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主文
1被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成11年3月23日か
ら支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを15分し,その14を原告の負担とし,その余を被告の負
担とする。
4この判決は,1,3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成11年3月23日
から支払済みまで年5分による割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請
求として3000万円及びこれに対する不法行為日又は債務不履行の日の後である
ことが明らかな日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払いを求める事案である。
1争いのない事実
(1)原告はAの屋号で人形店を営むものである。
(2)「兵銀スーパーローンエースカード利用契約」の締結
原告は,平成3年11月12日,株式会社兵庫銀行と,「兵銀スーパーロ
ーンエースカード利用契約(兼当座貸越契約)」(以下「本件カードローン契約」
又は「本件商品」という)を締結した。
本件カードローン契約の主要な内容は以下のとおりである。
ア期限
平成4年11月末日
ただし,期限の到来前に原告が書面により本件カードローン契約の解除
を申し出ない場合,又は,兵庫銀行から期限を延長しない旨の申出がない場合には
本件カードローン契約をさらに1年間延長し,その後も同様の取扱いとする。
イ契約極度
1億円
ウ利率
当初年8.9パーセント(ただし,金融情勢の変化その他相当の事由に
より変更できる。本件当時年4.9パーセントであった)。
エ弁済金額
2月10日及び8月10日に前月末の貸越残高の100分の1(万円未
満切捨)を支払う。
オ期限の利益喪失事由
株式会社兵庫ワイドサービスからの保証の取消があったとき
相続の開始があったとき
支払いの停止,破産・和議の申立があったとき
手形交換所の取引停止処分を受けたとき
預金やその他兵庫銀行に対する債権について仮差押・保全差押又は差押
の命令通知が発送されたとき
住所変更の届けを怠るなど原告の責に帰すべき事由によって兵庫銀行に
原告の所在がわからなくなったとき
原告が兵庫銀行に対する債務の一つでも期限に履行しなかったとき
原告が兵庫銀行との取引約定一つでも違反したとき
担保の目的物について差押え又は競売手続の開始があったとき
本件カードローン契約について原告が兵庫銀行に虚偽の資料提供又は報
告をしたとき
保証人について上記の各期限の喪失事由があったとき
債権の保全をする相当の事由を生じたとき
カ解約
上記各期限の利益喪失事由があったときは,兵庫銀行は貸越を中止し,
また本件カードローン契約を解除できる。
(3)兵庫銀行は経営破綻し,その営業は株式会社みどり銀行(以下「みどり銀
行」という)に譲渡された。
(4)みどり銀行による,原告に対する与信の停止及び整理回収銀行への債権譲
渡の決定
みどり銀行は,原告に対し,平成10年12月2日ころ,以後,本件カー
ドローン契約に基づく与信をしないこと,本件カードローン契約上の貸越債権(以
下「本件貸越債権」という)を株式会社整理回収銀行(以下「整理回収銀行」とい
う)に譲渡することを告知した(ただし,被告が原告に対し,契約期間満了日前に
更新拒絶の意思表示をしたかどうかについては後述のとおり争いがある)。
みどり銀行は,原告に対し,平成11年3月18日,本件貸越債権を平成
11年3月23日をもって整理回収銀行に譲渡することを通知した。
原告は,平成10年12月24日から平成11年3月19日までにかけ
て,みどり銀行に対し,9185万8925円を支払って本件貸越債権を完済し,
本件貸越債権が整理回収銀行に債権譲渡されることを防いだ。
みどり銀行は,経営破綻により阪神銀行に吸収合併され,その後,被告が
設立された。
2争点
①みどり銀行は,期限到来前に更新拒絶の意思表示をしたか,②みどり銀行
が,本件貸越債権を整理回収銀行に債権譲渡する旨決定したことが,債務不履行又
は不法行為に当たるか,③原告の損害額
(1)みどり銀行の期限到来前の更新拒絶の意思表示の有無
ア被告の主張
平成10年10月23日,みどり銀行の従業員であるBが本件カードロ
ーン契約期間の満了日である平成10年11月末日をもって本件カードローン契約
を終了し更新はできない旨説明し,本件カードローン契約の更新を拒絶した。
なお,同年11月4日には,支店長であったCが原告に対して念のため
に同様の説明を行った。
よって,本件カードローン契約は期限到来前の更新拒絶により平成10
年11月末日をもって終了したのであるから,その後,みどり銀行が原告に対する
与信を打ち切ったことに何ら違法性はない。
イ原告の認否
みどり銀行が原告に対し,事前に更新拒絶の意思表示をしたという主張
は否認する。
みどり銀行は,本件カードローン契約の期間途中である平成10年12
月2日ころ,いきなり与信を打ち切ったのであって,みどり銀行のかかる措置は本
件カードローン契約に反する違法なものである。
(2)みどり銀行の本件貸越債権の整理回収銀行への債権譲渡の違法性
ア原告の主張
みどり銀行は,原告に対する与信を上記のとおり契約期間途中に打ち切
ったのみならず,原告のことを不良債権者と根拠なく決めつけ,本件貸越債権を整
理回収銀行に譲渡することを決定した。
みどり銀行のかかる行為は債務不履行ないし不法行為に当たる。
イ被告の認否
当時,みどり銀行は,阪神銀行との合併を控えて,合併前のみどり銀行
の経営破綻による影響から預金者及び健全な取引先を保護し,金融機能の早期安定
化を図るために,債権について客観的な基準に従って自己査定をした上で,不良債
権については整理回収銀行に債権譲渡をする必要があった。
そして,原告は,確定申告書によれば,平成8年度の所得が941万7
000円,翌9年度の所得が800万9000円であって,1年間に約15パーセ
ントも所得が減少しており,また,平成10年11月末日現在で本件貸越債権は9
186万3108円に上っていた。そのため,みどり銀行は,平成10年6月30
日,原告の本件貸越債権について,所得と比べて借入過多であり,返済力に問題が
あるとして「要注意債権」と査定した。
従って,本件貸越債権の整理回収銀行への債権譲渡はやむを得ないもの
であって,債務不履行ないし不法行為には該当しない。
(3)原告の損害
ア原告の主張
みどり銀行による契約期間途中の与信打ち切り,整理回収銀行への債権
譲渡の決定という債務不履行,不法行為の結果,原告は,整理回収銀行に不良債権
者であると通知され,信用を著しく毀損されると共に営業者としての誇りを傷つけ
られた。
また,原告は,本件カードローン契約に基づく借入金を商品先物取引に
運用して利益を得ていたところが,平成10年12月以降の与信停止により,保証
金の融通ができず,先物取引が滞り,5579万6440円の損失となり,平成1
0年4月から11月末までに勝ち得た利益金4928万8399円を全て失った。
さらに,原告は,本件カードローン契約により1億円の融資を受けるこ
とができ,これを資本とした営業活動によって少なくとも年15%を超える利潤を
生み出すことができたのであるから,1500万円(=1億円×0.15)の利潤
から,当時の本件カードローン契約の利息490万円(=1億円×0.049)を
控除した1010万円の利益を取得する機会を奪われた。
加えて,原告は,本来毎年50分の1ずつ弁済すればよかった本件貸越
債権を一挙に返済せねばならず,50年間のローンの返済期限によって確保できた
資金の利殖の機会を奪われ,財産的損害を被った。
原告が被ったこれらの損害は少なくとも3000万円を下ることはな
い。
よって,原告は,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠
償として,3000万円及びこれに対する債務不履行又は不法行為日(整理回収銀
行への債権譲渡の日)である平成11年3月23日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
イ被告の認否
原告の主張する損害については否認ないし不知である。
第3争点に対する判断
1みどり銀行の更新拒絶の意思表示の有無
みどり銀行は,契約満了日である平成10年11月末日をもって本件カード
ローン契約を終了させることにし,平成10年10月23日に被告従業員のBが原
告に対して口頭で更新拒絶の意思表示をしたと主張し,証人B及び同Cも同旨の証
言をする。また,みどり銀行作成の「要注意債権管理カード」(乙2)には,平成
10年10月23日に,Bが原告に対し,本件商品の廃止について説明し,返済方
法について協議することを原告と約束した旨,また,整理回収銀行への債権譲渡も
あり得ることを説明した旨の記載がある。
しかしながら,みどり銀行は原告に対し,平成11年3月7日に,本件カー
ドローン契約の期限は平成11年12月末日であり,これを超えては延長をしない
旨の通知を送ったり(甲35),平成11年2月10日ころ,同日における利用残
高と未払返済額を記載した請求書を送付したりするなど(甲31),平成10年1
1月末日をもって本件カードローン契約が終了したとすればあり得ない行為に及ん
でいること,証人B及び同Cの証言によれば,当時,みどり銀行は経営が破綻し,
阪神銀行との合併を控えて残務整理に追われ,相当混乱した状態にあったと推認さ
れることを総合すると,みどり銀行は,本件カードローン契約の終了時期や更新拒
絶の要件などの契約内容を十分考えずに,とにかく原告との本件カードローン契約
を終了させようとして
いたことが推認される。また,銀行が顧客に対して契約の更新拒絶を通知する際
に,書面を交付せず,口頭のみで行うという方式をとったことも,経験則に照ら
し,やや不自然である。さらに,要注意債権管理カードの信用性について検討する
に,みどり銀行が原告に対する債権を不良債権と認定したのが平成10年6月ころ
であるというのに,同カードにはみどり銀行が更新拒絶の意思表示をしたと主張す
る平成10年10月23日以降の,しかも,本件カードローン契約の更新拒絶及び
債権譲渡についての原告との交渉に関する事実のみが記載され,その他の記載欄
(「延滞発生時の貸出状況」欄,「保証人状況」欄,「督促状況」欄など)には全
く記載がないのであって,その体裁の不自然さが否めないことや,第2回弁論準備
手続期日になってから提出
されたという提出の経緯,さらには,上記甲35号証や甲31号証との矛盾等の事
実に照らすと,同カードは本訴提起後に作出されたものという疑いを払拭すること
ができないから,これを信用することはできない。
以上の次第で,証人B,同Cの証言及び「要注意債権管理カード」(乙2)
の記載を信用することはできず,これらの証拠の他に,みどり銀行が原告に対し,
平成10年11月末日の契約終了日の前に更新拒絶をした事実を認めるに足りる証
拠はない。
そうすると,みどり銀行は原告に対し,次の契約終了日である平成11年1
1月30日まで,極度額1億円を限度に原告に対して融資をする義務があるのに,
契約期間途中の平成10年12月,本件カードローン契約に基づく与信を一方的に
打ち切って原告に対する貸付けを拒絶したということになるから,みどり銀行のか
かる行為は本件カードローン契約に違反する債務不履行であると認めることができ
る。
2本件貸越債権の債権譲渡の債務不履行ないし不法行為性
みどり銀行が,本件貸越債権を不良債権に分類し,整理回収銀行に平成11
年3月23日をもって債権譲渡する旨決定したことに争いはない。
しかしながら,本件カードローン契約は,預金口座の持ち主に対して極度額
を限度に貸越を行いつつ,年に2回,貸越残高に対する利息を計算し,預金口座を
通じて決済を行うというものであるから,契約期間中に債権の譲渡が行われた場
合,預金口座を利用した決済の便宜等の本件カードローン契約の特質が損なわれ,
原告に不利益を強いることになると認められる。
そうすると,契約期間途中に本件貸越債権を第三者に譲渡することは,本件
カードローン契約に違反する債務不履行というべきである。
被告は,当時のみどり銀行の不良債権の査定基準に照らすと,本件貸越債権
を不良債権に分類し,整理回収銀行に債権譲渡する旨決定したことはやむを得ない
措置であったと主張するけれども,前記認定のとおり,本件カードローン契約がい
まだ継続中であった以上,被告の主張は抗弁にならないというべきである。
3原告の損害
原告は,みどり銀行の債務不履行ないし不法行為による財産的損害,精神的
な苦痛,信用毀損などを包括して3000万円の損害を主張する。
(1)運用益の喪失について
原告としては,本来,契約の期限である平成11年11月末日まで,本件
カードローン契約を利用して,極度額1億円の限度でみどり銀行から融資を受け,
これを運用することができたにもかかわらず,これを一方的に打ち切られることに
よって,運用益を喪失する損害を被ったことが認められる。
もっとも,原告は,本件カードローン契約を期間途中に打ち切られた結
果,これを元手に行っていた商品先物取引において損害を被ったと主張するが,そ
の具体的な損害額を認めるに足りる証拠はないし,そもそも,先物取引の高い投機
性に鑑みると,みどり銀行の債務不履行と商品先物取引における損害との間に相当
因果関係を認めることは困難である。また,原告は,1年間1億円の融資を利用す
ることにより少なくとも1010万円の営業利益を上げることができたと主張する
が,かかる事実を認めるに足りる証拠はなく,むしろ,原告の本件カードローン契
約打ち切り前の毎年の所得額がせいぜい数百万円にとどまること(甲2ないし1
1),先物取引の資金としての運用という主張と営業資本としての運用という原告
の主張には矛盾があること
などに照らすと,原告が本件カードローン契約からそれほどの運用益をあげること
ができたと認めることはできず,原告が喪失した運用益としては100万円をもっ
て相当と判断する。
(2)信用毀損について
原告は,被告が本件貸越債権を不良債権に分類し,整理回収銀行に債権譲
渡することを決定したことによって,原告の信用が毀損されたと主張し,具体的に
は,整理回収銀行への債権譲渡の事実が,本件カードローン契約20条に基づき,
銀行協会の運営する個人信用情報センター等に登録され,同センターの加盟会員及
び同センターと提携する個人信用情報機関の加盟会員によって利用されたと主張す
る。しかしながら,本件カードローン契約書(乙5)の同条を仔細にみると,「借
入金額,借入日,最終回弁済日等の借入内容にかかる客観的事実」については自動
的に登録されることになっているから(同条1項),これらの事実については被告
の債権譲渡の決定とは無関係にいずれにせよ同センターに登録済である。また,同
条2項によれば,支払
遅延の事実,遅延分の弁済の事実,債権者が保証人等の第三者から支払いを受けた
事実,担保権実行などの強制回収手続により債権が回収された事実が,いずれも事
実の発生時から5年間センターに登録されることが認められるものの,本件の場
合,結果として,原告は本件貸越債権を全て遅滞に陥ることなく弁済しているので
あるから,支払遅滞や強制回収の事実は発生しておらず,これらの事実がセンター
に登録されることもなかったと認められる。そうすると,本件においては,債権譲
渡の決定がなされたからといって,原告に不利益な支払遅延等の情報がセンターに
登録されたという事実を認めることはできない。
そして,その他に,本件貸越債権が不良債権と分類され,整理回収銀行へ
の債権譲渡が決定された事実が第三者に流布され,原告の信用が毀損されたことを
認めるに足りる証拠はない(もっとも,原告がそのような心配をし,不安を抱いた
こと自体はよく理解できるが,そのことは,後記の慰謝料の算定において斟酌すべ
きである)。
むしろ,原告本人尋問の結果によれば,原告は本件債務を弁済するために
神栄信用金庫から3800万円の融資を受けることができたのみならず,その後
も,日新信用金庫や近畿銀行から融資の勧誘を受け,平成13年ころには日新信用
金庫から事業資金1000万円を借り受けた事実が認められるのであって,これら
の事実に照らすと,被告が本件貸越債権を不良債権に分類し,整理回収銀行に債権
譲渡する旨決定したことが原告の信用を毀損したと認めることはできない。
(3)慰謝料について
証拠(甲34,乙1,原告本人)によれば,原告は,契約期間途中に本件
カードローン契約を一方的に打ち切られ,本件貸越債権を不良債権として整理回収
銀行へ譲渡すると通知されたことにより大いに心理的に動揺したこと,また,整理
回収銀行へ債権譲渡され不良債権の債務者として扱われることを防ぐために,本件
債務の返済資金を集めるために奔走し,平成10年12月24日から平成11年3
月19日までにかけて,9185万8925円を支払って本件貸越債権を完済した
こと,その結果,大きな心労と精神的苦痛を被ったことが認められる。これに対す
る慰謝料としては100万円を相当と認める。
(4)損害額
以上の次第で,原告は,みどり銀行の債務不履行の結果,本件カードロー
ン契約に基づく運用益を喪失するという財産的損害を被ると共に,多大な心労と精
神的苦痛を被り,合計200万円の損害を受けたことが認められる。
従って,被告は原告に対し,200万円及びこれに対する債務不履行の後
であることが明らかな平成11年3月23日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払義務を負う。
4結論
よって,原告の請求を一部認容する。
神戸地方裁判所第4民事部
裁判官太田敬司

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