弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人山田半藏の上告趣意第一、二点について。
 原判決の判示第一の末尾に「同人等の職務の執行を妨害し」とは判示しているが、
原判決の明らかに判示したところと挙示の各証拠によれば所論の暴行脅迫は大藏事
務官、A、B両名が被告人宅で同人の所得額を調査中に被告人が両事務官の面前に
おいてではあるがA事務官だけに加えたものであることが明らかである、また原判
決の法律適用の説示によれば判示第一事実には刑法九五条の規定だけを適用してい
るのみで同法五四条一項前段の規定を適用していないところから見ると、原判決は
所論の暴行脅迫による公務執行妨害罪はA事務官に対する一罪だけが成立するもの
と認定判示しているのであつて、特にB事務官に対する同罪をも認定した趣旨では
ないかと解するを相当とする。されば、原判決を目してB事務官に対する公務執行
妨害罪をも認定しているものと速断し、原判決挙示の証拠中には同事務官に対して
被告人が暴行脅迫を加えたことを認めるに足る証拠がないから、原判決には証拠理
由不備の違法があるとの論旨第一点並びに原判示はB事務官に対する公務執行妨害
罪の判示として不備であるとの論旨第二点はいずれも採ることができない。
 同第三点について。
 原判決挙示の各証拠によれば所論の被告人が直税課長席にいたA事務官に加えた
暴行は、A、B両事務官が署長に対して被告人宅において両事務官のした所得調査
の状況等職務に関する報告をしているときに被告人からA事務官が暴行されたため
に、やむなく署長への報告を一時中止して両事務官は署長室から出て自分等の執務
室たる直税課の室に行きA事務官は直税課長の席でB事務官と対談三〇分もたたぬ
うちに再び加えられたものであつて、この暴行をされた後間もなくA事務官は再び
署長室に戻り署長と対談していることが認められるのであるから、所論の直税課長
席にいたA事務官に対する暴行はその行われた時間、場所等の関係から見て又その
行われた前後におけるA事務官の行動等からいつても、同事務官の署長に対する報
吾等職務執行の継続中に同事務官に対して行われたものと認めるのが相当である。
されば原判決が所論の暴行も、また、A事務官の公務執行中になされたものとの趣
旨で判示をしているからといつて、所論のように証拠なくして事実を認定した違法
あるものとはいえない、従つて原判決には所論の擬律錯誤の違法も存しない。論旨
は独自の見解に立つて原判決の事実認定を非難するに帰し上告適法の理由とならぬ。
 同第四点について。
 しかし、原判決は公訴事実並びに第一審判決摘示と異つてAの頚部を掴んだとは
判示しないで「同人の襟首をつかんで引ずる等」と判示している。
 されば原判決が論旨に指摘するような証拠説明をしたからといつて、証拠の趣旨
を変更して罪証に供したものとはいえないから、原判決の第二事実の認定には所論
のような違法は存しない。
 同第五点について。
 しかし、原判決の判示竝びにその挙示する各証拠によれば、被告人がA事務官の
襟首を掴んだのは署長室でのことであり、被告人が同事務官の顔に煙草の火をねじ
りつけたのは直税課長の席でのことであることが認められるのであるから、原判決
第二事実の判示はA事務官に対する掻把傷は署長室で、第二度火傷は直税課長席で
それぞれ被告人が加えたものであるとの趣旨を判示しているものと理解することが
できるのである。されば右判をもつて、A事務官に対する掻把傷も直税課長席で被
告人が加えたものであるとの趣旨を判示したものと速断して、右判示事実の認定は
その挙示する証拠と齟齬する違法のものであるとの論旨はその前提を欠きとるをえ
ない。
 同第六点について。
 所論のC作成に係る顛末書中の「一、私は此の暴挙に驚いてA、B両人を事務室
に去らせました、一、Dは四時過ぎた頃署長室を出て事務室に行きAに高江行きを
強要した様でありましたが更に署長室に来て椅子に掛けました、一、D氏は行かな
ければ仕方がないと独言を言つて更に事務室に行つたらしいと思つていたら間もな
く署長室に引返した」との記載と原判決挙示のその他の証拠(A事務官に対する司
法警察官代理の聴取書)とを対照すると所論に摘示せる右顛末書中の記載は被告人
が署長室を出て直税課の事務室に行きその室の直税課長席にいたA事務官に対して
吸つていた煙草の火を顔に押付けたのでそれを手で払つたが火傷になつて灰の跡が
一線を残していたとの趣旨の記載と理解すべきであつて所論のように同火傷は署長
室で被告人がA事務官に負わしたものであるとの趣旨を記載したものと理解すべき
でないから、被告人が同火傷を負わした場所を直税課長席である趣旨の原判示事実
の認定と所論証拠の記載との間には所論のような理由齟齬の違法は存しない。論旨
は所論顛末書の記載の趣旨を正解せざるにいずるものであつて、結局原審の裁量に
属する証拠判断の非難に帰し上告適法の理由とならぬ。
 よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおう判決する。
 検察官 福島幸夫関与
  昭和二六年三月一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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