弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月に処する。
     但しこの判決の確定した日より二年間右刑の執行を猶予する。
     原審における訴訟費用中、証人A、同B、同C、同D、同E、同F、同
G、同H、同I、同Jに支給した分は被告人の負担、同Kに支給した分は被告人及
び原審相被告人Lの平等負担、当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人高宮蘇吉の控訴趣意は末尾に添付する控訴趣意書に記載するとおりであ
る。
 所論によれば、原判決が被告人においてM有限会社の社員としてその業務上A外
九名の生産者から「なたね」三十七叺を買入れて、一叺につき金三千二百円(又は
三千円)の割合で右生産者等に支払つた旨認定した金員は、同会社から将来右生産
者等に対し油及び油粕の還元配給をなすことを担保するための保証金であるという
のであつて、結局この点に関する原判決の事実の認定が誤つているということに帰
する。しかし所論の各証人の証言中には所論にそうべき供述がないではないが、こ
れらの供述は原審証人E、同C、同J、同Kの各証言に照して到底信用するに足り
ないのみならず訴訟記録及び原審の取調べたその他の証拠を精査しても、原判決に
所論のような事実の誤認があるとは認められないから論旨は理由がない。
 <要旨>次に職権を以て調査するに、原判決中被告人に関する判示第一によれば、
原判決は「被告入はM有限会社の社員として同会社の業務上、昭和二十四年
七月十五日頃より同月二十日頃までの間十回にわたりA外九名より、同人等が生産
した「なたね」三十七叺(一叺十二貫入)を買受けるに当り、その代金を統制額よ
り六万二千百二十五円五十銭超過した金十一万七千八百円と定め、これを油及び粕
の還元配給保証金名義で生産者に交付し」た旨を認定しながら、更に「もし将来会
社から生産者に対し油及び粕の還元配給がない場合には自然この金額を以て取引を
決済終了する暗黙の約旨の下に「なたね」の買受けをなし、以て物価統制令所定の
統制額超過支払禁止を免るる行為をしたものである」旨を認定しているのである。
すなわち原判決は、それぞれ一個の行為を構成する一連の事実について、その前段
においては物価統制令第三十三条第一号、第三条の違反に該当する事実を認定しな
がら、その後段においては同令第三十三条第三号、第九条の違反に該当する事実を
認定し、しかもその全部を後者の法条に問擬処断しているのであつて、原判決には
明に理由のくい違いがあるものといわなければならない。それ故原判決は破棄を免
れない。
 そこで刑事訴訟法第三百九十七条、第三百七十八条第四号後段及び第四百条但し
書に則つて、原判決を破棄し旦つ当裁判所は更に自ら次のとおり判決する。
 被告人は油糧配給公団の指定集買機関である別府市大字a、M株式会社の臨時社
員として同会社の業務に関し、法定の除外事由がないのに原判決添付の被告人に関
する買受一覧表記載のとおり昭和二十四年七月十五日頃より同月二十日頃までの間
十回にわたり大分県直入郡b村において、A外九名より同人等が生産した「なた
ね」三十七叺(一叺十二貫入)を、その統制額より金六万二千百二十五円五十銭超
過した代金合計十一万七千八百円で買受けたものである。
 (証拠説明省略)
 被告人の判示各所為は物価統制令第三十三条第一号、第三条、第四条昭和二十四
年八月十日物価庁告示第六百一号に各該当するところ、以上は刑法第四十五条前段
の併合罪であるから所定刑中各懲役刑を選択した上、同法第四十七条本文第十条に
よつて、その内犯情の最も重い管国登との関係における罪の刑に法定の加重をな
し、その刑期の範囲内において被告人を懲役四月に処する。但し諸般の犯情を考慮
して同法第二十五条に従いこの判決の確定した日より二年間右刑の執行を猶予す
る。
 なお主文掲記の訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項によつて被告人の負担
とする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 谷本寛 判事 竹下利之右衛門 判事 佐藤秀)

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