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裁判例


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平成21年8月27日判決言渡
平成21年(行ケ)第10022号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年7月7日
判決
原告インターナショナルフランチャイズ
ホールディング(ラブアン)リミテッド
訴訟代理人弁理士杉本ゆみ子
同石田知美
同鈴木智香子
被告特許庁長官
指定代理人馬場秀敏
同鈴木修
同酒井福造
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2008−3199号事件について平成20年9月24日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が,下記商標(本願商標)について商標登録出願をしたとこ
ろ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から
請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,本願商標が下記引用商標との関係で類似するか(商標法4条1項1
1号),である(下線は判決で付記)。

(1)本願商標
・商標
・指定商品
第30類
食品香料(精油のものを除く),茶,コーヒー及びココア,菓子「
及びパン,トマトソース,ケチャップソース,ドレッシング,マヨ
ネーズソース,マスタード,砂糖,はちみつ,糖蜜,食塩,その他
の調味料,香辛料,穀物の加工品,サンドイッチ,ハンバーガー,
ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,調味済スパゲッテ
ィ,イーストパウダー,酵母,ベーキングパウダー,米,脱穀済み
」のえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン
(2)引用商標
・商標
・指定商品
第30類
「アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリー
ム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コーヒー及
びココア,氷,菓子及びパン,調味料,香辛料,アイスクリーム
のもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,アー
モンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,
たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホッ
トドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,
酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす,米,脱穀
済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン」
・出願年月日平成16年11月16日
・登録年月日平成17年5月27日
・登録第4867330号
・商標権者株式会社アオキーズ・コーポレーション
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成18年5月2日,本願商標について商標登録出願(商願20
06−40747号。以下「本願」という。)をしたが,拒絶査定を受けた
ので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2008−3199号事件として審理した上,平
成20年9月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は同年10月6日原告に送達された。
(2)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商
標と引用商標とは,称呼を共通にする類似の商標であって,指定商品も同一
又は類似であるから商標法4条1項11号に該当する,というものである。
(3)審決の取消事由
しかしながら,商標法4条1項11号に該当するとした審決は,以下に述
べるとおり,誤りであるから,違法として取り消されるべきである。
ア本願商標のうち独立して自他商品の識別標識の機能を果たす部分の認定
の誤り
審決は,本願商標を構成する「ThePIZZACompany」
の文字部分は,独立して自他商品の識別標識としての機能を果たしうるも
のというべきであると認定した。
しかし,①本願商標においては,「The」「PIZZA」「Comp
any」の語が三段に記されていること,②本願商標を一見した際,最初
に目に付く部分は,全体を二重横長楕円の枠で囲まれた部分であり,中で
も他の文字よりも倍程度の大きさで記された「PIZZA」を中心とした
皿様図形の上に乗った文字上段の「The」と文字下段の「PIZZA」
の部分であること,③皿様図形の皿の柄に相当しうる部分に記されている
「Company」の部分と皿様図形の上に記されている「The」「P
IZZA」の部分とは,黒文字か白文字かという色の相違,皿の上か表面
かという位置の相違により,分離して認識するのが自然であることに照ら
すと,本願商標において,識別標識としての機能を果たすのは,「Th
e」「PIZZA」の部分である。
したがって,商標全体からいずれかの部分を分離して看取するのであれ
ば,「The」と「PIZZA」,そして「Company」部分とに分
離して看取すべきものである。
イ引用商標の片仮名文字「ピザカンパニー」の部分については,独占権と
して他人の登録を排除する効力を認めるべきではなく,商標法4条1項1
1号適用の範囲外であること
審決は,本願商標の「PIZZACompany」の文字に照応する
引用商標の「PIZZACOMPANY」及び「ピザカンパニー」の文
字が,特定の商品の品質等を表示する語として一般的に使用されているも
のとまではいい難い,と認定した。
しかし,引用商標は,片仮名文字で横一連に表記された「ピザカンパニ
ー」と,デザイン化された特殊な態様による欧文字で横一連に表記された
「PIZZACOMPANY」とを,上下2段に記載した態様からなる
ところ,「PIZZA」「COMPANY」の各語は中学生程度の英語力
で理解できるものであり,引用商標が上段に示す片仮名文字「ピザカンパ
ニー」はピザを売る店や会社という意味合いを直感させ,「ピザの製造会
社,販売会社」という特定の観念が生ずることは否定できないから,指定
商品「ピザ」との関係からは商品の品質等を表示するものとして商標法3
条1項3号に該当し,あるいは需用者が何人かの業務に係る商品であるこ
とを認識することができない商標として商標法3条1項6号に該当する。
そうすると,引用商標の片仮名文字「ピザカンパニー」の部分は,識別力
がないか若しくは僅少であるが,下段に示されたデザイン化された特殊な
態様による文字と共に構成されていることをもって識別機能が認められ,
商標登録がなされたものと思料される。そうであれば,片仮名文字「ピザ
カンパニー」の部分については,独占権として他人の登録を排除する効力
を認めるべきではなく,商標法4条1項11号適用の埒外と解すべきであ
る。
ウ本願商標と引用商標とは「The」の有無により識別可能であること
審決は,本願商標の「構成中の『The』の文字は,英語の定冠詞であ
るほか,『普通名詞の前に付いて,同類のものの中で特に代表的・典型的
なものとして強調する語』(株式会社研究社新英和大辞典第6版)とし
ても親しまれた語であることから,後に続く『PIZZACompan
y』の文字を,単に特定或いは強調するかのように使用されているものと
認識されるにすぎず,また,『The』の文字を冠したことにより別異の
意味合いを形成するに至ったものともいえないものである。さらに,『T
hePIZZACompany』の文字全体から生ずる称呼はやや冗
長であるといえる」(2頁29行∼37行)と認定した。
しかし,「The」の文字は,普通名詞の前に付くことで,そのものを
限定,特定,或いはその全体,種別を総括して指称するといった意味,機
能があり,定冠詞の有無以外は称呼が同じ商標が多数登録されている。
また,「Company」の語を含む商標が,指定商品が食品関係であ
る第29類ないし第39類において多数登録されていることからすれば,
「Company」の語の識別力は弱い。
さらに,本願商標が構成要素として含む「The」「PIZZA」「C
ompany」の各言葉は,前記のとおり,それぞれが慣れ親しんだ英単
語であり,三段に書かれた文字を「ザピザカンパニー」と一連に称呼した
としても全7音であり,冗長というほどのものではない。
以上からすれば,引用商標の「ピザカンパニー」と本願商標の「ザピザ
カンパニー」とは全体として音数も異なり,強調を示す語頭の定冠詞の有
無といった,語調,語感も相違するため識別可能である。
エ本願商標の称呼認定の誤り
審決は,簡易迅速を尊ぶ商取引の場においては,「ThePIZZA
Company」の文字中,「The」の文字部分を省略し「PIZZ
ACompany」の文字部分に着目して,これより生ずる「ピザカン
パニー」或いは「ピッツァカンパニー」の称呼をもって取引に資される場
合も決して少なくないと認定した。
しかし,①本願商標においては,前記のとおり,「The」と「PIZ
ZA」の文字が目立つように記載され,あえて「The」の文字を外して
称呼するまでもないこと,②昨今の日本人,特にピザを好んで食するよう
な若い人達の間では,「The」は独特の語感を有しており,「The
○○」と称することで,言葉を際立たせ,特別な言葉として使用している
こと,③「The」の文字が定冠詞であったとしても,省略せずに取引に
資する場合が少なくないことに照らすと,本願商標が「ThePIZZ
A」と称され,商取引において識別機能及び出所表示機能を発揮すること
も十分に考えられる。
オ本願商標と引用商標は外観非類似であること
本願商標と引用商標の外観は,前記のとおりであって,明らかに非類似
である。
そして,「花心」と「花神」(平成10年異議第92040号),「菜
/サイ」と「彩」(平成11年審判第19978号),「ファイン/Fa
印」と「ファイン/Fine」(不服2000−15521号),「龍」
と「辰/SUNTORY」(平成11年審判第14416号),「NA
S」と「NASU」(無効2003−35195号)のように,「称呼同
一であっても外観非類似」として併存登録を認める審決例が複数あること
に照らせば,本願商標と引用商標とは,非類似である。
カ小括
以上のとおり,本願商標と引用商標とは,称呼及び外観が非類似であ
り,構成も全く異にすることから,全体として非類似であり,本願商標は
商標法4条1項11号に該当しない。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は
認めるが,(3)(審決の取消事由)は争う。
3被告の反論
(1)本願商標の認定
ア本願商標の外観
本願商標は,二重の横長楕円形の内部に上から順に「The」の文字,
「PIZZA」の文字,横長帯状図形内に白抜きで表された「Comp
any」の文字を配置し,それらの下部に「“Flavouredt
oExcite”」の文字及び記号を表してなるものである。そし
て,その構成中,二重の横長楕円形及びその内部の文字等は,二重の横
長楕円形の存在により,また,大きさ及び位置関係からみて,「“Fl
avouredtoExcite”」の文字及び記号の部分とは視
覚的に分離されて看取されるものである。さらに,「The」,「PI
ZZA」及び「Company」の文字は,ありふれた書体であって,
特段デザイン化されているものでもないことから,本願商標の他の部分
と分離して認識されるものである。そして,本願商標に接する看者にと
って,その構成中,二重横長楕円形内部に存在する「The」,「PI
ZZA」及び「Company」の文字のうち,特に大きく,かつ,中
央に表された「PIZZA」の文字部分が視覚的に最初に認識されるも
のであるところ,その二重の横長楕円形の内部において,宙に浮いたよ
うに表された「The」に比べ,「PIZZA」の文字が「Compa
ny」の文字を白抜きで表した横長帯状図形の上にあたかも皿の上に載
せられたかのようにまとまりよく表されていることから,これらの文字
部分を「The」の部分と「PIZZA」及び「Company」の部
分の2つに分離して看取されることも十分にあり得るものである。
イ本願商標の称呼
本願商標の構成中,「“FlavouredtoExcite”」
の文字及び記号の部分は,「FlavouredtoExcite」
の文字部分が,「興奮させる味をつけた」程度の意味合いを理解させるも
のであり,本願の指定商品が食品であることからすれば,商品の品質等を
表示したものとして理解されるものであるから,自他商品の識別標識とし
て機能するものではない。
一方,二重の横長楕円形の内部に表示された「The」の文字,「PI
ZZA」の文字,及び横長帯状図形内に白抜きで表された「Compan
y」の文字については,「The」の文字は英語の定冠詞として,「PI
ZZA」の文字はイタリア語を基とする語であって英語においても「ピ
ザ,ピッツァ」の意味で普通に使用されている語として,「Compan
y」の文字は「仲間,人の集まり,会社」の意味を有する英語として,そ
れぞれ我が国においても親しまれているものである。そして,「PIZZ
A」の語は,「ピッツァ」又は「ピザ」という我が国において一般に親し
まれた外来語であり,「ピッツァ」及び「ピザ」の語は同義語として扱わ
れているから,「PIZZA」の文字部分は「ピッツァ」のほかに「ピ
ザ」と称呼される場合も少なくない。また,「The」の文字部分は,そ
の代表的語義が「その,例の,問題の」であるように,後に続く名詞中の
特定のものを限定する機能を有する定冠詞であり,「強いて訳さなくてよ
い場合が多い」とされている(株式会社研究社新英和辞典第6版1856
頁,乙4)ように,次に続く名詞に対する限定性ないし指示性の弱い語で
あり,「The」(the)の語が英語の初歩的な基本語として国民の間
に広く浸透していることからすると,この文字部分が有する限定性は弱
く,同部分の自他商品識別機能は薄弱であって,本願商標に接する取引
者,需要者が,二重の横長楕円形の内部に表示された文字のうち「PIZ
ZA」及び「Company」の文字部分のみに着目することは十分にあ
り得る。さらに,「PIZZA」及び「Company」の文字部分は,
「The」の文字とともに常に一体不可分のものとして別異の意味合いを
形成するに至ったものであるとの事実もない。
してみれば,本願商標は,「PIZZA」及び「Company」の文
字部分に相応して,「ピザカンパニー」及び「ピッツァカンパニー」の称
呼を生ずるものである。
ウ本願商標の観念
本願商標の「PIZZA」及び「Company」の各文字部分の意味
が上記のとおりであり,特に「Company」の文字が多様な意味を有
するものであることから,これらの中より特定の意味を抽出して結合した
「ピザ仲間,ピザ会社」といった程度の意味合いを想起することはあると
しても,これらを一連にした明確な意味を有する熟語等が存在していると
いえるものでもなく,特定の観念が生ずるとまではいえない。
(2)引用商標の認定
ア引用商標の外観,称呼及び観念
引用商標は,下半分を黒地に白抜きした「PIZZACOMPAN
Y」の欧文字で表し,その中央部分である「・・・ACOMP・・・」
の文字の上段に「ピザカンパニー」の片仮名文字を表してなるところ,下
段の欧文字部分は装飾的に多少デザイン化されてはいるが普通に採択使用
される範囲のものであって,「PIZZACOMPANY」の欧文字を
表しているものと容易に看取できるものである。そして,「PIZZA」
の文字が「ピザ,ピッツァ」を意味し,「COMPANY」の文字が「仲
間,人の集まり,会社」の意味を有する語であることは,それぞれ前記の
とおりであり,片仮名文字部分中の「ピザ」は「発酵させた小麦粉の生地
を薄くのばし,トマトソースや野菜・魚介・チーズなどさまざまな具をの
せ,焼いた食物。ピザパイ。ピッツァ。」(株式会社岩波書店広辞苑第6
版,2351頁,乙8),「カンパニー」は「会社。商会。商社。コンパ
ニー」の意味をそれぞれ有するものである(広辞苑第6版646頁,乙
9)。そうすると,引用商標は,「PIZZACOMPANY」の欧文
字部分に相応して「ピザカンパニー」及び「ピッツァカンパニー」の称呼
を生ずるものであり,上段の「ピザカンパニー」の片仮名文字部分から
「ピザカンパニー」の称呼を生ずるものである。
また,引用商標は,引用商標の各部分の意味が上記のとおりであること
から,「ピザ仲間,ピザ会社」といった程度の意味合いを想起することは
あるとしても,特定の観念が生ずるとまではいえない。
イ引用商標中の「ピザカンパニー」部分の自他商品識別力
原告は,引用商標の「ピザカンパニー」の部分には独占適応性を認める
べきでない旨主張する。しかし,引用商標に係る指定商品の各商品との関
係からみて,「ピザカンパニー」の文字が全体として商品の品質等を表示
するものとして認識されるようなものではない。引用商標の「ピザカンパ
ニー」の部分は,それのみでも十分に自他商品の識別力を有しているもの
であり,独占適応性を認めるべきでないとする理由はない。
また,仮に,引用商標の「ピザカンパニー」の部分が商品「ピザ」との
関係において識別力が弱いとしても,直ちにこの部分が自他商品の識別力
を欠くものであるとする理由はない。本願の指定商品と同一又は類似の引
用商標の指定商品は,「ピザ」のみではなく,「食品香料(精油のものを
除く。)」をはじめその他多数の商品を含んでいるものであることから,
引用商標が,下段に示すデザイン化された図形による識別機能が認められ
ることで登録されたものであるということはできない。
(3)本願商標と引用商標の類否
ア原告は,本願商標と引用商標とは称呼,外観上非類似であり,構成も全
く異にすることから,全体として非類似である旨主張する。
しかし,本願商標及び引用商標は,ともに文字のみによる構成態様では
ないものの,図形若しくは記号の付加又はデザイン化の程度は,文字を主
体として印象付けられる又は記憶される商標であることを凌駕する程のも
のではなく,両者はともに「ピザカンパニー」及び「ピッツァカンパニ
ー」の称呼を生じるものである。そして,両者の観念については,「ピザ
仲間,ピザ会社」といった程度の意味合いを想起することがあるとして
も,特定の観念が生ずるとまではいえないものであり,比較することはで
きない。また,本願商標中の「PIZZA」及び「Company」の文
字部分と引用商標中の「PIZZACOMPANY」の文字部分とは,
デザイン化の有無や大文字と小文字の相違があるとしても,単語の綴りと
して共通するものであり,外観において,近似した印象を与えるものであ
る。
イ商標の類否の判断に当たっては,商標が使用される商品における取引
者,需要者の通常有する注意力を基準として判断されるべきである。そし
て,本願商標の指定商品は,第30類に属する広範な商品を指定するもの
であり,そのすべてが引用商標の指定商品と同一又は類似するものである
ところ,本願商標及び引用商標に係るそれらの商品のほとんどは,安価に
購入され日常的に消費されるものであるから,その取引者,需要者が当該
商標につき細心の注意を払うことを期待することはできない。また,簡
易,迅速を尊ぶ取引の実際においては,電話を用いた口頭による取引を行
う場合も少なくないこと,ラジオによるコマーシャル等のように専ら称呼
による商品の宣伝広告が行われる場合があること,陳列棚に貼付された表
示札や多数の商品とともに掲載された宣伝広告チラシなどに商品の名称と
しての称呼を片仮名文字により表示されることが一般に行われていること
からすれば,上記の取引者,需要者が商品の同一性を識別するに際して
は,商標から生ずる称呼が極めて重要な要素となるというべきである。し
たがって,本願商標と引用商標とは,観念について比較することができな
いところ,外観については,商標全体としての外観に差異があるとして
も,「PIZZACompany」の文字部分と「PIZZACOM
PANY」の文字部分において近似した印象を与えるものであり,称呼に
おいて「ピザカンパニー」及び「ピッツァカンパニー」の称呼を共通にす
るものであるから,本願商標は引用商標と類似する商標というべきであ
り,審決の認定に誤りはない。
(4)その他の原告の主張に対し
原告は,引用商標中の「ピザカンパニー」の部分には独占適応性を認める
べきでない旨主張する。
しかし,引用商標に係る指定商品の各商品との関係からみて,「ピザカン
パニー」の文字が全体として商品の品質等を表示するものとして認識される
ようなものではない。引用商標中の「ピザカンパニー」の部分は,それのみ
でも十分に自他商品の識別力を有しているものであり,独占適応性を認める
べきでないとする理由はない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実
は,いずれも当事者間に争いがない。
2本願商標と引用商標の類否
原告は,審決が本願商標と引用商標が類似するとした判断は誤りであると主
張するので,以下この点について検討する。
(1)商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場
合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決す
べきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観
念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に
考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具
体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年2月2
7日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
そこで,以上の見地に立って,本願商標と引用商標の類否について判断す
る。
(2)ア本願商標についての検討
(ア)外観
a本願商標は,前記のように,二重の横長楕円形の内部に,上から順
に「The」の文字,「PIZZA」の文字,皿様図形の皿外側部分
に白抜きで表された「Company」の文字を配置し,二重横長楕
円形の外側の下部に「“FlavouredtoExcite
”」の文字及び記号を表してなるものである。
その構成中,二重の横長楕円形及びその内部の文字等は,二重の横
長楕円形の存在,大きさ及び位置関係からみて,二重横長楕円形の外
側下部の「“FlavouredtoExcite”」の文字及
び記号の部分とは視覚的に分離して看取され,かつ,「“Flavo
uredtoExcite”」の文字等の部分よりも先に本願商
標の要部をなすものとして認識されると認められる。
また,二重横長楕円形内部に存在する「The」,「PIZZA」
及び「Company」の文字の中では,特に大きくかつ中央に表さ
れた「PIZZA」の文字部分が本願商標を見る者に最も強い印象を
与える部分であると認められる。そして,「Company」の文字
が皿様図形の皿外側部分に白抜きで表されているのに対し,「Th
e」及び「PIZZA」の文字は黒い文字でかつ皿様図形の上に載っ
ているように表されていることからすれば,「The」及び「PIZ
ZA」の部分と「Company」の部分が分離して認識してされる
こともあり得ると考えられる。また,二重の横長楕円形の内部におい
て,宙に浮いたように表された「The」に比べ,「PIZZA」の
文字が側面に「Company」の文字を白抜きで表した皿の上に載
せられたかのようにまとまりよく表されていると考えれば,これらの
文字部分を「The」の部分と「PIZZA」及び「Compan
y」の部分との2つに分離して看取することもにあり得ると考えられ
る。
bなお,原告は,「The」,「PIZZA」,「Company」
の各文字部分は,「The」及び「PIZZA」と「Compan
y」とに分けて認識されるのが自然であり,本願商標のうち自他商品
の識別標識の機能を果たす部分は「The」及び「PIZZA」の部
分であると主張する。しかし,二重の横長楕円形の内部において,宙
に浮いたように表された「The」に比べ,「PIZZA」の文字が
側面に「Company」の文字を白抜きで表した皿の上に載せられ
たかのようにまとまりよく表されていることを考えれば,これらの文
字部分を「The」の部分と「PIZZA」及び「Company」
との部分の2つに分離して看取することもにあり得ることは上記のと
おりであるから,「The」及び「PIZZA」と「Compan
y」とに分けて認識されることもあり得るとことをもって,上記の認
定が覆るものではない。
(イ)称呼
a上記(ア)のとおり,二重の横長楕円形及びその内部の文字(The
PIZZACompany)等は,二重の横長楕円形の存在,大き
さ及び位置関係からみて,二重横長楕円形の外側下部の「“Flav
ouredtoExcite”」の文字及び記号の部分とは視覚
的に分離して看取され,かつ,それよりも先に本願商標の要部をなす
ものとして認識されると認められる。
bところで,「The」は英語の定冠詞である(新英和中辞典第6
版,乙4)。また,「PIZZA」はイタリア語を基とする語であっ
て,英語においても「ピザ,ピッツァ」意味する単語として使用され
ており(新英和辞典第6版,乙5),日本語においては,発酵させた
小麦粉の生地を薄くのばし,トマトソースや野菜・魚介・チーズなど
さまざまな具をのせて焼いた食物として,「ピザ」又は「ピッツァ」
と発音される(広辞苑第6版,乙8)。
一方,「Company」は「仲間,人の集まり,会社」の意味を
有する英語であり(新英和辞典第6版,乙6),日本語においては会
社,商会及び商社を意味する語として「カンパニー」と発音される
(広辞苑第6版,乙9)。
このように,「The」,「PIZZA」及び「Company」
の語は,それぞれ上記の意味内容及び発音を有するものとして,英語
に長けていない者も含め,広く一般に理解されている語である(乙5
ないし9,弁論の全趣旨)。
c上記a,bによれば,本願商標は,「ザ・ピザカンパニー」又は
「ザ・ピッツァカンパニー」の称呼が生じうる。
dまた,「The」の語は,その代表的語義が「その,例の,問題
の」であり,後に続く名詞中の特定のものを限定する機能を有する定
冠詞であり,「強いて訳さなくてよい場合が多い」とされている(新
英和辞典第6版,乙4)こと,本願商標の二重の横長楕円形の内部に
おいて宙に浮いたように表された「The」に比べ,「PIZZA」
の文字が,側面に「Company」の文字を白抜きで表した皿様図
形の上にあたかも皿の上に載せられたかのようにまとまりよく表され
ていると考えれば,これらの文字部分を「The」の部分と「PIZ
ZA」及び「Company」との部分の2つに分離して看取するこ
ともあり得ることに照らすと,「ピザカンパニー」又は「ピッツァカ
ンパニー」の称呼も生じうると考えられる。
eさらに,前記のとおり,「Company」の文字が皿様図形の皿
外側部分に白抜きで表されているのに対し,「The」及び「PIZ
ZA」の文字は黒い文字でかつ皿様図形の上に載っているように表さ
れていることからすれば,「The」及び「PIZZA」の部分と
「Company」との部分が分離して認識してされることもあり得
ると考えられ,そうすると,「ザ・ピザ」又は「ザ・ピッツァ」の称
呼も生じうると考えられる。のみならず,本願商標中,特に大きくか
つ中央に表された「PIZZA」の文字部分が,本願商標を見るもの
に最も強い印象を与える部分であると認められることを考えると,
「ピザ」又は「ピッツァ」の称呼も生じうると考えられる。
fなお,原告は,本願商標のうち自他商品の識別標識の機能を果たす
部分は「The」と「PIZZA」の文字部分であり,かつ,あえて
「The」の文字を外して称呼するまでもないなどと主張する。
しかし,「The」の語は,その代表的語義が前記のとおり「そ
の,例の,問題の」というものであって,後に続く名詞中の特定のも
のを限定する機能を有する定冠詞であり,強いて訳さなくてよい場合
が多いとされていること,本願商標の二重横長楕円形内の文字部分
は,「The」の部分と「PIZZA」及び「Company」との
部分の2つに分離して看取することもできることは前記のとおりであ
るから,「The」の語を外して称することがないということはでき
ず,原告の上記主張は理由がない。
(ウ)観念
「The」,「PIZZA」及び「Company」の各語の意味内
容が前記のとおりであること,本願の商標から生じうる称呼を併せ考え
ると,本願商標からは「ピザを製造,販売する会社」,「ピザ仲間」と
いった観念が生じうる。
イ引用商標についての検討
(ア)外観
引用商標は,前記のとおり,下半分を黒地に白抜きした「PIZZA
COMPANY」の大文字アルファベットで表し,その中央部分であ
る「・・・ACOMP・・・」の文字の上段に「ピザカンパニー」の
片仮名文字を表してなる。
(イ)称呼
その外観からすれば,「PIZZACOMPANY」のアルファベ
ット部分に相応して「ピザカンパニー」及び「ピッツァカンパニー」の
称呼を生じ,上段の「ピザカンパニー」の片仮名文字部分から「ピザカ
ンパニー」の称呼を生じる。
(ウ)引用商標の観念
「PIZZA」及び「Company」(引用商標では「COMPA
NY」)の各語の意味内容が前記のとおりであることからすると,引用
商標からは,「ピザを製造,販売する会社」,「ピザ仲間」といった観
念が生じうる。
ウ本願商標と引用商標の類否についての検討
(ア)上記ア,イの検討をもとに本願商標と引用商標を対比して判断する
と,いずれも「ピザカンパニー」又は「ピッツァカンパニー」の称呼を
生じうる点,「ピザを製造,販売する会社」,「ピザ仲間」といった観
念が生じうる点で共通する。また,デザイン化の有無や大文字・小文字
の相違があるにせよ,いずれも「PIZZA」及び「Company」
(引用商標では「COMPANY」)というアルファベット文字による
同一の単語を含んでいることに照らすと,両商標は外観上,近似した印
象を与えるものといえる。このように,称呼及び観念で共通するものが
あり,かつ外観上も近似した印象を与えることからすると,商品の出所
につき誤認混同を生ずるおそれがあるものとして本願商標は引用商標に
類似するというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(イ)原告の主張に対する補足的判断
a原告は,本願商標の称呼「ザピザカンパニー」と引用商標の称呼
「ピザカンパニー」とは全体として音数も異なり,強調を示す語頭の
定冠詞の有無といった,語調,語感も相違するため識別可能であると
主張する。
しかし,「ザ」の部分は英語の定冠詞「The」であり,「Th
e」の語を外して称することがないということはできないことは前記
のとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。
bまた,原告は,引用商標のうち片仮名文字「ピザカンパニー」の部
分が指定商品「ピザ」との関係で商品の品質等を表示するものとして
商標法3条1項3号に該当するか,あるいは需用者が何人かの業務に
係る商品であることを認識することができない商標として商標法3条
1項6号に該当するものであり,また,「ピザの製造会社,販売会
社」の観念を想起させるものとして識別力がないか若しくは僅少であ
るから,独占権として他人の登録を排除する効力を認めるべきではな
く,商標法4条1項11号適用の範囲外であると主張する。
しかし,前記のとおり指定商品として「ピザ」が指定されているの
であるから,引用商標のうち片仮名文字「ピザカンパニー」の部分が
単に商品の品質等を表示したものということはできない。
また,引用商標のうち片仮名文字「ピザカンパニー」の部分が「ピ
ザの製造。販売会社」を意味するものとして,ピザの特定の製造業者
や販売者を想起させるものではないことに照らすと,引用商標中の片
仮名文字「ピザカンパニー」の部分は商品「ピザ」との関係におい
て,自他商品を識別する力は強くないとはいうことができるものの,
本願商標と引用商標との類否の判断は,引用商標の一部分である片仮
名文字「ピザカンパニー」の部分のみでなく,その全体を本願商標と
対比して行うものであるから,引用商標中の片仮名文字「ピザカンパ
ニー」の部分の商品識別力が強くないからといって,本願商標と引用
商標が類似するとした上記判断が覆るものではない。
原告の上記主張は独自の見解に基づくものであって,採用すること
ができない。
3結語
以上によれば,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判
断に誤りはなく,原告主張の取消理由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官真辺朋子

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