弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人大島正義の上告趣意第一点及び第二点について。
 各所論は(論旨第一点には判例を挙げているが)、いずれも原審で主張、判断の
ない単なる訴訟法違反の主張をいでないものであるばかりでなく、被害者Aに関す
る詐欺の点について本件起訴状(記録一五丁)の記載と第一審判決の事実摘示との
間に所論のような点において相違のあることは所論のとおりであるが、第一審判決
で認定されているところも、起訴状記載の訴因と同様詐欺であつて、しかも起訴さ
れた事実と同一性を欠くような異る事実を認定したものでないこと多言を要しない
ところである。異る点といえば、虚言を弄したその言葉が違うというだけのことで
あつて、その為に被告人の防禦に実質的な不利益を及ぼしたものとは、記録上到底
認められない。従つて、第一審判決は、所論のように起訴されていない事実につい
て判決したものでもなく又第一審において訴因、罰条の追加、変更等の手続をしな
いで所論のような事実を認定したことを非議される筋合のものでもない。又もとよ
り本件起訴状を無効と断ずべき何等の理由もない。
 なお論旨指摘の判例は、起訴した事実が一個の犯罪事実か二個の犯罪事実か不明
な場合、或はいつからいつまでに何回と記載されていて、その一つ一つの犯罪事実
の内容が不明な場合に、右訴因不特定のまゝ審理したことが違法であるとしたもの
で、本件に適切なものではない。
 同第三点について。
 所論は、事実誤認の主張である。第一審判決で認定しているところは、当初から
代金支払の意思も能力もないのに、その意思並びに能力があるように被害者を欺罔
して、詐欺をしたというのであつて、挙示の証拠によれば、本件犯罪事実は優に認
定し得るのである。
 同第四点について。
 所論は原審で主張判断のない事項について違憲をいうものであるから、上告適法
の理由とならない。のみならず、第一審の第五回公判調書(記録五六丁)によつて
所論の各証人尋問の経過を見ると、B、C、Dについては、第一審弁護人が現に右
各証人を尋問していることが認められるし、A、Eの両名に対しては、尋問をうな
がされ「証人に対しては尋問することがない」と陳述していることが認められるの
で、違憲論としてもその前提を欠くものである。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で
主文のとおり決定する。
  昭和三一年一一月二〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    垂   水   克   己

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