平成25年12月5日判決言渡
平成25年(行ケ)第3号選挙無効請求事件
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1平成25年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の広島県
選挙区における選挙を無効とする。
2訴訟費用は被告の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,平成25年7月21日に施行された参議院議員通常選挙(以下「本
件選挙」という。)について,広島県選挙区の選挙人である原告が,平成24
年法律第94号による改正(以下「本件改正」という。)後の公職選挙法14
条1項,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下「本
件定数配分規定」といい,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号によ
る改正前の別表第2を含め,「参議院議員定数配分規定」という。)が人口比
例に基づかず憲法14条1項等に違反し無効であるから,これに基づき施行さ
れた本件選挙の広島県選挙区における選挙は無効であるとして,公職選挙法2
04条に基づき,上記選挙区の選挙を無効とすることを求める選挙無効訴訟で
ある。
2前提事実(甲21ないし23,乙1ないし7,9,18の2,弁論の全趣
旨)
(1)本件選挙の施行
ア本件選挙(選挙区選挙)は,平成25年7月21日,本件定数配分規定
に定める選挙区及び議員定数に基づき,施行された。
参議院議員定数242人のうち,146人が選挙区選出議員,96人が
比例代表選出議員とされているが(公職選挙法4条2項),本件選挙で
は,その2分の1に当たる選挙区選出議員73名,比例代表選出議員48
名が改選され,広島県選挙区の選挙区選出議員の改選数は2名であった。
イ原告は,本件選挙における,広島県選挙区の選挙人であった。
ウ本件選挙のうち選挙区選挙における選挙区間の議員1人当たりの選挙人
数の最大較差は,鳥取県選挙区(議員1人当たりの登録有権者数24万1
096人)と北海道選挙区(議員1人当たりの登録有権者数114万97
39人)との間の1対4.77(概数であり,以下,較差に関する数値は
すべて概数で表記する。)であった。
(2)参議院議員選挙制度の変遷
ア(ア)昭和22年,日本国憲法の施行に伴い,参議院議員選挙について,参
議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)が制定された。参議院議員
選挙法は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出
議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員につい
ては,全都道府県の区域を通じて選出されるものとし,地方選出議員に
ついては,都道府県を単位とする選挙区及び各選挙区における議員定数
を別表で定め,これに基づいて,各選挙区において選出されるものとし
た。そして,各選挙区ごとの議員定数については,半数改選という憲法
上の要請(憲法46条)を踏まえ,定数を偶数としてその最小限を2人
とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に
比例する形で,各選挙区に2人ないし8人の偶数の議員定数を配分し
た。上記仕組みを創設する趣旨として,全国選出議員は,学識経験とも
に優れた全国的に有名有為の人材を簡抜することを主眼に,職能的知識
経験を有するものが選挙される可能性を生ぜしめることによって,職能
代表制の有する長所を取り入れ,地方選出議員は地域代表的性格を有す
るものと説明された。上記選挙の仕組みが発足した当時,選挙区間にお
ける議員1人当たりの人口の最大較差は,1対2.62であった。
(イ)昭和25年,選挙に関する規定を統合統一,整備するため公職選挙法
(昭和25年4月15日法律第100号)が制定され,参議院議員選挙
法は廃止されたが,参議院議員の選挙は,上記選挙制度の仕組みをその
まま引き継いだものであって,公職選挙法の参議院議員定数配分規定
は,参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま承継した。
イ(ア)昭和46年,沖縄返還のため,公職選挙法が改正され(昭和46年法
律第130号),参議院議員について,総定数を2増し,沖縄県選挙区
の議員定数2が付加された。
(イ)昭和57年,公職選挙法が改正され(昭和57年法律第81号。以下
「昭和57年改正」という。),従来の個人本位の選挙制度から政党本
位の選挙制度に改める趣旨で,参議院議員選挙について,全国区制を廃
止し,拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選
出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごと
に選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになった。比
例代表選出議員は,全都道府県を通じて選出される点は従前の全国選出
議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更
されたものにすぎず,上記議員定数配分規定に変更はなかった。
ウ(ア)選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,前記のとお
り,昭和22年の参議院議員選挙法制定当時は,1対2.62であった
が,その後,高度成長期に入り,人口の都市集中などにより,次第に拡
大していった。
(イ)昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「昭和52年
選挙」という。)における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1
対5.26に拡大していたが,最高裁判所大法廷は,昭和58年4月2
7日,昭和52年選挙(最大較差1対5.26)について,いまだ違憲
の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとする
には足りない旨判示した(民集37巻3号345頁。以下「昭和58年
大法廷判決」という。)。
(ウ)しかし,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成
4年選挙」という。)における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は
1対6.59にまで拡大していた。
(エ)平成6年,最大較差を是正する目的で,公職選挙法が改正され(平成
6年法律第47号。以下「平成6年改正」という。),平成2年10月
実施の国勢調査結果に基づき,参議院議員の総定数(252人)及び選
挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で定数を
8増8減した。上記改正の結果,上記国勢調査結果による人口に基づく
選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対6.48か
ら1対4.81に縮小し,逆転現象は消滅した。
(オ)平成6年改正後の参議院議員定数配分規定の下において平成7年7月
に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成7年選挙」という。)に
おける議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.97であった。
(カ)最高裁判所大法廷は,平成8年9月11日,平成4年選挙(最大較
差1対6.59)について,上記較差が示す選挙区間における投票価値
の不平等は,参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組み,是正の技術
的限界,参議院議員のうち比例代表選出議員の選挙については各選挙人
の投票価値に何らの差異もないこと等を考慮しても,上記仕組みの下に
おいてもなお投票価値の平等の有すべき重要性に照らして,もはや到底
看過することができないと認められる程度に達していたものというほか
はなく,同選挙当時,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じ
ていたものと評価せざるを得ないとしたが,選挙区間における議員1人
当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程
度に達した時から同選挙までの間に国会が参議院議員定数配分規定を是
正する措置を講じなかったことをもって,その立法裁量権の限界を超え
るものと断定することは困難であるとして,同選挙当時における参議院
議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示し
た(民集50巻8号2283頁。以下「平成8年大法廷判決」とい
う。)。
(キ)平成6年改正後の参議院議員定数配分規定の下において平成10年7
月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成10年選挙」とい
う。)における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.98で
あった。
(ク)最高裁判所大法廷は,平成10年9月2日,平成7年選挙(最大較差
1対4.97)について,上記の較差が示す選挙区間における投票価値
の不平等は,投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過する
ことができないと認められる程度に達しているとはいえず,平成6年改
正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえないとして,当該選
挙当時における参議院議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていた
とはいえない旨判示した(民集52巻6号1373頁。以下「平成10
年大法廷判決」という。)。
(ケ)最高裁判所大法廷は,平成12年9月6日,平成10年選挙(最大較
差1対4.98)について,平成10年大法廷判決と同様に,上記の較
差が示す選挙区間における投票価値の不平等は,当該選挙制度の仕組み
の下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過する
ことができないと認められる程度に達しているとはいえず,平成6年改
正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえず,上記選挙当時に
おいて参議院議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとす
ることはできない旨判示した(民集54巻7号1997頁。以下「平成
12年大法廷判決」という。)。
エ(ア)平成12年,公職選挙法が改正され(平成12年法律第118号。以
下「平成12年改正」という。),比例代表選出議員の選挙制度が非拘
束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数を10
人削減して242人とした上,選挙区選出議員の定数を6人削減して1
46人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とし,選挙
区選出議員の定数削減について,直近の平成7年10月実施の国勢調査
結果に基づき,平成6年改正の後に生じた逆転現象を解消するととも
に,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大
を防止するために,3選挙区の定数を2人ずつ削減した。
平成12年改正の結果,逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果に
よる人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は
1対4.79であって,上記改正前と変わらなかった。
(イ)平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成13年7月に
施行された参議院議員通常選挙(以下「平成13年選挙」という。)に
おいて,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対
5.06に拡大していた。
(ウ)最高裁判所大法廷は,平成16年1月14日,平成13年選挙(最大
較差1対5.06)について,同選挙当時,平成12年改正は,憲法が
選挙制度の具体的な仕組みの決定につき国会にゆだねた立法裁量権の限
界を超えるものではなく,上記定数配分規定が憲法に違反するに至って
いたものとすることはできない旨判示したが,裁判官6名による反対意
見のほか,平成12年改正もまた,定数配分をめぐる立法裁量に際し諸
考慮要素の中でも重きを与えられるべき投票価値の平等を十分に尊重し
た上で,それが損なわれる程度を可能な限り小さくするよう,問題の根
本的解決を目指した作業の中でのぎりぎりの判断に基づくものであった
とは,到底評価することができず,仮に次回選挙においてもなお,無為
の裡に漫然と現在の状況が維持されたままであったとしたならば,立法
府の義務に適った裁量権の行使がなされなかったものとして,違憲判断
がなさるべき余地は,十分に存在するものといわなければならない旨の
裁判官4名による補足意見が付された(民集58巻1号56頁。以下
「平成16年大法廷判決」という。)。
(エ)平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成16年7月に
施行された参議院議員通常選挙(以下「平成16年選挙」という。)に
おいて,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対
5.13に拡大していた。
オ(ア)平成16年大法廷判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者
懇談会は,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設けて
協議を行ったが,平成16年7月に施行される参議院議員通常選挙まで
の間に較差を是正することは困難であったため,同年6月1日,同選挙
後に協議を再開する旨の申合せをした。これを受けて,同選挙後の同年
12月1日,参議院議長の諮問機関である参議院改革協議会の下に選挙
制度に係る専門委員会が設けられ,同委員会において各種の是正案が検
討されたが,当面の是正策としては,較差5倍を超えている選挙区及び
近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るこ
ととし,4選挙区で4増4減する旨の公職選挙法の一部を改正する法律
(平成18年法律第52号)が平成18年6月1日に成立した(以下
「平成18年改正」という。)。同改正の結果,平成17年10月実施
の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの
人口の最大較差は,1対4.84に縮小した。
上記の専門委員会が平成17年10月に参議院改革協議会に提出した
報告書に示された意見によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持する限
り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとして
も,較差を1対4以内に抑えることは相当の困難があるとされている。
また,同報告書においては,平成19年選挙に向けての較差の是正の後
も,参議院の在り方にふさわしい選挙制度の議論を進めていく過程で,
較差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要があると
された。
(イ)最高裁判所大法廷は,平成18年10月4日,平成12年改正後の参
議院議員定数配分規定の下で施行された平成16年選挙(最大較差1対
5.13)について,同選挙までの間に上記定数配分規定を改正しなか
ったことが国会の裁量権の限界を超えたものと断ずることはできず,し
たがって,同選挙当時において,上記定数配分規定が憲法に違反するに
至っていたものとすることはできない旨判示したが,投票価値の平等の
重要性を考慮すると,今後も,国会においては,人口の偏在傾向が続く
中で,これまでの制度の枠組みの見直しをも含め,選挙区間における選
挙人の投票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが,憲
法の趣旨にそうものというべきである旨指摘した(民集60巻8号26
96頁。以下「平成18年大法廷判決」という。)。
(ウ)平成19年7月,平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下で
の第1回目の参議院議員通常選挙(以下「平成19年選挙」という。)
が施行された。当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最
大較差は,1対4.86であった。
(エ)最高裁判所大法廷は,平成21年9月30日,平成18年改正後の参
議院議員定数配分規定の下で施行された平成19年選挙(最大較差1対
4.86)について,同選挙までの間に上記定数配分規定を更に改正し
なかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,
同選挙当時において,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていた
ものとすることはできない旨判示したが,上記のような較差は投票価値
の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙
区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあ
り,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替
える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であ
り,これを行おうとすれば,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必
要となることは否定できず,このような見直しを行うについては,参議
院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質
上課題も多く,その検討に相応の時間を要することは認めざるを得ない
が,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投
票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会におい
て,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討
が行われることが望まれる旨判示した(民集63巻7号1520頁。以
下「平成21年大法廷判決」という。)。
カ(ア)平成20年6月に,参議院改革協議会の下に専門委員会が設置され,
同委員会において平成20年12月から同22年5月までの約1年半の
間に6回にわたる協議が行われたが,平成22年7月に施行される参議
院議員通常選挙に向けた較差の是正は見送られる一方,同25年に施行
される参議院議員通常選挙に向けて選挙制度の見直しを行うこととさ
れ,平成22年選挙後にその見直しの検討を直ちに開始すべき旨を参議
院改革協議会において決定する必要があるとされるとともに,同23年
中の公職選挙法の改正法案の提出を目途とする旨の工程表も示された。
(イ)平成22年7月に,平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下
での2回目の参議院議員通常選挙が施行された(以下「平成22年選
挙」という。)。選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人
数の最大較差は,1対5.00に拡大した。
(ウ)最高裁判所大法廷は,平成24年10月17日,平成18年改正の参
議院議員定数配分規定の下での平成22年選挙(最大較差1対5.0
0)について,最大較差1対5前後が常態化する中で,平成16年大法
廷判決において,複数の裁判官の補足意見により較差の状況を問題視す
る指摘がされ,平成18年大法廷判決において,投票価値の平等の重要
性を考慮すると,投票価値の不平等の是正については国会における不断
の努力が望まれる旨の指摘がされ,さらに,平成21年大法廷判決にお
いては,投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状
態であって較差の縮小が求められること及びそのためには選挙制度の仕
組み自体の見直しが必要であることが指摘されるに至っており,これら
の大法廷判決においては,判断枠組み自体は基本的に維持しつつも,投
票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっ
てきたところであるとした上で,参議院議員の選挙であること自体か
ら,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見い
だし難い,都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組
みは,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期
にわたって継続していると認められる状況の下では,上記仕組み自体を
見直すことが必要になる,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維
持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくこと
は,もはや著しく困難な状況に至っている,投票価値の大きな不平等が
ある状態であって,選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であるにもか
かわらず,平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正は行われ
ることなく,平成22年選挙に至ったものであるとして,同選挙当時,
前記較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等
の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,違憲の問題
が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた旨判断したが,同選挙ま
での間に上記定数配分規定を改正しなかったことが,国会の裁量権の限
界を超えるものとはいえず,同定数配分規定が憲法に違反するに至って
いたとはいえないと判断し,さらに,単に一部の選挙区の定数を増減す
るにとどまらず,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行
の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見
直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が
生ずる前記の不平等状態を解消する必要があると指摘した(以下「平成
24年大法廷判決」という。)。
(エ)平成22年選挙以降,参議院では,正副議長及び各会派の代表により
構成される「選挙制度の改革に関する検討会」及びその検討会の下に選
挙制度協議会が設置され,平成25年7月に施行される本件選挙に向け
た選挙制度の見直しを始め,平成24年7月までに11回の協議をした
が,成案を得るに至らず,結局,都道府県を単位として各選挙区の定数
を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の
仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置は講じられなかった。ただ
し,平成25年選挙(本件選挙)で較差を少しでも是正するため,選挙
区選出議員について4選挙区で定数を4増4減する公職選挙法の一部改
正法案を提出し,国会は,平成24年11月16日,これを可決成立し
(平成24年法律第94号),同月26日に施行された(本件改正)。
最大較差は,5.12倍から4.75倍に縮小した。
本件改正にかかる公職選挙法の附則3条には,「平成28年に行われ
る参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方,選挙区間における
議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な
見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする」との規定
が置かれた。
(オ)平成25年7月21日に,本件改正による参議院議員定数配分規定
(本件定数配分規定)の下での1回目の選挙である参議院議員通常選挙
が施行された。最大較差は1対4.77であった(本件選挙)。
(カ)その後,国会において,参議院の在り方,選挙区間における議員1人
当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しに
ついて,検討がされている。
3争点に対する当事者の主張
(1)原告の主張
ア本件定数配分規定の違憲性について
本件定数配分規定は,人口比例に基づいて定数配分をしておらず,憲法
が規定する正当な選挙に基づく代議制に反し(主位的な主張),かつ,選
挙権の平等の保障に反する(予備的な主張)配分となっているから,憲法
前文,14条1項に違反する。
したがって,本件定数配分規定に基づいて施行された本件選挙は無効で
あり,ひいてその広島県選挙区における選挙も無効である。
(ア)主権者の多数決論(主位的な主張)
憲法前文第1段落の第1文は,「日本国民は,正当に選挙された国会
における代表者を通じて行動し」と規定し,国民が主権者であること,
国民の代表者である国会議員は,正当に選挙されなければならないこ
と,国会議員は,主権者である国民の特別な代理人でしかないことが定
めている。これが国民主権の法理であり,その実現のためには,主権者
である国民の多数意見がその特別の代理人である国会議員の多数意見と
等価であることが必須である。そして,国民の多数意見を国会議員の多
数意見とするためには,人口比例選挙によらなければならない。
国会は,選挙制度にちて広範な立法裁量権を有するが,投票価値の平
等を損なうような裁量権の行使は,原則として認められない。
したがって,本件定数配分規定は,人口比例に基づいておらず,これ
は,国会の立法裁量権を踰越しているものであるから,憲法前文に違反
しているものであり,これに基づいて施行された本件選挙は無効であ
り,広島県選挙区における選挙も無効である。
(イ)平等論(予備的な主張)
投票価値の平等は,憲法14条1項の要求するところであるから,最
大較差4.77倍に達する本件定数配分規定は,同条項に違反してお
り,これに基づいて施行された本件選挙は無効であり,広島県選挙区に
おける選挙も無効である。
イ合理的期間の法理について
(ア)合理的期間の法理とは,裁判所が選挙は違憲状態と認定した場合で
も,国会には,当該選挙区割りを合憲とするよう見直すための合理的な
立法裁量期間を有するとし,合理的期間が未経過であれば,当該選挙は
有効とする法理である。
(イ)しかし,合理的期間の法理は,憲法98条1項の明文に反して,違憲
状態の選挙を有効とする点で,憲法の最高法規性を否定するものであ
る。また,違憲状態の選挙で当選した国会議員は,その任期満了の日ま
で立法等に有効に関与できることになるが,かかる国会議員は,憲法前
文にいう正当に選挙された国会における代表者ではない。
したがって,合理的期間の法理は,違憲であって,失当である。
(ウ)仮に合理的期間の法理を採用するとしても,合理的期間の起算点は平
成21年大法廷判決の言渡日である平成21年9月30日であり,その
期間は平成21年9月30日から1年9か月を経過した平成23年6月
末日まで又は本件改正がされた平成24年11月16日までである。
以上のとおり,本件選挙は,上記合理的期間を経過した後に施行され
たものであるから,合理的期間の法理を採用するとしても,違憲,無効
である。
(2)被告の主張
本件定数配分規定が憲法に違反して無効とはいえないから,本件定数配分
規定に基づき施行された本件選挙は無効とはいえず,広島県選挙区における
選挙も無効とはいえない。
ア都道府県単位の仕組み自体を見直すことは国民的な議論を重ねる必要が
あること
平成24年大法廷判決は,都道府県を選挙区の単位として固定する結
果,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわ
たって継続していると認められる状況の下では,都道府県を各選挙区の単
位として各選挙区の定数を定める仕組み自体を見直すことが必要になると
判示した。
しかし,選挙制度を設計するに当たっては,投票価値の平等を可及的に
実現するという観点から,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定す
る現行の方式を改めることが一つの方法として挙げられるが,それとは矛
盾相克するところのある参議院の独自性や地域代表的な性格を重視する意
見等もあり,幅広い国民的議論が存するのであって,両者の間には無数の
選択肢があり得る。しかも,都道府県単位の選挙区制は,制度創設以来6
0年余り不変であって,国民の間に深く浸透し,近年まで合理的なものと
して定着してきた。
したがって,都道府県単位の選挙区制を見直すにしても,国民的な議論
を踏まえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断が必要であり,より憲法に
適合的な代表制のあり方を模索する合理的な過程を経る必要がある。
イ平成24年大法廷判決後の本件改正により最大較差が4.77倍まで縮
小したことも正当に評価されるべきこと
平成24年大法廷判決後の本件改正の結果,本件選挙時の最大較差は1
対4.77となり,最高裁判所が違憲状態にないと判断した最大較差1対
5.26(昭和58年大法廷判決)ないし1対4.86(平成21年大法
廷判決)を下回っており,昭和40年施行の選挙時における1対4.58
以来の水準にまで縮小された。
このような本件改正による最大較差の縮小も,正当に評価されるべきで
ある。
ウ本件選挙までに議員定数の不均衡を是正する立法的措置が講じられなか
ったことは立法裁量権の限界を超えるものとはいえないこと
平成24年大法廷判決は,平成22年選挙における最大較差1対5.0
0を「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態」であると判示し,
「現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,
できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要
がある」と判示した。
しかし,同判決に至るまでの累次の最高裁判所大法廷判決においては,
上記のとおり,5倍程度の最大較差をもって上記の状態に至っていると判
示したものはなく,平成19年選挙に係る平成21年大法廷判決において
も,1対4.86の最大較差が憲法に違反するとは判示していなかった。
そして,「現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措
置」を講ずるためには,平成24年大法廷判決も指摘するように「相応の
時間を要する」のであり,取り分け,同判決は,制度創設以来合理性を有
するとされてきた都道府県単位の選挙区制の見直しを含め,現行の選挙制
度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を求めるものであるか
ら,国民的な議論を重ねるとともに,専門的・多角的な検討が不可欠であ
る。また,平成21年大法廷判決では,選挙制度の見直しについての付言
はあったものの,昭和58年大法廷判決の基本的な判断枠組みは変更する
必要はないとされていたのであり,平成24年大法廷判決において,初め
て大きく異なる判断がされたのである。本件選挙は,平成24年大法廷判
決の言渡しから9か月余り後に施行されたものであるから,同判決を踏ま
えた上記のような抜本的改革を内容とする立法的措置を講じる期間として
は余りに短いといわざるを得ない。加えて,平成24年大法廷判決後に成
立した本件附則3条には,平成28年選挙に向けて,選挙制度の抜本的な
見直しについて引き続き検討を行い,結論を得る旨が定められている。
以上の事情を総合考慮すれば,本件選挙までの間に本件定数配分規定を
改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとまではいえない
というべきである。
第3当裁判所の判断
1投票価値の平等について
(1)日本国憲法は,議会制民主主義を採用しており,国権の最高機関である国
会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は,国民の国政への
参加の機会を保障する基本的権利となる。憲法は,その重要性にかんがみ,
これを国民固有の権利であると規定した(15条1項)上,14条1項にお
いて法の下の平等の原則を定めるほか,成年者による普通選挙を保障すると
ともに,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によっ
て選挙人の資格を差別してはならないものと定めている(15条3項,44
条ただし書)。このような憲法の規定からすれば,上記の選挙権平等の保障
は,単に選挙人の資格を差別することを禁止するにとどまらず,選挙権の内
容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力
の平等,すなわち投票価値の平等をも要求するものと解される。
しかしながら,選挙制度は,議会制民主主義の下において国民各自,各層
の様々な利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させることを目的とする
ものであるから,投票価値の平等といっても,具体的な選挙制度の仕組みを
どのように定めるかによって何らかの差異が生ずることは免れ得ないもので
ある。そして,憲法は,国会の両議院の各議員選挙について,およそ議員は
全国民を代表するものでなければならないという制約の下で(43条),議
員及びその選挙人の資格並びに議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙
に関する事項は法律で定めるものとし(44条,47条),どのような選挙
制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるの
かの決定を国会の広い裁量にゆだねている。
したがって,憲法は,投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における
唯一,絶対の基準としているものではなく,国会は,正当に考慮することの
できる他の政策的目的ないし理由をしんしゃくして,その裁量により,両議
院の議員それぞれについて,公正かつ効果的な代表を選出するという目標を
実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるものという
べきであり,投票価値の平等は,原則として,国会が正当に考慮することが
できる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべき
ものと解さなければならない。そうすると,国会が具体的に定めたところが
その裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって
投票価値の平等が一定の限度で損なわれることになっても,やむを得ないも
のと解するのが相当である。
(2)憲法は,国会を衆議院と参議院とで構成するものとし(42条),各議院
の権限及び議員の任期等に差異を設けているが(45条,46条,54条,
59条ないし61条),その趣旨は,衆議院と参議院がそれぞれ特色のある
機能を発揮することにより国会を公正かつ効果的に多元的な民意を反映する
国民の代表機関たらしめようとするところにあると解される。そして,憲法
は,第一院である衆議院については,議員の任期を4年とした上,解散の制
度を設け,一定の範囲で参議院に優越する地位を与えており,他方,第二院
である参議院については,議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採
用し,解散を認めないものとしている。このような規定からすると,憲法
は,衆議院については,そのときどきの国民の意思をより直接的に反映した
議院として機能することを期待し,他方,参議院については,その構成の安
定化を図り,国民の利害や意見を安定的に反映させることにより,異なった
視点から衆議院を抑制し一院制の欠陥を補正する機能を期待したものと解さ
れる。これらにかんがみると,憲法は,衆議院議員の選挙制度の決定につい
ては,人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準となるべきものとしている
と解されるのに対し,参議院議員の選挙制度の決定については,人口比例主
義を重要な基準としつつも,参議院を衆議院とは異なる構成及び特色を持っ
た議院とするため,他の様々な政策目的ないし理由を考慮することも広く許
容しているものと解される。
このような二院制採用の趣旨を受けて,参議院議員選挙法(昭和22年法
律第11号)は,参議院議員の選挙について,投票価値の平等を最も重要か
つ基本的な基準とする衆議院議員の選挙制度とは趣を異にする選挙制度の仕
組みを設けた。すなわち,参議院議員250人を全国選出議員100人と地
方選出議員150人とに区分した上,全国選出議員については全都道府県の
区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,都道府
県を単位とする選挙区において選出されるものとし,各選挙区ごとの議員定
数につき,憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとして
いる(46条)ことに応じて,各選挙区を通じその選出議員の半数が改選さ
れることになるように配慮し,定数は偶数としその最小限を2人として,昭
和21年当時の総人口を定数150で除して得られる数値で各選挙区の人口
を除し,その結果得られた数値を基準とする各都道府県の大小に応じ,これ
に比例する形で2人ないし8人の偶数の議員数を配分した。その結果,全国
選出議員の選挙においては各選挙人の投票価値に差異は生じないものの,地
方選出議員の選挙においては各選挙区ごとで選挙人の投票価値に差異が生じ
ることとなり,選挙区間における議員1人当たりの最大較差(人口)は,1
対2.62となっていた。昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員
定数配分規定(14条及び別表第2)は,上記参議院議員選挙法の議員定数
配分規定をそのまま引き継いだものである。
その後,昭和46年に,沖縄返還に伴って昭和46年法律第130号によ
る公職選挙法の一部改正により沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されて選
挙区選出議員定数を152名とし,さらに,昭和57年改正により,従来の
個人本位の選挙制度から政党本位の選挙制度に改める趣旨で,参議院議員選
挙について,全国区制を廃止し,拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党
等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位
とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されること
になったが,比例代表選出議員は,全都道府県を通じて選出される点は従前
の全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称
が変更されたものにすぎず,上記議員定数配分規定に変更はなかったのであ
る。その後の改正でも上記選挙制度の仕組みは変更されていない。
(3)上記の参議院議員の選挙制度の仕組みは,ひとしく全国民を代表する議員
であるという枠の中にあっても,参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれ
とは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素
を持たせようとする意図の下に,参議院議員を全国選出議員ないし比例代表
選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け,後者については,
都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し
政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし,これ
を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味し
ようとしたものであると解することができる。したがって,昭和22年の参
議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法において,このような選挙制度の
仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱す
るものであったということはできない。また,このように公職選挙法が採用
した参議院(選挙区選出)議員についての選挙制度の仕組みが,国会にゆだ
ねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものである以上,その結果と
して各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口
との比率に較差が生じ,そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平
等がそれだけ損なわれることとなったとしても,これをもって直ちに上記議
員定数の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害した
ものとすることはできない。
しかし,社会的,経済的変化に対応して人口の異動が生じ,これに伴い投
票価値は常に変動するものであるところ,その人口の異動によって,当該選
挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到
底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態
を生じさせ,かつ,それが相当期間継続して,このような不平等状態を是正す
る何らの措置も講じないことが,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に
立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮して
も,その許される限界を超えると判断される場合は,議員定数の配分の定め
が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は,参議院議員定数配分規定の憲法違反を理由とする選挙無効訴訟に
おいて,昭和58年大法廷判決,平成8年大法廷判決,平成10年大法廷判
決及び平成12年大法廷判決等が判示するところである。
2本件定数配分規定の合憲性について
上記の見地に立って,本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検
討する。
(1)参議院議員定数配分規定についての最高裁判所の憲法判断及び国会の対応
の経過は,前記前提事実によれば,次のとおりとなる。
ア選挙区間における議員1人当たりの最大較差は,昭和22年の参議院議
員選挙法制定当時は,1対2.62であったが,その後,人口の都市集中
などにより,次第に拡大し,昭和52年選挙では,1対5.26に拡大し
ていたが,昭和58年大法廷判決は,昭和52年選挙について,いまだ違
憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとする
には足りない旨判示したが,平成4年選挙では,1対6.59にまで拡大
したところ,平成8年大法廷判決は,違憲の問題が生ずる程度の投票価値
の著しい不平等状態が生じていたと判示した。
イ国会は,上記状況に鑑み,平成6年改正を行った。
平成6年改正後の参議院議員定数配分規定の下において施行された平成
7年選挙における最大較差は1対4.97,平成10年選挙における最大
較差は1対4.98であったところ,最高裁判所は,いずれも,上記の較
差が示す選挙区間における投票価値の不平等は,投票価値の平等の有すべ
き重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達し
ているとはいえないと判示した(平成10年大法廷判決,平成12年大法
廷判決)。
ウ国会は,平成12年改正を行った。
平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下において施行された平
成13年選挙における最大較差は1対5.06に拡大していたところ,平
成16年大法廷判決は,上記参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに
至っていたものとすることはできない旨判示したが,裁判官6名による反
対意見のほか,漫然と同様の状況が維持されるならば違憲判断がされる余
地がある旨を指摘する裁判官4名による補足意見が付された。
平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下において施行された平
成16年選挙における最大較差は1対5.13に拡大していたところ,平
成18年大法廷判決は,上記参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに
至っていたものとすることはできない旨判示したが,投票価値の平等の重
要性を考慮すると,投票価値の不平等の是正については国会における不断
の努力が望まれる旨の指摘がされた。
エ国会は,最大較差是正のため,4増4減を内容とする平成18年改正を
行った。その際,専門委員会が平成17年10月に参議院改革協議会に提
出した報告書に示された意見によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持す
る限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとし
ても,較差を1対4以内に抑えることは相当の困難があるとされていた。
また,同報告書においては,平成19年選挙に向けての較差の是正の後
も,参議院の在り方にふさわしい選挙制度の議論を進めていく過程で,較
差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要があるとされ
た。
オ平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下において施行された平
成19年選挙における最大較差は,1対4.86であったところ,平成2
1年大法廷判決は,上記参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに至っ
ていたものとすることはできない旨判示したが,上記のような較差は投票
価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選
挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあ
り,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の
見直しが必要となる旨の指摘がされた。
カ平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下において施行された平
成22年選挙における最大較差は,1対5.00に拡大したところ,平成
24年大法廷判決は,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票
価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い,都道府
県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組みは,その間の人口
較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続してい
ると認められる状況の下では,上記仕組み自体を見直すことが必要にな
る,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平
等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況
に至っている,平成22年選挙当時,前記較差が示す選挙区間における投
票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得な
い程度に達しており,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っ
ていたと判断した。
キ国会は,平成24年11月,最大較差是正のため,選挙区選出議員につ
いて4選挙区で定数を4増4減する旨の本件改正をした。
本件改正にかかる公職選挙法の附則3条には,「平成28年に行われる
参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方,選挙区間における議員
1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直し
について引き続き検討を行い,結論を得るものとする」との規定が置かれ
た。
ク本件選挙は,本件改正による参議院議員定数配分規定(本件定数配分規
定)における選挙であり,最大較差は1対4.77であった。
ケ国会は,参議院の在り方,選挙区間における議員1人当たりの人口の較
差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討を
行っており,平成28年度の参議院議員通常選挙の前までにこれを完了す
ることを目標としている。
(2)以上の経緯によれば,参議院議員選挙区選出議員の選挙について,最大較
差が示す選挙区間における投票価値の不平等の問題は,社会の構造の変化,
これに伴う国民意識の変化に応じてその評価も変わり,時間を経て,投票価
値の平等をより厳格に評価される状況に至っており,また,最高裁判所の判
決において,参議院選挙区選出議員の選挙制度の在り方に疑問が指摘され,
これを受けて国会において参議院議員選挙の抜本的改正への準備作業が開始
されている状況に照らすと,現在においては,本件選挙当時の較差(最大較
差1対4.77)が示す選挙区間における投票価値の不平等は,前記のような
参議院議員の選挙制度の仕組みや是正の技術的限界などを考慮しても,もは
や到底看過することができないと認められる程度に達していたものというほ
かはなく,これを正当化すべき特別の理由は見いだせない。したがって,本
件定数配分規定による本件選挙当時,投票価値について,違憲の問題が生ず
る程度の著しい不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ない。
なお,上記のとおり,参議院の在り方,選挙区間における議員1人当たり
の人口の較差の是正等を考慮しつつ参議院議員選挙制度の抜本的見直しがさ
れる予定であるが,少なくとも,参議院議員選挙発足当時の較差を超えるよ
うな較差の残る改正では,もはや憲法上許容されないものというべきであろ
う。
しかし,平成21年大法廷判決において,最大較差1対4.86は投票価
値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であると指摘され
てはいたが,当時の参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていた
ものとすることはできない旨判示されていたのであり,最大較差1対5.0
0について,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと判
断したのは,平成24年大法廷判決のことであるが,本件選挙は,この平成
24年大法廷判決から約9か月後に施行されたものにすぎない。また,こう
した参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要
性が明確に指摘されたのは,平成21年大法廷判決からであるが,選挙制度
の仕組み自体の見直しについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治
的な判断が求められるなど,事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の
時間を要するものというべきである。さらに,参議院において,平成24年
大法廷判決の趣旨を踏まえ,選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革
に向けての検討が行われているのである。
以上の事情を総合して考察すると,本件において,選挙区間における議員1
人当たりの選挙人数の最大較差が憲法上到底看過することができないと認め
られる程度に達した時から本件選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是
正する措置を講じなかったことをもって,その立法裁量権の限界を超えるも
のと断定することは困難である。
なお,今後平成28年の参議院議員通常選挙の前までに,違憲の問題が生
ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が改善されなければ,参議院議員定
数配分規定は憲法に違反すると判断されることになるというべきであろう。
(3)まとめ
以上のとおり,本件定数配分規定による本件選挙が行われた当時,選挙区
間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対4.77に至ってい
たことについては,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態
が生じていたものといわざるを得ないが,本件選挙までの間に本件定数配分
規定を改正しなかったことが,国会の裁量権の限界を超えるものとまではい
えず,したがって,本件定数配分規定が憲法に違反するまでに至っていたと
いうことはできない。
第4結論
よって,原告の請求は,理由がないからこれを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
広島高等裁判所第4部
裁判長裁判官宇田川基
裁判官近下秀明
裁判官丹下将克
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