弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
 「特許庁が、昭和六三年三月三〇日、同庁昭和五八年審判第五五二四号事件につ
いてした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和四六年九月六日、「PIAGE」の欧文字と「ピアゼ」の片仮名文
字とを上下二段に横書きしてなり、第一七類「被服、その他本類に属する商品」を
指定商品とする商標(以下「本願商標」という。別紙(一)参照)について商標登
録出願(昭和四六年商標登録願第九六八一五号)をした。同出願は昭和五二年二月
七日に出願公告(商公昭五二ー一〇〇一三号)されたが、商標登録異議申立てがあ
り、昭和五八年一月一三日拒絶査定を受けたので、原告は、同年三月二二日、これ
を不服として審判の請求をした。特許庁は、同請求を同年審判第五五二四号事件と
して審理したうえ、昭和六三年三月三〇日、「本件審判の請求は、成り立たな
い。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年四月二五日原
告に送達された。
二 本件審決理由の要点
1 本願商標の構成、指定商品及び登録出願日は、前項記載のとおりである。
2 これに対し、原査定は、登録異議申立ての結果、「本願商標は、スイス国のソ
シエテ・アノニム・アンシエンヌ・ファブリック・ジョルジュ・ピアジェ・エ・コ
ムパニーが時計について使用する「PIAGET」の商標との関係で、商標法第四
条第一項第一五号に該当するものである。」として、その出願を拒絶したものであ
る。
3 よつて按ずるに、原査定において、登録異議申立人が本願商標が右法条に該当
するとして引用した登録第九六四六二六号商標(以下「引用商標」という。)は、
「PIAGET」の欧文字を横書きしてなり、第二三類「時計、その部品及び附属
品」を指定商品とするものである(別紙図面(二)参照)。
4 そして、スイス国の時計メーカーであるソシエテ・アノニム・アンシエンヌ・
ファブリック・ジョルジュ・ピアジェ・エ・コムパニー(以下「ピアジェ社」とい
う。)と引用商標の商標権者でもある東京都港区所在の平和堂貿易株式会社との間
で昭和三五年五月に総代理店契約が締結され、同社によりピアジェ社の時計につい
て広汎に宣伝公告がなされた結果、引用商標「PIAGET」は、ピラジェ社の時
計を表示するものとして、少なくとも本願商標の登録出願前より、我が国の取引
者、需要者間において広く知られ周知著名となり現在に至つているものといい得る
ものである。
5 しかして、本願商標と引用商標とを比較すると、これらはそれぞれ前記したと
おり「PIAGE」と「ピアゼ」あるいは「PIAGET」の文字よりなるもので
あるから、それらの構成に徴し、本願商標は「ピアゼ」、引用商標は「ピアジェ」
の称呼を生ずるとみるのが相当である。そして、「ピアゼ」と「ピアジェ」の両称
呼は、語尾において「ゼ」と「ジェ」の音の相違があるものの、これらの音は母音
(e)を同じくする有声摩擦音であつて酷似した音質のものであるから、それぞれ
一連に称呼するときには語感語調が近似するものであり、したがつて、本願商標と
引用商標とは「ピアゼ」と「ピアジェ」の称呼において彼此相紛らわしい類似のも
のと判断するのが相当である。
6 また、「時計」は、時刻を表示し又は測定するという実用的な面と同時に、装
飾のために身に付ける装身具としての面を持ち合わせており、時間(time)、
場所(place)、場合(occasion)等に応じて衣服等とコーディネイ
トされることも少なくないものであり、この点において、時計と本願商標の指定商
品中の被服等とは使用状況、使用目的等において密接な関係を有しているとみられ
るものである。
7 してみれば、本願商標は、その指定商品中の衣服等に使用するときは、該商品
がピアジェ社又はその者と経済的もしくは組織的に何らかの関係がある者の業務に
係る商品であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれがあるものと断
ずるのが相当である。
8 したがつて、本願商標が商標法第四条第一項第一五号に該当するとして本願商
標の登録出願を拒絶した原査定は妥当であつて、これを登録することができない。
三 本件審決を取り消すべき事由
 本件審決理由の要点1ないし3は認める。同4は否認する。同5のうち、本願商
標は「ピアゼ」、引用商標は「ピアジェ」の称呼を生ずるとみるのが相当であり、
「ピアゼ」と「ピアジェ」の両称呼の語尾には「ゼ」と「ジェ」の音の相違がある
が、これらの音は母音(e)を同じくする有声摩擦音であるとする点は認めるが、
その余は否認する。同6及び7は否認する。同8は争う。
 本件審決は、引用商標が、本願商標の商標登録出願前より我が国の取引者、需要
者間においてピアジェ社の時計を表示するものとして広く知られ周知著名となり現
在に至つているものと誤認し(取消事由(一))、本願商標と引用商標とがその称
呼において類似すると誤認し(取消事由(二))、更に、引用商標の指定商品であ
る時計と本願商標の指定商品中の被服等とは使用状態、使用目的等において密接な
関係を有しているものと誤認し(取消事由(三))、ひいて、本願商標は、その指
定商品中の被服等に使用するときは、該商品がピアジェ社又は同社と経済的もしく
は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所に
ついて混同を生ずるおそれがあるとの誤つた結論を導いたものであつて、違法とし
て取り消されるべきである。
1 取消事由(一)について
(一) 商標法第四条第一項第一五号が適用されるためには、ピアジェ社の業務に
係る商品である「時計」を表すために主に用いられていた別紙(二)に示す商標
が、本願商標の商標登録出願日である昭和四六年九月六日当時、少なくとも本願商
標の指定商品である「被服、布製身回品、寝具類」の需要者、すなわち全国民に知
れわたつていることが必要である。なぜなら、本願商標の指定商品は、右のとおり
のものであるから、商標法第四条第一項第一五号にいう需要者は、本願商標の指定
商品の需要者であり、国民のすべてがこれらの商品を用いるものであるから、これ
らの商品の需要者とは、日本国民のすべてということになるのである。
 ところで、甲第一一号証は、一九八二年(昭和五二年)三月二三日の発行にかか
る、「時計」を始めとして「皮革製品」、「ファッション衣料」、「ファッション
製品」、「宝飾品」などに関する一流輸入ブランド三二〇を取り上げて紹介するマ
ーケティング情報誌であり、そこには、「時計」に関して、「オメガ」、「ロンジ
ン」、「ローレックス」のほか、いわゆる宝飾時計とされる「オーデマ・ピゲ」等
一五銘柄にも及ぶ一流輸入ブランドが紹介されているが、引用商標を付したピアジ
ェ社の時計は紹介されていない。もしも、ピアジェ社の時計についての引用商標
が、国民に多少とも知られており、なじみのあるものであるならば、右情報誌の発
行当時にあつては、同誌に紹介されることも有り得たはずである。しかるところ、
引用商標を付したピアジェ社の時計の紹介がないということは、とりもなおさず、
同誌発行の当時においてすら同社の時計に付された引用商標が、国民に広く知られ
ておらず、なじみの薄いものであつたことを示すものといわざるを得ないのであ
る。
(二) 被告は、引用商標を付したピアジェ社の時計について広汎な宣伝広告がな
されていたことを立証するものとして乙第一号証ないし第五号証を挙示するが、以
下に述べるように、右乙号各証をもつてしても、引用商標を付したピアジェ社の時
計の宣伝広告が他人の商品と混同を生じる程度に広汎になされていたと認めること
はできない。
(1) 右乙号各証によると、引用商標を付したピアジェ社の時計の広告を掲載し
た広告媒体は、「プレジデント」、「ゴルフ」、「ミセス」、「太陽」という月刊
誌である。昭和四六年当時、我が国における広告媒体別の広告費は、大きく分けて
新聞、テレビ、屋外その他、雑誌、ラジオ、ダイレクトメールの順で支出されてお
り、それぞれ三四・一%、三三・〇%、一五・七%、五・六%、四・九%、三・八
%の割合となつており(甲第七号証の株式会社電通発行に係る「DENTSU A
DVERTISING ANNUAL 72」第二七五頁)、広告媒体としての雑
誌は、広告媒体全体の五・六%程度利用されていたにすぎない。しかも、雑誌の中
には月刊誌のほか週刊誌、月二回発行誌、旬刊誌、季刊誌等各種の雑誌が含まれる
のであるから、月刊誌の広告媒体としての全体に占める割合は更に小さい。
 このように、昭和四六年当時の我が国における膨大な広告量の中でも、全体に占
める割合の小さな広告媒体である雑誌のうちのごく一部である月刊誌のみを利用し
た広告をもつて、引用商標をして、国民の大部分において他人の商品と混同を生じ
る程度に周知著名ならしめる広汎な宣伝広告が行われたものとは、到底いえない。
(2) このことは、また、昭和四六年当時の雑誌発行部数及び広告掲載頻度から
も裏付けられる。すなわち、
 乙第五号証によると、前掲の月刊雑誌「プレジデント」、「ゴルフ」、「ミセ
ス」、「太陽」の発行部数は、それぞれ四万三〇〇〇部、八万三〇〇〇部、不明、
三〇万部であり、一方、昭和四六年当時の我が国における月刊誌の数、発行部数
は、それぞれ一三二三点、九億一六三三万部である(前掲甲第七号証第一二一頁)
から、ピアジェ社の時計の広告を掲載した月刊誌の月刊誌全体に占める割合は、そ
の数の〇・三%、発行部数の〇・〇五%にすぎない。しかも、前掲乙第五号証記載
の発行部数が発行者の公称であり、発行部数のうち相当数の返品があることは出版
界の常識であることを考慮すると、読者の手に渡る部数はさらに少ないものと判断
される。
 また、被告作成の別紙(三)の月刊誌への広告掲載状況表の記載が仮にそのとお
りであるとしても、各月刊誌への広告掲載頻度は、発行部数の最も多かつた「太
陽」誌には一年間で二回、「プレジデント」誌には五年で二八回(五・六回/
年)、「ゴルフ」誌には四年で三五回(八・七五回/年)、「ミセス」誌には四年
で一二回(三回/年)にすぎないのである。しかも、最も広告掲載頻度の高い「ゴ
ルフ」誌は、当時の未だ数少ないゴルフ愛好家によつて主に購読される月刊誌であ
つて、その広告対象は極めて限定された範囲の人にすぎず、「プレジデント」誌の
発行部数は、本願出願当時の我が国の雑誌発行状況からみてはなはだ僅少である。
(三) また、被告は、引用商標の周知性を立証するために、乙第六号証ないし第
一五号証を挙示するが、右乙号各証によつても、引用商標を付したピアジェ社の時
計が我が国においてどの程度販売され普及したか窺い知ることは全くできないし、
また、引用商標が一般大衆に普及し、ピアジェ社の時計を表すものとして他人の商
品と混同を生じる程度に周知著名となつていたことを証するものではない。さらに
言えば、これらの証拠は、いずれも、ピアジェ社が数ある時計メーカーのうちの一
つであることを明らかにした同社の紹介記事にすぎないものであり、これらには、
「PIAGET」の文字がピアジェ社の時計に付される登録商標であることを明記
した内容すらも認めることはできない。しかも、右紹介記事の掲載誌は月刊誌が三
誌、単行本が三誌と極限されており、この点、前記したような昭和四六年当時の我
が国の出版状況からして取るに足らないものである。この程度の僅かな掲載誌での
記事をもつて引用商標が、他人の商品と出所の混同を生じる程度に周知著名であつ
たとは到底認められるものではない。以下、この点を右各証拠について詳述する。
① 乙第六号証の第二一一頁上欄第二一行ないし第二二行には、「ピアジェの年間
生産個数は、たかだか五千個ぐらい」との記載が認められる。当時の購買力の乏し
かつた我が国の世情からすると、そのうちの大部分は購買力の旺盛な欧米諸国に輸
出されていたもので、我が国に輸入された個数は極めて僅かであつたものである
(昭和四六年当時我が国の所得水準が欧米各国の所得水準に比べて相当低かつたこ
とは甲第八号証、第九号証から明らかである。)から、引用商標が我が国において
周知著名となり得べくもない。
② 前掲乙第六号証記載のピアジェ社の時計生産数量が、昭和四六年当時我が国に
おいて如何にとるに足りない数であつたかは、当時我が国で生産された時計の数
量、あるいは輸入時計の数量と比較してみても明らかである。すなわち、当時我が
国で生産されたウォッチは二四三二万七千個、輸入されたウォッチは一三九万三三
一二個で、総計すると二五七一万七三一二個となることが明らかであり(甲第一〇
号証第六六八頁表1、第六八四頁表11)、たかだか五千個ぐらい(乙第一一号証
及び第一二号証には年間七〇〇個との記載がある。)の生産量の極めてわずかなピ
アジェ社の時計が、我が国で到底周知著名となり得たものではない。しかも、輸入
ウォッチのメーカーは、乙第一三号証第二四六頁ないし第二四七頁に記載されてい
るものだけでも四一社あり、ピアジェ社の時計が輸入ウォッチの特定メーカーのも
のとして一般大衆に周知著名となり得たものではない。
③ 他方、乙第七号証の第二五六頁本文第五行ないし第九行には、欧米の販売店に
おいてもピアジェ社の製造にかかる時計に商標が付けられていない旨の記載があ
り、このことからも、引用商標がピアジェの社の時計を表示するものとして広く知
られたものではなく、まして我が国の大衆において同商標が当時周知著名でなかつ
たことは明白である。
④ 乙第九号証の第六八頁右欄第九行には、ピアジェ社の時計生産が大量生産方式
をとつていないことが明記されており、前掲乙第六号証の記載事実を裏付けている
ほか、その第六九頁右上欄には時計の写真が掲載されるとともに、この時計が日本
でただ一つしかない旨の記載が同頁右欄第一二行にある。この点においても、この
広告をみた日本人は極めて僅少であり、同社の時計広告が我が国においては甚だ微
々たる状態で掲載されていたにすぎないことを示唆するものであり、同社の時計の
広告が当時の国民大衆の目に触れることは殆どなかつたものといえる。
⑤ 乙第一〇号証には、その第二九頁ないし第三二頁にわたつて、「これらのスイ
ス時計ー日本で買えるブランドのすべて」なる記事の中程に、四五銘柄にも及ぶ多
数のブランド名に埋没されるような態様で、そのうちの一つとして、「PIAGE
T及びピアジェ」の文字が記載されているにすぎない。このような記事の記載内容
でもつて、引用商標がピアジェ社の製造にかかる時計であるとして、他人の商品と
混同を生じる程度の周知著名となり得る可能性は全くない。
⑥ 乙第一一号証ないし第一五号証は、いずれも単行本の記載記事であつて、その
一部の頁にピアジェ社の内容に触れた記事があるにすぎない。ことに、乙第一三号
証ないし第一五号証には、ピアジェ社以外の時計に関する記載は写真入りとなつて
いて顕著に認められるものの、ピアジェ社の時計に関しては何ら特別な表現はみら
れず、ややもすれば見逃す程度の記載でしかないのである。
⑦ なお、乙第一一号証の第一七二頁第四行ないし第五行には、ピアジェ社の時計
が格別高価であり、それ故に「ピアジェの愛用者といえば、世界の王候貴族や大実
業家、芸能人など、われら庶民とは桁違いの金持に限られる」との記載があり、同
社の時計が広く知られる可能性の全くないことが明記されている。すなわち、商品
が高価格であるなどの理由によりその普及性が著しく乏しい場合、そのような商品
に付された商標が周知著名になり得べくもないことはいうまでもなく、それ故に、
市場において引用商標が、何ら出所の混同を生じる対象となり得ないことは自明の
ことである。また、同号証には、右記載に続いて第七行に「年生産約七〇〇個」と
の記載があり、その生産個数が微々たるものであることが明らかにされている。そ
して、乙第一二号証の第一五六頁第五行ないし第七行にも右と全く同旨の記載があ
る。
(四) 更に、被告は乙第二五号証、第二六号証を挙示するが、乙第二五号証は、
毎年行われ、二九部門の多岐にわたつて設定されている雑誌広告賞の一部門につい
ての入賞結果を記載したものにすぎず、これにより雑誌に広告がなされていたこと
は窺えるものの、引用商標が広汎に宣伝広告されていたことを示すものでもなけれ
ば、国民の間に引用商標が広く知られるに至つたことを示すものでもない。すなわ
ち、同号証に記載の雑誌広告賞は、あくまで広告美術としての評価が行われたこと
を示すにすぎず、同号証添付の写第一八頁右上の写真に表された商標は、はなはだ
小さく、この一枚の写真の存在が引用商標を国民の大部分における世情一般に周知
ならしめたといえるものではない。したがつて、雑誌広告賞の一部門に入賞したか
らといつて、引用商標が、国民の大部分において他人の商品と混同を生じる程度に
周知著名となるものではない。更に、同じく乙第二六号証の記載記事も、引用商標
が時計業界において、商標法第四条第一項第一五号にいう混同を生じる程度に著名
であつたことを何ら立証しておらず、かつ、本願商標の指定商品である「被服等」
の需要者である国民の大多数からみて、本願出願当時において被服等に引用商標が
付されておれば、スイスの時計「PIAGET」の出所混同を生じるほどに著名で
あつたことを証するものでは毛頭ない。
2 取消事由(二)について
(一) 「ピアジェ」と「ピアゼ」の称呼を比較すると、両者は、四音又は三音半
という比較的短い音構成において、その中の一音に「ジェ」と「ゼ」という違いが
ある。そして、「ジェ」は、我が国で古くから馴染まれた音とはいえない外来の音
であるうえに、前音の母音「ア」と連結して「アジェ」と内に籠もる如く弱く発音
されるのに対し、「ゼ」は音声摩擦音「z」と母音「e」との結合により「ゼ」と
強く発音されるうえに、前音である母音「ア」と連結して「アゼ」と更に明瞭に聴
覚に響くといえるから、両者を「ピアジェ」、「ピアゼ」と全体として称呼すると
きは、称呼上相紛れるおそれはない。
(二) また、本件審決では、引用商標は別紙(二)のとおりであると認定してい
るが、登録異議申立てにおいて提出され本件審判で審理の対象となつた商標は乙第
二号証の一に示されるものであつて、欧文字の「PIAGET」は、ローマ字読み
(英米語読み)をするとピアゲットとなり、フランス語読みをするとピアジェとな
り、使用商標の片仮名は四文字であつてその発音はピアジエの四シラブルである。
これを詰めて発音してもピアジェであつて、四シラブル又は三シラブル半であり、
乙第二号証の一の記載から、この商標は、欧文字の最後の文字であるTが片仮名で
は無音に扱われていることから、フランス語系の発音であることが分かるし、この
商標の最後の「ジェ」なる発音はフランス語で表れることが多い発音である。これ
に対し、本願商標はピアゼと称呼されるものであり、フランス語系の発音とはおよ
そ無縁の称呼であつて、このことは本願商標と引用商標を比較すれば一般の日本人
にも容易に分別し得るものである。
 このような異なる特徴を備えた両商標は、称呼において明確に識別され、決して
類似するものではない。
(三) 更に、甲第一二号証及び第一三号証の各一に示す商標が、出願人を異にし
ながら現に独立の登録商標として存在するものであることは、同号証の各二の商標
登録原簿に見られるとおりであるが、両商標は、それぞれ「ゼツト」、「ジェッ
ト」の称呼を生じるものであり、両商標の指定商品のうち、前者の「医療補助品」
と後者の「医術用器械、器具」とは同一もしくは類似の商品である。
 してみれば、右両登録商標は、「ゼット」と「ジェット」の称呼上の違い、すな
わち、「ゼ」と「ジェ」があつたとしても、これがため両商標登録は互いに類似で
あると判断されなかつたものである。
(四) また、更に、ピアジェ社が商標登録出願していた第一七類の商品を指定商
品とする商標で、欧文字の「PIAGET」の文字と図形との結合商標二種の出願
(商願昭五五ー第一四五五八号及び商願昭五五ー第一四五六〇号)に対する登録異
議の各申立事件において、特許庁の審査官は、『「ピアジェ」の呼称と「ピアゼ」
の称呼とは相紛れるおそれはない。』と、本件審決の認定とは逆の認定をしている
(甲第三号証、第四号証)。
 これらの事実に照らしてみても明らかなように、「ピアゼ」と「ピアジェ」とは
非類似のものであつて、本件審決が、それぞれ一連に称呼するときにはその語感語
調が近似するとしたうえで、両者はその称呼において彼比相紛らわしい類似のもの
であると判断したのは誤りである。
3 取消事由(三)について
(一)(1) 異なる物品がコーディネイトの対象になるが故に、それら物品が出
所を同一にするものであるとの混同を生じるとは限らない。異なる物品でありなが
ら同一出所から供給されることが行われ出したのは、経済復興が顕著となり景気の
変動を経るに伴い各企業が企業間競争による利潤低下を回復させるために他種商品
を扱わざるを得なくなつた事情が生じたことと、その一つの対策として需要者の購
買意欲を刺激すべくなされるにいたつた時点、一般には、昭和四八年のいわゆる石
油ショック以降のことであつて、このことは、前掲甲第三号証及び第四号証の理由
中において『「PIAGET」「ピアジェ」といえば……戦後の復興期は兎も角と
して、近時においては、なかんずく、ファッションの分野においては、広く識られ
ているものとみるのが相当である。』との見解が出されており、右に「近似」とは
昭和五五年頃のことであるから、特許庁の審査官でさえ、引用商標が戦後ファッシ
ョンの分野においてあまり知られていなかつた時期の存することを認めているので
ある。
(2) また、ピアジェ社は、本願商標の商標登録出願当時に「PIAGET」と
いう商標を第一七類について登録出願していなかつたわけであるが、その一事をも
つてしても、同社が、それ以前において時計と第一七類の商品が「密接な関係」を
有するものとは考えていなかつたと解し得るのである。
(3) したがつて、本件審決の「時計と本願指定商品中の被服等とは使用状態、
使用目的等において密接な関係を有しているとみられるものである、」との認定は
誤りである。
(二) 被告は、本願出願前に時計と被服が密接な関係を有していたことを立証す
るものとして乙第一六号証ないし第二四号証を挙示するが、これら乙号各証は、い
ずれも本願商標の商標登録出願がなされた昭和四六年当時、時計と被服とが密接な
関係を有していたとする証拠とはなり得ない。すなわち、
 本件審決が認定するように、「時計と本願商標の指定商品中の被服等とは使用状
態、使用目的等において密接な関係を有し」といい得るためには、商品「被服」と
「時計」とが、少なくとも同一製造所での製造、同一流通経路の利用あるいは同一
販売店での取扱いなどの共通要素を備えており、需要者をして両商品の出所の混同
を生じさせる程度の密接な関係がなければならないと解されるところ、被告の挙示
する乙第一六号証ないし第二四号証に記載の記事は、単に、時計、眼鏡、帽子、鞄
などの物品がアクセサリの一種となり得るとして列挙しているにすぎず、これらの
物品が需要者にとつて出所の混同を生じさせる程度に密接な関係を有していること
を示すものではない。なるほど、時計と眼鏡とが同一店舗で販売されていることは
社会常識として認め得る点もあるが、時計と帽子あるいは鞄とが同一販売店で扱わ
れているなどという例は、現在においても、百貨店においてはいざ知らず、数少な
いものである。まして、昭和四六年当時にそのような例があつたとは到底考えるこ
とができない。
4 まとめ
 前記1において述べたように、引用商標は、本願商標の商標登録出願日である昭
和四六年九月六日当時ピアジェ社の製造にかかる時計を表示する商標として、我が
国では周知著名でなかつたものであり、更に、前記2において述べたように引用商
標と本願商標とは、外観、観念においては勿論のこと、その称呼においても非類似
のものであり、しかも、3で述べたように、本願商標の指定商品である衣服等と引
用商標にかかる時計とは、昭和四六年当時密接な関係があつたものとはいえないか
ら、本願商標が商品「被服等」に使用されるときには、ピアジェ社にかかる商品と
出所の混同を生じる余地は全くない。たとえ、時計と被服とが関係を有し、コーデ
ィネイトの対象となるとしても、昭和四六年当時においては、極めて僅かの国民が
そのことを認識するにすぎなかつたものであり、そのことによつて、当時における
大部分の国民が、引用商標と本願商標とを混同するおそれはないとしなければなら
ない。換言すれば、商品の出所が混同を生じるか否かは、大衆がピアジェ社の時計
と混同を生じる可能性があるか否かを基準として判断されるべきであり、このこと
が商標法第四条第一項第一五号の趣旨であるところ、昭和四六年当時の微々たる時
計生産量のピアジェ社の時計の商標が、大衆を対象とする「被服」を指定商品とす
る本願商標と、混同を生じる可能性が全くないことは明白である。
 そうだとすれば、乙第一六号証ないし第二四号証は、本件審決の前記認定の証拠
足り得ず、したがつて、本件審決の、本願商標は、その指定商品中の被服等に使用
するときは、該商品がピアジェ社又はその者と経済的もしくは組織的に何らかの関
係がある者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそ
れがあるものと断ずるのが相当であるとの判断は、誤りである。
第三 請求の原因に対する答弁及び被告の主張
一 請求原因の一及び二は認める。
二 同三の主張は争う。本件審決の認定判断は正当であつて、原告が主張するよう
な違法の点はない。
1 取消事由(一)について
 本願商標の商標登録出願前から、ピアジェ社の総代理店である平和堂貿易株式会
社により、引用商標の付されたピアジェ社の時計について別紙(三)のとおりの宣
伝広告がなされていたものであつて、このことは、乙第一号証ないし第五号証及び
第二五号証から明らかである(乙第一号証ないし第四号証は、月刊雑誌にピアジェ
社の時計に関する広告が掲載されていたことを証するものであり、第五号証は、右
広告の掲載された雑誌の発行状況を示すものであり、第二五号証は、ピアジェ社の
時計に関する広告が雑誌広告賞に入賞したことを証するものである。)。そして、
引用商標が、本願商標の商標登録出願前より、ピアジェ社の時計を表示するものと
して我が国において周知著名となつていたことは、乙第六号証ないし第一五号証に
徴しても認め得るところである。
2 取消事由(二)について
 本願商標と引用商標とが、「ピアゼ」と「ピアジェ」の称呼において類似するも
のであることは、本件審決認定のとおりである。
3 取消事由(三)について
 時計は、身に付けて使用するという点において装身具(アクセサリー)としての
面も持ち合わせていること明らかであつて、本願商標の商標登録出願前既に、この
面において被服と密接な関係を有していたと言い得ることは、乙第一六号証ないし
第二四号証に徴しても認め得るところである。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件審決理由の要点、本願商標及び
引用商標の構成並びに指定商品が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事
者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断
1 取消事由(一)について
(一)(1) 成立に争いのない乙第六号証ないし第一五号証によれば、
① 昭和四四年三月一〇日株式会社スタイル社発行の「男子専科」三月号の「超一
流物語」と題するピアジェ社の紹介記事が「華麗なる時の刻み」「ハンドメードの
超うす型の魅力」との大見出のもとに、別紙(二)の商標や同社のいわゆる宝飾時
計の写真と共に二頁にわたつて掲載されていること、
② 昭和四二年四月一日株式会社婦人画報社発行の「婦人画報」四月号の「世界の
一流品」、「ピアジェの時計」と題する紹介記事が三頁にわたつて掲載され、そこ
には同社の時計が宝飾品としての時計であること、一〇〇年以上の歴史を有するこ
とが記載され、昭和四六年四月一日発行の同誌四月号の「男性の持ちたがるアクセ
サリーの一流品」と題する特集記事の中にピアジェ社の七八万円の時計が、「超高
級品」で、「時計」といつた実用性より「時を刻む名機」といつた芸術性としての
誉れが高いと紹介されていること
③ 昭和四五年三月二五日株式会社新装飾発行の「装身具」第八号の表紙にピアジ
ェ社の一四九万円の腕時計の写真が掲載され、かつ、「これがピアジェだ」と題す
る二頁のPR記事が「芸術品ピアジェ」などの小見出とともに掲載されているこ
と、昭和四五年一一月五日発行の同誌第一〇号には、『「これがスイスの時計」日
本で買えるブランドのすべて』と題する紹介記事の中でピアジェ社の時計も豪華な
美観の宝飾時計として紹介され、かつ、同社の日本における総代理店が平和堂貿易
株式会社であることが紹介されていること
④ 昭和四三年一一月二〇日株式会社ペリカン社発行の国際商品研究会編『「世界
の一流品」銀座が選んだベスト一〇〇』と題する単行本、及び昭和四五年一一月一
〇日発行のその「最新版」の「腕時計」の項には、「腕時計は今やアクセサリーに
なつている」、「世界中の腕時計が装飾の要素を帯びてきつつあることだけは確か
な事実である。こうした傾向の先端を行くのがスイスのピアジェ(PIAGET)
“時を刻む芸術品”というのがそのキャッチフレーズだが、その言葉通り、これま
での実用品腕時計の概念からはほど遠い華麗なジェルウォッチである」と紹介され
ていること、
⑤ 昭和四七年二月二九日株式会社三一書房発行にかかる【A】著「時計 蒐集の
魅力と神秘」と題する単行本において、時計の世界におけるランクを超一流品と一
流品に分類し、超一流の宝飾品として「ピアジェ」の名が工芸的価値あるものとし
て挙げられて紹介されていること、
⑥ 昭和四〇年六月一五日株式会社早川書房発行にかかる【B】著「時計の話」と
題する単行本の「スイスの時計工芸」の項には、工業製品というより工芸品と呼ぶ
にふさわしい極薄時計や超小型時計を作るメーカーの一つとして一八七四年設立の
ピアジェ社があり、同社は、一九四六年に一・三四ミリの超薄型時計を発表し、一
九六〇年に二・三ミリの驚異的な薄型自動巻時計を発表して全世界の注目を浴び、
このような極薄型時計は全世界の高級時計宝飾店に陳列されているとの記述がある
こと
⑦ 昭和四五年一二月二日読売新聞社発行にかかる【A】著「紳士のライセンス 
国際人のための一流品」の時計の項に、超一流品としてピアジェ(PIAGET)
の時計が紹介されていること
が認められ、
(2) また、前掲乙第六号証、第一一号証及び第一二号証によれば、昭和四三年
秋に東京のホテルオークラで、昭和四五年秋に東京・プリンスホテルで、いずれも
出品総額十億円に達するピアジェコレクションの内覧会が開かれたことが認めら
れ、
(3) 更に、成立に争いのない乙第一号証の一ないし六、第二号証及び第三号証
の各一ないし四、第四号証、第五号証及び第二六号証に本件口頭弁論の全趣旨を総
合すれば、
① スイス国の時計メーカーであるピアジェ社と平和堂貿易株式会社との間で、昭
和三五年五月に総代理店契約が締結されたこと、
② 平和堂貿易株式会社は、いずれも我が国全域で販売されている株式会社ダイヤ
モンドータイム社発行の月刊誌「プレジデント」(公称発行部数四万三千部)の昭
和四一年一二月号、昭和四二年ないし昭和四六年の各六月号、株式会社報知新聞社
発行の月刊誌「ゴルフ」(公称発行部数八万三千部)の昭和四二年一二月号、昭和
四三年ないし昭和四五年の各四月号、文化服装学院出版部発行の月刊誌「ミセス」
(公称発行部数不明)の昭和四三年一〇月号、昭和四四年ないし昭和四六年の各七
月号、及び株式会社平凡社発行の「太陽」(公称発行部数三〇万部)の昭和四二年
五月号に、いずれも一頁全部を使つたピアジェ社の時計の広告を掲載したこと、
③ 右広告の内容は、別紙(二)の引用商標を文字板に記載した、三四万円から六
三〇万円という価格の二ないし四個(「ミセス」の昭和四三年一〇月号は七個)の
時計の写真と、「スイスの国宝級手工芸品」、「時を刻む芸術品ピアジェ」、「ピ
アジェ……時計というより優美な宝飾品です」というようなキャッチフレーズと、
ピアジェ社の製造する時計が高級、高性能の時計であることを強調する説明文を掲
載したものであること、
④ 平和堂貿易株式会社は、前記2認定の広告のほか、前記「プレジデント」の昭
和四二年ないし昭和四五年の各二月号、四月号、八月号、一〇月号(昭和四五年を
除く)、一二月号及び昭和四六年の二月号、四月号、八月号、前記「ゴルフ」の昭
和四三年ないし昭和四五年の各一月号ないし三月号、五月号ないし一二月号(昭和
四三年七、八月号を除く)、前記「ミセス」の昭和四四年一月号、昭和四五年一月
号、四月号、九月号及び一一月号、昭和四六年一月号、三月号及び五月号、前記
「太陽」昭和四二年六月号に、前記(2)②と同様の広告を掲載したこと、
⑤ これらの雑誌は高級装飾品志向の階層の人々をも読者層としており、その販売
区域は我が国全域に及んでいること
が認められる。
 以上の①ないし⑤の事実によれば、ピアジェ社の総代理店である平和堂貿易株式
会社は、昭和四一年一二月から本願商標の商標登録出願前の昭和四六年八月迄の間
に、全国向けの月刊誌である「プレジデント」に二七回、同「ゴルフ」に三三回、
同「ミセス」に一二回、同「太陽」に二回、いずれも一頁全部を使つたピアジェ社
の時計の広告を掲載していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 以上の事実を総合勘案すると、特に、本願商標の商標登録出願がなされた
昭和四六年九月六日以前より、平和堂貿易株式会社は、引用商標を付して使用する
時計について、装飾品、特に装飾用時計に興味を有する階層を対象として、我が国
全域にわたつて広告宣伝活動をしていたのであり、その広告宣伝の内容、規模、体
裁からみて、引用商標がピアジェ社が時計について使用する商標であることは、需
要者である前記のような階層の人々に周知著名となつていたものと認めることがで
きる。
(三) そこで原告の周知性に関する主張について検討する。
(1) まず、原告は、商標法第四条第一項第一五号が適用されるためには、引用
商標が本願商標の商標登録出願日である昭和四六年九月六日当時、少なくとも本願
商標の指定商品「被服、布製身回品、寝具類」の需要者、すなわち全国民に知れわ
たつていることが必要である旨主張するが、問題とされるべきは、本願商標をその
指定商品中の被服等に使用した場合に、引用商標を付した時計の需要者が右被服等
がピアジェ社又は同社と経済的もしくは組織的に何らかの関係がある者の業務にか
かる商品であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれがあるか否かと
いうことであるから、被服等の需要者について出所混同を論ずる原告の右主張は、
その前提において誤つており、採用することはできない。
 また、原告が主張するように成立に争いのない甲第一一号証(サンケイ新聞年鑑
局マーケティング事業部発行「82 ザ ブランド(舶来ブランド辞典)」にはピ
アジェ社の時計は紹介されていないが、前記一(1)において認定したとおり、乙
第六号証ないし第一五号証の雑誌及び書籍には、引用商標を付したピアジェ社の時
計が著名なブランドの一つとして紹介されているのであるから、甲第一一号証にそ
の紹介がないとの事実から、原告が主張するように、引用商標が周知でないと断ず
ることはできない。
(2) 原告は、広告媒体としての雑誌に支出される広告費の割合、雑誌の中の月
刊誌の占める割合、その広告掲載頻度、引用商標を付したピアジェ社の時計が掲載
された月刊誌の発行部数等各種の統計上の数値のほか、広告が掲載された単行本の
種類を挙げて、引用商標の周知性を争つている。
 しかし、一般に特定の事項(例えば特定の商品、イベント等)に関心を有する者
は、これに関する宣伝広告の類には、その種類、内容、形式、頻度等を問わず常時
注意を払つており、また、特に注意を払わなくとも自ずとこれに気付くものであ
り、このことは、引用商標の周知性が問題とされる高級装飾品志向の階層の人々に
とつても例外ではなく、むしろその志向対象からみてこのような階層の人々は自ら
限られており、また、それなるが故に宣伝広告に対する関心は強いものとさえ推測
できる。しかも、本件において広告媒体とされる雑誌、単行本は店頭に置かれてお
り、必ずしも購入しなくても目に触れる機会が多いと考えられるのであり、更に前
記(一)に認定した引用商標を付したピアジェの広告はその内容、規模、体裁から
みて読者に与える印象が強いと認められることも勘案すれば、原告が主張する各種
の統計的数値等をもつて前記認定に係る引用商標の周知性を左右することはできな
いものというべきである。
(3) また、原告は、本願商標出願当時、通常の時計に比してピアジェ社の時計
の生産量、販売量が少ないことを理由として引用商標の周知性を争つている。
 なるほど、乙号各証によるも、昭和四六年当時、引用商標を付したピアジェ社の
時計が日本国内でどの程度販売されていたのか、また、どのような態様で販売され
ていたのかは明らかではないが、ピアジェ社の時計は前認定のとおり宝飾時計とい
われる高級時計であつて、通常の時計の生産数量及び販売数量と対比することがで
きない商品と解すべきであるから、それらとの対比において周知性を論ずることは
相当でなく、生産数量及び販売数量の少ないことをもつて周知性を否定する事情と
解することはできない。
 なお、原告は、乙第七号証中の欧米の販売店においてもピアジェ社の製造にかか
る時計に商標が付けられていない旨の記載を周知性否定の根拠の一つとして引用す
るが、右記載の意味するところは、後記4(二)(2)において認定説示するとお
り、ピアジェ社の時計の装飾性に注目し、時計以外の各種専門店が自社の「留柄」
を付した時計を発注しているということを記述しているのであつて、引用商標の周
知性と直接の関係はない。更に、乙第一〇号証第二九頁には「この紹介記事は、日
本総代理店からの資料に基づいて作りました。したがつて短く解説してあるブラン
ドは、提供データの少ない会社のものです。」と記述されているから、ピアジェの
時計の紹介記事が原告主張のように四五銘柄中の一つとして記述されているにすぎ
ないのは、同社の総代理店である平和堂貿易株式会社の資料提供が少なかつただけ
のことで、その周知性を否定する根拠となり得るものではない。その他乙第一三号
証ないし第一五号証の記載についての原告の主張は、独断と解するほかなく、前認
定の乙第一三号証ないし第一五号証の記載事項の意味するところを否定する事項は
何ら認められない。
(4) 原告は、昭和四六年当時の我が国の所得水準が欧米各国の所得水準に比べ
て相当低かつたこと、商品が高価格であるなどの理由によりその普及性が著しく乏
しいことを周知性否定の根拠とするところ、高価な宝飾時計が実用本位の廉価な時
計に比べてその普及性が乏しいからといつて、それなるが故に周知性を獲得するこ
とがあり得ないとはいえないのであつて、前記1(一)(1)ないし(3)におい
て認定した事実に徴すれば、ピアジェ社及び引用商標を付したピアジェ社の時計
が、装飾用時計に興味を有する階層の人々(その多くは高所得者層であると推認さ
れる。)に周知となつていたものと認められるのであるから、原告が主張するよう
な一般論をもつてそれらの事実を否定することはできず、したがつて、原告の右主
張は採用することができない。
(四) よつて、原告の取消事由(一)の主張は理由がない。
2 取消事由(二)について
(一) 本願商標は「ピアゼ」、引用商標は「ピアジェ」の称呼を生ずること、
「ピアゼ」と「ピアジェ」の両称呼は、語尾において「ゼ」と「ジェ」の音の相違
があるが、これらの音は母音(e)を同じくする有声摩擦音であることは原告の認
めるところであり、「ゼ」と「ジェ」は、いずれもザ行に属する酷似した音質のも
のと認められ、本願商標と引用商標を一連に称呼すれば、両者は語感語調が相似す
るものとして聴取され、両者は、その称呼において彼此相紛らわしい類似のものと
認めるのが相当であつて、これと同旨の本件審決のこの点の判断に誤りがあるとは
いえない。
(二) このように、本願商標は「ピアゼ」、引用商標は「ピアジェ」と一連のも
のとして称呼されるものと解すべきであるから、両者における「ゼ」と「ジェ」の
相違を、原告主張のように「アゼ」と「アジェ」の相違に置き換えてその違いを強
調することは相当とはいえず、そうした分析に基づく原告の右主張は採用すること
ができない。また、原告は、本願商標はピアゼと称呼されるものであるのに対し、
引用商標はフランス語系の発音であり、両者は無縁の称呼であつて、明確に識別さ
れる旨主張するが、それが何国語系であるにせよ本願商標が「ピアゼ」、引用商標
が「ピアジェ」と称呼され(このことは当事者間に争いがない。)、既に述べたよ
うにその両者の称呼が類似していると認められる以上原告の右主張は失当であり、
採用することができない。更に、原告が援用する甲第一二号証及び第一三号証の各
一、二は本件とは事案を異にするし、また、原告が援用する甲第三、第四号証につ
いては、当裁判所と見解を異にするもので、採用し得ないところである。
(三) よつて、原告の取消事由(二)の主張は理由がない。
3 取消事由(三)について
(一)(1) 成立に争いのない乙第一六号証ないし第二三号証によれば、「婦人
画報」(婦人画報社発行)の昭和四五年三月号、昭和四六年四月号、五月号、「男
子専科」(株式会社スタイル社発行)の昭和四一年七九号、昭和四三年八九号、昭
和四四年九六号、「ミセス」昭和四三年一〇月号、同一二月号には、時計の装飾性
が高まつてきていること、時計はアクセサリーの一つであること、時計を服装に合
わせること、ブレスレットの代わりに時計を用いること等が一つのファッションと
して紹介されていることが認められる。
(2) また、成立に争いのない乙第二四号証によれば、昭和四八年五月一日株式
会社河合企画室発行の「時計史年表」によれば、一九六〇年(昭和三五)の欄に
「生産金額は……生産量の増加率より高くなつているが、これは比較的高級品が多
くなつたためで、生活水準の向上に伴つて腕時計のアクセサリー的傾向が強くなつ
てきたことを示す。」との記載があることが認められる。
(二) 以上によれば、「時計」は、時刻を表示し又は測定するという実用的な面
と同時に、装飾のために身に付ける装身具としての面を持ち合わせており、時計を
衣服等に合わせて、あるいは衣服等に時計を合わせて用いられることもあるのであ
つて、しかも、本願商標の指定商品中の被服等とは当然高級品も含むものであるか
ら、時計と本願商標の指定商品中の被服等とは使用状態、使用目的等において密接
な関係を有していると解するのが相当であつて、これと同旨の本件審決の認定判断
に誤りはない。
(三) 原告は、時計と被服等とが密接な関係を有するものといい得るためには、
商品「被服」と「時計」とが、少なくとも同一製造所での製造、同一流通経路の利
用あるいは同一販売店での取扱いなどの共通要素を備えておる等の関係がなければ
ならない旨主張するが、原告主張の場合に限らず、被服と時計のように、コーディ
ネイトの対象となる商品同士、換言すれば、同一の用途に使用されるような商品同
士であれば、原告主張のような共通要素がなくとも出所の混同を生ずるおそれのあ
ることは否定できないのであるから、原告の右主張は採用することができない。
(三) よつて、原告の取消事由(三)の主張は理由がない。
4(一) 前記1ないし3において認定説示したとおり、引用商標は、本願商標の
商標登録出願日である昭和四六年九月六日前において、ピアジェ社の時計を表示す
る商標として周知著名であつたものと認められ、かつ、引用商標と本願商標とは、
その称呼においても類似するものと認められ、更に、本願商標の指定商品である衣
服等と引用商標にかかる時計とは、使用状態、使用目的等において密接な関係を有
しているものと認められるのである。
(二) そして、右事実に加え、
(1) 前掲乙第一六号証によれば、その第四五頁には世界的に著名な服飾メーカ
ーであるクリスチャン・ディオールのアクセサリー製品が一四点掲載されており、
同社が衣料品とは別にアクセサリーもそのブランドで販売していることが窺われ、
(2) また、前掲乙第七号証には、「パリのカルチェ、ブーシュロン、エルメ
ス、フランクフルト・アン・マインのカール・フリードリッヒ、ニューヨークのテ
ィファニーなど、一流の専門店は、メーカーとしてのピアジェに留柄の商品をスペ
シャルオーダーし、ピアジェの商標はつけられていないのですが、これらの時計の
なかば以上は、ピアジェ製なのです。」との記載があり、右記載によれば、右各専
門店はピアジェ社の時計の装飾性に注目し、同社に自社の「留柄」を付した時計を
作らせて販売していることが窺われる(なお、乙第一〇号証、第一一号証及び第一
四号証の記載から、右各専門店は、いずれも時計メーカーでないことは明らかであ
る。)。
(3) 右の各事実に徴すれば、本願商標の商標登録出願前において、著名な専門
店が専門品以外の商品をも扱つている例が存したことを窺うことができ、これに反
する証拠はない。
(四) 以上によれば、本願商標は、その指定商品中の被服等に使用するときは、
該商品がピアジェ社又はその者と経済的もしくは組織的に何らかの関係がある者の
業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるもの
と解するのが相当であつて、これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく、これを誤
りであるとする原告の主張は、採用することができない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に違法があることを理由に本件審決の
取消しを求める原告の請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを
棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法
第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松野嘉貞 川島貴志郎 小野洋一)
別紙(三)(省略)
別紙(一)
別紙(二)
<12767-001>

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