弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄し本件を大阪高等裁判所に差戻す。
         理    由
 上告代理人石井寛三の上告理由は末尾に添附した別紙記載の通りである。
 按ずるに、上告人が本件賃貸借解除の理由として「原告は父の没後会社勤めをし
て母と共に細々と生計を営んでいるが、近来の世情では到底家産を維持することも
困難だつたので、親族協議の上本件家屋は祖先の建築したものであるから子孫とし
て之を守つて祭祠の礼を果すと共に原告は未婚の婦女であるから将来一身の落付を
つけ母を顧る為めにも本件家屋に居住するが至当であり又右家屋に居住して何等か
の商業を営み生活の資を稼がねばならない情況にあるので」云々と主張したことは
原審口頭弁論調書並に第一審判決事実摘示の記載により明らかである。右主張が、
本件賃貸借解除の根本の理由である。そして、民法の規定によれば、賃貸人は何時
でも六ヶ月の期間をおいて解約することができたのであるが、借家法第一条の二は、
借家人の利益の為めにこれに制限を加えたのである、しかし同条は「建物の賃貸人
は自ら使用することを必要とする場合其の他正当の事由ある場合に非ざれば」云々
と規定し、自ら使用することを必要とする場合を特に挙げてこれを正当の理由ある
場合の一として居るのである。それ故、当初は賃貸人自ら使用する必要ある場合は
それだけで当然正当の理由あるものと解されて居たのであるが、その後住宅難が追
々甚だしくなるに従い解釈もそれにつれて借家人の利害を漸次重視するに至つたの
である、しかし所有権は何といつても強力な権利であり、所有者が自己の所有物を
自ら使用する必要ある場合は相当重視されて然るべきである。殊に上告人の主張は、
上告人は未だ若年の婦女の身で母を顧みなければならず本件家屋に住んで何か商業
を営む外生活を立てる道がないというのであつて、果してそういう事実だとすれば
これは相当重大な事由であり、被上告人の方にこれに打ち勝つべき格段の利害関係
がない限りそれだけで当然正当の事由となり得べきものである。しかるに、原審が
被上告人の方に上告人の解約申入を拒絶すべき如何なる理由あるかにつき何等判示
するところなく、上告人の解約申入を正当な理由なしとしたのは「右正当の理由」
の解釈を誤つたか然らざれば理由不備の違法あるものといわざるを得ない。(原審
は被上告人側の利害関係につき何等判示するところがない。然しおそらくは現今の
住宅難ということが頭にあつたのであろうしかし抽象的には現今非常な住宅難であ
ることは周知の事実であるけれども絶対に移転先がないというわけでないのは勿論
具体的の場合には比較的容易にこれを見出し得る場合もないではない。それ故単に
抽象的に現今の住宅難というだけではいけない。殊に上告人側において前記の如く
重要な理由の主張をして居る以上具体的の事情につき双方の主張を聞き十分の審理
をして比較判断をしなければならない)更に又原判決は、「原審における控訴人申
請の各証人及び当審における証人Dの証言に徴すれば控訴人は右売買の主張が認め
られないときは何時でも従前通り賃料を支払う準備をしており家屋の使用方法を変
更するような意向も認められないから控訴人が右のような主張をしたからとて直ち
に本件賃貸借関係について相互の信頼関係を裏切り或は被控訴人のもつ賃貸人とし
ての地位に大きな不利益を生ずるものとは認められない」と判示した。然し、被上
告人が売買が存在しないに拘わらず存在したと主張し、賃貸人の所有家屋を自己の
所有物なりと主張して裁判によりこれを奪取せんとしたものとせば、かくの如き行
為はそれだけで著しく信頼関係を裏切るものであることはいう迄もない。それ故原
審が被上告人主張の売買は認められないと判断した以上、被上告人の行為を以て信
頼関係を裏切るものにあらずとなすには、被上告人が売買が成立したと信じて居り、
しかも信ずるにつき相当の理由があつた場合等其他正当の事由がなければならない、
単に売買が認められなければ賃料を支払うつもりで用意をして居たとか、家屋の使
用方法を変更する意図も認められないとかいうだけのことでは足りない。しかるに
原審が右正当な事由につき何等判示するところなくして信頼関係を裏切るものでは
ないと判断したのは到底首肯することができない。なお又事情の如何によつては(
例えば被上告人が故意に売買が存在しないに拘わらず存在したと主張して賃料の支
払をしなかつた様な事実であつたとすれば)たとえ原審のいう如くその額は少額で
あつたとしても賃料の不払を原因として為した上告人の賃貸借契約解除は必ずしも
原審のいう様に信義誠実の原則に反するものということはできないであろう。此の
点においても原審の判断は理由不備の感なきを得ない。以上の理由により原判決は
借家法第一条の二の解釈を誤つたか然らざれば理由不備の違法があるといわざるを
得ない、よつて上告を理由あるものとし其余に対する説明を省略し民訴第四〇七条
により主文のとおり判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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