弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取り消す。
     本件を原裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件抗告の理由は別紙抗告理由書記載のとおりである。
 よつて按ずるに、本件仮処分申請が如何なる法令上の根拠によつたものであるか
は必ずしも明瞭ではないが、仮に右申請が債務者Aに対する破産宣告の申立事件の
申立人である本件相手方が破産裁判所たる原審に対し、破産法第百五十五条の規定
に基く保全処分を求める趣旨であるとすれば、次に述べる理由により本件申請は不
適法であるといわなければならない。
 即ち、右破産法第百五十五条の規定によれば、裁判所は破産宣告前といえども利
害関係人の申立により、或は職権をもつて破産財団に関し仮差押、仮処分その他必
要な保全処分を命ずることができるものとしているが、破産宣告前においては破産
財団なるものは存在しえないのであるから、ここにいう破産財団とは、破産宣告の
あつた場合において破産財団を構成すべき財産を意味し、而も右財産は債務者に属
するものに限られ、債務者以外の者に属する財産は包含されないものと解するを相
当とする。蓋し、破産の申立があつた場合においては、債務者は或は逃走し、或は
又その財産を隠匿、毀棄などして、破産宣告があるまでの間においてその財産を散
逸してしまう虞れがあるため、破産法は破産裁判所が破産手続上、破産宣告前にお
いて債務者の身上及び財産に対する保全処分を為すことを認め、同法第百五十四条
において債務者又はこれに準ずる者の引致又は監守を命じうると共に、同法第百五
十五条において前記の如き保全処分を命ずることができるものとしたに外な<要旨>
らないからである。従つて後日破産宣告があつた場合には破産管財人において破産
法の規定に従い否認権を行使しうべぎ場合であり、否認権行使の結果破産財
団に属するに至ることのあるべき財産といえども、破産宣告前においてはもとより
債務者以外の第三者の所有に属し債務者の財産ではないのであるから、かかる否認
権の目的たる権利に対しては同法第百五十五条所定の保全処分はこれをなしえない
といわなければならない。しかのみならず、否認権の行使は破産管財人において本
案の裁判所に対し訴又は抗弁をもつてこれをなすべきものであることは破産法第七
十六条の明定するところであるから、これを本案とする仮処分は民事訴訟法の規定
に従い本案の裁判所の管轄に属し、破産裁判所のなしえないところである。然るに
否認権の行使を前提としてその目的たる第三者の所有に属する財産に対し、破産法
第百五十五条の規定による保全処分をすることを是認するときは、破産裁判所に対
し破産宣告前において前記本案たる否認権の存否に対する判断をなさしめることに
帰するから、かかる保全処分は到底これを是認しえないものといわなければならな
い。
 要するに、前記破産法第百五十五条は専ら債務者自身の行為に対する規定であつ
て、債務者以外の第三者に対してはその適用なきものと解すべきである。
 飜つて本件についてこれを見るに、本件仮処分物件は、抗告人が合資会社福・・
から売買によりその所有権を取得し、現に抗告人の所有名義に登記されているもの
であることは、本件記録編綴の疏第五号証及び抗告人提出の東京地方裁判所昭和二
十六年(ワ)第二五七一号建物所有権移転登記抹消請求事件の判決正本の記載に徴
して明かであるから、上来説示するところにより債務者Aの権利に属しない本件仮
処分物件に対し、破産法第百五十五条の規定による保全処分をなすことは許されな
いものであり、従つて仮に本件仮処分申請が同条によるものとすれば、右申請は遂
に不適法たるを免れない。
 若し又相手方の申請にして破産法第百五十五条以外の規定に基くものであるとす
れば、原裁判所はよろしく相手方に対し、右申請が如何なる法令上の根拠に基くも
のであるかの釈明を求めた上、その申請に相応する裁判をなすべきであつた。
 されば、この点につき釈明権の行使を怠り、漫然相手方の申請を許容して前記仮
処分を命した原決定は不当であるから、これを取り消した上、本件を原裁判所に差
し戻すべきものとし、主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 渡辺葆 判事 牛山要 判事 野本泰)

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