弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人島内竜起の上告趣意は、末尾に添えた別紙記載の通りである。
 (一)論旨第一点は、原審裁判所は原審公判に於て為した弁護人の証拠調の請求
に付決定をなさざる儘判決を宣告してゐると非難する。そこで記録に当つて見ると、
原審第一回公判(昭和二四年五月二四日)調書によれば、弁護人が申請した証人二
名の証拠調はいずれもこれを留保する旨の決定が為され、その後昭和二四年六月三
〇日に公判廷外で弁護人申請の二名の証人の中一名Bを証人訊問する旨の決定があ
り、次いで第二回公判は同年七月二日に開廷されたが、同公判において手続の更新
が為され、証人Bの訊問を為し、弁護人申請の他の一名の証人Aについてはついに
何らの決定がされないままに弁論終結となり、そして同年同月十六日に判決が宣告
されたのであつて、審理の経過は正に論旨の言う通りである。ところでここに問題
になるのは、右第二回公判調書中に「裁判長は……利益の証拠があれば提出し得る
旨を告げた処被告人及び各弁護人は前回公判調書記載と同様に答えた」すなわち「
無い旨」を答えたとある点である。大審院時代にはこれを「証拠調ノ申請ヲ取下ゲ
タルモノト認メ得ベキ場合ニ該当ス」と解すべき旨の判例が、論旨の引用した以外
にもあるが(代表的なものは昭和九年(れ)第五〇五号同年七月二三日大審院第一
刑事部判決)、最高裁判所になつてからの判例によれば昭和二二年(れ)第一二九
号同年一二月一一日第一小法廷判決は、公判終結の際における前記のごとき問答を
もつて、直ちに弁護人はさきに請求した証人の訊問申請を拠棄したものと解したり、
又は原審は結審に当り同証人訊問の請求を却下したものと解したりすることは、軽
々に許されないところであるとして右の問答のあつた場合も旧刑事訴訟法第四一〇
条第一四号の事由あるもの、と判断した。この判例の事件は、大体本件と同様の内
容であるが、たゞ公判期日前の証人申請である点だけがちがう。ところで前記法条
にいわゆる「公判ニ於テ為シタル証拠調ノ請求」は公判期日前のものを含むか、と
いうことについては議論があり得るのであつて、右判例は「公判ニ於テ」を広く解
釈したものと思われるが、それはさて措き、本件こそは文字通り「公判ニ於テ」な
された証人申請に関するもので、正に右判例に相当する。ところがまた同じ第一小
法廷の判例に、在廷証人の訊問申請があつたにかゝわらず、裁判所がこれを許容す
ることなく当日の審理を終え、新期日を指定告知した場合には、暗黙にその請求を
却下する決定をしたものとみるのが相当である、という趣旨の判例がある(昭和二
三年(れ)第三二三号同年六月二四日判決)。しかしこれは在廷証人の場合であつ
て、本件に適切でない。要するに大審院時代の旧判例は最高裁判所の新判例によつ
て訂正されたものであつて、証拠申請を重要視する刑事訴訟法の精神上、新判例の
考え方を正当と思う。すなわち論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄せ
らるべきものである。
 (二)論旨第二点は麻薬取締規則の解釈適用の問題であり、論旨第三点は量刑不
当の主張であるが、本件原判決は前段に説明した通り論旨第一点を理由ありとして
破棄すべきものであるから、論旨第二点第三点の判断は省略する。
 よつて旧刑事訴訟法第四四七条第四四八条ノ二第一項に従い、主文のとおり判決
する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 岡本梅次郎関与
  昭和二五年三月七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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