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平成15年(行ケ)第546号 審決取消請求事件(平成16年11月8日口頭弁
論終結)
          判           決
    原      告   株式会社日立国際電気
       訴訟代理人弁理士   船 津 暢 宏
       同          阪 本 清 孝
       被      告   特許庁長官  小川 洋
       指定代理人      小 林 勝 広
       同          佐 藤 秀 一
       同          濱 野 友 茂
       同          高 橋 泰 史
       同          伊 藤 三 男
          主           文
 原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が不服2001-10953号事件について平成15年10月20日
にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,平成8年7月1日,発明の名称を「携帯電話装置」とする特許出願
(特願平8-171526号,以下「本件特許出願」という。)をしたが,平成1
3年5月16日に拒絶の査定を受けたので,同年6月28日,これに対する不服の
審判の請求をし,同年7月27日付け手続補正書により本件特許出願の願書に添付
した明細書の特許請求の範囲の記載等について補正(以下「本件手続補正」とい
う。)をした。
 特許庁は,同請求を不服2001-10953号事件として審理した上,平
成15年10月20日に本件手続補正を却下するとの決定(以下「補正却下決定」
という。)をした上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その
謄本は,同年11月12日,原告に送達された。
2 願書に添付した明細書(本件手続補正後のもの。以下「補正明細書」とい
う。)の特許請求の範囲【請求項1】記載の発明(以下「本願補正発明」とい
う。)の要旨(下線は補正部分)
 表示部を備えた携帯電話装置において,通常複数のキー操作によって実現さ
れる機能を複数備え,
 前記表示部には通信状態を表す画面が表示され,当該複数の機能に対応し,
当該機能を表現するアイコンを前記画面上に複数表示し,入力部のキー操作により
前記表示されているアイコンの1つが選択されると,前記選択されたアイコンの機
能を表現する文字列を表示し,前記選択されたアイコンを確定する操作が為される
と,前記確定されたアイコンに対応する機能を実行することを特徴とする携帯電話
装置。
3 願書に添付した明細書(本件手続補正前のもの。以下「本願明細書」とい
う。)の特許請求の範囲【請求項1】記載の発明(以下「本願発明」という。)の
要旨
 表示部を備えた携帯電話装置において,通常複数のキー操作によって実現さ
れる機能を複数備え,
 前記表示部に,当該複数の機能に対応し,当該機能を表現するアイコンを複
数表示し,入力部のキー操作により前記表示されているアイコンの1つが選択され
ると,前記選択されたアイコンの機能を表現する文字列を表示し,前記選択された
アイコンを確定する操作が為されると,前記確定されたアイコンに対応する機能を
実行することを特徴とする携帯電話装置。
 4 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,(1)①補正明細書の特許請求の範囲
に記載された「通常複数のキー操作によって実現される機能」は,「通常」が技術
的に何を意味するのか不明であり,「複数のキー操作によって実現される機能」が
どのような「機能」を指すのか明確でないことから,本願補正発明は不明りょうで
あるところ,補正明細書の発明の詳細な説明を参酌しても,本願補正発明の「通常
複数のキー操作によって実現される機能」がどのような「機能」を指すのか明確で
はなく,補正明細書の発明の詳細な説明は当業者が本願補正発明を実施をすること
ができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず,補正明細書及び図面の記
載は不備であり,特許法36条4項,6項に規定する要件を満たしていないから,
本願補正発明は本件特許出願の際に独立して特許を受けることができない,②本願
補正発明は,本件特許出願前に頒布された刊行物である特開平8-125724号
公報(甲2,以下「刊行物1」といい,同記載の発明を「刊行物1発明」とい
う。)及び特開平6-12209号公報(甲3,以下「刊行物2」という。)に記
載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,
同法29条2項の規定により,本件特許出願の際に独立して特許を受けることがで
きないとし,本件手続補正は,同法17条の2第5項において準用する同法126
条4項の規定に違反するから,同法159条1項において準用する同法53条1項
の規定により却下すべきものであるとした上,(2)本願発明は,本件特許出願前に頒
布された刊行物である特開平5-244241号公報(甲4,以下「刊行物3」と
いう。)に記載された発明(以下「刊行物3発明」という。)及び周知の技術に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の
規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,補正明細書の記載について特許法36条所定の記載要件の充足性の
判断を誤り(取消事由1),かつ,本願補正発明の進歩性の判断を誤った(取消事
由2)結果,本件手続補正を違法に却下し,また,仮に,本件手続補正の却下に違
法がないとしても,本願発明と刊行物3発明との一致点の認定を誤り(取消事由
3),本願発明と刊行物3発明との相違点についての判断を誤った(取消事由4)
ものであるから,違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(特許法36条所定の記載要件の充足性の判断の誤り)
(1)審決は,補正明細書の記載について,「特許請求の範囲に記載された『通
常複数のキー操作によって実現される機能』は,『通常』が技術的に何を意味する
のか不明であり,それに加えて『複数のキー操作によって実現される機能』がどの
ような『機能』を指すのか明確でないことから,本願補正発明は不明りょうであ
る。また,本願(注,補正明細書)の発明の詳細な説明を参酌しても,本願補正発
明の『通常複数のキー操作によって実現される機能』がどのような『機能』を指す
のか明確でないので,本願の発明の詳細な説明は当業者が本願補正発明を実施をす
ることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない」(審決謄本3頁
最終段落~4頁第1段落)としたが,誤りである。
(2)本願補正発明の「通常複数のキー操作によって実現される機能」とは,審
決において解釈するように,「機能」キー等の押下の後に機能選択される機能であ
り,「通常複数のキー操作によって実現される機能を複数備え」の意味は,補正明
細書(特許請求の範囲並びに段落【0013】,【0014】,【0037】及び
【0038】の記載につき甲14,その余の記載につき甲11,以下同じ。)の段
落【0003】,【0005】の記載から,例えば,「機能」キーの押下の後に,
番号入力又はスクロールキーの入力により機能選択される対象の機能(付加機能)
のことであり,この「付加機能」とは,補正明細書の記載から,「時計設定」,
「電話番号」,「カレンダ表示」,「スケジュール」等の機能を指すことは明白で
ある。被告は,「通常」のものと「通常」でないものとを区別することはできない
と主張するが,「通常複数のキー操作によって実現される機能を複数備え」の文言
を細かく分断し,「通常」のみを取り出して論じるのは無意味である。「通常」の
文言は,本願発明に追加された平成12年8月25日付け手続補正書(甲8)及び
同日付け意見書(甲18)を参照すれば,刊行物3(甲4)の表示画面に表示され
た「釦イメージ」が,電話を掛けるのオフフック記号,再ダイヤルのリダイヤル記
号,電話を切るのオンフック記号であることから,これらの記号は,「通常1回の
キー操作によって実現される機能」であるため,本願補正発明について,先行技術
となる刊行物3の技術内容を含まないようにするために,「通常1回のキー操作に
よって実現される機能」とは異なる「通常複数のキー操作によって実現される機
能」に限定したものであり,本願補正発明を不明確とするものではない。
2 取消事由2(本願補正発明の進歩性の判断の誤り)
(1)対比の誤り
 審決は,刊行物1発明のパーソナル通信装置を,「表示部を備えたセルラ
電話機において,機能を複数備え,表示部には通信状態を表す(SignalStrength画
面)画面が表示され,複数の機能に対応し,当該機能を表現するアイコンを画面上
に複数表示し,前記表示されているアイコンの1つが選択されると,選択されたア
イコンに対応する機能を実行するセルラ電話機」(審決謄本5頁第2段落)と認定
した。しかしながら,セルラ電話機として機能するのは,刊行物1(甲2)の【図
3】の「電話画面」においてのみであり,【図4】の「移動オフィス画面」では,
カレンダ,時計等の機能はあるものの,通信状態を表す画面はなく,携帯電話とし
て利用できないから,これをセルラ電話機と認めることはできない。したがって,
刊行物1の【図4】における移動オフィス画面のアイコンを引用して本願補正発明
の携帯電話装置と対比することは,刊行物1発明のパーソナル通信装置をセルラ電
話機として認定することを否定することになるため,誤りである。
(2)相違点aについての判断の誤り
ア 審決は,本願補正発明と刊行物1発明との相違点aとして認定した,
「本願補正発明は,通常複数のキー操作によって実現される機能を複数備えている
のに対して,刊行物1に記載された発明(注,刊行物1発明)は機能を複数備えて
いるのものの,それが通常複数のキー操作によって実現される機能であるか否か明
確でない点」(審決謄本6頁下から第2段落)について,①「本願補正発明の『通
常複数のキー操作によって実現される機能』がどのような『機能』を意味するのか
不明りょうである」(同7頁下から第3段落),②「『通常複数のキー操作によっ
て実現される機能』とは,『機能』キーの押下の後に,番号の入力,若しくはスク
ロールキーの入力により機能選択される機能であると解され,一方,・・・『通常
複数のキー操作によって実現される機能』とは,『電話番号』,『時計設定』,
『カレンダ表示』,『スケジュール』等の機能を指すと解することもできる」(同
頁下から第2段落)とした上,③「刊行物1(注,甲2)の図4には,時計,カレ
ンダ,スケジュール機能のアイコンの開示があり,これらのアイコンは,後者の解
釈における『通常複数のキー操作によって実現される機能』に該当するから,刊行
物1に記載された発明は,本願補正発明でいうところの『通常複数のキー操作によ
って実現される機能』を複数備えているといえ,相違点aは実質的に相違するもの
ではない。また,前者の解釈を採用したとしても,通常複数のキー操作によって実
現される機能は,本願の明細書(注,補正明細書)において従来の技術として開示
されているように周知の技術であるといえるから,通常複数のキー操作によって実
現される機能を複数備えるようにすることは当業者であれば容易に想到し得ること
である」(同頁最終段落~8頁第2段落)と判断したが,誤りである。
イ 上記①の点について,本願補正発明の「通常複数のキー操作によって実
現される機能」が,「機能」キー等の押下の後に機能選択される機能であり,不明
りょうではないこと,上記②の点について,「通常複数のキー操作によって実現さ
れる機能を複数備え」の意味は,「機能」キーの押下の後に,番号入力又はスクロ
ールキーの入力により機能選択される対象の機能(付加機能)のことであり,この
「付加機能」とは,補正明細書の記載から,「時計設定」,「電話番号」,「カレ
ンダ表示」,「スケジュール」等の機能を指すことは,上記1(2)のとおりであり,
また,上記③の点について,刊行物1発明のパーソナル通信装置がセルラ電話機と
して機能するのは,刊行物1(甲2)の【図3】の「電話画面」においてのみであ
り,【図4】における移動オフィス画面のアイコンを引用して対比することが誤り
であることは,上記(1)のとおりである。
(3)相違点bについての判断の誤り
ア 審決は,本願補正発明と刊行物1発明との相違点bとして認定した,
「機能を表現するアイコンが表示される表示部に,本願補正発明では通信状態を表
す画面が表示されるのに対して,刊行物1に記載された発明(注,刊行物1発明)
では,電話画面(図3)のときには表示部に通信状態を表す画面が表示されるもの
の,例えば,移動オフィス画面のときには,表示部に通信状態を表す画面が表示さ
れない点」(審決謄本6頁最終段落~7頁第1段落)について,「時計設定,カレ
ンダ表示,スケジュール機能等の機能は,通信状態とは直接関係のない機能と考え
られるから,当該機能を表現するアイコンを,通信状態を表す画面上に表示するこ
とに格別の技術的意義があるとはいえない」(同8頁第3段落)と判断したが,誤
りである。
イ 本願補正発明は,携帯電話装置であるから,その基本機能として,いつ
でも,どこでも,だれとでも,通話ができるものでなければならず,例えば,外出
の多い営業担当者の場合,顧客,上司から常に着信を受けられる状況を確認しつ
つ,カレンダ,スケジュールの機能を利用できる利便性を備えるため,機能を表現
するアイコンを,通信状態を表す画面上に表示することに,格別の技術的意義があ
る。携帯電話装置の基本機能は,通話をすることであり,通話ができるか否かの確
認は,必ず通信状態を表す画面においてされるものであって,時計設定,カレンダ
表示,スケジュール機能においても,着信を受けられるか否かを確認するために
は,通信状態を表す画面が必要不可欠であり,携帯電話装置において,その小さな
画面上で,時計設定,カレンダ表示,スケジュール等の機能を利用するという場合
は,それら機能の利用と通信状態を表す画面とは,利用者にとって,切り離せない
ものである。刊行物1(甲2)の【図3】の画面表示例では,セルラ電話機として
必要な12個の数字ボタン等,「Send」,「QuickDial」,「PhonePower」ボタン
等及び通信状態を示す部分を残したまま,その空きスペースに【図4】の
複数のアイコンを表示しようとすれば,すべてのアイコンを表示することは不可能
であり,すべてのアイコンをその空きスペースに表示しようとすれば,各アイコン
を非常に小さなものにしなければならず,実用に耐えないことになる。特に,【図
4】のアイコンは,アイコンとその下の文字列が一体のものであって,アイコンの
機能をその文字列の内容で判断できるようになっているものであり,文字列を切り
捨てて考えることはできず,上記少ない空きスペースに【図4】のアイコン及び文
字列を無理に表示した場合,アイコンは小さくなり,文字列は更に読めないくらい
小さくなって,実用的でない。刊行物1においては,必然的に「電話画面」と「移
動オフィス画面」とに分けて利用するようになっているのであり,セルラ電話機と
しての【図3】の電話画面に,セルラ電話機に必要なボタン等及び通信状態を残し
て,空きスペースに【図4】のアイコンを表示させるように組み合わせることが,
当業者の適宜し得た設計的事項であるということはできない。
(4)相違点cについての判断の誤り
ア 審決は,本願補正発明と刊行物1発明との相違点cとして認定した,
「本願補正発明は,入力部のキー操作により表示されているアイコンの1つが選択
されると,前記選択されたアイコンの機能を表現する文字列を表示し,前記選択さ
れたアイコンを確定する操作が為されると,前記確定されたアイコンに対応する機
能を実行するのに対して,刊行物1に記載された発明(注,刊行物1発明)は,そ
のようになっていない点」(審決謄本7頁第2段落)について,「刊行物2(注,
甲3)には,入力部のキー操作により表示されているアイコンの1つが選択される
と,前記選択されたアイコンの機能を表現する文字列を表示し,前記選択されたア
イコンを確定する操作が為されると,前記確定されたアイコンに対応する機能を実
行する技術が開示され,この技術を刊行物1に記載された発明に適用することを阻
害する格別の理由もないから,刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された
技術を適用して,本願補正発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得
ることである」(同8頁下から第3段落)と判断したが,誤りである。
イ 刊行物1発明のパーソナル通信装置は,タッチパネルの表示画面を用い
ているため,【図3】の電話アイコン,移動オフィス・アイコン,矢印アイコン,
疑問符のアイコンをタッチペンでタッチすると,直ちに機能が実行されるものであ
り,アイコンの機能を表現する文字列を表示するタイミングがないから,本願補正
発明における,アイコンを選択し,選択されたアイコンの機能を表現する文字列が
表示された後,アイコンの確定を行うものとは,本質的に異なり,刊行物2に記載
された技術と組み合わせることには,これを阻害する理由がある。アイコンを選択
して文字列の表示を行わせるようにするのであれば,タッチパネルでアイコンを選
択して数秒間文字列を表示した後,機能実行とすることが考えられるが,それで
は,本願補正発明のように,アイコンを選択して文字列を表示させ,表示文字列を
確認し,誤っていた場合は,別のアイコンを選択して再度表示文字列を確認して確
定し,機能を実行することができるものとは,明らかに構成を異にするものとな
る。タッチパネルを備えた刊行物1においては,【図4】に図示されたように,ア
イコンの内容をあらかじめユーザに知らせるため,アイコンの下に文字列が既に表
示される構成となっており,アイコンの下に,既に文字列が表示されているのであ
るから,更に文字列を表示するように,刊行物2に記載された技術を組み合わせる
ことはできない。また,刊行物2の【図3】は,パーソナルコンピュータの画面で
あるから,アイコンが大きく表示され,そのアイコンの下に文字列が付され,それ
とは別に,メッセージ行c1には,作業内容が表示されるものとなっており,アイ
コンの下に表示される文字列とメッセージ行c1に表示される文字列とは,その文
字サイズが同じであり,アイコンを選択したときに,メッセージ行c1に表示され
る作業内容は,アイコンの下に表示される文字列と同じサイズの文字で表示され
る。すなわち,刊行物2においては,パーソナルコンピュータの大きな表示画面を
採用していることから,アイコンの下に表示される文字列よりも大きなサイズの文
字で作業内容を表示させるなどということは,全く考慮されていないものであり,
そのような技術的発想がないものである。
3 取消事由3(本願発明と刊行物3発明との一致点の認定の誤り)
(1)審決は,本願発明と刊行物3発明との一致点として,「表示部を備えた携
帯電話装置において,通常複数のキー操作によって実現される機能を複数備え,前
記表示部に,当該複数の機能に対応し,当該機能を表現するアイコンを複数表示
し,入力部のキー操作により前記表示されているアイコンの1つが選択され,選択
されたアイコンを確定する操作が為されると,前記確定されたアイコンに対応する
機能を実行する携帯電話装置」(審決謄本11頁下から第2段落)である点を認定
したが,誤りである。
(2)刊行物3(甲4)において,ディスプレイに表示されるのは,「オフフッ
ク」,「リダイアル」,「オンフック」の「釦イメージ」であり,携帯電話機であ
れば一般的な周知の図柄であって,機能の説明を要しないものである。また,刊行
物3のオフフック記号等は,通常は1回のキー操作で実現される機能であり,本願
発明の「通常複数のキー操作によって実現される機能」に相当するものではない。
4 取消事由4(本願発明と刊行物3発明との相違点についての判断の誤り)
(1)審決は,本願発明と刊行物3発明との相違点として認定した,「本願発明
は,入力部のキー操作により表示されているアイコンの1つが選択されると,前記
選択されたアイコンの機能を表現する文字列を表示するのに対して,引用発明
(注,刊行物3発明)は,そのような表示はない点」(審決謄本11頁最終段落~
12頁第1段落)について,「入力部のキー操作により表示されているアイコンの
1つが選択されると,前記選択されたアイコンの機能を表現する文字列を表示する
技術は上記刊行物2(特開平6-12209号公報)(注,甲3)や上記刊行物4
(特開平8-76953号公報)(注,甲5)に示されるように周知であり,この
周知の技術を引用発明に適用することを阻害する格別の理由もないと考えられるか
ら,引用発明において上記周知の技術を適用し,入力部のキー操作により表示され
ているアイコンの1つが選択されると,前記選択されたアイコンの機能を表現する
文字列を表示するようにすることは当業者であれば容易に想到し得る」(同12頁
第2段落)と判断したが,誤りである。
(2)刊行物4(甲5)は,パソコンや,UNIXシステム等のデータ処理シス
テムの入力部であって,アイコン上にマウスカーソルが位置すると,コマンドの機
能や内容を表すメッセージを,ステータスバーに表示するようになっているもので
あり,本願発明の携帯電話装置の入力部での操作とは,全く異なるものである。刊
行物4についても,刊行物2(甲3)と同様,小さい画面の中で小さいアイコンが
選択された場合に,そのアイコンを表現する文字列を見やすく表示するという技術
的発想がないから,刊行物4のコンピュータの表示画面で用いられている技術を,
単に携帯電話機の画面に適用しても,小さいアイコンに対して小さい文字を表示す
るにとどまる。また,刊行物3の「釦イメージ」は,携帯電話機であれば一般的な
周知の図柄であって,機能の説明を要しないものであり,かつ,その発明の目的
は,携帯電話機の小型化にあり,説明を要しない「釦イメージ」にその機能を表現
する文字列を表示させるには,表示部に機能を表現する文字列を表示させる付加的
なスペースを設ける必要があり,刊行物3の発明の目的に反するから,刊行物2,
4の周知技術と組み合わせることには,これを阻害する理由がある。さらに,「釦
イメージ」のオフフックボタン等で実現される機能は,本願発明の「通常複数のキ
ー操作によって実現される機能」ではなく,本願発明のように「電話番号」,「時
計設定」,「カレンダ表示」,「スケジュール」等の機能を,表示されたアイコン
の機能を表現する文字列を参照して実行するような利便性を備える効果がないか
ら,刊行物3発明と周知技術を組み合わせることは,当業者が容易に想到し得るこ
とではない。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(特許法36条所定の記載要件の充足性の判断の誤り)について
 補正明細書の特許請求の範囲からは,「通常」という用語が技術的に何を意
味するのか不明であり,また,発明の詳細な説明及び図面を参酌しても,「通常」
という用語について何ら説明されておらず,何を意味するのか不明である。したが
って,「通常」のものと「通常」でないものとを区別することはできず,本願補正
発明の内容,ひいては本願補正発明の技術的範囲を確定することができない。
2 取消事由2(本願補正発明の進歩性の判断の誤り)について
(1)対比の誤りについて
 刊行物1(甲2)には,「発明の名称」にあるとおり,「パーソナル通信
装置の表示画面上でテキストをマークする装置および方法」に関する発明が開示さ
れ,当該装置は,【図3】の「電話画面」が表示されているときばかりでなく,
【図4】の「移動オフィス画面」が表示されているときも,パーソナル通信機,す
なわち,セルラ電話機であるから,「電話画面」を表示しているときのみセルラ電
話機であるとする原告の主張は,技術常識に反し,失当である。
(2)相違点aについての判断の誤りについて
 本願補正発明の「通常複数のキー操作によって実現される機能」がどのよ
うな「機能」を意味するのか不明りょうであることは,上記1のとおりであり,補
正明細書及び図面の記載を参照すると複数の解釈が可能であると判断した審決に誤
りはない。また,刊行物1発明のパーソナル通信装置がセルラ電話機として機能す
るのは,刊行物1(甲2)の【図3】の「電話画面」においてのみであるとの原告
の主張が失当であることは,上記(1)のとおりである。
(3)相違点bについての判断の誤りについて
 刊行物1(甲2)の【図3】,【図4】及び【図6】に記載されるよう
に,画面上に何と何を組み合わせて表示するかは,当業者が適宜決定し得た設計事
項であり,刊行物1に,「図3を参照すると・・・画面の下部のアイコン28に触
れると,図4に示した移動オフィス画面が表示される」(段落【0011】~【0
012】)と記載されるように,通信状態とは直接関係のない機能を表現するアイ
コンを通信状態を表す画面上に表示することは,当業者が適宜し得た事項であっ
て,これを阻害する格別の理由もないから,通信状態とは直接関係のない機能を表
現するアイコンを通信状態を表す画面上に表示することに,格別の技術的意義があ
るともいえない。
(4)相違点cについての判断の誤りについて
 刊行物1(甲2)記載の「タッチパネル」も,本願補正発明において操作
される「キー」も,押しボタンスイッチとしての機能は同じであるから,アイコン
を選択すると直ちに機能が実行されるようにするか,本願補正発明のように「選択
されたアイコンを確定する操作」を必要とするかは,押しボタンスイッチが操作さ
れた時の動作をどのようなものとするかという設計上の差異であり,タッチパネル
であることと,アイコンの機能を表現する文字列を表示するタイミングがないこと
とは無関係である。本願補正発明あるいは刊行物1の携帯電話装置の入力部も,刊
行物2のパーソナルコンピュータの入力部も,アイコンをキー操作により選択,確
定するユーザーインターフェースである点で,共通の技術であり,アイコンを用い
たユーザーインターフェースは,刊行物1及び刊行物2(甲3)の記載に限らず,
刊行物3(甲4)及び刊行物4(甲5)にも見られるように,本件特許出願前,広
く用いられた一般的なものであるから,刊行物2の引用箇所から,「入力部のキー
操作により表示されているアイコンの1つが選択されると,前記選択されたアイコ
ンの機能を表現する文字列を表示し,前記選択されたアイコンを確定する操作が為
されると,前記確定されたアイコンに対応する機能を実行する技術」を認定した審
決に誤りはない。
3 取消事由3(本願発明と刊行物3発明との一致点の認定の誤り)について
 オフフック記号等は,記号化された図形又は絵文字に該当し,アイコンとい
うことができるから,刊行物3(甲4)の引用箇所から「引用発明」を認定した審
決に誤りはない。また,本願明細書(特許請求の範囲並びに段落【0013】,
【0014】,【0037】及び【0038】の記載につき甲8,その余の記載に
つき甲11,以下同じ。)の段落【0011】に「アイコンに不慣れな利用者は,
所望の機能に対応するアイコンがどれなのかよくわからず,操作を誤ったり,所望
の機能を実行するために何度もアイコンを選択しなければならない」と記載される
ように,アイコンの機能の説明を必要とするか否かは,図柄が周知であるかではな
く,利用者が慣れているかで判断すべき事項である。すなわち,刊行物3の「オフ
フック」等のアイコンも,携帯電話機を使い始めた者にとっては説明が必要であ
り,使い慣れた者にとっては,本願明細書の【図3】に示される「時計設定」等の
アイコンであっても説明を要しないものである。さらに,刊行物3のオフフック記
号等のアイコンに対応する機能は,通常は連続して実行されることはないから,当
該機能を実現するための通常のキー操作は,審決で引用したとおり,「カーソルキ
ー7を押下することにより,ディスプレイ4に表示されたオフフック記号の下にカ
ーソルを移動させ,エンターキー8を押下する」のような複数のキー操作である。
したがって,刊行物3に「通常複数のキー操作によって実現される機能」が記載さ
れていると認定した審決に誤りはない。
4 取消事由4(本願発明と刊行物3発明との相違点についての判断の誤り)に
ついて
 本願発明の携帯電話装置の入力部も,刊行物4(甲5)のデータ処理システ
ムの入力部も,アイコンをキー操作により選択,確定するユーザーインターフェー
スである点で共通の技術であり,上記のとおり,アイコンを用いたユーザーインタ
ーフェースは,本件特許出願前,広く用いられた一般的なものであるから,刊行物
4の引用箇所から,「入力部のキー操作により表示されているアイコンの1つが選
択されると,前記選択されたアイコンの機能を表現する文字列を表示する技術」を
認定した審決に誤りはない。携帯電話機において,周知の図柄であっても,アイコ
ンの機能を表現する文字列を表示する必要があることは,上記3のとおりである。
そして,刊行物3(甲4)は,不要になったスペースを削除することで小型化する
ことを目的とするから,刊行物3発明に上記周知の技術を適用する際に,刊行物2
(甲3)の【図3】の「メッセージ行c1」や刊行物4の【図6】の「ステータス
バー93」のようなアイコンの機能を表現する文字列を表示するために必要とされ
るスペースを,削除せずに残しておくことは,刊行物3の目的に反しない。さら
に,刊行物3に,「通常複数のキー操作によって実現される機能」が記載されてい
ることは上記のとおりであり,本願発明において,「通常複数のキー操作によって
実現される機能」の内容を,「時計設定」のように具体的に限定しているものでは
ないから,原告の主張する「表示されたアイコンの機能を表現する文字列を参照し
て実行するような利便性」という効果は,引用発明に上記周知の技術を適用するこ
とにより当業者が当然予測するものにすぎない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由2(本願補正発明の進歩性の判断の誤り)について
(1)対比の誤りについて
ア 原告は,刊行物1発明のパーソナル通信装置について,セルラ電話機と
して機能するのは,刊行物1(甲2)の【図3】の「電話画面」においてのみであ
るから,刊行物1の【図4】における移動オフィス画面のアイコンを引用して本願
補正発明の携帯電話装置と対比することは,刊行物1発明のパーソナル通信装置を
セルラ電話機として認定することを否定することになるため,これを「セルラ電話
機」(審決謄本5頁第2段落)と認定した審決は誤りであると主張する。
イ そこで,刊行物1(甲2)の記載をみると,刊行物1には,「前記の出
願に開示されているように,1994年(注,平成6年)にIBMコーポレイショ
ンから発表されたパーソナル通信装置SIMONは,パーソナル通信を容易にする
多くの機能を含んでいる。図1と図2に示したように,SIMONパーソナル通信
装置2の外観はセルラ電話に似ており,また実際にセルラ電話である。さらに,電
子ページャでもある。さらにまた,ファクシミリの送受信ならびに電子メールの送
受信が可能である。さらに,システム2中には,コンピュータ・ノート・パッド,
住所録およびカレンダがすべて提供される」(段落【0003】),「画面の下部
のアイコン28に触れると,図4に示した移動オフィス画面が表示される。図から
分かるように,装置2のデータ処理システムが使用できるいくつかの異なるアプリ
ケーションがある。たとえば,装置2は,装置自体のカレンダとメモ帳ならびにフ
ァイラと住所録を有する。さらに,『メール』という名称のアイコンにより電子メ
ール操作が,また『ファックス』という名称のアイコンによりファクシミリ操作が
可能である」(段落【0012】),「装置2が通信用のものであるため,テキス
ト領域に表示された情報の特定の部分をマークできれば有用であろう。このテキス
トをマークできることは,電子メールおよび『メモ帳』の中にあるような他の種類
の書かれたメモには特に重要なものである。さらに,紙面に書き留める必要なしに
メッセージから特定のテキストをキー入力できることが望ましい。本発明以前は,
ユーザが画面上に表示された電話番号に電話をかけたい場合,ユーザはまずその番
号を書き留める必要があった。その後ユーザは,電話画面に戻らなければならな
い。その後で初めて,ユーザはその番号に電話をかけることができた。これは能率
が悪かった」(段落【0020】),「本発明では,ユーザは,所望のテキストを
コピーする代わりに,別のアプリケーション用に画面上のテキストを直接マークす
ることができる」(段落【0021】),「マーク・モードの終りに,図9に示す
ように,マークされたテキストがポップアップ・ウィンドウ70に表示される。ポ
ップアップ画面は,適切なテキストがマークされたという確認をユーザに提供す
る。ポップアップ画面70の他にも,画面上にいくつかの機能キーが現れる。様々
な機能キーはそれぞれ,マークされたテキストに関して選ぶことのできるオプショ
ンを提供する。たとえば,ユーザが,JoeSmithの電話番号として正しいテキストが
マークされたと判断した場合は,次に『ダイヤル』機能キー72を押すことによ
り,その番号に電話をかけるようシステムに指示することができる。・・・したが
って,本発明では,何も書き留める必要なしに,ユーザは,単に所望の電話番号を
マークし,次いで『ダイヤル』機能キーを押すことによって,何かに直接電話をか
けることができる」(段落【0027】)との記載がある。
  これらの記載によれば,刊行物1には,移動オフィス画面から選択され
たメモ帳又は電子メールにおいて,「ダイヤル」機能により直接電話をかけること
ができることが開示されている。したがって,刊行物1発明は,「電話画面」以外
においてもセルラ電話機として機能するものと認められるから,原告の上記主張は
理由がない。
(2)相違点aについての判断の誤りについて
ア 原告は,相違点a,すなわち,「本願補正発明は,通常複数のキー操作
によって実現される機能を複数備えているのに対して,刊行物1に記載された発明
(注,刊行物1発明)は機能を複数備えているのものの,それが通常複数のキー操
作によって実現される機能であるか否か明確でない点」(審決謄本6頁下から第2
段落)について,審決がした,①「本願補正発明の『通常複数のキー操作によって
実現される機能』がどのような『機能』を意味するのか不明りょうである」(同7
頁下から第3段落),②「『通常複数のキー操作によって実現される機能』とは,
『機能』キーの押下の後に,番号の入力,若しくはスクロールキーの入力により機
能選択される機能であると解され,一方,・・・『通常複数のキー操作によって実
現される機能』とは,『電話番号』,『時計設定』,『カレンダ表示』,『スケジ
ュール』等の機能を指すと解することもできる」(同頁下から第2段落),③「刊
行物1(注,甲2)の図4には,時計,カレンダ,スケジュール機能のアイコンの
開示があり,これらのアイコンは,後者の解釈における『通常複数のキー操作によ
って実現される機能』に該当するから,刊行物1に記載された発明は,本願補正発
明でいうところの『通常複数のキー操作によって実現される機能』を複数備えてい
るといえ,相違点aは実質的に相違するものではない。また,前者の解釈を採用し
たとしても,通常複数のキー操作によって実現される機能は,本願の明細書(注,
補正明細書)において従来の技術として開示されているように周知の技術であると
いえるから,通常複数のキー操作によって実現される機能を複数備えるようにする
ことは当業者であれば容易に想到し得ることである」(同頁最終段落~8頁第2段
落)との判断は,①本願補正発明の「通常複数のキー操作によって実現される機
能」が「機能」キー等の押下の後に機能選択される機能であり,不明りょうではな
く,②「通常複数のキー操作によって実現される機能を複数備え」の意味は,「機
能」キーの押下の後に,番号入力又はスクロールキーの入力により機能選択される
対象の機能(付加機能)のことであり,この「付加機能」とは,補正明細書の記載
から,「時計設定」,「電話番号」,「カレンダ表示」,「スケジュール」等の機
能を指すものであり,③刊行物1発明のパーソナル通信装置がセルラ電話機として
機能するのは,刊行物1(甲2)の【図3】の「電話画面」においてのみであり,
【図4】における移動オフィス画面のアイコンを引用して対比することが誤りであ
るから,いずれも誤りであると主張する。
イ しかしながら,上記①,②の点については,原告主張のとおり,本願補
正発明の「通常複数のキー操作によって実現される機能」が「機能」キー等の押下
の後に機能選択される機能であり,「通常複数のキー操作によって実現される機能
を複数備え」の意味は,「機能」キーの押下の後に,番号入力又はスクロールキー
の入力により機能選択される対象の機能(付加機能)のことであり,この「付加機
能」とは,補正明細書の記載から,「時計設定」,「電話番号」,「カレンダ表
示」,「スケジュール」等の機能を指すものであるとしても,刊行物1(甲2)の
【図4】には,時計,カレンダ,スケジュール機能のアイコンが図示され,これら
のアイコンは,「通常複数のキー操作によって実現される機能」に該当するから,
刊行物1発明は,本願補正発明の「通常複数のキー操作によって実現される機能」
を複数備えているということができ,相違点aは実質的に相違するものではないと
した審決の判断に誤りはない。また,上記③の点について,刊行物1発明は,「電
話画面」以外においてもセルラ電話機として機能するものと認められ,原告の主張
に理由がないことは,上記(1)のとおりである。
  したがって,審決の相違点aについての判断に,原告主張の誤りはな
い。
(3)相違点bについての判断の誤りについて
ア 原告は,本願補正発明は,携帯電話装置であるから,その基本機能とし
て,いつでも,どこでも,だれとでも,通話ができるものでなければならず,例え
ば,外出の多い営業担当者の場合,顧客,上司から常に着信を受けられる状況を確
認しつつ,カレンダ,スケジュールの機能を利用できる利便性を備えるため,機能
を表現するアイコンを,通信状態を表す画面上に表示することに格別の技術的意義
があるから,相違点b,すなわち,「機能を表現するアイコンが表示される表示部
に,本願補正発明では通信状態を表す画面が表示されるのに対して,刊行物1に記
載された発明(注,刊行物1発明)では,電話画面(図3)のときには表示部に通
信状態を表す画面が表示されるものの,例えば,移動オフィス画面のときには,表
示部に通信状態を表す画面が表示されない点」(審決謄本6頁最終段落~7頁第1
段落)について,「時計設定,カレンダ表示,スケジュール機能等の機能は,通信
状態とは直接関係のない機能と考えられるから,当該機能を表現するアイコンを,
通信状態を表す画面上に表示することに格別の技術的意義があるとはいえない」
(同8頁第3段落)とした審決の判断は誤りであると主張する。
イ しかしながら,刊行物1(甲2)の【図3】,【図4】及び【図6】に
記載されるように,限られた画面上に何を表示するかは,その必要性を勘案し,当
業者が適宜取捨選択すべき技術的な設計事項であると認められる。そして,多機能
の携帯電話装置の場合,携帯電話装置本来の機能に密着した通信状態を表す画面
と,追加機能を表現するアイコンとのどちらを重要視するかは,携帯電話装置の使
用状況を考慮して決定すればよい事項にすぎないから,携帯電話装置本来の機能を
重視して,付加機能を使用しようとするときにも常に通信状態を画面上に表示する
こと,すなわち,本願補正発明のように,機能を表示するアイコンを,通信状態を
表す画面上に表示することは,当業者が適宜採用し得ることであり,格別の技術的
意義があるとはいえないことも明らかである。
ウ 原告は,刊行物1(甲2)の【図3】の画面表示例では,セルラ電話機
として必要な12個の数字ボタン等,「Send」,「QuickDial」,「PhonePower」
ボタン等及び通信状態を示す部分を残したまま,その空きスペースに【図4】の複
数のアイコンを表示しようとすれば,すべてのアイコンを表示することは不可能で
あり,すべてのアイコンをその空きスペースに表示しようとすれば,各アイコンを
非常に小さなものにしなければならず,実用に耐えないことになるとも主張する。
しかしながら,実用に耐え得るアイコンの大きさや配置は,設計事項にすぎない
上,本願補正発明は,「前記表示部には通信状態を表す画面が表示され,当該複数
の機能に対応し,当該機能を表現するアイコンを前記画面上に複数表示し」という
ものであり,アイコンを表示するのは,通信状態を表す画面で,数字ボタン等の各
種のボタンが表示されていた部分に代えてアイコンを表示すれば足りるから,原告
の上記主張は,本願補正発明の要旨に基づかないものであり,採用し得ない。
  したがって,審決の相違点bについての判断に,原告主張の誤りはな
い。
(4)相違点cについての判断の誤りについて
ア 原告は,刊行物1発明のパーソナル通信装置は,タッチパネルの表示画
面を用いているため,【図3】の電話アイコン,移動オフィス・アイコン,矢印ア
イコン,疑問符のアイコンをタッチペンでタッチすると,直ちに機能が実行される
ものであり,アイコンの機能を表現する文字列を表示するタイミングがないから,
本願補正発明における,アイコンを選択し,選択されたアイコンの機能を表現する
文字列が表示された後,アイコンの確定を行うものとは本質的に異なり,刊行物2
に記載された技術と組み合わせることには,これを阻害する理由があると主張す
る。
  しかしながら,刊行物1(甲2)記載の「タッチパネル」も,本願補正
発明において操作される「キー」も,押しボタンスイッチとしての機能は同じであ
るから,アイコンを選択すると直ちに機能が実行されるようにするか,本願補正発
明のように「選択されたアイコンを確定する操作」を必要とするかは,押しボタン
スイッチが操作された時の動作をどのようなものとするかという設計上の差異であ
り,タッチパネルであることと,アイコンの機能を表現する文字列を表示するタイ
ミングがないこととは無関係である。したがって,原告の上記主張は失当である。
イ また,原告は,刊行物2においては,パーソナルコンピュータの大きな
表示画面を採用していることから,アイコンの下に表示される文字列よりも大きな
サイズの文字で作業内容を表示させるなどということは全く考慮されていないもの
であり,そのような技術的発想がないとも主張する。
  しかしながら,文字をどのようなサイズで表示するかは,表示画面のサ
イズ等を考慮して,当業者が適宜選択することができる事項にすぎない上,本願補
正発明は,文字のサイズについては何ら特定していないから,原告の上記主張は,
本願補正発明の要旨に基づかないものであり,採用し得ない。
  したがって,審決の相違点cについての判断に,原告主張の誤りはな
い。
(5)以上検討したところによれば,本願補正発明は,刊行物1発明及び刊行物
2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
り,原告の取消事由2の主張は理由がない。したがって,本願補正発明は,特許法
29条2項に規定により,出願の際独立して特許を受けることができないものであ
るから,取消事由1(特許法36条所定の記載要件の充足性の判断の誤り)につい
て判断するまでもなく,本件手続補正は,同法17条の2第5項において準用する
同法126条4項の規定に違反するから,同法159条1項において準用する同法
53条1項の規定により却下すべきものであるとした審決の結論に誤りはない。
2 取消事由3(本願発明と刊行物3発明との一致点の認定の誤り)について
(1)原告は,刊行物3(甲4)において,ディスプレイに表示されるのは,
「オフフック」,「リダイアル」,「オンフック」の「釦イメージ」であり,携帯
電話機であれば一般的な周知の図柄であって,機能の説明を要しないものであり,
また,刊行物3のオフフック記号等は,通常は1回のキー操作で実現される機能で
あり,本願発明の「通常複数のキー操作によって実現される機能」に相当するもの
ではないから,審決の本願発明と刊行物3発明との一致点の認定は誤りであると主
張する。
(2)しかしながら,本願明細書には,【発明が解決しようとする課題】とし
て,「機能の内容を的確に表すアイコンの表示データを備え,機能選択実行時に
は,表示部に機能に対応したアイコンを表示して,カーソルによって選択されたア
イコンの機能を実行するようにし,限られたスペースに多くの機能を分かりやすく
表示して,選択し易くする技術が考えられている」(段落【0010】),「しか
しながら,上記の技術では,アイコンに不慣れな利用者は,所望の機能に対応する
アイコンがどれなのかよくわからず,操作を誤ったり,所望の機能を実行するため
に何度もアイコンを選択しなければならないことがあり,アイコンに不慣れな利用
者への配慮が十分ではなかった」(段落【0011】),「本発明は上記実情に鑑
みて為されたもので,アイコン表示により多くの機能を分かりやすく表示し,更
に,アイコンに不慣れな利用者でも,容易に機能を選択することができ,使い勝手
を向上することができる携帯電話装置を提供することを目的とする」(段落【00
12】)との記載が,【発明の効果】として,「請求項1記載の発明によれ
ば,・・・選択されたアイコンに対応する文字のガイダンスを表示することによ
り,アイコンに不慣れな利用者でも,文字のガイダンスを見て機能を選択すること
ができ,機能の選択を容易にして使い勝手を向上させることができる効果がある」
(段落【0037】)との記載があり,これらの記載によれば,アイコンの機能の
説明を必要とするか否かは,図柄が周知か否かではなく,利用者が当該アイコンに
慣れているか否かによるものというべきであるから,刊行物3(甲4)において,
ディスプレイに表示されるのは,「オフフック」,「リダイアル」,「オンフッ
ク」のアイコンも携帯電話機を使い始めた者にとっては説明が必要であり,これら
を,機能の説明を要しないものということはできない。また,刊行物3の「ディス
プレイ4にオフフック記号が表示されている場合は,カーソルキー7を押下するこ
とにより,ディスプレイ4に表示されたオフフック記号の下にカーソルを移動さ
せ,エンターキー8を押下することにより,入力した被呼者ダイヤル番号に発信す
るよう指示するようにしてもよい。CPU12は,カーソルの表示位置がオフフッ
ク記号であるときにエンターキー8の押下信号が発生されると,入力された被呼者
ダイヤル番号を送出する」(段落【0031】)との記載によれば,刊行物3発明
では,オフフック記号によるオフフック機能の選択は,カーソルキー7を押下する
ことにより,ディスプレイ4に表示されたオフフック記号の下にカーソルを移動さ
せ,エンターキー8を押下することにより行われ,この場合のオフフック機能は,
「通常複数のキー操作によって実現される機能」と認められるところ,本願発明
は,「通常複数のキー操作によって実現される機能」を,「時計設定」のように具
体的に限定しているものではなく,刊行物3に記載された発明のオフフック機能等
を含むものである。
(3)したがって,審決の本願発明と刊行物3発明との一致点の認定に原告主張
の誤りはなく,原告の取消事由3の主張は,理由がない。
3 取消事由4(本願発明と刊行物3発明との相違点についての判断の誤り)に
ついて
(1)原告は,刊行物4(甲5)は,パソコンや,UNIXシステム等のデータ
処理システムの入力部であって,アイコン上にマウスカーソルが位置すると,コマ
ンドの機能や内容を表すメッセージをステータスバーに表示するようになっている
ものであり,本願発明の携帯電話装置の入力部での操作とは全く異なるものである
と主張する。しかしながら,刊行物4は,本願発明と刊行物3発明との相違点につ
いて,刊行物2(甲3)と共に,「入力部のキー操作により表示されているアイコ
ンの1つが選択されると,前記選択されたアイコンの機能を表現する文字列を表示
する技術」(審決謄本11頁第1段落,12頁第2段落)が周知であることを示す
ために提示されたものであるところ,アイコンによる入力方法は,パーソナルコン
ピュータに限らず,刊行物1(甲2)及び刊行物3(甲4)に記載されているよう
に,携帯電話装置においても,本件特許出願前,既に慣用手段であるから,両者の
入力部での操作が全く異なるものであるとする原告の主張は採用できない。
(2)また,原告は,刊行物4についても,刊行物2(甲3)と同様,小さい画
面の中で小さいアイコンが選択された場合に,そのアイコンを表現する文字列を見
やすく表示するという技術的発想がないから,刊行物4のコンピュータの表示画面
で用いられている技術を単に携帯電話機の画面に適用しても,小さいアイコンに対
して小さい文字を表示するにとどまると主張する。しかしながら,文字をどのよう
なサイズで表示するかは,当業者が適宜選択することができる事項にすぎないとい
うべきである上,本願発明も,本願補正発明同様,文字のサイズについては何ら特
定していないから,原告の上記主張は,本願発明の要旨に基づかないものであり,
採用し得ない。
(3)さらに,原告は,刊行物3(甲4)の「釦イメージ」は,携帯電話機であ
れば一般的な周知の図柄であって,機能の説明を要しないものであると主張する
が,刊行物3においてディスプレイに表示される「オフフック」,「リダイア
ル」,「オンフック」のアイコンも,機能の説明を要しないものということはでき
ないことは,上記2(2)のとおりである。
(4)加えて,原告は,刊行物3の発明の目的は,携帯電話機の小型化にあり,
説明を要しない「釦イメージ」にその機能を表現する文字列を表示させるには,表
示部に機能を表現する文字列を表示させる付加的なスペースを設ける必要があり,
刊行物3の発明の目的に反するから,刊行物2,4の周知技術と組み合わせること
には,これを阻害する理由があり,さらに,「釦イメージ」のオフフックボタン等
で実現される機能は,本願発明の「通常複数のキー操作によって実現される機能」
ではなく,本願発明のように「電話番号」,「時計設定」,「カレンダ表示」,
「スケジュール」等の機能を,表示されたアイコンの機能を表現する文字列を参照
して実行するような利便性を備える効果がないから,刊行物3発明と周知技術を組
み合わせることは,当業者が容易に想到し得ることではないとも主張する。しかし
ながら,刊行物3の「【作用】例えば,12個のダイヤル釦(0~9,*,#)を
少なくとも有する場合を考えると,ダイヤル釦イメージをディスプレイに1度に表
示する場合は,少なくとも12個のキースイッチを本体から削除可能となる。ただ
し,12個のキースイッチの代わりに,モードキー,カーソルキー,エンターキー
が必要となるので,差引き9個分のキースペースが削減できる」(段落【001
5】)との記載によれば,刊行物3発明は,代替が可能となったスペースを削除す
ることにより小型化を図るものであるところ,「オフフック」,「リダイアル」,
「オンフック」のアイコンも,機能の説明を要しないものということはできないこ
とは上記のとおりであるから,説明を表示するための,代替のできないスペースを
確保しておくことは,刊行物3の目的に反することはなく,刊行物2,4の周知技
術と組み合わせることに阻害する理由があるとまでは認められない。また,刊行物
3発明の「オフフック機能」は,「通常複数のキー操作によって実現される機能」
と認められ,本願発明は,刊行物3に記載された発明の「オフフック機能」等を含
むものであることは上記2(2)のとおりであるところ,表示されたアイコンの機能を
表現する文字列を参照して,その機能を実行することによる利便性は,刊行物2及
び刊行物4に開示される周知の技術が本来有する効果であるから,この周知の技術
を採用することで必然的にもたらされるものであることは明らかである。
(5)したがって,審決の本願発明と刊行物3発明との相違点についての判断に
原告主張の誤りはなく,原告の取消事由4の主張も,理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
           裁判長裁判官 篠  原  勝  美
      裁判官 岡  本     岳
      裁判官 早  田  尚  貴

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