弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人竹野竹三郎の上告理由第一点について。
 原審認定の事実によれば、上告人は昭和二四年九月一四日被上告会社から当時増
資新株引受申込期間中のD亜鉛株式会社増資新株五〇〇株を、その受渡は株金払込
領収証に白紙委任状を添附してこれをなす趣旨で買受けたというのであつて、この
事実によるときは、右売買の目的物は、株金の払込を了し具体的に発生した株式の
引受による権利であること明らかである。けだし株券発行前の株式の売買は具体的
に発生した株式(増資の場合にあつては増資の効力発生後の株式)をその目的とす
るものであつて、株式の引受による権利の売買と区別さるべきものであるところ、
本件においては受渡の目的物を単に白紙委任状附株金領収証としたに止まり、特に
増資発効後の株式を売買の目的とした趣旨は何ら現われていないのであるから、前
示売買はむしろ株式の引受による権利を目的としてなされたものと解するのを相当
とする。もちろん右売買当時は未だ増資新株引受申込期間中であつて、具体的な株
式の引受による権利は発生していないけれども、その発生を待つて受渡を完了する
趣旨でこれを目的として売買することを何ら妨げられるものでなく、本件の売買は
あだかもかかる売買に該当するものと解すべきである。所論は独自の見解に基き原
判決を攻撃するものかまたは原審の適法にした証拠の取捨判断もしくは事実の認定
を非難するに帰し、上告適法の理由とならない。
 同第二点について。
 一般に株金払込期日前においては株式の引受による権利は未だ具体的に発生しな
いことは所論のとおりである。しかし具体的に未だ発生しないかかる権利であつて
も、これをもつて売買の目的となしえないものということはできない。その具体的
な発生を待つてその授受を了する趣旨の下にこれを目的として売買契約を締結する
ことも可能であり(これを否定するときは株式の成立を待つてその授受をすべき旨
の株式の売買も当然に否定さるべきである)、広義においてはかかる譲渡もこれを
商法第一九〇条にいわゆる「株式ノ引受ニ因ル権利ノ譲渡」に包含せしむるを相当
とする。けだしその契約の時はこれを異にしても、その取引の目的は株式の引受に
よる権利である点において同一であるからである。そうだとすればその法律上の効
力についても同条の適用があり、従つて当事者間においてはその効力を有するもの
といわなければならない。所論慣習の点に関する論旨は本件の帰趨に関係がなく、
株金払込期日前の株式譲渡なることを前提とする論旨は、すでにその前提において
採るをえないこと前示説明のとおりである(のみならず株金払込期日前の株式売買
といえども、当事者間においてはこれを無効とすべき根拠はない)。なお所論引用
の前二判例は、単に株主に引受の義務がないことを判示するものにすぎず、本件と
関係がなく、所論昭和一三年(オ)二三八号は昭和二三年(オ)二三八二号の誤記
と認められるが、右は単に旧法当時白紙委任状附株金払込領収証の流通に関する商
慣習はその効力を認められない旨判示したものであつて、条文を異にする現行法の
下においてはとつてもつてこれを範とするに足りない。従つて所論はすべて採用に
値しない。
 同第三点について。
 所論(一)の点の理由がないことは第一点及び第二点に対する説明のとおりであ
り、所論(二)前段は単なる事実誤認の主張を出でず上告適法の理由とならない。
同後段は原判示に副わない事実を基礎として本件取引を定期行為とするものであつ
て、採用の限りではない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    垂   水   克   己

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