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平成23年12月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10090号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年12月15日
判決
原告シェブロン・オロナイト
カンパニー・エルエルシー
同訴訟代理人弁理士柳川泰男
松島一夫
荻野彰広
被告特許庁長官
同指定代理人中川隆司
伊藤元人
新海岳
板谷玲子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのた
めの付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2009-21235号事件について平成22年11月2日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記
2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成
り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとお
り)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,平成15年1月22日,発明の名称を「往復内燃機関の内部エン
ジン堆積物を除去するための供給装置」とする特許を出願した(特願2003-5
62470。パリ条約による優先権主張日:平成14年(2002年)1月23日
(アメリカ合衆国),同年11月6日(アメリカ合衆国)。請求項の数20)。
原告は,平成21年6月29日付けで拒絶査定を受け,同年11月2日,これに
対する不服の審判を請求した。
(2)特許庁は,これを不服2009-21235号事件として審理し,平成2
2年11月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その
審決謄本は,同月12日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
本件審決が判断の対象とした特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおり
である。以下,特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本願発明」といい,
本願発明に係る明細書(甲1,9)を,図面を含めて「本願明細書」という。
運転中の往復エンジン装置の内部表面に洗浄液を投与するための,往復エンジン
の空胴部の内部に,アクセスポートを通って配置できるように適合化された処理用
マニホールドと液体的に連絡している長尺導管を有する装置であって,該処理用マ
ニホールドが,貫通している内腔と,洗浄を要する該エンジンの内部表面に液体を
供給するように導くオリフィスを持つ少なくとも一個の可動性端部とを有し,アク
セスポートの位置に無関係にオリフィスの位置決めができるような充分な長さがあ
る処理用マニホールドであり,そして該処理用マニホールドの周囲に備えられ,処
理用マニホールドと連携して該エンジンのアクセスポートに着脱可能に係合するこ
とのできる封止部材を含む装置
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記ア及びイの引用例1及び
2に記載された発明並びに下記ウ及びエの周知例1及び2に記載された周知技術に
基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開2001-295662号公報(甲3)
イ引用例2:特開平10-61456号公報(甲4)
ウ周知例1:実願昭58-21163号(実開昭59-126147号)のマ
イクロフィルム(甲12)
エ周知例2:特開2000-213367号公報(甲13)
(2)なお,本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明
1」という。)並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおり
である。
ア引用発明1:4気筒の筒内噴射式エンジンの吸気ポートの最深部内壁にデポ
ジット洗浄用清浄剤を噴射するための,4気筒の筒内噴射式エンジンの吸気ポート
の内部に,作業孔を通って配置できるように適合化されたストロー部材と液体的に
連絡しているホースを有する洗浄装置であって,該ストロー部材が,貫通している
内腔と,洗浄を要する該4気筒の筒内噴射式エンジンの吸気ポートの最深部内壁に
液体を供給するように導く噴射口を持つ変形可能な先端部とを有し,充分な長さが
あるストロー部材である洗浄装置
イ一致点:往復エンジン装置の内部表面に洗浄液を投与するための,往復エン
ジンの空胴部の内部に,アクセスポートを通って配置できるように適合化された処
理用マニホールドと液体的に連絡している長尺導管を有する装置であって,該処理
用マニホールドが,貫通している内腔と,洗浄を要する該エンジンの内部表面に液
体を供給するように導くオリフィスを持つ少なくとも一個の可動性端部とを有し,
充分な長さがある処理用マニホールドである装置
ウ相違点1:本願発明においては,装置が「運転中の」往復エンジン装置に洗
浄液を投与するものであるのに対して,引用発明1においては,洗浄装置が4気筒
の筒内噴射式エンジンの「運転中」にデポジット洗浄用清浄剤を噴射するかどうか
かが明らかでない点
エ相違点2:本願発明においては,装置が処理用マニホールドの周囲に「封止
部材」を有するのに対して,引用発明1においては,洗浄装置がストロー部材の周
囲に「封止部材」を有しない点
オ相違点3:本願発明においては,「処理用マニホールド」が「アクセスポー
トの位置に無関係にオリフィスの位置決めができるような充分な長さがある」のに
対して,引用発明1においては,ストロー部材は,「充分な長さ」はあるものの作
業孔の位置に無関係に噴射口の位置決めができるようなものであるかが明らかでな
い点
(3)また,本件審決が認定した引用例2に記載された発明(以下「引用発明
2」という。)は,次のとおりである。
自動車エンジンをかけながら自動車エンジンの吸気系統内部の表面に洗浄剤を注
入・噴射するための,自動車エンジンのエアダクトの内部に,接続パイプを通って
配置できるように適合化された専用ノズルと液体的に連絡しているチューブを有す
る装置であって,専用ノズルと連携して該自動車エンジンの接続パイプに着脱可能
に固定することのできる栓を含む装置
4取消事由
本願発明の進歩性に係る判断の誤り
(1)引用発明1の認定の誤り
(2)引用発明2の認定の誤り
(3)相違点に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)引用発明1の認定の誤りについて
ア引用発明1の認定について
(ア)引用発明1の認定において,同発明の技術内容を正確に理解するためには,
引用例1の特許請求の範囲に係る記載を考慮する必要があったにもかかわらず,本
件審決は,これを考慮しなかった。
特許法36条は,「特許請求の範囲」には,発明の必須要件を記載することを要
求し,明細書の「発明の詳細な説明」には,「特許請求の範囲」に記載した発明の
実施が可能になるような説明を記載することを要求するのであるから,「発明の詳
細な説明」の記載は,「特許請求の範囲」に記載された発明の説明であるというべ
きであって,「発明の詳細な説明」の記載を,「特許請求の範囲」に記載された発
明とは無関係に理解することはできない。「発明の詳細な説明」の記載の一部を取
り出し,「特許請求の範囲」に記載された発明の技術思想と矛盾する解釈を行うこ
とは許されない。
(イ)引用例1に記載された発明は,特許請求の範囲の記載から明らかなとおり,
「吸気系汚れ洗浄用清浄剤の噴射手段を挿入可能とした常閉の作業孔を吸気通路形
成部材に,好ましくは吸気ポートとの対向域近傍に,形成したことを特徴とする筒
内噴射エンジンの吸気通路構造」に係る発明である。
そして,この吸気通路構造で用いる噴射手段は,「可撓性を有するストロー状部
材で形成されることが良く,この場合,吸気通路形成部材が湾曲していてもその形
状に沿ってストロー状部材が変形してデポジットの堆積位置に容易に接近でき,直
接清浄剤を吹き付け,より確実にデポジットを洗浄できる」との効果を奏するもの
である(【0007】)。
(ウ)吸気通路構造を利用したデポジットの洗浄作業の際,作業者は,まず作業
孔を開放して噴射手段(ストロー部材)を差し込んで吸気路内に進入させ,最深部
内壁や吸気弁の傘部に接近配備後,加圧洗浄剤をストロー部材の先端部より高圧噴
射し,吸気ポートとの対向域,特にデポジットが堆積しやすい最深部内壁や吸気弁
の傘部を順次洗浄し,洗浄作業終了後,作業孔を閉鎖する。これら一連の作業は,
作業孔を開放した状態で,エンジンを停止した状態で行なわれる(【0016】)。
引用例1には,洗浄作業について,エンジンを運転状態で行うことの教示も示唆
も見られず,また,作業孔を開放した状態での運転の実施は,「非洗浄時である通
常時(注:運転時及び待機時を意味すると理解される)には,作業孔を常閉ビスの
ような蓋等で閉鎖する」(【0017】)との記載からしても,洗浄作業は運転停
止時に行われることを前提としているものということができる。
(エ)確かに,引用例1には,被告が指摘するとおり,デポジット洗浄用清浄剤
の噴射時期について明示した記載はないが,特許請求の範囲の請求項1には,吸気
系汚れ洗浄用清浄剤の噴射手段を挿入可能とした作業孔は,「常閉」であることが
明示されているものである。当該作業孔は,筒内噴射エンジンの運転中は閉じられ
ることが明らかであり,作業孔に清浄剤の噴射手段を挿入して洗浄作業を行う際に
は,この作業孔を開放状態としなければならないことは当然である。
また,引用例1の添付図面,「作業孔は吸気ポートとの対向域近傍に形成され
る」との請求項2の記載からも明らかなとおり,上記作業孔は,インテークバルブ
よりも下流側のエンジンのピストンに近接した位置に設けられているから,エンジ
ンの燃焼室に流入する空気量の調整を不可能にする孔部を開放状態にした状態でエ
ンジンの運転を行うことは,技術常識に反するものである。
被告は,周知例1からすると,エンジン運転中に洗浄作業を行うことは技術常識
であると主張するが,周知例1の洗浄作業は,単に吸気通路に設けられた注入口か
ら油差器等を利用して洗剤を注入するものにすぎず,非常に短時間での作業により
実施可能であるから,引用例1に記載された発明における「作業孔を介して噴射手
段を挿入し,その噴射手段から洗浄用清浄剤を噴射位置を定めて噴射する作業」と
比較すべきものではない。同発明において,洗浄作業をエンジンの「運転中」に行
うことは,整備工場で行なわれる場合であるか否かを問わず,エンジンの運転状態
の安定性が要求されるエンジン整備の技術常識を考慮すれば,実際にはあり得ない。
(オ)したがって,本件審決が,引用例1に記載された発明について,「洗浄装
置は,4気筒の筒内噴射エンジンの吸気ポートの最深部内壁にデポジット洗浄用清
浄剤を噴射するためのもの」であるとした認定は不正確であって,正しくは,「洗
浄装置は,4気筒の筒内噴射エンジンの運転を停止した状態で,その吸気ポートの
最深部内壁にデポジット洗浄用清浄剤を噴射するためのもの」と認定すべきである。
以上からすると,本件審決の引用発明1の認定は,誤りである。
イ一致点及び相違点の認定について
前記(1)ア(オ)のとおり,引用例1に記載された発明は,エンジンの運転停止時
に洗浄作業を行うことが前提とされているものということができるから,本件審決
の一致点及び相違点の認定はいずれも誤りである。
少なくとも,相違点1については,正しくは以下のとおり認定されるべきである。
本願発明においては,装置が「運転中の」往復エンジン装置に洗浄液を投与する
ものであるのに対して,引用例1に記載された発明においては,洗浄装置が4気筒
の筒内噴射式エンジンの「運転を停止した状態」でデポジット洗浄用清浄剤を噴射
する点
(2)引用発明2の認定の誤りについて
ア引用発明2の認定において,同発明の技術内容を正確に理解するためには,
引用例2の特許請求の範囲に係る記載を考慮する必要があったにもかかわらず,本
件審決は,これを考慮しなかった。
イ引用例2に記載された発明は,特許請求の範囲の記載(「スロットルチャン
バーとエアクリーナーとの間に設けられたエアダクトに,ブローバイガスを吸気系
統へ戻すためのブローバイホースが接続された部分から,専用のノズルを用いて洗
浄剤をスロットルチャンバー内部へ」(【請求項1】)「専用のノズルを用いてエ
アフローメータ上部の金網を通してエアフローメータを通り過ぎた位置からスロッ
トルチャンバー内部へ」(【請求項2】))の記載から明らかなとおり,吸気系統
のスロットルチャンバーの内部で,かつ,スロットルバルブの上流側に洗浄液を注
入ないし噴射することを要件とする発明である。
引用例2の,「エンジンをかけながら洗浄剤をエアダクト内に注入・噴射後は,
排煙がなくなるまで断続的に空ふかしを行ない,エンジン内部に残った洗浄剤を燃
焼させて終了する。」「このようにセットして,噴射された洗浄剤は直接スロット
ルバルブ及びその周辺を洗浄し,さらにスロットルバルブよりも下流域のインテー
クマニホールドに対しても洗浄効果を示す。」との記載(【0019】【002
0】)からすると,引用例2に記載された発明は,エンジンを運転させながら洗浄
操作を行うことを前提とする方法であるというべきである。実際,エンジンを停止
した状態で洗浄を行った場合,スロットルバルブの直接的な洗浄やその下流域の洗
浄は不可能であるから,引用例2に記載された発明は,いずれもエンジンを運転さ
せながら洗浄操作を行うことが必須となるものである。
ウ引用例2の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は,洗浄剤の噴射口
を備えたノズルは,エアダクトのブローバイホース接続パイプにシリコンゴム等か
らなる栓を介して装着されているが,この栓は,ノズルを接続パイプに固定するた
めに設けられたものであって,封止を目的とするものではない。引用例2の請求項
2に記載された発明では,「エンジンをかけた状態での洗浄剤の注入・噴射」は,
エアクリーナーの上蓋を外した状態で行うことが明記されているから,専用ノズル
周囲の封止は必要がない。したがって,引用例2は,封止のための栓に係る構成に
ついては開示されていないものというべきである。
エ以上からすると,本件審決の引用発明2の認定は誤りであって,正しくは,
「自動車エンジンをかけながら自動車エンジンのスロットルチャンバーのスロット
ルバルブの上流側に洗浄剤を注入・噴射するための,自動車エンジンのエアダクト
の内部に,接続パイプを通って配置できるように適合化された専用ノズルと液体的
に連結しているチューブを有する装置であって,栓(但し,必ずしも封止部材を意
味しない)を含む装置」と認定すべきである。
なお,被告が主張するとおり,本件審決が,引用例2の図1に記載された発明,
すなわち請求項1に記載された発明に限定して引用発明2を認定したのであれば,
同発明では,洗浄剤の注入・噴射用のノズルは,吸気系統のスロットルバルブより
も上流側に挿入されるのであるから,この点において,引用例1に記載された発明
における洗浄用清浄剤の噴射用のストロー部材の挿入位置である,スロットルバル
ブよりも下流側でエンジンの燃焼室に近接した位置とは明らかに異なるものである。
したがって,引用例1に記載された発明と,引用発明2とでは,洗浄作業を行う
時期の相違点(エンジン停止中か運転中か)に加えて,洗浄作業に用いる洗浄剤噴
射具の挿入位置に係る相違点も明確となるから,引用例1に記載された発明に引用
例2に記載された発明を適用する動機は更に薄弱となるものというほかない。
(3)相違点に係る判断の誤りについて
ア相違点1について
前記のとおり,引用例1に記載された発明は,エンジンの運転停止時に洗浄操作
を行うことを前提としているものというべきであるから,同発明の技術思想である
吸気通路構造を利用する洗浄操作に,異なる技術思想に基づく引用例2に記載され
た発明の洗浄操作を適用する動機は存在しない。
したがって,相違点1に係る本件審決の認定は誤りである。
イ相違点2について
(ア)引用例1に記載された発明は,吸気ポートや吸気バルブに堆積したデポジ
ットを確実に除去するために有効な吸気系統内に作業孔を形成したエンジンの吸気
通路構造に関する発明であって,その洗浄操作は,作業孔を通して洗浄液噴射手段
をデポジットに近接する位置に洗浄液噴射口が位置するように挿入配置し,エンジ
ンの停止状態で行うものである。
同発明が洗浄除去の対象とする燃焼室に付設されている弁(バルブ)周辺の汚れ
は,ガソリンなどの炭化水素燃料の燃焼物(スス)と潤滑油の燃焼物との混合物で
あって,通常デポジットと呼ばれる堆積物であり,弁や弁周辺の部材に強固に固着
する堆積物である。このため,同発明では,わざわざ燃焼室に近い位置に開口する
作業孔を設け,その作業孔を通してストロー状の洗浄液噴射手段を挿入して噴射手
段の先端部(噴射部)をデポジットに近接配置させて,洗浄液を直接デポジットに
向けて噴射できるような工夫がされているものである。
これに対し,引用例2に記載された発明は,洗浄液噴射手段を既設のブローバイ
ホースの接続パイプを利用してスロットルチャンバーのスロットルバルブの上流側
に配置し,洗浄液(洗浄剤)噴射手段をエンジンの運転状態にて作動させて,スロ
ットルチャンバー内に洗浄液を注入ないし噴霧し,これにより洗浄液をスロットル
チャンバー及びその周辺に吹きかけ,次いで,洗浄液の蒸気を,運転中のエンジン
により吸気系統内に生成する吸気状態を利用して吸気系統のスロットルバルブの下
流側にも流通させて,下流域にある通気系統のインテークマニホールドの洗浄をも
行うものである。同発明が洗浄除去の対象とするのは,主としてスロットルバルブ
及びその周辺部に汚れとして付着した,外気から吸気系統に取り入れられた空気に
浮遊していたゴミなどの汚染物質にすぎず,これらが堆積物として強固に固着して
いるものではない。しかも,吸気系統のスロットルバルブの上流位置には,様々な
開口部があらかじめ形成されているから,それらを利用して洗浄液の注入ないし噴
射を行うことについて,特に困難な点はない。
(イ)上記各発明は,いずれも広い意味においてエンジン吸気系の付着物の洗浄
という技術分野に属する発明ではあるが,洗浄液が適用(注入ないし噴射)される
吸気系統中の具体的な位置,洗浄液により主に洗浄されるべき吸気系統部材及び除
去対象物,洗浄操作条件(運転中あるいは運転停止中)のいずれにおいても相違す
るから,技術思想において根本的に異なる発明というべきである。しかも,前記の
とおり,引用例2に記載された発明における栓は,「封止部材」である必然性はな
く,「封止部材」と同一視することはできないところ,本願発明の処理用マニホー
ルドが備える封止部材は,エンジンの運転状態で作動させるために必須の部材であ
るから,本願発明における係合部材は,「封止部材」であることが必要である。
したがって,引用例1に記載された発明と引用例2に記載された発明とを,それ
ぞれ発明の基礎となる技術思想の根本的相違を無視して,いずれもエンジン吸気系
の付着物の洗浄という技術分野に属する発明として認定した上で,引用例1に記載
された発明に,引用例2に記載された発明の栓を適用することは容易であるとした
本件審決の判断は誤りである。
ウ相違点3について
(ア)引用例1に記載された発明における「ストロー部材」は,あらかじめ定め
られた長さを有し,その先端部の位置は,噴射ガンの位置により規定されるのに対
し,本願発明の「処理用マニホールド」は,「アクセスポートの位置に無関係にオ
リフィスの位置決めができるような充分な長さがあり,そして処理用マニホールド
の周囲に,該処理用マニホールドと連係して該エンジンのアクセスポートに着脱可
能に係合することのできる封止部材を含む」部材であり,アクセスポート(既設の
ポート(開口)に限らず,新たに設けたポートであってもよいことは,本願明細書
の【0029】に記載されている。)の位置が限定されていないことは明らかであ
る。
本願発明における「処理用マニホールド」は,このような構成により,1本の処
理用マニホールドの封止部材の位置を移動させれば,マニホールドの固定位置とマ
ニホールドの先端のオリフィスの洗浄液噴射口との距離を任意に変えることができ
るため,エンジンに備えられた複数の長さが同一若しくは異なる吸気系統の任意な
位置に備えられた,あるいは形成されたアクセスポートから所望の洗浄液噴射位置
まで洗浄液を輸送することが可能となるものである。
(イ)本件審決は,何らの根拠を示さずに,引用例1に記載された発明のストロ
ー部材が作業孔の位置に無関係に噴射口の位置決めができるようなものとすること
は当業者が適宜なし得る程度の設計的事項にすぎないと判断するが,本願発明の特
定の構成を有する「処理用マニホールド」の作用効果を考慮すれば,本件審決の判
断が不当であることは明らかである。
エ小括
以上からすると,本願発明は,引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができるものということはできない。
(4)本件審決は,以上のとおり,引用例1及び2に記載された発明の認定を誤
り,本願発明の進歩性を否定したものであって,取消しを免れない。
〔被告の主張〕
(1)引用発明1の認定の誤りについて
ア引用発明1の認定について
(ア)引用例1は,特許公開公報であるから,特許請求の範囲についての記載を
含むものであるが,引用例1に記載された発明として,必ずしも特許請求の範囲の
記載に係る発明しか認定できないというものではなく,明細書及び図面の各記載か
ら,様々な発明を認定することができるものである。本件審決において,引用発明
1を認定する際,引用例1の特許請求の範囲の記載事項について摘示しなかったこ
とをもって,不当ということはできない。
(イ)引用例1には,原告が指摘する【0016】【0017】を含め,洗浄装
置が4気筒の筒内噴射式エンジンの「運転中」にデポジット洗浄用清浄剤を噴射す
るか,又は洗浄装置が4気筒の筒内噴射式エンジンの「運転を停止した状態」でデ
ポジット洗浄用清浄剤を噴射するかという,デポジット洗浄用清浄剤の噴射時期に
ついて明示した記載はない。
周知例1において,「洗剤は機関運転中に上記注入孔から,例えば油差器等を利
用して規定量注入される。」と記載されているとおり,本願発明の優先日(以下
「本件優先日」という。)当時の技術水準として,エンジンの吸気通路を洗浄する
際,エンジンの運転中に,作業孔を開放したままの状態で,洗浄液の噴射を行うこ
とが行われていたものである。
また,引用例1における「非洗浄時である通常時」(【0017】)との記載は,
原告が主張する「運転時及び待機時」を意味するものではない。
(ウ)引用例1【0016】には,一般の運転者とは異なり,熟練者たる整備工
場の作業者が,デポジット洗浄用清浄剤の噴射を行う部材である噴射ガンのストロ
ー部材を吸気弁の傘部に接近配備する作業を行う旨が記載されており,さらに,引
用例2において,エンジンの運転中に弁等の動作部材に対して洗浄剤の投与を行う
部材を接近配備することが開示されていることなどを考慮すれば,引用例1に記載
された発明において,デポジット洗浄用清浄剤のストロー部材からの噴射が熟練者
によって4気筒の筒内噴射式エンジンの「運転中」に上下動する吸気弁に接触しな
い程度で行われることは十分想定し得ることである。往復エンジン装置の吸気弁の
上下動の大きさは,約4ないし6mmとされている(乙1)から,引用例1に記載
された発明における噴射ガンのストロー部材の最深部内壁や吸気弁の傘部への接近
配備によるデポジット洗浄用清浄剤の噴射について,4気筒の筒内噴射式エンジン
の「運転中」に行われることが除外されるものではない。
(エ)したがって,引用例1に記載された発明が,エンジンの運転停止時に洗浄
作業を行うことを前提としているものということはできない。
以上からすると,本件審決の引用発明1の認定に誤りはない。
イ一致点及び相違点の認定について
本件審決における引用発明1の認定に誤りはないから,本願発明と引用発明1と
の一致点及び相違点の認定も,同様に誤りはない。
(2)引用発明2の認定の誤りについて
ア本件審決において,引用発明2を認定する際,引用例2の特許請求の範囲の
記載事項について摘示しなかったことをもって,不当ということはできないことは,
引用発明1について先に述べたとおりである。
イ引用例2【0020】の記載からすると,引用例2の実施形態(図1)は,
吸気系統内部を洗浄するものということができるところ,スロットルバルブも,当
然,吸気系統内部に存在するものである。
したがって,本件審決が,引用発明2として,「自動車エンジンをかけながら自
動車エンジンの吸気系統内部の表面に洗浄剤を注入・噴射するための,自動車エン
ジンのエアダクトの内部に,接続パイプを通って配置できるように適合化された専
用ノズルと液体的に連絡しているチューブを有する装置であって」と認定したこと
に,誤りはない。
また,引用例2【0020】の「代わりに,図1に示すように専用ノズルを栓を
介してエアダクト内に挿入し,」「専用ノズルには図1に示すように,ノズルの挿
入方向から直角方向に噴射するように噴射口が設けられており,この噴射口をスロ
ットルバルブへ向けてシリコンゴム等の栓で固定させる。」との記載からすると,
専用ノズルは栓と連携していること,栓は自動車エンジンの接続パイプに着脱可能
に固定できることは明らかである。
したがって,本件審決が,引用発明2として,「専用ノズルと連携して該自動車
エンジンの接続パイプに着脱可能に固定することのできる栓を含む装置」と認定し
たこともまた,誤りはない。
ウ広辞苑(乙2)によると,「栓」の字義は,「①物の穴に差込んで,その物
が動かぬようにする物。②物の口に差込んで中身の漏れ出ぬようにするもの。」で
あるから,一般的に,「栓」の設置目的は,上記①のように「栓」自体が動かなく
なるようにする「固定」であるか,上記②のように「栓」の差込まれた口の内部と
外部との流体の移動を遮断する「封止」であるか,あるいは,上記①及び②の目的
を兼ね備えたものであるということができる。
また,一般に,スロットルバルブは,外気をエンジンの内部に吸気させるために
負圧(真空)に調整される管路内の空気を制御する目的で設けられるものであると
ころ,引用例2において洗浄の対象となっているスロットルバルブも同様である。
スロットルバルブの近傍に開口部を形成する場合,当該部位を介して外気が内部に
導入されないようにするのは当然で,引用例2に記載された発明における「栓」は,
ノズルの「固定」のみならず,外気を遮断するための「封止」を目的として設けら
れていることは明らかである。しかも,上記「栓」は,シリコンゴム等を素材とす
るものであるから,「封止」の作用を有しないと解することはむしろ不自然である。
なお,原告は,引用例2の図2の実施形態では,専用ノズル周囲の封止が不要で
あることをもって,本件審決における引用発明2の認定は誤りであると主張するが,
本件審決は,引用例2の図1の実施形態に基づいて引用発明2を認定しているので
あって,図2の実施形態に係る記載を前提とする原告の主張は失当である。
以上からすると,本件審決の引用発明2の認定に誤りはない。
(3)相違点に係る判断の誤りについて
ア相違点1について
前記のとおり,引用例1に記載された発明は,エンジンの運転停止時に洗浄作業
を行うことを前提とするものではない。本件審決は,エンジンの「運転中」に洗浄
剤を噴射することが周知技術であることから,引用発明1において除外されていな
い,4気筒の筒内噴射式エンジンの「運転中」という噴射時期を選択することが容
易であると判断したものである。
したがって,相違点1に係る本件審決の判断に誤りはない。
イ相違点2について
(ア)引用例1に記載された発明と引用例2に記載された発明は,洗浄液が適用
される吸気系統中の具体的な位置や洗浄液により主に洗浄されるべき吸気系統部材
が異なるものの,いずれもエンジンの吸気系の付着物の洗浄に関する発明である。
そして,吸気系の付着物を洗浄する場合,特定の位置,部材に存在する付着物の
みを洗浄するだけでなく,様々な位置,部材に存在する付着物を洗浄しようと発想
するのが自然である。
したがって,エンジンの吸気系の付着物を洗浄することに関する引用例2に記載
された発明を,引用例1に記載された発明に適用することは,当業者が通常行う創
作行為であるというべきである。また,当業者がこのような適用を行う際,装置の
構造上,格別それが技術的に困難であるとする事情もない。
(イ)引用例2に記載された発明における「栓」が「封止部材」として機能する
ことは,先に述べたとおりである。
また,原告は,マニホールドがスロットルバルブの下流側に存在する場合につい
ても主張するが,本願発明の発明特定事項に対応した主張ではなく,失当である。
(ウ)以上からすると,相違点2に係る本件審決の判断に誤りはない。
ウ相違点3について
(ア)本願発明の発明特定事項からすると,処理用マニホールドと長尺導管が液
体的に連絡しており,処理用マニホールドの周囲に封止部材が備えられていること
は明らかであるが,直ちに封止部材が処理用マニホールド上で位置を移動できると
解することはできない。むしろ,本願明細書の【0028】【0040】の各記載
や,処理用マニホールドと長尺導管とが液体的に連絡されるものである以上,両者
の接続を内部の流体(処理液)が外部に漏れ出さないようにその接続部の周囲に何
らかの封止手段を配する必要があることが技術常識であることからすると,本願発
明における封止部材は,処理用マニホールドと導管とが接続される部位の周囲に配
置されているものと解される。封止部材の位置が移動できるので,マニホールドの
固定位置とオリフィスの位置を任意に変えられる旨の原告主張は,本願発明の発明
特定事項及び本願明細書の記載に基づかない主張である。
(イ)相違点3に係る本願発明の発明特定事項は,処理用マニホールドの長さは
洗浄を要するエンジンの内部表面に液体を供給できるものでなければならない,と
いう当業者にとって自明の事項を表現したものにすぎない。
そして,引用例1に記載された発明における「ストロー部材」についても,処理
をする対象物の位置に対応できるように「充分な長さ」を確保すべきであることは
自明の事項であるから,その「充分な長さ」として「作業孔の位置に無関係に噴射
口の位置決めができるような」ものとすることは,当業者が適宜なし得る程度の設
計的事項にすぎないものというべきである。
(ウ)したがって,相違点3に係る本件審決の判断に誤りはない。
エ小括
以上からすると,本願発明は,引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができるものというべきである。
(4)本件審決の引用発明1及び2の認定,一致点及び相違点の認定並びに本願
発明の進歩性に係る判断には,以上のとおり,何らの誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本願発明について
(1)本願明細書の記載
本願明細書(甲1,9)の記載によると,本願発明の技術内容は以下のとおりで
ある。
ア本願発明は,往復内燃機関(エンジン)の内部空間内の所望の位置に洗浄用
組成物を供給するための装置に関する発明であり,少なくとも1つの洗浄対象の内
部表面を有する往復内燃機関の内部空間内の1以上の特定の位置に,洗浄用組成物
を制御しながら供給することを可能にする装置及び注入器具に関する発明である
(【0001】)。
イ往復内燃機関において,炭化水素燃料の酸化や重合,排気ガス再循環(EG
R),ブローバイガス還流(PCV)ガスにより,機関構成部分の表面に炭素堆積
物が形成されがちであることはよく知られており,少量の堆積物であっても,しば
しば失速や不十分な加速,エンジン性能の損失,燃費の悪化及び汚染排気ガスの発
生増加を含む運転性の問題等,著しい運転性能上の問題を発生させる。
堆積物の形成を防ぐために,燃料を基材とする清浄剤及び他の添加剤パッケージ
が,主としてガソリン燃料で開発されているが,従来の添加剤及びその供給装置で
は,特に燃料入口に先駆的に存在する重質堆積物や上流の堆積物を完全に除去する
ことはできない。また,燃料に高濃度の清浄剤や添加剤を使用することも試みられ
ているが,清浄添加剤を洗浄が必要な部分に接触させなければならないという問題
がある(【0002】【0003】)。
さらに,特定のエンジンでは,吸気方式によって特に問題となる堆積物形成領域
がある。例えば,ポート燃料噴射火花点火式機関,直接噴射火花点火式機関及び多
数のディーゼル機関では,燃料に清浄剤を使用しても,エンジン上流空気流部分に
は堆積物が残存する。清浄剤を用いても,吸気弁等のエンジン構成部分には,更な
る洗浄操作が必要となる。このような燃料系統では,一般的に,洗浄液をキャリブ
レータに直接適用し,開放状態のスロットル又は燃料噴射系統の吸気マニホールド
に注入して洗浄剤を燃焼のための空気及び燃料と混合させ,次いで燃焼用混合物を
燃焼過程で燃焼させる方法が用いられるが,洗浄剤の大部分は,最も抵抗の少ない
経路を通ってエンジンの最も近い燃焼室に到達するため,往々にして十分な分配が
できず,幾つかのシリンダではほとんど洗浄されない結果となる。そのため,非エ
アゾール型の洗浄液を,運転中のエンジンに,その真空系を利用して注入する方法
も用いられるが,多数の吸気ランナー,吸気弁等に洗浄剤を十分に分配することは
困難である。吸気マニホールドフロア,プレナムフロア又は共鳴室がエンジンの燃
焼室よりも低い位置に存在するエンジンの場合,洗浄液がそれらの領域に滞留する
傾向がある。仮に,過剰量の液体が燃焼室に供給された場合,流体固着やエンジン
停止,エンジン損傷が発生するおそれがある(【0004】~【0006】)。
ウ本願発明は,往復内燃機関の空間内の各種位置に対して,エンジンの運転中
に洗浄剤組成物を注入するための装置及び注入器具であり,往復機関内のエンジン
堆積物の急速な除去を可能にするものであって,ガソリン,ディーゼル,天然ガス
内燃機関の様々なタイプのエンジンに適用できるものである。特に吸気マニホール
ド内部に装着するのに適しており,暖機運転や運転中の内燃機関における洗浄対象
の別々の内部表面に洗浄用組成物を供給するのに使用され,それにより炭素質堆積
物を取り除くものである(【0008】【0009】)。
エ本願発明の,往復内燃機関における内部空間内の所望の位置に洗浄用組成物
を供給するための装置は,機関アクセスポートとは無関係の特定の内部位置に位置
決めできる少なくとも1個のオリフィスを有する。
本願発明の1つの態様として,往復エンジン装置の内部表面に洗浄液を投与する
ため,往復エンジンの空胴部の内部に,アクセスポートを通って配置できるように
適合化された処理用マニホールドと液体的に連絡している長尺導管を有する装置で
あって,処理用マニホールドが,貫通している内腔と,洗浄を要するエンジンの内
部表面に液体を供給するように導くオリフィスを持つ少なくとも1個の可動性端部
とを有し,アクセスポートの位置に無関係にオリフィスの位置決めができるような
充分な長さがある処理用マニホールドであり,処理用マニホールドの周囲に備えら
れ,処理用マニホールドと連携してエンジンのアクセスポートに着脱可能に係合す
ることのできる封止部材を含む装置が挙げられる(【0010】【0011】)。
本願発明は,洗浄用組成物について,堆積物に極めて近接して位置決めできる内
部供給を可能にし,吸気系統の堆積物,特に吸気弁堆積物等を往復内燃機関内で有
効に除去することができるものであり,従来のガソリン機関内,特に直接噴射火花
点火式ガソリン機関における特定の内部堆積物の除去に適しているが,ディーゼル
機関,天然ガス機関等の代替燃料機関に対しても適用可能であって,特定の部類の
エンジン機関に適用範囲が限定されるものではない(【0014】【0015】)。
(2)本願発明の技術内容
以上の本願明細書の記載によると,本願発明は,往復内燃機関(エンジン)の内
部空間内の所望の位置に洗浄用組成物を供給するための装置に関する発明である。
吸気弁等の炭素堆積物は,エンジン性能の損失等を生じさせるため,これを除去
するために燃料に清浄剤を添加することが行われるが,この方法では燃料供給部の
上流等が清浄できないほか,洗浄が必要な部分に十分に分配できないが,吸気側に
エアゾール洗浄液を供給し,洗浄後に燃焼させる方法も,各所に十分分配できない
し,液体では,蓄積,滞留によるエンジン損傷等の問題も生じるおそれがある。
本願発明では,アクセスポートを通して配置可能で,アクセスポートの位置と関
係なくオリフィスの位置決めができるように構成された処理用マニホールドを,封
止部材によりアクセスポートに着脱可能に係合することにより,エンジンを運転し
ながら,燃料供給系統とは無関係に,燃焼空気又は他の外的手段を用いることなく,
滞留を低減しつつ,洗浄用の液体を供給することが可能であり,短時間で効果的な
清浄を行うことができるものである。
2引用発明1の認定の誤りについて
(1)引用例1の記載
ア引用例1(甲3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
(ア)引用例1の特許請求の範囲は,以下のとおりである。
【請求項1】吸気系汚れ洗浄用清浄剤の噴射手段を挿入可能とした常閉の作業孔を
吸気通路形成部材に形成したことを特徴とする筒内噴射エンジンの吸気通路構造
【請求項2】請求項1記載の筒内噴射エンジンの吸気通路構造において,上記作業
孔は吸気ポートとの対向域近傍に形成されることを特徴とする筒内噴射エンジンの
吸気通路構造
(イ)引用例1に記載された発明は,燃焼室に直接燃料噴射する筒内噴射エンジ
ンの吸気通路構造,特に,吸気通路にエンジンの排出ガスやブローバイガスを還流
するようにした筒内噴射エンジンの吸気通路構造に関する発明である。
排ガス制御装置を設けたエンジンの場合,吸気路上の吸気ポートや吸気バルブに
排ガスやオイル及び炭化水素(HC)の蒸発成分からなるデポジットが徐々に堆積
することによって吸気の流れを阻害し,運転性が悪化する傾向がある。この場合,
ポート噴射式の燃料噴射装置を用いるエンジンでは,燃料や清浄剤混入の燃料を吸
気ポートに直接噴霧することにより,デポジットの付着抑制が可能であるが,吸気
バルブに付着するデポジットのより積極的な除去方法としては,インジェクタの燃
料を開弁中の吸気弁に吹きかけるという技術がある(【0001】【0002】)。
(ウ)筒内噴射エンジンを用いた場合,吸気ポート側には燃料噴霧されないため,
吸気通路に堆積したデポジットを燃料や清浄剤混入の燃料で洗浄することはできず,
吸気通路内壁に堆積したデポジットを排除するには,適時に吸気系を分解した上で
吸気通路内壁を洗浄するという多大な作業工数と作業時間を要する作業が必要とな
る。また,従来技術は,燃料を吸気弁に吹きかけるものにすぎず,吸気ポートの内
壁に堆積するデポジットを除去することはできない。しかも,燃料噴霧が吸気行程
中の吸気バルブの一部に常に当たることにより,噴霧の燃料拡散特性が損なわれる
こと,インジェクタの取付け位置が限定されること等の問題点が存在した。
そこで,引用例1に記載された発明は,吸気系を分解することなく,吸気ポート
や吸気バルブ等の吸気通路内壁に堆積したデポジットを確実に除去することができ
る筒内噴射エンジンの吸気通路構造を目的とする(【0003】【0004】)。
(エ)引用例1に記載された発明は,4気筒の筒内噴射式エンジンの吸気ポート
の最深部内壁にデポジット洗浄用清浄剤を噴射するための,吸気ポートの内部に作
業孔を通って配置できるように適合化されたストロー部材と液体的に連絡している
ホースを有する洗浄装置に関する発明である。当該ストロー部材は,貫通している
内腔と,洗浄を要する吸気ポートの最深部内壁に液体を供給するように導く充分な
長さを有するとともに,その先端部は噴射口を有し,変形可能である。
吸気系汚れ洗浄用清浄剤の噴射手段を挿入可能とした常閉の作業孔が,エンジン
の吸気通路形成部材に形成されている。当該作業孔を開放した上で,吸気系汚れ洗
浄用清浄剤の噴射手段を差し込み,吸気通路形成部材の内部に端部から直接清浄剤
を吹き付け,吸気ポートや吸気弁に堆積するデポジットを確実に洗い取ることがで
きるため,エンジンのシリンダヘッド側に配設された吸気系に関連する種々の部品
を分解する必要はない。非洗浄時である通常時には,作業孔を蓋等で閉鎖するとい
う簡素な構成を採用することにより,コスト増も抑えることができる。作業孔を吸
気ポートとの対向域近傍に形成すると,作業孔から差し込む噴射手段を最もデポジ
ットの堆積しやすい吸気ポートや吸気弁の近傍に容易に対向させることができ,同
部に堆積するデポジットを吸気系汚れ洗浄用清浄剤の噴射で確実に洗浄排除する作
業を容易に行うことが可能となる。
作業者は,常閉ビスを外向膨出部より外し,作業孔を開放する。次いで,噴射ガ
ンのストロー部材を作業孔に差し込み,その先端部を湾曲した吸気路内に徐々に進
入させ,最深部内壁や吸気弁の傘部に接近配備し,更に,噴射ガンのハンドルの本
体側への引込み操作により開閉弁をバネの閉弁力に抗して開放作動させる。これに
より,清浄剤加圧部の加圧洗浄剤がホース及び噴射ガンを通してストロー部材の先
端部より高圧噴射され,吸気ポートとの対向域,特に,デポジットが堆積しやすい
最深部内壁や吸気弁の傘部を順次確実に洗浄排除することができる。洗浄処理後に
は,常閉ビスが外向膨出部の内螺子に螺着され,通常時に同部を閉鎖することがで
きる。吸気ポートとの対向域に残存するデポジット及び燃料からなる廃液は,エン
ジン駆動時に燃焼排除される。吸引装置で吸引排除してもよい(【0005】【0
006】【0010】【0012】【0016】【0017】【図1】【図2】)。
イ引用例1に記載された発明の技術内容
以上の引用例1の記載によると,引用例1に記載された発明は,4気筒の筒内噴
射式エンジンの吸気ポートの最深部内壁にデポジット洗浄用清浄剤を噴射するため
に,吸気ポートの内部に作業孔を設け,当該作業孔から洗浄を要する吸気ポートの
最深部内壁に洗浄剤を供給するために必要な長さを有するストロー部材等を備える
洗浄装置に関する発明であるということができる。
(2)周知技術について
ア周知例1(甲12)は,内燃機関の吸気経路に係る考案に関する文献である
ところ,同文献には,ディーゼル機関の吸気系統の吸気ポートの内周面等に付着し,
堆積した油やゴミ等を除去するために,吸気経路内洗浄用洗剤注入機構を吸気マニ
ホールド主管の入口部の近傍に形成し,機関運転中に洗剤を注入することにより,
洗剤が吸気の流れによってマニホールド主管の内周面に拡がり,付着物を除去する
技術が開示されている。
イ周知例2(甲13)は,自動車用エンジンの吸気系統及び燃焼室の洗浄方法
に係る発明に関する文献であるところ,同文献には,長期間の使用によりディーゼ
ル自動車エンジンの吸気系統及び燃焼室に付着した油汚れ,カーボン,ごみ等を除
去するため,インテークマニホールドとエアクリーナーとの間に設けられたエアダ
クトをインテークマニホールドより外し,エンジンをかけた状態でインテークマニ
ホールド入口より内部に向けて,洗浄剤を微細でかつインテークマニホールド内部
に均一に広がるような広がりをもった霧状で注入することにより,洗浄液がインテ
ークマニホールド内部,更には燃焼室を洗浄後,燃焼される技術が開示されている。
ウ引用例2(甲4)は,本件審決において周知例としても摘示されており,自
動車エンジンの吸気系統の洗浄方法に係る発明に関する文献であるところ,同文献
には,後記3で詳述するとおり,自動車エンジンのエアダクトの内部において,接
続パイプを通って配置できるように適合化された専用ノズルと液体的に連絡してい
るチューブとを有する装置によって,自動車エンジンをかけながら吸気系統内部の
表面に洗浄剤を注入ないし噴射し,スロットルチャンバー及びその他の吸気系統内
部を洗浄する技術が開示されている。
エ以上からすると,本件優先日前において,エンジンの吸気系統等に付着した
汚れ等を洗浄するために,エンジンの運転中において,洗浄剤を注入ないし噴射す
ることは技術常識であったと認められる。
(3)本件審決の引用発明1の認定の当否
ア前記(2)のとおり,本件優先日前において,エンジンの吸気系統等に付着し
た汚れ等を洗浄するために,エンジンの運転中において,洗浄剤を噴射することは
技術常識であったと認められるところ,引用例1に記載された発明において,エン
ジンを停止していない限り洗浄剤を噴射することができないとする事情も見当たら
ないことからすると,当業者が,エンジンの運転中に引用例1に記載された発明を
実施しようとすることが,排除されているとまでいえないことは明らかである。
したがって,本件審決が,引用例1に記載された発明について,「エンジンの運
転を停止した状態で」洗浄剤を噴射することについても認定しなかったことに,誤
りはない。
イこの点について,原告は,引用例1の特許請求の範囲に係る記載を考慮する
ことなく,引用例1に記載された発明を認定することは不当であると主張する。
しかしながら,特許請求の範囲に係る記載は,出願人が特許を受けようとする発
明について記載したものであって,引用例1を作成した出願人が,引用例1の他の
記載よりも重要なものと認識していたと推測されるものの,引用例1に記載された
発明は,引用例1により開示された技術内容に基づいて認定されるべきものであっ
て,特許請求の範囲の記載を考慮して限定的に理解すべき理由はない。審判手続に
おいて,引用例1に開示された技術事項全体から,引用発明1について必要な認定
を行うことができることは当然である。原告の主張は,失当である。
また,原告は,引用例1に記載された発明における洗浄作業は「常閉」である作
業孔を開放した状態で行なわれるから,エンジン停止状態で洗浄作業を行っている
ものと解すべきであるし,インテークバルブの下流側で開放状態で運転することは
むしろ技術常識に反するとも主張する。
この点,確かに,エンジン稼働中は密閉性が確保された状態であることが望まし
いことは技術常識であること,洗浄作業時に開放される作業孔は「常閉」とされて
いることからすると,引用例1に記載された発明は,エンジン停止中に洗浄作業を
行うことを想定しているものと解することが自然である。
しかしながら,前記のとおり,引用例1は,必ずしもエンジンを「運転」してい
る状態で,すなわち,洗浄作業の際,エンジンが「稼働」している状態で,洗浄剤
を噴射することを排除するものではない。また,洗浄作業においては,エンジンを
停止しなければその作業を行い得ないものではない。
そして,引用例1においても,洗浄作業後に残存する洗浄液等はエンジン稼働時
に燃焼させて除去するものであるから,周知例1及び2並びに引用例2により,エ
ンジンの「稼働中」に洗浄液を注入ないし噴射することが周知技術であると認めら
れる以上,当業者は,引用例1に記載された発明においても,エンジンの「稼働
中」における洗浄作業を試みるものと解することができるものである。
しかも,作業孔を開放した状態で洗浄剤を注入することや,作業孔を開放したま
ま洗浄を行うことは,周知例1においても行われており,洗浄作業終了後,作業孔
を塞いでエンジンを稼働させることは自明のことであるから,作業孔が常閉である
か否かは引用例1に記載された発明に係る認定を左右するものではないし,インテ
ークバルブの下流側において,開放状態でエンジンを稼働させることが技術常識に
反するということもできない。
さらに,原告は,周知例1は非常に短時間の作業で実施可能であるから,引用例
1に記載された発明と比較することはできないし,運転状態の安定性が前提となる
エンジン整備の技術常識からすると,引用例1に記載された発明をエンジンの稼働
状態において実施することはあり得ないとも主張する。
しかしながら,エンジン「稼働中」に洗浄液を注入ないし噴射することが周知技
術であると認められる以上,当業者は,引用例1に記載された発明においても,エ
ンジン「稼働中」における洗浄作業を試みるものと解することができることからす
ると,当該認定は,少なくとも作業時間の長短によって左右されるものではない。
また,本願発明においても,全ての作業をエンジンの稼働中に行っており,その
点に関して特段の技術手段に依存するものともされていないから,運転状態の安定
性が前提となるエンジン整備の技術常識からしてあり得ないということもできない。
したがって,原告の主張はいずれも採用できない。
ウ以上からすると,本件審決の引用発明1の認定に誤りはない。
(4)本件審決の一致点及び相違点の認定の当否
原告は,本件審決の引用発明1の認定が誤りであることを前提として,本願発明
と引用発明1との一致点及び相違点の認定もまた誤りであり,本願発明と引用例1
に記載された発明の相違点として,引用例1に記載された発明においてはエンジン
の運転停止時に洗浄作業を行うことについても認定すべきであると主張する。
しかしながら,本件審決の引用発明1の認定に誤りはないことは,前記(3)のと
おりである。原告の主張は採用できない。
以上からすると,本件審決の一致点及び相違点の認定には誤りはない。
3引用発明2の認定の誤りについて
(1)引用例2の記載
ア引用例2(甲4)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
(ア)引用例1の特許請求の範囲は,以下のとおりである。
【請求項1】電子制御燃料噴射装置付き自動車エンジンのスロットルチャンバー内
部に,専用ノズルを用いて洗浄剤を注入・噴射して吸気系統を洗浄する洗浄方法に
おいて,スロットルチャンバーとエアクリーナーとの間に設けられたエアダクトに,
ブローバイガスを吸気系統へ戻すためのブローバイホースが接続された部分から,
専用のノズルを用いて洗浄剤をスロットルチャンバー内部へ向けて注入・噴射し,
吸気系統を洗浄することを特徴とする自動車エンジンの吸気系統の洗浄方法
【請求項2】電子制御燃料噴射装置付き自動車エンジンのスロットルチャンバー内
部に,専用ノズルを用いて洗浄剤を注入・噴射して吸気系統を洗浄する洗浄方法に
おいて,エアクリーナーの直ぐ下に,エアフローメータが組み込まれたスロットル
チャンバーを備えたエンジンのエアクリーナーの上蓋を外し,専用のノズルを用い
てエアフローメータ上部の金網を通してエアフローメータを通り過ぎた位置からス
ロットルチャンバー内部へ洗浄剤を注入・噴射して吸気系統を洗浄することを特徴
とする自動車エンジンの吸気系統の洗浄方法
(イ)引用例2に記載された発明は,電子制御燃料噴射装置付き自動車エンジン
の吸気系統内部を洗浄する洗浄方法に関する発明である(【0001】)。
電子制御燃料噴射装置付き自動車エンジンの吸気系統内部は,長期の使用により
油汚れ,カーボン,ごみ等が付着し,設定されたスロットルバルブの動きを損わせ
たり,その他の精密な部品の性能を低下させる恐れがあり,洗浄の必要が生じるが,
従来,有効な洗浄方法がなかったため,エンジンを分解して洗浄せざるを得ず,分
解・組立ての技術や作業の手間がかかるなどの問題があった(【0004】【00
09】【0010】)。
(ウ)引用例2に記載された発明は,電子制御燃料噴射装置付き自動車エンジン
のスロットルチャンバー及びその他の吸気系統内部の洗浄の際,接続パイプから,
クランクケースにつながるブローバイホースを外し,代わりに専用ノズルを噴射口
がスロットルバルブの中心を向くようにして挿入し,シリコンゴム等からなる栓で
固定し,専用ノズルを栓を介して洗浄剤容器と作業のしやすい長さにしたチューブ
に接続した上で,エンジンをかけながら洗浄剤をエアダクト内に注入ないし噴射し,
噴射後は,排煙がなくなるまで断続的に空ふかしを行ない,エンジン内部に残った
洗浄剤を燃焼させるものである。噴射された洗浄剤は,直接スロットルバルブ及び
その周辺を洗浄し,更にバルブの下流域のインテークマニホールドに対しても洗浄
効果を発揮し,最終的には燃焼室で燃焼される(【0018】~【0020】)。
イ引用例2に記載された発明の技術内容
以上の引用例2の記載によると,引用例2に記載された発明は,自動車エンジン
をかけながら自動車エンジンの吸気系統内部の表面に洗浄剤を注入ないし噴射する
ために,自動車エンジンのエアダクトの内部において,接続パイプを通って配置で
きるように適合化された専用ノズルと液体的に連絡しているチューブとを有する装
置に関する発明であって,専用ノズルと連携して自動車エンジンの接続パイプに着
脱可能に固定することのできる栓を含む技術であるということができる。
(2)本件審決の引用発明2の認定の当否
原告は,引用例2に記載された発明は,吸気通路構造を利用してスロットルバル
ブの上流側に洗浄剤を注入ないし噴射するものであり,「栓」は必ずしも封止部材
を意味しないと主張する。
しかしながら,引用例2に記載された発明は,自動車エンジンの吸気系統内部の
表面に付着した油汚れ,カーボン,ごみ等を洗浄剤により洗浄するものであって,
噴射された洗浄剤は,スロットルバルブよりも下流域のインテークマニホールドに
対しても洗浄効果を発揮し,最後には燃焼室で燃焼させるものであるから,引用例
2の他の実施例において,洗浄剤を注入ないし噴射する箇所がスロットルバルブの
上流側とされているからといって,引用例2に記載された発明をそのような構成に
限定して認定しなければならない理由はない。
また,「栓」とは,「封止」の機能を備えていることを意味するところ(乙2),
引用例2に記載された発明においては,シリコンゴムで形成された栓により接続パ
イプに専用ノズルが固定されていること,封止することによって不要な外気やゴミ
の流入を避けることが可能となり,エンジンの洗浄にとって一層好ましいことにな
ることからしても,あえて封止を行わない理由は存在しないことからすると,引用
例2に記載された発明における「栓」は,「封止」の機能を備えているものと解す
るのが自然である。原告の主張は採用できない。
なお,原告は,引用例2の特許請求の範囲に係る記載を考慮せずに,引用例2に
記載された発明を認定することは不当であるとも主張するが,原告の引用発明1に
係る同旨の主張について判示したとおり,当該主張も失当といわなければならない。
(3)小括
以上からすると,本件審決の引用発明2の認定に誤りはない。
4相違点に係る判断の誤りについて
(1)本願発明について
本願発明については,前記1で認定したとおりである。
(2)相違点1について
前記2のとおり,引用発明1について,特段,「エンジンの運転を停止した状態
で」洗浄剤を噴射することに限定しなかった本件審決の認定に誤りはなく,引用発
明1においては,エンジン運転中に洗浄作業を行うことが排除されているものでは
ないし,エンジン稼働中に洗浄液を注入ないし噴射することは,周知技術である。
したがって,相違点1に係る構成については,実質的な相違点ということはでき
ない。
原告は,本件審決における引用発明1の認定が誤りであることを前提として,相
違点1に係る判断についても同様に誤りであると主張するが,その前提自体,認め
ることができない。
以上からすると,相違点1に係る本件審決の判断に誤りはない。
(3)相違点2について
ア引用発明2は,自動車エンジンの吸気系統内部の表面に付着した油汚れ,カ
ーボン,ごみ等を洗浄剤により洗浄する発明であり,吸気ポートや吸気バルブ等の
吸気通路内壁に堆積したデポジットを確実に除去することを目的とする引用発明1
とは,エンジンの吸気系の付着物の洗浄に係る技術として,技術分野を共通するも
のということができる。
そして,引用発明2の「栓」は,封止部材としての機能を有すると解されるとこ
ろ,引用発明1においても,ストロー部材を差し込む作業孔を封止することにより,
不要な外気やゴミの流入を避けることが可能となり,エンジン洗浄の効率が向上す
ることは明らかであるから,当該ストロー部材に引用発明2における「栓」を適用
することに何らの困難性はなく,それにより,当業者が相違点2に係る構成を想到
することは容易になし得たものということができる。
イ原告は,引用発明1及び2は,洗浄液が適用される吸気系統中の具体的な位
置,主に洗浄されるべき吸気系統部材等が相違し,異なる技術思想に基づく発明で
あるから,引用発明2に引用発明1を適用することはできないなどと主張する。
しかしながら,原告指摘の相違部分が存在するとしても,洗浄効率を向上させる
封止部材を適用すること自体を妨げる事情とはならないことは明らかである。本願
発明も,洗浄液が適用(注入ないし噴射)される吸気系統中の具体的な位置や主に
洗浄されるべき吸気系統部材を特定するものでもない。原告の主張は採用できない。
(4)相違点3について
引用発明1におけるストロー部材(本願発明における「処理用マニホールド」に
相当する)は,洗浄液をその先端にある噴射口(オリフィスに相当する)まで供給
する機能を有するものであるから,処理をする対象物の位置に応じて充分な長さを
確保すべきであることは自明の事項であって,その「充分な長さ」として,「作業
孔(アクセスポートに相当する)の位置に無関係に噴射口の位置決めができるよう
な」ものとすることは,引用発明1においても,作業孔の位置と処理をする対象物,
すなわち吸気ポートの最深部内壁に堆積したデポジットの位置との関係が限定され
ていないことからすると,当業者が適宜なし得る程度の設計上の事項にすぎない。
したがって,引用発明1における「ストロー部材」において,上記設計上の考慮
により,相違点3に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことで
あるというべきである。相違点3に係る本件審決の判断に誤りはない。
(5)小括
以上からすると,本願発明は,引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件審決の判断に誤りはな
い。
5結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光

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