13,1
)。4,19∼21,22の2,乙3,10,13,14,証人D,証人E
エその後,原告は,平成16年9月27日,砂川市監査委員に対し,前住
民監査請求をしたところ,同監査委員は,同年11月22日,政教分離原
則違反に係る原告の請求には理由がないと判断したものの,併せて「当,
該市有地をA地域住民へ譲与するなどの方策を講ずる必要があると考え
る」旨の本件監査意見を付記した。そこで,砂川市は,今後の対応策を。
検討し,市有地上に本件各施設が存在している状態を解消するため,砂川
市監査委員の本件監査意見に従って本件各土地をA町内会に譲与(本件譲
与)する方針を決定した上で,A町内会との間で協議を行った。これに対
し,A町内会は,役員会や総会を開き,対応策を協議したところ,本件各
土地はもともとA各部落会が実質的に所有し,管理していた物件であり,
それを砂川市に寄付したものであるという経緯を踏まえ,同監査委員の本
件監査意見に従って,砂川市から本件各土地の譲与を受けることとし,平
成17年3月24日,砂川市に対し,地縁による団体の認可申請をした。
砂川市は,A町内会が法260条の2第2項の要件に該当するかどうかを
関係書類に基づき審査し,いずれの要件にも該当すると判断したため,同
月31日,地縁による団体の認可,告示をした上で,同年4月1日,A町
内会との間で,本件譲与の仮契約を締結し,同月15日,砂川市議会の議
決を得て,本件各登記手続をした(甲2,3,21,22の1∼22の3,
乙1,6,7,11,12の1∼12の23,13,14,証人D,証人
E。)
()A神社について2
ア沿革等
(ア)A神社は,明治27年,団体移住者が中心となってA地区の五穀豊
穣と無事安全を祈願して小祠を建立したのが始まりであり,その当時,
B神社と呼ばれていた。A神社の祭神は大国主命であり,祭日は4月1
0日,11日及び9月1日,2日である。
(イ)大正7年11月10日,B神社の改築落成式が挙行され,A各部落
会の住民によって清心が奉納された。さらに,大正11年,本件施設が
A各部落会の住民によって本件土地2上に建立され,前記(ア)の小祠は,
A地区に所在するF寺の境内地へと移転された。その際の総工費は26
00円であり,その全額がA各部落会の住民からの寄付金によって賄わ
れた。その後,A各部落会の住民らによって,昭和2年4月に灯籠が,
昭和34年5月に地神宮が,さらに,昭和43年9月に鳥居が,それぞ
れ奉納され,現在,本件各土地上に本件施設並びに鳥居,地神宮,清心
及び灯籠等の本件附属施設が存在する。
(ウ)本件施設は,A神社が宗教法人の認証を受けていないため,地方税
法に規定する非課税物件には該当せず,昭和25年に地方税法が改正さ
れた当時から課税物件になっていたと考えられるが,固定資産評価基準
に基づき本件施設の時価を算定すると,その当時から評価額が免税点未
満となっていたと推測される。そして,砂川市は,平成17年度から本
件施設の家屋台帳等の必要書類を整備し,固定資産評価基準により本件
施設の時価を算定したところ,評価額が免税点未満であることが確認さ
れた。
(甲1,16∼21,乙9)
イ行事
(ア)A神社では,毎年初詣,春季(4月10日,11日)及び秋季(9
月1日,2日)の例大祭が行われる。初詣では,A町内会の住民らがA
神社に参拝に訪れるが,おみくじ,破魔矢及び絵馬等の販売は行われて
いない。また,春季及び秋季の例大祭では,C神社の宮司がA神社を訪
れ,本件施設内で祝詞を奏上するなどの神事を行い,例年10名前後の
A町内会の住民が,A神社に参拝に訪れている。例大祭の期間中「奉,
納A神社氏子中」などと記載された2本の幟が鳥居の両脇に立てら
れるほか,本件施設の正面入口の天井部分には「奉納A神社総代」な
どと記載されている縄に括られた鈴が取り付けられ,本件施設の正面入
口の内部に賽銭箱が置かれる。また,普段は閉められている本件祠の扉
が開かれる。
(イ)C神社では,毎年8月にC神社祭りが行われ,その際には,C神社
の御輿がA神社を巡行し,C神社の宮司や巫女がA神社で神事を行い,
例年5名前後のA町内会の住民が参加する。
(ウ)なお,A神社の前記各行事に関連して,砂川市の公的費用は支出さ
れていない。また,日常的にA神社に参拝に訪れる者はいない。
(甲1,16,18,20,23,27∼30,乙14,証人E)
ウ組織
(ア)A神社は,法人化されておらず,組織や活動等について定めた内部
規約は存在しない。また,A神社には,常駐する神職はいないが,世話
役として総代及び会計係の各1名が存在し,A神社の維持運営に関する
事務を行っている。総代及び会計係の選任について所定の手続はなく,
実際にはA町内会の住民の中から話し合いによって決められている。な
お,総代及び会計係に就任する資格として神社神道の信者であることが
要件とされているわけではなく,現在の総代及び会計係も神社神道の信
者ではない。
(イ)総代及び会計係は,A町内会の住民から,A神社を維持運営するた
めの費用(以下「維持費」という)として1世帯当たり年額1500。
円を,C神社への寄付金(以下「寄付金」という)として1世帯当た。
り年額200円を,それぞれ協力金として集め,さらに,希望者に対し
C神社の御札セット(以下「御札セット」という)を1セット300。
0円で販売している。なお,平成13年度に維持費の支払をしたのは3
5世帯,寄付金の支払をしたのは32世帯,御札セットを購入したのは
11世帯であり,平成14年度に維持費の支払をしたのは30世帯,寄
付金の支払をしたのは27世帯,御札セットを購入したのは12世帯で
あり,平成15年度に維持費の支払をしたのは30世帯,寄付金の支払
をしたのは28世帯,御札セットを購入したのは11世帯であった。
(ウ)総代及び会計係は,A神社の例大祭において,C神社との連絡調整
その他の準備等の活動を行っている。
(甲20,乙14,証人E,弁論の全趣旨)
エ神社神道
(ア)ところで,神道は,わが国固有の民族信仰であり,祖先が集団生活
を送るなかで自然への畏敬や感謝の気持ちから自然に生まれてきた信仰
であり,教義や教典は存在しない。神道における神は,天照大神を中心
とし,それをとりまく八百万神が天照大神を助け,人々の生活を守って
いるとされる。なお,A神社の祭神とされる大国主命は,因幡の白うさ
ぎで知られる慈悲と縁結びの神として信仰され,出雲大社に祀られてい
る。また,神道の中でも神社を中心とする信仰は,神社神道と呼ばれて
いる。
(イ)現在,神社は全国の至る所に存在し,その数は約8万社ともいわれ
ている。一般に神社の境内地には,神社の中心施設である社殿のほか,
鳥居,参道,灯籠,手水舎等の附属施設が設置されている。とりわけ,
鳥居は,神の鎮座する神域を表示する一種の門として用いられ,神社に
しか設置されていない。また,神社では,氏神に対する祈願や感謝等の
気持ちから,神職により神道の方式にのっとった祭祀が行われるが,こ
のうち,例大祭は,神社の挙行する祭祀の中でも最も重要な意義を有す
るものと位置付けられている。
(ウ)神社の祭祀圏内には,氏神を信仰の対象とする氏子が居住し,当該
神社に参拝に訪れ,祭祀に参加するなどしている。なお,氏子の概念に
は時代的変遷がみられるが,今日では,住民が地域の神社の氏子として
半ば公的に組み込まれるということはなく,住民が氏子になるかどうか
は各人の自由意思に委ねられている。
(甲24∼26,34)
()A町内会について3
ア目的及び活動
A町内会規約によれば,A町内会の目的は,地域的な活動,すなわち,
①回覧板の回付等区域内住民の相互連絡,②美化,清掃等区域内の環境の
整備,③A地区コミュニティセンターの維持管理,及び④町内会所有地の
維持管理を行い,良好な地域社会の維持及び形成に資することにあるとさ
れている。そして,A町内会は,当該目的に沿った活動として,回覧板や
砂川市広報の回付,新年会・交流会等の親睦活動の実施,市道の草刈りや
排水溝の清掃,Aコミュニティセンターの維持管理等を現に行っており,
区域内の環境整備の一環として,年2回程度,本件各土地の草刈りも行っ
ている(甲21,乙6,7,14,証人E。)
イ組織
A町内会は,A地区に住所を有する個人で入会を希望するもの(会員)
をもって組織するとされており,平成17年3月1日時点で,A地区内に
居住する32世帯100人のうち,29世帯86人が入会している。なお,
A町内会の事務所はA町内会の会長宅に置くとされている(乙6,7,1
4,証人E。)
ウ役員
(ア)A町内会には,会長1名,副会長2名,会計1名,班長4名及び監
事2名が役員として置かれることになっている。会長は,総会において
会員の中から選任するとされているが,実際には,総会で設置された選
考委員会が候補者を選考し,同人の内諾を得た上で,総会の承認決議を
受けることになっている。また,上記役員の資格として会員であること
以上のことが要件とされているわけではない。
(イ)なお,A町内会の会長は,平成12年から現在までEであるが,同
人は,神社神道の信者ではなく,A神社の氏子であるという意識もない。
(乙6,7,14,証人E)
エ会計
(ア)A町内会の経費は,会費,活動に伴う収入等をもって支弁するとさ
れており,会員は,1世帯当たり年額6000円の会費を納付している。
(イ)A町内会の事業計画及び予算は,会長が作成し,毎年会計年度前に
総会の議決を経て定めなければならないとされている。
また,A町内会の事業報告及び決算は,会長が事業報告書,収支決算
書,財産目録等を作成し,監事の監査を受け,毎年会計年度終了後に総
会の承認を受けなければならないとされている。その際,A地区コミュ
ニティセンターや河川,道路及び森林各愛護組合からの決算報告ととも
に,A神社の総代及び会計係からもA神社の決算報告がされているが,
A町内会とA神社は,全くの別会計で管理運営されており,A町内会が,
A神社に助成金を支出したことはなく,また,例大祭の行事その他の維
持運営の費用についても,A町内会の会計からの支出はなく,会員有志
からの前記寄付金と賽銭によって賄われている。
(甲20,乙6,7,14,証人E)
2本件譲与と憲法20条3項
()政教分離原則と憲法20条3項にいう「宗教的活動」の意義1
憲法は「信教の自由は,何人に対してもこれを保障する(20条1項,」
前段)とし,また「何人も,宗教上の行為,祝典,儀式又は行事に参加す,
ることを強制されない(同条2項)として,いわゆる狭義の信教の自由」
,,(個人の信教の自由)を保障する規定を設ける一方「いかなる宗教団体も
国から特権を受け,又は政治上の権力を行使してはならない(同条1項後」
段「国及びその機関は,宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはな),
らない(同条3項)とし,さらに「公金その他の公の財産は,宗教上の」,
組織若しくは団体の使用,便益若しくは維持のため…これを支出し,又はそ
の利用に供してはならない(89条)として,いわゆる政教分離の原則に」
基づく諸規定(以下「政教分離規定」という)を設けている。元来,政教。
分離規定は,いわゆる制度的保障の規定であって,信教の自由そのものを直
接保障するものではなく,国家(地方公共団体を含む。以下同じ)と宗教。
との分離を制度として保障することにより,間接的に信教の自由の保障を確
保しようとするものである。そして,憲法の政教分離規定の基礎となり,そ
の解釈の指導原理となる政教分離原則は,国家が宗教的に中立であることを
要求するものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許
さないとするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及
び効果にかんがみ,そのかかわり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に
照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とさ
れる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものと解す
べきである。かかる政教分離原則の意義に照らすと,憲法20条3項にいう
宗教的活動とは,およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持
つすべての行為を指すものではなく,そのかかわり合いが上記の相当とされ
る限度を超えるものに限られるというべきであって,当該行為の目的が宗教
的意義をもち,その効果が宗教に対する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等
になるような行為をいうものと解すべきであり,ある行為が上記の宗教的活
動に該当するか否かを検討するに当たっては,当該行為の外形的側面のみに
とらわれることなく,当該行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が
当該行為を行うについての意図,目的及び宗教的意識の有無,程度,当該行
為の一般人に与える効果,影響等,諸般の事情を考慮し,社会通念に従って,
客観的に判断しなければならない(最高裁昭和52年7月13日大法廷判決,
最高裁昭和63年6月1日大法廷判決,最高裁平成5年2月16日第三小法
廷判決,最高裁平成9年4月2日大法廷判決参照。)
()検討2
そこで,上記の見地に立って,砂川市による本件譲与が憲法20条3項に
よって禁止される宗教的活動に当たるかどうかについて,以下検討する。
なお,原告は,砂川市は,宗教施設であるA神社の維持,存続を図り,神
社神道を援助する目的で,宗教団体であるA町内会を地縁による団体として
認可した上,本件譲与を行うことによって,A町内会が本件各土地をA神社
の境内地として継続的に使用することを可能にしたことをもって,本件譲与
の目的が宗教的意義をもち,その効果が宗教に対する援助,助長及び促進に
なると主張しているので,まずA神社の宗教施設性,次いでA町内会の性格,
最後に本件譲与の目的と効果の順で検討を加え,本件譲与が宗教的活動に当
たるかどうかを判断することとする。
アA神社の宗教施設性について
前記認定によると,A神社は,もともとA地区の住民によって,A地区
の五穀豊穣と無事安全を祈願して建設され,地域住民の民間信仰の対象と
なっていたものと考えられる。そして,本件各施設についてみると,本件
施設の正面入口の外壁上部には「神社」であることが明記されており,本
件施設の正面奥には大国主命を祀った祠が安置されているほか,本件各土
地上には,一般に神社の象徴的施設とされる鳥居,灯籠,地神宮及び清心
(手水舎)等の本件附属施設が設置されている。また,A神社では,春季
及び秋季の例大祭が挙行され,専門の宗教家であるC神社の神職が,神社
神道固有の祭式にのっとり,祝詞を奏上するなどの儀式を行い,C神社祭
りの際にも,C神社の御輿がA神社を巡行し,C神社の神職が神社神道固
有の祭式にのっとり,宗教的信仰心に基づいて儀式を行っているのである
から,A神社で挙行される上記の例大祭等の諸行事を宗教的色彩の失われ
た習俗的行事とみることは困難というべきである。加えて,北海道神社本
庁作成の「北海道神社庁誌(甲16)や砂川市作成の「私たちの砂川市」
史DATA砂川(甲17)にも,A神社が砂川市に所在する神社として」
紹介されている。
以上の諸事情に照らすと,本件各施設をもって宗教性が失われた単なる
歴史的建造物とみることは困難であって,本件各施設の沿革,外観及び用
途等にかんがみると,本件施設は宗教施設である神社の社殿であり,本件
附属施設は神社の附属施設であると評価するのが相当である。
イA町内会の性格について
前記認定のとおり,A町内会は,A地区の地域的な活動を行い,良好な
地域社会の維持及び形成に資することを目的として設立され,現に活動し
ている町内会であって,役員構成面においてA神社との間に何ら特別な関
係はなく,A神社とは全くの別会計で管理,運営されていること等に照ら
すと,A町内会は,組織的にはA神社とは別個の存在というほかない。ま
た,A町内会は,町内会の活動の一環として,本件各土地の草刈り等のA
神社とかかわりをもつ活動を行っているが,それ自体宗教的色彩の希薄な
活動にとどまっており,A町内会全体の活動の一部分であることも明らか
である。もっとも,A町内会の住民の中には,A神社の維持費等を寄付し
たり,春季及び秋季の例大祭の行事等に参加する者もいるが,それはA町
内会の活動として行われているものではなく,住民有志が自主的に行って
いるものにすぎず,A町内会が組織的に関与しているわけでもない。さら
に,前記認定によれば,A地区の住民らは,過去において,A神社の氏子
として位置付けられていた時期があったことが窺われるものの,現在にお
いては,A町内会の住民の中に,日常的にA神社に参拝に訪れる者,ある
いは,神社神道を信仰する者やA神社の氏子であると強く意識している者
はほとんどなく,春季及び秋季の例大祭の行事についても,当該住民の多
くが,長年にわたりA地区において伝承されてきた伝統的行事と認識する
に至っているものと推認される。
以上の諸事情からすると,A町内会が,A神社の氏子の集団であるとか,
A町内会の本来の目的として,神社神道の信仰,礼拝又は普及等の宗教的
活動を組織的に行っていると認めることは困難であり,A町内会が宗教的
活動を目的とする宗教団体であるとする原告の主張は採用することはでき
ない。
原告は,昭和48年,49年ころ,A神社の総代とA各部落会の会長ら
が,砂川市に対し,連名で本件各土地の借用願いを申し入れている事実を
理由に,A神社とA町内会とが一体的関係にあると主張するが,上記事実
は,A神社がA各部落会の住民の寄付によって建設されたという経緯から
A神社が地域住民の共有であるとの意識の下でなされたものであり,前記
説示のとおり,本件各土地がもともとA各部落会の住民から寄付されたも
のであるという経緯や現在のA町内会の組織や活動等に照らせば,上記の
事実をもって,直ちにA神社とA町内会とが一体的関係にあると評価する
ことはできない。
ウ本件譲与の目的,性質等について
前記認定によると,本件各土地は,もともとA各部落会の住民からA小
学校の教員住宅の建設用地として砂川市が寄付を受けたものであるが,当
該教員住宅が取り壊されたのを機に,A各部落会から本件各土地の返還の
要請があったこと,砂川市は,A各部落会の共同目的の用に供するため,
A各部落会との間で管理委託契約を締結し,その自主的な管理,活用を認
めてきたこと,砂川市は,砂川市監査委員から本件監査意見が出されたた
め,市有地上に神社が存在し,祭事が行われている事態を解消する目的で,
A町内会との交渉の結果に基づき,A町内会を地縁による団体として認可
し,本件監査意見に従って,本件各土地をA町内会に対し譲与したこと,
砂川市は,上記地縁による団体の認可をするに当たり,A町内会の組織,
活動等について審査し,A町内会が特定の宗教団体ないし宗教活動とは関
係のない町内会としての実質を備えた団体であることを確認していること
が認められる。
上記の本件譲与に至る経緯やA町内会の性格にかんがみると,本件譲与
は,市有地上に神社が存在し,祭事が行われているという事態の解消を目
的とするものであって,特定の宗教団体ないし宗教活動に対する援助,支
援等の目的で行われたものとは認められない。また,A町内会においても,
本件譲与について,かつて寄付をした本件各土地の返還を受けたという程
度の認識でしかなく,特別の宗教的意義を認めていなかったものと考えら
れる。さらに,前記説示の本件譲与に至る経緯やA町内会の性格等に照ら
せば,本件譲与が,一般人に対して,砂川市が神社神道を特別に支援した
り,神社神道が他の宗教とは異なる特別のものとの印象を与えたりし,神
社神道への関心を呼び起こすこととなるとも考えられない。
()小括3
以上の事情を総合的に考慮して判断すれば,砂川市による本件譲与は,本
件各土地上に宗教施設であるA神社及びその附属施設が設置されているとい
う点で宗教とかかわり合いをもつものであることは否定しえないけれども,
その目的は,砂川市監査委員が前住民監査請求の監査結果において本件監査
意見を付記したため,市有地上に神社が存在し,祭事が行われている事態の
解消を図ることを主眼とするものであり,そのための方策として,本件各土
地がもともとA地区の住民から寄付を受けたものであるという経緯等を踏ま
え,本件監査意見に従って,有償譲渡ではなく譲与という無償の譲渡手段に
よったものであって,専ら世俗的なものと認められ,その効果も,神社神道
を援助,助長,促進し又は他の宗教に圧迫,干渉を加えるものとは認められ
ない。したがって,砂川市による本件譲与は,宗教とのかかわり合いの程度
が我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という
制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず,
憲法20条3項により禁止される宗教的活動には当たらないと解するのが相
当である。
3本件譲与と憲法89条
()憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」の意義1
憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは,宗教と何らかのか
かわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味するもの
ではなく,当該組織ないし団体の使用,便益若しくは維持のため,公金その
他の公の財産を支出し又はその利用に供したりすることが,特定の宗教に対
する援助,助長,促進又は圧迫,干渉等になり,憲法上の政教分離原則に反
すると解されるものをいうのであり,換言すると,特定の宗教の信仰,礼拝
又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指
すものと解するのが相当である(最高裁平成5年2月16日第三小法廷判決
参照。)
()検討2
そこで,上記の見地に立って,A町内会が憲法89条にいう「宗教上の組
織若しくは団体」に該当するかどうかについて検討するに,前記説示のとお
り,A町内会は,A地区の地域的な活動を行い,良好な地域社会の維持及び
形成に資することを目的として設立され,現に活動している町内会組織であ
って,宗教的活動を行うことを目的として設立された団体ではなく,会員あ
るいは役員の資格として特定の宗教団体に所属していることや特定の宗教を
信仰していること等が条件になっているわけでもなく,組織的にはA神社と
は別個の存在である。そして,A町内会の会員の一部がA神社の春季及び秋
季の例大祭の行事等に参加したり,A神社の維持費等を寄付しているという
現状はあるものの,あくまで会員有志が自主的に行っているにすぎず,A町
内会が組織的に関与しているということもない。また,A町内会がA神社の
氏子の集団であるとみることはできないことも前記のとおりである。したが
って,A町内会とA神社が一体であるとか,A町内会をもって宗教的活動を
行うことを本来の目的とする組織ないし団体であると認めることはできない。
()小活3
以上の事情を総合的に考慮して判断すれば,A町内会は,特定の宗教の信
仰,礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし
団体には該当しないものというべきであって,憲法89条にいう「宗教上の
組織若しくは団体」に該当しないものと解するのが相当である。
第4結論
以上の次第で,砂川市による本件譲与は,憲法20条3項に違反するもので
はなく,また,憲法89条にも違反するものではない。したがって,本件譲与
が違憲であることを前提とする原告の請求は理由がないからこれを棄却するこ
ととし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適
用して,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日平成18年9月28日)
札幌地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官坂本宗一
裁判官宮島文邦
裁判官藏本匡成

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