弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の平成13年4月1日から平成14年3月31日までの課税期間の消費
税及び地方消費税の更正の請求に対し,被告が平成14年12月27日付けで
した更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
本件は,平成13年4月1日から平成14年3月31日までの課税期間(以
下「本件課税期間」という)における消費税及び地方消費税について,原告。
が,消費税法9条1項(平成15年法律第8号による改正前のもの。同条項に
つき以下同じ)にいう免税事業者に該当するとしてなした更正の請求に対す。
る被告の平成14年12月27日付け更正をすべき理由がない旨の通知処分
(以下「本件処分」という)は違法であるとして,同処分の取消しを求めて。
いる事案である。
1争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実(後者は各項末尾掲記の各
証拠によって認定)
()原告1
ア原告は,平成11年3月31日,倉橋町が民法34条に基づき広島県知
事の許可を得て設立した公益法人である。
イ原告の寄附行為においては,原告は,瀬戸内の伝統文化の継承と創造に
役立つ人材を養成するとともに,地域住民の福祉の向上と産業活性化を促
進し,個性ある倉橋町のまちづくりに寄与することを目的とし(3条,)
この目的を達成するために,地元特産物を中心とした地域産業の振興に関
する事業,住民の健康づくりに関する事業,公共関連施設の管理及び運営
などの事業を行う(4条)と定められている(乙1。)
()事実経過等2
ア倉橋町は,広島県安芸郡α×××番地(当時)にAを設置し,平成10
年4月1日には,B有限会社(東京都中野区β××番23号に本店を置く
もの。以下「B(中野区」という)との間で,A内のγ温泉部門を試)。
運転期間の1年間に限り,B(中野区)が運営するという施設管理運営委
託契約を締結し,同時に,上記施設運営に必要な備品の賃貸借を内容とす
る,自動券売機等賃貸借契約を締結した。
イ倉橋町は,平成10年6月1日,B(中野区)との間で,広島県安芸郡
δ×××番地の1(当時)所在のC施設等管理委託契約を締結し,Cにつ
いても,B(中野区)が運営することとした。
ウ前記ア,イのとおり,倉橋町とB(中野区)との間に締結されたA及び
C(以下「A等」という)に関する施設管理運営委託契約に基づいて,。
地方公共団体である倉橋町がそのまま各施設の管理運営の委託をB(中野
区)に任せるのは,平成15年法律第81号による改正前の地方自治法2
44条の2第3,4項に違反するとされるおそれがあるため,そういった
疑いを払拭する目的で,平成11年4月1日,原告と倉橋町との間で,A
等の管理運営を原告が倉橋町から受託する契約(以下「本件受託契約」と
いう)を締結した(乙2。。)
エ原告は,平成11年4月1日,B有限会社(広島県安芸郡ε町×××番
地(当時)に本店を置くもの。以下「B(ε町」という)との間で,)。
Aの入浴施設,軽食施設及びその他の合計891.22平方メートルに相
当する部分(以下「A温泉館」という,並びに,C及び公衆便所(以。)
下,上記両施設を「本件各施設」という)の管理運営をB(ε町)に再。
委託する契約(以下「本件委託契約」という)を締結し(乙3,併せ。)
て,本件委託契約の詳細について「A温泉館及びCの管理委託等の申合,
せ事項(乙4)のとおり合意した。」
オ原告は,平成13年3月29日,B(ε町)との間で上記温泉館に関す
る営業譲渡契約を締結し,以降は原告が本件各施設の管理運営を実施する
ようになった。
()本件処分に至る経緯等3
ア原告は,平成13年5月23日,被告に対し,収益事業開始届出書(乙
5。以下「開始届出書」という)及び消費税課税事業者届出書(乙6。。
以下「事業者届出書」という)を提出した。。
イ調査官Dは,開始届出書に記載されている収益事業開始日及び事業者届
出書に記載されている適用開始課税期間の始期がいずれも平成13年4月
1日であることから,平成13年5月下旬ころ,原告の関与税理士である
Eに対し,開始届出書及び事業者届出書の記載内容についてそれぞれ確認
した。
ウ原告は,平成13年11月13日,被告に対し「消費税課税事業者届,
出書の取下申請書(乙7)を提出した。」
エ調査官D及び調査官Fは,平成14年5月13日,E税理士,原告事務
局長G,倉橋町総務課長H及び倉橋町企画課長Iから,また,平成14年
5月20日,原告常務理事J及びH総務課長から,それぞれ,原告の事業
内容についての説明を受けた。
()本件処分等の経過4
ア原告は,平成14年6月20日,被告に対し,本件課税期間の消費税の
納付すべき税額398万2900円及び地方消費税の納付すべき譲渡割額
99万5700円とする確定申告書を提出した(乙8。)
イ原告は,平成14年10月11日,被告に対し「当事業者は新設法人,
であり平成13年4月1日∼平成14年3月31日は第一期にあたり課税
業者に概当しない」ことを理由として「消費税及び地方消費税の更正の,
請求書(乙9)を提出して更正の請求をした(以下「本件更正の請求」」
という。。)
ウ調査官Fは,平成14年12月18日,原告の事務所に赴き,本件更正
の請求に係る調査をした。
エ被告は,上記調査結果に基づき,平成14年12月27日,原告の本件
課税期間については,基準期間(平成11年4月1日から平成12年3月
31日までの課税期間。以下「本件基準期間」という)の課税売上高が。
3000万円を超えているため,消費税法9条1項により消費税の納税義
務は免除されないと認定し,更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下
「本件通知処分」という)をした(甲1。。)
オ原告は,本件通知処分を不服として,平成15年2月25日,被告に対
し,異議申立てをしたところ,被告は,同年5月23日,異議申立てを棄
却する異議決定をした(甲2。)
カ原告は,上記異議決定を経た後の本件通知処分を不服として,平成15
年6月10日,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたところ,国税不
服審判所長は,平成16年5月19日,上記審査請求を棄却するとの裁決
をした(甲3。)
3争点
()利用料金等の帰属者が原告かB(ε町)か。1
()本件通知処分が信義則違反に当たり違法か。2
4争点に関する当事者の主張
()争点()(利用料金等の帰属者が原告かB(ε町)か)について11。
(原告の主張)
ア消費税法9条には,消費税納税義務者の納税義務の免除に関する規定が
置かれ,同法13条には資産の譲渡等を行ったものの実質判定に関する規
定が置かれているところ,同条に関する消費税基本通達4−1−3によれ
ば「資産の譲渡等が委託販売の方法その他業務代行契約に基づいて行わ,
れるのであるかどうかの判定は,当該委託者等と受託者等との間の契約の
内容,価格の決定経緯,当該資産の譲渡等に係る代金の最終的な帰属者が
誰であるか等を総合判断して行う」とされている。。
イ(ア)倉橋町は,設置したAについて,B(中野区)との間で,γ温泉部
門の施設管理運営委託契約を締結していたが,地方自治法244条の2
第3項及び4項により,地方公共団体である倉橋町が施設の管理運営の
(),委託をB中野区に任せるのは地方自治法に違反することになるため
平成11年4月1日に倉橋町の出資で原告が設立され,町と原告との間
「」()。でC等に係る施設管理運営委託契約本件受託契約が締結された
(イ)形式的に原告が設立され本件受託契約が結ばれたものの,原告には
何ら人的物的設備が整備されていなかったことから,原告は倉橋町との
契約どおり施設の管理運営を実施することができなかったため,そのま
ま従来施設管理運営に当たっていたB(ε町)に委託することにした。
(ウ)原告とB(ε町)との間には「甲(原告)は,振り込まれた金額か
ら,賃料,電気代,水道代等のランニングコスト並びに機械警備,定期
,(())清掃等のメンテナンス代機器リース代を差し引いた額を乙Bε町
。」の指定する口座に委託料として毎月17日及び27日までに振り込む
との申合せ事項が合意されており(乙4・5枚目,実際にもこのよう)
な運営がされてきた(乙14。すなわち,B(ε町)が運営委託され)
た温泉事業の売上げは,いったん原告の普通貯金口座に入金された後,
上記の賃料等の必要経費が差し引かれ,その残額が再びB(ε町)の口
座に委託料として振り込まれていることになる。他方,差し引いた賃料
等は倉橋町にいったん引き渡された後,そのまま個々の支出に回された
りしている。
(エ)このように,本件各施設の運営により発生する利用料金等収入はB
(ε町)が享受し,法人税及び消費税の申告もB(ε町)の収益として
なされていたが,このような場合B(ε町)は利用料金等収入の中から
原告に支払うべき賃料等必要経費のみを支払い,残りは管理運営委託費
として自ら収受していればよかったところ,原告の設立には広島県知事
の許可を受けていることから,原告の収支決算について広島県に報告し
なければならないため,原告の実績作りのためB(ε町)が収受した利
用料金等収入はいったん原告口座に入金され,その後利用料金等収入か
ら必要経費を差し引いた残りが委託料としてB(ε町)に対し払い戻さ
れていたのであり,原告には本件基準期間中に温泉事業からの売上げが
一銭も入ることはなく,いわばトンネル会社ともいえるものであった。
(オ)このような取扱いは,平成13年3月29日に原告がB(ε町)と
の間で営業譲渡契約を締結するまで継続していた。
ウ以上の事実関係からすれば,原告は平成13年3月29日にB(ε町)
から営業譲渡を受けるまでは,消費税法13条にいう「単なる名義人」に
すぎず,本件基準期間の課税売上高が3000万円以上になることはない
から,原告は免税事業者となるはずである。
(被告の主張)
ア(ア)私法上の法律行為と実質課税の原則について
私法上の法律行為と租税法の適用については「租税法は,種々の経,
済活動ないし経済現象を課税の対象としているが,それらの活動ないし
現象は,第一次的には私法によって規律されている。租税法律主義の目
的である法的安定性を確保するためには,課税は,原則として私法上の
法律関係に即して行われるべきである(金子宏著「租税法」第十版。」
(弘文堂)123頁。)
そして「租税法の適用にあたっては,課税要件事実の認定が必要で,
ある。他の法分野におけると同様に,租税法においても,要件事実の認
定に必要な事実関係や法律関係の『外観と実体』ないし『形式と実質』
がくいちがっている場合には,外観や形式に従ってではなく,実体や実
質に従って,それらを判断しなければならない(中略)ただし,この。
ことは,要件事実の認定に必要な法律関係についていえば,表面的に存
在するように見える法律関係に即してではなく,真実に存在する法律関
係に即して要件事実の認定がなされるべきことを意味するに止まり,真
実に存在する法律関係からはなれて,その経済的成果なり目的なりに即
して法律要件の存否を判断することを許容するものではないことに注意
する必要がある。いわゆる「実質課税の原則」は,以上のような意味に
理解し,用いられるべきである(前掲租税法139,140頁。」)
(イ)本件における私法上の法律関係について
a倉橋町と原告との間の私法上の法律関係について
①原告は,寄附行為(乙1)に定めた目的に沿って,同寄附行為に
定めた事業を行うために設立された,独立した法人格を有する公益法
人であること(民法34条,②原告は,平成11年4月1日,倉橋)
町との間で,A等の管理運営を倉橋町から受託する本件受託契約を締
結したこと(乙2,③原告は,本件受託契約に従い,本件基準期間)
において,A等の管理運営を自ら行っていたこと,④A設置条例(乙
16)17条により,利用料金は,原告の収入とされていること,⑤
原告は,B(ε町)から現実に利用料金等を受領していること(甲1
1,12,乙14,⑥原告は,利用料金等を自らの収入として計上)
していること(乙11・7枚目)などの事実関係が認められ,そうす
ると,原告が倉橋町から委託を受けたA等の管理運営を行うこと,及
び利用料金等が原告に帰属することについて,倉橋町と原告との私法
上の契約関係の外観・形式と実体・実質は完全に一致しているといえ
る。
b原告とB(ε町)との間の私法上の法律関係について
⑦原告とB(ε町)は,原告が倉橋町から管理運営の委託を受けた
(),,A等の一部本件各施設の管理運営について平成11年4月1日
本件委託契約を締結し,併せて,同契約の詳細について「A温泉館,
及びCの管理委託等の申合せ事項(乙4)のとおり合意しているこ」
と,⑧B(ε町)は,本件委託契約に従い,本件各施設の管理運営を
行っていること⑨A温泉館及びCの管理委託等の申合せ事項乙,「」(
4)Ⅲ1において,B(ε町)は,原告に対し,利用料金等を原告の
口座に振り込むこととされ,同Ⅲ2において,原告は,B(ε町)に
,()対し利用料金等から賃料等を差し引いた額を委託料としてBε町
の指定する口座に振り込むこととされていること,⑩原告及びB(ε
町)は,いずれも,上記⑨の合意事項にほぼ沿った支払を行っている
こと(甲11,12,乙14)などの事実関係が認められ,そうする
と,B(ε町)が原告から受領する委託料がB(ε町)に帰属するこ
とについては,原告とB(ε町)との私法上の契約関係の外観・形式
と実体・実質は一致しているということができ,利用料金等がB(ε
町)に帰属する私法上の契約関係を見いだすことはできない。
,,()c以上のように利用料金等は原告に帰属するのであってBε町
に帰属するというべき私法上の法律関係は存在しない。
dしたがって,原告は,本件基準期間において,A等において行われ
た事業の主体であり,消費税法13条に規定されている「単なる名義
人」でないことは明らかである。
(ウ)なお,本件各施設は公の施設(地方自治法244条1項)であるか
ら,本件各施設の利用料金等は,本来,公の施設を所有する倉橋町の
収入となるべきところ,平成15年法律第81号による改正前の地方
自治法244条の2第3項及び4項並びにA設置条例16条及び17
条(乙16・3枚目)に基づき,原告が収受することができるもので
あって,B(ε町)は,そもそも,公の施設の管理を受託することは
できず(乙28,29,利用料金等を自らの収入として収受するこ)
ともできない。
イそして,原告が,平成12年9月28日付けで広島県地域振興部長に提
出した平成11年4月1日から平成12年3月31日までの会計年度の収
支決算書(乙11・7枚目ないし9枚目)によると,原告の当該会計年度
における「料金収入」は7181万8395円「試験販売収入」は90,
93万3973円「受託金収入」は1717万3000円「電話代」,,
収入は4万7910円であり,当該各収入の合計は1億7997万327
8円となり,この合計金額から「料金収入」には含まれているが課税資,
産の譲渡等(消費税法2条1項9号)には当たらない「入湯税」953万
4900円を差し引いた残額1億7043万8378円は,全額課税資産
の譲渡等(同条項8号,9号)に該当する。
ウしたがって,原告の本件基準期間の課税売上高(消費税法9条2項)は
3000万円を超えることとなるから,原告は,本件課税期間において,
免税事業者には該当しない。
エなお,消費税法において,納税義務者が納付すべき税額は,基本的には
課税売上高に対する消費税額から,課税仕入れに係る消費税額を控除した
残額に相当する額とされている(消費税法45条,49条参照)ところ,
これを本件に照らせば,原告が納付すべき消費税額は,利用料金等(課税
売上高)に対する消費税額から,委託料等(課税仕入れ)に係る消費税額
を控除した残額に相当する額であり,他方,B(ε町)が納付すべき消費
,(),()税額は委託料課税売上高に対する消費税額から経費課税仕入れ
に係る消費税額を控除した残額に相当する額となる。そうすると,原告が
納付すべき消費税額の中に,当該委託料に対する消費税額は含まれておら
ず,これはB(ε町)が納付することとなるから,本件利用料金等につい
て二重課税の問題は生じ得ない。
()争点()(本件通知処分が信義則違反に当たり違法か)について22。
(原告の主張)
ア最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日判決・裁集民
152号93頁は「租税法規に適合する課税処分について,法の一般原,
理である信義則の法理の適用により,右課税処分を違法なものとして取り
消すことができる場合がある」とし,それは「租税法規の適用における納
税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分にかかる
課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるよ
うな特別の事情が存する場合」をいい,その適用要件として,①税務官庁
が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと,②納税者がそ
の表示を信頼し,かつ,このように信頼したことについて納税者の責めに
帰すべき事由がなかったこと,③納税者がその信頼に基づいて行動し,か
つ,このように行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がなか
ったこと,④のちに右表示に反する課税処分が行われ,そのため納税者が
経済的不利益を受けることになったこと,を挙げている。
イ(ア)平成13年3月29日にB(ε町)からA温泉館に関する営業譲渡
を受けることとなった原告は,上記温泉館の営業による収益事業を新たに
営むことになったが,かかる収益事業により平成13年分の収益に対する
消費税の納税義務があるか否かが問題となったため,原告担当者が,平成
13年6月上旬ころ呉税務署に対し上記の問題について直接面談の上照会
したところ,調査官Dより温泉館の営業による収益事業は原告にとって消
費税法上の基準期間のない新規事業に該当するから,消費税の納税義務は
ないとの回答が得られた。
(イ)原告としては,その回答を受けて,今後2年間は免税事業者という
立場になるものと理解した。
(ウ)そこで,原告は,平成13年分の消費税納付分の負担がなくなった
ので,これを地域住民の温泉館使用利益に反映させるため,温泉館の
利用料金の値下げをした。
,,,()(エ)しかしその後呉税務署の見解が変更され上記事業はBε町
からの継続事業に該当し,原告にも消費税法上の基準期間があること
になるから,新規事業者として提出された平成13年5月23日付け
消費税課税事業者届出書を取り下げるとともに,平成13年分の消費
税を納税するように言い渡された。
(オ)そこで,原告は,平成13年11月13日に消費税課税事業者届出
書を取り下げるとともに,平成14年6月20日に消費税及び地方消
()費税の確定申告平成13年4月1日から平成14年3月31日まで
を行った。
ウこのように,原告は,呉税務署の公的見解に従って合理的期待を有して
おり,それを前提に温泉館使用料金の値下げを決め経営を継続していたと
ころ,その後呉税務署から消費税の納付を慫慂され,それに従い消費税の
確定申告をした結果,使用料金値下げ幅である本来受けられるべき利益を
失ったものである。
したがって,本件処分は,信義則違反の違法があり,取り消されるべき
である。
エ被告の主張に対する反論
被告は,調査官Dの回答は公的見解ではない旨主張するが,調査官Dの
回答は,呉税務署長又は呉税務署全体の見解を通知するものであって,調
査官Dの個人的見解ではないものと推測される。特に本件では税務の専門
家である税理士が直接質問をしており,しかも,平成13年6月上旬には
原告担当者が直接調査官Dと面談した上で相談しており,それに対する調
査官Dの回答は調査官一個人の回答であって「税務官庁」の回答ではない
などという軽いものではない。
調査官Dは,呉税務署所轄地域において法人課税第一部門の消費税に関
する事務及びその法律相談を担当している者であったのであるから,少な
くとも消費税に関する本件処分に関連して重大な地位にある者であるとい
えるし,また,納税者の側からすれば,税務署内部の権限分配規定ではな
く実際の担当処理業務の内容に信を置くのが通常であるから,その発言内
容には「信頼の対象となる公的見解」としての資格を十分備えているとい
える。
(被告の主張)
ア(ア)様々な状況下で行われる税務職員の見解の表示のすべてが信頼の対
象となる公的見解の表示となるものでないことはいうまでもなく,納税
者はもともと自己の責任と判断の下に行動すべきものであることからす
れば,信頼の対象となる公的見解の表示であるというためには,少なく
とも,税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示であ
ることが必要であるというべきである(名古屋地裁平成2年5月18日
(),)。判決・訟務月報37巻1号160頁乙17乙23・132頁参照
(イ)また,各税務署職員が一般的な知識をもって即答したことに対する
信頼は,税務官庁の公的見解に対する信頼に比して,信頼の程度に格段
の差があるというべきであり,そのようなものに対する信頼を基礎とし
て,租税法律主義の原則の下における納税者間の平等や公平を損なうこ
とは到底容認できない(那覇地裁平成8年4月2日判決・税務訴訟資料
216号18頁。)
イ調査官Dの回答は,その回答者,回答の方法及び回答の状況に照らし,
信義則の適用を問題とする場合の信頼の対象となる公的見解の表示には該
当しない。
(ア)調査官Dの回答は税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の
見解の表示ではないこと
調査官Dは,平成13年6月当時,上席国税調査官として呉税務署法
人課税第一部門に配置されていたところ,上席国税調査官は,命を受け
て,課長,特別国税徴収官,特別国税調査官,統括国税徴収官,統括国
税調査官又は酒類指導官の所掌に属する事務のうち主要なものを処理す
る者とされている(平成13年1月6日付け国税庁訓令第1号441条
2項(乙18・12枚目。そして,調査官Dが配置されている法人))
課税第一部門の統括国税調査官が所掌する事務は,法人課税第一部門か
ら法人課税第四部門までの総括及び調整に関する事務並びに法人税の賦
課及び減免に関する事務をはじめ,消費税に係る諸申請及び届出に関す
る事務,税務相談に関する事務等であるところ(平成13年1月12日
付け広島国税局訓令第9号別表4(乙19・11枚目,これらの事))
務は,法人課税第一部門において,統括国税調査官及びその下に置かれ
る職員が処理するものとされている(前記国税庁訓令第1号430条6
項(乙18・11枚目。))
平成13年6月当時,これらの各事務のうち,消費税に係る諸申請及
び届出に関する事務,税務相談に関する事務は,それぞれ法人課税第一
部門の当該事務を担当する職員が主に処理していたところ,調査官Dは
消費税に係る諸申請及び届出に関する事務を担当しており,また,その
事務に係る税務相談も担当していたことから,E税理士に対して消費税
課税事業者届出書の提出が不要であるとの回答をするに至ったものであ
る。
このように,調査官Dは,法人課税第一部門を指揮監督する立場の者
でもなく,反対に,法人課税第一部門統括国税調査官の指揮監督の下,
法人課税第一部門の統括国税調査官の所掌する事務を処理する一担当者
,,にすぎないのであって税務署長その他の責任ある立場の者とはいえず
また,調査官Dの回答方法は口頭によるものであることからすると,そ
の回答は,税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示
であるとは,到底いうことができない。
(イ)調査官Dの回答は税務相談に対する回答であること
調査官Dは,消費税に係る諸申請及び届出に関する事務及び当該事務
に係る税務相談の担当者としての立場で,E税理士からの税務相談に対
して回答したものであるところ,税務当局が行う税務相談は,専ら行政
サービスの一環として納税者のため税法の解釈,運用又は申告手続等に
ついてその相談に応ずるもので,具体的な課税処分とはかかわりがない
し,もちろん税務当局の公式見解でもない(東京高裁昭和63年11月
30日判決・税務訴訟資料166号627頁(乙20,東京高裁平成)
3年6月6日判決・訟務月報38巻5号878頁(乙21,名古屋地)
裁昭和46年8月28日判決・訟務月報18巻4号576頁(乙22)
等参照。)
(ウ)また,調査官Dの指導は,税務職員が税理士等から提供された情報
をもとに当該職員が有する一般的な知識をもって即答したものであっ
て,これに対する信頼は,税務官庁の公的見解に対する信頼に比して,
信頼の程度に格段の差があるというべきであり,そのようなものに対す
る信頼を基礎として,租税法律主義の原則の下における納税者間の平等
や公平を損なうことは到底容認できない。
ウ調査官Dの回答は原告が平成13年3月まで休業していたことを前提と
するものにすぎないこと
調査官Dは,平成13年5月下旬ないし6月ころ,E税理士に対し,本
件収益事業開始届出書及び本件消費税課税事業者届出書の記載内容につい
て確認したところ,E税理士から,原告は設立以降,同年3月まで休業し
ていたと聞いている旨の回答を受けたことから,原告が平成13年3月ま
で休業していたというのであれば消費税課税事業者届出書の提出は不要で
あると回答し,併せて本件消費税課税事業者届出書の取下げの書類の提出
を指導したのであって,そもそも事実と異なるE税理士の回答に基づくも
のであるから,信義則の法理の適用の前提を欠く。
エこのように,調査官Dの回答は,そもそも,信頼の対象となる公
的見解であるということはできないものであるし,仮に調査官Dの回答が
信頼の対象となる公的見解に当たるとしても,調査官Dの回答は,原告が
平成13年3月まで休業していたことを前提とするものにすぎず,原告が
いかなる場合においても本件課税期間に係る消費税の納税義務を負わない
と回答したものではないこと,原告は,E税理士が調査官Dに行った説明
とは異なり,設立以降平成13年3月まで休業していたという事実は認め
られず,本件基準期間に本件各施設において行われた事業の主体であった
と認められることからすると,原告が調査官Dの回答を信頼したのである
としても,その信頼については原告の責めに帰すべき事由があるというべ
きであるから,原告の信義則違反に係る主張は,いずれにしても,失当で
あるといわなければならない。
第3当裁判所の判断
1争点()(利用料金等の帰属者が原告かB(ε町)か)について1。
()帰属の判定基準1
ア消費税法13条は「法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単な,
る名義人であって,その資産の譲渡等に係る対価を享受せず,その者以外
の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には,当該資産の譲渡
等は,当該対価を享受する者が行ったものとして,この法律の規定を適用
する(なお,資産の譲渡等とは,事業として対価を得て行われる役務。」
の提供を含む用語である。同法2条1項8号)と定めているところ,これ
は,課税物件(資産の譲渡等)の法律上(私法上)の帰属について,その
形式と実質とが相違している場合には,実質に即して帰属を判定すべきで
あるとするものと解される。すなわち,この規定は,単なる名義
人と法律上の真の資産の譲渡等を行った者とがいるとみられる場合には,
真の(私法上の)法律関係を明確にし,真の(私法上の)法律関係に従っ
。,て課税すべきことを要求する趣旨であると解するのが相当であるそして
,(),上記の場合において真実の私法上の法律関係を明確にするに当たり
その他の事情に加えて経済的効果や経済的目的をも総合的に考慮するの
は(私法上の)法律関係の解釈において当然なすべきことであって,こ,
のことは,真実に存在する法律関係から離れてその経済的効果なり目的な
りに即して法律要件の存否を判断することにはならない。
イこの点,消費税法基本通達4−1−3は「資産の譲渡等が委託販売の,
方法その他業務代行契約に基づいて行われるのであるかどうかの判定は,
当該委託者等と受託者等との間の契約の内容,価格の決定経緯,当該資産
の譲渡等に係る代金の最終的な帰属者がだれであるか等を総合判断して行
う」と定めているところ,これは,単なる名義人と法律上の真の資産の。
譲渡等を行った者とがいるとみられる場合には,仮に形式的には委託とい
う法形式を用いているときであっても,同通達記載の事情等を総合的に考
慮することにより真の(私法上の)法律関係を明らかにし,真の(私法上
の)法律関係に従って資産の譲渡等を行った者を判定すべきことを規定し
たものと解されるのであるから,前項の解釈を裏付けるものといえる。
ウしたがって,利用料金等が法律上原告とB(ε町)のいずれに帰属する
かが争われている本件においては,両者間の契約の内容等を総合的に判断
して真の法律上の帰属者を判定する必要がある。なお,前記通達記載の事
情は,原告及びB(ε町)間で委託の法形式をとっている本件において,
真の法律上の帰属者を判定する際に考慮すべき事情となると考えられる。
()利用料金等の帰属者2
ア(ア)A温泉館並びにC施設等管理委託契約書(乙3)によれば,本件委
託契約は,次のとおりの内容である。
a原告は,B(ε町)に本件各施設の管理運営を委託する(1条。)
bB(ε町)は,原告の指示に従って誠実に管理運営を実施する(2
条。)
c(委託料及び賃料等)という標題の5条においては,賃料は毎月6
0万円とするとして賃料だけが定められている。
dB(ε町)の施設管理運営に関連して生ずる電気料,ガス料,燃料
費,水道料,清掃費等の費用(付加使用料)は,一切B(ε町)の負
担とし,原告が立て替え,支払ったものは,原告の請求により直ちに
支払うものとされ,かつ,Cにかかわる浄化槽の維持管理料及び公衆
便所にかかる電気料は,原告が負担する(6条。)
e本件各施設等の造作,設備の破損又は故障の修理は,原則として,
原告が,その費用を負担する(8条。)
(イ)a「A温泉館等申合せ事項(乙4)によれば,設備」
器具の管理費については,空調設備,電気設備,入浴設備のうちの貯
,,,水タンク・ボイラー等消防設備備品類のうちのテーブル・椅子等
厨房設備を倉橋町において負担済みで,什器・調理備品器具,入浴備
品のうちの桶・風呂椅子等は業者(B(ε町)を指す。下記b,cに
つき同じ)により負担済みであり,電球,蛍光灯,電池等の消耗経。
費及び利用により生じた破損修繕料(水道蛇口等の簡易な水漏れ修繕
料,電気料金(温泉ポンプ電気代も含む・水道料金(専用メータ)。)
。),(。)ーで積算するガス料金業者がプロパンガス会社と手続を行う
は業者が負担することとされ,さらに,建物,設備本体に係る修繕料
は倉橋町と業者が協議の上負担割合を算出することとされ,業者が負
担することは前提とされている一方,原告の負担については何ら触れ
られていない。また,入浴施設・軽食・厨房・休憩室等の消毒(ただ
し,実施する場合は管理公社(原告)と事前打合せをする,委託。)
部分の清掃(ただし,共用部分(エントランス,駐車場)については
双方が負担する,委託業務中,塵芥処理業務,警備業務の一部,。)
入浴施設並びに軽食施設の電話線の設置,保健所への飲食店営業許可
等申請については業者が行うこととされている。そして,原告管理部
分の暖房用重油代は一部原告が負担することとされるとともにB(ε
町)は,営業時間及び休日については原告と,入浴価格については倉
橋町と,それぞれ協議して決めることとされている。
b「C施設等申合せ事項(乙4)によれば,設備器具の管理費につ」
いては,空調設備,電気設備,備品類(テーブル・椅子等,厨房設)
備については倉橋町で設置済みであるが,什器調理備品器具,電球,
蛍光灯,電池等の消耗経費及び利用により生じた破損修繕料(水道蛇
口等の簡易な水漏れ修繕料,電気料金・水道料金(専用メーターに)
よる。ただし,公衆便所部分については倉橋町が負担する,ガス。)
料金(業者がプロパンガス会社と手続を行う,電話料は業者が負。)
担することとされ,さらに,設備器具の管理費のうち,建物,設備本
体に係る修繕料は倉橋町と業者が協議の上負担割合を算出することと
され,業者が負担することは前提とされている一方,原告の負担につ
いては何ら触れられていない。また,Cの軽食・厨房・休憩室等の消
(,()。),毒ただし実施する場合は管理公社原告と事前打合せをする
委託部分及び共用部分(公衆便所,駐車場)の清掃(ただし,公衆便
所部分の清掃費の一部を倉橋町が負担する,警備業務の経費(警。)
備会社と業者が直接契約をすることとされている,保健所への飲。)
食店営業許可等申請は,業者が行うものとされている。なお,営業時
間及び休日並びに軽食コーナーのメニューは原告と協議して決めるこ
ととされている。
c「A温泉館及びCの運営費等の申合せ事項(乙4)によれば,施」
設の利用料金及び売上金については,毎月14日と24日までに,原
告の指定する口座に振り込むものとし,原告は,振り込まれた金額か
ら,賃料,電気代,水道代等のランニングコスト並びに機械警備,定
,()期清掃等のメンテナンス代機器リース代を差し引いた額をBε町
の指定する口座に委託料として毎月17日と27日までに振り込むも
のとするとされている。
(ウ)利用料金の決定についての経緯について
a入浴料については,A設置条例により,入浴施設料金については大
人500円から1,000円まで,小人(3歳以上12歳まで)40
0円まで,小人(3歳以下)200円まで,と定められており(同条
例8条3項,別表第2「A温泉館等申合せ事項(乙4)9項にお),」
いて,入浴価格は「倉橋町と協議のうえ決める」とされている。。
bその他の利用料をみると,軽食コーナーのメニューについては申合
せがされているもののその料金については特段定められておらずA,(
温泉館等申合せ事項8項,C施設等申合せ事項8項,B(ε町)に)
おいて決めることができるものと考えられる。
なお,Cの休憩室は無料であることが前提であり(C施設等申合せ
事項9項(),原告もB(ε町)も利用料の決定はできないものと1)
考えられる。
(エ)利用料金等の最終的な帰属者について
a原告及びB(ε町)間の入出金状況等について
(a)証拠(甲11,12の1・2)によれば,倉橋町(K準備室)
及び原告とB(ε町)間の入出金状況は,別紙のとおりである(別
紙中,網掛部分が本件基準期間における収支にまつわるものを指
す。。)
これによると,原告が,本件基準期間に関して,B(ε町)から
振り込まれた金額は,1億5946万0246円である一方,原告
がB(ε町)に振り込んだ金額は,1億2254万1960円であ
る。
(b)また,同期間の電気代,水道代等の光熱水費と入湯税による支
出合計金額は,3504万4635円である(乙11。)
その他リース代や施設利用料等も,原告がいったん振り込まれた
利用料金等から支出しなければならないものである(甲11,乙1
1。)
bかかる事実関係によれば,利用客からB(ε町)が受け取った入浴
料などの利用料金等はいったんは原告に振り込まれるが,賃料や電気
代,水道代等のいわゆるランニングコストを除いた金額がB(ε町)
に再度振り込まれるのであるから,原告は一定の賃料(月60万円)
と原告が負担すべき電気代等(これらにランニングコストを加えたも
のを以下「ランニングコスト等」という)を得ることになるにすぎ。
ない。そして,それらも結局は別途直ちに支出されることになるので
あるから(甲11,乙11参照,B(ε町)から振り込まれた利用)
料金等による利益は原告の手元には残らないようになっているのであ
って,反面利用料金等の利益の大半をB(ε町)が最終的に受け取る
ことになることは明らかである。したがって,本件各施設における事
業により挙げられた収入については,経済的にはB(ε町)に帰属す
るというほかはない。
(オ)J及びHの供述
証人H及びJは,原告設立前の本件各施設における事業の状況につい
,,,て原告が設立される以前は温泉館やレストランの売上げについては
B(ε町)の収入となり,支出もB(ε町)が支出するという形でやっ
ており(H証言10項,倉橋町には,レストランとか入浴施設のラン)
ニングコスト,電気代,水道代,そういうものを按分をして倉橋町(準
),()備室に入れてもらい準備室のほうで支出をしていたH証言12項
とか,原告の設立が予定されていることから,原告ができた後は原告か
らの再委託になるということでB(ε町)に委託した(J証言12項)
と供述しており,また,原告設立後の本件各施設における事業の状況に
ついては,当初は従前と同様B(ε町)のほうで入出金をしていた(H
証言16,17,22項)が,公共施設ということで,町民からも,売
上げ等,営業がうまくいっているのかどうかの関心度も高く,財団法人
を作るとき,県の指導もあって,いったん売上げを財団の口座のほうに
入れてもらうようになった(H証言24ないし27項)などと,原告設
立以前にB(ε町)からランニングコストのみを振り込んでもらってい
たのを,売上げの全額を振り込んでもらうような契約の内容とし,実際
にそういう金銭の流れで経理上処理するようになった経緯等について述
べているが,弁論の全趣旨に照らすと,上記供述はほぼ事実に合致する
ものと認められる。
,,イ前記アに判示したところによれば本件委託契約ないし申合せの文言上
一見するといかにも,利用料金等本件各施設における事業の収入は振り込
みにより原告に帰属することになっていると見えなくもないが,他方で,
原告に振り込まれた利用料金等は,賃料,電気代,水道代等のランニング
コスト並びに機械警備,定期清掃等のメンテナンス代,機器リース代を差
し引いた上,その残額を委託料としてB(ε町)の口座に振り込むことも
定められており,実際にB(ε町)から原告に売上げが振り込まれた日の
当日ないし数日後(本件基準期間においては,平成12年2月8日の合計
37万7286円を除き,最も遅い場合でも7日後には振り込まれてい
。),()るには振り込まれた金額と同額ないしその大半が原告からBε町
に振り込まれており,本件委託契約ないし申合せにほぼ従った処理がなさ
れている。その結果,本件各施設における事業により得られた利用料金等
,()。は経済的には原告ではなくBε町に帰属しているものと認められる
また,本件委託契約ないし申合せ上,原告は,わずかにCに係わる浄化
槽の維持管理料及び公衆便所にかかる電気料(ただし,これについては,
申合せによると,原告ではなく倉橋町が負担するものとされている,。)
本件各施設等の造作,設備の破損又は故障の修理費用,Aにおける共用部
分(エントランス,駐車場)の清掃費用の一部,ふれあいセンター全体の
警備業務にかかる費用,原告管理部分の暖房用重油代の一部を負担するの
みであり,これらの費用は,本件各施設における事業を日常的に遂行する
ための必要かつ不可欠のものとまでは言い難いものである。それに対し,
B(ε町)が負担することとされている費用は,専用メーターで積算され
た温泉ポンプ電気代を含む電気料金や水道料金,ガス料金など本件各施設
における事業を遂行するために必要不可欠なものであり,さらに,プロパ
,()ンガス会社との契約や電話線の設置飲食店営業許可等申請等もBε町
が行うよう定められており,実際にかかる定めに従って費用の負担等がな
されていたものと認められる。また,本件委託契約ないし申合せには,原
告が本件事業へ関与する場合として,B(ε町)が入浴施設等の消毒を実
施する際の事前の打合せ,営業時間及び休日並びに軽食コーナーのメニュ
ーについての協議などが定められている程度であり,実際にも「入浴料,
金をどうするかなどの一定期間の計画や設備が傷んだ場合の費用負担をど
うするかなどの突発的な事項の処理について,J常務理事が判断を求めら
れることがあっても,日々の日常業務については集客数の増減などの報告
がある程度で判断を求められることはなかった(J証言20,21,1」
13,114項「B(ε町)に管理運営委託をしていたときは,原告),
は,入浴施設とレストランについては何もしておらず,図書館と公民館,
」(),そういう複合施設の電気代の支払などの管理はしていたH証言96項
「経営実態についてはおおむね分かっていたが,支出については一切分か
らなかった(H証言92,127,129ないし134項)などという」
J及びHの供述にみられるように,原告が,本件事業の具体的な運営につ
いて関与していたことは認められない。
そして,原告の本件委託契約締結の目的をみても,原告設立後最初に開
催された平成11年第1回評議会において,L評議員からの「利益は話し
,。」,,あいの上で町に還元するのですかとの質問に対し原告の事務局は
「利益については,月60万円で委託していますから,利益が上がればそ
れは業者の売上収入になります」旨回答していること(乙13)など,。
利用料金等のうち60万円だけが賃料として原告に帰属し,その余の部分
についてはB(ε町)に帰属させる意図であったことは明らかである。こ
のことは,B(ε町)から原告に入ったお金は預り金というつもりで受け
ているので,収入伝票は起こしていないが,賃料,電気代,水道代といっ
たものは,収入伝票を起こしている旨のHの供述(H証言157項)や,
B(ε町)が撤退するに当たって,原告としては,B(ε町)に営業権が
あったというふうに考え,短期借入までして3400万円で営業譲渡を受
けたこと(甲4,5,H証言67ないし75項,J証言41,42項,)
,(),平成12年度の第3回理事会においてBε町からの事業引継に関し
E税理士が,B(ε町)は普通の場合は「のれん代」を請求するが,税金
対策のため請求しない旨説明していること(甲5・4枚目)からもうかが
われること,さらには,平成11年6月1日に開催された平成11年度第
1回理事会ないし第1回評議会に出席した理事及び評議員が原告自体の運
営事業はAの建物だけの管理であると説明を受け,実質は,B(ε町)が
入浴施設及び食事部門等の収益事業については独立採算で自主運営をして
いるとの説明を受けた旨の「Mの運営についての意見書(甲14,こ」)
れに沿う「理事会や評議員会で金の流れを変えることについての質問に対
し,これは単なるトンネルです,金はすべてBへ返します,財団が,利益
を得ることも赤字を被ることもありませんと説明した旨のJの供述J,」(
証言68項)によっても裏付けられる。
ウ前記ア,イに判示したところに照らすと,確かに利用料金等のうち入浴
,,,料金の決定などについては倉橋町の条例の制限を受けるもののこれは
本件各施設が公の施設であることから受けるやむを得ないものと考えられ
る(地方自治法244条の2第5項参照)ことを考慮すれば,本件各施設
における事業は,B(ε町)が独自の経営判断と計算において行っていた
ものと認めるのが相当である。
したがって,本件委託契約を契約の内容や本件事業運営の実態,経済的
な財産の帰属等を総合して判断すると,私法上真に資産の譲渡等を行った
のはB(ε町)であることは明らかであるから,利用料金等はB(ε町)
に帰属するものといわなければならない。
エこれに対し,被告は,種々の事実を摘示するなどして本件各施設におけ
る事業による利用料金等は原告に帰属するものであると主張する。
(ア)しかしながら,ランニングコスト等のみならず利用料金等の全部を
いったん原告が受領するよう本件委託契約ないし申合せで定めたのであ
るから,B(ε町)の資金繰りにより(H証言25項,それらに従っ)
た入金がされてなかった分(別紙中,平成11年5月26日ないし同年
8月10日の入金額参照)については,B(ε町)から原告への利用料
金等の振り込みが真に必要な実質的に意味のあるものであれば,時期が
遅れようとも本件委託契約ないし申合せに従った入金の手続をとるなど
何らかの措置を講じる必要があるものと考えられるが,そのような処理
はされていないことや,原告において前記のような利用料金等を振り込
みランニングコスト等を控除して逆送金するといった複雑な金銭の流れ
の操作を行うことによる経済的な合理性は全く認められないことなどか
らすれば,経理上原告の収益として本件各施設における事業の売上げが
計上されるようになった経緯について,地方自治法244条の2に違反
するとの疑いを払拭させようとして,広島県の指導等があったために形
式的にかかる金銭の流れの操作を行う方式を採用したなどとHが述べて
いる内容は自然で十分了解可能である。そうすると,原告が本件各施設
における事業の収入を原告の収支計算書に自らの収入として計上してい
ること(乙11・7枚目)やH総務課長の平成11年度第1回評議員会
における発言(乙13の3枚目)等を直ちに本件各施設における事業の
主体が原告であったとする根拠とすることはできない。
(イ)また,レストランが時間短縮して人件費の削減を図っている旨のJ
常務理事の発言(乙12・3枚目)については,県からの指導を受け,
,()県に報告する立場にある原告の常務理事という立場にあればBε町
から報告を受けていれば知っていてしかるべき事柄であるといえる。そ
して,乙25,26にみられるように本件事業に関する電気代等の支出
にN理事長やJ常務理事の決裁が必要であったことについては,確かに
同人らに決裁権限があったことは認められるが,それらの支出は,本件
委託契約ないし申合せの内容に盛り込まれている支出である上,使用し
た電気等の量に基づき客観的に定まることは明らかなことに照らすと,
Jが,B(ε町)に金を払い戻すということは,既に理事会及び評議員
会の了解事項であるから,拒否するということはあり得ない(J証言3
3,37,38項)と述べるとおり,同人らに実質的な決裁権限があっ
たとみることはできないだけでなく,原告が設立されて以来平成13年
に原告の事務局長が着任し同年3月29日にB(ε町)から営業譲渡を
受けるまでの間は,原告の運営を実際に担当するのは倉橋町担当者であ
って,原告には人的にも物的にも稼働実体がなかった(H証言9項。)
したがって,いずれも原告が本件各施設における事業を独自の経営判断
と計算において行っていたことの根拠とはならない。
(ウ)そして,被告が主張するとおり,仮に万一本件委託契約が地方自治
法に反し,不適法なものであると解する余地があるとしても,公序良俗
に反するなどの特段の事情がない限り,それにより本件委託契約が直ち
に私法上も無効になるとまではいえないのであるから,利用料金等の私
法上の帰属がB(ε町)にあることを揺るがすものではないし,また,
前記()に判示したように,単なる名義人と法律上の真の資産の譲渡等1
を行った者とがいるとみられる場合に,資産の譲渡等の帰属主体を判断
するに当たっては,公法上の法律関係ではなく,その真の私法上の法律
関係を明確にして,真の私法上の法律関係に従って課税すべきことを消
費税法13条は要求していると解されるのであるから,この点に関する
被告の主張は採用できない。なお,弁論の全趣旨によれば,利用料金等
から必要経費などのランニングコスト等を控除した残額はB(ε町)の
売上げとして計上され,B(ε町)により同残額につき法人税の申告と
税金納付がなされていたことがうかがわれるところであって,このこと
も前記判断の正当性を裏付けるものと考えられる。
オしたがって,本件において資産の譲渡等を行ったのはB(ε町)であっ
たのであるから,本件更正の請求は理由があるものと認められる。そうす
ると,被告が,原告からの本件更正の請求に対して,更正すべき理由がな
い旨の通知処分をしたのは違法であるから,その余の点を判断するまでも
なく,本件通知処分は取消しを免れない。
2結論
以上によれば,原告の請求は理由があるから,主文のとおり判決する。
広島地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官坂本倫城
裁判官榎本光宏
裁判官赤松亨太

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