弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、その実質は事実誤認の主張であ
り、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 しかしながら、所論にかんがみ職権によって調査すると、原判決は刑訴法四一一
条三号により破棄を免れない。その理由は次のとおりである。
 一 本件公訴事実の要旨は、被告人は、昭和六三年一二月八日午前二時四五分こ
ろ、石川県金沢市ab丁目c番d号先の路上において、同所を通行中のA(当時二
四歳。以下「A」という。)を認め、強いてAにわいせつの行為をしようと企て、
いきなり後方から抱きついた上、同所先の陸橋下(以下「本件ガード下」という。
別紙図面参照。なお、以下において、道路の呼称及び地点の符号は同図面による。)
に引きずり込み、無理やり着衣内に右手を差し入れて、その左乳房を数回もてあそ
び、もって、強いてわいせつの行為をした、というものである。
 二 第一審判決は、深夜神田陸橋の上り線側道を一人で通行中のところを被告人
に襲われたとしてほぼ本件公訴事実に沿う被害状況を述べるAの証言、及び、当時
たまたま現場付近を通りかかり、女性の悲鳴を聞くとともに本件犯行の一部と思わ
れる状況を目撃し、そこから逃走する被告人をわいせつ行為に及んだ犯人として追
跡して捕らえたというB(以下「B」という。)の証言は、いずれも信用するに足
りるものであり、また、逮捕直後に作成された弁解録取書における被告人の本件犯
行についての自白は、その作成経過や供述内容に照らして任意性に問題はなく、信
用性に欠けるところもないのに対し、被告人の公判廷における弁解は、その内容自
体が不自然、不合理なものであり、A及びBの各証言と対比しても信用することは
できないとして、公訴事実と同旨の事実を認定して被告人を有罪とした。
 三 これに対して、被告人から控訴の申立てがあり、原判決は、第一審判決は事
実を誤認したものであるとしてこれを破棄し、被告人に対して無罪を言い渡した。
 原判決は、被告人の第一審公判廷における弁解、すなわち、被告人は、Aに対し
て何もしておらず、Aを追い越そうとして後ろから接近したところ、Aが驚いて悲
鳴を上げたため、トラブルを避けようとしてその場を離れ、さらに、追い掛けて来
るBに捕まるまいとして逃走したにすぎない旨の弁解は、必死とも見える真剣な逃
走の経路や形態等、被告人自身にも争いがないと思われる当時の事実関係に徴して
みても、状況的に符合しない諸点が多くみられ、これをそのままに信用することは
できないが、一方、Aの証言には、例えば、最初に被告人に抱きつかれた地点を、
その供述するようにCビル前のイ点であるとすると、わいせつ行為をされたという
本件ガード下のハ点よりも約三五メートルも手前で抱きつかれたことになり、襲撃
地点の地理的条件や抱きつき方において、証言内容自体が、強制わいせつ犯人の行
為としておよそ不自然、不合理なものとなるなど、無視することができない数多く
の問題点があるとし、また、Bの証言もAの証言を補強する部分についての信用性
に欠けるばかりか、かえって、本件犯行の存在に疑問を抱かせる内容を含んだもの
であるとし、さらに、弁解録取書における被告人の供述も、いまだ自白と評価する
に足りないものであるとし、本件公訴事実どおりの有罪認定ができないのみならず、
その範囲内に含まれる強制わいせつの犯行も認定することができないとした。
 四 そこで検討するのに、原判決の右各証拠に対する評価は、著しく合理性を欠
いており、是認することができない。
 1 Aは、神田陸橋の上り線側道を通行中、いきなり被告人に背後から抱きつか
れ、悲鳴を上げたが、背後から抱きつかれたまま押されて行き、本件ガード下に引
きずり込まれ、ワンピースの首もとから右手を入れられて左乳房を二、三回もてあ
そばれ、よろめいて転んだところ、被告人が逃げ出し、そこへBが来て被告人を追
い掛け、自分も一緒に被告人を追跡して、後記のようにに必死に逃げ回った被告人
をBらが逮捕し、臨場した警察官に引き渡したという被害状況の大筋については、
捜査段階及び公判段階を通じ、終始一貫した供述をしている。もっとも、現行犯人
逮捕手続書には、被害者Aからの事情聴取の内容として、男がいきなり抱きついて
来て引き倒し、首から手を入れて胸を触った旨の記載があり、被告人にわいせつ行
為をされた後に転んだとするAの証言との間に食い違いが認められる。しかし、現
行犯人逮捕手続書における関係者の供述記載は、警察官が、逮捕現場等において、
当該犯人が罪を犯したことが明らかであることを確認できる限度で、短時間のうち
に、関係者から事情を聴取し、その聴取結果を要約して記載するものであることか
らすると、原判決が、右供述記載をもって、事件直後において証言とは著しく異な
った過剰な被害申告があったかのようにいうのは、相当ではないというべきである。
 そして、Aの証言は、その大筋において、悲鳴を聞いて駆け付けたBの証言内容
とも合致しており、また、本件ガード下から道路脇の駐車場を駆け抜けて、畑や田
に入り込み、店舗の看板裏の鉄骨を伝って二階建て建物の屋根上に登るなど必死に
逃走したとの被告人も自認している異常な行動等の状況事実や、被告人が、現行犯
人逮捕された直後に作成された弁解録取書において、若い女性の後ろから抱きつき
胸などを触ったことは間違いなく、女性が大きな声で叫んだので逃げたと述べてい
るところとも整合する。
 2 ところで、Aの証言も、その細部についてみると、原判決も判示しているよ
うに、最初に襲われた際の犯人の抱きつき方などについて、捜査段階の供述との間
に食い違いがあり、また、最初に襲われた地点の特定について、様々な供述をし、
混乱のあることが認められる。しかし、神田陸橋の上り線側道は、Aにとって、め
ったに通らない道であり、特に夜間に通るのは初めてであるというのであって、し
かも、突然襲われて連行された上で、わいせつ行為をされ、その後、そこに駆け付
けたBとともに被告人を追い掛けたというのであるから、このような異常な状況の
下にあった者としては、最初に襲われた際の犯人の抱きつき方やその地点の特定な
どについて、正確な記憶がなく、供述に食い違いや混乱が生じたとしても決して不
自然であるとはいえず、右のような供述の食い違いや混乱は、証言全体の信用性を
損なうほどのものとはいえない。また、原判決は、被害を受けた直後にAがBと出
会った地点についても、Aの証言にはBの証言との間に食い違いがあるとするが、
この点についても、異常な体験をした直後におけるとっさの出来事であり、Aの記
憶に混乱があるとしても無理からぬところと認められる。
 3 また、原判決は、当時Aが発した悲鳴は一回限りと認定するのが相当である
とした上、悲鳴を発した地点はBの証言及び原審の検証結果によって明らかにされ
た現場の地理的条件等を基にすると、ハ点より約八・八メートル手前の本件ガード
下の入口のロ点付近とするのが合理的であるとしている。そうすると、Aが被告人
に襲われたものとすれば、最初に襲われた地点も、このロ点付近ということになり、
このように認定できるのであれば、原判決が挙示するAの証言の疑問点、すなわち、
Cビル前のイ点付近は、街灯や玄関灯などで相当明るく、また、同ビルは住宅兼用
建物であって、通行中の女性にわいせつ行為をしようとして襲いかかる地点として
はふさわしくないとか、約三五メートルも先の暗がりの本件ガード下に至って初め
てわいせつ行為をするつもりであったとみられる男が明るい道路上でいち早く犯行
に着手したのは不可解であるとか、二人三脚よろしく犯人が女性の後ろから抱きつ
いた状態のまま小走りで進んで行ったというのでは、誠に間延びのした悠長さが目
立ち現実的迫真性がまるで感じられないとかいった諸点は、いずれも解消されるこ
とになる。
 しかるに、原判決は、最初に襲われたという地点について、Aは、イ点であると
証言しているとした上、他の証拠からはむしろロ点付近であるとするのが合理的で
あるとして、Aの証言の右の部分の信用性を否定し、このように証言の一部につい
ての信用性が否定される以上、残余の部分だけを信用することはできないとして、
Aの証言全部の信用性を否定する。しかし、Aは、前記のように記憶に混乱があり、
右の点について様々な供述をしているのであって、Aはイ点と証言していると決め
つけてAの証言全部の信用性を否定する原判決の証拠の評価は、著しく合理性を欠
くものであることは明らかである。
 4 その他、原判決は、Aの着衣、身体等に損傷や痕跡が証拠上認められないこ
とをAの証言の信用性を否定する根拠の一つとし、また、Aの証言と大筋において
合致するBの証言について、その内容の細部に記憶の混乱のあることをとらえて、
Aの証言の信用性を補強するに足りないとし、さらに、被告人の弁解録取書記載の
供述にも信用性がないとしているのであるが、これらもまた極めて合理性を欠く判
断であるといわざるを得ない。
 五 以上によれば、Aの証言等第一審判決が被告人を有罪とした証拠に対する原
判決の評価は、著しく合理性を欠いていることが明らかであり、原判決には重大な
事実誤認の疑いが顕著であり、これが判決に影響し、原判決を破棄しなければ著し
く正義に反するものであるといわざるを得ない。
 よって、刑訴法四一一条三号により原判決を破棄し、同法四一三条本文に従い、
本件を名古屋高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のと
おり判決する。
 検察官中神正義 公判出席
  平成六年一二月一五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達
            裁判官    大   白       勝
            裁判官    高   橋   久   子
<記載内容は末尾1添付>

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