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平成14年(行ケ)第233号 特許取消決定取消請求事件
平成15年7月15日口頭弁論終結
            判    決
     原   告    株式会社小松製作所
     訴訟代理人弁理士 木 下 實 三
  同  中 山 寛 二
  同  石 崎   剛
     被   告    特許庁長官 今井康夫
     指定代理人    橋 本 康 重
  同  井 上 茂 夫
  同  久 保 克 彦
  同  大 橋 良 三
  同  高 木   進
  同  涌 井 幸 一
          主    文
   1 原告の請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1)特許庁が平成9年異議第73919号事件について平成14年3月20日
にした決定を取り消す。
  (2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  原告は,発明の名称を「流体加熱器」とする特許第2583159号の特許
(平成3年6月13日特許出願(以下「本件出願」という。),平成8年11月2
1日設定登録,以下「本件特許」という。請求項の数は5である。)の特許権者で
ある。
  本件特許に対し,請求項1ないし5のすべてにつき,特許異議の申立てがあ
り,特許庁は,この申立てを,平成9年異議第73919号事件として審理した。
原告は,この審理の過程で,平成10年2月16日付けで,本件出願に係る願書に
添付された明細書の訂正を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は,審理の結果,平成14年3月20日,本件訂正は認められないとした上
で,「特許第2583159号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」との
決定をし,平成14年4月10日にその謄本を原告に送達した。
2 本件訂正による訂正前の特許請求の範囲(以下,各請求項記載の発明をまと
めて「本件発明」といい,請求項5記載の発明を「本件発明5」という。別紙図面
A参照)
「【請求項1】管壁に流体の流入部及び流出部を有する第1の中空管の内部
に,両端が開放された透明な第2の中空管を,前記第1の中空管の内壁との間に空
間を有して配し,前記第2の中空管内部に,発熱体が内部に封入された透明な管か
らなる光源を前記第2の中空管の内壁との間に空間を有して配し,支持部材によつ
て該光源を前記第2の中空管内部に支持したことを特徴とする流体加熱器。
【請求項2】第1の中空管を,光反射部材製筺体内に配置したことを特徴とす
る請求項1記載の流体加熱器。
【請求項3】第1の中空管の外周に金属薄膜を設けたことを特徴とする請求項
1記載の流体加熱器。
【請求項4】金属は金,アルミニウム,酸化錫,インジウム,クロムであるこ
とを特徴とする請求項3記載の流体加熱器。
【請求項5】第1の中空管が光吸収部材であることを特徴とする請求項1記載
の流体加熱器。」
3 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲(下線部が訂正された箇所である。
以下,各請求項記載の発明をまとめて「本件訂正発明」という。)
「【請求項1】管壁に流体の流入部及び流出部を有する第1の中空管の内部
に,両端が開放された透明な第2の中空管を,前記第1の中空管の内壁との間に空
間を有して配し,前記第2の中空管内部に,発熱体が内部に封入された透明な管か
らなるハロゲンランプを前記第2の中空管の内壁との間に空間を有し,かつ,ハロ
ゲンランプの熱膨張を吸収可能に支持部材によって支持したことを特徴とする半導
体プロセス用流体加熱器。
【請求項2】第1の中空管を,光反射部材製筺体内に配置したことを特徴とす
る請求項1記載の半導体プロセス用流体加熱器。
【請求項3】第1の中空管の外周に金属薄膜を設けたことを特徴とする請求項
1記載の半導体プロセス用流体加熱器。
【請求項4】金属は金,アルミニウム,酸化錫,インジウム,クロムであるこ
とを特徴とする請求項3記載の半導体プロセス用流体加熱器。
【請求項5】第1の中空管が光吸収部材であることを特徴とする請求項1記載
の半導体プロセス用流体加熱器。」
4 決定の理由
 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件訂正発明は,いずれも,
米国特許第4,534,282号明細書(以下,決定と同様に「刊行物」という。)
に記載された発明(以下「引用発明」という。別紙図面B参照),及び,周知の事
項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29
条2項の規定に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないもので
ある,したがって,本件訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第
116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる,平成11年改
正前の特許法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による
改正前の特許法126条3項の規定により,認められない,と判断し,その上で,
本件発明は,引用発明,及び,周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当する,と判断した。
 決定が,上記結論を導くに当たり,引用発明と本件訂正発明あるいは本件発
明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである(ただし,相
違点については,本訴において原告が問題とするもののみを挙げ,それ以外のもの
は省略する。)。
本件訂正発明のすべてと本件発明に共通する一致点
「管壁に流入部及び流出部を有する第1の中空管の内部に,両端が開放された
透明な第2の中空管を,前記第1の中空管の内壁との間に空間を有して配し,前記
第2の中空管内部に,発熱体としての発熱要素を前記第2の中空管の内壁との間に
空間を有し,かつ該発熱要素を支持部材によって支持した流体加熱器」
本件訂正発明のすべてと引用発明との相違点
 本件訂正発明では,「発熱体としての発熱要素が,発熱体が内部に封入され
たハロゲンランプであるのに対し,刊行物記載のものでは,長く延びた赤外線放射
要素である点。」(以下「相違点(1)」という。)
 本件訂正発明では,発熱要素を,「ハロゲンランプの熱膨張を吸収可能に支
持部材によって支持したのに対し,刊行物記載のものでは,支持部材によって支持
したものではあるが,発熱要素の熱膨張を吸収可能に支持する点について明記され
ていない点。」(以下「相違点(2)」という。)
 本件訂正発明では,「半導体プロセス用流体加熱器であるのに対し,刊行物
記載のものは,液体又は半液体食品の加熱器,すなわち食品を対象とする流体加熱
器である点。」(以下「相違点(3)」という。)
本件発明5と引用発明との相違点
本件発明5では,「第1の中空管が光吸収部材であるのに対し,刊行物記載の
ものでは,第1の中空管に相当する外筒13は,内側表面が放射を反射するように
磨かれた金属である点。」(以下「相違点(5)」という。)
第3 原告主張の決定取消事由の要点
 決定は,本件訂正発明と引用発明との一致点の認定を誤り(すべての請求項
に共通する取消事由1,2),本件訂正発明と引用発明との相違点(1)及び
(3)についての判断,並びに,相違点(2)についての判断を誤り(すべての請
求項に共通する取消事由3,4),また,本件発明5と引用発明との相違点(5)
についての判断を誤った(請求項5のみについての取消事由)ものであり,これら
の誤りが,それぞれ,すべての請求項についての,あるいは請求項5についての,
決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,すべての請求項につき,違法
として取り消されるべきである。
1 すべての請求項に共通する取消事由1(「第1の中空管」に関する一致点認
定の誤り)
 決定は,引用発明の「外筒13」を,その機能に照らして,本件訂正発明の
「管壁に流入部及び流出部を有する第1の中空管」に相当する(決定書5頁2段,
8頁5段,9頁5段,10頁4段,11頁3段),と認定した。しかし,この一致
点の認定は誤りである。
(1)本件訂正発明における「第1の中空管」は,「第1の中空管」自体が管壁
に流入部11及び流出部12を有しており,「第1の中空管」の内部に,両端が開
放された透明な第2の中空管を,第1の中空管の内壁との間に空間を有して支持し
得るものである。これに対して,引用発明における「外筒13」は,流入部11及
び流出部12に相当するものを備えておらず,端部セルボディ14に入口ポート2
2及び出口ポート25が形成されているものであり,「筒状ジャケット12」や
「赤外線放射要素11」と関連性のない,短尺の単なる筒状部材にすぎない。
(2)被告は,本件訂正発明における「第1の中空管」に相当するものは,正し
くは,引用発明における刊行物の「外筒13及びその両端の端部セルボディ14」
であり,決定は,正しくは,そのように認定すべきであった,と主張する。
 しかし,本件訂正発明における「第1の中空管」は,「管壁に流体の流入
部及び流出部を有する」という特許請求の範囲の記載からみて,流体の流入部及び
流出部が第1の中空管の管壁に一体的に形成されたものであると解するべきであ
り,引用発明における「外筒13」と「2つの端部セルボディ14」とを結合した
ものとは異なるものである。引用発明においては,「外筒13」と別部材である
「2つの端部セルボディ14」とが結合しているため,その結合部から被加熱流体
の漏れ又は汚染が生じるおそれがある。これに対し,本件訂正発明における「第1
の中空管」は,一体成型されているため,被加熱流体の漏れ又は汚染が生じるおそ
れはないのである。
 引用発明の端部セルボディ14は,赤外線放射要素11,筒状ジャケット
12,及び外筒13から成る集合体を保持し,上下に配列された管状部材を連結す
る部材である。このような特有の機能を有するものは,外筒13とは別体の部材で
あり,外筒13の付属物ということはできない。
2 すべての請求項に共通する取消事由2(「第2の中空管」に関する一致点認
定の誤り)
 決定は,引用発明の「筒状ジャケット12」を,その機能に照らして,本件
訂正発明の「両端が開放された透明な第2の中空管」に相当する(決定書5頁2
段,8頁5段,9頁5段,10頁4段,11頁3段),と認定した。しかし,この
一致点の認定は誤りである。
(1)本件訂正発明は,「両端が開放された透明な第2の中空管」との構成によ
り,この第2の中空管の内部に配置される光源の電極が常に外部空気にさらされる
ものである。これに対し,引用発明の筒状ジャケット12は,両端がガスケット1
6を介して端部セルボディ14によって保持され,端部セルボディ14がスクリュ
ーキャップ18によって閉じられていることから,その両端が,スクリューキャッ
プ18により閉塞されている。
  本件訂正発明は,「両端が開放された透明な第2の中空管」という構成を
採用することにより,光源5の点灯時,外気との通気を確保して,最も強く加熱さ
れる光源5の端部9の冷却の促進を図るとともに,支持部材となるセラミックリン
グ13,14を介して熱膨張を吸収することを可能にする方法で,光源5を支持
し,熱膨張に伴う応力発生による破損を防止するという特有の効果を奏するもので
ある。
(2)被告は,第2の中空管について「両端が開放された」構成としたことは,
流体加熱器の組立前の第2の中空管の形状を特定するものである,と主張する。
 しかし,本件訂正発明は,複数の部品を組み合わせて構成されたものであ
るから,第2の中空管について「両端が開放された」構成とは,あくまでも組立後
の状態を特定したものと解すべきである。
3 すべての請求項に共通する取消事由3(相違点(1)及び(3)についての
判断の誤り)
 引用発明の赤外線放射要素をハロゲンランプに置き換えること(相違点
(1)),及び,液体又は半液体食品の加熱器を半導体プロセス用流体加熱器に置
き換えること(相違点(3))は,それぞれを個々的にみれば,周知技術を採用す
る程度のことにすぎないといえるかもしれない。しかし,たといそうであるとして
も,これら両者を同時に置き換えることを,当業者が容易に想到し得るものとする
ことはできない。決定の相違点(1)及び(3)についての判断は誤りである。
(1)引用発明の赤外線放射要素は,ミルク,飲料等の低温殺菌を行うために設
けられるものであるから,本件訂正発明のように,2000Kないし3000Kと
いう極めて高温の加熱源が装着されることは予定されていない。
  決定が,半導体プロセス用の流体加熱器を例示する資料として挙げた実願
昭60-113396号(実開昭62-22462号)のマイクロフィルム(甲第
7号証。以下「甲7文献」という。),特開昭63-75439号公報(甲第8号
証。以下「甲8文献」という。),実願昭62-149877号(実開昭64-5
3854号)のマイクロフィルム(甲第9号証。以下「甲9文献」という。),及
び,特開昭53-49353号公報(甲第10号証)には,超純水を約95℃まで
加熱する流体加熱器が示されているだけである。これらの技術から,ハロゲンラン
プから成る高温の加熱源を採用することに想到することは,容易なことではない。
 決定が,ハロゲンランプを加熱源として用いることを例示すものとして挙
げた,特開昭58-133751号公報(甲第11号証),特開平2-29042
1号公報(甲第12号証),特開平3-5629号公報(甲第13号証),実願昭
60-149995号(実開昭62-58886号)のマイクロフィルム(甲第1
4号証),特開昭64-5014号公報(甲第15号証。以下「甲15文献」とい
う。),実願昭60-173296号(実開昭62-82730号)のマイクロフ
ィルム(甲第16号証。以下「甲16文献」という。),実願昭60-52382
号(実開昭61-167673号)のマイクロフィルム(甲第17号証)にそれぞ
れ記載された技術の中で,半導体製造装置の加熱源としてハロゲンランプを利用す
るものは,甲15文献及び甲16文献に記載されたもののみである。しかも,これ
らは,半導体プロセスに用いられる流体を加熱するものではない。
 引用発明に上記各技術を組み合わせたとしても,加熱源として高温のハロ
ゲンランプを利用することに容易に想到することはできない,というべきである。
(2)被告は,特開平2-68452号公報(乙第1号証。以下「乙1文献」と
いう。)及び実願平1-29971号(実開平2-122634号)のマイクロフ
ィルム(乙第2号証。以下「乙2文献」という。)に示される周知の技術からみ
て,甲7文献ないし甲9文献に示される半導体プロセス用流体加熱器において,一
般的な電気ヒータ,シーズヒータをハロゲンランプに置き換えることは,当業者に
とって格別に困難なことではない,と主張する。
 しかし,乙1文献及び乙2文献に記載された発明は,ハロゲンヒータが具
備する発光特性を利用することを特徴とし,電気温水器,コーヒー製造装置の加熱
源としてハロゲンランプを用いたものにすぎず,いずれも半導体プロセス用流体加
熱器の加熱源としてハロゲンランプを使用したものではないから,被告の上記主張
は失当である。
4 すべての請求項に共通する取消事由4(相違点(2)についての判断の誤
り)
(1)引用発明の赤外線放射要素は,ミルク,飲料等の低温殺菌を行うために設
けられるものであるから,本件訂正発明におけるような端部の効率的な冷却構造,
及び,熱膨張を吸収する支持構造をとる必要性が認められない。
(2)決定は,発熱体をその熱膨張の吸収が可能となるような方法で支持部材に
よって支持することが周知であるとして,実願昭63-97664号(実開平2-
18293号)のマイクロフィルム(甲第18号証。以下「甲18文献」とい
う。),実願昭62-70986号(実開昭63-179686号)のマイクロフ
ィルム(甲第19号証。以下「甲19文献」という。),実願昭62-90337
号(実開昭63-199491号)のマイクロフィルム(甲第20号証。以下「甲
20文献」という。),実願昭61-96755号(実開昭63-4094号)の
マイクロフィルム(甲第21号証。以下「甲21文献」という。)にそれぞれ記載
されている技術を例示している(決定書6頁6段参照)。しかし,甲18文献ない
し甲20文献に記載されているのは,電気ストーブやオーブン等に設けられるシー
ズヒータの支持構造に関するものであり,高温で発熱するハロゲンランプを備えた
本件訂正発明とは産業上の利用分野を異にするものであるから,ハロゲンランプの
支持構造としてシーズヒータの支持構造をそのまま採用することができないことは
当業者であれば容易に分かることである。甲21文献には,確かに,清水加熱器の
ヒータ支持構造が記載されている。しかし,同文献に記載されているのは,その第
1図に示されるように,加熱管2は両端が開放されたものではなく,本件訂正発明
とはその構成を異にする。
5 請求項5のみについての取消事由(相違点(5)についての判断の誤り)
 決定は,本件発明5と引用発明との相違点の一つ(相違点(5))につい
て,「本件請求項5に係る発明における光吸収部材に相当する「フッ素樹脂」で流
体加熱器の外管等を構成することが上記周知例で挙げた特開昭63-75439号
公報等で知られているとともに,光吸収部材に光(熱)を吸収させ,熱回収等を行
うことは従来周知である(例えば,特開平2-152188号公報,特開昭62-
131490号公報,特開昭63-80112号公報参照)。してみると,第1の
中空管を光吸収部材で形成し,熱回収を図る程度のことは,上記周知の事項等を参
酌して当業者が容易に想到し得たことである。」(決定書16頁8段)と判断し
た。
 しかし,引用発明は,「流動食品を少なくとも部分的に殺菌することができ
る処理方法および装置を提供する」ものであり,「従来の熱処理システムにおける
流動食品の風味を損なうこと,流動食品の茶褐色化,焦げ臭くなること,焦げたも
のの堆積といったプレート表面上の熱交換により生ずる種々の不利な点を解消す
る」(甲第5号証1欄「OBJECTSOFINVENTION」の1~8行)ことを目的としてい
る。
 引用発明は,外筒13として内側表面が放射を反射するように磨かれた金属
を採用しており,赤外線放射要素11から放射された赤外線は外筒13の内側表面
でほぼ全反射して再度流動食品を加熱するように構成されている。引用発明のこの
ような外筒13をフッ素樹脂等の光吸収部材に代替させた場合,赤外線放射要素1
1から放射された赤外線のほとんどが光吸収部材からなる外筒13で吸収され,こ
れに伴い,外筒13が加熱され,筒状ジャケット12の外側及び外筒13の内側を
流れる流動食品は,加熱された外筒13の加熱表面に直接さらされることとなり,
引用発明の上記目的を達成することができない。したがって,引用発明に,光吸収
部材から成る外筒を適用することについては阻害要因があるというべきである。
 被告は,引用発明は,その用途がミルク等の低温殺菌に限られるものではな
く,加熱源を交換して他の種類の流体を加熱できる汎用性のある構造である,と主
張する。しかし,刊行物中には,赤外線放射要素を食品以外の他の流体に適用する
ことが可能であるとの記載は一切なく,また,赤外線放射要素が組み込まれるFi
g.1の処理装置が,紫外線殺菌部分も具備することからすれば,引用発明の赤外
線放射要素は,用途が食品に限定されたものとして解釈すべきである。
第4 被告の反論の骨子
 決定の認定判断は,いずれも正当である。決定を取り消すべき理由はない。
1 すべての請求項に共通する取消事由1(「第1の中空管」に関する一致点認
定の誤り)について
(1)本件訂正発明における「第1の中空管」に相当するものは,正しくは,引
用発明における「外筒13及びその両端の端部セルボディ14」であり,決定は,
一致点をそのように認定すべきであった。しかし,決定のこの一致点認定の誤り
は,相違点の認定に影響を与えるものではなく,決定の結論に影響を及ぼす誤りと
いうことはできない。
(2)本件訂正発明の特許請求の範囲には,「管壁に流体の流入部及び流出部を
有する第1の中空管」が一体成形されたものであることを意味する記載はない。本
件訂正発明における「第1の中空管」が一体形成されたものに限られる,との原告
の主張は,本件訂正明細書の実施例についての記載に基づく主張であって,特許請
求の範囲の記載に基づく主張ではない。
2 すべての請求項に共通する取消事由2(「第2の中空管」に関する一致点認
定の誤り)について
 本件訂正発明において,第2の中空管を,「両端が開放された」構成とした
ことの技術的意味は,両方向のいずれからも加熱源を交換することができるように
したことにある。そうである以上,「両端が開放された・・・第2の中空管」は,
流体加熱器の組立前の第2の中空管の形状を特定するものであって,組立後におけ
る,その形状を特定するものではないというべきである。
3 すべての請求項に共通する取消事由3(相違点(1)及び(3)についての
判断の誤り)について
 引用発明の赤外線放射要素が,ミルク,飲料等の低温殺菌を行うものである
としても,その第1の中空管,第2の中空管,支持部材から成る二重管構造は,そ
れ自体としてみたとき,使用目的がミルク,飲料等の低温殺菌を行うことに限られ
るものではなく,加熱源を他の物に交換して他の種類の流体を加熱するときにも使
用することのできる汎用性のある構造であるから,これを半導体プロセス用流体加
熱器として使用することは,当業者が容易に想到し得ることである。被加熱流体の
種類と用途に応じて,加熱源を代えることは,当業者が必要に応じて適宜行う設計
事項に属する,というべきであるから,引用発明を半導体プロセス用流体加熱器と
して使用し,強力な加熱源を必要とする場合に,ハロゲンランプを採用すること
も,当業者であれば容易になし得ることというべきである。
4 すべての請求項に共通する取消事由4(相違点(2)についての判断の誤
り)について
 加熱源である発熱体とその支持構造との間で熱膨張の違いによりひずみや変
形が発生しないようにスライドさせる工夫は,電気加熱装置に関する各種の技術分
野において広く行われている周知の技術手段である。本件訂正発明において,強力
な熱源であるハロゲンランプを使用する際に,予想される熱膨張に備えて上記周知
技術を適用することは,当業者であれば容易に想到できたことというべきである。
5 請求項5のみについての取消事由(相違点(5)についての判断の誤り)に
ついて
 引用発明を半導体プロセス用流体加熱器として使用することが,当業者が容
易に想到し得ることであることは,前記のとおりである。原告の主張は,引用発明
が赤外線放射要素11を加熱源として流動食品を加熱する用途に限られるものであ
ることを前提とした主張であって,失当である。
第5 当裁判所の判断
1 すべての請求項に共通する取消事由1(「第1の中空管」に関する一致点認
定の誤り)について
(1)決定は,引用発明の「外筒13」を,その機能に照らして,本件訂正発明
の「第1の中空管」に相当する(決定書5頁2段),と認定した。原告は,この一
致点の認定は誤りである,と主張する。
 本件訂正発明の「第1の中空管」は,「管壁に流入部及び流出部を有す
る」ものであり,その「内部に,・・・透明な第2の中空管を」,その「内壁との
間に空間を有して配」するものである(本件訂正明細書・特許請求の範囲(請求項
1))。
 刊行物には「筒状ジャケット12は,内側表面が放射を反射するように磨
かれた金属により形成された外筒13によって空間を有して囲まれている。2つの
似たような端部セルボディ14が前記集合体を保持している。一方の端部セルボデ
ィ14は,入口ポート22および環状空間27と連通する入口室15を画成してい
る。また,他方の端部セルボディ14は,同様の出口室24を画成しており,この
出口室24は出口ポート25および環状空間27と連通している。」(甲第5号証
訳文1頁1段第4文,第5文),「液体あるいは半液体食品は,比較的薄い層状と
なって前記環状空間27を通過する過程において処理され,その間において,前記
赤外線放射要素11からの照射を受ける。」(同2頁2段)との記載がある。刊行
物のFig.2には,外筒13が2つの端部セルボディ14によりその両端を保持
されていることが明示されている(甲第5号証)。
 刊行物の上記記載及び図面によれば,引用発明においては,一方の端部セ
ルボディ14の入口ポート22から流入した液体は,入口室15と,端部セルボデ
ィ14により保持された外筒13の内側と筒状ジャケット12から成る環状空間を
通過し,その後,出口室24と,他方の端部セルボディ14の出口ポート25から
流出するものであり,引用発明の外筒13とその両端を保持している二つの端部セ
ルボディ14とが,「管壁に流体の流入部及び流出部を有」し,その「内部
に,・・・透明な第2の中空管を」,その「内壁との間に空間を有して配」するも
のであり,本件訂正発明の「第1の中空管」に相当するものである,ことが明らか
である(これを否定する原告の主張についての判断は後に示す。)。
 以上からすれば,決定が,引用発明の「外筒13」を,その機能に照らし
て,本件訂正発明の「第1の中空管」に相当する,と認定したのは明らかな誤りで
あり,決定は,正しくは,引用発明の外筒13とその両端を保持している二つの端
部セルボディ14とを,本件訂正発明の「第1の中空管」に相当する,と認定すべ
きであったということができる。ただし,決定のこの誤りが,決定の認定判断にお
いて,相違点の看過に結び付いたことも,相違点の誤りに結び付いたことも,原告
自身主張しておらず,また,本件全証拠によっても認めることができないから,決
定の上記誤りは,単に,本件訂正発明と引用発明との間の「第1の中空管」に関す
る一致点の認定において,「外筒13」のほかに「端部セルボディ14」を記載す
ることを怠ったことを意味するにすぎないことになり,その誤りは,決定の結論に
影響を及ぼす誤りとすることができないことが明らかである。
(2)原告は,本件訂正発明の「第1の中空管」は,一体成形されているもので
あり,引用発明の「外筒13」と「2つの端部セルボディ14」とが結合したもの
は,本件訂正発明の「第1の中空管」に相当しない,と主張する。
 本件訂正発明の第1実施例ないし第3実施例における第1の中空管は,本
件訂正明細書の【図1】ないし【図3】から明らかなように,いずれも二つの部材
が結合されたものではなく,一体成形されたものが示されている(甲第2,第4号
証)。しかし,本件訂正明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,「第1の中空
管」について,「管壁に流体の流入部及び流出部を有する第1の中空管」と記載さ
れているにすぎず,第1の中空管の管壁に流体の流入部及び流出部を有することが
規定されているだけで,第1の中空管が一体成形されているべきことについては何
ら規定されていない。
 本件訂正発明の「第1の中空管」を一体成形されているものに限定しよう
とするとき,それを特許請求の範囲において明確にすることは,極めて容易なこと
であるから,特許請求の範囲の記載が上記のとおりである以上,原告の上記主張
は,本件訂正発明の実施例には当てはまっても,本件訂正発明そのものには当ては
まらないものというべきである。
 念のために,本件訂正発明の「第1の中空管」が,一体成形されたものに
限られるかどうかという観点から,本件訂正明細書の発明の詳細な説明を検討す
る。
 本件訂正明細書には,次の記載がある(甲第4号証)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
 しかるに上記従来例には次の問題点がある。図5の流体加熱器では,電
気ヒータ51の外周側からの輻射赤外線は断熱材56方向へ輻射されて該断熱材5
6に吸収されてしまい,被加熱流体Cの加熱には寄与し難い。・・・
【0009】
 特開昭61年116246号の流体加熱器では,赤外線輻射体を封入す
る石英管と被加熱流体とが直接接触している。この構成は下記の問題を有してい
る。
(1)流体加熱器内に流入してくる低温被加熱流体と,赤外線輻射体を封
入するため高温になっている石英管とが直接接触するため,該石英管への熱衝撃が
大きく,その寿命を著しく縮める要因となる。・・・
(2)赤外線輻射部には寿命があるため,交換することがある。そのとき
には流体加熱器内の液体を除去しなければならない。・・・
【0011】
【課題を解決するための手段】
 図4の構成において用いる流体加熱器(500)において,管壁に流体
の流入部及び流出部を有する第1の中空管の内部に,両端が開放された透明な第2
の中空管を,前記第1の中空管の内壁との間に空間を有して配し,前記第2の中空
管内部に,発熱体が内部に封入された透明な管からなるハロゲンランプを前記第2
の中空管の内壁との間に空間を有し,かつ,ハロゲンランプの熱膨張を吸収可能に
支持部材によってする構成とする。
【0012】
【作用】
 前記ハロゲンランプにより輻射される光は前記第2の中空管内壁との間
の空間を経て前記流体流路へ入り,赤外領域の光によって液体が共振加熱される。
ここでは,前記ハロゲンランプと前記第2の中空管内壁との間の空間に存在する空
気と透明な第2の中空管によってわずかに吸収される分を除いて輻射光は必ず流体
を通過する。従って,輻射された赤外線はほとんどが流体加熱に消費される。ま
た,ハロゲンランプと石英管とが直接には接触しないため,ハロゲンランプの石英
管への熱衝撃が大幅に緩和される。ハロゲンランプの交換はその支持部材を外すの
みで済み,流体加熱器内から液体を除く必要がなく,流路内に異物を持ち込むこと
もない。ハロゲンランプだけを容易に装着,取り外し等の交換作業が出来,ハロゲ
ンランプ交換時に流路内から流体を除去する必要がない。またハロゲンランプを構
成する透明な管の表面の付着源を流路内に持ち込むことがない。しかもハロゲンラ
ンプは被加熱流体流路の更に内側にてクリアランスを持った部品で支持されている
だけであるため,ハロゲンランプの熱膨張は該クリアランスで吸収されてしまい,
熱膨張が他の部分に負荷をかけて損傷を引き起こすことがない。
 本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載を前提に本件訂正明細書の上記
記載をみれば,本件訂正発明は,第1の中空管の内部に,両端が開放された透明な
第2の中空管を,空間を有して配し,第2の中空管内部の空間に,ハロゲンランプ
をその熱膨張を吸収することが可能な支持部材により支持する,との構成を採用
し,このような2重管構造により,ハロゲンランプにより輻射された赤外線のほと
んどが流体加熱に使用され,ハロゲンランプの石英管への熱衝撃が大幅に緩和さ
れ,また,ハロゲンランプの交換は,その支持部材を外すだけですみ,流体加熱器
内から液体を除く必要がなく,ハロゲンランプだけを容易に取り外し,装着するこ
とができ,流路内に異物を持ち込むこともなく,ハロゲンランプの熱膨張を支持部
材で吸収することができる等の効果を奏するものであることが認められる。このよ
うな本件訂正発明の構成及び作用効果からすれば,本件訂正発明における第1の中
空管は一体成形されたものでなければならない,と解すべき根拠はないというべき
である。本件訂正明細書の発明の詳細な説明のその余の部分にも,そのことを明示
する記載も,示唆する記載も見当たらない(甲第4号証)。
 いずれにせよ,本件訂正発明の「第1の中空管」は,一体的に形成された
ものに限定して解釈すべき根拠はなく,引用発明の「外筒13と2つの端部セルボ
ディ14」がこれに相当する,と判断すべきである。原告の上記主張も採用するこ
とができない。
2 すべての請求項に共通する取消事由2(「第2の中空管」に関する一致点認
定の誤り)について
 原告は,決定が,引用発明の「筒状ジャケット12」が,その機能に照らし
て,本件訂正発明の「両端が開放された透明な第2の中空管」に相当すると認定し
たことは誤りである,本件訂正発明は,複数の部品を組み合わせて構成されたもの
であるから,第2の中空管について「両端が開放された」構成とは,あくまでも組
立後の状態を特定したものと解すべきである,引用発明の筒状ジャケット12は,
両端が端部セルボディ14によって保持され,端部セルボディ14がスクリューキ
ャップ18によって閉じられていることから,スクリューキャップ18により閉塞
されている,と主張する。
 しかし,本件訂正明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,第2の中空管
とその外部との関係については,「両端が開放された透明な第2の中空管を,前記
第1の中空管の内壁との間に空間を有して配し」として,両端が開放された第2の
中空管が第1の中空管の内部に配設されることが規定されているだけである。ま
た,本件訂正発明においては,両端が開放された第2の中空管については,「前記
第2の中空管内部に,・・・ハロゲンランプを・・・ハロゲンランプの熱膨脹を吸
収可能に支持部材によって支持した」ものを備えていればよく,この支持部材によ
って,第2の中空管の両端が密閉されるのかどうかについては,特に規定していな
い。そうである以上,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載によれば,第2の中空
管について,原告が主張するように,「両端が開放された」構成とは,あくまでも
組立後の状態を特定したもののことである,として,両端が開放された第2の中空
管の両端を別途の部材で閉塞する場合を排除し,その両端を開放したままのものに
限定して解釈すべき根拠はない,という以外にない。
 刊行物のFig.2には,筒状ジャケット12が,両端が開放された中空管
であり,2つの端部セルボディ14によりその両端を保持されており,その内壁と
の間に赤外線放射要素11が空間を有して支持されていることが明示されている
(甲第5号証)。また,刊行物には,「赤外線放射要素11は,筒状ジャケット1
2によって空間を有して囲まれている。・・・この筒状ジャケット12は,内側表
面が放射を反射するように磨かれた金属により形成された外筒13によって空間を
有して囲まれている。・・・両端部セルボディ14は,保持プレート17,17お
よび支持要素26によって前記赤外線放射要素11を保持している。・・・前記赤
外線放射要素11は,前記赤外線加熱セル内の液体の流れを停止することなく,取
り外すことができる。前記要素11は,液体から完全に隔絶されており,また前記
スクリューキャップ18および前記保持プレート17,17を取り外すことによっ
て,前記要素11を取り外すことができる。・・・液体あるいは半液体食品は,比
較的薄い層状となって前記環状空間27を通過する過程において処理され,その間
において,前記赤外線放射要素11からの照射を受ける。食品は,石英により形成
された前記ジャケット12が熱くならないので,加熱表面に晒されることなく,所
望の低温殺菌温度に加熱される。」(甲第5号証訳文1頁1段~2頁2段)と記載
されている。
 刊行物のFig.2及び上記記載によれば,筒状ジャケット12は,両端が
開放された透明な中空管であり,そのため,前記赤外線加熱セル内の液体の流れを
停止することなく,赤外線放射要素11を取り外すことができるものと認められ,
引用発明の「筒状ジャケット12」が,その機能に照らして,本件訂正発明の「両
端が開放された透明な第2の中空管」に相当する,とした決定の認定に誤りがない
ことは明らかである。
3 すべての請求項に共通する取消事由3(相違点(1)及び(3)についての
判断の誤り)について
(1)決定は,相違点(1)について,「発熱体が内部に封入されたハロゲンラ
ンプを加熱源(発熱要素)として用いることは半導体の製造分野を含め種々の技術
分野において従来周知である[例えば,・・・参照](判決注・甲第11~第17
号証)。してみると,刊行物の記載において,発熱源として(すなわち,発熱体と
しての発熱要素として),上記従来周知の「発熱体が内部に封入されたハロゲンラ
ンプ」を採用する程度のことは当業者が容易に想到し得たものである。」(決定書
6頁5段)と判断し,相違点(3)について,「流体の流入部及び流出部を有し,
被加熱流体を通過させてその間で被加熱流体を加熱する半導体プロセス用流体加熱
器は従来周知であり[例えば,・・・参照](判決注・甲第7~第10号証),刊
行物に記載されたような流体加熱器を半導体プロセス用流体加熱器として用いるこ
とは当業者が容易に想到し得ることである。なお上記周知例では,被加熱流体が,
半導体チップ等の製造過程において使用される主として超純水(純水)で説明され
ている。そして半導体チップ等の製造過程において使用される超純水(純水)が,
半導体プロセス用流体であることは明らかである。」(決定書7頁1段,2段)と
判断した。
  原告は,引用発明の赤外線放射要素をハロゲンランプに置き換えること
(相違点(1)),又は,液体又は半液体食品の加熱器を半導体プロセス用流体加
熱器に置き換えること(相違点(3))は,個々的にみれば,周知技術を採用する
程度のことにすぎないといえるとしても,両者を同時に置き換えることを,当業者
が容易に想到し得るものとすることはできない,と主張する。
  しかし,甲第7号証(特にその第1図),甲第9号証(特にその図面),
甲第10号証(特にそのFig.1,3)と弁論の全趣旨とにより,「流体の流入
部及び流出部を有し,被加熱流体を通過させてその間で被加熱流体を加熱する半導
体プロセス用流体加熱器」(決定書7頁1行~2行)は本件出願時において既に周
知であったと認められ,このことを前提にすると,これらと同じ構成を備えた引用
発明の流体加熱器に着目し,これを,そのまま,あるいは,必要に応じて適宜変更
を加えた上で,半導体プロセス用流体加熱器として用いることが,当業者にとって
容易に想到し得ることであったことは,明らかである。
 そして,流体加熱器において,ハロゲンランプを加熱源として用いること
は周知の技術であり(甲第11ないし第17号証),流体加熱器の用途,被加熱流
体の種類,流速等に応じて流体加熱器の加熱源(発熱要素)を適宜決定することは
当業者が適宜なし得る事項であることも明らかであるから,引用発明の「流体加熱
器」の用途を,上記のとおり半導体プロセス用流体加熱器とした場合(このことが
当業者が容易に成し得る程度の事項であることは上記のとおりである。),その加
熱源(発熱要素)をハロゲンランプとすることが当業者が必要に応じて適宜成し得
る設計的事項の範囲にあることは,明らかである。
 決定の上記判断に誤りはない。
(2)原告は,決定が,半導体プロセス用の流体加熱器を例示する資料として挙
げた甲7文献ないし甲9文献等には,超純水を約95℃まで加熱する流体加熱器が
示されているだけであり,これらの技術から,ハロゲンランプからなる高温の加熱
源を採用する必然性は認められない,と主張する。しかし,決定は,甲7文献ない
し甲9文献等を,これらと同じ構成を備えた引用発明の流体加熱器を,半導体プロ
セス用流体加熱器として用いることが容易であることの根拠として示しているので
あり,甲7文献ないし甲9文献等から,高温の加熱源を採用した半導体プロセス用
の流体加熱器を容易に想到し得ると判断したものではない。
  原告は,決定が,ハロゲンランプを加熱源として用いることを例示するも
のとして挙げた甲第11ないし第17号証の中で,半導体製造装置の加熱源として
ハロゲンランプを利用するものは,甲15文献及び甲16文献に記載された技術の
みであり,しかも,これらは半導体プロセスに用いられる流体を加熱するものでは
ない,と主張する。しかし,決定は,流体加熱器において,加熱源としてハロゲン
ランプを用いることが周知技術であることの根拠として甲第11ないし第17号証
を示しているにすぎない。
  決定は,引用発明の構成の流体加熱器を,半導体プロセス用流体加熱器の
用途に使用することが,当業者が容易に想到し得ることであり,この場合に,その
加熱源(発熱要素)をハロゲンランプとすることは当業者が必要に応じて適宜成し
得る設計的事項の範囲内にある,と判断しているのであり,決定のこの判断に誤り
はない。
  相違点(1)及び(3)を同時に置き換えることは,当業者が容易に想到
し得るものということはできない,との原告の主張は,採用することができない。
4 すべての請求項に共通する取消事由4(相違点(2)についての判断の誤
り)について
 決定は,相違点(2)について,「刊行物には,発熱体としての発熱要素で
ある赤外線放射要素の熱膨張を吸収可能に支持する点について明記されていない。
しかしながら,物体が熱膨張すること及び加熱機器等において熱膨張を考慮せずに
機器を設計した場合機器の破損等が生じることは技術常識であり,また発熱体の熱
膨張を吸収可能に支持部材によって支持することも従来周知である〔例え
ば,・・・参照〕(判決注・甲第18~第21号証)。してみると,発熱要素とし
てハロゲンランプを採用するに際し,ハロゲンランプの熱膨張を吸収可能に支持部
材によって支持する程度のことは当業者が容易に想到し得ることである。」(決定
書6頁6段)と判断した。
(1)原告は,引用発明の赤外線放射要素は,ミルク,飲料等の低温殺菌を行う
ために設けられるものであるから,本件訂正発明のような端部の効率的な冷却構
造,及び,熱膨張を吸収する支持構造をとる必要性が認められない,と主張する。
  しかし,引用発明の流体加熱器を,半導体プロセス用流体加熱器の用途に
使用することは,当業者が容易に想到し得ることであること,及び,この場合に,
その加熱源(発熱要素)をハロゲンランプとすることは当業者が必要に応じて適宜
成し得る設計的事項であることは,前記のとおりである。そして,甲第18ないし
第21号証によれば,発熱体をその熱膨張を吸収することができるように支持部材
によって支持することは,本件出願時に周知であったと認められる。そうだとする
と,引用発明の赤外線放射要素に代えて,高温加熱となるハロゲンランプを使用す
る場合に,ハロゲンランプをその熱膨張を吸収することができるように支持部材に
よって支持する程度のことは,当業者が容易に想到し得ることであることが明らか
である。決定の上記判断に誤りはない。
(2)原告は,甲18文献ないし甲20文献に記載されているのは,電気ストー
ブやオーブン等に設けられるシーズヒータの支持構造に関するものであり,高温で
発熱するハロゲンランプを備えた本件訂正発明とは産業上の利用分野を異にするも
のである,甲21文献には,確かに清水加熱器のヒータ支持構造が記載されている
ものの,同文献の第1図に示されるように,そこに記載されている加熱管2は両端
が開放されたものではなく,本件訂正発明とはその構成を異にする,と主張する。
 しかし,決定は,上記のとおり,「発熱体の熱膨張を吸収可能に支持部材
によって支持することも従来周知である」と認定しただけであり,このような支持
部材が,半導体プロセス用の流体加熱器におけるヒータの支持構造として周知であ
ると,認定したわけではない。そして,ハロゲンランプも発熱体であることに変わ
りはないことからすれば,流体加熱器における発熱体の熱膨張の問題に関する限
り,ハロゲンランプを使用する場合に上記周知技術を適用することを妨げる理由は
ないというべきである。
 原告の上記主張は採用することができない。
5 請求項5のみについての取消事由(相違点(5)についての判断の誤り)に
ついて
 原告は,引用発明は,外筒13として内側表面が放射を反射するように磨か
れた金属を採用している,引用発明のこのような外筒13をフッ素樹脂等の光吸収
部材に代替させた場合,赤外線放射要素11から放射された赤外線のほとんどが光
吸収部材からなる外筒13で吸収され,これに伴い,外筒13が加熱され,筒状ジ
ャケット12の外側及び外筒13の内側を流れる流動食品は,加熱された外筒13
の加熱表面に直接さらされることとなり,流動食品の風味を損なうこと,流動食品
の茶褐色化,焦げ臭くなること等を解消する,との引用発明の目的を達成すること
ができない,と主張する。
 しかし,引用発明の構成の流体加熱器を,半導体プロセス用流体加熱器の用
途に使用することが,当業者が容易に想到し得ることであることは,前記のとおり
である。そして,半導体プロセス用流体加熱器において,流体加熱器の外管をフッ
素樹脂等の光吸収部材で構成することは,本件出願時既に周知の技術であった(甲
第8,第9号証)。そうだとすれば,引用発明を出発点としてこれを半導体プロセ
ス用流体加熱器とするに当たり,その外筒13を光吸収部材で形成し,熱回収を図
る程度のことは,当業者が容易に想到し得たことというべきである。原告の主張
は,引用発明が流動食品の加熱器として使用される場合に当てはまっても,これを
半導体プロセス用流体加熱器として用いる場合に当てはまるものでないことは,自
明である。
 決定の上記判断に誤りはない。
6 結論
 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由が
なく,その他,決定には,いずれの請求項についても,これを取り消すべき誤りは
見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につ
いて,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決す
る。
東京高等裁判所第6民事部
     裁判長裁判官山  下  和  明
       裁判官設  樂  隆  一
 
       裁判官阿  部  正  幸
(別紙)
図面A図面B

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