弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定および原裁判所が昭和四三年一二月一一日検察官に対しAほか九
名の検察官に対する各供述調書を弁護人に閲覧させることを命じた決定は、いずれ
もこれを取り消す。
         理    由
 本件抗告の趣意は別紙添付のとおりである。
 所論第一点は判例違反をいうが、所論引用の当裁判所昭和三四年(し)第六〇号
同年一二月二六日第三小法廷決定は、いまだ冒頭手続にも入らない段階において、
検察官に対し、その手持証拠全部を相手方に閲覧させるよう命じた事案に関するも
のであるから、証拠調の段階において、特定の証拠につき、裁判所が、訴訟指揮権
に基づいて、検察官に対し、これを弁護人に閲覧させることを命じた本件とは、事
案を異にし適切な判例とはいえず、同第二点は、原決定は憲法三七条二項前段を根
拠にして証拠開示を命じたとして、同条項の解釈の誤りをいうが、原決定の引用す
る昭和四三年一二月一一日証拠閲覧を命じた決定は、同条に基づく反対尋問権保障
の観点から、刑事訴訟法上の訴訟指揮権により、検察官に対し証拠の開示を命ずる
ことができるとしているにすぎないから、所論はその前提を異にし、同第三点は、
単なる法令違反の主張であつて、以上すべて適法な抗告理由にあたらない。
 所論にかんがみ職権をもつて調査すると、本件は、原裁判所が、審理中の被告人
Bほか六名に対する威力業務妨害等被告事件において、検察官からAほか九名の証
人申請があつたところ、該証人に対する反対尋問ならびに其実発見のため必要であ
るので、検察官に対し、右各証人の警察官および検察官に対する各供述調書を、弁
護人に閲覧させるよう命ぜられたい旨の弁護人の申出により、右各証人の採用決定
前の昭和四三年一二月一一日、右各調書のうち、検祭官に対する供述調書の右証人
の立証趣旨にそう部分に限つて、当該証人の主尋問終了後反対尋問前に弁護人に閲
覧させることを命じたところ、検察官から異議の申立があり、原裁判所が、これを
棄却する旨の決定をしたものであることは、記録によつて明らかである。
 ところで、裁判所は、その訴訟上の地位にかんがみ、法規の明文ないし訴訟の基
本構造に違背しないかぎり、適切な裁量により公正な訴訟指揮を行ない、訴訟の合
目的的進行をはかるべき権限と職責を有するものであるから、本件のように証拠調
の段階に入つた後、弁護人から、具体的必要性を示して、一定の証拠を弁護人に閲
覧させるよう検察官に命ぜられたい旨の申出がなされた場合、事案の性質、審理の
状況、閲覧を求める証拠の種類および内容、閲覧の時期、程度および方法、その他
諸般の事情を勘案し、その閲覧が被告人の防禦のため特に重要であり、かつ、これ
により罪証穏滅、証人威迫等の弊害を招来するおそれがなく、相当と認めるときは、
その訴訟指揮権に基づき、検察官に対し、その所持する証拠を弁護人に閲覧させる
ことを命ずることができるものと解すべきである。
 しかし、これを本件について考えると、以下に述べるとおり、いまだ右のごとき
要件をそなえるに充分であるということはできない。
 原決定およびその維持する本件各調書を閲覧させるべきことを命じた決定が、閲
覧の必要性について判示するところは、当該証人に対する証人尋問は、起訴の時か
ら数えてすら四年近い日時を経過した時点で行なわれるのであつて、証人において
記憶喪失、思い違いの生じていることが容易に推察でき、そのため、その尋問も捜
査当時における当該証人らの供述調書、なかんづく検察官に対するそれに依拠する
ところが大きいと予想され、ひいては、その証言がこれら調書と実質的に相違して、
刑訴法三二一条一項二号あるいは同法三〇〇条により、右調書そのものが取調べら
れるにいたることもあり得るから、これら調書の証拠としての重要性は無視できず、
弁護人において適切有効な反対尋問をして、実体真実発見に資し、被告人の防禦を
全うするためには、主尋問終了後反対尋問前に、当該証人の検察官に対する各供述
調書を閲覧しておくことが必要不可欠であるというのである。しかしながら、右決
定は、前記のごとく、検察官の証人申請に対して、いまだその採否の決定のない段
階で発せられたものであるから、もし証人が採用されなければ反対尋問ということ
はあり得ないし、採用のうえ主尋問が行なわれたとしても、その結果如何によつて
は、反対尋問の必要のない場合も予想されるところである。とすればこのような場
合には、反対尋問のための閲覧の必要性はその前提を欠くことになる。また、主尋
問の結果、調書自体の取調請求がなされることも予想されないではないが、この場
合は、主尋問を実施したうえ、調書の取調請求を必要とする気配が生じた時にこれ
を閲覧することができれば、通常の場合、被告人の防禦に欠けるところはないと思
われるし、それが当事者間の公平にも合致するものといわなければならない。この
ような観点からすると、他に特段の事情のない本件において、証人の採用決定もな
い現段階で、反対尋問のため必要であるとの理由をもつてしては、本件各調書の閲
覧は、たとえその回閲の時期を主尋問終了後反対尋問前と指定したとしても、いま
だ被告人の防禦のため特に重要であるとするに足りない。
 また閲覧による弊害の有無について、原決定およびその維持する本件各調書を閲
覧させるべき旨を命じた決定は、閲覧の時期を主尋問終了後反対尋問前とすれば、
証人威迫、罪証隠滅のおそれもほとんど杞憂にすぎない、としているが、証人採用
決定もなくしたがつて主尋問も実施されていない現段階で、このように弊害がない
と判断することは、時期尚早といわなければならない。このような弊害の有無は、
証人を採用し主尋問の行なわれた段階で、閲覧の必要性を判断するに際し、あわせ
て考慮すべきものというべきである。
 以上のほか、記録によつてうかがわれる本件事案の性質、審理の状況等諸般の事
情を勘案すれば、検祭官に対し、前示のように弁護人に本件各調書を閲覧させるべ
きことを命じた昭和四三年一二月一一日の原裁判所の決定は、現段階においては違
法なものといわなければならず、これを維持した原決定も違法であり、これらを取
り消さなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて刑訴法四一一条を準用し、同法四三四条、四二六条二項により、裁判官全
員一致の意見で主文のとおり決定する。
  昭和四四年四月二五日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一

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