弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人和田泰典の上告理由第一点、第二点について。
 原判決は、挙示の証拠により、本件建物は、D鉄道a駅からほぼ北に通ずる通称
b通りの西側に面し、駅から約二百米、所沢市内でも最も繁華な商店街に在り、本
件建物の北側は被控訴人(被上告人)所有の所謂マーケット式店舗の一部に接続し、
南と南西にはそれぞれ路地を隔ててE店と被控訴人居住建物とがあり、西北には三、
四間離れて右マーケットの続きの部分が所在し、なお、附近には平屋建の建物数軒
が立ち並んでいること、本件解約申入当時の本件建物と附近の建物の状況は、マー
ケット以外は相当の年数を経過し、土台がいたみ、柱も曲つており、マーケットも
終戦直後の急造粗雑な建物で既に命数に達しており、附近一帯は排水が良くなく、
これらの建物は、いずれも、木造でしかも相互に極めて接近しているところから、
衛生的環境が不良でかつ火災発生の危険性もかなり高く、特にマーケットは、多数
店舗が並び通路も狭隘であつて、消防署から査察の結果防火上市内の最も危険な建
物として改造方の注意があり、保健所からも設備改善方の注意を受け、被控訴人は、
その改築についての具体的な計画を持ち、既に主務官庁の確認を受け、マーケット
内の各店舖使用者から改築の承諾を得ていること、本件建物は、当時既に五〇年以
上経過しており、一、二の箇所において柱や天井が多少傾斜し、南側が全体的に内
側に若干傾斜している外、屋根にもゆがみがきている状況であつたのみならず、マ
ーケットの一部と棟木を共通にし、そのためマーケットを改築するときは本件建物
も解体するのが自然の状況にあること、他方、控訴人(上告人)の先代Fは、当時、
本件建物において自転車預り業を営み、控訴人も他に職業をもち、両名の収入によ
り合計八名の家族を養い、なおほかには住宅がなかつたこと、しかしながら、被控
訴人は、本件建物明渡の調停において、Fに対しマーケット及び本件建物改築の計
画を説明し、本件建物を取り毀したあとに二階造二戸建の建物を新築してその一戸
を賃貸するとともに改築期間中は一時マーケットの一部を使用させる外、自転車預
り業の休業補償も考えてよいとの解決案を示したが、Fは右改築後の建物では自転
車預り業に因るとの理由でこれに応ぜず、結局、調停は不成立に終つたこと等の事
実を認定した上で、被控訴人が本件調停申立によつてなした本件建物賃貸借契約の
解約申入につき借家法一条ノ二に所謂「正当ノ事由」があるとしているのであつて、
右事実の認定は首肯するに足り、法律上の判断は正当として是認できる(なお、原
判決は、右に明らかなとおり、上告人側の事情を考慮に入れていないわけではない。)。
原判決には所論の違法は認められず、論旨はいずれも理由がない。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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