弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人らの本件控訴を棄却する。
     原審及び当審における訴訟費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人椎木緑司、同椎木タカ、同平見和明の上告理由第一点について
 原審が適法に確定したところによれば、(1) Dは、昭和五三年一〇月二〇日上
告人との間で、Dが所有する本件自動車につき、保険期間昭和五三年一〇月二〇日
から昭和五四年一〇月二〇日まで、自損事故にかかる保険金額を一〇〇〇万円とす
る本件自家用自動車保険契約を締結した、(2) しかし、本件保険契約には、「保
険会社は、被保険者が、被保険自動車の使用について、正当な権利を有する者の承
諾を得ないで被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害に
ついては、保険金を支払わない。」旨の免責条項(以下「本件免責条項」という。)
がある、(3) Dは、Eとともに、大工の棟梁Fの下で働き、昭和五四年五月ころ
は、施主宅に泊り込んで仕事をしていたが、同月八日、EはDから本件自動車を借
り受け、これを運転して帰宅した、(4) Eは、帰宅した夜、Gら友人数名を自宅
に呼んで雑談中、Gが飲み物を買いに行くためEの了解を得て本件自動車を運転中、
路外石垣に激突して死亡するという本件交通事故が発生した、というのである。
 しかして、原審は、上告人は本件免責条項にいう「正当な権利を有する者」とは
記名被保険者に相当する者(記名被保険者、名義被貸与者)を指す旨主張するが、
記名被保険者から被保険自動車を借りてこれを使用する者も、一般に同車を使用す
るについて正当な権利を有する者であることが明らかであるから、記名被保険者が
転貸することを禁じて使用を許したというような特段の事情のない限り、借受人の
承諾を得て被保険自動車を運転した者は、正当な権利を有する者の承諾を得た者に
該当すると解するのが相当である旨説示したうえ、Eは、本件自動車の所有者であ
るDから同車を借り受けたのであるから、同車を使用するについて正当な権利を有
する者であり、Gは、右Eの承諾を得て本件自動車を運転していたものであるから、
本件交通事故は、「正当な権利を有する者の承諾を得ないで被保険自動車を運転し
ているときに」発生したものとはいえないとして上告人の免責の抗弁を排斥し、上
告人に対し保険金の支払を求める被上告人らの本訴請求を認容した。
 しかしながら、本件免責条項は、被保険者の範囲を保険契約の当事者が保険契約
締結当時通常被保険自動車を使用するものと予定ししかもその者の損害を保険によ
つて填補するのが相当と思料される記名被保険者及びこれに準ずる正当な使用権限
者に限定しようという趣旨で定められたものと解すべきであるから、前記免責条項
にいう「正当な権利を有する者」とは、一般的には賠償保険の記名被保険者に相当
する者(記名被保険者・名義被貸与者)をいうものと解するのが相当であり、した
がつて、記名被保険者から借り受けて被保険自動車を運転しているときにその借受
人について生じた傷害については、保険会社は保険金の支払を免れないが、記名被
保険者の承諾を得ないで右借受人から転借して被保険自動車を運転しているときに
その転借人について生じた傷害については、保険会社は保険金の支払を免れるもの
というべきである。
 そうだとすれば、以上と異なる原審の判断には、本件免責条項についての解釈適
用を誤つた違法があるものというべく、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすこと
が明らかであるから、この点を指摘する論旨は、理由があり、原判決は、その余の
論旨について判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。
 そして、原審の確定した事実関係に本件免責条項を適用すれば、上告人の免責の
抗弁は理由があるから、これと同旨に出て被上告人らの本訴請求を棄却した第一審
判決は正当であつて、これに対する被上告人らの控訴はいずれも理由がないものと
して、これを棄却すべきである。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次

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