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平成11年(行ケ)第424号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告  三浦工業株式会社
 代表者代表取締役 【A】
 訴訟代理人弁護士 村林隆一、松本司、岩坪哲、弁理士 【B】、【C】
 被 告  特許庁長官 【D】
 指定代理人  【E】、【F】、【G】、【H】
     主    文
 特許庁が平成10年審判第18424号事件について平成11年11月1日にし
た審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和63年8月12日出願の実用新案登録願(実願昭63-10733
6号)を特許出願に出願変更した特願平5-246253号の一部を分割し、平成
5年11月30日、名称を「水管ボイラー」とする発明(後に「水管ボイラー及び
その燃焼方法」と補正)についての新たな特許出願としたが(特願平5-3296
39号)、平成10年10月22日拒絶査定の送達があったので、同年11月19
日審判を請求し、平成10年審判第18424号事件として審理されたが、平成1
1年11月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄
本は同月22日原告に送達された。
 2 本願発明の請求項2に記載の発明(本願第2発明)の要旨
 水管壁で画成された一端側にバーナを設け、他端側に排ガス出口を設けてなる燃
焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成し、この水管
群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、上流側の燃焼ガス温度を
抑制して有害燃焼排気物を低減化するようにした水管ボイラー。
 3 審決の理由の要点
 (1) 引用例1の記載
 原査定の拒絶の理由に引用した本件出願前に頒布した刊行物である特開昭55-
134202号公報(引用例1)には、
 「1.一部分または全部分を水冷壁によって構成した燃焼炉において、上記水冷
壁の炉内側部分に水管群を設けたことを特徴とする燃焼炉。」(特許請求の範囲)
に関し、
「本発明は上記した従来技術における不具合に鑑みてなされたもので、その目的
は、炉内容積の小型化を実現できる燃焼炉を提供することにある。」(1頁右下欄
7行~9行)こと、
 「以下、本発明の燃焼炉を図に基づいて説明する。第2図および第3図は本発明
の一実施例を示す説明図で、ことに第2図は側断面図、第3図は第2図におけるⅠ
-Ⅰ断面図である。なおこの第2,3図はバーナ付ボイラの燃焼炉を例示してい
る。これらの図において1は燃焼炉、2はこの燃焼炉に接続した燃焼装置、6は燃
焼炉1の内壁を構成する水冷壁、3は燃焼炉1内に配置される蒸発水管である。4
は燃焼炉1の内部の上方位置に配置される蒸発ドラム、5は燃焼炉1の内部の下方
位置に配置される水ドラムである。上記した水冷壁6および蒸発水管3は、蒸発ド
ラム4および水ドラム5に連結されている。7は水管群で、水冷壁6の炉内側部分
に配置され、燃焼装置2において発生する高温燃焼ガスと接触するようになってお
り、蒸発ドラム4および水ドラム5に連結してある。なお矢印8は空気を、矢印9
は燃焼ガスを示している。」(1頁右下欄13行~2頁左上欄10行)こと、
 「このように構成した燃焼炉にあっては、水冷壁6が高温燃焼ガスの輻射熱を受
けることにより輻射伝熱が得られ、同時に高温燃焼ガスが水管群7に接触すること
により接触伝熱が得られる。」(2頁左上欄11行~14行)こと、
 「以上述べたように本発明の燃焼炉は、水冷壁の炉内側部分に水管群を設けてあ
るので、輻射伝熱とともに接触伝熱が得られ、伝熱面積を小とすることができ、こ
れによって炉内容積の小型化が実現する効果がある。炉内容積の小型化によって燃
焼炉の設置空間を少く設定することができる。また炉内容積の小型化は、炉内に導
入される燃焼ガスが高温に保持される時間の短縮化を実現し、これによって窒素酸
化物の発生を抑制できる効果も奏する。」(2頁左上欄18行~右上欄7行)こ
と、
 が記載され、図面第2図には燃焼炉の縦断面図が、第3図には燃焼炉の横断面図
がそれぞれ記載されている。
 (2) 引用例2の記載
 同じく引用した本件出願前に頒布された刊行物である実公昭39-1002号公
報(引用例2)には、
 「貫流型重油汽罐において蒸発管群A1の前列中央に下部を給水框Wに上部を蒸
気集合框Sに連結する三角柱型支柱兼用火焔分流蒸発管の構造」(実用新案登録請
求の範囲)に関し、図面第1図には汽罐の正面図が、第2図には汽罐における蒸発
管の配設平面図が記載され、図面の記載を参酌すると、引用例2には、
 「バーナーBが噴射する火焔の後流側、すなわち燃焼空間を置いてその後流側
の、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に多数本の蒸発管を密に配置した蒸発
管群A1を設け、また、蒸発管群A1を構成する蒸発管の下部を給水框Wに、蒸発
管の上部を蒸気集合框Sにそれぞれ連結した貫流型重油汽罐」が記載されている。
 (3) 対比
 本願第2発明と引用例1記載のものとを対比するに、引用例1記載の「蒸発水管
3」及び「水管群7」は、その機能に照らして本願第2発明の「水管」に相当す
る。また、引用例1記載の「水冷壁6」は、水管が炉壁に半分程度埋設されて壁状
に構成したもの、及び水管(垂直水管)同士をフィン状部材で連結して壁状に構成
したものが示されており、本願第2発明の「水管壁」に相当する。しかも引用例1
記載の「燃焼装置2」はバーナを具備するものと認められるから、本願第2発明の
「バーナ」に相当し、また引用例1に記載のものは「水管ボイラー」そのものであ
る。さらに、「燃焼ガス」についてみると、「燃焼ガス」とは、「燃料が燃焼した
ときに生ずる高温のガスをいい、燃焼ガスは、燃料の可燃元素である炭素、水素、
硫黄などが完全燃焼して生ずるCO2、H2O、SO2のほかに、供給されたO2のうち
燃焼に供されなかった過剰のもの、供給された空気中のN2、燃焼中に最初からある
N2、CO2などの不活性ガス、燃料や空気中の水分などからなる」ものであるから
(例えば、【I】著「ボイラの燃料・燃焼工学入門―燃焼編―」燃料及燃焼社昭和
57年3月15日発行53頁~55頁、68頁、【J】著「燃焼機器工学」日刊工
業新聞社昭和55年10月10日発行22頁、【K】外2名編「ボイラ用語事典」
株式会社オ-ム社昭和59年12月10日発行124頁参照)、本願第2発明にお
ける「燃焼ガス通路」とは上記した燃焼ガスが流通する通路と認められる。
 したがって、本願第2発明と引用例1記載のものとは、
 「水管壁で画成された一端側にバーナを設け、他端側に排ガス出口を設けてなる
燃焼ガス通路に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成し、この水管群に対し
て交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、有害燃焼廃棄物を低減化するよう
にした水管ボイラー」
の点で一致し、下記相違点(1)、(2)で相違している。
 相違点(1)
本願第2発明では、燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水
管群を形成しているのに対し、引用例1記載のものでは、燃焼ガス通路に多数本の
水管を密に配置して水管群を形成しているが、燃焼ガス通路のほぼ全域か否か不明
である点。
 相違点(2)
本願第2発明では、水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることによ
り、上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化するとしているのに
対し、引用例1記載のものでは、水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させる
ことにより、燃焼ガスが高温に保持される時間の短縮化を実現して有害燃焼排気物
(窒素酸化物)を低減化するとしている点。
 (4) 相違点(1)についての審決の判断
 引用例2記載のバーナーが噴射する火焔とは、燃焼反応が進行している部分と認
められ、火焔の後流側(下流側)は上記したような燃焼ガスの流通する空間と認め
られるから、引用例2には、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数本の
蒸発管(「水管」に相当)を密に配置して蒸発管群(「水管群」に相当)を形成す
ることが記載されている。
 したがって、引用例2記載の事項を参酌すれば、引用例1記載のものにおいて、
燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を
形成する程度のことは、当業者が容易になし得ることである。
 (5) 相違点(2)についての審決の判断
 引用例1には、「燃焼ガスが高温に保持される時間の短縮化を実現し、これによ
って窒素酸化物(有害燃焼排気物)の発生を抑制できる」と記載されており、この
ことは、燃焼ガス温度を水管群の上流側で早期に抑制して窒素酸化物(有害燃焼排
気物)の発生を低減化できる意味と解され、本願第2発明における「上流側の燃焼
ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化する」と実質的に何ら差異が認められ
ない。
 (6) 作用効果についての審決の判断
 本願第2発明が奏する作用効果についても、引用例1及び2の記載から容易に予
測できたものであって、本願第2発明に格別の作用、効果があるとも認められな
い。
 (7) 原告の主張に対する審決の判断
 原告(審判請求人)は、「本願第2発明の第1の特徴は、「燃焼ガス通路のほぼ
全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成し」、つまり、それまでのボイ
ラー業界の常識を破って燃焼室を無くすことによって、上流側の燃焼ガス温度を抑
制して有害燃焼排気物を低減化したことにある。」(主張a)、また「本願第2発
明では、図1や図3に示すように「バーナーの直近まで水管を密に配置した」の
で、高負荷燃焼させても燃焼ガス温度をすぐに1200℃付近まで降下させること
ができ、しかも、バーナー前面には殆ど燃焼空間が存在しないので燃焼ガスの移動
速度も速く、その結果、格段に低NOX化できたのである。」(主張b)と主張し
ている。
そこで、まず主張aについてみるに、「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水
管を密に配置して水管群を形成」する構成と「燃焼室を無くす」構成とは異質のも
のである。そして、「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水
管群を形成」する構成についてみると、「燃焼ガス」とは、上記したとおり「燃料
が燃焼したときに生ずる高温のガス」をいい、「燃焼ガス通路」とはこのような燃
焼ガスが流通する通路を意味することは上記したとおりであって、「燃焼ガス通路
のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形成」する構成は、「相違点
(1)についての審決の判断」で述べたように引用例1及び2の記載から容易にな
し得たものである。また、「燃焼室を無くす」構成についてみると、本願第2発明
において「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数本の水管を密に配置して水管群を形
成」する構成は構成要件としているが、「燃焼室を無くす」構成は本願第2発明の
構成要件としないものであり、この点の主張は本願第2発明の構成に基づかない主
張である。そして仮に、「燃焼室を無くす」構成が燃焼のために特別に区画した部
屋を設けないという意味であれば、引用例2記載のものも燃焼のために特別に区画
した部屋を設けておらず、この点で引用例2記載のものと差異がない。
 次いで主張bについてみるに、本願第2発明においては、バーナ火焔(火炎)の
後流側(下流側)の燃焼ガスが流通する通路、すなわち燃焼ガス通路のほぼ全域に
多数本の水管を密に配置すること、を構成要件とするものである。しかしながらバ
ーナには、表面燃焼バーナのように火焔(火炎)の短いものから拡散燃焼バーナの
ように火焔(火炎)の非常に長いものまで種々存在することは従来周知であり(火
焔(火炎)の長い例として原告が審判甲第3号証として提出した【L】外1名著
「汽罐取扱いの実際」産業図書株式会社昭和30年11月15日発行60頁参
照)、火焔の後流側である燃焼ガスが流通する通路(すなわち、燃焼ガス通路)に
多数本の水管を密に配置して水管群を形成し、この水管群に対して交叉方向に燃焼
ガスを流通させる本願第2発明においては、バーナの直近まで水管を配することを
構成要件とするものではない。したがって、主張bは本願第2発明の構成に基づく
主張とは認められない。
 したがって、主張a及び主張bはいずれも採用することができない。
 (8) 審決のむすび
 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び引用例2記載の発明に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定
により特許を受けることができない。
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は、本願第2発明の要旨の認定を誤り(取消事由1)、引用例1の認定を誤
り(取消事由2)、引用例2の認定を誤り(取消事由3)、その結果審決が認定し
た相違点の判断を誤った(取消事由4、5)ものであるから、違法として取り消さ
れるべきである。
 1 取消事由1(本願第2発明の要旨認定の誤り)
 (1) 審決は、本願第2発明の「燃焼ガス」を火炎(火焔)とは異なるものとして
区別して「火焔の後流側である燃焼ガス」と認定し、それを前提として「「燃焼室
を無くす」構成は本願第2発明の構成要件としない」とし、また「バーナの直近ま
で水管を配することを構成要件とするものではない」と認定したが、誤りである。
 燃焼ガスとは燃焼に伴う反応生成物であり、火炎とは、このような燃焼ガスにお
ける、可視光領域の発光を伴う状態を意味する。すなわち、物質(反応生成物)で
ある燃焼ガスには、火炎状態の燃焼ガスも含まれるのである。燃焼ガスと火炎はそ
もそもカテゴリーを異にする(物質と状態)もので、燃焼ガスか火炎かというよう
にいずれかに選択されるものではない。当業者間では、特に意識することなく「燃
焼反応中又は火炎状態の燃焼ガス」も含んだ意味で「燃焼ガス」との用語を用いる
ことが多いのが実情であり、そもそも、引用例1記載のものでも、「燃焼装置2に
おいて発生する高温燃焼ガス」(2頁左欄6~7行)との表現によって、「高温燃
焼ガス」の用語を「火炎状態の燃焼ガス」の意味で使用しているのであるから、
「燃焼ガス」の範疇には「火炎状態のもの」が含まれることは、引用例1からも確
認されるのである。
 (2) 「燃焼ガス」との用語が「燃焼排ガス」の意味で使用される場合のあること
は原告も否定しないが、そもそも本願第2発明における「燃焼ガス」の意味は、本
願明細書全体から合目的的に解釈されるべきである。
 本願明細書には、従来の水管ボイラーとしては、円筒型をなす水管組立体(段落
【0002】に記載)及び角型缶体構造(段落【0003】に記載)のものが記載
され、これらのボイラーは、従来型燃焼室を有しており、「バーナの前面に広い空
間が存在する」(段落【0006】)ものとなっているため、多量の「サーマルN
OXが発生」(段落【0006】)するとの記載がある。
 本願第2発明は、サーマルNOXの低減化とそれに伴い発生するCOの低減化、
すなわち有害燃焼排気物の低減化を主たる目的としてなされたもので、段落【00
20】には「上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても燃焼ガス温度が低く抑
えられ、NOX特にthermalNOXの発生が防止でき、しかも上流側においても燃焼
ガス温度が1200℃程度であるため、COが発生していても上流側でCO2に酸化
されてしまい」と記載されている。燃焼ガス(火炎)温度を1700K以下(15
00℃以下という文献もある。)としてNOXの生成をほとんど抑えることができ
るという周知のサーマルNOX低減の原理に照らし合わせると、サーマルNOXの発
生を防止しているということは、上流側の水管群により、燃焼ガス(火炎)を冷却
していることを意味するとともに、1700K以上の高温の領域がほとんどないま
まで、どこかで燃焼が起きていることを意味している。それは、上流側の水管群の
領域において燃焼反応が行われていることにほかならない。また、COは、NOX
の発生を防止するために上流側の水管群により燃焼ガス(火炎)を冷却することに
より発生しており、そのことは、燃焼ガスが、燃焼反応中であることを意味するの
であり、さらに、上流側の水管群中にてCOが酸化してCO2になるのであるから、
上流側の水管群中にて燃焼反応が行われていることを意味するのである。
 したがって、これら記載から「従来型燃焼室は存在せず、燃焼ガス通路のほぼ全
域に水管群を形成し、この水管群中にて燃焼反応を行わせている」という本願第2
発明の本質的特徴を明確に読み取ることができ、「NOXは従来のものに比べて1
/3から1/2まで低減し、またCOは、十数ppm以下までに低減する」との本願明
細書記載の作用効果(段落【0021】)を奏するのである。
 しかも、本願明細書には、サーマルNOXの低減方法として、バーナ炎を水冷壁
に当てる技術(実公昭56-47477号公報)や、過剰濃度の混合気を燃焼させ
たりして燃焼温度を調整する技術(特公昭56-46046号公報)」、及び、バ
ーナ近傍の冷物体によって燃焼ガス温度を調整する低公害技術(特開昭60-78
247号公報(本訴の甲第22号証))を先行技術として明記し、「バーナ炎の冷
却」や「燃焼温度の調整」によってNOXの抑制を図る原理を紹介しているのであ
るから、本願明細書において、特にこれらと異なる別の低NOX化の原理を説明し
ていない以上は、本願第2発明でも、燃焼温度や火炎温度を低くすることでNOX
の抑制を実現していると解されるべきであるし、特開昭60-78247号公報で
は「冷物体(フィン群3)」付近の「燃焼ガス」を「火焔」と称しているのである
から、この先行技術の内容を踏まえて明細書を作成しようとする場合、用法を統一
させる意味でも、「火炎状態の燃焼ガス」も含んで「燃焼ガス」の用語を使用する
のはむしろ当然である。
 したがって、本願第2発明の構成要件である「燃焼ガス通路のほぼ全域に、多数
本の水管を密に配置して水管群を形成」とは、「燃焼室を無くす」構成及び、「バ
ーナの直近まで水管を配すること」と異ならず、これに反する審決の認定は誤りで
ある。
 2 取消事由2(引用例1の認定の誤り)
 審決は、引用例1記載のものについて「燃焼ガス通路のほぼ全域か否かが不明で
ある。」とし、「水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、燃
焼ガスが高温に保持させる時間の短縮化を実現して有害燃焼排気物(窒素酸化物)
を低減化するとしている」と認定している。しかしながら、前者は「燃焼ガス通路
の約半分の下流側通路には、水管群が配置されている」と認定されるべきであり、
後者については、引用例1記載のものは「高温域での燃焼ガス温度の滞留時間を短
くする方法」を採用しているのであるから、低NOX化の効果も異なる。
 3 取消事由3(引用例2の認定の誤り)
 審決は引用例2について「バーナーBが噴射する火焔の後流側、すなわち燃焼空
間を置いてその後流側の、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に多数本の蒸発
管を密に配置した蒸発管群A1を設け」と認定しているが、正確には「バーナーB
と蒸発管群A1との間に比較的広い燃焼空間(従来型燃焼室)を置いてその後流側
の火焔状態の燃焼ガスが流通するガス通路のほぼ全域に多数本の蒸発管を密に配置
した蒸発管群A1を設け」とすべきである。
 4 取消事由4(相違点(1)の判断の誤り)
 引用例2に「本考案の三角柱型支柱兼用火焔分流蒸発管は貫流型重油気罐の蒸発
管を加熱するバーナーから噴射される火焔の中心が蒸発管群の前列中央部に当
り、・・・加熱を平等に近くして熱効率を向上することを目的とするものであ
る。」(1頁左欄15~22行)と記載があるように、引用例2に記載のものは
「加熱を平等に近くして熱効率を向上すること」を目的としており、本願第2発明
のように、有害燃焼排気物を低減化することを目的とするものではなく、技術的課
題に類似性も共通性も存在しない。しかも、課題解決手段としての相違点(1)に
係る構成についても、引用例2に記載のものがこれを具備しないことは、従来型燃
焼室を備えたものとして引用例1に記載のものと同様であるから、引用例2に記載
のものと本願第2発明には技術的課題に関連性がないことを仮に度外視したとして
も、燃焼室を備える引用例2に記載のものからは、相違点(1)に係る本願第2発
明の構成は想到し得ない。
 5 取消事由5(相違点(2)の判断の誤り)
 本願第2発明の手法は、NOXを全く発生させないことを意図したいわば源流側
の対策であり、一方、引用例1に記載の発明の手法は、源流側から流れてきた高温
燃焼ガスに対する対処療法的な対策にすぎず、その源を絶たんとする本願第2発明
とはNOXの抑制原理が全く相違するのであり、作用効果、すなわち、NOX低減及
び小型化の効果は格段に異なる。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1に対して
 (1) 燃焼ガスは「燃料が燃焼したときに生ずる高温のガス」であり、火炎は、燃
焼反応が気相で起こっている部分で、可燃性物質が空気と反応して燃焼しつつ発光
しているものであるから、「燃焼ガス」と火炎とは明確に用語の意味が異なる。そ
して、火炎の一番外側の部分で燃焼反応が起こっているので、位置的に、燃焼ガス
が火炎の後流側となるのは当然のことである。そして、ゼルドビッチ機構によって
説明されるサーマルNOXは、火炎後流、すなわち燃焼が起きている場所の後流で
生成されるので、サーマルNOX抑制のために上流側の水管群によって冷却される
のは、火炎後流の燃焼ガスである。また、燃焼ガス温度が2000℃以上になる
と、CO-CO2間の平衡組成として、かなりのCOが発生(熱解離)するので、
「COは、NOXの発生を防止するために上流側の水管群により燃焼ガス(火炎)
を冷却することにより発生しており、そのことは、燃焼ガスが、燃焼反応中である
ことを意味する」との原告主張は、これと矛盾する。
 サーマルNOX及びCOの抑制という点からみても、「上流側の水管群により、
燃焼ガス(火炎)を冷却している」及び「上流側の水管群の領域において燃焼反応
が行われている」との原告の主張は失当である。
 (2) 仮に、本願第2発明の燃焼ガスが火炎状態のものも含むのであれば、燃焼ガ
スが、放射による伝熱を起こしていることをうかがわせる記載があるべきなのに、
本願明細書にはそのような記載はない。よって、燃焼ガスについて「火炎状態の燃
焼ガスも含まれる」とする原告の主張は誤りである。
 (3) したがって、「燃焼室を無くす」ことや、「バーナの直近まで水管を密に配
置した」ことは、本願第2発明の要旨とする事項ではなく、取消事由1で原告の指
摘する審決の認定に誤りはない。
 2 取消事由2に対して
 引用例1第3図には、燃焼炉1が指し示され、燃焼ガス9が排気されることは記
載されてはいるが、燃焼ガスの定義、及び燃焼ガス通路がどこからどこまでかとい
う燃焼ガス通路の定義を示す記載がないから、審決は「燃焼ガス通路のほぼ全域か
否か不明である」としたのであって、そこに誤りはない。
 また、「水管群に対して交叉方向に燃焼ガスを流通させることにより、燃焼ガス
が高温に保持させる時間の短縮化を実現して有害燃焼排気物(窒素酸化物)を低減
化するとしている」との審決の認定も、引用例1の記載からみて、原告主張の誤り
はない。
 3 取消事由3に対して
 引用例2には、図面の記載を参酌すると、審決認定のように「バーナーBが噴出
する火焔の後流側、すなわち燃焼空間を置いてその後流側の、燃焼ガスの流通する
ガス通路のほぼ全域に多数本の蒸発管を密に配置した蒸発管群A1を設け」ること
が明確に記載されているので、審決の引用例2の認定に原告主張の誤りはない。
 4 取消事由4に対して
 (1) 引用例2は、原告が主張するように「熱効率を向上すること」を目的とする
ものであって、本願第2発明と引用例1のものも、共に、蒸気が発生するボイラー
の熱効率を向上させるものであり、引用例1に記載の技術と引用例2に記載の技術
とを組み合わせることを阻害する要因もない。
 のみならず、サーマルNOXの低減化という技術的事項でも、引用例1、2に記
載のものは共通しており、両者を組み合わせることを阻害する要因は一切ない。す
なわち、引用例1には、「炉内に導入される燃焼ガスが高温に保持される時間の短
縮化を実現し、これをもって、窒素酸化物の発生を抑制できる」ことが記載され
(2頁右上欄4~6行)、さらに、CO-CO2間の平衡生成により生じたCOが、
燃焼ガス温度が低くなれば、CO2に酸化するという技術的事項に照らせば、引用例
1においても、CO-CO2間の平衡生成により生じたCOがCO2に酸化するもの
と推定できるのであり、本件出願時において、火炎温度を抑制して低NOX化を図
ることが周知であるから(海外技術資料研究所発行「窒素酸化物による大気汚染防
止技術」1973年日本語版発行)第1部39頁20~24行(甲第33号証)、
特開昭60-78247号公報(甲第22号証)参照。)、引用例2に記載のもの
においても、サーマルNOXの低減化が生じることは、おのずと認識し得る。しか
も、上記「窒素酸化物による大気汚染防止技術」には、「ピーク炎温度を下げると
いう単純な方法でも(後に述べる),NOXを50%減少させることに成功してい
る。」(第1部39頁23~24行)との記載があり、この記載からすると、本件
発明の「NOXは従来と比して約1/2に低減」(本願明細書段落【0026】)
が格別な効果といえるものではない。
 (2) 原告は、「課題解決手段としての相違点(1)に係る構成についても、引用
例2がこれを具備しない」というが、引用例2には、火焔の後流側の、燃焼ガスが
流通する部分のほぼ全域に多数本の蒸発管を密に配置した蒸発管群A1が設けられ
ることが第2図に記載されているので、原告主張は失当である。
 5 取消事由5に対して
 引用例1に記載の燃焼ガスは、燃焼ガス通路に配置した水管群によって、早期に
かつ直接冷却して燃焼ガス温度が抑制され、「窒素酸化物の発生を抑制できる」
(引用例1の2頁右上欄6行)のであるから、有害排気物の抑制原理は、本願第2
発明と同じであって、そうである以上、本願第2発明と引用例1のものとは、効果
において格別の差異はなく、本願第2発明と引用例1の相違点(2)は、「実質的
に何ら差異が認められない。」とした審決の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1について
 (1) 甲第13号証の1~3によれば、【M】著「燃焼」(1976年発行。岩波
全書291)の2頁に「火炎は酸化反応のある状態をあらわす言葉であるが、物質
としては反応生成物であるから、これを燃焼生成物(combustionproducts)、燃焼
ガス(combustiongas)などとよぶ.」との記載のあること、甲第14号証の1~
3によれば、【N】外著「燃焼工学」(昭和60年発行)の161頁に「燃焼ガス
を用いる場合、化学反応が支配的な燃焼中のガスを用いるよりは・・・」との記載
のあること、甲第15号証の1~3によれば、【I】著「ガスだきボイラーの実
務」(昭和61年発行)の31頁に「ガス燃料における燃焼ガスの状態は、当初は
火炎(炎)を形成するが次第に炎は消滅する.」との記載があること、甲第17号
証の1~3によれば、【O】著「燃焼とエネルギ変換の工学」(昭和62年発行)
の75頁に「火炎を含む燃焼ガスは」との記載のあること、甲第22号証によれ
ば、特開昭60-78247号公報の1頁左下欄6~7行ほか多数の箇所に「火焔
(燃焼ガス)」との記載があることが、それぞれ認められる。
 これらの記載によると、火炎(火焔)及び燃焼ガスの用語が用いられる際には、
火炎は燃焼ガスの一状態とされていることが明らかである。「火炎の一番外側の部
分で燃焼反応が起こっているのだから、位置的に、燃焼ガスが火炎の後流側とな
る」との被告の主張は、これら用語の用法と矛盾するものである。
 一方、燃焼ガスの用語が燃焼排ガス(火炎を含まない)の意味で使用される場合
のあることも原告の否定するところでないので、本願第2発明の要旨における「燃
焼ガス」なる用語が火炎を含むのか含まないのかは、その用語自体からは一義的に
断定することはできない。
 そこで、本願第2発明においていずれの意味において用いられているかにつき、
発明の目的、効果との関連などにより、以下、総合的に検討する。
 (2) 甲第4号証の1の2及び第4号証の2によれば、本願第2発明は、水管ボイ
ラーにおけるNOX、CO等の有害燃焼排気物の低減化を課題とし、これを解決し
ようとしたものであると認められるが、この燃焼技術分野におけるNOX、COの
低減化に関する知見として、例えば次のものが認められる。
 すなわち、甲第22号証によれば、特開昭60-78247号公報に、「本発明
に課せられた技術的な課題は燃焼室空間をおかないでバーナにより形成された火焔
で熱交換器を加熱し、温水を得ながら排ガス中に残留しているCOを無くする熱交
換方法及びその装置を提案することである。」(2頁左上欄末行~右上欄4行)、
「高負荷燃焼により発生した火焔(燃焼ガス)の近傍又はこれに接して冷物体を置
き、火焔の温度を火焔中のCO2が解離せず、又COの酸化反応の進行する温度すな
わち約1,000℃以上、約1,500℃以下に制御する。」(2頁右上欄8~1
2行)との記載のあることが認められる。
 また、乙第13号証によれば、「図解燃焼技術用語辞典」(昭和57年発行)1
07頁に「サーマルNOthermalNO」の用語解説として「・・・火炎後流で生成
されるthermalNO・・・の生成速度は温度、酸素濃度および高温場での滞留時間
によって影響を受けるが、特に温度に関しては指数関数的であり約1300℃以上
になると急激に増大する.」との記載があることが認められ、これによるとサーマ
ルNOXの生成速度に最も影響を与えるのは温度であると認めることができる。
 (3) そして、甲第4号証の1の2及び第4号証の2によれば、本願明細書には、
「有害燃焼排気物の低減化対策として、燃焼ガス温度、すなわち燃焼火炎の温度を
下げることにより、NOX、とくにサーマルNOX(thermalNOX)の生成を制御
する方法並びに燃焼ガス温度を一定の温度範囲に保つことにより、COをCO2に酸
化させてCOの残留を阻止する方法が知られている。・・・特開昭60-7824
7号公報に開示されているように、バーナ近傍の冷体物によって燃焼ガス温度(燃
焼火炎の温度)を調整した後、熱交換器までの間の断熱空気内でCOを酸化させる
もの等がある。」(段落【0004】)、及び「図中A点で約1200℃、・・・
上流側の伝熱面密度の小なる水管群においても、燃焼ガスの温度が低く抑えられ、
NOX、特にthermalNOXの発生が防止でき、しかも上流側においても燃焼ガス温
度が1200℃程度であるため、COが発生しても上流側でCO2に酸化されてしま
い、以下下流側では徐々に温度が下がるため、CO2が再び分離してCOとなるのも
防止できる。」(段落【0020】)との記載のあることが認められる。
 甲第4号証の1の2によって認められる本件出願の図1(本判決別紙図面)によ
ると、A点とは水管2列目に当たることが認められ、ここでの温度が約1200℃
であるとされていることは、特開昭60-78247号公報の「約1,000℃以
上、約1,500℃以下に制御する」との記載と一致し、火炎中のCO2が解離せ
ず、またCOの酸化反応が進行する温度であると同時に、「図解燃焼技術用語辞
典」記載のサーマルNOXの生成速度が急激に上昇する温度である約1300℃よ
り下の温度に当たり、有害排気物であるサーマルNOXとCOの発生をいずれも防
止することができるものと認められる。前記認定のとおり、特開昭60-7824
7号公報は本願明細書の段落【0004】において引用されている文献である。そ
うすると、本願第2発明は、特開昭60-78247号公報に記載の発明を従来技
術として、同発明がサーマルNOXの低減をも果たしているという知見を前提とし
て発明されたものということができる。
 (4) そうである以上、本件出願図面のA点においては、特開昭60-78247
号公報に記載の発明と同様に、「燃焼室空間をおかないでバーナにより形成された
火焔で熱交換器を加熱しているもの」、すなわち、A点での燃焼ガスは火炎である
と解することができ、本願明細書においては、火炎を含むものとして「燃焼ガス」
の用語が用いられていると解するのが相当である。
 このことは、本願明細書の「・・・燃焼ガス温度、すなわち、燃焼火炎の温
度・・・燃焼ガス温度(燃焼火炎の温度)・・・」(段落【0004】)との、燃
焼ガス温度と燃焼火炎の温度を同一視した記載振りとも符号する。
 また、甲第33号証によれば、海外技術資料研究所発行「窒素酸化物による大気
汚染防止技術」1973年日本語版発行)第1部には、「ピーク炎温度を下げると
いう単純な方法でも・・・,NOXを50%減少させることに成功している。」
(39頁23~24行)との記載のあることが認められ、この記載は、本願明細書
が「NOXは、従来のものに比べて1/3から1/2程度まで低減し」(段落【0
021】)とするNOXの低減度において一致している。これに対し、「火炎後流
の燃焼ガス」を冷却することにより、NOXを従来のものに比べて1/3から1/
2程度まで低減することができるとしている文献の存在を示す証拠はない。
 したがって、これらの点に照らしても、本願明細書における「燃焼ガス」に関す
る上記解釈が相当ということができる。
 (5) さらに、本願第2発明の要旨自体からも、燃焼ガスが火炎を含むものである
ことをうかがうことができる。
 すなわち、本願第2発明の構成要件には「一端側にバーナを設け、他端側に排ガ
ス出口を設けてなる燃焼ガス通路」及び「上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃
焼排気物を低減化する」との構成があるが、前者の構成は、燃焼ガス通路の一端が
バーナであることを明確に記載したものであり、バーナ直後の位置に燃焼ガスが存
在する以上、その燃焼ガスは火炎であると解さざるを得ない。また後者の構成中の
「燃焼ガス温度を抑制」とは、燃焼ガス温度の上昇を抑えるとの意に解されるが、
火炎後流の燃焼ガスについては、温度が上昇する要因のあることは認められないか
ら、「抑制」される対象は火炎温度というほかない。
 そうすると、本願第2発明の構成要件の記載も、燃焼ガスが火炎を含むものであ
ることを裏付けるものというべきである。
 (6) 被告は、本願第2発明の燃焼ガスが火焔(火炎)状態のものも含むのであれ
ば、燃焼ガスが、放射による伝熱を起こしていることをうかがわせる記載があるべ
きなのに、本願明細書にはそのような記載はないと主張する。
 しかしながら、乙第11号証によれば、社団法人日本ボイラ協会編「ボイラ構造
第1巻」(昭和42年発行)に、「物体は熱エネルギを電磁波の形で空間に放射
し、・・・全く物質の存在していない真空の空間を隔てた物体間でも放射による伝
熱が行なわれる。」(23頁11~13行)と記載されていることが認められ、こ
れによると、火炎部と水管が離隔していて、水管部での燃焼ガスが火炎状態のもの
を含まないとしても、放射伝熱は行われるのであるから、本願明細書に放射伝熱に
関する記載がないからといって、燃焼ガスが火炎状態のものを含まないとすること
はできない。
 (7) 以上のとおり、本願第2発明における「燃焼ガス」は火炎状態のものを含む
と解すべきであり、燃焼ガスは火炎後流のみに存在すると認めることはできない。
そうすると、本願第2発明について、「火焔の後流側である燃焼ガスが流通する通
路(すなわち、燃焼ガス通路)に多数本の水管を密に配置して水管群を形成し、こ
の水管群に対し交叉方向に燃焼ガスを流通させる」との構成を有するものとした審
決の認定は誤りであり、本願第2発明においては、バーナから排ガス出口に至る燃
焼ガス通路のほぼ全域に多数本の水管が配置されていることから、バーナの直近ま
で水管を配していて、燃焼室と称し得る空間は存在しないものというべきである。
 したがって、「「燃焼室を無くす」構成は本願第2発明の構成要件としない」と
の審決の認定部分、及び、本願第2発明は「バーナの直近まで水管を配することを
構成要件とするものではない」とした審決の認定部分も誤りである。
 2 取消事由4について
 審決は、相違点(1)についての判断において「引用例2記載のバーナーが噴射
する火焔とは、燃焼反応が進行している部分と認められ、火焔の後流側(下流側)
は上記したような燃焼ガスの流通する空間と認められるから、引用例2には、燃焼
ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数本の蒸発管(「水管」に相当)を密に
配置して蒸発管群(「水管群」に相当)を形成することが記載されている。」と認
定した。
 しかしながら、本願第2発明の「燃焼ガス」が火炎状態を含むものであり、「燃
焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域」が火炎部分を含めて「ほぼ全域」であるこ
とは、前記1で説示したとおりである。そうすると、本願第2発明との対比におい
てみれば、「燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域」であるためには、火炎後流
側だけでなく、火炎部分を含めて「ほぼ全域」でなければならないところ、審決が
引用例2につき「火焔の後流側(下流側)は上記したような燃焼ガスの流通する空
間と認められる」との点を根拠として、「燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域
に、多数本の蒸発管(「水管」に相当)を密に配置して」と認定したのは、その前
提(火炎部分を含まない点)において誤りがあるというべきである。
 そして、甲第3号証によれば、引用例2の第2図には、バーナーBと蒸発管群と
の間に、逆台形状の空間(燃焼室)が設けられており、その空間には、火炎、すな
わち、燃焼ガスが存在すると認められる。
 したがって、「引用例2には、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多数
本の蒸発管(「水管」に相当)を密に配置して蒸発管群(「水管群」に相当)を形
成することが記載されている。」とした審決の認定は誤りである。
 審決は、前記認定に基づいて、「したがって、引用例2記載の事項を参酌すれ
ば、引用例1記載のものにおいて、燃焼ガスの流通するガス通路のほぼ全域に、多
数本の水管を密に配置して水管群を形成する程度のことは、当業者が容易になし得
ることである。」と判断したが、引用例2に関する前記認定の誤りがある以上、こ
の判断も是認することができない。
 3 取消事由5について
 本願第2発明が「上流側の燃焼ガス温度を抑制して有害燃焼排気物を低減化す
る」ことを要件とし、ここで抑制される対象が火炎温度であることは、取消事由1
について判断したとおりである。これに対し、甲第2号証によれば、引用例1に
は、火炎温度そのものを抑制することについての記載を認めることができない。し
たがって、「引用例1には、・・・本願第2発明における「上流側の燃焼ガス温度
を抑制して有害燃焼排気物を低減化する」と実質的に何ら差異が認められない。」
とした審決の判断は誤りであり、これに続く「そして、本願第2発明が奏する作
用、効果についても、引用例1及び2の記載から容易に予測できたものであって、
本願第2発明に格別の作用、効果があるとも認められない。」との判断も理由を欠
くものといわざるを得ない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由1、4、5は理由があり、そこにおける
審決の認定、判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、その余の取
消事由について判断するまでもなく原告の請求は認容されるべきである。
(平成12年9月19日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
        裁判官   塩   月   秀   平
        裁判官   橋   本   英   史
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