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平成15年(行ケ)第450号 審決取消請求事件(平成16年11月8日口頭弁
論終結)
          判           決
       原      告   株式会社オール・キャピタル
          (旧商号)   株式会社オール・キャピタル・ホールディ
ングス
       訴訟代理人弁理士   野 村 泰 久
       被      告   特許庁長官  小川 洋
       指定代理人      中 村 和 夫
       同          國 分 直 樹
       同          大 野 克 人
       同          立 川   功
       同          伊 藤 三 男
          主           文
 原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が不服2000-13679号事件について平成15年9月2日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   インタービジョン株式会社は,平成9年8月28日,発明の名称を「景品引
渡システム」とする特許出願(特願平9-246010号,以下「本件特許出願」
という。)をし,平成10年5月14日,パールビジョン株式会社において,本件
特許出願に係る特許を受ける権利を承継(同月19日出願人名義変更届出)した
が,平成12年7月19日に拒絶の査定を受けたので,同年8月30日,これに対
する不服の審判の請求をし,同月31日付け手続補正書により本件特許出願の願書
に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等について補正(以下「本件手続補正」
という。)をした。本件特許出願に係る特許を受ける権利は,さらに,平成14年
3月19日,原告に承継(同年4月15日出願人名義変更届出)された。
 特許庁は,上記請求を不服2000-13679号事件として審理した上,
平成15年9月2日に本件手続補正を却下するとの決定をした上,「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月11日,原告に送達され
た。
2 願書に添付した明細書(本件手続補正後のもの。以下「補正明細書」とい
う。)の特許請求の範囲【請求項1】記載の発明(以下「本願補正発明」とい
う。)の要旨(下線は補正部分)
 遊技場において客の遊戯チップを点数に換算する手段と,点数に対応した景
品を表示する手段と,表示された景品の中から希望する景品を選択する手段と,景
品引渡しに関する情報をセンターに送信する手段と,商店において会員カードまた
は運転免許証を利用して個人認証を行なう手段と,商店において会員カードまたは
運転免許証を読み取って自動的にセンターのメールボックスから景品引渡情報を受
信する手段とを具備することを特徴とする景品引渡システム。
3 願書に添付した明細書(本件手続補正前のもの。)の特許請求の範囲【請求
項1】記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨
 遊戯場において客の遊戯チップを点数に換算する手段と,点数に対応した景
品を表示する手段と,表示された景品の中から希望する景品を選択する手段と,景
品引渡しに関する情報をセンターに送信する手段と,商店において会員カードまた
は運転免許証を利用して個人認証を行なう手段と,商店においてセンターのメール
ボックスから景品引渡情報を受信する手段とを具備することを特徴とする景品引渡
システム。
 4 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,①本願補正発明は,本件特許出願
前に頒布された刊行物である特開平4-231989号公報(甲8,以下「刊行物
A」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。),特開平9-10
414号公報(甲10,以下「刊行物C」という。)及び特開平4-105680
号公報(甲11,以下「刊行物D」という。)に開示された周知の引渡手段並びに
特開平3-68385号公報(甲9,以下「刊行物B」という。)に開示された周
知のネットワーク情報利用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ものであるから,本件手続補正は,特許法17条の2第5項において準用する同法
126条4項の規定に違反するから,同法159条1項において準用する同法53
条1項の規定により却下すべきものであるとした上,②本願発明は,本願補正発明
の「商店において会員カードまたは運転免許証を読み取って自動的にセンターのメ
ールボックスから景品引渡情報を受信する手段」から,限定事項である「会員カー
ドまたは運転免許証を読み取って自動的に」との構成を省いたものであり,本願発
明の構成要件をすべて含み,更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正
発明が,上記①のとおり引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び周
知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29
条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,本願補正発明と引用発明との相違点についての判断を誤った(取消
事由1~3)結果,本件手続補正を違法に却下したものであるから,違法として取
り消されるべきである。
 1 取消事由1(相違点(ⅱ)についての判断の誤り1)
(1)審決は,本願補正発明と引用発明との相違点(ⅱ)として認定した,「景品
引渡手法として,前者(注,引用発明)は,景品を景品受取者に配達するのに対
し,後者(注,本願補正発明)は,景品受取者が商店に出向く点,及び当該相違に
基づく景品引渡の具体的手法,すなわち,商店において個人認証を行って,自動的
にセンターのメールボックスから景品引渡情報を得る点」(審決謄本9頁「相違
点」の項の(ⅱ),以下「相違点(ⅱ)」という。)について,「商店に注文した,例
えば酒などの注文商品の引渡しを受ける手段として,当該商店が受注品を配達する
引渡手段,及び注文者が当該商店に出向いて引渡を受ける店頭引渡手段は,例えば
前記刊行物C,Dに示されるように周知の引渡手段であり,しかも,店頭引渡手段
においては,商品引渡時に注文商品,注文者を確認の上,商品が引き渡されること
も周知の事項である」(同「相違点(ⅱ)について」の項の第1段落)と認定した
上,「刊行物Aにおける商品引渡手段として,前記周知の店頭引渡手段とすること
は単なる設計的変更」(同第2段落)と判断したが,審決の上記認定判断は誤りで
ある。
(2)刊行物C,D(甲10,11)に記載されている景品は,特殊景品であ
り,本願補正発明が景品交換しようとしている一般商品ではない。特殊景品は,換
金を目的にパチンコ店が出玉と交換するもの,すなわち,景品交換所で現金に交換
される性質のものであって,商品が決まっており,景品交換時に商品の種類を情報
として記載する必要はない。刊行物Cのものは,特殊景品としてカードを発行する
ものであり,このことは,【表1】及び【表2】記載のカードに商品名が記載され
ていないことからも明らかである。また,特殊景品の場合,交換所が複数あって
も,景品交換の内容は同一(換金)であって,商店名を記載する必要はなく,この
ことは,上記各表記載のカードに商店名が記載されていないことからも明らかであ
る。刊行物D記載のものも,特殊景品としてカードを発行するものであり,カード
は,現金代替の役割りをするものであって,本願補正発明のように,「パチンコ店
で景品としての商品を選び,その商品を店外の商店で引渡しを受けるもの」とは全
く異なる。さらに,刊行物D記載の「発券」は,店内での景品交換に限られるもの
であり,パチンコ店で景品としての商品を選び,その商品を店外の商店で引渡しを
受けるための,「商店に注文した,例えば酒などの注文商品」(一般景品)に対す
る「景品交換カード」と認識できるものではない。したがって,「商店に注文し
た,例えば酒などの注文商品の引渡しを受ける手段として,当該商店が受注品を配
達する引渡手段,及び注文者が当該商店に出向いて引渡を受ける店頭引渡手段」
(審決謄本9頁「相違点(ⅱ)について」の項の第1段落)は,刊行物C,Dに開示
されているということはできない。
(3)一般の予約販売等は,通常,同じ店舗で予約金の支払を行うものであり,
これを刊行物A(甲8)記載の「パチンコ店で景品を選択し,その後景品が利用者
に直送されるシステム」に適用しても,「店外商店に注文商品や商店名を情報とし
て渡す構成」は,到底想到することができない。
 2 取消事由2(相違点(ⅱ)についての判断の誤り2)
(1)審決は,相違点(ⅱ)について,「ネットワーク上のコンピュータと共に存
在する記憶手段に情報を格納して,各端末からアクセスして当該情報を利用するこ
と,及び端末からのアクセス手段として,メンバーズカード等のIDカードを用い
て自動的にアクセスすることは,刊行物B(注,甲9,「刊行物2」とあるのは誤
記と認める。)に示されるように周知のネットワーク情報利用手段である」(審決
謄本9頁「相違点(ⅱ)について」の項の第2段落)と認定した上,「前記した確認
のための情報,すなわち,商品,注文者等に関する情報の利用手法として,前記刊
行物Bに示されるような周知のネットワーク情報利用手段とすることも,当業者が
店頭引渡手段を採用したことに伴って適宜為し得る程度のことである」(同第3段
落)と判断したが,審決の上記認定判断は誤りである。
(2)刊行物B(甲9)記載のものは,景品に交換したくないとき,出玉の積立
てを行うためメンバーカードを発行するものであって,本願補正発明のように,パ
チンコ店で景品としての商品を選び,その商品を店外の商店で引渡しを受けるもの
ではない。したがって,「前記した確認のための情報」(審決謄本9頁「相違点
(ⅱ)について」の項の第3段落)に刊行物B記載のネットワーク情報利用手段を適
用することは,異なるシステム間の組合せに関するものであって,困難であるか
ら,当業者が適宜し得ることとはいえない。
 3 取消事由3(相違点(ⅰ)についての判断の誤り)
(1)審決は,本願補正発明と引用発明との相違点(ⅰ)として認定した,「景品
引渡に関する情報として,前者(注,引用発明)は,景品の種類,数量であるのに
対し,後者(注,本願補正発明)は,景品の種類,数量に加えて,商店名である
点」(審決謄本9頁「相違点」の項の(ⅰ),以下「相違点(ⅰ)」という。)につい
て,「景品交換所が,例えば,景品の種類毎等のように複数存在する場合における
店頭引渡手段においては,景品交換すべき景品交換所を特定する,例えば商店の名
前等の情報が景品引渡に関する情報として必要であることは,当業者が容易に想到
することである」(同「相違点(ⅰ)について」の項)と判断したが,誤りである。
(2)「景品交換所が,例えば,景品の種類毎等のように複数存在する場合にお
ける店頭引渡手段」(審決謄本9頁「相違点(ⅰ)について」の項)は,刊行物A~
Dには開示されておらず,相違点(ⅰ)に係る本願補正発明の構成が開示されていな
い以上,「景品交換すべき景品交換所を特定する,例えば商店の名前等の情報が景
品引渡に関する情報として必要であることは,当業者が容易に想到することであ
る」(同)との判断には論理の飛躍がある。刊行物A(甲8)は,「商品やサービ
ス等の景品が加盟店から利用者に直送される」利用形態に関するものであり,刊行
物B(甲9)は,景品交換端末装置をパチンコ店以外の百貨店等に設置した場合,
商品の選択はその商店で行われ,景品と交換した玉数の入力はその場で行われるの
であって,いずれも本願補正発明のものとは異なる。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(相違点(ⅱ)についての判断の誤り1)について
 刊行物C(甲10)は,引換券としてのカードを持参して景品の引渡しを受
けるものであるから,「店頭引渡手段」が記載されているとした審決の認定に誤り
はない。当業者にとって,刊行物C記載のカードが,特殊景品としてのカードに限
られるものではなく景品に対する景品交換カードとして認識できるものである。ま
た,刊行物D(甲11)には,玉数に対応した情報を有する発券が発行され,当該
発券を持参して,特定景品払出装置に当該発券を読取らせて特定景品を払出す旨が
記載され,上記「発券」は,特定景品の引換券ということができる。
 2 取消事由2(相違点(ⅱ)についての判断の誤り2)について
  刊行物A(甲8)においても,必要な情報をネットワーク情報利用手段によ
り得ていることから,上記ネットワークに格納されている情報に,刊行物Aに示さ
れる商品の引渡手段を周知の店頭引渡手段に変更することに伴って必要となる情報
を追加し,変更を加えることは,当業者が適宜し得る程度の事項である。
 3 取消事由3(相違点(ⅰ)についての判断の誤り)について
  刊行物A,B(甲8,9)には,多数の景品に対応する景品交換所としての
商店が存在することが実質的には記載されているから,景品に対応した商店を利用
者に知らせる必要が存在することも当然のことである。したがって,「景品交換所
が,例えば,景品の種類毎等のように複数存在する場合における店頭引渡手段にお
いては,景品交換すべき景品交換所を特定する,例えば商店の名前等の情報が景品
引渡に関する情報として必要であることは,当業者が容易に想到することである」
(審決謄本9頁「相違点(ⅰ)について」の項)とした審決の判断に,誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点(ⅱ)についての判断の誤り1)について
(1)原告は,刊行物C,D(甲10,11)に記載されている景品は,特殊景
品であって,本願補正発明が景品交換しようとしている一般商品ではなく,換金を
目的にパチンコ店が出玉と交換するものであって,商品が決まっており,景品交換
時に商品の種類を情報として記載する必要はなく,本願補正発明のように,「パチ
ンコ店で景品としての商品を選び,その商品を店外の商店で引渡しを受けるもの」
とは全く異なるから,「商店に注文した,例えば酒などの注文商品の引渡しを受け
る手段として,当該商店が受注品を配達する引渡手段,及び注文者が当該商店に出
向いて引渡を受ける店頭引渡手段」(審決謄本9頁「相違点(ⅱ)について」の項の
第1段落)は,刊行物C,Dに開示されているということはできないと主張する。
(2)しかしながら,平成7年9月20日プレイグラフ社発行「パチンコ業界用
語辞典」(乙1-1~6,以下「乙1刊行物」という。)には,「景品」の用語に
ついて,「客が獲得した出玉を店内で交換する商品のことを『景品』とよんでい
る。景品には,一般景品(いっぱんけいひん)と特殊景品(とくしゅけいひん)が
あり(詳細は各項参照),現在は特殊景品の交換率が圧倒的で9割を超えていると
言われる」(33頁,乙1-3),「一般景品」の用語について,「出玉と交換す
る景品のうち,換金用の景品(特殊景品)と区別してこう呼ぶ。タバコ・菓子・雑
貨類など様々な種類があり,例えば,総合数250台の店では台数と同じ最低25
0点以上品揃えすることと,一般景品の陳列スペース(景品コーナー)は,店内面
積の一定割合を確保することなどが監督官庁から指導されている。しかし端玉をタ
バコやチョコレートなどに交換する「端玉景品」は別として,一般景品の交換率は
1割に満たないところがほとんど。そこで90年の風適法改正で景品単価の上限が
従来の3000円から一挙に1万円まで引き上げられた。一般景品は等価交換だか
ら,出玉2500個で1万円相当の景品と交換できるため,換金よりも得。最近は
一般景品の品揃えを充実させ集客の目玉にするホールも増えてきた」(11頁,乙
1-2),「特殊景品」の用語について,「客が景品交換所に持っていく換金用の
景品のこと。法律上,換金は禁止されており,店内で現金や有価証券を渡すことが
できないため,このような流通商品が生まれた。一応現金に換える価値のある景品
という建前はあるが,ライター石,ペンダント,文鎮等,を使用している店が多
い。最近ではゴールドカードなどが登場している」(73頁,乙1-5),「ゴー
ルドカードシステム」の用語について,「ジャパン・ネットワーク・システム(略
称=J-NET)が換金問題クリアのために開発したシステム。これは金のスモー
ルバーを埋め込んだゴールドカード,景品自動払出機,鑑定機(現金自動払出機)
の3つで構成されている。92年12月,東京の業者が北海道で見切り発車の形で
スタートさせたが,現在でも導入しているパチンコ店は少ない」(37頁,乙1-
4)との記載があり,パチンコ店等の遊技場の分野において,「景品」,「カー
ド」等の用語は,上記の意味で使用されているものと認められる。
  他方,刊行物C(甲10)には,【課題を解決するための手段】の項に,
「(1)景品に相当するカードを発行する遊技場と,このカードに基づき景品を交
換する景品交換所と,使用済カードを直接または間接に回収して再利用可能な形態
で前記遊技場へ供給するカードを回収する回収業者とより成る遊技機の景品交換シ
ステムにおいて,遊技場で所定の情報を書き込んだカードを発行する発行手段と,
発行されたカードの情報を読み取り,その情報が適正と判定したカードのみ景品交
換可能とする景品交換所に設けられる景品交換手段とを備えた」(段落【000
6】)として,景品に相当するカードに書き込まれた情報を読み取り,当該情報が
適正と判定したカードのみ景品交換可能とする旨の記載,【作用】の項に,「本発
明の景品交換システムにおいては,遊技場で所定の情報を書き込んだカードが発行
され,景品交換所にてそのカードから読み取った情報が適正と判定されると,この
カードによる景品交換が可能となる」(段落【0023】)との記載,【実施例】
の項に,「パチンコホール3では,上記配布されたカードに前述の発行年月日,ホ
ールID,オペレータID等を書き込み,景品交換カードとして発行する(S
3)。そして,遊技者はこのカードを持参して所定の景品交換所4へ行くことにな
る」(段落【0040】)との記載がある。したがって,上記記載によれば,刊行
物Cに記載された景品交換の内容は,「カードに記載された情報」による景品交換
であり,当該カードは,「景品交換カード」,すなわち,「引換券」としての機能
を有するものということができる。
また,刊行物D(甲11)には,「(課題を解決するための手段)上記目
的を達成するために,この発明は,パチンコ店にて遊技客が獲得したパチンコ玉数
に応じて景品または特定景品を払出すように構成されたパチンコ店の管理システム
において,前記パチンコ玉の玉数を計数するとともに,該玉数に対応した情報を有
する発券を発行する発券装置と,該発券を読取るとともに,特定景品を払出す特定
景品払出装置と,該各装置に接続された汎用のコンピュータを備えた管理コンピュ
ータ装置と,を有して,前記発券装置及び特定景品払出装置が管理コンピュータ装
置により管理制御されることにより,該遊技客が獲得したパチンコ玉数に併せて,
該発券を特定する特定情報を該発券に記録するとともに,同一の情報を前記管理コ
ンピュータ装置に記憶して,該発券を特定景品払出装置により読取る際に,該情報
を照会し,合致することを確認した上で,特定景品を払出すように構成したことに
より,上記目的を達成するものである」(3頁左上欄最終段落~右上欄第1段
落),「発券6には,磁気ストライプを有する磁気カードを使用して該磁気メモリ
のリーダ/ライタ装置により読み書きしてもよく,またバーコード等が印刷された
紙質等のレシートを使用して該バーコードをプリンタにより書きリーダにより読み
込んでもよい」(6頁左上欄下から第2段落)との記載があり,同記載によれば,
刊行物Dには,玉数に対応した情報を有する発券が発行され,当該発券を持参し
て,特定景品払出装置に当該発券を読み取らせて特定景品を払出す旨が記載され,
上記発券は,特定景品の引換券としての機能を有し,かつ,引換券としての発券を
持参して,引換券記載の特定景品の「払出」,すなわち,引渡しを受けるものであ
るから,「店頭引渡手段」が記載されているものと認められる。
(3)原告は,刊行物C,Dに記載されている景品は,特殊景品であって,本願
補正発明が景品交換しようとしている一般商品ではないと主張する。しかしなが
ら,刊行物Cには,「特殊景品」,「換金」等の記載はなく,単に「景品」,「景
品交換」と記載されているところ,景品には,特殊景品及び一般景品の両者が含ま
れることは上記のとおりである。そうすると,刊行物Cにおいて,交換される景品
は,「カードに記載された情報に基づくもの」であることは上記のとおりであり,
上記「特殊景品」として例示されるような,「現金に換える価値のある景品」に限
定されるものではない。刊行物Dにおいては,「上記のパチンコ店の管理システム
1によれば,発券6の偽造等を防止することができるため,例えば現金と同等の取
扱いを要する特定景品等に関する犯罪を未然に防止でき」(4頁右下欄第2段落)
と記載されており,これによれば,「特殊景品」すなわち「現金に換える価値のあ
る景品」に相当するものは「特定景品」であり,「発券」ではない。したがって,
原告の上記主張は失当である。また,原告は,刊行物D記載の「発券」は,店内で
の景品交換に限られるものであり,パチンコ店で景品としての商品を選び,その商
品を店外の商店で引渡しを受けるための,「商店に注文した,例えば酒などの注文
商品」(一般景品)に対する「景品交換カード」と認識できるものではないとも主
張するが,景品交換をする店舗が遊技場の店内ではないことにより,商品引渡しに
関する情報として「商品名」が必要である点は,審決は相違点(ⅰ)として認定判断
しているから,原告の上記主張も採用の限りではない。
(4)さらに,原告は,一般の予約販売等は,通常,同じ店舗で予約金の支払を
行うものであり,これを刊行物A(甲8)記載の「パチンコ店で景品を選択し,そ
の後景品が利用者に直送されるシステム」に適用しても,「店外商店に注文商品や
商店名を情報として渡す構成」は,到底想到することができないと主張する。しか
しながら,刊行物Aにおいても,景品の引渡しをパチンコ店に代わって加盟店に代
理させる場合には,当該加盟店に「景品番号,景品個数と利用者の住所,氏名,電
話番号等を伝送する」(段落【0023】)ものであるから,その際,景品を引き
渡す加盟店名,利用者の正当性,引き渡す景品及びその個数の確認等,景品引渡し
に必要な景品引渡情報を加盟店に伝送する構成とするすることは,当業者が当然に
想到することである。
(5)以上検討したところによれば,刊行物C,Dは,「商店に注文した,例え
ば酒などの注文商品の引渡しを受ける手段として,当該商店が受注品を配達する引
渡手段,及び注文者が当該商店に出向いて引渡を受ける店頭引渡手段」(審決謄本
9頁「相違点(ⅱ)について」の項の第1段落)を開示しているということができる
から,原告の取消事由1の主張は,理由がない。
 2 取消事由2(相違点(ⅱ)についての判断の誤り2)について
(1)原告は,刊行物B(甲9)記載のものは,景品に交換したくないとき,出
玉の積立てを行うためメンバーカードを発行するものであって,本願補正発明のよ
うに,パチンコ店で景品としての商品を選び,その商品を店外の商店で引渡しを受
けるものではないから,「前記した確認のための情報」に刊行物B記載のネットワ
ーク情報利用手段を適用することは,異なるシステム間の組合せに関するものであ
って,困難であるとして,相違点(ⅱ)について,「前記した確認のための情報,す
なわち,商品,注文者等に関する情報の利用手法として,前記刊行物Bに示される
ような周知のネットワーク情報利用手段とすることも,当業者が店頭引渡手段を採
用したことに伴って適宜為し得る程度のことである」(審決謄本9頁「相違点(ⅱ)
について」の項の第3段落)とした審決の判断は誤りであると主張する。
(2)しかしながら,審決は,刊行物B(甲9)を,周知事項としてのネットワ
ーク情報利用手段が開示されているものとして引用しているものであることは,上
記説示自体から明らかであるところ,刊行物Bに,周知事項としてのネットワーク
情報利用手段が開示されていることは,刊行物Bの「メンバーズカード読取機14
は,利用者が挿入したメンバーズカード5に記録されている口座番号を読取り,シ
ステムセンタ3に送る」(3頁左上欄),「景品交換端末装置2は,パチンコ出玉
と景品の交換を行うための景品交換所を有する複数の加盟店A,B,C・・・の各
々に設置され,操作端末装置1と同様システムセンタ3と通信により接続されてい
る。また,景品交換端末装置2を設置する加盟店A,B,C・・・としては,百貨
店,商店等が考えられるし,パチンコ店であってもよい。この場合,パチンコ店以
外の百貨店等に設置するようにすれば,パチンコ店における景品交換所としてのス
ペースが不要となり,かつ景品交換のための作業もなくなる」(同頁右上欄第2段
落),「システムセンタ3は,利用者のメンバー登録,出玉の積立,景品交換後の
精算,口座照会等の処理を行うものであり,ホストコンピュータ31と,記録手段
としての情報ファイル32と,送信制御装置33と,受信制御装置34と,送信ユ
ニット35及び受信ユニット36とで構成されている。ホストコンピュータ31
は,受信ユニット36,受信制御装置34を介して操作端末装置1と景品交換端末
装置2からの情報(暗証番号,店番号,出玉数等)を受信し,送信制御装置33と
送信ユニット35を介して積立玉数,照会の回答等を操作端末装置1及び景品端末
装置2に送信する」(同頁左下欄第2段落~右下欄第1段落)との記載及び図面
(特に,第1図,第3図及び第6図)から明らかである。そして,周知事項として
のネットワーク情報利用手段自体は,出玉の積立てを行うためメンバーカードを発
行するものであっても,パチンコ店で景品としての商品を選び,その商品を店外の
商店で引渡しを受けるものであっても,採用が可能であるから,刊行物A(甲8)
のネットワークに格納されている情報に,商品の引渡手段を周知の店頭引渡手段に
変更することに伴って必要となる情報を追加し,変更を加えることは,当業者が当
然考慮することと認められ,これを組み合わせることが困難であるということはで
きない。
(3)したがって,審決の上記判断に原告主張の誤りがあるということはでき
ず,原告の取消事由2の主張は,理由がない。
 3 取消事由3(相違点(ⅰ)についての判断の誤り)について
(1)原告は,「景品交換所が,例えば,景品の種類毎等のように複数存在する
場合における店頭引渡手段」(審決謄本9頁「相違点(ⅰ)について」の項)は,刊
行物A~D(甲8~11)には開示されておらず,相違点(ⅰ)に係る本願補正発明
の構成が開示されていない以上,「景品交換すべき景品交換所を特定する,例えば
商店の名前等の情報が景品引渡に関する情報として必要であることは,当業者が容
易に想到することである」(同)との判断には論理の飛躍があると主張する。
(2)しかしながら,乙1刊行物の上記1(2)の記載によれば,「一般景品」に
は,タバコ,菓子,雑貨類等様々な種類が存在することが当業者に周知の事項であ
ると認められるところ,菓子は,菓子店において,雑貨は,雑貨店において一般的
に販売され,菓子,雑貨類等種々の商品をそろえている販売店として,百貨店,コ
ンビニエンスストア等が存在することも周知であることは,当裁判所に顕著であ
る。そして,刊行物A(甲8)には,「遊技者は,前記入手した持点カードを遊技
場100に設置されているカウンタ114の持点カード読取装置5に挿入すること
により,その持点が読取られてその持点の範囲内で煙草やチョコレート等の一般景
品や特殊景品138・・・との交換が可能となる」(段落【0018】),「景品
交換所102のカウンタ115には,景品カード発行会社104に加盟している各
加盟店105,106,107が販売している商品やサービス等の種々の売買対象
からなる景品が掲載されたカタログが用意されており,利用者はそのカタログを見
て自己の欲する商品やサービス等の景品を選択する。そして,自己の欲する景品を
景品カード136を用いて景品交換したい場合には,利用者は自己の景品カード1
36を景品処理装置(景品カード処理器)9に挿入し,カタログで選んだ自己の欲
する景品を特定するコード(景品番号)やその個数等を入力する。するとその景品
番号がターミナルボックス113を介して景品カード発行会社104の集中管理コ
ンピュータ112に伝送され,集中管理コンピュータ112では利用者の住所に近
い加盟店を捜し出してその加盟店(たとえば105)に伝送されてきた景品番号,
景品個数と利用者の住所,氏名,電話番号等を伝送する。すると,送信されてきた
景品番号に対応する商品やサービス等の景品が加盟店105から利用者に直送され
る」(段落【0023】),「また,景品処理装置(景品カード処理器)9に,特
殊景品を払出す機能を設けてもよい。その場合には,利用者が景品カード136を
挿入し,その景品カード136に記録されている残額の範囲内で特殊景品138
(第3D図参照)が利用者に払出される。景品交換所102には特殊景品交換装置
8が設けられており,利用者が前記特殊景品をこの特殊景品交換装置8に挿入する
ことによりその挿入された特殊景品138に相当する金額の現金が利用者に払出さ
れる。なお,現金の払出しの代わりに利用者の景品カード136の残額を増額更新
するようにしてもよい。この特殊景品交換装置8はターミナルボックス113を介
して景品カード発行会社104の集中管理コンピュータ112に接続されており,
特殊景品138の出庫額が集中管理コンピュータ112に伝送されるように構成さ
れている」(段落【0024】),「一方,カタログによる景品交換ではなく実際
にその景品を目で見て確かめて購入したいという利用者は,景品カード136を持
参して加盟店106に行き,その景品カード136を加盟店106に設置されてい
る景品処理装置9に挿入し,加盟店106で販売されている商品やサービス等の売
買対象からなる景品で自己の欲するものの種類や個数を景品処理装置9に入力す
る」(段落【0025】)として,景品カード発行会社に加盟している各加盟店が
販売している種々の商品やサービスから,利用者は,自己の欲する商品やサービス
などを選択できることが記載されている。そして,刊行物A記載の加盟店におい
て,種々の商品及びすべてのサービスを,すべての加盟店が用意しておくことは,
不要在庫を持つことを意味し,商品回転率の低下を招来することは明らかであるか
ら,これを回避するために,各加盟店は,他の加盟店と相違する商品ないしサービ
スを提供することにより,利用者を誘因し,効率的に運営を行うことは,当業者の
常識に属することというべきである。また,刊行物B(甲9)には,「景品交換端
末装置2は,パチンコ出玉と景品の交換を行うための景品交換所を有する複数の加
盟店A,B,C・・・の各々に設置され,操作端末装置1と同様システムセンタ3
と通信により接続されている。また,景品交換端末装置2を設置する加盟店A,
B,C・・・としては,百貨店,商店等が考えられるし,パチンコ店であってもよ
い」(3頁右上欄第2段落)として,景品交換端末装置を設置する加盟店は,百貨
店,商店が考えられる旨が記載されている。そうすると,刊行物A,Bには,多数
の景品に対応する景品交換所としての商店が存在することが記載されていると認め
られるから,景品に対応した商店を利用者に知らせる必要が存在することは,当業
者の当然認識するところと認められる。そうすると,「景品交換すべき景品交換所
を特定する,例えば商店の名前等の情報が景品引渡に関する情報として必要である
ことは,当業者が容易に想到することである」(審決謄本9頁「相違点(ⅰ)につい
て」の項)とした審決の判断に論理の飛躍があるということはできない。
(3)原告は,刊行物Aは,「商品やサービス等の景品が加盟店から利用者に直
送される」利用形態に関するものであり,刊行物Bは,景品交換端末装置をパチン
コ店以外の百貨店等に設置した場合,商品の選択はその商店で行われ,景品と交換
した玉数の入力はその場で行われるのであって,いずれも本願補正発明のものとは
異なるとも主張する。しかしながら,刊行物Aの上記段落【0025】の記載によ
れば,刊行物Aが「商品やサービス等の景品が加盟店から利用者に直送される」利
用形態に関するものに限定されないことは明らかであり,また,刊行物Bは,景品
交換端末装置をパチンコ店以外の百貨店等に設置した場合,商品の選択はその商店
で行われ,景品と交換した玉数の入力はその場で行われるものであっても,この点
は,上記判断を何ら左右するものということはできない。
(4)したがって,審決の上記判断に原告主張の誤りがあるということはでき
ず,原告の取消事由3の主張も理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り
消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
           裁判長裁判官 篠  原  勝  美
      裁判官 岡  本     岳
  
      裁判官 早  田  尚  貴

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