弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人岡田錫淵の上告理由第一点ないし第三点について。
 原審は、つぎの事実、すなわち、被上告会社の代表取締役であつたDは、昭和三
九年三月二〇日、訴外E開発株式会社(以下「E開発」という。)の代表取締役で
あるFとの間に、DはE開発に対し同人およびその他の株主の所有する被上告会社
の株式合計一二万余株を代金一億八〇〇〇万円で譲渡することを約し、これに伴い、
同年四月七日に開催される予定の被上告会社株主総会においてDが代表取締役を辞
任するとともに、右Fのほか、E開発の取締役であるGおよびHが取締役に就任す
る旨の合意をしたこと、そして、同年三月二〇日以降は右Fら新経営者側において
被上告会社の業務運営の一切を行ない、その間に右GおよびHにおいて銀行その他
より融資を受けて被上告会社につき増資をし、これをもつて株式譲渡代金の支払い
にあてることとし、そのため、同年三月二〇日、被上告会社の取締役会において、
右増資先に対する交渉の便宜上、Gを総支配人に、Hを副支配人に選任し、同人ら
に会社業務運営の責任を一任する旨の決議をしたこと、しかし、Dら旧経営者側と
しては、正式に代表取締役が交替し株式譲渡代金の支払が完了するまでは、会社の
業務全般にわたつてすべてこれをF側に委譲することになお不安を残していたので、
手形小切手の振出などの負担行為については両者の合意によつて決すべく申合せを
し、その趣旨において、特に旧経営者側の常務取締役I、総務部長JをしてG、H
らの業務運営に協力関与せしめることとしたこと、他方、Hは当時訴外E開発の代
表取締役として、事実上、同会社を主宰していたが、同人は、被上告会社の副支配
人の地位にあつた同年三月二八日ごろ、右の旧経営者側に何らの相談もせず独断で、
E開発が訴外K工業株式会社に対して負担していた債務の支払のため、被上告会社
社長Dの記名印および社長印を使用して、同社長振出名義でE開発を受取人とする
本件約束手形を作成し、同年四月一〇日、この手形にE開発の代表取締役Fの名義
で裏書をしてK工業株式会社の代表取締役Lに交付したところ、同人は即日これを
上告人に裏書交付したので、上告人は本件手形の所持人となつたこと、本件手形の
受取人および第一裏書人としてのE開発の代表行為および代理行為はすべてHがこ
れを行なつたものであること、同年四月七日の被上告会社の株主総会において、H
は取締役に選任されるとともに、同日の取締役会において代表取締役に選任され、
翌八日その旨の登記をおえたこと、以上の事実を確定したうえ、「Hは、本件手形
を作成した当時においては、これについて被上告会社を代理又は代表する権限をも
たなかつたが、これをK工業株式会社に交付した時には被上告会社の代表権をもつ
ていたわけである。しかし、本件手形の振出がそこに振出日として記載され、かつ、
振出人としての署名がなされた昭和三九年三月二八日頃以降、右手形に第一裏書人
の署名がされた同年四月一〇日までの間のどの時点においてされたと見るにしても、
右振出行為は、Hが、一方振出人たる被上告会社の代理人として、他方受取人たる
E開発の代表者としてしたのであるから、商法二六五条の規定により被上告会社の
取締役会の承認をえない限り無効といわなければならない。そして、本件手形振出
につき被上告会社の取締役会の承認があつたことについては主張も立証もない。」
「上告人は、本件手形の振出につき、Hが振出人および受取人の双方を代理又は代
表した事実を知らなかつたというが、右の無効は善意の手形取得者に対しても主張
しうると解すべきであるから、上告人のこの主張も理由がない。」と判示して、上
告人の被上告会社に対する本件手形金の請求を排斥したのである。
 しかしながら、原審の示した右判断は、つぎに述べるとおり、これを是認するこ
とができない。
 (1) 原判決は、株式会社が商法二六五条に違反して約束手形を振り出した場合
に、右手形の振出につき取締役会の承認を受けなかつたことによる無効は、受取人
である会社の当該取締役に対してのみならず、手形をその取締役から裏書により取
得した第三者に対しても主張しうるとの見解を前提として、本件手形の第三取得者
である上告人の請求を排斥しているが、かかる場合において、会社の手形行為の直
接の相手方である取締役に対する関係において無効の主張が許されることは格別、
右手形がいつたんその取締役から第三者に裏書譲渡されたときは、その第三者に対
しては、振出人である会社において、右手形が会社から取締役である者にあてて振
り出され、かつ、その振出につき取締役会の承認がなかつたことについて、右第三
者が悪意であつたことを主張、立証しないかぎり、その振出の無効を主張して手形
上の責任を免れることができないものであることは、当裁判所大法廷の判例とする
ところであつて(昭和四二年(オ)第一四六四号・同四六年一〇月一三日大法廷判
決参照)、これと異なる原審の見解は、当裁判所の採らないところである。してみ
れば、原判決は、商法二六五条の解釈適用について誤りをおかしたものといわなけ
ればならない。
 (2) のみならず、原判決は、本件の事実関係のもとにおいても商法二六五条の
適用があるものとするが、前記事実関係によれば、Hが被上告会社代表取締役Dの
振出名義でE開発を受取人とする本件手形を作成したのは、同人がなお被上告会社
の副支配人の地位にあつた昭和三九年三月二八日ごろのことであつて、当時同人は
受取人であるE開発の代表取締役の地位にあつたというにあるところ、右のように
約束手形の振出人の代理人ないし代表者と受取人の代表者とが同一人であつて、そ
の間に双方代理ないし双方代表行為が成立する場合においては、振出行為の完成を
留保すべき特段の事情のないかぎり、振出人の代理人ないし代表者として法定の形
式に従つて手形の作成をおえた以上、その時点において手形の振出行為が完成し、
その後は受取人の代表者の資格において右手形を所持するにいたるものと解するの
が相当である。したがつて、本件手形は、特段の事情のないかぎり、Hが被上告会
社の副支配人の地位にある時に被上告会社を代理して振り出したものであつて、そ
の代表取締役に就任してのちにその地位において振り出したものではないというべ
きである。そして、商法二六五条の規定は、株式会社の業務執行上の意思決定機関
たる取締役会の構成員としての取締役に課せられた忠実義務に由来して設けられた
ものであるから、会社に対し代理権を有するにとどまる支配人(Hは、被上告会社
取締役会の決議によつて副支配人に選任され、被上告会社の業務運営を一任された
というのであり、前示事実関係のもとにおいては、同人は商法三八条にいう支配人
としての地位を与えられたものというべきである。)に対してまで同条を拡張して
適用するのは相当でないと解すべきである。そして、このことは、Hが近い将来被
上告会社の取締役に就任することが、Dら旧経営者との間で予定されていたという
事情によつても左右されるものではない。してみれば、Hが代表取締役に就任して
のち本件手形を振り出したものと認めるべき特段の事情を明らかにすることなく、
同人によつてなされた被上告会社の手形振出行為につき商法二六五条を適用した原
判決には、この点においても同条の解釈適用を誤つた違法があるものといわなけれ
ばならない。
 (3) 上来説示するところによれば、Hは、特段の事情のないかぎり、被上告会
社の副支配人たる地位において被上告会社を代理して、みずから代表者の地位にあ
るE開発に対し本件手形を振り出したものであるから、その手形行為は、商法二六
五条所定の場合には当たらないが、民法一〇八条本文所定の双方代理行為に当たる
ことが明らかである。ところで、同条に違反してなされた代理行為は、本人による
事前の承認または追認を得ないかぎり、無権代理行為として無効であるから、手形
振出行為が双方代理となる場合においても、本人は、当該行為の相手方に対しては
右手形の振出の無効を主張することができるが、商法二六五条の解釈適用に関する
前記大法廷判決が述べるように、手形が本来不特定多数人の間を転々流通する性質
を有するものであることにかんがみれば、右手形が相手方から第三者に裏書譲渡さ
れたときは、その第三者に対しては、その手形が双方代理行為によつて振り出され
たものであることにつき第三者が悪意であつたことを主張し立証するのでなければ、
本人はその振出の無効を主張し手形上の責任を免れることはできないものと解する
のが相当である。もつとも、前記事実関係によれば、Hによつて本件手形が振り出
された当時、被上告会社においては、同人の業務執行上の権限に関し、手形小切手
の振出などの債務負担行為についてはDら旧経営者とFら新経営者側との合意によ
つて決する旨の申合せがあつたというのであるが、かかる申合せがHの副支配人と
しての代理権を右の限度で制限するものであるとしても、かかる制限については、
商法三八条三項の規定により、被上告会社は上告人の悪意を主張し、立証しないか
ぎり、本件手形上の責任を免れえないものと解すべきであるから、Hが被上告会社
を代理してした本件手形の振出行為は、たんなる無権代理の行為ではないというべ
きである。
 してみれば、本件手形の振出がその振出人および受取人につき、Hの双方代理ま
たは双方代表行為に当たるとしても、上告人はその事実を知らずにこれを譲り受け
たから、被上告会社は善意の上告人に対して振出の無効を主張しえない旨の上告人
の主張につき、上告人の悪意の有無を審理しないまま本訴請求を排斥した原判決は、
結局、民法一〇八条、商法三八条等代理に関する法令の解釈適用をも誤つたことに
帰する。そして、原判決の叙上の違法はその結論に影響を及ぼすことが明らかであ
り、論旨は、結局、理由があるから、原判決は破棄を免れないものというべく、本
件は、叙上の点についてなお審理を要するので、民訴法四〇七条に従い、これを原
審に差し戻すこととする。
 よつて、裁判官関根小郷の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり
判決する。
 裁判官関根小郷の意見は、次のとおりである。
 原判決は、Hのした本件手形の振出行為は、同人が、一方振出人たる被上告会社
の代理人として、他方受取人たるE開発の代表者としてしたものであつて、商法二
六五条の規定により、被上告会社の取締役会の承認を得ないかぎり無効であるとこ
ろ、右振出につき被上告会社の取締役会の承認があつたことについては、主張も立
証もなく、しかも、右の無効は善意の手形取得者に対しても主張しうるものと解す
べきであるから、上告人の本訴請求は失当であると判示している。
 しかし、約束手形の振出は、取引の決済または信用授受などの原因関係の手段と
してされる行為であり、それ自体としては、取締役個人またはその代理もしくは代
表する第三者に新たな利益を与え、会社に不利益をもたらす行為とはいえず、した
がつて、約束手形の振出は、金銭の支払と同様、商法二六五条にいう取引に包含さ
れるべきものではないと解する。その理由は、最高裁判所昭和四二年(オ)第一四
六四号・同四六年一〇月一三日大法廷判決における私の意見と同様であるから、そ
れを引用する。
 なお、約束手形の振出は、民法一〇八条但書所定の債務の履行にあたるので、同
条本文の適用はないものと解すべきである。その理由も、右に引用した大法廷判決
における私の意見において述べたとおりである。
 しかるところ、Hは、本件手形の振出当時は、被上告会社において商法三八条所
定の支配人の地位にあつたものであり、同人の手形行為等に関する代理権について
された被上告会社における申合せには同条三項の規定が適用されて、被上告会社は、
上告人の悪意を主張、立証しないかぎり、本件手形上の責任を免れえない旨の多数
意見の見解には、私も賛成である。
 よつて、論旨は、理由があるので、原判決を破棄し、本件について、さらに審理
を尽くさせるため、これを原審に差し戻すべきである。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝

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