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主文
1控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨(なお,「超える部分」及び「下回る部分」の表記は,原判決2
頁2行目以下の例による。)
1原判決を取り消す。
2処分行政庁が平成19年2月22日付けで控訴人らの被承継人である亡Aに
対してした,
(1)亡Aの平成15年分の所得税に係る更正処分(ただし,平成20年5月3
0日付け減額更正処分により一部取り消された後のもの。本件平成15年分
更正処分)のうち総所得金額0円を超える部分及び還付金の額に相当する税
額111万9340円を超える部分
(2)亡Aの平成16年分の所得税に係る更正処分(本件平成16年分更正処
分)のうち総所得金額2891万5197円を超える部分及び納付すべき税
額603万5600円を超える部分
(3)亡Aの平成17年分の所得税に係る更正処分(本件平成17年分更正処
分)のうち総所得金額0円を超える部分及び還付金の額に相当する税額28
4万6800円を超える部分
を,いずれも取り消す。
3処分行政庁が平成19年2月22日付けで亡Aに対してした,
(1)亡Aの平成15年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分(ただし,
平成20年5月30日付け変更決定処分及び平成21年4月30日付け変更
決定処分により一部取り消された後のもの。本件平成15年分賦課決定処分)
(2)亡Aの平成16年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分(ただし,
平成21年4月30日付け変更決定処分により一部取り消された後のもの。
本件平成16年分賦課決定処分)のうち過少申告加算税40万4500円を
超える部分
(3)亡Aの平成17年分の所得税に係る過少申告加算税賦課決定処分(本件平
成17年分賦課決定処分)
を,いずれも取り消す。
第2事案の概要
1本件は,匿名組合の匿名組合員としての地位を譲り受けた亡Aが,匿名組合
の営業として行われた航空機リース事業に関する損失のうち亡Aの出資割合相
当額を,不動産所得(原判決38頁11行目以下参照)の損失に当たるとして,
平成15年分から平成17年分までの本件各係争年分の所得税の確定申告をし
たところ,処分行政庁(処分を行ったのは千種税務署長であるが,亡Aの納税
地異動に伴い,処分権限を有するのは,豊田税務署長になった。)が,不動産
所得についての損失はなく,亡A主張の損失は雑所得の損失に当たるなどとし
て,上記「第1控訴の趣旨」の2(1)ないし(3)の本件各更正処分(原判決3
頁12行目参照)及び3(1)ないし(3)の本件各賦課決定処分(原判決3頁13
行目参照)をしたことから,亡Aが,被控訴人に対して,上記「第1控訴の
趣旨」の2及び3記載のとおり本件各処分(原判決3頁14行目参照)の取消
しを求めた事案である。
亡Aは,本件各処分について,①本件匿名組合の実質は,営業者(B社。原
判決3頁25行目参照)と匿名組合員である亡Aとの共同事業であり,本件匿
名組合契約に基づき亡Aが営業者から分配される損益は,本件事業に係る営業
者の損益と同種のものであり,不動産所得又はその損失に当たる(争点(2)。原
判決12頁8行目以下参照),②本件匿名組合契約に基づき亡Aが分配を受け
た損失額は,本件各係争年分において亡Aに帰属したから,分配がされた時点
における年度分の所得税に係る損失として計上すべきである(争点(3)。原判決
16頁25行目以下参照),③本件各更正処分は,旧通達(原判決40頁13
行目参照)に従った課税がされるとの亡Aの信頼を裏切るという点などにおい
て課税上の信義則に反するものであり,また,本件匿名組合契約における亡A
以外の3名の個人出資者については不動産所得に係る損失であることを認めた
取扱いがされているにもかかわらず,亡Aについてのみ雑所得に係る損失であ
るとして異なる取扱いをしている点において課税上の平等原則に反する(争点
(4)。原判決18頁19行目以下参照),④亡Aの本件各係争年分の所得税の確
定申告には,国税通則法65条4項所定の「正当な理由」があったから,過少
申告加算税の賦課決定処分(本件各賦課決定処分)は不当である(争点(5)。原
判決21頁21行目以下参照)などと主張した。
原判決は,争点(1)(原判決9頁20行目以下参照)について,本件各更正処
分のうち申告に係る納付すべき税額又は還付金の額に相当する税額を下回る部
分についての取消しを求める訴えは不適法であるとして,原判決別紙1「訴え
却下処分目録」記載の各処分の部分に係る取消しを求める訴えを却下する(原
判決23頁1行目以下及び36頁の別紙1参照)とともに,本件各処分のうち
その余の部分について,①本件匿名組合契約に基づき亡Aが分配を受ける損益
に係る所得及び損失は,雑所得又はその損失に該当し,不動産所得又はその損
失には当たらない(争点(2)。原判決24頁20行目以下参照),②本件匿名組
合契約に基づき分配された損益が雑所得又はその損失に当たるとすると,本件
においては,争点(3)についての結論のいかんにかかわらず,本件各係争年分に
おける亡Aの総所得金額及び納付すべき税額に異同が生じないから,争点(3)
については判断の必要がない(原判決31頁12行目以下参照),③本件各更
正処分には課税上の信義則違反及び平等原則違反はない(争点(4)。原判決31
頁24行目以下参照),④亡Aの本件各係争年分の所得税の確定申告について
国税通則法65条4項所定の「正当な理由」があったとは認められない(争点(5)。
原判決33頁21行目以下参照)などとして,亡Aの主張を排斥し,その余の
本件各処分についての亡Aの本訴請求を棄却したので,亡Aが,これを不服と
して控訴した。
亡Aは,控訴の提起後である平成▲年▲月▲日に死亡し,その相続人である
控訴人らが,当審において本訴を承継した。
2「関係法令及び所得税基本通達の定め」については,原判決の「事実及び理
由」中の第2の2(原判決3頁17行目以下及び37頁以下の別紙2)に記載
するとおりであるから,これを引用し,また,「前提事実」については,原判
決を次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の第2の3(原
判決3頁20行目以下)に記載するとおりであるから,これを引用する。
原判決8頁25行目の次に,行を改めて,次のとおり加える。
「(5)平成23年1月23日付けの東京国税局長の行政文書開示決定に基づ
き入手した「所得税・質疑照会事項回答事績票」(甲17。以下「本件事
績票」という。)には,匿名組合契約を締結し,航空機リース業に出資し
ている納税者(個人)が,損失を事業所得(赤字)として申告した事例に
ついて,東村山税務署の「所得区分は,事業所得ではなく不動産所得とす
べきだが,基通36・37共-21によれば,損失の額は認められるから,
損益通算することはできる。ただし,通達改正後は,本件の場合,経営の
参画権がないので,雑所得になる。」とする見解に対して,麹町税務署の
個人課税事務担当審理専門官が,「貴見のとおりで差し支えない。なお,
通達の改正によって所得区分を変更するよう指導することとなるが,指導
に当たっては慎重に対処していただきたい。」と回答しており,さらに「所
得区分を変更するよう指導すべきことについては,局審査指導係長に確認
済みである。」旨が記載されている。
(6)亡Aは,平成▲年▲月▲日に死亡したところ,妻である控訴人C,子で
ある同D,同E及び同Fの4名が,当審において本訴を受継した。」
3「本訴請求の根拠等に関する控訴人らの主張及び本件各処分の根拠等に関す
る被控訴人の主張」,「争点」及び「争点に関する当事者の主張の要点」につ
いては,次項以下において,当事者双方の当審における補充主張を付加するほ
かは,原判決の「事実及び理由」中の第2の4ないし6(原判決8頁末行以下)
に記載するとおりであるから,これを引用する。
4控訴人らの当審における補充主張
(1)本件事績票の事例における匿名組合契約は,本件匿名組合契約(原判決4
頁初行参照)と全く同一のスキームによるものであり,法的な相違点もない
のであるから,審理専門官による上記の回答は,旧通達の時点における匿名
組合契約に基づく損益の所得区分が不動産所得とされており,東京国税局も
これを認めていたことを意味するものである。そして,この事例における通
達改正前である平成15年分及び平成16年分の申告については,旧通達を
適用して,匿名組合から受ける営業収支を不動産所得(損失)とし,新通達
(原判決40頁20行目参照)が適用される平成17年分は,所得区分を雑
所得とするように納税者を「指導」するにとどめたことが明らかである。
(2)本件事績票の事例に加え,国税庁の職員が執筆した『[例解問答式]所得
税の実務』(甲18)及び大阪国税局の職員が執筆した『所得税実務問答集』
(甲19)の旧通達を前提とする年度についての記載内容に照らしても明ら
かなとおり,旧通達に基づく課税実務においては,長年の間,匿名組合契約
に基づき分配された利益に関する所得区分を,営業者の営業の内容に従って
定めていたのであり,亡Aを始めとする納税者も,これを信頼して申告して
いたのであるから,本件各更正処分は,旧通達に基づく課税実務に対する納
税者の信頼を裏切り,新通達を遡って適用したことになり,課税上の信義則
(民法1条2項)に反する違法な処分である。
(3)本件事績票にある匿名組合契約と本件匿名組合契約とは,同じ内容のもの
である。そして,同一の法律関係については課税上も同一に取り扱われるべ
きであり,合理的な理由がないにもかかわらず異なる取扱いをすることは,
課税上の平等原則に反する違法な処分となる。
本件事績票の納税者は,分配された損益を不動産所得として他の所得と損
益通算することが認められ,少なくとも旧通達を前提とする年度分について
は,東京国税局も,匿名組合契約からの営業収支を不動産所得として取り扱
っていたにもかかわらず,同一内容の匿名組合契約を締結し,不動産所得と
して申告した亡Aに対しては,これと異なる本件各更正処分をしたことは,
課税上の平等原則に違反するものである。
(4)旧通達の下においては,「匿名組合契約に基づき分配された利益に関して
は,営業者の営業の内容に従う。」とする長年の課税実務が存在していたの
であるから,亡Aが本件匿名組合(原判決4頁3行目参照)から分配された
損失を不動産所得として申告したことは,明らかに「正当な理由があると認
められる」(国税通則法65条4項)場合に該当する。したがって,亡Aに
対して過少申告加算税を賦課した本件各賦課決定処分は違法である。
5被控訴人の当審における補充主張
(1)課税処分が信義則の法理の適用により違法とされる場合があるとしても,
違法とするためには,少なくとも,税務官庁が納税者に対して表示した信頼
の対象となるべき公的見解を納税者が信頼して行動したにもかかわらず,後
にこの表示に反する課税処分がされ,納税者に経済的な不利益が生じる結果
となったか否か,また,納税者が税務官庁の当該表示を信頼して行動したこ
とについての納税者の責めに帰すべき事由の有無等を検討する必要がある。
(2)旧通達は,匿名組合契約に基づき分配された利益について,営業者の営業
の内容に従った所得になる場合と,貸付金の利子として事業所得又は雑所得
になる場合の二面性があることを前提としていた。そして,新通達は,出資
者が匿名組合契約に基づき営業者から分配された利益を雑所得とすることを
原則としつつ,匿名組合契約に基づいて営業者の営む事業に係る重要な業務
執行の決定を行っているなど組合事業を営業者と共に経営していると認めら
れる場合には,営業者から分配された利益を,例外的に,営業者の営業の内
容に従い事業所得又はその他の所得とするという取扱いをすると定めており,
これにより,旧通達における二面性を整理して,その明確化を図ったもので
あり,旧通達下における課税実務も,匿名組合契約に基づき分配された利益
に関する所得区分を営業者の営業の内容に従って定めるとの画一的な取扱い
をしていたわけではなかった。また,旧通達は,分配された利益について定
めていただけであり,「損失の分担」については定めがなかった。したがっ
て,信義則の法理が適用される前提となる公的見解については,控訴人らが
主張するような内容のものが税務官庁から表示されていた事実はなかったと
いうべきである。
(3)課税上の平等とは,「課税の根拠となる法を適用すべき者に対しては等し
く適用すべし」ということに尽きるのであって,仮に法の適用を免れる者が
生じていたとしても,それを理由に,他の者に対して法を正しく適用するこ
とが平等原則に反することにならないのは明らかである。本件各処分は,亡
Aに対して法を正しく適用した結果にすぎないのであるから,このことをも
って違法とされる理由はない。
(4)国税通則法65条4項所定の「正当な理由があると認められる」場合とは,
真に納税者の責めに帰することができない客観的な事情があり,過少申告加
算税の趣旨に照らしても,その賦課が不当又は酷になる場合をいうものと解
するのが相当であるところ,亡Aは,旧通達の解釈を誤って本件各係争年分
の確定申告をしたものにすぎず,上記の「正当な理由があると認められる」
場合に当たらないことは明らかである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,本件各更正処分のうち申告に係る納付すべき税額又は還付金の
額に相当する税額を下回る部分についての取消しを求める訴えは不適法である
から,原判決別紙1「訴え却下処分目録」記載の各処分の部分の取消しを求め
る訴えは却下するのが相当であり,また,被控訴人による本件各処分(本件各
更正処分及び本件各賦課決定処分)のその余の部分はいずれも適法なものであ
るから,控訴人らのその余の本訴請求は理由がなく,これを棄却するのが相当
であると判断する。その理由は,原判決を次のとおり補正し,2ないし4にお
いて「控訴人らの当審における補充主張についての判断」を付加するほかは,
原判決の「事実及び理由」中の第3の1ないし5に記載するとおりであるから,
これを引用する。
(1)原判決24頁19行目の次に行を改めて,次のとおり加える。
「また,控訴人らは,処分行政庁による増額更正の内容が,①申告に係る
課税標準の一部の取消しと,②新たに認定された課税要件事実に基づく課
税標準の加算から成り立っている場合において,②の加算部分の取消しを
求めているときは,判決等がされるまでの間は当該納税者の租税債務が確
定しないのであるから,更正の請求の原則的排他性の趣旨を損なう場合に
は当たらないと主張する。しかしながら,前記のとおり,所得税法及び国
税通則法が採用する申告納税制度は,納付すべき税額を納税者の申告によ
って確定し,増額更正は,この申告によって既に確定した納付すべき税額
に係る部分の国税についての納税義務に影響を及ぼさない(国税通則法2
9条1項)のであるから,これと異なる前提に立つ控訴人らの上記主張を
採用することはできない。」
(2)同26頁18行目の「②また,匿名組合につき,」から同27頁2行目ま
でを,「②また,匿名組合につき,その法的性質等に民法上の組合と類似す
る側面がないわけでなく,そのような面に着目してこれを内的組合との概念
で論ずることが全く否定されるものではないとしても,旧商法の規定上も,
匿名組合員が営業者の行う営業への出資者と位置付けられていることからす
ると,匿名組合契約は消費貸借契約の特殊な形態であるともいい得るのであ
り,また,合資会社に関する規定の一部を匿名組合に準用することとしてい
る同法542条の規定に照らすと,匿名組合は合資会社に類似する側面があ
るともいい得るのである。さらに,法律上,その出資は,営業者に対するも
のと解されており,「組合」に対するものではないのであるから,出資その
ものが当事者の共有とはならないこと(旧商法536条1項。民法668条
との対照。),匿名組合員は,第三者に対する関係では営業について原則と
して何らの権利義務関係に立たないこと(旧商法536条2項。民法675
条との対照。)など,民法上の組合とは重要な部分において異なっており,
我が国の法制上,匿名組合と民法上の組合とは,その法的性質ないし内容を
異にするものと位置付けられているのであり,匿名組合であるからといって,
民法上の組合と同様に取り扱うべきであるとの控訴人らの主張も採用するこ
とはできないと判断するのが相当である。」に改める。
(3)同30頁12行目の「(原告の第4準備書面5頁)」の次に,「,控訴人
らの平成23年12月1日付けの第2準備書面(3頁17行目)にもあると
おり,控訴人らが主張する本件合意のような合意は,経営の参画権が認めら
れない本件事績票の事例はもとより,およそどのような投資案件でもあり得
るのであるから,本件合意が存在するからといって,匿名組合員である亡A
が本件匿名組合契約の営業者と事業を共同経営しているものと直ちに根拠付
けることにはならないこと」を加える。
(4)同33頁18行目の「所得税法統」を「所得税法等」に改める。
2信義則違反について
租税法規に適合する課税処分については,法の一般原理である信義則の法理
の適用により,これを違法なものとして取り消すことができる場合があるとし
ても,租税法律関係における法律による行政の原理,特に租税法律主義の原則
を考慮すると,この法理の適用に当たっては,租税法規の適用における納税者
間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れ
させて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情
があることを要すると解するのが相当である。そして,この特別な事情の存否
の判断に当たっては,少なくとも税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる
ような公的見解を表示し,納税者がその表示を信頼して行動したところ,この
表示に反する課税処分が行われた結果,納税者が経済的不利益を受けることに
なったこと,税務官庁の公的見解に関する表示を信頼して行動したことについ
て納税者に責めに帰すべき事由がなかったことなどの検討が不可欠であるとい
うべきである(最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第
三小法廷判決・裁判集民事152号93頁参照)。
控訴人らは,旧通達下での課税実務においては,長年の間,匿名組合契約に
基づき分配された利益に関する所得区分は,営業者の営業の内容に従って定め
られており,納税者はこれを信頼して申告をしていたのであるから,本件各更
正処分は,旧通達に基づく課税実務に対する信頼を裏切り,新通達を遡って適
用したことになり,課税上の信義則(民法1条2項)に反する違法な処分であ
ると主張する。そこでまず,旧通達下における課税実務が,控訴人らの主張す
るような内容の公的見解として表示されており,納税者もこの表示を信頼して
行動する程度のものであったか否かについて検討する。
匿名組合の出資者である匿名組合員が営業者から分配される損益に係る所得
税法上の所得区分については,原判決(24頁20行目以下)も適切に説示す
るとおり,雑所得又はその損失に当たると解するのが相当である。すなわち,
旧商法の規定に照らすと,匿名組合契約における営業の主体となるのは原則と
して営業者だけであり,匿名組合員は,出資者として営業から生じる利益の分
配を受ける地位を有するにとどまる(原判決25頁4行目参照)のであり,そ
のような出資行為から生じる損益は,匿名組合員の営む事業の遂行によるもの
ではなく,また,継続かつ反復する行為によるものでもなく,さらに,役務の
提供を内容とするものでもないのであるから,所得税法27条及び34条所定
の事業所得若しくは一時所得又はそれらの損失にも該当せず,また,同法23
条ないし25条及び28条ないし33条所定の,利子所得,配当所得,給与所
得,退職所得,山林所得及び譲渡所得又はその損失のいずれにも該当しないこ
とになり,結局,上記損益は,同法35条所定の雑所得又はその損失に該当す
ると解することになる(原判決31頁3行目以下参照)。一方,匿名組合契約
において匿名組合員に業務の執行の権利を与え,又は義務を負わせる旨の特約
が定められている場合には,匿名組合員も業務を執行することができる地位を
有することになるのであり,そのような場合においては,匿名組合員も,営業
者とともに営業の主体となっているものと評価することができる(原判決25
頁8行目以下参照)から,匿名組合員に分配される損益も,営業者の営業の内
容に従った所得又はその損失に該当することになるものと解される。このよう
に,匿名組合員が営業者から受ける損益の所得区分については,匿名組合契約
に基づく匿名組合員の営業への関与の有無内容等による二面性が存することに
なる。
旧通達は,新通達に比較して明確性を欠く嫌いはあるものの,匿名組合員が
営業者から受ける損益の所得区分についての上記の二面性を踏まえたものと解
されるのであり,匿名組合員が受ける損益の所得区分を営業者の営業の内容に
応じて定められるものと画一的に規定しているわけではないから,控訴人らの
主張するような公的見解が税務官庁から表示されていたとはいうことができな
い。
なお,この点について,控訴人らは,本件事績票の事例に加え,国税庁の職
員が執筆した『[例解問答式]所得税の実務』(甲18)及び大阪国税局の職
員が執筆した『所得税実務問答集』(甲19)の記載内容に照らしても,長年
の間,匿名組合契約に基づき分配された利益に関する所得区分は,営業者の営
業の内容に従って定められていたと主張する。しかしながら,前記の前提事実
によれば,本件事績票の事例は,匿名組合員が経営への参画権を有しないと東
村山税務署が認定している事案であり,平成15年分及び平成16年分の申告
については,匿名組合から受ける営業収支を不動産所得(損失)とする一方で,
新通達が適用される平成17年分は所得区分を雑所得とするように「指導」す
るとの東村山税務署の見解に対して,これを審理専門官が是認したものである
ところ,このような取扱いは,前述した所得税法の正しい解釈適用とは齟齬す
るのみならず,年度によって取扱いの統一性を欠くものといわざるを得ない。
通達の改正時とはいえ,このように統一性を欠く結果となる解釈適用を選択し
た理由は定かではないものの,いずれにしても,本件事績票の事例があるから
といって直ちに匿名組合契約に関して,このような統一性を欠く取扱いが一般
的に行われていたものと証明されていることにはならないし,むしろ,本件事
績票の記載内容に照らしても,このような統一性を欠いた取扱いが,匿名組合
契約に係る課税実務上,一般的に行われていたとは考え難いというべきである。
そうすると,本件事績票の記載内容だけでは,長年の間,匿名組合契約に基づ
き分配された利益に関する所得区分を,営業者の営業の内容に従って定めると
の公的見解が表示されていたとは認められないというべきである。
次に,国税庁の職員執筆の『[例解問答式]所得税の実務』(甲18)及び
大阪国税局の職員執筆の『所得税実務問答集』(甲19)について検討すると
ころ,前者は,旧通達をほぼそのまま転記したものにすぎないし,後者は,共
同企業形態に近い匿名組合の実質に着目した場合には,営業者の営業の内容に
従った所得区分になると記載されており,まさに前述した匿名組合員が営業者
から受ける損益の所得区分の二面性を指摘している記載であって,いずれにし
ても,旧通達の運用として,匿名組合の出資者の所得区分が,画一的に営業者
の営業の内容に応じて定められるとする公的見解を表示したものとは到底いう
ことができない。
そして,原判決(32頁15行目以下)も的確に説示しているとおり,旧通
達下においても,課税実務上,匿名組合員が営業者から分配される利益につい
ては雑所得として処理する例も多かった(乙6,12)上,被控訴人が指摘す
る裁判例(乙5)も,旧商法上の匿名組合契約と認められる契約に基づく営業
者から分配された利益について,匿名組合員は営業者の事業を共同して営む立
場にない単なる出資者であるから雑所得に当たるとして,旧通達下である平成
12年分の所得税の更正処分をした税務署長の処分を是認したものであること
に照らせば,課税実務上も上述した取扱いが少なくなかったものと推認される
ところである。
以上によれば,旧通達下において,匿名組合員が営業者から分配された利益
については,営業者の営業の内容に従った所得区分によるとの画一的な運用が
されていたものとは認めることができない。したがって,旧通達が,控訴人ら
の信義則の主張の前提となる内容の税務官庁の公的見解を表示しているとはい
えないのであり,この点において,控訴人らの主張は,その前提を欠くもので
あって,採用することができない。
3平等原則違反について
控訴人らは,本件事績票の匿名組合契約と本件匿名組合契約とは同じ内容の
ものであって,本件事績票の納税者は,分配を受けた損益を不動産所得として
他の所得と損益通算することが認められ,少なくとも旧通達を前提とする年度
分については,東京国税局も,匿名組合契約からの営業収支を不動産所得とし
て取り扱っており,同一の法律関係については課税上も同一に取り扱われるべ
きところ,合理的な理由がないにもかかわらず異なる取扱いをした本件各更正
処分は,課税上の平等原則に反する違法な処分であると主張する。
しかしながら,この点については,原判決(33頁10行目以下)が的確に
説示するとおりであり,課税の平等とは,「課税の根拠となる法を適用すべき
者に対しては等しく適用すべし」とすることであって,仮に法の適用を免れる
者があったとしても,そのことを理由に,他の者に対して法を正しく適用する
ことができなくなるわけではなく,また,法を正しく適用することが課税の平
等に反することにならないことも明らかというべきである。そして,上述のと
おり,所得税法の正しい解釈適用は,出資者である匿名組合員が,営業者の事
業を共同して営む立場にある場合においては,営業者の営業の内容に従った所
得区分となるのに対して,出資者がそのような立場にない場合には,雑所得に
当たるとするほかないというものであって,本件においては,客観的にみて,
亡Aには,本件事業の共同事業者に当たるとする事情は見当たらないのである
から,その分配される利益を雑所得として取り扱うことを前提とする本件各更
正処分は,まさしく法を正しく適用した結果であり,課税の平等に資するもの
であると判断するのが相当である。
控訴人らは,本件事績票の事例にある納税者との取扱いが異なり,平等原則
に反すると主張するのであるが,上記のとおり,営業者との間に共同事業者と
しての関係が認められない匿名組合員について,一律に本件事績票の事例と同
様の取扱いがされているとの立証はないのみならず,本件事績票の事例は,法
の解釈適用においてむしろ統一性を欠く結果となっていることに照らすと,同
様の事実関係にある事案において,すべて本件事績票の見解と同様に取り扱わ
れたものとは到底考えられないから,本件各更正処分が,本件事績票の事例と
は異なる取扱いであることを理由に,平等原則に反する違法な処分であるとは
解することができない。なお,結果的に不統一な取扱いがされた場合において,
これを統一するときには,あるべき内容に統一するのが当然であり,前述した
匿名組合契約における分配された利益の所得区分に関する正解を前提とする以
上,課税当局による本件各更正処分が平等原則に反するとは到底いうことがで
きない。
以上の検討によれば,本件各更正処分が平等原則に反する違法な処分である
との控訴人らの主張も採用することはできないこととなる。
4国税通則法65条4項所定の「正当な理由」の有無について
前記の判断を前提とすると,旧通達下において,匿名組合員が営業者から分
配された利益については,営業者の営業の内容に従った所得区分により定める
との画一的な運用がされていたとは認められないのであるから,原判決(34
頁14行目以下)が的確に説示しているとおり,新通達をもって,匿名組合員
が営業者から分配を受ける利益の所得の種類の区分について従前の行政解釈を
変更したものとは評価することができない。そして,原判決(34頁21行目
以下)も説示しているとおり,本件匿名組合契約上,亡Aは,本件事業の共同
事業者の地位に立つものではない以上,所得税法による正しい法規範の解釈適
用を行えば,本件匿名組合契約による所得及び損失は雑所得として取り扱うこ
とになるのであるから,亡Aの本件各係争年分の所得税の確定申告に国税通則
法65条4項所定の「正当な理由がある」とはいうことができないことも明ら
かである。
第4結論
以上のとおり,被控訴人による本件各処分(本件各更正処分及び本件各賦課決
定処分)にはいずれも違法と評価すべき事由は認められず,控訴人らの本件訴え
のうち原判決別紙1「訴え却下処分目録」記載の各処分の部分の取消しを求める
部分は不適法であるから,これを却下すべきであり,控訴人らのその余の本訴請
求は理由がないから,これを棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であ
り,控訴人らの本件控訴は理由がないから,これをいずれも棄却することとし,
主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第16民事部
裁判長裁判官奥田隆文
裁判官渡邉弘
裁判官齊藤顕

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