弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人平井豊太郎名義および同平井二郎の上告理由一について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。
以下同じ。)の拳示する証拠に照らし、正当として是認することができ、その過程
に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 同二について。
 裁判所は、当事者の申し出た証拠方法でも、審理の経過から見て必要のないもの
と判断する場合には、取り調べなくとも差し支えないのである。所論の証拠方法に
より上告人が立証しようとする事実に関する主張については、原審は、主張自体理
由がないものとして斥けているのであるから、右証拠方法を取り調べる必要のない
ことは明らかである。また、原審が、所論の調査嘱託の申請につき許否を決するこ
となく結審したことは記録上明らかであるが、訴訟の指揮およびその経過に徴すれ
ば、その取調の要がないとしてこれを排斥した趣旨と解するのが相当である。論旨
は、採用することができない。
 同三および四について。
 原判決の引用する最高裁判所昭和三三年四月三〇日大法廷判決(民集一二巻六号
九二六頁)は、登記簿上の所有名義人と真実の所有者とが異なる場合に、登記簿上
の所有名義人を所有者としてなされた農地買収処分につき、当然無効ということは
できないと判示しているけれども、それは、当該農地所有権の移転後、移転登記未
経由の間に、真実の所有者の前主である登記簿上の所有名義人に対してなされた買
収処分の効力を争う事案に関するものであつて、登記簿上の所有名義が真実の所有
者の知らない間に他人により冒用されていたような場合についても、常に同様に論
ずることができるものではない。
 しかしながら、原判決の適法に確定したところによれば、亡D(昭和四年一〇月
二二日生)は、訴外亡Eの養子となつたが、昭和一四年Eが死亡したので、その家
督相続をした、原判決別紙目録記載の各土地(以下、本件各土地という。)は、D
の後見人となり、その財産を管理していた訴外亡Fが、昭和一五年六月ごろ、訴外
G鉱業所との間に、Dの相続財産である畑との交換により、Dのために所有権を取
得したものであつて、Dがその真実の所有者であるけれども、その登記簿上の所有
名義人は、Fとされていた、そしてFの存命中は同人が、その死亡後はFの家督相
続人でありDの母である上告人が、本件各土地を他人に耕作させるなどして管理し
ていた、本件買収処分は、昭和二二年三月三一日Fあての買収令書によつて行なわ
れたが、当時同人はすでに死亡しており、右買収令書は、上告人に交付された、そ
の当時、Dは上告人と同居していた、というのである。そして、特段の事情の主張
のない本件においては、すでに満一八才に達していたDは、本件買収令書の内容を
相当程度理解しうる能力を有していたものというべきである。このような事実関係
のもとにおいては、自作農創設特別措置法による農地買収処分の目的にかんがみ、
真実の所有者ではなく、すでに死亡している登記簿上の所有名義人あての買収令書
を発行して行なわれた本件買収処分といえども、無効とまではいえないとした原審
の判断は、結局、正当であるといわなければならない。
 以上の次第で、諭旨は採用することができない。
 同五について。
 所論の点に関する原審の判断は、正当とし是認するに足りる。原判決に所論の違
法はなく、論旨は採用することができない。
 同六について。
 自作農創設特別措置法五条五号により「近く土地使用の目的を変更することを相
当とする農地」として指定されていない農地であつても、右の場合に該当するとき
は、これを買収することは違法であると解すべきことは、所論のとおりであるけれ
ども、それだけでは、当然に、重大・明白な瑕疵として買収処分の無効原因となる
わけではない(最高裁判所昭和三二年(オ)第二五二号同三四年九月二二日第三小
法廷判決、民集一三巻一一号一四二六頁参照)。原審における上告人の主張は、本
件各土地は五条五号に該当する買収除外地であつたので、本件買収処分は違法であ
るとし、昭和四一年六月二七日附準備書面において、現に本件土地は宅地に囲繞せ
られ本件土地を除く周囲の土地は悉く宅地に変更されているというにとどまるので
あつて、右買収除外地であつたことに対する処分庁の誤認が重大・明白であること
を具体的事実に基づいて主張するものではなく、このような主張は、無効原因の主
張としては、主張自体理由がないものというべきであり、これを斥けた原審の判断
は結局正当であつて、論旨は採用することができない。
 同七について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、挙示の証拠に照らし、正当として是認する
ことができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一

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