弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は東京地方検察庁検事正代理検事石合茂四郎作成の控訴趣意書の
通りであり、これに対する被告人の答弁は弁護人佐々木茂作成の答弁書の通りでお
るからいずれもこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。
 論旨第一点について。
 原判決がその理由犯罪事実の冒頭の部分の後段において論旨摘録の如き事実を認
定しておること、その証拠の標目の部分において所論被告人に対する精神鑑定書を
拳示しておること、原判決中論旨摘録の部分が右鑑定書中アミタールインタービユ
ウによる検査の結果被告人が鑑定人に対し供述した部分を採用して認定したもので
あること並に右鑑定書は原審において弁護人から被告人の犯行当時の精神状態につ
いて鑑定の申請をなした裁判所が鑑定人Aに右鑑定を命じ同鑑定人からその結果を
報告したもので原審裁判所は訴訟関係人の意見を聞いてその証拠調をしておるとと
はいずれも訴訟記録に徴し所論の通りである。仍て先ず原審が右精神鑑定書を事実
認定の資料としたことの当否を審案するに鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑
定人の作成したもの(鑑定書)は検事及び被告人がこれを証拠とすることに同意し
た場合を除きその鑑定人が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作
成されたものであることを供述したときに限り刑事訴訟法第三百二十一条第一項の
規定にかかわらずこれを証拠とすることができるものであることは同条第四項第三
項、第三百二十六条の規定に徴し明らかである。然るに右精神鑑定書は前叙の如く
原審において弁護人が被告人の犯行当時の精神状態を立証するためにした鑑定の申
請を許容しこれを鑑定人より提出されたものであつて、その他の犯罪事実に関する
立証としてなされたものでないばかりでたく、右鑑定書を犯罪事実認定の証拠とす
ることについて検事及び被告人が同意し同趣旨に基く証拠調がなされた形跡は記録
上全く存しない。ところが原判決を検するに原審は右鑑定書を被告人の犯行当時の
精神状態を認定する証拠としたばかりでなく更に進んで所論アミクールインタービ
ユウによる検査の結果被告人が鑑定人に対してなしたもので果して任意にされたも
のと認む<要旨>べきかが明らかでない供述部分を犯罪事実認定の証拠としておるこ
とが明らかであるが、かような鑑定書の部分を犯罪事実認定の証拠として採
用するがためには原審としては特にとの点につき訴訟関係人の意見を聞くは勿論こ
れを犯罪事実認定の証拠とすることに同意するか否かを問い若し検事及び被告人が
同意しない場合は公判期日において鑑定人を証人として尋問しその他適当手段を尽
し右鑑定書中の被告人の供述部分が特に信用すべき情況の下にたされ且任意性ある
ものであるかどうかを確める等慎重を期すべきであるのに原審はかかる手段を尽さ
ず漫然と訴訟関係人の意見を聴いただけで証拠調をなしこれを犯罪事実認定の証拠
とすることの同意を得るととなく直ちにこれを採つて犯罪事実認定の証拠としたこ
とは結局採証手読上の法令違反あるに帰し、且つ右違法は判決に影響を及ぼすこと
が明らかであるから論旨は理由があり、原判決は爾余の論旨に対する判断をなすま
でもなく破棄を免れないから刑事訴訟法第三百七十九条に則りこれを破棄し同法第
四百条に則り本件を東京地方裁判所に差し戻すべきである。
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長判事 小中公毅 判事 渡辺辰吉 判事 河原徳治)

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