弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     第一審判決を取消す。
     本件訴を却下する。
     訴訟の総費用は全部上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人我妻武雄、中村益之助の上告理由は別紙の通りである。
 職権を以て調査するに、原審判決の事実摘示によれば、上告人が本訴の請求原因
として主張するところは、「債権者たる訴外保証責任D信用販売購買利用組合は、
昭和一四年三月一三日被上告人を債務者として、債権限度二千円の当座貯金貸越契
約を締結し本件土地建物に根抵当権を設定せしめたが、昭和一八年四月三〇日京都
区裁判所に対し右抵当権に基づき不動産競売の申立を為し、同裁判所は同年(ケ)
第一〇号本件として即日競売開始決定を為すと同時に職権を以て、競売申立の登記
を嘱託した。上告人は右競売事件に於ける昭和一八年六月二四日の競売期日に最高
価金七千二百十四円を以て競買申出を為し、同月二八日同裁判所より競落許可の決
定を受けた。然るに代金支払期日である同年七月二一日上告人がその支払を怠つた
ため同裁判所は再競売を命じ、その期日を同年八月一九日午前一〇時と指定告知し
たが、右期日は同年同月一六日に職権を以て変更せられ再競売期日は未定のままで
あつたところ、昭和一九年一月七日債権者たる組合は京都区裁判所に対し競売申立
の取下を為した。ところが同裁判所はその取下を有効なものとして取り扱い登記官
吏に嘱託して本件不動産に関する前記競売申立の登記を抹消せしめるに至つた。然
し乍ら競売申立人である訴外組合の右取下は競落期日前最高価競買申出人である上
告人の同意を得ることなくして為されたものであるから取下としての効力を生じな
いものである。よつて、上告人は競売手続の進行を求めるため、上告人の同意なく
して為された無効な競売申立に基く右抹消登記の回復を求める必要があるので、訴
外組合に対しては回復登記手続を、被上告人に対しては右登記についての法律上の
利害関係人として回復登記手続に対する同意を求めるため本訴請求に及ぶ」という
趣旨のものである。
 そこで、競売法二三条によれば、不動産競売申立人は競落期日までは最高価競買
申込人の同意ある場合に限り申立の取下を為すことを得るが、競落許可決定のあつ
た後は申立人の任意に取下を為すことを許さず、ただ利害関係人全員の同意ある場
合にのみ取下を為し得るものと解すべく、このことは一旦競落許可決定があり代金
不払によつて再競売が行われる場合においても同様である。そして再競売の行われ
る場合には、代金の支払を怠つた従前の競落人は民訴法六八八条四項(競売法三二
条二項により準用)により、再競売期日の三日前までに買入代金、代金支払期日よ
り代金支払までの利息及び手続の費用を支払うことによつて、目的不動産の所有権
を取得することを得るのであり、而も競落人はこれによつて民訴法六八八条五、六
項所定の不利益をも免れるのであるから、代金不払後の競落人は、再競売期日の三
日前までは前示の金員を支払つて競売不動産を取得する権利を有するものと解すべ
く、従つて前示利害関係人の中には代金不払の競落人も当然含まるるものと謂わな
ければならない。
 然らば上告人が競落人として代金の支払を怠つたため競売裁判所たる京都区裁判
所により再競売が命ぜられ、一旦指定された期日が変更されて期日未定の間に、競
売申立人が単独でその申立を取下げたとするならば、この取下は固より無効と言わ
なければならない。然し乍ら右取下が無効である以上本件競売手続は引続き京都区
裁判所に繋属し、裁判所法施行後は同法施行令三条により京都地方裁判所に依然繋
属しているものと謂うべきである。上告人は右競売手続の続行を求めるため本訴請
求を為すというのであるが、競売裁判所が競売の取下の不適法であるに拘らずこれ
を有効視して手続を続行しない場合には、利害関係人はこれに対し民訴法五四四条
により所謂執行方法に関する異議を主張し、その理由あるときは、競売裁判所は手
続を進めると共に、上告人主張の競売申立登記の抹消登記の回復は職権を以てこれ
を嘱託すべき筋合であるから、上告人は競売手続の続行を求める前提として独立の
訴により抹消登記の回復又はその同意を求むべき何等の利益をも有しない。そして
一般に執行方法に関する異議の申立によりその目的を達し得る場合には、訴を以て
主張する利益がないというべきであるから、本訴は上告人の主張自体よりして訴の
利益なしとして却下すべきものと言わざるを得ない。然らば上告人の請求を認容し
た第一審判決及びこれを取消して請求を棄却した原判決は何れも法令の解釈乃至適
用を誤つた違法があるというべきである。
 仍て民訴法四〇五条、四〇八条一号、九六条、八九条を適用し裁判官全員の一致
により主文の通り判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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