弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする
         理    由
 上告理由第一点について。
 論旨に従えば、a村選挙会が上告人Aを繰上当選とした決定に対して、Dにおい
て不服がある場合には、先ず同村選挙管理委員会に異議の申立をなすべきであつた
に拘わらす、その手続を経ないでいきなり被上告人B選挙管理委員会に訴願したの
は違法である。従つて同県選挙管理委員会が右の繰上当選の決定を取消す旨の裁決
をしたことも、原判決が此の裁決を維持したことも共に違法であるという。
 しかし原判決の認定したところによれば、昭和二三年八月二五日行われたa村村
長選挙においてDが当選し、同村選挙管理委員会は同月二六日Dの当選を告示し、
同人は当選承諾書を提出して同村選挙管理委員会から当選証書の交付を受けたので
あるから、Dは法律上一応村長の職に就いたものと認められなければならない。(
そうして後の説明でわかるようにDが村長の職に就いたことは結局正当であつた。)
かように一旦村長の職についたからには、地方自治法第一四四条によつて、異議の
決定、訴願の裁決又は判決の確定する迄はその職を失わせることはできないし、ま
たその間には同法第五六条第一項によつて繰上当選の決定をすることもできないの
である。それ故にその問に上告人Aを繰上当選とした村選挙会の決定は違法であり、
これを違法とした被上告人県選挙管理委員会の裁決は、少くともその内容において
正当である。してみれば、右の裁決は所論のような理由により手続上違法であつた
として、上告人請求の通りこれを取消したところで、そのために繰上当選の決定が
有効となり、Aが当選人となる道理はない。かような意味において右の裁決を取消
すと否とは結果には影響がない。更らにDの当選の効力に関する争訟の結果、Dが
当選を失わないことに確定すれば、選挙会がAを当選人と定めたことが全く無意味
に帰することは勿論のことであり、若し逆にDが当選を失うことに確定すれば、選
挙会はあらためてAを当選人と定めることになるのであるから、被上告人がAの繰
上当選を取消したことの当否を、本訴において争う実益は全くないものと言わなけ
ればならない。従つて原判決が被上告人の裁決を維持したからとて、原判決を破棄
しなければならないような違法があるということはできない。論旨は理由がない。
 同上第二点、第四点及び第七点について。
 所論の村長代理助役というのは、地方自治法第一五二条によつて村長に事故があ
り又は村長が欠けたときに村長の職務を代理する助役を指すのであつて、代理助役
という特別の職があるわけではない。代理助役となるにも特別の選任行為を必要と
するのではなく、村長の事故、死亡又は退職等によつて当然に代理助役となり、逆
に新に村長が就任し又は村長の事故が止んだときには当然に代理助役たる職を失い
普通の助役となるのであつて、特に代理助役を辞し、又はこれを免ずる等の行為を
必要としない。従つて同法第一六五条第一項によつて代理助役が退職しようとする
ときに村議会の議長に申出をする必要のあるのは、村長の欠けている間又は村長に
事故のある間に助役を退職しようとする場合であつて、新に村長が、就任したため
に代理助役たる職を失うについては、同条の適用なきことが明らかである。本件で
は村長に当選したのは代理助役たるD自身であるけれども、新に村長ができるため
に代理助役たる職を失う点については同様であつて、特に議会の議長に申出る必要
もなく、況んや二十日の予告期間や議会の承認等は問題ともなり得ないことである。
 尤も純理的に観れば、新に村長ができることによつて村長代理助役たる職は当然
に失われるにしても、普通の助役たる職はなお残るのであるから、当選承諾の前提
として、普通の助役たる職を辞する必要はないかという問題がある訳である。しか
し村方自治法第一六五条第二項によれば、普通の助役が退職しようとする場合には
村長に申出るだけで足り、議会の議長に申出る必要もなく、議会の承認を求める必
要もない。従つて本件の場合には、Dが助役の職を退くためには、村長代理たるD
自身に申出るだけで事足りるということになる。それ故に本件のような場合に、地
方自治法第一六五条第二項の適用があるというのは、全く無意味なことに帰する。
 これを要するに村長代理助役が村長選挙に当選し当選を承諾するために退職する
には地方自治法第一六五条第一項第二項ともに適用なきものと解すべきであるに拘
わらす、論旨は各論点とも同条の適用があるものとして、又は適用があることを前
提として、その解釈について論難しているのであるから、これを採用することがで
きない。
 同上第三点について。
 地方自治法第六〇条第二項には、当選人が定められた期間内に当選を辞する旨の
届出をしないときは、当選を承諾したものとみなすと規定されている。この規定を
その他の規定(第六〇条各項及び第六一条第一項)と綜合して考えると、同法は、
当選人が特に当選辞退の届出をしない限り、積極的に当選承諾の届出をするとしな
いとに拘らず、これを選挙された職に就かせることを原則とする精神であることが
窺われる。しかしこの原則には例外がある。例外の一つの場合として同法第六〇条
第三項は、法律の掲げた職に在る者は、その職を辞した旨の届出をしないときは、
当選を辞したものとみなす、と定めている。この規定は、兼職禁止の規定の結果必
要となつた例外規定である。即ち前記の原則を無制限に適用する結果、当選人が兼
ねることを禁ぜられた職を辞してまでも選挙された職に就く意思がない場合、又は
当選人は兼職を辞する意思があつても、第三者例えば辞職許可の権限を有する議会
が辞職を許可しないような場合に、当選人が当選を承諾したものとみなしてこれに
当選証書を付与しては、兼職禁止の規定に反することとなる。このような不都合な
結果を生じないように予めこれを防止することが、右の例外規定の目的である。そ
れ故にこの規定の適用はこのような目的を達するに必要な限度に止どめ、このよう
な不都合な結果を生ずる惧れのない場合には、その適用の必要もないのであるから、
前記の原則に立返えるべきものと解しなければならない。
 本件に於ては上に述べたようにDの村長代理助役たる職は村長が新にできること
によつて当然に解消するのであるから特に辞職する必要なく、従つて辞した旨の届
出をするという問題は生じ得ない。普通の助役の職を退くこともDの意思だけで決
定することであつて、第三者の許可その他如何なる条件にも依存しないこと、亦す
でに上に述べた通りである。さすればDが助役の職を退くという意思を有すること
が村選挙管理委員会にわかりさえすれば、Dに当選証書を付与しても、兼職禁止の
規定に牴触することはない訳である。ところがDが当選の承諾書を提出したことに
ついては当事者間に争いのないところである。村長と助役との兼職は法律上不可能
であるから、村長の当選を承諾することによつて、これと相容れない助役の職を退
く意思であることが明かに窺い得られる。さすればDが、特に助役を辞した旨の届
出をしなかつたからとて、その村長就任を拒むべき理由は少しも存しない。否、右
のような事情の下に他に理由がないにも拘わらず、明らかに「当選の承諾をした者」
に対し、「当選を辞したものとみなす」という規定の適用があると主張する論旨こ
そ条理に反すると言うべきである。
 原判決は、Dが当選承諾書を提出したことには、村長代理助役の職を辞したこと
の届出の趣旨を含むものと解したのであるが、助役を辞した旨の特別の届出を必要
としないという結論においては、右の解釈と同一の結果に帰するから、原判決を破
棄する必要はない。よつて論旨は、採用することができない。
 同上第五点について。
 論旨は原判決が本訴を地方自治法第六六条の当選の効力に関する訴訟として審理
判決しているけれども、本件のような場合は当選の効力を争うものではないから本
訴の第一審裁判所は地方裁判所であるというのである。通常の当選争訟は同法第五
九条第二項又は第四項の告示に対する争訟、即ち当初選挙会が定めた当選人の当否
についての争訟であつて、本件のように一度当選人と定められた者に対し同法第六
一条第一項によつて当選証書を付与したことの当否に関する争訟は、右の通常の当
選争訟とは場合を異にするけれども、結局において何人が正当な当選人としての地
位を得るかの争訟であつて、通常の当選争訟と取扱いを異にする理由はなく、第六
六条の争訟として審理判決するのが相当であり、論旨に理由はない。
 同上第六点について。
 論旨は本件選挙会が上告人を繰上げて当選人と定めた理由について、原判決が明
確にしていないというのであるけれども、前述のとおり、Dが当選を辞した者とみ
なす趣旨の異議決定の効力が確定しない聞は、如何なる理由によつても上告人を当
選人と定めることはできないのであるから、繰上当選決定の理由を明確にしなかつ
たとしても違法とすべき理由はない。論旨は選挙会が上告人を当選人と定めた理由
がDの死亡又は被選挙権の喪失によつたものかも知れないというのであるけれども、
そうでないことは判決全体の趣旨から明らかであるのみならず、たとえDについて
そのような事実があつたとしても、Dの当選の効力について争訟の係属する間は次
点者の繰上当選の決定はできないのであるから、その理由の如何を問わず本件繰上
当選は違法であつて、従つてその理由を明かにする必要はない。(かりに争訟係属
中Dが死亡しても、直ちに次点者を当選人とすることはできない。Dの当選の効力
に関する決定、裁決、判決の確定を待ち、Dの当選が有効と確定すれば同法第六三
条によつて補欠選挙を行い、当選が無効と確定すればその後に同法第五六条第一項
によつて選挙会は上告人を当選人と定めるべきである。)
 上告理由第八点について。
 論旨は甲第三号証(文書収発簿)によればDは八月二六日以後も助役として執務
しているものと認められ従つてDに助役退職の意思がなかつたものと論ずるけれど
も、さきにも述べた通り、本件のような場合特別の事由のない限り当時Dに退職の
意思があるものと推定するのが至当であり、原判決は当選承諾書の提出によつて当
時Dに助役退職の意思があると認めにのである。原審が甲第三号証を以てその認定
を覆すに足らずとして同証を採用しなかつたからと言つて、要するに証拠の取捨選
択に関する問題であつて、論旨は適法な上告理由ではない。
 以上の理由により民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条を適用して主文の
通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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