弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1本件訴えのうち,金銭差押処分の各取消しを求める部分(各主位的請求)を
いずれも却下する。
2原告らのその余の請求(各予備的請求)をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
(1)主位的請求
処分行政庁が平成22年8月31日付けでAに対してした別紙差押財産目
録記載の金銭に対する差押処分のうち,723万5000円に係る部分を取
り消す。
(2)予備的請求
被告は,甲事件原告に対し,723万5000円及びこれに対する平成2
2年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2乙事件
(1)主位的請求
処分行政庁が平成22年8月31日付けでAに対してした別紙差押財産目
録記載の金銭に対する差押処分のうち,324万円に係る部分を取り消す。
(2)予備的請求
被告は,乙事件原告に対し,324万円及びこれに対する平成22年10
月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
甲事件は,甲事件原告が,処分行政庁がAの滞納国税に係る滞納処分として
した別紙差押財産目録記載の金銭1488万6355円(以下「本件差押金銭」
という。)に対する差押処分(以下「本件差押処分」という。)につき,本件
差押金銭のうち723万5000円(以下「本件金銭1」という。)は甲事件
原告の所有に属するとして,被告に対し,主位的に,同額に係る部分の取消し
を求めるとともに,予備的に,仮に本件金銭1がAの滞納国税に充当された場
合には,被告は甲事件原告の損失のもとに法律上の原因なく同額の利得を得て
いるとして,不当利得返還請求権に基づき,本件金銭1相当額である723万
5000円及び本件差押処分に対する審査請求の日の翌日である平成22年1
0月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求めた事案である。
乙事件は,乙事件原告が,本件差押処分につき,本件差押金銭のうち324
万円(以下「本件金銭2」という。)は乙事件原告の所有に属するとして,被
告に対し,主位的に,同額に係る部分の取消しを求めるとともに,予備的に,
仮に本件金銭2がAの滞納国税に充当された場合には,被告は乙事件原告の損
失のもとに法律上の原因なく同額の利得を得ているとして,不当利得返還請求
権に基づき,本件金銭2相当額である324万円及び本件差押処分に対する審
査請求の日の翌日である平成22年10月26日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1国税徴収法の定め
(1)国税徴収法56条1項は,動産又は有価証券の差押えは,徴収職員がその
財産を占有して行う旨を,同条3項は,徴収職員が金銭を差し押さえたとき
は,その限度において,滞納者から差押えに係る国税を徴収したものとみな
す旨を,それぞれ定めている。
(2)国税徴収法89条1項は,差押財産につき,同法第5章第3節(財産の換
価)の定めるところにより換価しなければならない旨定めているが,金銭に
ついては換価を要する財産から除外されている(同項括弧書)。
(3)国税徴収法128条3号は,差し押さえた金銭を同法第5章第4節(換価
代金等の配当)の定めるところにより配当しなければならない旨を,同法1
29条2項は,差し押さえた金銭を差押えに係る国税に充てる旨を,それぞ
れ定めている。
2前提事実(当事者間に争いがないか,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認められる事実等)
(1)Aは,甲事件原告の代表取締役である。
(2)大阪国税局の徴収職員は,平成22年5月17日,Aの滞納国税を徴収す
るため,A立会の下,Aの住所地である京都市α×番地19のAの自宅の捜
索を実施したところ,Aは,自身が経営する事業に係る売上金を京都市β×
号室(以下「本件居室」という。)に保管している旨申し立てた。
(3)大阪国税局の徴収職員は,平成22年8月31日,A立会の下,本件居室
の捜索を実施し,Aの滞納国税の徴収のため,別紙差押目録記載の本邦通貨
合計1488万6355円(本件差押金銭)を差し押さえた(本件差押処分)。
(4)本件差押処分時の本件居室内の状況
ア本件居室は,Aが代表取締役を務める有限会社Bが賃借しているところ,
本件居室に係る建物賃貸借契約書には,使用目的は住居専用,契約入居者
数は1名とされ,賃貸人の承諾を得ることなく住居以外に使用してはなら
ないとされている(弁論の全趣旨)。
イ本件居室には,ベッド,テレビ,洗濯機,冷蔵庫,電子レンジ,小型金
庫(以下「本件金庫」という。),小型テーブル,ラック(棚),ゲーム
機器及び自転車等が置かれていたほか,鴨居には,男性用の下着,ジャー
ジ,タオルなどがハンガーを用いて吊り下げられていた。小型テーブルや
ラック(棚)には,調味料や酒類等が置かれており,帳簿類は見当たらな
かった。
(5)本件差押金銭の保管状況
ア本件金庫内には,本件居室の捜索時において,貴金属や証券とともに,
本件差押金銭が保管されていた。
イ本件金庫の下段には,以下の現金が置かれていた。
(ア)封がされておらず,表面に鉛筆で「C」と記載されたD信用金庫の
紙幣等封入用の封筒に入った現金325万1097円
(イ)封がされておらず,表面に鉛筆で「E」と記載されたD信用金庫の
紙幣等封入用の封筒に入った現金58万5510円
(ウ)封がされておらず,表面に鉛筆で「F」と記載されたD信用金庫の
紙幣等封入用の封筒に入った現金49万5815円
(エ)封がされておらず,表面に鉛筆で「G」と記載されたD信用金庫の
紙幣等封入用の封筒に入った現金213万3110円
(オ)1万円札の旧紙幣1枚
ウ本件金庫の上段には,以下の現金が置かれていた。
(ア)封がされておらず,表面に鉛筆で「H」と記載されたI銀行の紙幣
等封入用の一面ロゴ入りの封筒に入った現金418万1765円
(イ)ホッチキスで封がされたJ信用金庫の紙幣等封入用の封筒に入った
300万円
(ウ)輪ゴムで2箇所止めされた現金100万円
(エ)青色の100円硬貨ケースに入れられた現金2万円
(オ)白色の硬貨ケースに入れられた現金1万0388円
(カ)ケース等に入れられていない硬貨2万4670円
エ本件金庫の扉の内側上部ポケットには,以下の現金が置かれていた。
(ア)封がされておらず,裏面に黒色ボールペンで「9月分¥48,00
0-L」と記載されたD信用金庫の紙幣等封入用の封筒に入った現金1
0万7000円
(イ)封筒等に入れられていない現金6万7000円
(6)本件訴えに至る経緯
ア甲事件原告は,平成22年10月19日,本件差押処分のうち,本件金
銭1に係る部分の取消しを求めて審査請求をしたところ,国税不服審判所
長は,同年12月1日付けで,同審査請求を却下する旨の裁決をした(甲
A1)。
イ乙事件原告は,平成22年10月25日,本件差押処分のうち,本件金
銭2に係る部分の取消しを求めて審査請求をしたところ,国税不服審判所
長は,同年12月1日付けで,同審査請求を却下する旨の裁決をした(甲
B1)。
ウ甲事件原告は,平成23年5月31日,本件差押処分のうち,本件金銭
1に係る部分の取消し等を求める訴えを提起した(甲事件。顕著な事実)。
エ乙事件原告は,平成23年5月31日,本件差押処分のうち,本件金銭
2に係る部分の取消し等を求める訴えを提起した(乙事件。顕著な事実)。
3争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件差押処分の取消しを求める訴えの利益があるか(主位的請求に係る本
案前の争点)。
(被告の主張)
大阪国税局の徴収職員は,国税徴収法56条1項に基づき本件差押金銭を
差し押さえ,これを占有したところ,本件差押金銭は本件差押処分によって
大阪国税局の徴収職員が占有した時点でAの滞納国税に充てられたこととな
り(同条3項),同時点で本件差押処分は目的を達してその効力は消滅して
いるし,原告らは本件差押処分の違法を前提として本件差押金銭の返還を求
めることができるから,原告らは本件差押処分の取消しを求める法律上の利
益を有しない。
なお,誤って第三者の所有に属する財産を差し押さえた場合は,その差押
えは原則として無効と解されるから,いずれにせよ,原告らは本件差押処分
の取消しを求める法律上の利益を有しない。
(原告らの主張)
国税徴収法56条1項にいう「その財産」とは,滞納者の所有する財産を
意味し,第三者所有の財産はこれに含まれないと解すべきであるから,本件
差押処分のうち本件金銭1及び本件金銭2に係る部分については,同項に基
づく差押え及び占有ということはできず,同条3項によって滞納者から差押
えに係る滞納国税を徴収したものとみなすこともできないから,本件差押処
分のうち同部分の効力が消滅しているとはいえない。このように解さなけれ
ば,差押えに当たって第三者の権利を害することがないよう留意した国税徴
収法の趣旨に反することとなるし,誤って第三者の財産に対する差押えがさ
れた場合に,国税徴収法によっては侵害された権利の回復を求めることがで
きなくなってしまう。
よって,原告らは,本件差押処分のうち本件金銭1及び本件金銭2に係る
部分の各取消しを求める法律上の利益を有するというべきである。
(2)本件金銭1及び本件金銭2について被告が不当利得返還義務を負うか(予
備的請求関係)。
(原告らの主張)
ア本件金銭1及び本件金銭2が原告らの所有に属していたこと
(ア)本件金銭1について
本件金銭1は,甲事件原告が経営する店舗「C」の売上金であり,一
旦保管し,そこから経費などの支払を行うために他の金銭とは明確に区
別して本件金庫内に保管されていたものである。
本件金銭1が甲事件原告の所有に属することは,本件金銭1が保管さ
れていた封筒に「C」と記載されていたこと,本件差押処分時点で本件
金庫内に保管されていた,「C」の現金売上から仕入れ等の支払を控除
した残額は733万8884円であったこと,Aが本件差押処分の際,
本件金銭1について甲事件原告の所有であることを説明していたことか
ら明らかであったといえる。なお,本件差押処分の際に本件金庫内に「C」
と記載された封筒に入れて保管されていた金銭の額が本件金銭1の額と
異なるのは,Aが一時的に借用するなどしていたためである。
(イ)本件金銭2について
本件金銭2は,乙事件原告が経営する店舗「K」の売上金であり,一
旦保管し,そこから経費などの支払を行うために他の金銭とは明確に区
別して本件金庫内に保管されていたものである。
本件金銭2が乙事件原告の所有に属することは,本件金銭2が保管さ
れていた封筒に「K」と記載されていたこと,本件差押処分時点で本件
金庫内に保管されていた「K」の現金売上から仕入れ等の支払を控除し
た残額は460万9236円であったこと,Aが本件差押処分の際,本
件金銭2について乙事件原告の所有であることを説明していたことから
明らかであったといえる。なお,本件差押処分の際に本件金庫内に「K」
と記載された封筒に入れて保管されていた金銭の額が本件金銭2の額と
異なるのは,Aが一時的に借用するなどしていたためである。
(ウ)Aは,甲事件原告については代表取締役として,乙事件原告につい
ては受託者として,原告らが経営する店舗の売上金の集金を行っていた
ところ,原告らの経営する飲食店の営業は深夜に及ぶため,売上金を直
ちに銀行に預け入れることもできず,Aが本件金庫内で一時的に保管し
ていたものである。Aは,各店舗の売上金を,各営業日の営業時間終了
後に集金し,店舗ごとに分けて銀行等の封筒に入れた上,本件金庫で保
管しており,このように保管していた現金の中から必要な経費を支払い,
銀行等に預け入れるなどしていた。
そして,金銭についての所有権の帰属については,その保管状況等に
よって左右されるものではなく,その実体関係から判断すべきところ,
上記のとおり,Aは本件金銭1については甲事件原告の代表者として,
本件金銭2については乙事件原告の委託を受けて,それぞれ保管してい
たものにすぎないから,本件金銭1及び本件金銭2がA個人の所有に属
することにはならない。
(エ)Aは,本件差押処分の際,本件金庫内の金銭は原告ら所有の金銭で
あり,Aに帰属するものとして差し押さえられたら困る旨抗議したが,
大阪国税局の徴収職員らはこれに全く応じず,数名でAを取り囲み,差
押調書に署名押印するよう要請したため,Aはやむなく差押調書に署名
押印せざるを得なかったものである。
イ原告らが不当利得返還請求権を有すること
本件金銭1及び本件金銭2は原告らの所有に属するから,本件差押処分が
取り消されない場合,被告は法律上の原因なくして原告らの損失において
同額の利得を得たことになり,原告らは被告に対し不当利得に基づき本件
金銭1ないし本件金銭2相当額の返還を求めることができる。
そして,原告らは,本件差押処分に対する審査請求をそれぞれ行ってい
るところ,これによって本件金銭1及び本件金銭2の返還を求めたものと
同視できるから,被告は,上記各不当利得返還債務につき,原告らによる
各審査請求の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の
支払義務を負う。
(被告の主張)
ア本件金銭1及び本件金銭2がA個人の所有に属していたこと
(ア)金銭については,金銭という物質の占有者がその価値の排他的支配
者であると認められるから,その占有者の所有に属することとなる。
原告らは,金銭についても実体関係から所有者を判断すべきと主張す
るが,独自の見解にすぎず失当である。
(イ)本件居室は原告らの本店所在地ではないこと,本件差押処分当時の
状況からすれば,本件居室は原告らの事務所等ではなくAの生活の本拠
であったと認められること,本件差押金銭は本件居室に設置されていた
本件金庫内から発見されていること,本件金庫内にはAが裏書人となっ
ている手形や宝石類など,Aの私物と思われる物が保管されており,本
件金庫はAが占有し使用していたものと推認されること,本件差押金銭
はほとんどがむき出しの状態又は封がされていない封筒に入れられた状
態で保管されていたこと,本件差押金銭の一部が原告らの占有に属する
ことを示す的確な証拠は存在しないことからすれば,Aは本件差押金銭
を排他的に占有していたことは明らかであり,また,Aが甲事件原告の
代表取締役として本件差押金銭を占有していたとも認められないから,
本件差押金銭はA個人の所有に属していたというべきである。
(ウ)Aは,本件差押処分の際,徴収職員から本件差押金銭について説明
を求められた際,原告らの所有に属するものであり,自己に帰属しない
と主張したことはなく,最終的には差押えをするなら仕方がない旨述べ
た上で差押調書に自ら署名押印していることからすれば,Aにおいても
本件差押金銭が自己に帰属するものと認識していたことは明らかである。
原告らは,大阪国税局の徴収職員がAの抗議を容れず,差押調書への
署名押印を強要した旨主張するが,Aが本件差押金銭につき原告らの所
有に属する旨の抗議をした事実はないし,差押調書の作成は本件差押処
分の効力とは何ら関係がなく,徴収職員において署名押印を強要する理
由がないから,原告らの主張は失当である。
(エ)原告らは,本件差押金銭の一部が入っていた封筒に原告らの経営す
る各店舗名が記載されていたことをもって,本件差押金銭の一部が原告
らの所有に属していた旨主張するが,原告らの指摘する記載からは外観
上その意味を識別することはできない上,封筒内の現金はいくらでも差
替え可能であったことからすれば,当該封筒の記載によって原告らの占
有があったと認めることはできない。また,「C」と記載された封筒に
入っていた現金の額は325万1097円であり,本件金銭1の金額と
は大きく異なるし,「K」と記載された封筒はそもそも存在せず,「H」
と記載された封筒に入っていた金額は418万1765円であり,本件
金銭2の金額とは大きく異なるから,原告らにおいて本件金庫内に保管
された金銭の額について正確に把握していたとはいえず,上記本件差押
金銭の一部に対する占有の認識に欠けることは明らかである。
イ上記アの被告の主張のとおり,本件差押金銭はAの所有に属するから,
被告が原告らに対して不当利得返還義務を負うことはない。
第3争点に対する判断
1争点(1)(本件差押処分の取消しを求める訴えの利益があるか(主位的請求に
係る本案前の争点))について
(1)処分の取消しの訴えは,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を
有する者(処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後におい
てもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)
に限り,提起することができる(行政事件訴訟法9条1項)。
国税徴収法は,徴収職員が金銭を差し押さえたときは,その限度において,
滞納者から差押えに係る国税を徴収したものとみなし(56条3項),差し
押さえた金銭は換価を要せず,差押えに係る国税に充当されることとされて
いる(89条1項,129条2項)。これらの規定によれば,徴収職員が滞
納処分として金銭の差押えをした場合には,差し押さえた金銭は差押えと同
時に滞納国税に充てられたこととなり,金銭差押処分はその目的を達してそ
の法的効果が消滅するものと解されるところ,実体法上,金銭差押えの後に
おいても金銭差押処分がされたことを理由として滞納者に法律上の不利益を
課する旨の規定は存せず,金銭の差押えにより金銭差押処分の効果がなくな
った後においては,なお当該金銭差押処分の取消しによって回復すべき法律
上の利益は存しないものと解される。
(2)金銭差押処分が国税徴収法の規定に違反する場合において,当該処分に基
づいて滞納国税に充てられた金銭について不当利得返還請求権を行使するた
めには,行政処分の公定力との関係上,当該金銭差押処分の取消しが必要で
あって,かかる観点から同差押処分の取消しを求める利益が存在するのでは
ないかが問題となる。しかしながら,滞納処分としての金銭差押処分は,徴
収職員が差し押さえた金銭をもって差押えに係る国税に充てることを目的と
するものであり,それを超えて,差し押さえた金銭に相当する価値を保持す
る権限を課税主体に与えるものではないから,差し押さえられた金銭につい
て,課税主体においてこれに相当する価値を保持する法律上の原因があるか
否かは,差押処分の公定力とは無関係というべきである。そして,金銭差押
処分が違法であると主張する者は,直接に不当利得返還請求又は国家賠償請
求によって実質的な救済を図ることができるから,差押後においても金銭差
押処分の法的効果が残存すると解する実質的根拠は乏しいものといえる。
なお,第三者の所有に属する金銭について滞納者の所有に属すると誤認さ
れて差し押さえられた場合には,当該差押処分は無効と解されるところであ
るが,本件において,原告らは,本件差押処分が有効であることを前提とし
てその取消しを求めるものである以上,前記(1)の国税徴収法の規定により,
その取消しを求める法律上の利益は存しないものというべきである。
(3)上記の解釈を踏まえて,本件についてみるに,平成22年8月31日に本
件差押処分がされているところ(前記前提事実(3)),国税徴収法56条3項
に基づき,本件差押金銭は差押え時にAの滞納国税に充当されているから,
本件差押処分はその目的を達してその法的効果が消滅しており,原告らには
本件差押処分の取消しによって回復すべき法律上の利益は存在しない。
(4)よって,本件訴えのうち,本件差押処分の各一部取消しを求める部分(原
告らの主位的請求)は,訴えの利益を欠き,いずれも不適法なものとして却
下を免れない。
2争点(2)(本件金銭1及び本件金銭2について被告が不当利得返還義務を負う
か(予備的請求関係))について
(1)金銭は,特別の場合を除いては,物としての個性を有せず,価値そのもの
と考えるべきであるところ,価値は金銭の所有に随伴するものであるから,
金銭の所有者は,特段の事情のない限り,その占有者と一致すると解すべき
であり,また,金銭を現実に支配して占有する者は,その取得原因及び占有
権原の有無に関わらず,価値の帰属者たる金銭の所有者とみるべきである。
(2)前記前提事実(4)及び(5)のとおり,本件差押金銭は,Aが代表取締役を務
める有限会社Bが賃借していた本件居室に置かれていた本件金庫内に保管さ
れていたこと,本件居室は,住居専用,契約者数1名との約定で賃借されて
おり,本件差押処分当日において,家具,家電製品のほか,男性用の衣服等
が置かれていた一方,帳簿類等は見当たらなかったこと,本件金庫内には貴
金属や証券とともに封筒入りの現金やケースに入った硬貨,封筒等に入れら
れていない現金が保管されていたことが認められることに加え,Aは本件差
押処分の際,「差押財産」欄に本件差押金銭が記載された差押調書に署名押
印しており,特段の異議を述べていないこと(乙全2。なお,原告らは,A
は本件差押金銭が原告ら所有の金銭であるとして抗議した旨主張するが,こ
れを裏付ける的確な証拠はなく,採用できない。)からすれば,本件差押処
分時において,Aは本件居室を生活の本拠として利用しており,本件金庫及
び本件差押金銭を含むその内部に保管されていた物を個人として管理支配し
ていたものと認められる。
(3)原告らは,本件金銭1は甲事件原告が経営する店舗の売上金であり,本件
金銭2は乙事件原告が経営する店舗の売上金であって,Aは甲事件原告の代
表取締役あるいは乙事件原告から委託を受けた受託者としてこれらの金銭を
他の金銭とは明確に区別して保管していた旨主張する。しかしながら,原告
らが主張する甲事件原告が経営する「C」の平成22年8月30日までの現
金売上から仕入れ等の支払を控除した額733万8884円及び乙事件原告
が経営する「K」の同日までの現金売上から仕入れ等の支払を控除した額4
60万9236円は,そもそもこれらの売上金等が実際に存在したことを裏
付ける証拠は全く存しない上,本件金銭1及び本件金銭2の額と一致せず,
また,本件金庫内に保管されていた「C」と表面に記載された封筒に入って
いた現金の額325万1097円及び「H」と表面に記載された封筒に入っ
ていた現金の額418万1765円(前記前提事実(5)イ(ア),ウ(ア))とも
一致しない。これに加え,「C」及び「H」と表面に記載された封筒に入っ
ていた現金は,いずれも封がされていない状態で保管されており(同上),
本件金庫内の他の金銭と明確に区別して保管されていたとは認められず,本
件金庫の占有者による支配下にあったものといえること,本件居室は原告ら
の本店所在地ではないこと(乙全15の1及び2)からすれば,本件差押処
分時において,甲事件原告が本件金銭1を,乙事件原告が本件金銭2をそれ
ぞれ占有しており,その所有者であったとは認められない。
(4)よって,本件金銭1及び本件金銭2についてAの所有する金銭として差し
押さえ,Aの滞納国税に充てたことは適法であり,被告が法律上の原因なく
これら金銭と同額の利得を得ているとは認められないから,原告らの不当利
得返還請求はいずれも理由がない。
3結論
以上によれば,本件訴えのうち本件差押処分の各取消しを求める部分(各主
位的請求)はいずれも不適法であるからこれらを却下し,本件金銭1及び本件
金銭2相当額の不当利得の各返還を求める部分(各予備的請求)はいずれも理
由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴
訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決
する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中健治
裁判官尾河吉久
裁判官長橋正憲

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛