弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人A1に関する部分のうち原判決別紙目録記載(8)(9)
の土地に関する部分を破棄し、右に関する事件を仙台高等裁判所に差し戻す。
     上告人A1のその余の上告を棄却する。
     上告人A2の上告を棄却する。
     上告費用中上告人A2に関する分は同上告人の負担とし、右第二項に関
する分は上告人A1の負担とする。
         理    由
 上告代理人菅原勇の上告理由第一点について。
 自作農創設特別措置法三条による農地の買収は同法九条による買収令書の交付に
よつて効力を生じ同法一二条により右令書に記載した買収時期にその所有権が政府
に帰属するものであるから、買収目的地は買収令書において特定されていなければ
ならないこと固よりであるけれども、たとえ買収令書に買収目的地の表示として一
筆の土地の一部を単に地積を表示して掲げているに過ぎない場合においても、買収
手続当時の事情の下で、右の表示が一筆の土地のうち特定の一部を指すものである
ことが関係当事者間に疑を容れない程度に看取し得る場合には、これをもつて買収
令書において買収目的地が特定されていると解するに妨げがない。かような場合に
もなお図面の添付その他の方法により目的地の範囲を余すところなく詳細に掲げな
いかぎり買収処分はすべて違法となるものとすべきではないこと当裁判所の判例と
するところである(昭和三〇年(オ)四一九号同三二年一一月一日第二小法廷判決、
集一一巻一二号一八七〇頁)。
 されば原判決において、所論a字b五反六畝五歩のうち一反三畝一三歩は控訴人
(上告人)A1が昭和一七年からDに小作させていたもので基準日において小作地
であつた事実を認定した上、本件令書にはa字b五反六畝五歩のうち一反三畝一三
歩と表示してあり同控訴人は右のとおり右の田のうち一反三畝一三歩を小作させ他
にまぎらわしい関係はないから、買収当事者間においてはいうまでもなく、右令書
に一反三畝一三歩とあるのは右控訴人がDに小作させている範囲の土地を指すもの
であることは十分わかつていたはずであり、かつその範囲は事実上確定していたの
であるから、右のような事実関係のもとにおいてはたとえ令書に買収部分を示す図
面などを添付しなくともその特定に欠けるところがないものといわなければならな
いと判示したのは相当である。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨前段は、証人Eの証言および甲二号証によれば原判決別表(43)字bc番
田一反七畝一四歩は上告人が昭和二〇年一〇月二〇日Fから一旦返還を受けた上翌
二元年二月以後にその内約八畝歩を改めてFに貸し付けたもので遡及買収の基準日
である昭和二〇年一一月二三日当時は上告人の自作地であつたと認めるべきである
のに、原審が右証拠を採用せず、かえつて乙一号証の二の成立を否認しているとこ
ろから見て社会常識上措信すべきでないF等の証言を採用して右約八畝歩をFが改
めて上告人から借り受けたのは昭和二〇年四月頃であつた、従つて同年一一月二三
日当時は右土地は小作地であつた旨を認定したことは違法であるというに帰するが、
原審が右のとおり証拠を取捨判断してもそこに何等所論のような常識、経験則ない
し採証法則に反する違法ありというを得ず、所論は結局原審の専権に属する証拠の
取捨判断の批難に過ぎず上告適法の理由とならない。
 論旨後段は無断転貸をいうが、原審の認定は初め無断転貸であつたものを昭和二
〇年四月頃Fが改めて上告人A1から内八畝二三歩を借り受けたというにあるから、
所論は原審の認定にそわない事実関係を主張するものであるか又は、原審の証拠の
取捨選択を非難するものに過ぎず上告適法の理由とならない。
 同第三点について。
 所論は要するに、若し原判決別表(28)字de番のg畑六畝一三歩の桑葉の収
穫よりも下作の収穫の方がまさつていたとすれば、地主がこれを無料で下作させる
筈はないから、右土地を無料で下作させていたところから見ても、地主の桑葉の収
穫の方が大であり、従つて右土地は地主である上告人が桑葉の収穫のために自作し
ていた土地と認めるべきであるのに原審がこれに反する認定をしたのは採証法則に
違反するというのである。けれども畑の桑葉の収穫よりも下作の収穫の方がまさつ
ている場合でも事情の如何により地主がこれを無料で下作させることはありえない
ことではない。ことに原審の事実認定によれば、右土地は他の二筆の土地とともに
同一人に小作させ小作料も三筆につき一括して定められていたものと見られるので、
かような事情の下では、そのうちの一筆だけは地主の桑葉の収穫よりも下作の収穫
がまさつていてもこれを無料で下作させることは十分考えられる訳である。されば
所論の点に関する原審の認定には所論のような違法があるものとはいえない。原審
の証拠判断事実認定は相当であつて論旨は理由がない。
 同第四点について。
 しかし、証人Gの証言によつて原審認定のような事実認定をすることはできるの
であるから、所論は原審の専権に属する証拠の取捨、事実認定の非難に帰し上告適
法の理由とならない。甲一六号証は論旨の主張にそう記載のある菊地貞四郎の証明
書であるが右は訴訟提起後証言回避の目的から作成された疑があるとみられうる文
書であるから原審がこれを排斥したとしても採証法則に違反するものということは
できないのは固よりである。論旨は理由がない。
 同第五点について。
 所論は要するに、甲三一号証(土地台帳謄本、昭和三〇年(ネ)一〇号記録七九
丁)によれば、原判決別表(15)字gh番のg田一反四畝一〇歩のうちに初から
畦畔八畝一八歩が含まれていたと認むべきでありかように一筆の土地の過半が畦畔
で占められているような場合には土地台帳上畦畔の記載がない場合でも畦畔部分は
農地面積中に算入すべきでない、また、土地台帳謄本として信用性のある右甲号証
が提出された以上、反証なきかぎり、買収計画樹立当時の土地台帳に畦畔の記載が
あつたものと認めるべきであつて、乙二、六、九号各証(昭和二四年(行)五六号
記録八二丁、同一四一丁、昭和三〇年(ネ)一〇号記録二七丁)は被上告人農業委
員会の作成した調書に過ぎず到底右の反証として役立つものでないにかかわらず、
原審が右乙各号証等を採用して漫然甲三一号証を排斥したことは立証責任を顛倒し
採証法則を誤まつたものである、というのである。
 自作農創設特別措置法一〇条は「第三条、第六条及び前条の規定の適用について
は、農地の面積は、土地台帳に登録した当該農地の地積による」旨を規定するが、
土地台帳自体は正規の手続を経て訂正を許される(土地台帳法三八条二項、同法施
行規則一五条、八条、一二条二項)ものである以上、土地台帳に誤があるものとし
てこれが正規の手続により訂正されたときは農地面積の計算については訂正後の新
たな台帳によるべきであり、このことはその訂正が当該農地に関する訴訟の係属後
になされたものであると否とによつて変りはない。右甲号証の土地台帳謄本(昭和
三〇年一二月五日附盛岡地方法務局大原出張所法務事務官作成)には大字a字gh
番のgの田の地積欄に二反二二歩内畦畔八畝一八歩、摘要欄に昭和三〇年九月二一
日地積訂正との各記載があり、上告人の主張によれば右地積訂正は別表(15)と
(16)の二筆を合筆し地積訂正を行つた後の台帳謄本であるという。右訂正後の
土地台帳の記載に従うとすれば右田のうち畦畔の占める割合は、その三分の一を超
え得ることとなるから、一筆の農地の地積中にこの程度の過大の畦畔面積が含まれ
ている場合には、保有小作地の面積を計算するについては、かような畦畔面積をす
べて除外して計算するのを相当とする。そこで、もし原審の確定する保有小作地の
総地積のうちから右畦畔の地積を除外して計算すれば、保有小作地の総地積は保有
限度額に足りないことは明らかであるから、昭和二三年一一月一二日樹立にかかる
第九期買収計画に基く買収(原判決別紙目録記載(8)(9)(10)の土地に関
する分)処分は違法とならざるを得ない。
 かように見ると、右の田について合筆・訂正が正規の手続によつて行われたもの
であるかどうか、原判決別表(15)(16)のうち畦畔の占める割合、畦畔を除
外した残存面積等の点について原審が何等審理判断することなく、単に「甲三一号
証の記載が事実に合致するかどうかについては何らの立証がない」との理由で同号
証をしりぞけたのは審理不尽の違法があるものといわなければならない。論旨は、
この点において理由があり、原判決中上告人A1に関する部分のうち別紙目録記載
(8)(9)の土地に関する部分は破棄差戻を免れない。なお論旨は原判決中上告
人A2に関する部分のいずれの点にいかなる法令違反があるかを具体的に主張する
ところがないから論旨中この部分は採ることができない。よつて上告人A1の上告
中主文第一項において破棄する部分を除くその余の部分および上告人A2の上告は
いずれもこれを棄却すべきものとし、民訴三九六条、三八四条、四〇七条一項、九
五条、八九条に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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