弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人小西敏雄の上告理由第一について
 指名債権の譲渡を受けた者は、譲渡人が破産宣告を受けた場合には、破産宣告前
に右譲渡について民法四六七条二項所定の対抗要件を具備しない限り、右債権の譲
受をもつて破産管財人に対抗しえないものと解すべきである。本件において、原審
が適法に確定した事実関係によれば、(一) 上告人は、昭和五三年三月八日D紙管
株式会社との間において、同社が営業を継続しない決議をしたとき、事実上営業を
やめたとき、又は上告人と同社との取引関係の終了することが明らかとなつたとき
を停止条件として、同社が第三者に対して現に有する売掛代金債権及び将来取得す
ることのあるべき売掛代金債権を上告人が譲り受ける旨の債権譲渡契約を締結して
いたところ、昭和五五年一〇月四日停止条件が成就し、右債権譲渡の効力を生じた、
(二) D紙管株式会社は、同月六日までに、被上告人B1樹脂株式会社に対し一〇
〇万三三〇〇円、同B2フロツキング株式会社に対し四四万四五六六円、同B3金
網株式会社に対し一八万〇六八〇円、同E化成工業所ことB4に対し一二〇万〇五
〇〇円の各売掛代金債権(以下、まとめて、右被上告人らを「被上告人四名」と、
右売掛代金債権を「本件各売掛債権」という。)を取得していたから、上告人は、
本件各売掛債権を譲り受けたこととなる、(三) D紙管株式会社の名で、同月四日
ころ被上告人四名各自に対し、本件各売掛債権を上告人に譲渡した旨の記載のある
債権譲渡通知書(以下「本件各通知書」という。)が簡易書留郵便で送付され、本
件各通知書は同月六日ころ被上告人四名にそれぞれ到達したが、本件各通知書には
確定日付があるとはいえない、(四) D紙管株式会社は、同月一五日午前一〇時大
阪地方裁判所において破産宣告を受け(以下「本件破産宣告」という。)、弁護士
小松英宣がその破産管財人に選任された(以下被上告人破産管財人小松英宣を「被
上告人破産管財人」という。)というのである。右事実関係のもとにおいては、上
告人は、本件各売掛債権の譲受をもつて、被上告人破産管財人に対抗しえないもの
というべきである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。
所論は、独自の見解に基づいて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することが
できない。
 同第二について
 所論は、本件各通知書は、被上告人破産管財人が昭和五五年一〇月一五日上告人
に宛てて発信した確定日付のある内容証明郵便に引用されており、また、本件各通
知書につき作成された確定日付のある書留郵便物受領証に引用されていると解すべ
きであるから、民法施行法五条四号により、確定日付が付されたことになる旨主張
する。
 しかしながら、同号にいう「確定日付ある証書中に私署証書を引用したるとき」
とは、確定日付ある証書それ自体に当該私署証書の存在とその同一性が明確に認識
しうる程度にその作成者、作成日、内容等の全部又は一部が記載されていることを
いうと解すべきである。そして、原審が適法に確定したところによれば、(一) 被
上告人破産管財人が上告人に対して郵送した所論の確定日付のある内容証明郵便に
は、D紙管株式会社名でその有する売掛代金債権を上告人に譲渡した旨の通知が各
売掛先に対し発信されているとの事実が記載されているにすぎず、債権額、債務者
等の具体的記載に欠け、しかも右記載は、被上告人破産管財人が、上告人に対し右
債権の回収をしないよう申し入れる前提として、右譲渡通知に言及したものにすぎ
ないというのであり、また、(二) 本件各通知書が簡易書留郵便によつて発信され、
書留郵便物受領証が作成されたが、これにはE化成五四四、B1樹脂五七七、B3
金網五八三、B2フロツキング五八六との記載があり、これらにつきそれぞれ大阪
中央56・10・5の引受日付印が押捺されているにすぎないというのであるから、
右内容証明郵便及び書留郵便物受領証のいずれにも本件各通知書が引用されている
ものとはいえないものというべきである。したがつて、これと同旨の原審の判断は、
正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するこ
とができない。
 所論は、また、本件各通知書は、簡易書留郵便で発信され、これにつき確定日付
のある書留郵便物受領証が作成されているから、民法施行法五条五号により本件各
通知書に確定日付が付されたことにもなる旨主張する。
 しかしながら、同号にいう「官庁又は公署において私署証書にある事項を記入し
これに日付を記載したるとき」とは、官庁又は公署が、私署証書それ自体にこれを
受け付けた等の事項を記入し、これに日付を記載することを意味するものであるこ
とは、同号の文言上明らかであり、右記入及び記載のない私署証書は、たとえこれ
に関し確定日付ある文書の作成されたことが他の証拠によつて明らかとなつたとし
ても、それが右私署証書と別個のものである限り、同号により確定日付があること
となるものではない。原審の確定したところによれば、郵便官署は、本件各通知書
それ自体については同号所定の記入及び記載をしていないことが明らかであるから、
本件各通知書は、これにつき書留郵便物受領証が作成されていても、同号により確
定日付があることとなるものではない。右と同旨の原審の判断は、正当として是認
することができる。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    横   井   大   三
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    木 戸 口   久   治

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