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平成20年2月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第24193号補償金請求事件
口頭弁論終結日平成19年12月17日
判決
仙台市〈以下省略〉
原告甲
同訴訟代理人弁護士矢島邦茂
仙台市〈以下省略〉
被告NECトーキン株式会社
同訴訟代理人弁護士新保克芳
同高崎仁
同大久保暁彦
同井上彰
主文
1被告は,原告に対し,金134万9036円及びこれに対する平
成18年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを1000分し,その1を被告の負担とし,そ
の余を原告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金10億円及び内金1億円に対する平成18年11月
22日から,内金4億円に対する平成19年8月2日から,内金5億円に対す
る同年10月23日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
第2事案の概要
本件は,被告の従業員であった原告が,被告に対し,被告在職中に他の従業
員と共同でした職務発明に係る特許を受ける権利について,その共有持分を被
告に承継させたとして,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条
3項に基づき,上記の承継の相当の対価として,51億1200万円の一部で
ある10億円及び内金1億円に対する訴状送達の日の翌日である平成18年1
1月22日から,内金4億円に対する平成19年7月31日付け「訴変更の申
立書」の送達の日の翌日である同年8月2日から,内金5億円に対する同年1
0月18日付け「訴変更の申立書」の送達の日の翌日である同月23日から,
それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
ている事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠を摘示する。)
()当事者
ア原告は,昭和43年4月に被告に入社し,平成16年12月に被告を退
社した。
イ被告は,磁気材料の製造販売を目的として昭和13年に設立された株式
会社であり,その後,電子部品・電子機器分野へと業種を拡大した。被告
の設立当初の商号は「東北金属工業株式会社」であったが,その後,昭和
63年に商号を「株式会社トーキン」に変更し,さらに,平成14年には,
日本電気株式会社(以下「NEC」という。)の電子部品事業と統合して
現在の商号に変更した。
()原告のした職務発明(甲4,13,乙7ないし9,弁論の全趣旨)
ア被告は,昭和54年1月ころ,日本電信電話公社(以下「電電公社」と
いう。)と共同で,テレフォンカード式公衆電話機用のカードリーダの開
発と製品化のためのプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)
を発足させた。原告は,本件プロジェクトの一員として,開発に従事し,
当時,被告の従業員であった乙並びに電電公社の従業員であった丙及び丁
と共に,職務発明として,以下の特許(以下「本件特許」といい,その明
細書を「本件明細書」という。)に係る発明(以下「本件発明」とい
う。)をし,その特許を受ける権利は被告及び電電公社に承継された。
登録番号第1195610号
発明の名称磁気記録再生装置
出願年月日昭和54年8月24日(特願昭54−107980号)
出願公開日昭和56年4月6日(特開昭56−34108号)
登録年月日昭和59年3月12日
特許請求の範囲
「基体上に形成された磁気記録用磁性膜上に保磁力の小さな強磁性体
による保護膜を形成した磁気記録媒体を使用し,前記磁性膜に対して
記録再生を行うヘッドに,該ヘッドを通して前記保護膜を磁気飽和さ
せる手段を設けたことを特徴とする磁気記録再生装置」
イ被告及び電電公社は,昭和54年8月24日,本件発明について特許出
願(以下「本件特許出願」という。)をしたが,昭和57年12月7日に,
特許庁から,電電公社が特許出願した発明(甲52の1及び2,乙4,1
7。以下「電電公社発明」という。)を引用例として,特許法29条の2
を理由とする拒絶理由通知(乙7。以下「本件拒絶理由通知」という。)
が発せられたため,昭和58年1月17日付けで意見書(乙8。以下「本
件意見書」という。)及び手続補正書(乙9。以下「本件補正書」とい
う。)を提出し,同年9月9日,特許査定を受けた。
()本件発明に係る特許出願等についての被告及び電電公社の合意
被告は,電電公社との間で,昭和54年12月18日,本件発明に係る特
許出願及びその権利の保全等について,以下のア及びイ記載の内容を含む合
意をし(同合意を以下「本件覚書合意」という。),その合意内容を示すも
のとして,「共同出願に関する覚書」と題する書面(乙1。以下「本件覚
書」という。)を作成した。
ア本件特許権は,被告及び電電公社の共有とし,その持分は均等とする
(1条)。
イ●(省略)●(7条)。
()本件発明に係る補償金の支払
原告は,被告から,本件発明についての特許を受ける権利の共有持分を譲
渡した対価として,昭和55年に出願補償金2000円,昭和60年に登録
補償金6000円の合計8000円の支払を受けた。
()電電公社発明について(甲52の1及び2,乙4,17)
ア電電公社は,昭和54年1月9日,丙及び丁による職務発明である電電
公社発明について,特許出願(以下「電電公社特許出願」)をし,その特
許請求の範囲は,以下のとおりである。
「磁気記録再生機能を有する磁性膜上に,保磁力の小さな磁性媒体が積
層された磁気カードを使用し,前記磁性膜を記録再生するヘッドと前記
磁性媒体を磁気飽和させるヘッドとを有することを特徴とする磁気カー
ド記録再生装置」
イ電電公社特許出願は,昭和55年7月16日に出願公開され,その後,
昭和58年9月12日に特許請求の範囲が以下のとおりに補正され,その
内容で,昭和63年8月9日に出願公告され,特許査定がされた。
「磁気記録再生機能を有する磁性膜上に,保磁力がほぼ零の磁性媒体が
積層された磁気カードを使用し,前記磁性膜を記録再生するヘッドと記
録再生の少なくとも再生の間前記磁性媒体を磁気飽和させる手段とを有
することを特徴とする磁気カード記録再生装置」
2争点
本件の争点は,原告が被告に対し,本件発明についての特許を受ける権利
(共有持分)を承継させたことによる相当の対価の額であり,個別の争点は次
のとおりである。
()本件発明と電電公社発明との関係(本件発明は電電公社発明の改良発明
か)
()本件発明により被告が「受けるべき利益」の額
()被告の貢献度
()本件発明の発明者間における原告の貢献割合
()相当の対価額(結論)
3争点に対する当事者の主張
()本件発明と電電公社発明との関係(争点())について
(原告)
ア電電公社発明においては,別紙図面2のとおり,磁性媒体飽和用の磁気
ヘッド8を用いて磁性膜2の記録部分に対応したパーマロイなどの保磁力
の小さな磁性媒体3の全体を磁気飽和させて,磁性媒体3を空気の透磁率
(μ=1)に近い透磁率の状態,すなわち,磁気ヘッド4と磁性膜2の間
に間隔(スペーシング)を生じさせた状態で磁気記録,再生を行うもので
あるが,この方法では,スペーシング損失が大きく,特に再生感度が著し
く低下するという問題がある。これに対して,本件発明の技術思想は,電
電公社発明の技術思想とは全く異なるもので,磁性媒体飽和用の磁気ヘッ
ドを使用することなく,記録再生用の磁気ヘッドをそのまま用いて,同磁
気ヘッドの磁気ギャップ部近傍の磁性媒体だけを磁気飽和させ,磁性膜の
記録部分に対応する残りの磁性媒体を磁気ヨーク(鉄心)として利用する
ことで,磁気ヘッドと磁性膜との間隔(スペーシングロス)のない状態で
記録及び再生を行うことを実現したものであり,これにより,テレフォン
カード式公衆電話機用のカードリーダの実用化をなし得たものである。例
えば,本件発明では,磁性媒体にパーマロイ材やセンダストなどの高透磁
率磁性材(μ=数百∼数万)を使用することにより,電電公社発明の数百
ないし数万倍の効率となるのである。
また,本件発明は,電電公社発明を利用しなければ実施できない発明で
もない。
このように,本件発明の技術思想は,磁性膜の上に磁性媒体を形成した
磁気記録媒体を使用する点で電電公社発明と同じであるが,本件発明の構
成,その記録及び再生の原理は,電電公社発明とは全く異なるもので,そ
の結果として生ずる効果も比較にならないほど大きなものであり,本件発
明が電電公社発明の改良発明でないことは明白である。
イまた,電電公社発明の記録原理では,磁性媒体が磁気飽和状態にあると
磁性材料として作用しないため,記録用ヘッドコアと磁性膜間に空隙がで
きた状態になり,記録用コイルに電流を印加することで発生した磁束の大
部分は,空隙と同様の状態となっている磁性媒体を通過することができず,
磁性膜を磁化することができない。したがって,電電公社発明の記録原理
では,実際には,記録ができないのである。同様に,電電公社発明の再生
原理では,再生もできない。
この点について,磁気記録の分野では現在日本における第一人者である
戊名誉教授(以下「戊教授」という。)は,電電公社発明では,記録再生
は極めて難しく,特に,再生はほとんど不可能と思われる旨述べており
(甲57),上記の事実を裏付けている。また,同教授は,本件発明が,
電電公社発明とは似て非なる発想による別個の発明であり,新たな発想が
なければ創作できない旨も述べている。
これに対して,本件発明では,磁気飽和用コイルに微弱な電流を流し,
磁気ギャップ近傍の磁束路遮断部だけを磁気飽和させることにより,磁気
記録状態の閉じた磁束路の一部を磁気的に遮断して,磁束路遮断部以外の
磁性媒体を磁気ヨークとして利用しており,これにより記録された信号の
再生が可能となる。
このように,電電公社発明の記録再生原理では,磁気記録再生ができな
いが,本件発明は,これを可能にしたのであり,基本発明であることは明
らかである。
ウ被告の主張に対する反論
被告は,本件発明と電電公社発明とを比較する際に,電電公社発明の内
容を,電電公社特許出願の補正後の特許請求の範囲により把握すべきであ
ると考えているが,電電公社特許出願の補正前の特許請求の範囲により把
握すべきである。
そして,本件明細書の特許請求の範囲の記載と電電公社特許出願の補正
後の特許請求の範囲の記載とを比較してみても,電電公社発明では,「記
録再生の少なくとも再生の間前記磁性媒体を磁気飽和させる手段とを」と
あるのに対し,本件発明では,「該ヘッドを通して前記保護膜を磁気飽和
させる手段を」となっており,極めて重要な点で相違する。
なお,電電公社特許出願の特許請求の範囲は,本件特許出願が公告され
た昭和58年6月13日から3か月後の同年9月12日に補正され,しか
も,本件特許出願の公告から5年以上遅れた昭和63年8月9日に公告と
なったものである。
(被告)
アテレフォンカード式公衆電話機を実現するに当たって必要不可欠な磁気
カードの偽造防止技術は,電電公社発明によってその技術思想が開示され
ており,本件発明は,その実現方法に若干の改良を施したものにすぎない。
すなわち,磁気カードの偽造を防止するためには記録再生を行う磁性膜
の上に保護膜を付す必要があるところ,この磁性膜に情報の記録再生を行
うためには保護膜を通過して磁性膜にデータの書込み等を行うことが可能
でなければならない。この技術課題を達成するための手法として,電電公
社発明では「磁気飽和」という方法を開示している。
ただ,電電公社発明の出願当初の明細書における実施例では,磁気飽和
用のヘッドコアと,磁気飽和状態となった保護膜の下層にある磁性膜の記
録再生を行う記録再生用ヘッドコアの2つの磁気ヘッドコアが使用されて
いたが,本件発明は,当該実施例における2つの磁気ヘッドコアを1つの
磁気ヘッドコアにまとめ,電電公社発明の構成を簡素化したものである。
なお,電電公社発明の技術的範囲は,当該実施例に限定されるものではな
く,磁気飽和手段がその他の態様である場合にも当然に及ぶものである。
このように,本件発明は,電電公社発明の「磁気飽和」原理に基づくも
のであり,ただ,使用するヘッドコアを改良したものにすぎず,まさに電
電公社発明の改良発明に他ならない。
イまた,以下の観点からも,本件発明は,電電公社発明の改良発明という
べきである。
電電公社発明に係る特許公報の特許請求の範囲の記載は,「磁気記録再
生機能を有する磁性膜上に,保磁力がほぼ零の磁性媒体が積層された磁気
カードを使用し,前記磁性膜を記録再生するヘッドと記録再生の少なくと
も再生の間前記磁性媒体を磁気飽和させる手段とを有することを特徴とす
る磁気カード記録再生装置」というものであり,これと本件明細書の特許
請求の範囲の記載を比較すると,両発明は,電電公社発明では,磁気飽和
の手段について限定がないのに対し,本件発明では,これを記録再生用ヘ
ッドを通じて行う手段に限定している点のみが相違する。
そして,電電公社発明の公開公報の特許請求の範囲は,「磁気記録再生
機能を有する磁性膜上に,保磁力の小さな磁性媒体が積層された磁気カー
ドを使用し,前記磁性膜を記録再生するヘッドと前記磁性媒体を磁気飽和
させるヘッドとを有することを特徴とする磁気カード記録再生装置」との
記載であったが,同記載は,出願公告決定(昭和63年4月19日)前の
昭和58年9月12日に,上記の特許公報の特許請求の範囲の記載に補正
された。ところで,昭和50年特許法(電電公社特許出願時の適用法)で
は,公告決定前の補正において要旨変更は許されない(特許法41条)か
ら,上記の「ヘッド」から「手段」に補正することが特許庁によって許さ
れたのは,当該補正をしても特許請求の範囲に記載した技術的事項が出願
当初の明細書に記載した事項の範囲内であること,換言すれば,「ヘッ
ド」は磁気飽和手段の一態様にすぎず,その上位概念である「手段」に補
正しても,当初明細書の記載事項の範囲を超えないことが当業者に自明で
あったからに他ならない。
()本件発明により被告が「受けるべき利益」の額(争点())について
(原告)
ア本件発明の実施許諾による収入
(ア)a本件発明の実施品である公衆電話機用カードリーダの販売高
本件特許の出願公告をした昭和58年から本件特許の存続期間が満
了する平成11年までの15年間のテレフォンカード式公衆電話機の
設置台数の推移と公衆電話機用カードリーダ(磁気記録再生装置)の
国内販売台数の推移は,別紙「電話用カードリーダに関する一覧表」
の番号1「磁気カード式公衆電話機設置台数」欄及び同3「電話用カ
ードリーダ販売台数」欄に記載のとおりである(甲11の3,12の
1及び2。なお,上記別紙の磁気カード式公衆電話機設置台数につい
ての昭和59年までの数値及び電話用カードリーダ販売台数について
の平成7年までの数値については,その前後の数値から推測したもの
である。)。
また,電話用カードリーダの販売台数及び金額並びにその単価等は,
平成8年ないし平成14年については次のとおりである(甲12の1
及び2)が,カードリーダの単価は,平成8年以降,若干値下がり傾
向にあり,これを踏まえてデータのない昭和58年ないし平成7年の
平均単価を推定すれば,1台当たり16万円は下らないと考えられる。
H8年H9年H10年H11年H12年H13年H14年
79,00077,00074,70072,00069,00066,00060,000
販売台数
(単位:台)
11,50011,00010,4009,9009,5009,0008,100
販売金額
(単位:百万円)
単価14.5614.2913.9213.7513.7713.6413.50
(単位:万円)
98.197.498.8100.199.199.0
単価の
対前年比
(%)
したがって,カードリーダの販売高は,別紙「電話用カードリーダ
に関する一覧表」の番号5「電話用カードリーダ販売金額」欄記載の
とおり,合計2556億円である。
b本件発明の実施品である公衆電話機用カードリーダのロイヤリティ
本件発明の実施品である公衆電話機用カードリーダは,株式会社田
村電機製作所(以下「田村電機」という。)及び安立電機株式会社
(以下「安立電機」という。)の2社が独占して製造しており,被告
が,本件発明の実施について,上記両社との間でライセンス契約を締
結していることは明らかである。
そして,本件発明の実施料率は5パーセントを下らない。
cしたがって,被告の本件発明についてのロイヤリティ収入を推測す
れば,別紙「電話用カードリーダに関する一覧表」の番号6「電話用
カードリーダロイヤリティ」記載のとおり,合計127億8000万
円となる。
(イ)なお,被告が田村電機から,昭和62年から平成6年までの間に,
本件発明の実施料として8616万1035円を受領したことは認める。
イテレフォンカード及び磁気ヘッドの販売による利益
(ア)被告は,本件発明について,電電公社と共同で特許出願して,本件
覚書の7条の不利益(電電公社の業務に使用するために第三者に実施を
許諾する場合には無償とすること)を甘受することで,電電公社から,
テレフォンカードについては,昭和57年9月から3年間は被告の独占
生産,昭和60年8月以後は被告と東京磁気印刷株式会社(以下「東京
磁気印刷」という。)の2社による独占生産を,磁気ヘッドについては,
被告の独占生産という大きな利益を受けたのである。
このように,被告は,本件発明について電電公社と共同で特許出願す
ることで,電電公社からテレフォンカード事業及び磁気ヘッド事業を独
占的に得ることができたことは明白であり,このことは,本件覚書を締
結することによって被告が受ける不利益を補うものとして,テレフォン
カード事業及び磁気ヘッド事業を独占的に得たことを意味する。
すなわち,電電公社には,テレフォンカード事業及び磁気ヘッド事業
を被告に独占的に発注する特別な事情もないのであり,また,電電公社
は,それまで,テレフォンカード式公衆電話機の開発を東京磁気印刷,
立石電機株式会社(以下「立石電機」という。),田村電機,安立電機
等と共同で行っていたにもかかわらず,被告に上記事業を独占的に発注
したのは,被告が本件発明について電電公社と共同で特許出願すること
としたこと以外には考えられないのである。
この点,●(省略)●は,電電公社が本件発明に対して高い評価を与
えたことを示している。
したがって,田村電機からの実施料に加えて,テレフォンカード事業
及び磁気ヘッド事業を独占できたことによって得た莫大な利益も,「本
件発明により被告が受けるべき利益」算出の根拠とすべきである。
(イ)この点,被告は,被告が電電公社からテレフォンカード事業及び磁
気ヘッド事業を独占的に得ることができたのは,被告が電電ファミリー
企業の一員として電電公社と親密な関係を築いてきたことが決定的要因
である旨主張する。
しかし,被告が提出した証拠中の記載には,上記の主張事実を示唆す
るものは一切なく,上記の主張事実を認めることはできない。
電電公社との関係が大きい会社は,約300社にも上り,単に電電公
社と親密な関係にあるということから仕事を受注できるものではなく,
被告も,上記事業のほかに,電電公社から,大きな仕事を受注できてい
ない。
また,本件発明の開発は,被告の開発部の担当者が昭和53年12月
に,電電公社の横須賀通信研究所(以下「横須賀通研」という。)を訪
問し,事情聴取をした結果,電電公社においてテレフォンカード式公衆
電話機の開発をしていることが判明したことが契機となっているが,被
告がこの情報を入手する時点まで,被告は電電公社からテレフォンカー
ド式公衆電話機の開発に関して声すらかけられていなかったのである。
(被告)
ア本件発明の実施許諾による収入
(ア)公衆電話機用カードリーダによる実施料収入
a田村電機及び安立電機は本件発明を実施した公衆電話機用カードリ
ーダを製造し,これを電電公社に納入しているが,被告は,両社から
本件発明の実施について実施料を得ていない。その事情は,次のとお
りである。
すなわち,被告は,昭和54年12月18日,電電公社との間で,
本件覚書合意を締結しており,その7条は,「甲及び乙は,本件出願
にかかる特許,登録実用新案又は登録意匠を,自己の業務に使用する
ため,第三者に実施させる場合には,当該第三者にその実施を無償で
許諾するものとする。」と規定されているところ,田村電機及び安立
電機が製造する公衆電話機用カードリーダは,すべて電電公社に納品
されて使用されるものであるから,被告は,田村電機及び安立電機が
公衆電話機用カードリーダへ本件発明を使用しても一切ロイヤリティ
を請求できず,実際にもロイヤリティを得ていないのである。
bそして,田村電機及び安立電機以外に,本件発明を実施した公衆電
話機用カードリーダを製造,販売している者はいない。
このように,被告は,公衆電話機用カードリーダによる実施料収入
は一切得ていない。
(イ)公衆電話機用カードリーダ以外のカードリーダによる実施料収入
被告は,田村電機に対し,公衆電話機用カードリーダ以外のカードリ
ーダについて,本件発明を実施許諾しており,これにより,同社から,
次のとおりの内訳で,合計8616万1035万円の実施料を得ている。
昭和62年●(省略)●円
昭和63年●(省略)●円
平成元年●(省略)●円
平成2年●(省略)●円
平成3年●(省略)●円
平成4年●(省略)●円
平成5年●(省略)●円
平成6年●(省略)●円
平成7年●(省略)●円
平成8年●(省略)●円
平成9年●(省略)●円
平成10年●(省略)●円
平成11年●(省略)●円
イテレフォンカード及び磁気ヘッドの販売による利益について
(ア)原告は,本件発明について,被告は,電電公社との共同出願とし,
電電公社に無償で実施させることと引き換えに,電電公社向けのテレフ
ォンカード事業と磁気ヘッド事業を独占することができたから,両事業
における売上げを相当の対価の算定の基礎に算入すべきであると主張す
るが,以下のとおり,同主張は失当である。
すなわち,電電公社は,電話通信機器を調達する際,電電ファミリー
企業と呼ばれる,限られた企業群から随意契約で調達してきた。これは,
全国的な電気通信網を形成する電話通信機器は高度の信頼性が要求され
るため,信頼できる企業から納品を受けるのが適切であるとの判断に基
づくものである。被告も電電公社のファミリー企業の1つであり,これ
まで電電公社から複数の発注を受けてきた。テレフォンカード事業と磁
気ヘッド事業も,このような経緯で被告が受注した事業であるが,電電
公社が電電公社のファミリー企業の中で,被告を選定した理由は,①磁
気ヘッドの開発目標は,磁気カードの書込みが十分にできるとともに,
耐久性,対環境性に優れていることであったところ,被告は,従来から
電子交換機で使用する磁気部品の開発を行っており,磁性材料の開発,
磁気ヘッドの開発に優れた技術力を有していたこと,②テレフォンカー
ドの製造には,特殊な材料を必要としていたが,被告は,材料の開発に
実績があるとともに,磁性層を塗布する技術を有していると判断された
ことにある。
このことは,原告作成に係る昭和54年4月24日付けの社内向け報
告書(甲31。以下「甲31報告書」という。)に,電電公社担当者の
話として,「Tokinは,ヘッドとカードしか出せないかもしれな
い。」との記載があることからも明らかである(上記記載からすれば,
本件発明を完成させたと原告が主張する時期よりも前に,被告にテレフ
ォンカード事業及び磁気ヘッド事業を受注させる話が電電公社より出て
いたことが分かる。)。
なお,当初,被告のみがテレフォンカードの製造を受注していたのは,
その生産量からして,被告1社であれば十分であったからにすぎない。
昭和60年に,東京磁気印刷との2社生産体制になったが,これは,そ
のころにテレフォンカードの需要が大幅に拡大したため,「一社体制で
は不測の事態が起こった場合に,磁気カード供給が停止する」(乙15
の2第5項)という弊害を考慮したためである。
このように,上記両事業について被告が電電公社から発注を受けたの
は,被告が有していた各々の製品の開発力が評価された結果であり,被
告が本件特許を有していたこととは全く関係がないのであるから,上記
両事業による売上げを相当の対価の算定の基礎に算入することはできな
い。
(イ)原告は,本件覚書の7条の合意は,被告に不利益である旨主張する
が,テレフォンカード事業のプロジェクト自体が電電公社の主導によっ
て行われてきたものであること,本件発明はあくまで電電公社発明の改
良発明であること,本件特許出願は電電公社との共同出願になっている
ところ,共有特許権者が自己の業務の下請けとして第三者に当該特許発
明を実施させる行為は,自己実施として,他の共有特許権者の許諾が不
要であることからすれば,本件覚書の7条の合意は当然のことであり,
しかも,電電公社以外の用途での実施権付与については実施料を得るこ
とが可能であるから,内容として,特に不利益なものではない。
ウなお,被告は,本件発明を実施していない。
()被告の貢献度(争点())について
(原告)
ア電電公社は,テレフォンカード式公衆電話機の開発,実用化について,
被告以外の他社と共同開発を進めてきたものの,成功を見るには至らなか
ったのであるが,原告がいち早く,磁気記録再生のための直流バイアス方
式(本件において,バイアスとは,保護膜を磁気飽和させるために磁束を
印加することをいい,「直流バイアス方式」とは,コイルに直流電流を流
して発生させた磁束で保護膜にバイアスをかけ,記録再生用磁気ヘッドと
は別に,磁気飽和用ヘッドを設けない方式をいう。これに対して,記録再
生用磁気ヘッドとは別に,磁気飽和用ヘッドを設け,同ヘッドを記録再生
用磁気ヘッドと直交に配置させる方式を「直交バイアス方式」という。)
を採用した本件発明をなし,電電公社がこの原告の発明に対し「それで行
きましょう」と高い評価を与えたことにより,テレフォンカード式公衆電
話機が実用化されたのである。
また,原告が本件発明を極めて短期間で完成したことにより,被告は,
本件特許出願を電電公社との共同出願とすることができ,これにより,被
告は,電電公社から,テレフォンカード事業及び磁気ヘッド事業を独占し
て受注することができるようになったのである。
したがって,原告が本件発明をしていなければ,被告においてテレフォ
ンカード事業及び磁気ヘッド事業はあり得ず,原告の貢献度が極めて高い
ものであることは明白である。
イ被告は,自社の社史である「東北金属工業五十年史」の記載を自己の主
張の根拠としているが,一般的に社史等の発行物は社外に配布されるもの
であり,基本的に会社に都合よく編集されており,「東北金属工業五十年
史」もその例に漏れず,編集者がすべての内容の細部について,詳細な事
実に基づいて編集しているものではない。「東北金属工業五十年史」にお
いて被告が指摘する部分も,同様に,事実に即して記載されたものではな
い。
ウ以上の点を考慮すれば,被告の貢献度が50パーセントを超えることは
ない。
(被告)
ア原告の磁気記録についての経験は,被告社内での研修や研究活動を通じ
て取得したものであり,本件発明の完成には,当然,被告の研究設備を使
用している。さらに,特許出願も弁理士を選任して被告が行っている。ロ
イヤリティの取得も,田村電機と実施許諾契約を締結したからこそ可能と
なったものである。
イ本件発明に係る磁気ヘッドを含めたテレフォンカード事業は,電電公社
の指導により推進されてきたものであり,このことは被告の社史である
「東北金属工業五十年史」に記載されているとおりである。電電公社は,
昭和60年に民営化されるまで通信業務を独占(民営化後も実質独占)して
きたのであり,その協力なしにテレフォンカード事業を立ち上げることは
不可能である。したがって,本件発明の共同発明者として電電公社職員が
記載されているように,本件発明の完成には電電公社からの技術供与が不
可欠であり,その技術供与は被告が電電公社と円満な関係を構築,維持し
てきたために得られたものであって,本件発明の完成には,このような被
告の貢献が不可欠であった。
また,電電公社特許出願の出願公開が本件特許の出願日の後にされてい
ることから明らかなとおり,被告は,電電公社特許出願が出願公開される
前に,電電公社の協力を得て,電電公社発明の技術内容を知ることができ
たのであり,この電電公社の技術提供により,本件発明が完成したのであ
る。
ウ以上の事情を考慮すれば,被告の貢献度は極めて高い。
()本件発明の発明者間における原告の貢献割合(争点())について
(原告)
ア本件発明が基本発明であること
本件発明は,前記()で主張したように,基本発明であり,電電公社発
明の改良発明ではない。
イ本件発明に至る経緯
(ア)a原告は,昭和54年1月,当時所属していた被告の東京事業所に
て,仙台より来所した当時の事業部長のDから,本件プロジェクトの
メンバーになるように要請を受けた。原告は,当初,この要請を断っ
たが,その後,本件プロジェクトへの参加を前向きに考えるようにな
った。ただし,被告においては,横浜事業所閉鎖に伴い,それまで同
事業所で製造していた磁気ヘッドに関する事業をすべて仙台事業所が
引き継ぎ,その製造設備並びに検査及び評価設備のすべてを仙台事業
所に移設してしまっていたことから,原告は,加藤から,プロジェク
トに参加するに当たって乙等を使うことの了承を得た上,保谷駐在
(東京事業所)にて本件プロジェクトに参加することを承諾したので
ある。
b本件プロジェクトのメンバーは,昭和54年2月2日,横須賀通研
において,本件プロジェクトについて,担当者レベルで第1回打合せ
を行い,その後,各担当(カードリーダ,磁気カード,磁気ヘッド)
が,必要に応じて個々に横須賀通研とアポイントを取り,打合せ,開
発を進めることになった。原告は,上記打合せの後,カード担当者に
具体的な実験用カードの試作依頼をするとともに,原告自身でも実験
用カードの準備を行った。また,原告は,E及び乙に対して,当時,
仙台電子部品事業部で量産していた磁気ヘッドに,直交バイアス方式
でバイアスを印加できるような磁気飽和用ヘッド(本件プロジェクト
においては,「ヨーク」という言葉も用いられているが,磁気飽和用
のヘッドコアを示す場合には,以下,「磁気飽和用ヘッド」とい
う。)を取り付けた磁気ヘッド組立体の具体的な図面を提示して,試
作指示を行った。さらに,原告は,E及び乙に対し,早急に実験を開
始するために,実験内容を事前に説明し,かつ,三協精機製作所から
カードリーダを入手し,このカードリーダに原告が試作を指示した上
記磁気ヘッド組立体を取り付けて仙台に送り,乙に指示をして,測定
器等の準備をさせた上で,仙台に出張して必要と思った実験データ取
りを行ったのである。そして,原告は,そのデータを保谷(東京事業
所)に持ち帰り,データを整理,考察しながら多くの資料,報告書を
作成,検討していく中で,本件発明を完成したのである。
なお,データ取りは,原告自身で,又は乙に指示をして乙と一緒に
行った。
c原告は,昭和54年7月24日,加藤から,横須賀通研に直流(直
交)バイアス型磁気ヘッドの改良技術などの提案の準備をするよう指
示を受けた。そして,同月26日,原告は,横須賀通研を訪問し,同
月10日以降の実験検討結果を丙及び丁に報告した。実験検討結果に
ついては,横須賀通研の提案した直交バイアス方式では良好な結果が
得られなかったことを,資料「TKR−M−7010」(甲14の
1)により説明した後,原告提案の直流バイアス方式について,上記
資料及び別に持参した資料で説明したところ,丙から,その場で,
「これで行きましょう」との評価を得た。横須賀通研では,同月26
日の時点でも,直交バイアス方式での開発,実用化を考えていたので
あるが,原告が直流バイアス方式を提案したことによって,流れが変
わったのである。
原告は,同年8月1日,被告の仙台事業所において,当時の部長の
に,資料「TKR−M−7011」(甲14の2)を提示して,新
C
たな直流バイアス方式により,十分なバイアス効果を得ることを発明
し,目的を達成したとの報告をした。
d以上の経緯で本件発明は完成したのであり,本件発明について具体
的課題設定行為を行い,かつ,技術解決行為を行ったのは原告である。
(イ)本件発明の開発に関する議事録,報告書,明細書,図面等は,すべ
て原告が自筆により作成したものであり,乙は,原告の具体的な指示に
よりデータ取りをしただけである。
ウ原告は磁気ヘッド開発について豊かな経験を有すること
被告は,原告が被告に入社した昭和43年より前までは,金属磁性材料
の素材,その素材を舟形に打ち抜いた打抜コア及び消去用の焼結フェライ
トコアの製造及び販売を行っていたのであるが,昭和43年前後ころにな
って,磁気ヘッドの開発,商品化をすべく中央研究所加工技術研究室(横
浜事業所)にて調査を開始するようになった。そして,昭和44年下期に
は同研究室のFが,欧米の磁気ヘッドメーカーや市場の調査も行っていた。
原告は,昭和43年に,被告に入社し,中央研究所加工技術研究室にて,
上記のFの下に配属されると同時に磁気ヘッドの開発担当となり,磁気ヘ
ッドの具体的な開発試作をスタートした。これが,被告会社にとって,磁
気ヘッド開発の具体的なスタートであった。
そして,原告は,同年から翌昭和44年にかけて,東芝とのディスクパ
ック用磁気ヘッド,日本信号向自動出改札装置用磁気ヘッド,住友3Mの
電算機用テープ検査用磁気ヘッドの再研磨及び7トラックMT用磁気ヘッ
ド,安立電気向け歩進データ処理装置用7トラック及び9トラック等の開
発に従事し,昭和45年には,原告開発に係る自動出改札用磁気ヘッドの
量産が開始された。この自動出改札用磁気ヘッドの量産が,被告における
磁気ヘッドの初めての事業化であり,原告は,被告における磁気ヘッド事
業の先駆者であるといえる。
原告は,昭和45年以降も磁気ヘッドの開発に従事し,被告が,第一次
オイルショックの影響もあり,昭和48年上期に設備も含め磁気ヘッドの
製造関係を仙台事業所に移転した後も,昭和50年に被告の横浜事業所が
閉鎖されるまで,外注に依頼して紙幣識別用磁気ヘッド等の開発を継続し
た。
このように,原告は,被告に入社後,昭和50年まで磁気ヘッドの開発,
事業化に関わってきたのであり,また,被告が初めて磁気ヘッドを事業化
した自動出改札用磁気ヘッドも原告の開発に係るものであって,磁気ヘッ
ド開発について非常に豊かな経験を有するのである。
この点,被告は,単に発明の数だけで原告に磁気ヘッドの経験がないな
どと断定しているが,単純な出願数は,経験の豊富さと全く関係がない。
エ乙の経歴等
(ア)乙は,昭和46年に被告に入社し,仙台事業所に配属となったが,
当時,被告は,横浜事業所において既に磁気ヘッドの開発,事業化,量
産をしており,乙はこれを知って,横浜事業所への転勤願いを出し,昭
和47年4月ころ,横浜に転勤して,被告が次世代市場を見据えて昭和
45年当初から開発,事業化を進めていたデジタルカセット用の二重間
隙磁気ヘッドの開発プロジェクトに参加した。しかし,昭和48年に同
プロジェクトは解散となり,乙は,同年上期に,当時量産をしていた自
動出改札装置用磁気ヘッドの事業の移転とともに,仙台事業所へ転勤し
た。そして,乙は,被告内で本件プロジェクトが発足した当時,仙台事
業所にて磁気ヘッド,エンコーダーなどの製造,検査,出荷等に従事し
ていたが,原告が,本件発明の開発に,乙を使いたい旨申し出たため,
原告の部下として本件プロジェクトに関わるようになり,原告の指示に
より,その都度業務を遂行していたものである。
(イ)被告は,乙が大学時代からバイアス磁界での磁気ヘッドを専攻して
いた旨主張するが,同人が学生時代に経験したバイアス磁界は,アナロ
グ磁気記録におけるバイアス磁界であり本件発明とは全く関係がない。
(ウ)また,被告は,乙は紙幣識別装置用磁気ヘッドの開発に携わってい
たが,同開発においては,ヘッドコアコイルに直流電流を重畳させる直
流電流バイアスが実用化されていた旨主張する。
しかし,磁気インクで印刷された紙幣(紙幣には磁気インクが使用さ
れている。)を識別するために直流電流を重畳させる直流電流バイアス
による紙幣識別装置を実用化させたのは,紙幣識別機の開発・製造を行
っていたグローリー工業等の装置メーカーであり,乙は,被告の電子部
品事業部の売上げ拡大のために,この紙幣識別装置に使用される磁気ヘ
ッドの検討・開発に携わっていたのであって,被告がヘッドコアコイル
に直流電流を重畳させる直流電流バイアスを実用化したわけではない。
なお,磁気インクで印刷された紙幣を識別するために,直流電流を重畳
させる直流電流バイアスは,本件発明とは全く関係がない。
(エ)被告は,乙が研究職であり,その主たる業務が研究・開発であるか
のように主張する。
しかし,一般的に,製造会社の事業部に所属する技術者の使命は,売
上げ及び品質等の確保や売上げの拡大等である。そして,乙も同様に,
被告の電子部品事業部の技術員(技術職)として,紙幣識別装置用磁気
ヘッドの検討,開発及び製造を含め,仙台事業所にて,磁気ヘッド,エ
ンコーダーなどの製造,検査及び出荷等を担当していたというのが正し
い。
オ本件特許の出願手続において提出された意見書作成の経緯
被告は,本件特許の出願手続において,特許庁から本件拒絶理由通知を
受けたので,特許庁に対して本件意見書を提出したが,本件意見書はG弁
理士が作成したものであり,その経緯は,以下のとおりである。
すなわち,原告は,昭和58年12月,被告技術管理課から,本件拒絶
理由通知に対する対応の要請を受けたが,当時,仙台地区の西浦工場内に
ある電子部品事業部に所属しながら,同じく仙台地区の諏訪工場内でHプ
ロジェクトというフロッピーディスク用磁気ヘッドの開発・事業化を目的
としたプロジェクトの中心メンバーとして新たな開発に取り組んでおり,
非常に多忙な日々を過ごしていたため,思うようにこの要請に対応するこ
とができず,本件発明に補助者として携わっていた乙にこの処理に対応す
るよう指示をした。
ところが,乙は,「特許の内容がよく判らない」ということであったた
め,原告が必要な資料(甲21)を用意して,これを乙に渡し,同資料を
参考にして対応するよう指示をした。乙は,これらを基に資料(甲22)
を作成して被告技術管理課に提出し,これがG弁理士に渡された。ところ
が,後日,G弁理士より原告に電話連絡があり,「乙から提出された資料
を見たが,よく判らない」と言われたので,原告は,乙が作成した上記資
料を確認したところ,確かに,乙は本件発明の内容をよく理解していない
ようであり,G弁理士に対しても正しい説明がなされていないことが分か
った。そこで,原告は,G弁理士にその旨を連絡し,口頭で本件発明の内
容を説明するとともに,図面及び説明資料を作成してG弁理士に渡し,最
終的にG弁理士は,原告の口頭による説明と原告から交付された図面及び
資料によって本件意見書を作成したものである。
このように,乙は,本件発明の内容を,原告から資料を提示されて説明
を受けてもなお理解することができなかったのであって,乙が本件意見書
を作成したなどということはない。
カ小括
以上から,本件発明に対する原告の寄与は,他の発明者のそれとは比較
にならないくらい大きなものであって,発明者間における原告の貢献割合
は80パーセントを下らないというべきである。
(被告)
ア本件発明は改良発明にすぎないこと
前記()で主張したとおり,本件発明は,電電公社発明の改良発明にす
ぎないから,本件発明に対する寄与は,電電公社発明の発明者でもある丙
及び丁の寄与が大きい。
イ本件発明に至る経緯
(ア)本件発明の中心部分となる直流バイアス方式の着想及びその具体化
を主に行ったのは,以下のとおり,本件発明に至る研究が行われた仙台
事務所に所属していた乙であり,その着想を実際に実験によって確認し
ていったのも,実験に必要な機材があった仙台事務所で開発を行ってい
た乙である。
a電電公社が,当時,磁気飽和させるために採用していた方式は,直
流電流を流して発生させた磁束でバイアスをかけ,かつ,記録用ヘッ
ドコアや再生用ヘッドコアに対して磁気飽和用ヘッドコアを「直交」
して配置する,直交バイアス方式であった。電電公社がこの様な方式
を採用したのは,磁気飽和のために流す電流の磁束が,磁性膜上の磁
気記録に及ぼす影響を避けることにあった。すなわち,磁性膜上には
長手方向(磁気ヘッドの進行方向)に磁気記録されるが,これと同じ
方向で磁気飽和用の磁気を発生させると,その磁束の影響により磁性
膜上の磁気記録が消去ないしは変更されてしまう危険があったためで
ある。
b乙は,このような電電公社発明の方式を見たときに,同発明の方式
では,保護膜を磁気飽和させる磁束の方向と記録再生用の磁束の方向
が直交しているため,磁気飽和の効率が悪くなるのではないかと考え,
わざわざ記録再生用ヘッドとは別に磁気飽和用ヘッドを備えさせる意
味があるのか疑問に思った。
そこで,乙は,いかに効率良く磁気飽和させるかという観点から検
討し,これまで,自動預貯金預払機(ATM)などに実装される紙幣
識別装置用の磁気ヘッド開発に携わったことがあり,そのときの経験
から再生用コイルのほかに「もうひとつのコイル」を巻き付けた磁気
ヘッドがあったことを思い出し,この磁気ヘッドを応用できるのでは
ないかと考えた。
このような構想の下,乙は,磁気飽和用ヘッドを保護膜に接着させ
て電電公社発明の追試実験をしたところ,磁気飽和用ヘッドに強い電
流を流してもそれに応じた磁気飽和が生じていないとの結果が得られ,
この結果から,実際には磁気飽和用ヘッドから生じる磁束は記録再生
用ヘッドに印加してしまい,この磁束が再生用ヘッドを通じてバイア
スを掛けているのではないか,そして,再生用ヘッドにいったん印加
する際に磁束が漏れてしまっているために,十分な磁気飽和が得られ
ないのではないかと推測した。
そして,乙は,上記推測を検証するために,磁気飽和用ヘッドに電
流を流しつつ,これを保護膜に接着させない方式と電電公社発明の方
式の比較実験を行ったところ,磁気飽和用ヘッドを保護膜に接着させ
ない方式では,保護膜に磁束が到達しないか,あるいはわずかに到達
するにすぎず,保護膜が十分に磁気飽和されないはずであるにもかか
わらず,いずれの方式によっても再生出力の変動がほとんど変わらな
いという結果を得た(甲14の1Fig1)。乙は,この実験結果
から,記録再生用ヘッドに磁気飽和用ヘッドの磁束が印加してしまう
との推論が正しいとの自信を持ったのである。
c乙は,上記の実験結果から,当初の構想どおり,最初から磁気ヘッ
ドを1つにして記録再生用ヘッドに磁気飽和用の電流を流した方が効
率的であると考えるに至った。ただ,記録再生用の磁気ヘッドと磁気
飽和用ヘッドを1つの磁気ヘッドで兼用する方式は,バイアス磁界が,
保護膜を超えて更に記録用磁性膜にまで及んでしまう問題があり,乙
は,過去の紙幣識別装置用の磁気ヘッドの開発の経験から,この問題
は,磁気飽和用コイルへの直流電流を微調整することで解決できると
考え,磁気飽和用の電流の強さと記録用磁性膜への影響を実験してデ
ータをとり(甲14の1Fig2),この実験により,記録用磁性
膜への悪影響は,直流電流の微調整により回避できることを確認した。
また,乙は,直流バイアス方式を採用した場合の保護膜の厚みと再
生出力の低下の関係についての実験(甲14の1Fig3)を行っ
たところ,スペーシング損失の影響が非常に少なく済んだことから,
磁気ヘッドが接触している保護膜が,まさに記録用磁性膜とヘッドの
間を取り持つヨークの役割をしてスペーシング損失を低減しているこ
とが分かったのである。
(イ)原告は,電電公社発明では,磁気飽和用の磁気ヘッドを使用して保
護膜全体を磁気飽和させるために,磁気ヘッドによる飽和の範囲が広く,
スペーシング損失が大きいという問題があり,この技術的課題を解決す
るために本件発明を想到するに至ったと主張する。
しかし,被告が本件特許発明の具体的な内容について電電公社に説明
した際に作成された資料(甲14の1)には,①磁気飽和用ヘッドコア
を磁気カードに接触させた状態で,再生用ヘッドコアからの再生出力を
測定した結果と,②磁気飽和用ヘッドコアを磁気カードと接触させない
状態(ヘッドコアの先端が空中に浮いている状態)で,再生用ヘッドコ
アからの再生出力を測定した結果を比較した実験が記載されているとこ
ろ,同実験結果では,両者の測定値に実質的な相違は存在しないとの結
論が得られている。これは,磁気飽和用ヘッドコアが磁気カードと接触
しなくても,接触しているのと同様の磁気飽和が得られているというこ
とであり,その理由としては,磁気飽和用ヘッドコアは,磁気カードの
保護膜を直接磁気飽和しておらず,磁気飽和用ヘッドコアからの磁界が
再生用ヘッドコアに印加し,続いて再生用ヘッドコアから保護膜が印加
することにより,間接的に保護膜が磁気飽和されているためと考えられ
る。
このように,電電公社発明では磁気飽和用の磁気ヘッドによって保護
膜は磁気飽和していないから,原告主張は,その前提部分において誤っ
ている。
(ウ)また,原告によれば,電電公社発明では,磁気飽和の範囲が広くス
ペーシング損失が大きいという問題があると考えていたというのである
から,その技術的課題を解決しようとするのであれば,まず,磁気飽和
の範囲を可能な限り狭くするという発想にたどり着くはずであり,その
ために磁気ヘッドを1つにするという発想に一足飛びに想到するはずは
ない。原告の主張は,後知恵以外の何物でもない。
ウ原告は連絡役にすぎないこと
乙は,実験施設のある仙台事業所に所属していた。これに対して,原告
は,東京事業所に所属しており,主に横須賀通研との連絡役を担っており,
仙台事業所で得られたデータを整理して,被告社内や電電公社に報告して
いたにすぎない。
なお,本件意見書の中身も乙が作成している。
エ原告及び乙の経験
原告は,本件プロジェクトにおいて磁気記録に関する唯一の経験者であ
ったと主張するが,原告が本件発明前に関与した発明のうち,磁気ヘッド
に関連すると見られるものは1件にすぎず,原告に特段の経験があったも
のではない。
これに対し,乙は,大学時代からバイアス磁界での磁気ヘッドを専攻し,
昭和46年4月に被告に入社した。同人は,電子材料事業部に配属され,
同年8月に横浜事業所の応用装置事業部に勤務することとなり,そこでは
デジタルカセット用の2重間隙磁気ヘッドの開発プロジェクトに参加し,
昭和47年4月ころには,デジタルカセット用の2重間隙磁気ヘッドの実
用化を検討し,これに関する出願も行っている。昭和50年には,紙幣識
別装置用磁気ヘッドの開発に従事し,金融関連自動預貯金機用高速紙幣識
別処理についての開発研究を行っており,その後も,仙台事業所において
磁気ヘッドの研究・開発を継続していたのであり,本件発明をするには十
分な職務経験を積んでいる。
オ小括
以上より,本件発明の発明者間の原告の貢献はわずかでしかなく,その
割合は10パーセントを上回ることはない。
()相当の対価額(結論)(争点())について
(原告)
前記()のとおり,昭和58年から平成11年までに,本件発明の実施品
であるカードリーダの販売に対して被告が得た実施料は127億8000万
円であること,前記()のとおり,本件発明における被告の貢献度は50パ
ーセントを超えることはないこと,前記()のとおり,本件発明の発明者間
における原告の貢献割合は80パーセントを下らないことから,本件発明に
係る特許を受ける権利を被告に承継させたことについて,原告が支払を受け
るべき相当の対価は,次の算定式のとおり,51億1200万円である。
127億8000万円×50%×80%=51億1200万円
(被告)
前記()ないし()で主張したところからすると,原告が受けるべき対価は,
既に被告が支払済みの出願補償金及び登録補償金と,被告が,本件訴訟前に,
原告に対して提案した17万5000円の合計額を下回るものであり,本件
請求は成り立たない。
第3当裁判所の判断
1事実認定
前記争いのない事実等,証拠(甲1ないし3の各1及び2,4ないし8,9
の1及び2,10の1ないし13,11の1ないし3,12の1及び2,13,
14の1及び2,17の1ないし3,18の1ないし4,19の1及び2,2
0ないし24,25の1,25の2,26,27,30ないし39,40の1
及び2,41ないし49,50の1及び2,53の1ないし12,54の1な
いし16,55,56,乙1,2,3の1ないし5,4,6ないし12,15
の1及び2,16,17)並びに弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認めら
れる。
()当事者等
ア被告
被告は,磁気材料の製造販売を目的として昭和13年に設立された株式
会社であり,その後,電子部品・電子機器分野へと業種を拡大した。被告
の設立当初の商号は「東北金属工業株式会社」であったが,その後,昭和
63年に社名を「株式会社トーキン」に変更し,さらに,平成14年には,
NECの電子部品事業と統合して現在の社名となった。
被告は,本件プロジェクトが発足する以前から,磁性材料及び磁気ヘッ
ドの開発について高い評価を得ていた。
(甲1の1,1の2,5,乙15の2)
イ原告
原告は,昭和43年3月に東京電機大学工学部機械工学科を卒業し,同
年4月に被告に入社し,横浜事業所(中央研究所)に配属され,昭和46
年9月には,横浜事業所の磁気ヘッド開発課技術開発係に配属され,産業
用磁気ヘッドの開発,事業化の業務に従事した。その後,昭和48年9月
に,システム開発部に配属され,感震ガス遮断装置の開発,事業化の業務
に従事し,昭和52年には東京事業所の装置部品事業部に,昭和53年9
月には東京事業所の電子機器事業部電子機器部に配属され,東京都の保谷
に駐在するようになり,昭和54年には,本件プロジェクトに,被告にお
ける磁気ヘッド部門の責任者として参加した。
原告は,その後,電子応用開発部技術課長,筑波研究所第3研究室室長,
統合企画本部特許課長を経て,平成4年には,トーキン教育情報株式会社
に出向し,平成16年12月に被告を退社した。原告は,被告在職中に,
80件以上の特許又は実用新案登録の出願に係る発明又は考案をした。
(甲2の1及び2,53の1ないし12,54の1ないし16)
ウ乙
乙は,東北学院大学工学部において,磁気ヘッドの研究等をした上で卒
業し,昭和46年4月に被告に入社し,電子材料事業部ヘッド技術課に配
属され,同年8月には,横浜事業所応用装置事業部に異動し,その後,昭
和48年には,横浜事業所のヘッド開発の研究者は仙台事業所に異動する
旨の経営方針に沿って(なお,横浜事業所は,昭和50年に閉鎖され
た。),仙台事業所に異動し,昭和54年に,本件プロジェクトに参加し
た。
乙は,現在,他社に出向中である。
(乙16)
()電電公社による資材の購入
ア電電公社における電気通信用資材の購入に係る契約は,旧日本電信電話
公社法(昭和59年法律第85号による廃止前のもの。)に基づき郵政大
臣の認可を受けて作成された会計規程に基づいて行われていた。同会計規
程では,契約方式については,競争契約を原則としながらも,事業運営上
特に必要があるときは公正協議契約又は随意契約の方法によることができ
る旨定められていたが,電電公社は,以下の理由により,電気通信用資材
の大部分について,競争入札によらず随意契約方式により購入していた。
(ア)電気通信用資材の多くは,電電公社仕様による特注品であり,電電
公社以外に販路がないことから,競争入札により購入する場合,メーカ
ーにとっては受注の保証が得られないので,安定した計画生産の目途が
立てにくく,設備稼働のロス,落札できない場合の危険負担を織り込む
ことになり,長期的にみると価格が高くなり,また,納期遅延,品質低
下のおそれが生ずる。
(イ)電気通信用資材は,全国的な電気通信網を形成するため高度の信頼
性が要求され,かつ,同一品種を長期間継続購入する必要があるが,電
電公社が製造業者の技術力,経営規模等に応じて発注を行うことにより,
生産の平準化,マンパワー,設備の有効な利用が図られることとなり,
ひいては長期的にみて原価の低減化が進み,国民経済的にも好ましい。
(ウ)技術革新のテンポが急速な電気通信事業にあっては,新製品につい
て,技術開発能力を持つ製造業者にまず発注せざるを得ないが,新技術
の普及,定着化に伴い,一般の業者にも次第に参加の機会を広げていく
ため,随意契約方式によって電電公社の発注を逐次移管していくことが
可能であり,中小企業育成の面からもその効果は大である。
(エ)技術革新を採り入れた新しい電気通信用資材を開発するに当たって,
製造部門を持たない電電公社としては,研究開発段階から技術力を持つ
製造業者を参加させて製品化する必要があり,このためには随意契約方
式によることが適切である。
(乙10,12)
イ電電公社は,随意契約の適正を期するために,随意契約の相手方である
メーカーの選定に当たっては,1社独占の弊害に陥らないよう配慮をし,
複数の業者を選定するとともに,個々の業者に対する発注方法については,
過去の納入実績額のみによることなく,納入検査成績,保守成績,電電公
社への貢献度,経営改善の度合などの要素を採り入れることとしていた。
(乙12)
ウ電電公社は,上記のとおり,電気通信用資材の大部分を随意契約により
購入していたが,その随意契約の相手方も特定の企業に集中しており,そ
れら特定の企業は「電電ファミリー」と呼ばれていた。この「電電ファミ
リー」企業は,電電公社への納入実績の多い大手4社を指す場合と,電気
通信用資材を少しでも納入している企業を指す場合とがあり,後者の場合
の企業は,本件発明がされた当時,約300社であった(なお,被告は,
後者の意味の電電ファミリー企業であった。)。
(乙10,11)
()本件プロジェクトの経緯
ア被告は,昭和53年12月ころ,電電公社がテレフォンカード式公衆電
話機の開発を検討している旨の情報を入手した。そこで,被告担当者が,
同月13日,横須賀通研を訪問し,丙及び丁から,電電公社が,テレフォ
ンカード式公衆電話機の開発をしていること,同公衆電話機開発において
は,盗用及び悪用防止を考慮した特殊磁気カード及び特殊磁気ヘッドの開
発が必要であることの説明を受け,さらに,検討している技術内容として,
偽造防止のために,磁気記録再生機能を有する磁性膜上に磁性媒体の保護
膜を積層させること,カードリーダの構造としては,直交バイアス方式
(保護膜を磁気飽和させるヘッドを記録再生用のヘッドと直交させたも
の)とすることを教示され,その際,上記の技術の説明のために,別紙図
面1(以下「電電公社発明図面1」という。)及び同図面2の図面(以下
「電電公社発明図面2」といい,電電公社発明図面1と電電公社発明図面
2を併せて「電電公社発明図面」という。)を示された。
なお,電電公社発明は,上記の説明の約1か月後である昭和54年1月
9日に特許出願されたが,同出願の願書には,電電公社発明図面等の図面
が添付された。
(甲52の1)
イ被告は,上記を受けて,電電公社の上記開発への参加を申し出ることを
決定し,その旨を電電公社に伝え,電電公社の了解を得た。
このようにして,被告は,電電公社と共同で,テレフォンカード式公衆
電話機の開発のための本件プロジェクトを発足させ,当時,電電公社が開
発を進めていた上記アの技術を前提として,その問題点の克服,同技術の
改良及び同技術に基づく製品化等の開発を行うこととし,本件プロジェク
トの被告内の研究部門における磁気ヘッド開発の責任者として原告を選任
し(なお,カードリーダ開発の責任者としてはIが,磁気カード開発の責
任者としてはJが選任された。),また,原告の補助者として乙及びEを
選任した。
本件プロジェクトの進行状況についての被告内での報告は,原告が担当
し,社内向けの報告書のほとんどすべてを原告が作成した。
また,本件プロジェクトは,電電公社と共同で行っていくものであり,
被告と電電公社とは,度々打合せをしていたが,同打合せには,被告側か
らは,原告の他にJ,I等が出席し,電電公社側からは,主に,丙及び丁
が出席した。なお,乙は,上記打合せには,出席したことがなかった。そ
して,原告は,本件プロジェクトの被告における進行状況等についての電
電公社向けの報告書及び上記の電電公社との打合せの結果についての報告
書のほとんどすべてを作成した。
ウ原告は,本件プロジェクトに参加していた当時は,東京事業所に所属し
ており,被告における磁気ヘッドの研究施設は仙台事業所にあったため,
仙台に出張して実験を行うことになった。
そこで,原告は,本件プロジェクトの完成に必要とされる実験を想定し,
これらのすべての実験を,昭和54年3月19日及び同月20日に,仙台
事業所に出張して行うことにし,その事前準備として,上記の実験に使用
する磁気ヘッドとこれを取り付けたカードリーダを製作し,同月13日,
同カードリーダを仙台事業所の乙あてに送付し,乙に実験の準備について
の指示をした。乙は,原告の上記指示に従い,実験のための準備を整え,
同月19日及び同月20日に,原告が仙台事業所に出張して,原告及び乙
らは,原告が事前に予定していた実験を行い,原告は,そのデータを東京
事業所に持ち帰った。
なお,上記の日に行われた実験は,保護膜が積層した磁気記録用磁性膜
への磁気記録再生方式の確認のために,保護膜上からバイアスなしで記録
が可能か否かの実験,PC(保護膜)ギャップによるスペーシング損失と
エアギャップによるスペーシング損失を比較するためのマイラーテープを
使用しての実験,一般磁気カード及び保護膜接着特殊磁気カードによる飽
和特性の確認のための実験,保護膜に,媒体の磁化状態に直交するバイア
ス磁界をかけた場合の効果を確認するための実験等である。
エ原告は,横須賀通研から,被告における本件プロジェクトの進捗状況の
報告を求められ,昭和54年4月20日,JやIらと共に,電電公社の横
須賀通研において,丙及び丁に対し,本件プロジェクトの進捗状況の説明
をし,双方で,今後の進行についての打合せを行った。同打合せにおいて,
●(省略)●を知らされた。
原告は,上記の打合せについての被告社内用の甲31報告書を,同月2
4日付けで作成した。
オ原告及び乙は,昭和54年3月19日及び同月20日に行った実験のデ
ータを検討した結果,保護膜へのバイアス磁界が不足していることが分か
り,このことから,電電公社の示した上記構造によっては,保護膜を十分
に飽和させることができず,そのため,磁性膜上の磁気記録の再生ができ
ないのではないかとの疑問を持つようになった。
そこで,原告及び乙は,マグネット(ランタネットという名称のもの。
「LM16」という表記もされている。)によって外部磁界(再生用磁気
ヘッド及び磁気飽和用ヘッドを介さない磁界)を加えた実験を行ったとこ
ろ,磁性膜上の磁気記録を十分に再生できることが判明したが,磁気飽和
用ヘッドから保護膜に印加されることが想定されているバイアス磁界が,
十分に印加されているのかについて疑問を持った。
原告は,上記の実験について,社内報告用に,同年6月付けの「キャッ
シュレスホンスペーシング損失特性比較TKR−M−7004」とい
う表題の文書(甲37。以下「甲37報告書」という。)にまとめ,これ
を被告に提出したが,その文書中には,「PCに十分な磁束を加えると,
磁性膜からの信号が減衰少なく再生することが出来ることがわかったがヨ
ークから直交バイアス磁界がPCに印加されているかどうか検討する必要
がある」,「直流バイアス付加磁気ヘッド及び記録再生方式について特許
出願する。」との記載がある。
カ原告及び乙は,上記オの実験結果を踏まえて,次に,外部磁界を加える
方法のもと,保護膜又はマイラーテープを接着させた磁気カードにおいて,
保護膜やマイラーテープの厚さを変化させて,飽和電流値を測定する実験
(以下「甲38実験」という。)を行ったところ,その結果,保護膜を厚
くしても飽和電流値が上がらないとのデータが得られ,このことから,保
護膜は,シールド効果を果たすのではなく,磁気ヨークとしての役割を果
たしていることが分かった。
原告は,上記の実験について,社内報告用に,昭和54年6月29日付
けの「キャッシュレスホンPC及びマイラー接着カードにおける飽和特
性試験・比較TKR−M−7005」という表題の文書(甲38。以下
「甲38報告書」という。)にまとめ,これを被告に提出した。甲38報
告書には,「磁気ヘッドシールドケースにLM16を接着し,PC接着特
殊磁気カードに外部磁界を印加すると,PCの磁気シール効果がなくなり
磁性膜上の信号を取り出せることを既に確認した(TKR−M−700
4)ので,PCおよびマイラー厚を変化させた時の飽和電流値を測定し比
較したので報告する。」との記載,また,「本実験及びレポート(TKR
−M−7004)からPCが厚くなっても飽和電流値がさほどUPしない
(記録時のスペーシング損失が小さい)。即ち記録時においてPCにはシ
ールド効果が無く,ヨーク効果となっている(相当量磁性膜と離れても記
録可能)。再生時においても適当なバイアス磁界をPCに印加してやると
ヨーク効果(原文は「ヨーク効界」)となることがわかった。)」との記
載がある。
キさらに,原告及び乙は,上記オのとおり,磁気飽和用ヘッドから保護膜
に,バイアス磁界が印加されているのかについて疑問を持ったことから,
直交バイアス方式において,磁気飽和用ヘッドを保護膜に接着させた状態
と接着させない状態での,磁気飽和用ヘッドに印加するバイアス電流の変
動による再生出力の変動の比較実験をしたところ,両状態での再生出力の
変動に差異がないことが判明し,このことから,磁気飽和用ヘッドから生
じる磁束は,記録再生用磁気ヘッドに印加してしまい,記録再生用磁気ヘ
ッドを通してバイアスをかけていることが分かった。
原告は,上記の実験について,社内報告用に,昭和54年6月30日付
けの「キャッシュレスホンヨークによるバイアス磁界効果についてT
KR−M−7006」との表題の文書(甲39)にまとめ,これを被告に
提出した。
ク原告は,昭和54年7月18日,本件発明について,特許出願用の被告
社内用の書面である「発明考案届出書」(甲3の1。以下「本件発明考案
届出書」という。)を作成した。
本件発明考案届出書の明細書の欄には,本件発明の構成が記載され,図
面の欄には,本件特許出願の願書に添付した図面と同一の内容を示す図面
が記載されている。
ケ原告は,昭和54年7月26日付けで,前記オ及びキの実験の内容及び
結果並びに同実験から導き出される結論を記載した文書(「PC積層カー
ドへの磁気記録再生方式の検討(その3)TKR−M−7010」,甲
14の1)を作成し,これを横須賀通研に提出し,その際,丙及び丁に対
して,直流バイアス方式の構造と,本件プロジェクトのカードリーダの磁
気記録再生方式としては,直流バイアス方式の方が直交バイアス方式より
も優れていることを説明した。電電公社は,同日時点でも,磁気飽和用ヘ
ッドについて3種類の構造案を示すメモ(甲25の2)を原告に交付する
などして,直交バイアス方式による磁気ヘッドの構成の開発,実用化を検
討していたが,原告の上記説明を踏まえ,丙及び丁も,直流バイアス方式
による開発を進めることに賛成した。
コ原告は,昭和54年8月1日付けで,被告内部用に,「キャッシュレス
ホン用磁気ヘッドについてTKR−M−7011」との表題の文書(甲
14の2)を作成し,本件プロジェクトの進捗状況を報告した。上記文書
においては,本件プロジェクトのカードリーダの磁気記録再生方式として
は,直流バイアス方式が適当であること,直流バイアス方式を採用するこ
とについては丙も賛成していること,及び直流バイアス方式の構造を説明
した図面が記載されている。
サ横須賀通研でも,被告によって提案された直流バイアス方式についての
実験を行い,その実験の結果が納得できるものであったことから,丙及び
丁は,昭和54年8月9日に行われた原告らとの打合せにおいて,その旨
述べ,そのころ,本件プロジェクトにおけるカードリーダの磁気記録再生
方式として直流バイアス方式が採用され,以降,同方式に基づき,テレフ
ォンカード式公衆電話機の各部材の開発がされるようになった(甲40の
1)。
シ昭和54年8月24日,本件特許出願がされた。
ス原告は,昭和54年9月21日付けで,「昭和54年度研究実施願書」
という書面(甲19の1)を被告に提出したが,同書面には,研究課題と
して,「磁気カードリーダー用ヘッドの開発」と記載され,「研究のねら
い」の項目には,電電公社との共同開発体制を継続し,テレフォンカード
式公衆電話機用磁気カードリーダに使用する磁気ヘッドを開発し,電電公
社ファミリーとして,同磁気ヘッドの市場を100パーセント獲得する旨
記載され,「外部研究機関での研究状況」の項目には,テレフォンカード
式公衆電話機の製造業者として,安立電機及び田村電機が,磁気カードリ
ーダの製造業者として,安立電機,田村電機,立石電機及び被告が,磁気
ヘッドの製造業者として,被告が各記載されており,また,「磁気ヘッド
に関しては,方式特許提案から全カードリーダメーカーに販売可能と考え
る。」との記載があり,「当部で行なうに適した研究であると判断した理
由」の項目には,「①当社は公社・NECファミリーと位置づけられて
いる。②当部には,磁気ヘッド設計,試作,製造等の蓄積された技術が有
る。」との記載がある。
セ原告は,昭和54年10月11日,横須賀通研において,丙及び丁と打
合せをしたところ,被告が試作した磁気ヘッドについて,非常に高い評価
を得た(甲41)。
ソ被告は,昭和54年10月15日,電電公社から,被告が安立電機及び
田村電機に対して納入する予定の磁気ヘッドを,各1個持参してほしい旨
の連絡を受けたので,原告は,同月26日,横須賀通研において行われた
丙との打合せに,上記磁気ヘッドを持参した。丙は,上記打合せにおいて,
原告に対し,新たな仕様による磁気ヘッドの試作品を20個程度納入する
よう要請した。
丙は,原告との上記打合せの後,安立電機及び田村電機と打合せを行い,
原告が提出した上記磁気ヘッドを,両社に提示した。
(甲42)
タ被告は,同年11月30日,電電公社に,テレフォンカードの試作品を
納入した。
原告は,同年12月4日,横須賀通研において,丙及び丁と打合せを行
い,その際,丙から,被告が同年11月30日に納入したテレフォンカー
ドの品質の改善の要望と,テレフォンカード式公衆電話機のカードリーダ
の仕様についての話があった。
(甲43)
チ原告は,同月12日,横須賀通研において,丙及び丁と打合せを行った。
同打合せにおいて,原告は,以前に電電公社から要請されていた磁気ヘッ
ドを20個提出したところ,丙から,電電公社の方でも被告から納入され
た磁気ヘッドで種々の実験を行いたいので,更に4,5個の磁気ヘッドの
納入をしてほしい旨要望され,また,被告が納入したテレフォンカードの
品質については不満を持っている旨の話があった(甲44)。
ツ原告は,同月24日,電電公社側から,電話で,安立電機及び田村電機
が,テレフォンカード式公衆電話機用磁気ヘッドについて,被告と直接打
合せを行いたい意向であること,近日中に,安立電機及び田村電機と打合
せをして欲しいこと,安立電機及び田村電機から被告に上記磁気ヘッドの
発注がされることを告げられ,さらに安立電機及び田村電機からの電話連
絡を待つようにとの連絡を受けた(甲45)。
テ原告は,昭和55年1月11日,田村電機内において,被告が田村電機
に納入することになる磁気ヘッド等について,田村電機の担当者及び電電
公社の担当者と打合せを行った。
原告は,上記打合せの内容を,同月12日付けの社内向け報告書(甲4
6。以下「甲46報告書」という。)にまとめたが,同報告書には,●
(省略)●との記載がある。
トその後,被告の本件プロジェクト担当者は,電電公社や田村電機,安立
電機等と連絡をとりながら,磁気ヘッド及びテレフォンカードの改良,開
発を行い,それらの商品化に至った。
ナなお,昭和57年12月7日に,本件拒絶理由通知が発せられ,乙がこ
れに対応すべく,直流バイアス方式を説明した書面を作成したが,上記書
面を作成するに当たって,原告が作成した資料(甲21。以下「本件意見
書資料」という。)を参考にした。
本件意見書資料には,本件意見書に添付された参考図とほぼ同一の図面
が記載されており,また,その図面の説明として,後記()イ(イ)で認定
する本件意見書の記載内容と同趣旨の記載がある。
()電電公社発明及び本件発明の内容
ア電電公社発明
(ア)電電公社発明の特許出願の際に提出された願書及びその添付書類
(以下「電電公社特許出願書類」という。)には,以下の記載がある
(甲52の1)。
a特許請求の範囲
磁気記録再生機能を有する磁性膜上に,保磁力の小さな磁性媒体が
積層された磁気カードを使用し,前記磁性膜を記録再生するヘッドと
前記磁性媒体を磁気飽和させるヘッドとを有することを特徴とする磁
気カード記録再生装置
b発明の詳細な説明
⒜「本発明は偽造,悪用などを防止するための保護機能を設けた磁
気カードの記録再生装置に関するものである。
従来のこの種の装置としては,磁気記録再生機能を有する磁性膜の
みを塗布した磁気カードを使用し,カード上の磁性膜とヘッドとに
より磁気的に記録再生を行うことが一般に実施されている。したが
って,磁気カードの記録再生は一般のヘッドによっても可能であり,
通常の技術を予定して磁気カードを偽造,悪用されることが予定さ
れる。
本発明はこれらの欠点を解決するため,保護機能を有する磁気カ
ードを使用し,前記磁気カードの記録再生を行うために特殊なヘッ
ドを設けたもので,以下図面について詳細に説明する。」
⒝「第1図は本発明の装置に使用する磁気カードの断面図である。
図において,1はプラスチックシート,2はγ−FeOなどの高
23
い保磁力を有する磁性膜で,磁性膜2はプラスチックシート1の上
に10μm程度の厚さでストライプ状に塗布されている。3はパー
マロイなどの保磁力の小さな磁性媒体で,磁性媒体3は磁性膜2の
上に5μm程度の厚さで塗布されている。」
⒞「記録用コイル6に電流を印加し,磁気カードに記録する場合,
主磁束路は実践で示すようにコア4,磁性媒体3で形成され,磁性
膜2はほとんど励起されず,電流を取り去った状態では,磁性媒体
3の保持力が小さいことから,記録を行うことはできない。また,
再生において磁性膜2が磁化状態にあっても,主磁束は・・・磁性
膜2,磁性媒体3で形成されるため,コア5はほとんど磁束が流れ
ず,再生を行うことはできない。したがって,一般の記録再生ヘッ
ドにおいては,本発明の装置に使用する磁気カードの記録再生は不
可能であり,偽造,悪用を防止することができる。」
⒟「第3図は本発明の装置のヘッドの斜視図であって,8は磁気飽
和用ヘッドコアであり,9は励磁用の永久磁石である。磁気飽和用
ヘッドコア8の磁気カードとの接触面は,記録,再生ヘッドコア8
の磁気カードとの接触面は,記録,再生ヘッドのコア4,5の磁気
カードとの接触面と同一平面上になるように設定されている。さら
に,コア8の空隙部はコア4,5の空隙部を包含するように構成さ
れている。」
⒡「第4図は本発明の装置の動作を説明するための図であって,ヘ
ッドおよび磁気カードの断面を1部破断して示している。コア8が
接触した部分の磁性媒体3は永久磁石9,コア8,磁性媒体3と磁
束路が形成され,磁性媒体3の1部は・・・紙面に垂直な方向に磁
気飽和状態となる。この状態で記録用コイル6に電流を印加すると
磁性媒体3が磁気飽和状態であるために,磁束路は実線で示すよう
にコア4,磁性膜2で形成され,磁性膜2の保磁力によって,電流
を取り去っても磁性膜2に磁化が残り,記録を行うことができ
る。」
⒢「再生においては磁性膜2が磁化状態にあると,ヘッドが接触し
ていない状態では磁束路は磁性膜2,磁性媒体3で形成されるが,
ヘッドが接触した状態では,磁性媒体3が磁気飽和状態となり,磁
束路は破線で示すように磁性膜2,コア5で形成され,再生用コイ
ル7に電流が生じ再生を行うことができる。」
⒣「以上説明したように,本発明によれば磁性膜の上に磁性媒体を
塗布した磁気カードを用い,記録再生ヘッドの他に磁性媒体を磁気
飽和するためのヘッドを設けて,前記磁気カードの記録再生を行う
ものであり,一般の記録再生ヘッドによっては,前記磁気カードの
記録再生ができず,磁気カードの偽造,悪用を防止することができ
る。」
c図面
第3図は,電電公社発明図面1であり,第4図は,電電公社発明図
面2である。
(イ)電電公社発明で採用された,偽造防止機能を有する磁気カードとし
て,記録再生機能を有する磁性膜上に保磁力の小さい保護膜が積層され
た構造とし,磁性膜の記録再生を行うために保護膜を磁気飽和させる方
法をとることは,偽造防止機能を有する磁気カードを使用したカードリ
ーダにとって,新規の構成である。
イ本件発明
(ア)本件特許の特許公報(以下「本件特許公報」という。)には,次の
とおりの記載がある(甲13)。
a特許請求の範囲
基体上に形成された磁気記録用磁性膜上に保磁力の小さな強磁性体
による保護膜を形成した磁気記録媒体を使用し,前記磁性膜に対して
記録再生を行うヘッドに,該ヘッドを通して前記保護膜を磁気飽和さ
せる手段を設けたことを特徴とする磁気記録再生装置
b発明の詳細な説明
(a)「本発明は磁気カードを用いる磁気記録再生装置に関するもの
である。
一般に,磁気記録媒体は,磁気カード,磁気テープ等の別を問わ
ず基体上に磁性膜を形成して成り,記録内容は記録媒体に応じた記
録再生装置であれば一般の装置で容易に記録再生可能である。
これに対し,本発明では磁気記録媒体に保護膜を形成して,通常
の記録再生手段による記録再生を不可能にしたものである。」(1
欄36行ないし2欄8行)
(b)「第1図は本発明に使用する磁気記録媒体を断面図で示す。図
において,この磁気記録媒体1は,基板11に高保磁力を有する磁
性粉,例えばγ−FeO等による磁性膜12を形成し,この磁性
23
膜12上に保磁力の小さな強磁性体,例えばパーマロイ等による強
磁性膜13を接着あるいは塗布により積層して磁性膜12に対する
保護膜として作用するようにしている。」(2欄11ないし19
行)
(c)「記録用コイル21に大電流を印加すれば,ヘッドコア2のギ
ャップ下の強磁性膜13は図中破線で示す磁束にて磁気飽和状態と
なって,図中実線で示すような磁性膜12を通過する磁路が形成さ
れ,磁性膜12の保磁力により電流を取り去っても磁性膜12には
磁化が残るので磁性膜12に対する磁気記録が可能となる。すなわ
ち,記録用コイル21に印加する電流として,強磁性膜13を飽和
させるのに必要なバイアス磁界用の一定電流と磁性膜12への磁気
記録用の電流とを重畳した電流とすれば良い。」(2欄31行ない
し3欄5行)
(d)「第3図において,記録及び再生用の磁気ヘッドコアを一つで
兼用するようにしており,ヘッドコア4に記録用コイル41,再生
用コイル42が設けられている他,磁気飽和用コイル43も設けら
れている。磁気飽和用コイル43は,記録あるいは再生タイミング
に同期してヘッドコア4のギャップ下の強磁性膜13を磁気飽和状
態にするための手段である。
磁気記録を行う場合には,第4図を参照して,磁気飽和用コイル
43に,ヘッドコア4のギャップ下の強磁性膜13が磁気飽和状態
となる程度の微小直流電流を磁気記録タイミングに同期させて印加
し,記録用コイル41には磁性膜12への記録用電流を印加すれば,
強磁性膜13の厚さによるスペーシング損がほとんどない状態にて
前述したように記録を行うことができる。・・・
再生の場合には,第5図を参照して,ヘッドコア4のギャップ下
の強磁性膜13が磁気飽和状態になければ,前述した如く磁気記録
媒体1を移動させても磁化された磁性膜12の残留磁気は強磁性膜
13との間で閉磁路を形成してヘッドコア4のギャップには磁束変
化が起こらないが,磁気飽和用コイル43にギャップ下の強磁性膜
13を磁気飽和させ得る程度の微直流電流を印加すれば,図中実線
で示すような磁性膜12を徹磁束路によって,磁性膜12における
残留磁気は再生用コイル42に磁束変化としてあらわれ,コイル4
2端から記録内容を大きな出力信号で取出し再生することができる。
しかも,記録,再生,磁気飽和を一つのヘッドコアで行うので強磁
性膜13を磁気飽和状態にするためのバイアス電流は,記録あるい
は再生に要する非常に小さなギャップ下領域のみを飽和させれば良
いので微少電流で済む。」(3欄16行ないし4欄7行)
(イ)本件意見書には,次のとおりの記載がある(乙8)。
a「これに対し,特開昭55−93514号公報(以下,引用例と略
称します)には,磁気記録再生機能を有する磁性膜上に保磁力の小さ
な磁性媒体が積層された磁気カード用の磁気カード記録再生装置が示
されていますが,この装置は磁性膜を記録再生するヘッドと磁性媒体
を磁気飽和させるヘッドとの二つのヘッドから成る装置でありま
す。」
b「更に上記構成の相異により本願は以下に述べる理由で効果の点で
も引用例に比してはるかにすぐれております。このことを添付した参
考図面第1図,第2図を参照して説明します。
第1図は引用例における磁気記録再生原理を示し,磁性媒体3を飽
和させるための第2のヘッド(図中一点鎖線)のギャップが第1のヘ
ッドのギャップ領域を含んでいるため,磁性媒体3は第1のヘッドの
ギャップ領域とその周辺領域とが飽和されることとなり,第1のヘッ
ドと磁性膜2との間には透磁率μ=1すなわち空隙に近い層(図中斜
線図)が存在することとなります。このような層を介して得られる再
生出力は,当然小さくなってしまいます。勿論,これは記録時におい
ても同様であります。
第2図は本願発明による磁気記録再生原理を示し,保護膜13に対
する飽和は記録再生ヘッド4で行われますからμ=1となる領域を,
図中斜線で示すように非常に小さくすることができ,記録再生ヘッド
4と磁性膜12との間に透磁率の大きな(例えば保護膜13の透磁率
が数千であればμ=数千),言い換えれば磁束の通り易い見かけ上ヨ
ークとなり得る領域が存在することとなります。したがって本願では
引用例に比して磁気飽和のためのバイアス磁束ははるかに少なくて済
むうえ,十分大きな再生出力を取り出すことができるのであり,記録
再生効率を引用例に比してはるかに高くすることができます。」
c第1図は,別紙図面3のとおりであり,第2図は,別紙図面4のと
おりである。
(ウ)また,本件補正書には,特許請求の範囲の欄について,「基体上に
形成された磁気記録用磁性膜上に保磁力の小さな強磁性体による保護膜
を形成した磁気記録媒体を使用し,前記磁性膜に対して記録再生を行う
ヘッドに,前記保護膜を磁気飽和させる手段を設けたことを特徴とする
磁気記録再生装置」の「前記保護膜を磁気飽和させる手段」の前に「,
該ヘッドを通して」との文言を挿入するとの補正をする旨記載されてい
る。
()テレフォンカード式公衆電話機に関する電電公社への納入関係
電電公社は,テレフォンカード式公衆電話機の発注に関して,磁気ヘッド
を被告に,カードリーダ及びそれが内蔵された公衆電話機を安立電機及び田
村電機にそれぞれ発注した。また,電電公社は,テレフォンカードを,昭和
56年9月から昭和60年7月までの間は,被告に独占的に発注し,同年8
月からは,被告と他の1社に発注した。
()本件発明に関する被告と電電公社との契約等
被告と電電公社とは,昭和54年12月18日,被告及び電電公社が,本
件特許権を,自己の業務に使用するため,第三者に実施させる場合には,当
該第三者にその実施を無償で許諾する旨の合意を含む本件覚書合意を締結し
た。
被告は,電電公社がカードリーダないしその資材を他社に発注したことに
ついて,電電公社又はその発注先から一切金銭を受領していない。
()本件発明の実施について,被告が受領した金銭
被告は,公衆電話機用カードリーダの製造,販売について,本件発明の実
施に係る実施料を得ていない。
ただし,被告は,田村電機に対し,公衆電話機用カードリーダ以外のカー
ドリーダについて,本件発明を実施許諾しており,これにより,同社から,
合計8616万1035万円の実施料を得た。
なお,被告は,カードリーダである磁気記録再生装置の製造,販売はして
おらず,本件発明を実施していない。
()テレフォンカード式公衆電話機の関連製品の売上げ等
アカードリーダの販売台数及び販売代金
公衆電話機用のカードリーダの納入業者は,田村電機及び安立電機のみ
であり,両社によってNTTに納入されたカードリーダは,平成8年に7
万9000台(115億円),平成9年に7万7000台(110億円),
平成10年に7万4700台(104億円),平成11年に7万2000
台(99億円)であった。
イテレフォンカード式公衆電話機の販売台数
テレフォンカード式公衆電話機の販売台数は,平成6年度までは毎年増
加したが,その後は漸減した。
ウテレフォンカード
被告は,昭和57年に,テレフォンカードを8万枚,電電公社に納入
(初出荷)し,また,昭和61年から62年までの間,テレフォンカード
を,毎月1200枚ないし1800枚生産し,これをNTTに納入した。
NTTは,昭和63年3月までに,テレフォンカードを,4億4800
万枚販売した。また,NTTは,テレフォンカードを,平成8年には3億
7990万枚(2574億円),平成9年には3億3500万枚(230
0億円),平成10年には2億6200万枚(1900億円),平成11
年には2億1000万枚(1500億円)販売した。
()原告と被告との訴訟前の交渉
ア被告は,原告が本件発明に係る特許を受ける権利の共有持分を被告に承
継させたことについて,その補償金の額の交渉をすべく,平成17年3月
31日,被告の知財部長であるK及び知財部マネージャーであるLに,原
告が当時勤務していた会社を訪ねさせた。その際,K及びLは,被告の職
務発明規程では,出願公告の年から5年毎に補償するが,平成6年までは,
本件発明の実施の実績はないから補償金は発生しないこと,平成7年から
平成9年までの実施料収入については,本件発明は,職務発明規程の特級
に該当するから,その補償金は30万円となること,平成10年から平成
11年までの実施料収入については,本件発明の等級は3等級に該当する
から,その補償金は5万円となること,上記30万円と5万円の合計額3
5万円を共同発明者である原告と乙で等分すると各17万5000円とな
ること,以上より,原告に対して支払うべき補償金の額は17万5000
円となることを説明し,本件特許の補償金として,17万5000円を提
案した。
これに対して,原告は,被告が得た本件発明に係る実施料収入について
の裏付け資料や補償金額の具体的な計算方法についての開示を求め,被告
側の上記提案に同意しなかった。
その後も,被告と原告との間で,本件発明についての上記補償金の額に
ついての交渉が続けられたが,合意に至らず,本件訴訟が提起された。
イなお,上記の交渉において,被告から,原告に対して,資料を提示して,
被告における平成14年以前の発明考案管理規程の内容が示されたが,同
発明者管理規程の内容は次のとおりである(甲10の2)。
(ア)公告の年から5年後に最初の補償をし,以後,権利満了まで5年毎
に補償する。
(イ)補償金の額は,特級,1級ないし6級に分けて,特級は30万円,
1級は10万円,3級は5万円,4級は4万円,5級は2万円,6級は
1万円とする。
2本件発明と電電公社発明の関係(本件発明は,電電公社発明の改良発明か)
(争点())について
()上記争いのない事実等で判示したとおり,電電公社特許出願は,昭和5
4年1月9日に,本件特許出願は,同年8月24日にされた。
()前記1()で認定した電電公社特許出願書類(甲52の1)及び本件特許
公報(甲13)の記載からすれば,電電公社発明及び本件発明とも,偽造等
を防止するための保護機能を設けた磁気カードの記録再生装置に関するもの
であり,その磁気カードの構造としては,磁気記録再生機能を有する磁性膜
上に,保磁力の小さな保護膜を積層させるという構成を採用し,このような
磁気カードに記録再生するためのカードリーダの構成は,保護膜を磁気飽和
させて,その状態で,記録再生を行うというものであり,上記両発明は,こ
れらの構成(以下「両発明共通構成」という。)で共通する。
ただし,保護膜を磁気飽和させる手段について,電電公社発明は,カード
リーダに記録再生用ヘッドとは別の磁気飽和用の磁気ヘッドを設けて,その
磁気ヘッドにより保護膜を磁気飽和させるのに対し,本件発明は,記録再生
用ヘッドが磁気飽和用の磁気ヘッドを兼ね,この磁気ヘッドによって保護膜
を磁気飽和させるものであり,この点で,両発明は異なる。
()アそこで,検討するに,電電公社発明及び本件発明においては,両発明
共通構成が重要な技術思想であり,保護膜を磁気飽和させるための磁気ヘ
ッドを記録再生用磁気ヘッドとは別に設置するか,それとも,記録再生用
磁気ヘッドで磁気飽和用ヘッドを兼ねるかという問題は,上記技術思想を
基礎とした上で,その磁気飽和手段を各々限定したものにすぎないと解さ
れる。
すなわち,保護膜を磁気飽和させるという両発明共通構成は,当時の一
般の記録再生ヘッドを利用した磁気カードの偽造悪用を防止するものであ
り,磁気カードを使用したカードリーダにとって,新規の重要な技術思想
であると認められる。一方,保護膜を磁気飽和させるための磁気ヘッドを,
記録再生用磁気ヘッドとは別に設置するか,あるいは,記録再生用磁気ヘ
ッドと兼用するかについては,磁気飽和させるために保護膜に磁束を印加
するという観点からみれば,その差異は,重要な技術思想に基づくもので
はなく,あくまでも改良の域を出ないものであり,磁気飽和用ヘッドの具
体的構成を各々限定したものにすぎないのである。
イこの点,原告は,電電公社発明の記録再生原理では,保護膜が磁気飽和
状態にあると,その部分はもはや磁性材料として作用しないため,記録再
生用磁気ヘッドと磁性膜間に空隙ができた状態になり,記録再生用コイル
に電流を印加することで発生した磁束の大部分は,保護膜を通過すること
ができず,したがって,電電公社発明の記録再生原理では,実際には,記
録再生ができないこと,これに対し,本件発明の記録再生原理では,記録
再生用磁気ヘッドの磁気ギャップ部近傍の保護膜だけを磁気飽和させ,磁
性膜の記録部分に対応する残りの保護膜を磁気ヨークとして利用すること
で,記録再生用磁気ヘッドと磁性膜との間隔のない状態で記録再生を行う
ことを実現したのであり,本件発明は電電公社発明の改良発明ではなく,
基本発明である旨主張し,戊教授が原告の依頼に基づき作成した「鑑定
書」(甲57。以下「戊意見書」という。)にも同趣旨の記載がある。
確かに,電電公社発明の実施例である電電公社発明図面の構成を前提と
すれば,同構成では,磁気飽和用ヘッドの幅が広く,磁気飽和される保護
膜の範囲が広くなるため,十分な磁束を加えない場合には,原告が主張す
るように,記録再生ができない場面が生ずることが想定される。
しかしながら,前記1()オで認定した甲37報告書の記載によれば,
電電公社発明図面のような構成においても,保護膜に十分な磁束を加えれ
ば磁性膜からの信号を再生することが可能であることが明らかである。し
かも,電電公社発明は,電電公社発明図面の構成に限定されるわけではな
く,電電公社発明においても,例えば,磁気飽和用ヘッド自体の(磁気カ
ードの長手方向に関する)幅を記録再生用磁気ヘッド間の間隔と同程度に
すれば,磁気飽和部分が本件発明と同様に限定されることにより,本件発
明と同様の機序によって記録再生することができると考えられる。
なお,この点,戊意見書においても,電電公社発明の構成では記録再生
が極めて困難であることの理由として,「電電公社のいずれの特許公報に
おいても,リング型ヘッド直下にある軟磁性膜を,ヘッドの空隙長に比べ
て広い範囲にわたって飽和させるために,記録と再生のいずれにおいても,
飽和磁化された軟磁性膜は記録用磁性膜に対してはスペーシングとして働
き,記録時にはヘッドからの磁界が届き難く,再生時には記録磁性膜から
の弱い磁束を引き込み難くする。」と記載されており,同記載からすれば,
電電公社発明の構成によっても,磁気飽和用ヘッドによって磁気飽和させ
る範囲を,ヘッドの空隙長と同程度のものにすれば,記録再生が困難とは
ならないものと認められる。
また,戊意見書には,上記の記載の他に,「電電公社のいずれの特許に
おいても,軟磁性膜を飽和磁化させるために,記録再生ヘッドを空隙の大
きなヨークをもつ磁気飽和用ヘッドコアで記録再生用ヘッドのコアを挟ん
でいる。」,「電電公社の・・・発明による磁気ヘッドは,記録再生ヘッ
ドとは別個の磁気飽和用コアを,記録再生用磁気ヘッドを挟んで置き,記
録膜の磁化とは直交する方向に広範囲にわたって軟磁性膜を飽和磁化させ
るもので,・・・」との記載があり,このことからすると,戊教授は,電
電公社発明が同特許公報の実施例のものに限定されるとの理解の上に,自
己の見解を述べているものと認められ,同見解にはその前提において誤り
がある。
ウまた,原告は,本件発明では,磁性媒体にパーマロイ材やセンダストな
どの高透磁率磁性材を使用することにより,電電公社発明とは比較になら
ないほど大きな効果を生じることを理由に,本件発明が電電公社発明の改
良発明でない旨主張するが,本件発明が磁性媒体を規定するものでないこ
とは明らかであるから,原告の上記主張は,それ自体失当といえる。
エそうすると,本件発明は,前記アのとおり,保護膜を磁気飽和するとい
う技術思想を採用したこととの関係でみる場合,同思想を偽造防止機能を
有する磁気カードの記録再生装置に初めて採用した電電公社発明の改良と
して位置付けられるものであり,原告が主張するような,電電公社発明と
は異なる基本発明であるということはできない。
ただし,本件発明が,スペーシング損失の観点から電電公社特許とは異
なる技術的意味を明らかにした上で,磁気飽和ヘッドを別途設けない構成
を採用したことは,相応の意義を有するとともに,製造コストの低減化や
省スペース化という普遍的な技術課題の観点からも,一定の効果を有する
ものと認められる。
オしたがって,本件発明は,電電公社発明とは別の基本発明ということは
できず,電電公社発明の改良発明であり,改良の点に相応の意義があるも
のの,磁気飽和の技術思想との比較において,その重要性は限定されたも
のと解される。
3本件発明により被告が「受けるべき利益」の額(争点())について
()特許法35条4項所定の「発明により使用者等が受けるべき利益の額」
の算定においては,使用者等が特許権を有していれば,通常,その特許権の
客観的価値に見合う利益を得ているものと考えられること,発明の客観的価
値は,当該発明の分野に限らず,広範囲にわたる社会の様々な状況の影響を
受ける以上,使用者等が特許権の利用により実際に受けた利益の額を離れて,
その客観的な価値を算定することは極めて困難であることから,他に使用者
が受けるべき利益の価値を表す特段の事情が認められない限り,使用者等が
当該特許権の利用により実際に受けた利益の額を基礎とするのが相当である。
()以上を前提に,本件発明により使用者である被告が受けるべき利益の額
について検討する。
ア前記1()及び()で認定したように,被告は,本件発明を実施しておら
ず,本件発明を他社(田村電機)に実施許諾したことにより得た利益は,
全部で8616万1035円であるところ,同金額は,本件発明により被
告が受けるべき利益の額に相当するものと認められる。
イところで,電電公社は,前記1()で認定したとおり,テレフォンカー
ド式公衆電話機用のカードリーダを安立電機及び田村電機に発注している
ところ,同カードリーダは,本件発明の実施品であると推測されることか
ら,安立電機及び田村電機の上記カードリーダの製造,販売に関して,被
告が受けるべき利益が存するか否かについて,以下,検討する。
(ア)前記1()及び()で認定したところからすれば,電電公社は,製造
部門を有さず,必要とされる電気通信資材をすべて外部に発注すること
により,入手していたが,電気通信資材は,品質,性能の安定性が特に
要求されること,その多くは,電電公社仕様による特注品であり,電電
公社以外に販路がないこと等の特殊性があり,このような特殊性から,
電電公社は,公社でありながら,電気通信部材のほとんどを随意契約に
よって発注し,その発注先を信頼性のある特定の企業とし,発注に当た
っては,企業の技術力や納入実績,電電公社への貢献度等の他,1社独
占の弊害の回避等の観点も考慮して,特定の企業を選定し,選定した企
業に対しては,技術指導をしながら,対象製品の開発,製品化を共同で
行い,その製品の構成,品質,材料等についても厳しく指示,管理を行
っていたものと認められる。
(イ)そして,前記1()の認定事実に前記(ア)の事実を併せ考慮すれば,
安立電機及び田村電機は,電電公社から,カードリーダ及びそれが組み
込まれた公衆電話機の発注を受ける前から,その具体的な仕様,材料等
について,電電公社の指導,監督の下,電電公社と共同でこれらを開発
したこと,同カードリーダに取り付ける磁気ヘッドについては,電電公
社の指示により,被告の製造した製品を使用し,その他の材料等につい
ても,同様に,電電公社の指示に従っていたものと推測されること,公
衆電話機の品質についても,電電公社からの厳しい指揮,管理が行われ
ていたこと,安立電機及び田村電機が製造した公衆電話機は,すべて電
電公社に納入することを予定しており,実際にも,他に販売していない
ことが推認される。
(ウ)以上のような電電公社と安立電機及び田村電機との関係に基づけば,
安立電機及び田村電機のテレフォンカード式公衆電話機の電電公社への
納入における,カードリーダの製造は,電電公社自身による製造と評価
するのが相当であり,したがって,電電公社が,安立電機及び田村電機
にテレフォンカード式公衆電話機用のカードリーダを製造させたことは,
電電公社が,本件特許権の共有者として,被告の同意を要せずに実施す
ることができるものである(特許法73条2項)。
そうすると,安立電機及び田村電機が製造し,電電公社に納入したテ
レフォンカード式公衆電話機に内蔵されているカードリーダが,仮に,
本件発明の実施品であったとしても,安立電機及び田村電機の上記行為
について,被告は,実施料を取得することができないから,被告が「受
けるべき利益」も認められない。
ウ次に,原告は,被告は,本件発明を電電公社との共同で特許出願するこ
とにより,●(省略)●旨規定した本件覚書の7条の不利益を補うものと
して,電電公社からテレフォンカード及び磁気ヘッドの発注を独占的に得
ることができたのであり,これらの事業によって得た利益も「被告が受け
るべき利益」の算定の基礎とすべき旨主張するので,この点について,以
下検討する。
(ア)被告は,前記1()で認定したとおり,電電公社から,テレフォン
カード式公衆電話機の磁気ヘッド及びテレフォンカードの発注を独占的
に受けたものと認められる(テレフォンカードについては,昭和56年
9月から昭和60年7月までの間は,被告のみが独占的に発注を受け,
同年8月からは,被告と他の1社が発注を受けた。)。
(イ)ところで,前記1()エで認定したとおり,甲31報告書によれば,
昭和54年4月20日に横須賀通研で行われた,電電公社社員と被告社
員との打合せにおいて,●(省略)●旨の話があったところ,このよう
な重要な事項を,丙が,当該事項が後に変動する可能性のある時期に,
発注先である被告に告げることは考え難いこと,前記1()で認定した
とおり,実際にも,上記の話の内容のとおりの発注がなされたことから,
電電公社としては,上記の時点で,磁気ヘッド及びテレフォンカードの
発注先を被告にすることを事実上決定していたものと認められる。そし
て,上記1⑶において認定した事実によれば,本件発明は,昭和54年
7月18日ころまでに完成したものと認められるところ,電電公社が,
磁気ヘッド及びテレフォンカードの発注先を被告にすることを事実上決
定していた上記の時期は,本件発明は完成しておらず,また,電電公社
としても,テレフォンカード式公衆電話機について,電電公社発明とは
別の特許出願がされるとは認識していなかったものと推認される。
しかも,本件発明は,前記2で判示したように,電電公社発明の改良
発明であるところ,原告及び乙は,前記1()で認定したとおり,電電
公社から,電電公社発明の構成について開示を受け,それを基に,研究,
開発を進め,本件発明を完成させたのであるから,被告が,本件特許を,
電電公社との共同出願としたのは当然のことである。
したがって,被告が,電電公社からの磁気ヘッド及びテレフォンカー
ドの発注を独占できたことは,被告が本件発明を電電公社との共同出願
としたこと,又は被告が本件特許権を共有していることとは,関係がな
いことが明らかである。
(ウ)この点,原告が作成した甲46報告書には,前記1()テで認定し
たように,●(省略)●記載がある。
しかしながら,原告が甲46報告書を作成したのは,前記1()テで
認定したとおり,昭和55年1月12日であり,甲46報告書で引用さ
れている丙の言葉は,それよりも4か月以上前に聞いたものであること
から,上記の記載内容が丙の言葉を正確に反映したものであるかは疑問
があるところであり,甲31報告書に記載された,昭和54年4月20
日の打合せにおける丙の発言内容に照らして,上記記載内容と同趣旨の
発言を丙がしたものと認めることはできない(なお,甲31報告書は,
報告対象である打合せが行われた日から4日後に作成されている。)。
また,仮に,丙が同趣旨の発言をしたとしても,それは,本件発明が共
同出願された後のことであるから,共同した特許出願人である被告の立
場を尊重したものとも解され,同発言により,それ以前に被告に対する
磁気ヘッド及びテレフォンカードの発注が事実上決定されていた旨の前
記認定事実が左右されるものではない。
エ以上のとおり,本件においては,他に使用者が受けるべき利益の価値を
表す特段の事情も認められないことから,本件発明により被告が受けるべ
き利益の額は,被告が本件発明を実施許諾をしたことにより得た8616
万1035円になるものといえる。
4被告の貢献度(争点())について
()被告と電電公社との関係
前記1()で認定したように,電電公社は,必要な電気通信用資材を,そ
の製造を他社に発注することにより,入手しているが,その発注は,主に随
意契約によって行われ,随意契約の相手方は電電公社と関係の深いファミリ
ー企業に集中しており,被告も電電公社のファミリー企業の一員である。
()本件発明がされた経緯の特殊性
前記1()で認定したように,被告は,電電公社がテレフォンカード式公
衆電話機の開発をしているとの情報を入手したため,社員を電電公社に訪問
させたところ,電電公社の社員から,上記開発の内容の説明を受け,さらに,
当時,特許出願を予定していた電電公社発明の構成の開示を受けた。そこで,
被告は,その内容を基に検討を重ねた結果,電電公社の上記開発に参加する
ことを決定し,電電公社にその旨申し入れたところ,電電公社の了解を得て,
本件プロジェクトを発足し,その中で,本件発明を完成させたものと認めら
れる。
本件発明が完成した経緯は,上記のとおりであり,本件発明の完成には,
被告が電電公社のファミリー企業の一員であることが大きく貢献しているも
のといわなければならない。すなわち,被告が,電電公社がテレフォンカー
ド式公衆電話機の開発をしているとの情報を入手したこと,電電公社に社員
を訪問させ,電電公社から,上記開発の内容についての説明及び電電公社発
明の内容の開示を受けたこと,電電公社の上記開発に参加したい旨の被告の
申入れが電電公社に了承されたことが,いずれも本件発明が完成した不可欠
の要因と解されるところ,上記の各事実は,被告が電電公社のファミリー企
業であることによって可能となったものということができる。特に,前記2
で判示したように,本件発明は,電電公社発明の改良発明であるから,被告
が,電電公社から,電電公社発明の内容の開示を受けなければ,原告及び乙
が本件発明を完成させることは困難であったことは明らかであるところ,電
電公社発明の開示を受けられたのは,被告が電電公社との間に,密接な関係
を築き上げてきたことによるのであり(被告は,電電公社から,その特許出
願前に,電電公社発明の開示を受けているが,このようなことは通常では考
え難いことであり,被告と電電公社との関係が相当に密接なものであったこ
とが伺われる。),この点の被告の貢献は極めて大きいものといえる。
()被告の技術蓄積
被告は,前記1()アで認定したとおり,従前から,磁気ヘッドに関する
優れた技術を有しており,また,●(省略)●作成の回答書(乙15の2)
によれば,電電公社は,被告について,従前から,磁性材料及び磁気ヘッド
の開発において実績があり,優れた技術力を有していると評価していたこと
が認められる。
()被告による育成
原告は,前記1()イで認定したとおり,昭和43年に被告に入社し,入
社当初から,中央研究所加工技術研究室に配属され,磁気ヘッドの開発に従
事し,昭和46年9月から昭和48年8月までの間は,磁気ヘッド開発課に
配属され,産業用磁気ヘッドの開発,事業化の業務に従事した。
()小括
以上の事情を総合考慮すると,本件発明に関する被告の貢献度は,95パ
ーセントと認めるのが相当である。
5本件発明の発明者間における原告の貢献割合(争点())について
()電電公社側社員(丙及び丁)と被告側社員(原告及び乙)間の貢献割合
前記1で認定したとおり,電電公社発明は,被告が本件プロジェクトを開
始する前に,既に,丙及び丁によってほぼ完成されており,原告及び乙は,
電電公社発明の構成の開示を受け,同構成を基に,テレフォンカード式公衆
電話機用のカードリーダの開発を進めていき,本件発明の構成に想到したも
のであるところ,前記2で判示したとおり,本件発明は,電電公社発明とは,
両発明共通構成の点で共通しており,両発明で異なる点は,電電公社発明に
おいては,記録再生用磁気ヘッドとは別に磁気飽和用ヘッドを設け,同磁気
ヘッドにより,保護膜を磁気飽和させるのに対して,本件発明は,記録再生
用磁気ヘッドにより保護膜を磁気飽和させ,記録再生用磁気ヘッドとは別に,
磁気飽和用ヘッドを設けないこととし,その構成を採用するについて,電電
公社発明とは異なる技術的意味を明らかにした点である。そして,本件発明
が,異なる技術的意味を踏まえて当該構成を採用したことは,相応の意義を
有するとともに,1つの磁気ヘッドで記録再生用及び磁気飽和用を兼用した
ことも,記録再生用磁気ヘッドとは別に磁気飽和用ヘッドを設ける構成と比
較して,製造コスト低減や省スペース化の観点から効果を有するものという
ことができる。他方,前記2で判示したとおり,本件発明において,両発明
共通構成(とりわけ,保護膜を磁気飽和するという技術思想を採用したこ
と)が新規であり重要な点であること,電電公社発明における上記技術思想
からみれば,記録再生用磁気ヘッドとは別に磁気飽和用ヘッドを設ける構成
は重要な技術思想に基づくものではなく,改良的なものであること,電電公
社発明の構成でも,保護膜に十分な磁束を加えれば,本件発明と同様の記録
再生ができること等が認められる。これらの事情を総合考慮すると,本件発
明の完成に対する,丙及び丁の貢献割合の合計は65パーセントであり,原
告及び乙の貢献割合の合計は35パーセントと解するのが相当である。
()原告と乙間の貢献割合
ア本件発明が完成するに至った経緯は,前記1()で認定したとおりであ
り,本件プロジェクトの磁気ヘッドの開発部門においては,原告が被告内
における責任者であり,乙は,原告の補助者であったところ,原告は,本
件プロジェクトが立ち上がると,まず,必要と思われる実験を検討し,そ
の実験に使用するカードリーダを製作し,また,乙に命じて,実験の準備
をさせたこと,原告は,昭和54年3月19日及び同月20日に被告の仙
台事業所に出張し,同事業所で,乙らと共に,原告が必要と考えた実験を
実際に行い,その実験データを東京事業所に持ち帰り,同データを基に,
検討を重ねていったこと,本件プロジェクトの進捗状況に関する被告社内
向けの報告書や電電公社向けの報告書は,ほとんどすべて原告が作成し,
電電公社との打合せも,原告が出席し,乙が出席していないことなどを考
慮すれば,本件プロジェクトの磁気ヘッド開発は,実質的にも,原告が主
体となり,乙が原告を補助するという形で進められたものと認められる。
イ(ア)原告及び乙が,本件発明の着想を得て,それを完成するに至った経
緯については,本件証拠上,必ずしも判然としないが,まず,本件発明
が完成した時期及び経緯については,以下のとおりであると認められる。
すなわち,前記1()で認定したとおり,原告は,社内報告用に,昭
和54年6月付けで作成した甲37報告書において,「直流バイアス付
加磁気ヘッド及び記録再生方式について特許出願する。」と記載してい
るところ,甲37報告書の記載内容及びそれまでの報告書等において電
電公社発明のバイアス磁界印加の方法が「直交方式」などと表示されて
いることからすると,上記の「直流バイアス付加」とは直流バイアス方
式を意味するものと解されること,原告は,同年7月18日には,本件
発明についての特許出願用の書面である本件発明考案届出書を作成し,
同書面に,本件発明の構成を記載するとともに,図面の欄には,本件特
許出願の願書に添付した図面と同一の内容を示す図面を記載しているこ
と,原告は,同年6月29日付けで作成した甲38報告書において,本
件発明の構成とは異なるものの,保護膜がヨーク効果を発揮しているこ
とを記載して,保護膜がヨークとして機能することに着目するに至って
いると考えられること,その他,本件全証拠によっても,甲37報告書
及び甲38報告書作成以後に,本件発明を完成させるための実験が行わ
れたとは認められないことからすれば,原告は,遅くとも甲38実験が
行われたころの時点で,本件発明をほぼ完成させていたものと認められ
る。
なお,原告が作成した被告社内向け又は電電公社向けの報告書等は,
ほとんどが,電電公社発明による直交バイアス方式の磁気ヘッドを用い
るものであり,本件発明の構成を用いた実験を示すものは認められず,
また,上記のとおり本件発明がほぼ完成した後も,電電公社発明による
直交バイアス方式の磁気ヘッドの問題点に関する実験(甲39実験)を
行っているが,本件プロジェクトは,電電公社からの技術の開示を受け
て,その実用化を目指して始められたものであって,実用化の観点から
の電電公社発明に係る構成の検証が求められ,その結果を示す必要があ
ったと推認される(現に,電電公社側は,上記1⑶ケ認定のとおり,昭
和54年7月26日の時点まで,電電公社発明による直交バイアス方式
の構成での実用化を検討していたことが認められる。)から,上記報告
書等により,本件発明の完成時期や原告の関与についての上記認定が左
右されるものではない。
(イ)次に,乙が本件発明の着想を得て本件発明を完成させた経緯につい
て検討する。
a乙作成の陳述書(乙16。以下「乙陳述書」という。)には,「ま
ず,電電公社の方式を追試して問題点を洗い出すために,ヨーク(磁
気飽和用ヘッド)を保護膜に接着させて再生実験をしてみました。す
ると,ヨークに強い電流を流しても十分な磁気飽和が生じていないこ
とに気づきました。この実験結果から,私は,実際にはヨークから生
じる磁束は記録・再生用ヘッドに印加してしまい,ヨークで発生させ
ようとしていた磁界が再生用ヘッドを通じてバイアスを掛けているの
ではないか,そして再生用ヘッドに一端印加する際に磁束が漏れてし
まっているために,十分な磁気飽和がえられないのではないか,と推
測しました。この推測が正しいことを確認するために,次に,電電公
社方式とヨークに電流を流しつつ,これを保護膜に接着させない方式
との比較実験を行いました。・・・この実験は,電電公社(横須賀電
気通信研究所)への報告書(甲第14号証)1頁では,『1−1ヨー
クからの直交バイアス磁界効果について』(1頁)で引用されるFi
g1(5頁)に記載されています。・・・この実験結果から,私の上
記推論が正しいとの自信を持ちました。」と記載されている(6項)
が,同記載中の,ヨークを保護膜に接着させない方式との比較実験は,
その実験内容から,甲39実験を指すものと認められるところ,甲3
8報告書及び甲39報告書の作成日付及び文書番号からすると,甲3
9報告書でその内容が報告された甲39実験は,甲38報告書でその
内容が報告された甲38実験が行われた後に行われたものと推測され,
一方,原告が本件発明をほぼ完成した時期は,前記のとおり,甲38
実験が行われたころであるから,乙が,磁気飽和用ヘッドから生じる
磁束が記録再生用磁気ヘッドに印加しているとの推論が正しいと認識
したのは,原告が,本件発明をほぼ完成した後であるものと認められ
る。
また,乙陳述書には,上記の記載に続いて,「この実験結果を受け,
私は,最初からヘッドを一つにして記録再生用ヘッドに磁気飽和用の
電流を流した方が磁気飽和させるために効率的であると考え,記録・
再生用コイルに磁気飽和用コイルを巻き付けた実験を行うこととしま
した。」(7項)との記載があり,同記載から,乙は,甲39実験の
結果から,本件発明に着想できたものと認められ,その時期は,甲3
9実験の後であり,したがって,原告が,本件発明をほぼ完成した後
であるものと認められる。
bこの点,乙陳述書には,「わざわざ記録・再生ヘッドとは別に磁気
飽和用ヘッドを備えさせる意味があるのか私は疑問に思いました。・
・・このとき,私は,紙幣識別装置用の磁気ヘッド開発に携わってい
た際に,再生用コイルのほかに『もうひとつのコイル』を巻き付けた
磁気ヘッドがあったことを思い出し,この電電公社の方式の問題点を
解決するために,この磁気ヘッドをテレフォンカード用の磁気ヘッド
にも応用できるのではないかと考えました。」との記載があり(5
項),乙は,電電公社発明の開示を受けた当初から,本件発明の着想
を得ていたように供述する。
しかしながら,本件証拠上,乙の指摘する紙幣識別装置用の磁気ヘ
ッドがいなかる構成であるかについては,明らかでない。また,原告
は,紙幣には保護膜が形成されておらず,磁気飽和を行う必要性はな
いから,紙幣識別装置用の磁気ヘッドの構成を保護膜のある磁気カー
ド用の磁気ヘッドに応用するとの着想には飛躍がある旨指摘している
ところ,被告は,この点について具体的な反論をしない。そして,乙
において,本件発明の構成に従った実験等を行ったことを認めるに足
りる証拠もない。
そうすると,乙の上記供述を直ちに採用することはできず,乙が,
電電公社発明の開示を受けた当初から本件発明の着想を得ていたと認
めることはできない。
(ウ)以上より,乙が,仮に,原告とは別に,独自に,本件発明の着想を
得ていたと認められるとしても,その時期は,本件発明がほぼ完成した
後であるから,乙の本件発明の完成に対する貢献割合は低いといわざる
を得ない。
以上の事情を総合考慮すると,本件発明の完成に対する原告と乙との
間の貢献割合は,原告が90パーセント,乙が10パーセントと解する
のが相当である。
()小括
以上より,本件発明の完成に対する原告の貢献割合は,発明者全体に占め
る原告及び乙の貢献割合の合計である35パーセントに,原告と乙間におけ
る原告の貢献割合である90パーセントを乗じることにより,31.5パー
セントとなる。
6相当の対価額(結論)(争点())について
前記3ないし5で判示したとおり,本件発明により被告が受けるべき利益の
額は8616万1035円,本件発明に関する被告の貢献度は95パーセント,
本件発明の発明者間における原告の貢献割合は31.5パーセントであるから,
本件発明に係る特許を受ける権利の共有持分を被告に承継させたことによる相
当の対価額は,135万7036円(8616万1035円×5%×31.5
%=135万7036.30125円。1円未満は切り捨て。)となる。
そして,前記争いのない事実等で判示したとおり,原告は,本件発明に係る
特許を受ける権利の共有持分の承継の対価として,被告から,8000円の支
払を受けているのであるから,上記の相当対価額からこれを控除すると,被告
が原告に支払うべき金額は,134万9036円となる。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は,134万9036円及びこれに対する訴状送
達の日の翌日である平成18年11月22日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容
し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官山田真紀
裁判官佐野信

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