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平成26年9月11日判決言渡
平成26年(行コ)第10号相続税更正処分等取消請求控訴事件
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要等
1事案の概要
相続税法(平成22年法律第6号による改正前のものをいい,以下,特に断
らない限り同様である。)は,相続税の課税財産として定期金に関する権利を
評価する場合の評価について,対象を権利の取得時に給付事由が発生している
ものと発生していないものとに分けた上(24条,25条),前者のうち有期
定期金の価額を,残存期間に応じその間に受けるべき給付金額の総額に一定の
割合を乗じて計算した金額と定めていた(24条1項1号)。
本件は,被控訴人が,平成19年▲月▲日に死亡したAの相続(以下「本
件相続」といい,上記の日を「本件時点」,被相続人を「A」という。)に係
る相続税の申告において,Aが加入し,年金支払特約が付加された生命保険(変
額個人年金保険)に係る死亡給付金支払請求権(以下「本件受給権」という。)
の価額を,相続税法24条1項1号に従い,有期定期金の残存期間に受けるべ
き給付金額の総額に所定の割合である100分の20を乗じて評価し,申告を
したところ,処分行政庁が,本件受給権には上記規定の適用はないものとして,
更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下,それぞれ「本件更正処分」,
「本件賦課決定処分」といい,併せて「本件各処分」という。)をしたことか
ら,被控訴人が本件各処分の取消しを求めた事案である。
原審は,本件受給権に相続税法24条1項1号の適用があるものと判断して
その価額を認定した上,本件更正処分のうち課税価格9億3659万8000
円及び納付すべき税額3億4045万3300円を超える部分並びに本件賦課
決定処分を違法として取り消したことから,控訴人が本件控訴を提起した。
2争点及び当事者の主張
(1)関係法令の定め,前提事実,控訴人の主張する本件各処分の適法性及びそ
の価額の内訳並びに争点及び争点に関する当事者の主張は,前提事実を後記
(2)のとおり補正し,控訴人の当審における主張を後記(3)のとおり付加する
ほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2から5まで
に記載されたとおりであるから,これを引用する。
(2)前提事実に係る補正
ア原判決3頁24行目の「本件保険契約」を「保険契約」と改め,同4頁
2行目の「本件保険契約」を「以下「本件保険契約」という。」に改める。
イ原判決3頁25行目の「補助参加人」を「被控訴人補助参加人」と改め,
同26行目の「カンパニー」の後に「。以下「補助参加人」という。」を
加える。
ウ原判決8頁16行目の「提出した」の後に「(以下,相続税の申告書を
提出してした申告並びに平成21年12月3日及び同月11日に修正申告
書を提出してした各修正申告をまとめて「本件申告」といい,その内容は
上記各修正申告をした後のものを指す。)」を加える。
(3)控訴人の当審における主張
相続税の納税義務が相続による財産の取得の時に成立し(国税通則法15
条2項4号),財産の価額はその取得の時における時価によるとされている
(相続税法22条)ことからすれば,相続により取得した財産を評価する場
合に当該財産の取得後の事情を考慮することは許されず,したがって,本件
受給権に相続税法24条1項各号を適用することはできない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,被控訴人の請求は理由があるものと判断する。
その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」に記
載されたとおりであるから,これを引用する。
2重複をいとわず,当裁判所が上記判断をするに至った理路につき,控訴人の
当審における主張に対する判断も併せて示せば,次のとおりである。
(1)本件受給権は,生命保険である変額個人年金保険に係る死亡給付金支払請
求権であるから,相続税法3条1項1号の「生命保険契約の保険金」に当た
り,被相続人であるAの負担においてその死亡の時までに保険料の全額が払
い込まれているから,被控訴人が本件受給権の全部を相続により取得したも
のとみなされる(みなし相続財産)。
(2)相続により取得した財産の価額は,「この章で特別の定めのあるものを除
くほか」,当該財産の取得の時における時価により評価される(相続税法2
2条)ところ,同法24条1項は,「定期金給付契約で当該契約に関する権
利を取得した時において定期金給付事由が発生しているものに関する権利」
の価額は,同項各号に掲げる金額によることとし,そのうち有期定期金の価
額については,その残存期間に応じ,その残存期間に受けるべき給付金額の
総額に所定の割合を乗じて計算した金額としている(1号)。相続税法24
条1項柱書きにいう「定期金給付契約‥に関する権利」とは,契約によりあ
る期間定期的に金銭その他の給付を受けることを目的とする債権をいい,毎
期に受ける支分債権ではなく,基本債権をいうものと解される(相続税法基
本通達24-1参照)。
本件においては,Aと補助参加人との間で本件特約の付された本件保険契
約が締結され,本件特約において本件死亡給付金の受取人に指定されていた
被控訴人が,本件特約の定める本件死亡給付金の支払事由の発生(Aの死亡)
により,年金払いとされる本件死亡給付金の請求権(本件受給権)を取得し
たものと認められるから,本件受給権は,「定期金給付契約‥に関する権利」
に当たり,かつ,「当該契約に係る権利を取得した時において定期金給付事
由が発生している」という要件にも該当する。
そうすると,本件受給権の価額は,被控訴人の指定により確定した年金受
取方法を基礎として相続税法24条1項所定の評価方法に基づいて算定され
ることになるべきところ,被控訴人の指定により,本件受給権は,残存期間
が36年の有期定期金を内容とするものとして確定しているから,その価額
は,被控訴人が受け取るべき死亡給付金の総額6120万8532円に10
0分の20を乗じた1224万1706円となる。
(3)控訴人は,相続税法24条1項が,将来に向けて受領する定期金の相続開
始の時における現在価値を算出するための規定であると解した上,同規定が
想定する有期定期金とは,その残存期間,1年間に受けるべき金額及び残存
期間に受けるべき給付金額の総額が権利の取得の時点において定まっている
ものに限られることから,同項柱書きにいう「定期金給付契約」とは,少な
くとも,年金の種類等が定まった定期金給付契約のみをいい,これらの内容
が定まっていないものは「定期金給付契約」に当たらないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,租税実務上,同法24条1項柱書きに規定
する「定期金給付契約‥に関する権利」が,契約によりある期間定期的に金
銭その他の給付を受けることを目的とする債権をいうものと解釈されている
ことに照らせば,「定期金給付契約」も,当事者間においてある期間定期的
に金銭その他の給付が授受されることを内容とする契約をいうものと解する
のが相当である。控訴人の上記主張は採用することができない。
また,相続税法24条1項の定める評価方法は,退職手当金等(同法3条
1項2号)が年金の方法で支給される場合にも適用されるところ,被相続人
の相続開始の時には何ら具体的な権利が定まっていなかったが,相続開始の
後に被相続人が勤務していた会社の株主総会等において同人に対する退職慰
労金支給決議がされ,この退職慰労金が年金の方法で支給された場合にも,
他と同様の扱いがされていた(丙8)ことからすれば,相続開始の時におい
て年金の種類等の権利の内容が定まっていないとの事実をもって,「当該契
約に係る権利を取得した時において定期金給付事由が発生している」という
要件を充足しないと解釈することも相当でないというべきである。
(4)控訴人は,財産の評価をする際に当該財産の取得の後の事情を考慮するこ
とは許されない旨主張し,その根拠として,相続税の納税義務が相続による
財産の取得の時に成立し(国税通則法15条2項4号),財産の評価が時価
主義により行われる(相続税法22条)とされていることを指摘する。控訴
人が本件受給権の幾つかの特徴を指摘して「権利を取得した時において定期
金給付事由が発生している」という要件の充足を争い,あるいは,相続開始
の後にされた被控訴人の指定行為によって年金の種類等が確定したものと認
定すべきであるから相続税法24条1項各号を適用する前提を欠く旨主張す
るのも,財産の評価をする際に考慮し得る事情の範囲に関する上記の主張に
由来するものと理解できる。
そこで検討するに,相続が死亡によって開始する(民法882条)ことか
らすれば,一般に,被相続人の死亡時に相続税の課税要件が充足され納税義
務が成立するということができるが,個別の事案において,課税物件として
の相続財産の範囲にいかなる財産が含まれるかは,当該事案における私法上
の法律関係によって検討されるべき事柄である。保険金の受給権は,被相続
人が相続開始の時に有していた財産でないにもかかわらず,相続税法上は相
続財産(みなし相続財産)と扱われるが,受給権の発生時期,内容及び確定
時期は,当事者の締結した保険契約に基づいて定まり,これを前提にして相
続税の課税物件とされることから,その性質上,相続開始の時に権利の内容
が確定しているとは限らないものである。また,財産の評価について時価主
義が採用されているからといって,そのことの故にある財産が相続財産の範
囲に含まれるか否かを私法上の法律関係によって検討する際に考慮し得る事
情の範囲が制約を受けると解すべき根拠は見当たらない。控訴人の上記主張
は採用することができない。
(5)控訴人は,本件受給権に相続法24条1項1号の定める評価方法を適用す
ることは不適当である旨主張し,その根拠として,保険金等受取人が,死亡
給付金を一時金又は年金のいずれの方法により受け取るかを被保険者の死亡
後に選択することができる点や,本件特約を将来に向かって解約することに
より一時に死亡給付金の支払を受けるのと同様の結果を実現することができ
る点を指摘する。
しかしながら,本件特約には,死亡給付金の支払事由発生後に保険金等受
取人が一時金か年金かを決めることができる旨の約定があるわけではない
し,本件特約を解約することにより一時に死亡給付金の支払を受けるのと同
様の結果を実現する事態が生ずるとしても,そのような事態を防ぐための法
律上の定めもないのであるから,これらの点を問題視する控訴人の上記主張
はいずれも当を得ない。
この点に関連して付言すれば,本件でその適用の有無が問題となっている
評価方法については,規定が設けられた昭和25年以来今日までに,金利水
準の低下や平均寿命の伸長により,評価額が実際の受取金額の現在価値に比
べ非常に低いものとなることが指摘されるなどしていたため,平成22年法
律第6号による改正により,次のとおり,改められた。すなわち,有期定期
金の額は,(イ)当該契約に関する権利を取得した時において当該契約を解
約するとしたならば支払われるべき解約返戻金の金額,(ロ)定期金に代え
て一時金の給付を受けることができる場合には,当該契約に関する権利を取
得した時において当該一時金の給付を受けるとしたならば給付されるべき当
該一時金の金額,(ハ)当該契約に関する権利を取得した時における当該契
約に基づき定期金の給付を受けるべき残りの期間に応じ,当該契約に基づき
給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額に,財務省令で定める当該契約
に係る予定利率による複利年金現価率を乗じて得た金額,の3つの金額のう
ちいずれか多い金額とされたのである。(乙10)
上記改正後の規定は,控訴人の上記主張に係る問題意識を取り入れたもの
と解されるが,平成23年4月1日から施行されるものであり,仮に,本件
において控訴人の上記主張を採用し,本件受給権に相続税法24条1項1号
の評価方法を適用しないこととなれば,事後の立法措置の内容を,法律の根
拠なく,遡及的かつ納税者に不利益に適用することとなり,その点からして
も妥当でないというべきである。
3小括
以上によれば,本件受給権の価額は1224万1706円であり,本件相続
における課税価格及び納付すべき税額は,それぞれ9億3659万8000円,
3億4045万3300円(本件申告に係るそれらと同額)であるから,本件
更正処分はこれらを超えない範囲では適法であるが,これらを超える部分につ
いては違法であるから取り消されるべきであり,本件申告に係る税額を超えて
被控訴人が新たに納付すべき税額は存在しないから,本件賦課決定処分は違法
であり,取り消されるべきであって,これと同旨の原判決は相当である。
第4結論
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第22民事部
裁判長裁判官加藤新太郎
裁判官峯俊之
裁判官小林康彦

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