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平成21年8月31日判決言渡
平成21年(行ケ)第10108号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年6月8日
判決
原告ウエダ産業株式会社
被告Y
訴訟代理人弁護士和田宏徳
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2008−800123号事件について平成21年3月2
5日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「廃材用切断装置」とする特許第3553514号
(平成13年3月12日出願,平成16年5月14日登録。以下,この特許権
に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である(甲1)。
原告は,平成20年7月1日,本件特許について無効審判(無効2008−
800123号事件)を請求し(甲9),特許庁は,平成21年3月25日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)を
し,その謄本は,同年4月6日,原告に送達された。
2出願経緯及び特許請求の範囲
被告は,平成16年1月29日,願書に最初に添付した明細書(以下,別紙
「本件特許発明実施例図面」【図1】ないし【図5】の図面と同一の図面も併
せて,「当初明細書」という。)の段落【0005】,【0008】及び【001
1】における「挽き切り状に切断せしめる」との各記載を削除する旨の手続補
正(以下「本件補正」という。)をした。
本件補正後の本件特許の明細書(以下,別紙「本件特許発明実施例図面」
【図1】ないし【図5】の図面と併せて,「本件明細書」という。)の特許請
求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明
を「本件特許発明」という。)。
「ホルダ−1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所定間隔をおい
て並設され,該受片2間には略半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着され,該
可動刃4はその弧状外周縁に沿って鋸歯状刃体6が形成され,可動刃4には流
体圧シリンダ8が接続され,上記受片2の基端部には各々固定掴持片3が立設
されると共に,該固定掴持片3に対応すべく可動刃4の背部に掴持部7が形成
されてなることを特徴とする,廃材用切断装置。」
3審決の理由
別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,以下のとおりである。
(1)本件補正の適否について
本件補正は,当初明細書の段落【0005】,【0008】及び【001
1】における「挽き切り状に切断せしめる」との各記載を削除したものであ
るが,押し切るように切断するに近い技術事項について「挽き切り状に切断
せしめる」との不適切な表現をした部分を削除したものにすぎないから,本
件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり,そ
の範囲を超えた違法な補正に当たるとはいえない。
(2)記載不備の有無
ア本件特許発明は,その発明特定事項に回り継手やストッパー装置を必要
としないものであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載中にそれ
らの記載がなくとも,本件特許発明を実施することができる程度に明確か
つ十分な記載がされていないということはできない,本件明細書の発明の
詳細な説明に記載された事項は「挽き切り状に切断せしめる」ことではな
いから,それが特許請求の範囲に記載されていないからといって,特許法
36条6項1号(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載し
たものであること),2号(特許を受けようとする発明が明確であるこ
と)又は3号(請求ごとの記載が簡潔であること)に違反しているとはい
えない。
イ受片2において軸5からホルダー1側を基端部と解するならば,図面か
らは,固定掴持片3は受片2の基端部に立設されているといえるから,そ
の旨の特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載されていないとは
いえない。
第3当事者の主張
1取消事由に係る原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)本件補正を違法でないとした誤り(取消事由
1),(2)固定掴持片に係る記載不備がないとした誤り(取消事由2)が
ある。
(1)取消事由1(本件補正を違法でないとした誤り)
審決は,「切断がのこぎりで挽いて切ることに該当するかどうかを
以下検討する。」(審決書5頁12行,13行)と述べた上,「図4か
ら明らかなように,9個設けられている鋸歯状刃体6は軸5を中心とす
る均等の距離である同一円弧上に並べて設けられているものではないこ
とから,被切断物Aを切断するには,9個の鋸歯状刃体6を切断深さ方
向と完全に直交する方向に動作させて切断するものではなく,複数の鋸
歯状刃体6を順次被切断物Aに食い込ませて切断するものである
ことは明らかである。すなわち,当初明細書及び図面に記載され
た発明における可動刃4は,のこぎりで挽くように切断するもの
ではなく,鋸歯状刃体6というのこぎり状の刃を有するものでは
あるものの,むしろ押し切るような切断に近いものである。」(審
決書5頁16行∼24行)と認定し,「そうすると,当初明細書におけ
る『挽き切り状に切断せしめる』との記載は,当初明細書及び図面に記載さ
れた発明における上記技術事項に照らすと,そもそも『挽き切り状に』と特
定することに意味はなく,むしろ,当初明細書及び図面の記載全体から把握
される技術事項と比較して記載自体が適切を欠くものであり,また,当初明
細書の開示内容は上記のとおり『押し切る』というような切断操作に近いも
のであったことから,段落【0005】,【0008】及び【0011】に
記載されていた『挽き切り状に切断せしめる』との記載を削除する本件補正
は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において
したものであり,上記範囲を超えた違法な補正に当たるとはいえない。」
(審決書5頁25行∼34行)と判断した。
しかし,審決の上記認定判断は,次のとおり誤りである。
ア本件特許発明の廃材用切断装置の可動刃4においては,可動刃
4の回転中心の軸5から複数の鋸歯状刃体6までの半径を徐々に
増大させたことにより,一発の切断動作により,丸鋸と同様の挽
き切りの切断を可能としたものである(別紙「本件特許発明実施
例図面」【図4】参照)。複数の鋸歯状刃体を有する可動刃で押し切
る場合には,上刃による切断が主体となるから,裏刃(真刃)がほとんど
機能しないのに対し,挽き切る場合には,裏刃(真刃)が機能するとこ
ろ,本件特許発明においては丸鋸と同様に裏刃(真刃)が機能するから,
挽き切りである。
甲4は,原告が,説明のため,本件特許公報(甲1)の【図4】を
拡大し,刃先の移動軌跡などの補助線を追加記載したものである。甲
4によれば,複数の鋸歯状刃体6を,軸5に近い順に第1,第2,第
3等の鋸歯状刃体6とすると,可動刃4が軸5を中心として回動して
被切断物Aを切断する際に,刃先の移動軌跡から分かるように,第
1鋸歯状刃体6の裏刃(真刃)が所定厚さ分を挽き切りし,それに
引き続いてわずかのタイムラグをもって第2鋸歯状刃体6の裏刃(真
刃)が次の所定厚さ分を挽き切りし,以下同様に第3,第4,第5等
の鋸歯状刃体6の裏刃(真刃)による挽き切りが順次行われることが
分かる。この可動刃4による切断は,複数の鋸歯状刃体6の裏刃(真
刃)によりタイムラグをもって順次されるから,「挽き切り」に該当
すると解される。また,この場合の切断深さ方向は,上下方向ではな
く,軸5を中心とする半径方向(被切断物Aの左下がりの対角線の
方向に近い方向)であり,鋸歯状刃体6を切断深さ方向とほぼ直交
する方向へ移動させて切断が行われるから,「挽き切り」に該当す
ると解される。
また,甲5は,原告が,説明のため,本件特許公報(甲1)の【図
4】を基に,その可動刃に代えて,甲8に記載の「木製廃材切断機用
刃」をスケール調整後鏡像にして組み合わせたものである。甲5によ
れば,切断機用刃が軸5を中心に回動して被切断物を切断するとき,
軸5に近いものから順に第1,第2鋸歯状刃体等とすると,第1
鋸歯状刃体の裏刃(真刃)が所定厚さ分を挽き切りし,わずかのタ
イムラグをもって,第2鋸歯状刃体の裏刃(真刃)が次の所定厚さ分
を挽き切りし,以下同様に,第3,第4,第5鋸歯状刃体の裏刃(真
刃)による挽き切りが順次行われる。この場合の切断も,複数の鋸歯
状刃体の裏刃(真刃)による切断がタイムラグをもって順次されるか
ら,「挽き切り」に該当すると解される。この場合の切断方向は,
甲4の場合と同様に,軸5を中心とする半径方向(被切断物Aの左
下がりの対角線の方向に近い方向)であるから,鋸歯状刃体6を
切断深さ方向とほぼ直交する方向へ移動させて切断が行われる。
本件特許発明の廃材用切断装置の可動刃4により被切断物Aを切断
する動作は,挽き切りの切断であって,押し切りの切断ではないか
ら,押し切りに近いとした審決の上記判断は誤りである。
イ本件特許公報(甲1)の記載,意見書(甲6)の記載,特許第35
93514号の特許公報(甲7)の記載及び意匠登録第118342
8号の意匠公報(甲8)の各記載を総合すれば,本件特許発明の
廃材用切断装置における可動刃4による切断が「挽き切り状の切
断」であることは明らかである。
したがって,当初明細書(甲2)の段落【0005】,【000
8】,【0011】に記載されていた「挽き切り状に切断せしめる」
との記載から「挽き切り状に」を削除する本件補正は,当初明細書に
記載した事項の範囲を超える補正であって,可動刃4による切断に,
「挽き切り」だけでなく,「押し切り」も含めるように,明細書の開
示範囲を拡張する補正であるといえるから,特許法17条の2第3項
に違反する違法な補正である。
(2)取消事由2(固定掴持片に係る記載不備がないとした誤り)
審決は,「受片2において,軸5からホルダー1側を基端部,反対
側を先端部と考えれば,固定掴持片3が受片2の基端部に設けら
れるものであることは,図面の図1や図4,図5を参照すると明
らかである。したがって,・・・請求項1に記載された発明を,
発明の詳細な説明に記載されたものでないとすることはできな
い。以上のとおり,特許法第36条第6項第1号ないし第3号違反だ
とする無効理由については,理由がない。」(審決書8頁3行∼9
行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は誤りである。すなわち,本件明細書にお
いて,「8は可動刃4を可動せしめるべくその背部下端に取付け部材
9を介して連結された油圧シリンダで,該油圧シリンダ8の基端部は
受片2の基端部に枢着されている。」(甲1,段落【0007】)
と記載されていることにかんがみると,受片2の基端部とは,油
圧シリンダの基端部が枢着されている部分とその近傍部(ホルダ
ー1側近傍部。別紙「本件特許発明実施例図面」【図1】,【図
4】,【図5】参照)のことであり,それゆえ,固定掴持片3
は,受片2の途中部に設けられるものであって,受片2の基端部
に立設されるものとはいえない。本件明細書及び図面から,固定掴
持片3が受片2の基端部に設けられるものとは認めることができ
ないから,本件発明の請求項1の固定掴持片3に相当するもの
は,本件明細書及び図面には開示されていないことになり,特許
法36条6項1号に違反している。
2被告の反論
(1)取消事由1(本件補正を違法でないとした誤り)に対し
当初明細書の記載からすると,本件特許発明における切断の態様は,軸5
を中心として可動刃4を回転させることにより被切断物Aを切断するもので
あり,可動刃4の弧状外周縁に設けられる鋸歯状刃体6は軸5を中心とする
均等の距離である同一円弧上に並べて設けられるものではないから,本件補
正の前後を問わず,挽き切りは該当しない。換言すると,本件特許発明は,
切断装置の複数の切刃が被切断物の同一場所を通らずに切断する方式である
から,押し切りの切断に近い。「挽き切り状に」との文言を削除したのは,
不合理又は不明りょうな記載を補正したにすぎない。
原告は,主に上刃により切断するのが押し切りであり,主に裏刃(真刃)
により切断するのが挽き切りであるとの前提に立った上で,本件特許発明に
おいては主に裏刃(真刃)により切断するから,挽き切りである旨主張す
る。しかし,原告の前提とする理解は誤りであるから,原告の主張は失当で
ある。
なお,本件特許発明の出願時において被告が本件特許発明の切断方式を挽
き切りであると認識していたことは,確かであるが,出願後に特許庁の指摘
を受けて,挽き切りに係る記載が不合理又は不明りょうな記載であったこと
に気付いたことから,本件補正に至ったのであるから,そのような事情に照
らせば,被告の出願当初の認識は,本件補正が当初明細書又は図面に記載し
た事項の範囲を超えたものであるとする原告の主張を何ら裏付けることには
ならない。
以上によれば,「挽き切り状に」との文言を削除した本件補正は,当初明
細書又は図面の記載の範囲内においてしたものであり,特許法17条の2第
3項に違反するものではないから,原告の取消事由1の主張は理由がない。
(2)取消事由2(固定掴持片に係る記載不備がないとした誤り)に対し
原告は,固定掴持片3が受片2の基端部に設けられるとする請求
項1の記載内容は,本件明細書及び図面に開示されていない事項であ
るから,特許法36条6項1号に違反している旨主張する。
しかし,本件明細書の段落【0007】の記載は,油圧シリンダ8の一
方を可動刃4側に取り付け,他方を受片2側に取り付けるという1つの実施
例を説明したものにすぎず,受片2の基端部を,【図1】,【図4】及び
【図5】において油圧シリンダの基端部が枢着されている部分とその近傍部
に限定して解する理由はないから,そのような限定的な理解を前提とする原
告の上記主張は理由がない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(本件補正を違法でないとした誤り)について
原告は,本件特許発明の廃材用切断装置の可動刃4により被切断物A
を切断する動作は,挽き切り切断であるから,押し切りに近いとした審
決には誤りがあり,「挽き切り状に切断せしめる」との記載を削除した本件
補正は,押し切り切断を含む拡張解釈を生じさせるから,本件補正は,願書に
最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでは
なく,違法な補正である,と主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり理由がない。
(1)当初明細書の記載
当初明細書の「発明の詳細な説明」には,以下の記載がある(甲2)。
すなわち,「【0005】【課題を解決するための手段】・・・請求項1
記載の発明は,ホルダー1の先部に略湾曲状とされた両側一対の受片2が所
定間隔をおいて並設され,該受片2間には外周縁に鋸歯状刃体6を備えた略
半円形状の可動刃4が嵌合自在に軸着されると共に,該可動刃4には流体圧
シリンダ8が接続されてなることを特徴とする,廃材用切断装置を要旨とす
るものである。そして,本発明のかかる廃材用切断装置は,両側の受片2に
木製廃材などの被切断物Aを横架状に保持せしめつつ,流体圧シリンダ8の
作動により可動刃4を受片2間に嵌合せしめて挽き切り状に切断せしめるも
のである。」
「【0008】・・・しかるのち,油圧シリンダ8の作動により可動刃4を
閉作動せしめつつ受片2内に嵌合せしめ,刃体6により被切断物Aを挽き切
り状に切断せしめる。このさい,被切断物Aを受片2内に保持せしめつつ可
動刃4により挽き切り状に切断せしめるものであるから,木製廃材などの切
断を常に確実に行なうことが出来る。」
「【0011】【発明の効果】・・・該可動刃4には流体圧シリンダ8が接
続されているから,両側の受片2間に被切断物Aを横架状に保持せしめつ
つ,流体圧シリンダ8の作動により可動刃4を受片2内に嵌合せしめて挽き
切り状に切断せしめることが出来るものであって,特に木製廃材などの被切
断物Aを確実に切断せしめることが出来るものである。」。
また,【図1】ないし【図5】(別紙「本件特許発明実施例図面」【図
1】∼【図5】参照)が示されている。
(2)判断
上記各記載に照らすならば,当初明細書の「発明の詳細な説明」には,可
動刃4及びその鋸歯状刃体6は,軸5を中心として回転駆動されて,各鋸歯
状刃体は,被切断物Aの切断深さ方向に近い方向に,並列して進行する構造
及びその操作が開示されているというべきであるが,同開示内容は,被切断
物Aを「挽き切る」という操作ではなく,むしろ「押し切る」という操作に
近いものというべきである。
そうすると,当初明細書における「挽き切り状に切断せしめる」との記載
は,そもそも記載自体が適切を欠くものであり,また,当初明細書の開示内
容は上記のとおり「押し切る」に近い操作であったといえるから,段落【0
005】,【0008】及び【0011】に記載されていた「挽き切り状に
切断せしめる」との記載を削除する本件補正は,願書に最初に添付した明細
書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,上記範囲を超
えた違法な補正に当たるとはいえない。
原告は,主に上刃によって切断するのが押し切りであり,裏刃(真刃)に
よって切断するのが挽き切りであるとした上で,本件特許発明の可動刃によ
る切断は主に裏刃(真刃)によって切断するものであるから,挽き切りに当
たる旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,上刃によって切断するのが押し切りであり,裏刃(真刃)によ
って切断するのが挽き切りであるとする原告の主張は,独自の主張であり,
これを裏付ける立証はない。したがって,原告の主張は,その前提において
採用できるものではない。
(3)小括
以上のとおり,当初明細書(甲2)の段落【0005】,【000
8】及び【0011】における「挽き切り状に切断せしめる」との各記
載から「挽き切り状に」を削除する本件補正は,当初明細書に記載した
事項の範囲内においてされたものであるから,特許法17条の2第3項
に反しない。この点の原告の主張は理由がない。
2取消事由2(固定掴持片に係る記載不備がないとした誤り)について
原告は,本件明細書の段落【0007】の「該油圧シリンダ8の基端部は受
片2の基端部に枢着されている」との記載からすると,受片2の基端部と
は,【図1】,【図4】及び【図5】(別紙「本件特許発明実施例図面」
【図1】,【図4】及び【図5】参照)において油圧シリンダ8の基端部
が枢着されている部分及びその近傍部(ホルダー1側近傍部)を意味
するところ,固定掴持片3は,受片2の基端部に至る途中に設けら
れていることになるから,これが受片2の基端部に設けられるとす
る請求項1の記載内容は,本件明細書及び図面に開示されていない事項
であるといえるから,特許法36条6項1号に違反する旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。すなわ
ち,原告指摘の本件明細書の段落【0007】の「該油圧シリンダ8の基端部
は受片2の基端部に枢着されている」との記載は,受片2の基端部を定義した
ものではなく,油圧シリンダ8について,その一方を可動刃4側に,他方を受
片2側に取り付けるとの構成を説明したにすぎないものと理解するのが自然で
ある。また,本件明細書の「発明の詳細な説明」の段落【0005】及び【0
011】においても,「受片2の基端部には各々固定掴持片3が立設される
と共に」と記載されている上,段落【0007】には「3は該両側の受片2に
各々対向すべく基端がわに一体に立設された湾曲状の固定掴持片である。」
と記載されているから,「発明の詳細な説明」にあるこれらの記載を統一的に
解釈するならば,「受片2の基端部」とは,「受片2の基端側の部分」ほどの
意味に理解するのが相当である。
以上のとおり,「受片2の基端部」との記載は,原告主張のように【図
1】,【図4】及び【図5】において油圧シリンダ8の基端部が枢着されてい
る部分及びその近傍部に限定して解すべきではないから,原告の上記主張は理
由がない。
3結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は
縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がない
から,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
大須賀滋
裁判官
齊木教朗
(別紙)本件特許発明実施例図面
【図1】斜視図,【図2】平面図,【図3】側面図,【図4】破砕断面図

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