弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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判     決
被告人 X1
被告人 X2
主     文
被告人X1を懲役14年に,被告人X2を懲役6年に処する。
未決勾留日数中,被告人X1に対しては180日を,被告人X2に対しては13
れその刑に算入する。
理     由
(犯行に至る経緯)
 被告人X1は,平成14年11月ころから,広島県福山市d町所在の風俗店に
きとホステスの送迎担当の従業員として稼働していたが,平成15年5月末こ
いた同店のホステスAと肉体関係を持ち,交際するようになった。被告人X1
強い恋愛感情を抱き,同女の娘も可愛がって,Aとの結婚まで意識していた
までの思い入れはなかった。
 同年9月ころ,被告人X1は,Aが距離を置こうなどと言ってきたことから,同
付き合い始めたのではないかと疑うようになった。そして,ちょうどそのころか
頻繁に訪れて,その都度Aを指名し,プレゼントを渡すなどしていたため,被
に惚れ込んでいる様子のBの存在と行動を許し難いものと感じていた。被告
ージャーから降格され,収入も減って経済的に困窮するようになっても,何と
を取り戻そうと,同女のために乗用車を入手したり,必死に工面した金で同女
る舞うなどしていたが,Bは,同年12月6日に,Aと被告人X1が系列店に移
店を訪れてAに高価なものをプレゼントするなどしていたため,被告人X1は
対する怒りを強めていった。
 同月12日夕方,Aから被告人X1に対し,突然仕事を休む旨連絡があり,不
告人X1は,Aの家に行って様子を見ようとしたところ,その道中AとBが一緒
にしているのを目撃し,2人の交際を知って愕然とするとともに,自分からAを
しているBに対する憎しみを募らせ,さらには,BさえいなくなればAと将来的
た,Bを殺して,Aと幸せに過ごしたいなどと考えた。その上で,被告人X1は
を殺すのは無理であるから,誰か仲間を作ろうと思い,そのころ,同じ店で客
た被告人X2に対し,右翼のことをぼろかすに言うC党の者を殺したい旨言っ
伝いを頼んだところ,被告人X2は,「殺す」と言っても半殺しの程度で終わる
自分は手伝いをしていればいいなどと軽く考えて,被告人X1の頼みを了承
告人両名は,仕事の合間に,殺人の方法等を話題にした。
 同月14日午後9時ころ,被告人X1は,客引き中の被告人X2に対し,今か
を確保しに行く旨告げて,Bの行きつけのパチンコ店に赴き,同店駐車場に
れる車を発見したことから,待ち伏せをするとともに,被告人X2に対し,対象
で指定の場所で待つように指示した。そして,同日午後10時ころ,被告人X
乗り込んで発進するのを確認すると,その後を付け,Bが車を停めて弁当屋
被告人X2に連絡を入れた後,店から出てきたBに話があると声をかけて,自
に乗車させた。被告人X1が,同車内で,Bに対し,Aとの関係を問い質したと
度もAと店外で会っている旨答えたため,被告人X1は,Bに対する憎しみを
中で被告人X2を車に乗せた後,被告人X1の自宅に向かったが,Aにとって
に過ぎず,恋愛感情はないのかもしれないという望みを捨てきれず,自宅に
告人X2を先に部屋に向かわせた上,Bに対し,Aとホテルに行った時には,
るのかと尋ねてみたところ,Bから,3回目の時にはお金を払おうとしたがい
た,Aが自分を好きだからそうしたのだと思う旨言われてしまった。これを聞い
みも断たれたと思った被告人X1は,Bを許せないと憤って,同人を殺害する
中で話そうなどと言って,被告人X2が待つ自室にBを誘い入れた。
(罪となるべき事実)
第1【平成16年12月8日付け起訴状公訴事実】
 1 被告人X1は,平成15年12月14日午後11時ころ,広島県福山市e町
g号室の当時の被告人X1方において,B(43歳)を殺害しようと決意し,Bの
頸部に腕を巻き付けて絞め上げ,これを目の当たりにした被告人X2は,被告
場に至るまでにした言動からその意を察し,かくなる上は,被告人X1を助け
うと決意し,ここに,被告人両名は,共謀の上,Bを殺害しようと企て,被告人
前同様の方法で引き続きBの頸部を絞め上げ,Bに相対した被告人X2にお
絞め上げている被告人X1の腕を両手で持ち上げてBの頸を更に絞め上げ,
両手をつかんで,その抵抗を封じるなどし,よって,そのころ,同所において
により窒息死させて殺害した。
 2 被告人両名は,共謀の上,同月15日午前5時30分ころから同月18日
までの間,Bの死体を,前記D駐車場に駐車していた被告人X1使用の普通
トランクに積み込み,同所から同県沼隈郡h町大字ij番地k付近広場まで移動
所に放置されていた普通乗用自動車のトランクに隠し,さらに,同所から同県
字no番所在の通称映画村敷地内に移動させて同所に投棄し,もって死体を
第2【平成16年10月26日付け起訴状公訴事実】
   被告人X1は,同市p町q番r号2階に店舗を設け,店舗型性風俗営業店
に雇われ,同店店長Gから同店におけるホステスの送迎車両として上記F所
自動車(軽自動車。時価約10万円相当)の貸与を受け,これを使用してホス
の業務に従事していたものであるが,これを同人のため業務上預かり保管中
月5日ころ,前記第1の1記載の場所先路上において,ほしいままに,上記自
用途に供するため九州方面に向けて発進させ,もって拐帯して横領した。
(証拠の標目)
  省略
(補足説明)
第1 各弁護人の主張
   被告人X2の弁護人は,判示第1の1について,被告人X2は共同正犯で
犯にすぎない旨を,被告人X1の弁護人は,判示第1の1,2について,被告
首が成立する旨を各主張するので,以下検討する。
第2 幇助犯の主張について
 1 関係各証拠によれば,被告人X2が本件殺人に関与するに至った経緯
与の程度については,判示犯行に至る経緯及び判示第1記載のとおりと認め
わち,①被告人X2は,本件殺人の数日前,被告人X1から,右翼のことをぼ
党の者を殺したい旨言われて,その手伝いを頼まれた際,被告人X1が本気
る気であるという確信はなかったものの,被告人X1に対し,了承する旨の返
後,仕事の合間に,被告人X1との間で,殺人の方法等を話題にしたこと,②
際,被告人X2は,被告人X1が被害者の背後からその頸に腕を巻き付けて
ろ,初めは,被害者の目の前に立って様子を見ていたが,被告人X1の言動
められていると察し,(a)被告人X1の両腕を握って前方に押し上げて被害者
め上げたり,(b)被害者の両手をつかんで,その抵抗を封じたこと,などが認
2 本件犯行時における被告人X2の前記1②(a)の行為は,客観的には,被
がより強く被害者の頸を絞め上げるようにする危険な有形力の行使であり,
X2は,殺人への加担を求める被告人X1の意を察すると,自衛隊在籍時に訓
人で1人を殺す際の方法である,1人が片腕を相手の頸部に巻き付け,巻き
首付近を他方の腕の肘の内側に入れて絞め上げ,他の1人において巻き付
持って押し上げることにより絞め付ける力を補強するという殺人術に準拠して
に及んだというのであるから,これはまさに殺人の実行行為そのものである
②(b)の行為は,被告人X1による頸部圧迫行為と不可分一体となって,被害
排除し,その生命を奪おうとする性質のものと評価できる。したがって,被告
殺人の実行行為を一部分担したといえる。加えて,前記1①の経緯から,被
告人X2に殺害行為を手伝ってもらうつもりで本件殺人の実行行為に着手し
目の当たりにした被告人X2は,被告人X1の意思を察して,前記1②の行為
人両名は,連携して本件殺人を遂げるに至ったという事情も認められる。
  これらに照らせば,本件殺人について,被告人X2に共同実行の意思及び
事実が存することは明らかであり,被告人X2は,幇助犯にとどまらず,共同
負うものと認められる。
第3 自首の主張について
1 前掲証拠及び当公判廷で取り調べた関係証拠〈特に,捜査状況報告書(
れば,前記自首の主張の判断の前提となる事実として以下の事実が認めら
 (1) 平成16年1月30日,判示第1の2記載の通称映画村において,白骨
等が発見され,鑑定作業を経て,同年7月ころ,被害者の身元が判明し,そ
友関係等の捜査が進められた。そして,遅くとも同年10月21日までには被
Hら関係者からの事情聴取が行われ(検149),同年11月1日には,本件当
人両名を映画村等に案内したIの引き当たり捜査が実施されている(検170
 (2) 捜査当局は,被告人X1が,被害者が所在不明となる直前ころに出入
俗店の関係者であり,本件死体遺棄に関与しているものと窺われるとして,
実で起訴後の勾留中であった被告人X1について,平成16年10月27日,ポ
を実施し,同検査では映画村の死体等に関する質問がなされた。併せて捜査
告人X1に対し,被害者との面識や関係,被害者が上記風俗店に出入りして
況,被害者が所在不明になる理由などについての取調べを開始した。被告人
取調べにおいて,あえて被害者のことを避けるかのような供述に終始したた
察官は,同被告人に対し,あったことはあったこととして話すべきではないか
を諭すように再三にわたり申し向けた。
   同年11月1日の取調べ時において,取調べ警察官が,被告人X1に対
供述を促す旨を申し向けたところ,被告人X1は,一点を見据えて沈黙し,時
くなどして深く考えこんでいたが,取調べが深夜に及ぶおそれがあるため,そ
べは打ち切られた。そして,翌2日午前中に取調べが再開されると,被告人X
雑談の後,取調べ警察官に対し,深々と頭を下げるなどした後,「申し訳あり
については私がやりました。」と言って本件殺人,死体遺棄についての自供を
後,その犯行内容を自ら記述した上申書(検273)を作成した。
2 以上のとおり,被告人X1は,捜査機関の取調べにおいて,本件殺人,死
与を質され,繰り返し供述を促された結果,本件殺人,死体遺棄について自
申書を作成したものであり,捜査機関に対し,自発的に犯罪事実を申告した
られない。
  したがって,判示第1の各事実について,被告人X1に自首は成立せず,
は採用できない。
(法令の適用)
 省略
(量刑事情)
 本件は,被告人X1が,思いを寄せる女性を奪われたとして被害者に憎しみ
告人X2にその手伝いを求めて,同被告人と共謀の上,被害者の頸を絞めて
遺体を通称映画村敷地内に放置して遺棄したという殺人及び死体遺棄の事
1,2),被告人X1が勤務先の送迎用車両を乗り逃げした業務上横領の事案
ある。
 殺人及び死体遺棄の事案についての犯行に至る経緯及び動機は,前示の
被告人X1は,勤め先のホステスに恋い焦がれる余り,やはり同女に思いを
の交際を深めていた被害者への憎しみを募らせ,さらに,同女が,店の外で
ているのを目撃した時から,同人の殺害を考えるようになり,最後は,同女と
恋愛関係があることを窺わせる被害者の発言を聞いて,殺意を固め,本件犯
のである。被害者は,被告人X1と上記ホステスの関係について何も知らされ
のであり,被告人X1が一方的に怒りの矛先を被害者に向けた挙げ句,同人
たのは,誠に短絡的かつ冷酷というべきであって,その経緯及び動機に酌量
い。被告人X2は,被告人X1から真相を知らされていなかったために,被告
安易に了承して行動を共にした結果,本件殺人等に巻き込まれてしまったと
のの,被告人X2においては,面識もなく素性も知らない被害者を殺害する動
いはずであるにもかかわらず,殺人という重大犯罪に加担する選択をしたも
人命軽視が甚だしいといわざるを得ず,これまた経緯及び動機に同情すべき
ない。
 本件殺人の態様は,被告人X1において,被告人X2が待つ自室に被害者
いきなり,被害者の背後から頸に片腕を巻き付け,反対の腕を交差させて引
付け,続いて,被害者に正対した被告人X2において,被告人X1の両腕を掴
て更に絞め上げたり,被告人X1の腕を掴んでいる被害者の腕を持ってその
全に排除するなどし,その間,被害者が息絶えたと思われた後も,被告人X
続けていたというものであって極めて残忍であり,強固な殺意が窺える。
 また,本件死体遺棄は,犯行発覚を防ぐために,裸にした被害者の手足を
縛り,遺体をゴミ袋で包んだ上から更にガムテープで巻き,被告人X1使用車
内,人気のない通称映画村付近の放置車両のトランク内と,より発覚の困難
度も移動させ,最終的に映画村敷地内に塀から投げ入れて遺棄したもので
遺体を物同然に扱った非情な犯行というべきである。
 被害者は,ホステスの許に通うようになって暫くしたころから,被告人X1に
を感じるようになっており,ホステスに対し,「殺されるかも知れない。」「自宅
いるので帰りたくない。」などと訴えていた。また,被害者は,被告人X1との関
通う風俗店の従業員というのみでそれ以上のものは全くないにもかかわらず
自分に対して憎しみを顕わにすることが理解できず,ホステスに対し,被告人
を確認したこともあった。このように,被害者は,被告人X1の影に怯えていた
相手から突然同行を求められて自宅に連れ込まれた上,抵抗らしいことをす
殺害されたもので,その間の恐怖,絶望感には多大なものがあったと認めら
被害者は,うら寂しい場所に長期間放置されて,白骨化した無惨な姿で発見
のであるから,その無念さは察するに余りある。尊い生命を奪った犯行の結
というほかなく,被害者の帰りを待ちわび,凶報に接した後も事実を受け容れ
でいた被害者の母をはじめとする遺族の悲嘆は深く,実兄の意見陳述からも
に,遺族の処罰感情には極めて厳しいものがある。にもかかわらず,被告人
的な慰謝の措置を何ら講じていない。
 被告人両名の役割の軽重をみると,前示のとおり,本件殺人は被告人X1
というべきものであって,当然,積極的かつ主導的役割を果たしたのも被告
の責任は,被告人X2よりも数段重い。とはいえ,被告人X2も,殺人の実行行
るなど軽視できない役割を果たしている上,本件死体遺棄については,むし
る舞っており,被告人X2の責任にも相応に重いものがある。
 さらに,被告人X1による本件業務上横領も,身勝手な犯行であって,犯情
 以上の諸事情に照らせば,本件の犯情は誠に悪質であり,被告人両名の
大といわなければならない。
 しかしながら,被告人両名は,捜査段階から一貫して素直に犯行を認めて
力し,公判廷において謝罪と反省の態度を示していること,被告人X1につい
2にかかる被害車両の被害回復が見込まれること,前科がないこと,被告人
は,上記の役割の比較に加え,前述のとおり,被告人X1の虚言を交えた誘
行に巻き込まれた側面もあること,遺族にあて謝罪の手紙を出し,後悔の念
ていること,前刑の執行猶予が取り消され,併せて服役することなど,被告人
酌むべき事情が認められる。
 そこで,諸般の事情を総合考慮し,被告人両名に対しては,それぞれ主文
すのが相当であると判断した。
(被告人X1につき求刑懲役15年)
(被告人X2につき求刑懲役8年)
平成17年5月18日
広島地方裁判所福山支部
裁判長裁判官    加藤 誠
裁判官    中島経太
裁判官    荒木美穂

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