弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 債務者は、債権者aに対し、平成八年七月から平成九年六月まで、毎月二五日
限り、一ヶ月金八六万七七九四円を仮に支払え。
二 債務者は、債権者bに対し、平成八年七月から平成九年六月まで、毎月二五日
限り、一ヶ月金六五万四七三八円を仮に支払え。
三 債権者らのその余の申立をいずれも却下する。
四 申立費用は、債務者の負担とする。
       理   由
第一 当事者の申立
一 申立の趣旨
1 債権者らが債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定
める。
2 主文第一、二、四項と同旨
二 申立の趣旨に対する答弁
1 債権者らの申立をいずれも却下する。
2 申立費用は、債権者らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 債権者らの主張
A(被保全権利)
1(1) 債権者aは、債務者日本支店が創業された昭和五〇年七月、債務者に業
務課長として期間の定めなく雇用され、平成六年以降、債務者日本支店の業務統括
部長に就任し、企画部長、システム部長及び損害調査部長を兼務して、勤務した。
(2) 債権者bは、昭和五三年一一月、債務者に大阪営業所長として期間の定め
なく雇用され、以後、債務者の福岡支店長、札幌支店長を経た後、平成五年以降、
東京本社マーケッティング部長として勤務した。
(3) 債務者は、保険業務及びその関連業務を目的とする株式会社であって、昭
和五〇年七月、大蔵省から日本国内における損害保険業の営業許可を受けて営業を
開始し、肩書地にその日本支店を設けている。
2 債務者は、平成八年三月二九日に同月三一日付をもって債権者らを解雇したと
主張して、債権者らが債務者の従業員たる地位を有することを争い、債権者らの労
働の提供の受領を拒否するとともに、債権者らに対する平成八年四月分以降の賃金
の支払を拒否している。
3(1) 債権者aの平成八年三月三一日当時における月額賃金は、八六万七七九
四円(職能給五四万六二一〇円・本人給一八万七六八〇円・通勤手当一万七〇六五
円・その他の手当一一万六八三九円・毎月当月分を当月二五日支払)である。
(2) 債権者bの平成八年三月三一日当時における月額賃金は、六五万四七三八
円(職能給三七万〇九〇〇円・本人給一七万六〇一〇円・通勤手当一万七〇二三
円・その他の手当九万〇八〇五円・毎月当月分を当月二五日支払)である。
B(保全の必要性)
1(債権者ら)
 債権者らは、いずれも、現在、債権者らを原告とし債務者を被告として債権者ら
が債務者の従業員たる地位を有することの確認及び賃金の支払を求める本案訴訟の
提起の準備中である。
 しかし、債権者らは、いずれも、その生活の唯一の糧である賃金収入の途を断た
れたため、経済的に極めて困窮しており、右本案訴訟判決の確定を待っては、著し
い損害を被るおそれがあることが明らかである。
2(債権者b)
(1) 債権者bは、債務者の社宅に居住している。
 債務者は、右社宅の月額賃料一一万三〇〇〇円のうち、一〇万円の部分につき支
払を負担してきたが、債権者bに対し、平成八年七月分以降の賃料負担をしない旨
を通告している。
(2) しかし、平成八年七月以降、債権者bが右債務者の負担分月額一〇万円を
支払うことは不可能であり、債権者bが賃料の支払を怠れば、賃貸借契約を解除さ
れ、その生活の本拠たる住居を失うことは明らかである。
二 債権者らの主張に対する債務者の答弁
1 債権者らの主張Aの各事実は、いずれも認める。
2 債権者らの主張Bの各事実のうち、2(1)の事実は認め、その余は、いずれ
も知らない。
三 債務者の主張(解雇)
1 債権者らに対しても適用のある債務者の就業規則中の「退職および解雇規程」
二条(5)は、「会社が経営上やむを得ないと判断し、労働組合がそれを了承した
とき」は債務者がその従業員を解雇することができる旨を規定している。
2(1) 債務者は、日本における営業開始時である昭和五〇年四月当時において
は、その事業所として、東京本社のほか、福岡、大阪及び横浜に各支店を有し、そ
の従業員は、本社六七名、三支店合計で、一五名であった。
(2)イ 債務者の近年における経営状況は、厳しい競争実態を反映して低迷を続
け、特に昭和六三年以降は事業損益が赤字に転落し、その後、赤字の額が毎年増大
して、平成五年度には赤字が約三億八〇〇〇万円に達していた。また、平成五年当
時の債務者の業務内容を外資系同業他社一一社と比較してみても、債務者の従業員
一人あたりの生産性すなわち保険料収入は、一二社中で一〇位であるのに、収入に
対する経費の割合は一二社中の最上位に近く、結果として、利益率は一二社中の九
位にランクされている。
ロ 右のような状態が継続すれば、債務者が日本において営業を継続するのが困難
となり、早晩、事業の廃止、日本からの撤退の事態となりかねないものであった。
ハ 保険業界の競争の激化は、日本のみならず世界的な現象であり、最近、債務者
の英国本社も、業務改革のため英国サンアライアンス保険会社と合併すること及び
債務者英国本社と英国サンアライアンス保険会社との合併に伴い従業員の一割に相
当する約五〇〇〇人の人員削減を行うことを発表している。
(3)イ 右のような経営危機状況下にあった平成六年四月一日、オーストラリア
国籍のcが債務者の日本における代表者として就任した。
ロ 債務者は、平成七年二月、債務者の日本における事業規模と利益率の拡大、経
費単価の削減、仕事生産性の向上等の目標を達成するための業務・組織体制の見直
しプロジェクトを発足させると同時に、右見直しプロジェクトの調査・立案・実行
のため、申立外ジェミニ・コンサルティング・ジャパン社(以下「ジェミニ社」と
いう)との間でコンサルタント契約を締結した。
ハ 債務者の見直しプロジェクトは、第一段階(フェイズ1)及び第二段階(フェ
イズ2)に分かれていた。
 フェイズ1は、八週間ないし九週間の期間が予定され、現状の分析と改革効果の
測定等を主とするものであり、ジェミニ社が作業をリードして勧告案を提出するこ
ととされていた。
 フェイズ2は、四ヶ月ないし八ヶ月の期間が予定され、フェイズ1に基き、債務
者が作業をリードし、ジェミニ社の支援を受けながら、債務者の組織改革の実行案
を策定・実施することとされていた。
ニ 債務者の見直しプロジェクトのフェイズ1は、平成七年四月末までに完了し、
同年五月からフェイズ2が開始された。
 この過程で、債務者の従業員のほぼ全員に対してアンケート調査が実施され、債
務者の従業員から選出されたメンバーを含む委員会で問題点の検討等がなされ、見
直しプロジェクトの最終報告書がまとめられた。
ホ 右見直し作業の結果、債務者は、プロジェクトの最終報告に基き、従来、統括
部長、部長という二段階かつ一〇部門以上にわたった債務者の組織を改革し、四つ
のディビジョンと一五のグループという簡素でフラットな組織に集約し、同年一一
月から新体制をスタートさせることとなった。
(4) 右新体制への移行の結果、平成七年一一月以降、債権者aが担当していた
統括部長、企画部長、損害調査部長及びシステム部長のポスト並びに債権者bが担
当していたマーケッティング部長のポストが消滅し、これらの部長職が所掌してき
た職務は、新体制下における四つのディビジョン等に分散・吸収されることになっ
た。その結果、債権者らに割り当てるべき職種が存在しないことになった。
(5) 債務者は、平成七年九月二八日ころ、債権者らに対し、自宅待機を命じた
上、同年一一月二日ころ、右新体制への移行に伴い、債権者らの部長職を解いた。
3(1) 債務者には、その従業員の労働組合として、「ロイヤル・インシュアラ
ンス労働組合」(以下「ロイヤル労働組合」という。)及び「ロイヤル・ジャパン
従業員労働組合」(以下「ロイヤル従業員組合」という。)が存在する。
(2) 債務者の就業規則「退職および解雇規程」二条(5)に規定する「組合」
とは、ロイヤル労働組合のことを意味し、また、債権者らは、管理職である部長職
にあったのであるから、債権者ら自らの了承も債権者の所属する労働組合の了承
も、右規程に定める「組合の了承」に該当しない。
(3) ロイヤル労働組合は、平成七年一〇月三一日付書面をもって、債務者の組
織の新体制への移行を了承し、もって、新体制への移行に伴って消滅するポストに
ある者の解雇を了承した。
4 債務者は、新体制への移行と前後して、平成七年九月から平成八年三月にか
け、債権者らの立場を十分尊重し、長期の猶予期間を設けて自発的退職を求め、十
分な退職条件を呈示して再就職の斡旋をし、また、債権者らに対して退職を求めざ
るを得ない理由につき、繰り返し説明・説得に努めた。
5(1) 債務者は、平成八年三月二九日、債権者らに対し、同月三一日をもって
債権者らを解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。
(2)イ (主位的主張・就業規則に基づく解雇)
 本件解雇は、前記債務者の就業規則の「退職および解雇規程」二条(5)に基く
ものである。
ロ (予備的主張・整理解雇)
 債務者は、経営危機回避のための組織変更に伴い、解雇回避義務を十分に尽くし
た上、整理解雇として、本件解雇をなしたものである。
四 債務者の主張に対する債権者らの答弁
1 債務者の主張1の各事実は、いずれも認める。
2(1) 債務者の主張2(1)の事実は、認める。
(2) 債務者の主張2(2)の各事実のうち、2(2)イの事実は認め、2
(2)ロの事実は否認し、その余は知らない。
 債務者の英国本社宛のリザルト報告書によれば、債務者の平成六年度収支は、通
信販売部門のみが赤字であり、同部門を除くその余の部門の収支は、一億六六五〇
万円の黒字となっている。債務者の通信販売部門は、もともと赤字覚悟で導入され
た部門であるので、この部門に赤字があることをもって債務者の業績が悪くなった
と評価するのは不当である。
(3) 債務者の主張2(3)ないし(5)の各事実は、いずれも認める。
3(1) 債務者の主張3(1)の事実は、認める。
(2) 債務者の主張3(2)の主張は、争う。
(3) 債務者の主張3(3)の各事実のうち、ロイヤル労働組合が平成七年一〇
月三一日付書面をもって債務者の組織の新体制への移行を了承したことは認め、そ
の余は否認する。
 債権者らは、平成七年一一月までロイヤル労働組合に所属し、その後、同月にな
って「東京管理職ユニオン」(以下「ユニオン」という。)に入会し、現在に至っ
ている。ユニオンは、平成七年一一月以降、債務者の債権者らに対する退職勧奨及
び解雇を拒否し続けてきた。
4 債務者の主張4の各事実のうち、債務者が債権者らに対して退職勧奨をしたこ
とは認め、その余は否認する。
5(1) 債務者の主張5(1)の事実は、認める。
(2) 債務者の主張5(2)の主張は、いずれも争う。
 本件解雇は、債務者の就業規則「退職および解雇規程」に定めるいずれの解雇事
由にも該当せず、無効である。
 また、本件解雇が整理解雇としてなされたものであるとしても、債務者は、通信
販売部門を除いては黒字経営の会社であり、人員削減の必要性が全くない。本件解
雇は、いわゆる攻撃的な整理解雇としてなされたものであって、必要性及び合理性
がない。
第三 当裁判所の判断
一 当事者間に争いのない事実及び本件の争点
1 債権者の主張の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
2 債務者の主張のうち、1の事実、2(1)の事実、2(2)イの事実、2
(3)ないし(5)の各事実、3(1)の事実、3(2)の事実のうちロイヤル労
働組合が平成七年一〇月三一日付書面をもって債務者の組織の新体制への移行を了
承したこと、4の事実のうち債務者が債権者らに対して退職勧奨をしたこと、5
(1)の事実、以上の各事実については、いずれも当事者間に争いがない。
3 本件における最大の争点は、全体としては、本件解雇の有効性ないし正当性で
あるが、個別的には、債務者の主位的主張である就業規則に基づく解雇の関係で
は、債務者の従業員の組合の了承の存否(解雇手続の履践の有無)であり、債務者
の予備的主張である整理解雇の関係では、その主張自体の合理性の有無並びに仮に
その主張の合理性が肯定される場合には整理解雇の必要性及び整理解雇の具体的方
法等の相当性の有無である。
二 争点に関する判断
1 就業規則に基づく解雇の主張について
(1) 本件解雇当時における債務者の就業規則(疎甲第一六号証略)、ロイヤル
労働組合の元執行委員(現在・債務者のサービス・ディビジョン・マネージャー)
であるdの陳述書(疎乙第二号証)に審訊の全趣旨を併せると、債務者の就業規則
「退職および解雇規程」第二条(5)の規定については、次のとおりの変遷があっ
たことが疎明される。
イ 債務者には、当初、労働組合が存在しておらず、昭和五八年当時の就業規則
「退職および解雇規程」二条(5)は、「会社が経営上やむを得ない理由があっ
て、次条に定める解雇の手続を終了したとき」と規定し、同規程三条は、解雇予告
を定めており、予告さえすれば、債務者の一方的な事情のみにより従業員を解雇す
ることが可能な規定となっていた。
ロ そこで、当時の管理職を除く従業員全員は、債務者に対して、同規程の改正を
申し入れ、その結果、昭和五九年、同規程二条(5)は「会社が経営上やむを得な
いと判断し、従業員代表がそれを了承したとき」と改正された。
ハ その後、昭和六〇年、債務者の管理職を除くほぼ全従業員が加入してロイヤル
労働組合が結成され、これに合わせて、同規程二条(5)も現行の規定に再改正さ
れ、今日に至っている。
(2) 右の事情を前提に考えると、同規程二条(5)において、解雇の手続要件
として従業員組合の了承が規定されているのは、債務者の従業員が、経営者側の一
方的な事情によって解雇されることを一定限度で制限しようとする趣旨であると解
すべきである。
 そして、本件債権者らが平成七年一一月の新体制への移行に伴い部長職を解かれ
たことは当事者間に争いがないのであるから、その結果、債権者らがいずれも従前
の管理職としての地位を喪失して一般の従業員と全く同等の法的地位を有するに至
ったことが明かである。
 そうである以上、債権者らに対する本件解雇についても、同規程二条(5)が適
用されることになり、したがって、解雇のための手続要件である債務者の従業員の
組合の「了承」という事実の存在が疎明されない限り、本件解雇は、無効である
が、本件全疎明資料を精査してもなお、本件解雇に際して、右了承があったことの
疎明があると言うことはできない。
(3) この点につき、債務者は、疎明資料として、ロイヤル労働組合執行委員長
eから債務者宛の平成七年一〇月三一日付回答書(疎乙第一七号証)を提出し、同
回答書には「新組織への移行に付了承いたします。」との記載があることが疎明さ
れるが、この記載からは、組織改革に伴うポストの変動等に対する了承があったこ
とまでは推測可能ではあるものの、このポストの変動による個別具体的な人員削減
に対する了承があったものと解することはできない。
 債務者は、右のような了承であっても、新組織の変動に伴い人員削減があること
は当然に予想可能であるから、個別具体的な解雇等についても従業員組合から了承
があったと考えるべきである旨を主張するようである。しかし、債務者の「退職お
よび解雇規程」二条(5)は、従業員の側に何ら解雇事由がなくても経営者側の一
方的な経営上の都合によって従業員を解雇をする場合の歯止めとしての解雇制限基
準を定める趣旨の規定であると解するのが経営者側及び従業員側双方の公平に適っ
ていることは明白であるから、債務者が主張するような曖昧な了承で足りるとする
との見解は、到底採用し難いものである。
 他方、債務者は、債権者らが新体制移行当時における多数組合であったロイヤル
労働組合の組合員ではなく、管理職であったことから、「退職および解雇規程」二
条(5)に規定する組合の了承は必要ではない旨を主張するようでもあるが、債権
者らが部長職を解かれ、一般従業員と全く同じ地位を有するに至ったのであり、た
とえ元管理職であったとしても、他の一般従業員と同等に就業規則の解雇制限によ
る保護を与えられるべき立場に立たされたのである以上、右債務者の主張も合理的
なものであると解することはできない。
 なお、審訊の全趣旨によれば、本件解雇当時において債権者らが所属していたユ
ニオンは、債権者らを解雇することを明確に拒否し、債権者らに対する債務者の処
遇をめぐって、債務者と団体交渉を重ねていたことが疎明される。
(4) すると、その余の事実の疎明の有無につき判断するまでもなく、債務者の
主位的主張である就業規則「退職および解雇規程」二条(5)に基づく解雇の主張
は、失当である。
2 整理解雇の主張について
(1) 債務者は、予備的主張として、本件解雇が整理解雇である旨を主張する。
 しかし、整理解雇の法的本質は、普通解雇であり、ただ、それが会社の倒産とか
特定の非採算部門の整理その他の特殊な事情ないし状況の下になされる解雇である
ことから、その解雇の正当性の判断あるいは解雇権の濫用の判断等において、その
判断要素として、通常の解雇の判断に一般に必要とされる諸事情に付加して、整理
解雇に特有の諸事情を綜合考慮しなければならなくなることがあり得るのに過ぎ
ず、まして、法律上、整理解雇が独立した解雇事由となることはないし、また、整
理解雇に固有の法律要件が確定的なものとして存在するわけでもない(いわゆる整
理解雇における整理解雇の必要性とか解雇避止義務の履行等の諸事情は、そのよう
な意味での付加的な事情の一つであると解するべきであり、整理解雇の主張がある
場合において、それらの事情の全てを常に判断対象とすべき論理的な必然性は全く
なく、事案によって、判断に必要な要素が異なるのは当然である。)。
 したがって、就業規則による解雇制限がある場合には、整理解雇においてもま
た、一般的に承認されている解釈に従い、原則として、その就業規則による解雇制
限が機能するものと解釈すべきである。
(2) ところで、本件では、債務者の就業規則「退職および解雇規程」二条
(5)に経営上の理由による解雇の場合が解雇事由として列挙されており、この経
営上の理由による解雇の概念にいわゆる整理解雇の場合が完全に包含されること
は、同規程の文言解釈のみでも明らかである。そして、前記のとおりの同規程の変
遷等の事情に鑑みると、債務者が整理解雇として債権者らを解雇しようとする場合
には、同規程に定める手続要件を履践することが不可能であるか又は同規程に定め
る手続要件の履践を求めることが却って債権者らにとって酷な結果を招来してしま
うというような極めて特殊な事情が存在するなどの特段の事情がない限り、同規程
に定める手続要件を充足する必要があることは、整理解雇以外の普通解雇として債
権者らを解雇しようとする場合と全く異なることがないと解すべきである。
(3) しかるに、本件解雇については、同規程に定める手続要件としての従業員
組合の了承があったことの疎明がないのであるから、結局、債務者の主位的主張に
つき判断したところと同じ理由により、この点に関する債務者の主張もまた失当た
るを免れない。
3 右判断のとおりであり、債務者は、他の解雇事由を何ら主張・疎明しないか
ら、結局、本件解雇は、無効である。
三 保全の必要性について
1 ここまで判断してきたところによれば、本件解雇が無効である以上、債権者ら
は、いずれも債務者との間の雇用契約に基づく従業員たる地位を維持していること
になる。
 そして、債権者aの陳述書(疎甲第一号証の一)、債権者bの陳述書(疎甲第一
号証の二、疎甲第三〇号証)並びに本件審訊の結果によれば、債権者らの本件最終
審訊期日の月である平成八年七月分から平成九年六月分までの賃金については、い
ずれも債権者に対してその仮払を命ずるべき保全の必要性が疎明されるが、その余
の賃金仮払については疎明がないものというべく、また、右のように債権者らが債
務者の従業員たる地位を維持していることを前提に、債務者に対して賃金の仮払を
命ずるのである以上、これとは別に、債務者の従業員たる地位を有することを仮に
定めるべき必要はないものと判断する。
2 なお、債権者らの本件解雇当時における賃金額については、当事者間に争いが
ないのであるから、債権者ら主張の額をもって仮払を命ずる額とすべきである。
四 結論
 以上のとおりであるから、債権者らの本件各申立のうち、平成八年七月分から平
成九年六月分までの賃金仮払を求める部分はいずれも理由があるから、債務者に対
しその仮払を命ずることとするが、その余は、保全の必要性の疎明がないものとし
ていずれも却下し、民事保全法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり
決定する。
(裁判官 夏井高人)

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