弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 被告は,原告Aに対し,2998万4001円及びこれに対する平成12年12月28日
から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Bに対し,2916万4001円及
びこれに対する平成12年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの負担とし,その余は被告の負担とす
る。
4 本判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告は,原告Aに対し,金5666万5180円及びこれに対する平成12年12月28
日から支払済みまで年5分の割合による金員を,原告Bに対し,5546万5180円
及びこれに対する平成12年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 1 本件は,被告が管理する水路に転落し,頭部外傷により死亡した亡Cの相続人で
ある原告らが,被告に対し,上記転落事故は被告の設置管理にかかる歩道,水路
等に瑕疵があったために発生したものであるとして,国家賠償法2条1項に基づ
き,損害賠償(前記死亡の日である平成12年12月28日以降支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を含む。)を求める事案である。
 2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により
容易に認められる事実)
  (1) 当事者
ア 原告Aは,C(昭和41年7月21日生)の妻であり,原告Bは,両名間の子で
ある(Cの出生日につき甲1,その余は争いがない。)。
イ 被告は,市道北吉津曙線(以下「本件市道」という。)の歩道(以下「本件歩
道」という。)及びこれに沿う水路(以下「本件水路」という。)を設置,管理する
地方公共団体であり,これらはいずれも営造物である(争いがない。)。
(2) 本件事故の発生
  Cは,平成12年12月28日未明,本件歩道を自転車で走行中,広島県福山市
a町b丁目c番d号D株式会社福山営業所(以下「D株式会社」という。)先の本件
水路に転落し,遅くともその約5時間後には死亡した(Cが同日未明にD株式会
社先の本件水路において死亡したことは争いがなく,その余は甲2)。
(3) 本件事故現場付近の状況
  本件事故現場付近の状況は,ほぼ別紙現場見取図1記載のとおりであるが,
斜線部分が本件歩道であり,この南西側に沿って本件水路がある。本件歩道及
び本件水路の状況は,次のとおりである(甲18,乙1,4,6,弁論の全趣旨)。
 ア 本件歩道の状況
   本件歩道は,バス停留所を設置するために,その一部(別紙現場見取図1の
ヌ,ル,オ,ワ,ヌの各点を順次結んだ直線で囲まれる範囲内の部分。以下,
同見取図上の点については,単に「ヌ点」などという。)が削られ,その後に設
置されたと思われる電柱の工事に伴い,本件事故当時,次のような状態とな
っていた。
   本件歩道及び後記のとおり本件水路上に架けられたコンクリート製溝蓋部分
を合わせた幅員は,リ点付近からヌ点付近までは約3.5メートル,ヌ点付近
からル点付近にかけて次第に狭くなり,ル点付近からオ点付近にかけては約
15メートルにわたって約2.1メートル(そのうち本来の歩道部分は約0.9メー
トル),オ点付近からワ点付近にかけて次第に広くなり,ワ点付近から再び約
3.6メートルであった。
   上記電柱は,本件転落現場から約16メートル北西寄り(e町方面。別紙現場
見取図1ル,オ間のA点付近。)にあり,その断面の直径は約40センチメート
ルで,本件水路上に架けられたコンクリート製溝蓋部分に接して設置されてお
り,当該箇所におけるコンクリート製溝蓋部分の幅員は約1.2メートル,本来
の歩道部分の幅員は電柱の車道側約0.5メートルである。
   また,本件歩道は,D株式会社敷地前付近では,同敷地端から北東側車道に
向かって低く傾斜し,車道との間に縁石や段差のない形状となっている。
 イ 本件水路の状況
上記アのとおり,バス停留所の設置により削られて幅員が狭くなった本件歩
道を補うため,本件水路上のイ,ロ,ト,チ,イの各点を順次結んだ直線で囲ま
れる範囲内の部分に,そのころ被告によって,コンクリート製の溝蓋(以下「バ
ス停溝蓋」という。)が架けられている。また,本件水路上のロ,ハ,ヘ,ト,ロ
の各点を順次結んだ直線で囲まれる範囲内の部分には,昭和50年7月16日
に被告から占用許可を受けたEによって,倉庫への進入路とするために,コン
クリート製の溝蓋(以下「本件溝蓋」という。)が架けられている。そして,本件
水路上のハ,ニ,ホ,ヘ,ハの各点を順次結んだ直線で囲まれる範囲内の部
分は,無蓋開渠となっている。
本件水路は,コンクリート製の側溝であり,その深さはコンクリート製の本件
溝蓋の厚みを含めて1.0ないし1.1メートルであり,幅員は開口部が約1.3
メートル,底部が約0.5メートルであり,本件事故当時の水深は約5センチメ
ートルであった。
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件歩道,水路等の設置管理の瑕疵の有無)
(原告らの主張)
(1) 本件溝蓋部分の管理者
本件水路上のバス停溝蓋部分は,本件歩道に含まれるか,または一体として
歩行者等が歩道として使用可能な形状であり,本件溝蓋部分も,本件歩道と一
体として歩行者等が歩道として通行可能な形状となっている。本件溝蓋は,Eの
占用許可申請により設置されたものであるが,被告は許可に際し,交通安全の
ための諸条件を付し,あるいは不許可にすることもできた以上,国家賠償法上の
設置行為は被告によりなされたといえる。また,水路の管理業務には占用の許
可・不許可を含み,その後の延長許可等の権限があることからすれば,本件溝
蓋部分に対しても,被告の管理権限及び管理義務が残存している。なお,被告
は,昭和55年に占用許可期限が切れた後も,何らの措置をとることもなくそのま
ま放置していたのであるから,Eの設置,管理の瑕疵であると主張することは信
義則に反する。
(2) 本件歩道,水路等の状況及び瑕疵
 ア 本件歩道,水路等は,前記経緯から,幅員等が前記形状になっているため,
歩行者等が,バス停溝蓋部分(幅員約1.25メートル)を進行することが当然
の構造となっていたばかりか,バス停溝蓋部分に接した位置には電柱が設置
され,かつ電柱よりル点寄りには電柱に隣接してバス停留所の標識が設置さ
れていることから,本件歩道を進行する者が,ル点付近からオ点付近に進行
するまでに,本件水路上のバス停溝蓋部分を通行せざるを得ないことになり,
そのまま直進すれば本件溝蓋が途切れているヘ点付近において,開渠になっ
た本件水路に転落してしまうという構造となっていた。
 イ 本件歩道は,D株式会社敷地端から車道まで低く傾斜し,縁石はなく,車道と
の段差もないため,夜間には,傾斜が歩道から車道に降りるためのものと誤
信させる状況を作出している。
 ウ 被告によって設置されたヘ点からホ点の間にある白いガードパイプの存在
が,D株式会社によって設置されたハ点からニ点の間にある緑色フェンスと相
まって,明かりの消えた深夜には,その間にある本件水路部分を通行可能な
歩道の延長であると錯覚しかねない構造となっていた。
 エ 被告は,水路上のバス停溝蓋部分を歩行者等の通行の用に供するにあた
り,水路への転落防止及び歩道部分の終わりを示す意味もあり,本件溝蓋北
側のロ,トの各点付近に逆U字型の歩行者止めを設置していたが,本件事故
時までには上記歩行者止めは姿を消しており,歩行者等が上記歩行者止めを
超えて進行することが可能な状況となっていた。
 オ このような状況にもかかわらず,本件事故現場付近には,現場付近の危険性
を告知する標識等の警告措置や転落防止措置がないばかりか,夜間,現場
付近の危険な状況を明らかにするための街灯も設置されておらず,しかも,本
件溝蓋の先に続いている本件水路は,約1メートルの深さのコンクリートがむ
きだしの水路であり,転落した場合には,歩行者等において重大な傷害や死
亡という結果が発生する危険性の高い構造であった。
   仮に被告が主張する水路管理上の「開渠の原則」が認められるとしても,同原
則は,転落事故を防止するための脱着可能な鉄板等の溝蓋を水路上に設置
することまでも排除するとは到底考えられず,転落防止の防護措置を講じたと
しても,水路の清掃や雨水の排水には何ら障害にならない。また,被告は,パ
チンコ店の明かりで識別可能であるなどと主張するが,本件事故発生当時の
時間帯は既にパチンコ店の明かりは消えている時間であるし,対向車両や信
号の明かりは,自転車運転者の視界を失わせることがあっても,視認性を高
めることはない。さらに,コンビニエンスストアーは,事故現場から110メート
ル以上離れた場所にあり,その明かりが現場付近の水路部分を照らしていた
などという主張は失当である。
 カ 以上に加えて,本件市道は,道路構造令第3条の第4種道路に該当するとこ
ろ,同令第10条の2により,自転車歩行者道としては最低限1.5メートルの
幅員が必要とされ,バスの停留所の看板,電柱等の路上施設を設ける場合に
はこれに0.5メートルを加えなければならないが,バス停留所で削られた部
分の本件歩道の幅員は,わずか0.97メートルであり,同令に違反している。
第4種道路の車線の幅員は,3ないし3.25メートルであるところ(同令第5
条),本件市道の車線の幅員は約6メートルであり,バス停留所の設置にあた
っては車道を削って歩道を広くすべきところ,被告は歩道を削ったものである
から,バス停留所設置に伴うやむを得ない結果であるとはいえず,明らかな道
路の設置,管理の瑕疵である。
 キ 結論
 このような本件歩道,水路及び本件溝蓋の状況に照らせば,被告は,本件
歩道を通行する者が本件水路に転落することを避けるために,ヘ点付近に街
灯を設置するか転落防止用の防護柵あるいは標識等の安全設備を設置する
などの措置を講ずべきであった。
 被告は,バス停留所を設置したときには,本件歩道の危険性を認識し,それ
を回避するために逆U字の歩行者止めを設置していたものと思われる。しかし
ながら,上記歩行者止めがいつの間にか失われたにもかかわらず,被告は,
その後何ら危険回避の措置をとらずに放置し,本件歩道,水路等の設置管理
者としての義務を怠っている。また,被告は,本件事故発生後,F警察署警察
官から本件歩道ないしは本件水路の危険性を指摘され,ハ,ヘの各点付近及
びニ,ホの各点付近の水路上のコンクリート部分に蛍光色を施したプラスチッ
クポールの杭を3本設置している。このような被告の本件事故前後の措置か
らしても,本件歩道,水路等の設置管理の瑕疵があることは疑いようがなく,
被告自身,これを十分認識していたというべきである。
 前記の事情に照らせば,本件歩道,水路等には,営造物として瑕疵があっ
たと認められ,被告にはその設置管理責任があるというべきである。
 なお,Cは,本件事故当時飲酒していたが,同程度の飲酒は通常あり得るこ
とであるし,多少の飲酒の上で自転車を運転することは世上よく見られること
であり,走行方法も直進していただけであるから,被告が主張するような特異
な事情とは到底いえない。
(被告の主張)
 (1) 本件溝蓋部分の管理者
  バス停溝蓋部分は,バスの乗降客の待機場所及び公道から西側私有地への
出入口として利用されているもので,歩道ではない。また,本件溝蓋は,昭和50
年7月16日,Eが被告から占用許可を受けて設置,管理しているもので,公道よ
りD株式会社倉庫事務所への自動車等の出入口として使用されており,被告の
設置,管理にかかる営造物には該当しない。
  本件溝蓋のごとき占用許可に係る溝蓋ないし橋は,福山市内に極めて多数存
在し,これを被告において全て管理することは困難であって,そのため,当該設
備についての管理は全て占有者ないしその承継人がこれを行うことが占用許可
の条件となっている。私設の工作物につき転落の危険等が存する場合には,設
置者である当該私人にその安全策を講ずべき義務があり,かかる私人の設置管
理している本件溝蓋及びこれに関連する問題につき,被告がその設置管理の瑕
疵の責を負うべき理由はない。
(2) 本件歩道,水路等の状況及び瑕疵の主張について
 ア 本件バス停溝蓋は,バス停留所が設けられた際,乗降客の安全及び自動車
交通の混雑の緩和のために歩道の一部が削減されたことの対応策として,バ
ス乗客の待機場及び付近住民の公道への出入口等の確保のために設置さ
れたものであり,その設置自体に何らの問題はない。
   たしかに,本件歩道は電柱等の設置により一部狭くなっている箇所も存する
が,そこから転落地点までは15メートル以上の距離があり,見通しもよく,歩
行者はもちろん,自転車運転者も,本件水路を認識し,これに転落しないよう
な行動を取ることが十分可能である。
 イ 本件歩道は,東側車道に向かって傾斜した形状になっており,バス停溝蓋部
分を通行して南進した場合には,同所付近の電柱部分通過後は,自然に東側
の歩道部分を進行することとなり,その結果,転落地点の方向には進行しにく
い構造となっている。
 ウ 原告ら主張のフェンスとガードパイプとの間の水路部分は,通行可能な歩道
の延長と錯覚するような構造,状況にない。
 エ 被告は,本件溝蓋北側端付近に逆U字型状の歩行者止めが設置されていた
との事実は確認していない。かかる形状の歩行者止めが設置されていた場合
には,歩行者等の通行の障害になるばかりか,かえって事故発生の原因にも
なりかねない。仮に歩行者止めがあって,その姿を消したという経緯があった
とすれば,近隣住民が歩行者止めが通行の障害となる危険性と本件水路へ
の転落の危険性と対比して,本件水路への危険性の方がないと判断したから
といえる。
 オ 本件市道は,自動車の交通量も相当量存する幹線道路であり,本件事故現
場付近は街灯はないものの,すぐ近隣にパチンコ店,コンビニエンスストアー
などの大型店舗が点在し,信号機,通行車両のライトにより,深夜に至っても
かなり明るい状況にあり,深夜でも歩道か水路かは識別できる。また,街灯
は,予算上,申請があれば各町内会の費用負担で設置しているが,本件事故
現場について申請がなされたことはない。また,本件溝蓋は,被告の設置管
理に係るものではないから,被告が同所に防護柵を設置することは法律上の
根拠がなく,また,予算の範囲内において必要不可欠な箇所から随時設置し
ているところ,本件水路はこれを設置する状況になかったもので,近隣住民か
ら設置を求める要望も出されていない。
   本件水路は,前記のとおり,底部の幅員が狭く,仮に自転車等が転落しても途
中で引っ掛かって止まり,底部まで直下することはなく,転落しても死亡等の
重大事故に至る可能性はなく,危険性の高い構造とはいえない。本件水路に
ついては,約40年前に水路が設置されて以来,事故の報告はなく,また市民
からの対応申し入れもない。なお,本件事故発生後,本件溝蓋の南端にポス
トコーンを設置しているが,本件事故発生により,警察等と協議の上,D株式
会社の承諾を得て仮設のポストコーンを設置しているものであり,被告が本件
水路,歩道等の瑕疵を認めた上で設置したものではない。
   これらに対し,原告らは,バス停溝蓋部分をそのまま直進すれば,開渠の本
件水路に転落してしまう構造になっているとして,本件水路全部に転落防止の
ため蓋等を設置しなければならないかのように主張するが,本件水路は,農
業用水,雨水,生活排水等のための用水路であって,本来,水路は,雨水の
流入,ゴミ等による流水の阻害防止等の管理上の理由に基づき,開渠が原則
であり,水路上に溝蓋を設置するのは,公道より私有地への出入りの確保の
ため,限定的な範囲でこれを認めているものであるから,原告らの主張は,水
路開渠の原則に反し,失当である。
   よって,これらの措置を講ずべき必要性はない。
 カ 原告らは,本件市道が道路構造令に違反しているとして道路の設置,管理に
瑕疵がある旨主張する。しかし,本件事故現場付近の本件市道は,車道の交
通渋滞を緩和するためにバス停留所の停車帯にする目的で,当該歩道部分
に幅員約1.5メートルの切り込みを設け,その代替措置として水路にバス停
溝蓋を設置したものであり,その形状は,少なくとも道路法施行法10条1項,
道路構造令38条1項の規定により適法であり,本件歩道の設置,管理に瑕
疵はない。
   また,本件市道の交通渋滞は極めて深刻で,バス停車帯を設置する際,片側
一車線の車道側を削減することは極めて困難であり,原告らの主張は机上の
空論にすぎず,その他の主張も失当である。
 キ 結論
  (ア) 以上のとおり,本件水路及び歩道は,通常人の一般的基準からして,危険
性を有する営造物ではないことは明らかである。
    仮に本件溝蓋の設置管理に瑕疵があったとしても,被告の設置管理に係る
ものではない。また,前記各事実関係によれば,本件営造物は相対的安全
性を具備しており,法律上,予算等の制約その他の諸事情から,危険防止
の措置の限界論として免責される事案に該当する。さらに,本件事故現場
で転落事故が発生したのは本件が初めてで,かつ,近隣住民等からも本件
水路及び歩道の危険性を指摘する申し出は全くなされていなかったもので
あり,また,本件事故現場は危険な形状を有していたものではないから,本
件事故の発生につき事前に予測することは困難であり,被告には予見可能
性がない。
    よって,被告は,国家賠償法2条1項の責任を負担しない。
  (イ) 本件事故は,Cが深夜,酩酊状態で,自転車をスムーズに進行させるのも
相当困難な状況で自転車を運転した結果,惹起されたもので,事故現場が
通勤経路であったことからしても,正常な状態で自転車を運転していれば本
件事故は発生しなかったものと推認され,極めて特異な事故であるから,被
告は,国家賠償法2条1項の責任を負担しない。
2 争点2(原告らの損害の有無及び損害額)
(原告らの主張)
(1) 逸失利益(Cの損害)           74,930,360円
               (原告らそれぞれ37,465,180円)
  Cは,死亡当時34歳で,平成12年には,558万円の年収を得ており,少なくと
も67歳に達するまでの33年間は就労することが可能であったものであるから,
その逸失利益は,新ホフマン係数19.1834,生活費控除割合を30%で計算
すると,7493万0360円となる。
【計算式】
 5,580,000円(平成12年当時の年収)×0.7(生活費控除30%)×1
9.1834(就労可能年数33年としてこれに対応するホフマン係数)=74,93
0,360円
そして,Cの相続人は,妻である原告Aと子である原告Bの2人であるから,原
告らは各2分の1ずつ(各3746万5180円)相続した。
(2) 葬儀費用(原告Aが負担)          1,200,000円
(3) 慰謝料(原告らの損害)26,000,000円
                 (原告らそれぞれ13,000,000円)
  原告A,原告Bに対して,各1300万円をもって慰謝するのが相当である。
(4) 弁護士費用(原告らの損害)         10,000,000円
                (原告らそれぞれ5,000,000円)
  原告らは,それぞれ訴訟代理人に本件訴訟の提起,遂行を委任し,その報酬と
して各500万円を支払う旨約した。
(5) 損害合計
  以上,(1)ないし(4)を合計すると,原告Aにつき5666万5180円,原告Bにつき
5546万5180円は下らない。
(被告の主張)
 原告ら主張の各損害は争う。
 特に,逸失利益の算定にあたっては,新ホフマン係数に基づく主張は失当であ
り,ライプニッツ係数に基づきその算出がなされるべきである。
 また,生活費控除は,被扶養者が妻と長女の2人であるから,35ないし40%と
みるべきである。
 慰謝料についても,合計で2000ないし2200万円が相当である。
3 争点3(過失相殺の可否及び過失割合)
(被告の主張)
  仮に,被告において,国家賠償法2条1項の責任が生ずるとしても,次の各事情に
照らせば,本件事故の大半はCの責めに帰すべき事由によって発生したことは明
確であるから,少なくとも本件損害につき90%を超える過失相殺がなされるべきで
ある。
 (1) Cは,本件事故前日には,勤務終了後,飲酒を伴う会合があり,しかもその帰
宅は深夜になることを十分承知していたのであるから,自転車で通勤するのを中
止するか,あるいは勤務後,勤務先に自転車を置き,タクシー等で会合に出席す
るか,もしくは,深夜,飲酒後帰宅する場合には,妻に自家用車での迎えを依頼
するか,さらにはタクシーで帰宅する等の行動をとることは極めて容易であった
にもかかわらず,これを怠り,勤務による疲れに加え,約6時間,深夜まで多量
のビールなどを飲酒して酩酊して仲間と騒いだため,心身とも疲労困憊し,認識
力,判断力がともに鈍麻し,通常の注意をもって自転車を運転することができな
い状態において,自転車を運転して出発し(自転車の損傷状況等からみて,極
めて低速で本件水路に落下したものと推認できるが,このことは同人の酩酊状
態を裏付ける。),さらに年末の深夜ということで少しでも早く帰宅したいという思
いから,周囲の注視を怠ったために,本件事故に遭ったものである。
 (2) しかも,Cは,本件水路に転落した後も,本件水路の構造に照らせば,通常であ
れば自力で這い上がり,救助を求めるなど何らかの対応をし,本件のような重大
な結果が生じなかったはずであるが,前記原因により身体の自由がきかなかっ
たため,救助への対応ができなかったものであり,死因は,凍死の可能性が強
い。
(原告らの主張)
Cの血中アルコール濃度,飲酒状況や解散時の様子に関する証言,Cの健康状
態や年齢等に照らせば,被告が主張するほどにCの判断能力が減退していたり,
疲労困憊していたとは認められない。また,死因は,本件水路に落下した際に負っ
た頭部外傷である。飲酒していた以上,全く過失がなかったとは考えていないが,
本件のように極めて特殊な道路形状,環境からすると,責任のほとんどは被告に
存する。
第4 当裁判所の判断
1 前記前提となる事実に加えて,証拠(甲2~7,9,10,17~23,28~33,35,
乙1~3,5~8《枝番のあるものはその全部。以下も原則として同じ。》,証人G,証
人H,証人I,原告A本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下のとおりの事実
が認められる。
 (1) 本件事故に至る経緯
  ア Cは,本件事故前日の平成12年12月27日,いつものように自転車で出勤
し,勤務終了後,原告Bが通う幼稚園の父兄で構成する「J」の会合に参加す
るため,広島県福山市f町g-h所在の飲食店「K」に自転車で出かけた。同会
は午後7時30分から開かれ,メンバー7人で鍋を囲んで午後11時ころまで飲
酒し,以後はお茶を飲みながら会の活動方針を話し合い,翌28日午前1時こ
ろ解散となった。Cは,その際,ビールの中ジョッキ(500ミリリットル)を2,3杯
飲んでいたが,顔が赤い程度で普段とさほど変わらない様子であり,店の前
で30分ほど立ち話をして午前1時30分ころ,自転車に乗って帰宅の途につい
た際も,ふらついたりすることなく普通に自転車を漕いで帰って行った。
  イ Cの飲酒程度につき,被告は,アルコールの影響で正常な運転ができない酩
酊状態にあったと主張するので,上記のとおり認定した理由につき,補足して
説明する。
    鑑定結果書(乙2)によれば,Cの遺体から採取された血中アルコール濃度は,
血液1ミリリットルあたり約0.60ミリグラムであり,Cが本件事故後,遅くとも
約5時間後には死亡していることなどに照らせば,本件事故当時,Cの酔いの
程度は,厳密なテストをすれば運動失調が来ているため,運転者としては危
険であるが,本人にその自覚がない程度とされる第1度(微酔)であったと推
認される(乙5)。そして,「J」会長で本件会合が開かれた店の店長でもある証
人Gは,Cの飲酒量及び同人の様子について,「生ビールの中ジョッキ2,3杯
を飲み,飲酒時も帰る際も普段とあまり変わらなかった。」旨の証言をするとこ
ろ,その証言内容は上記推認と整合する内容といえる上,御勘定表(甲28)
の記載と符合し,他の参加者の陳述書の内容とも齟齬はなく,信用することが
できる。
    以上によれば,上記アの事実を容易に認めることができる。
    これに対し,被告は,Cが酩酊状態で正常な運転ができなかったことを窺わせ
る一事情として,同人が自転車を運転していた速度が低速であったことを指摘
する。たしかに,上記飲食店から本件事故現場までの距離,Cの死亡推定時
刻,自転車の損傷状態等(甲2,22,乙1等により認定できる。)からすれば,
本件事故当時,Cが低速度で自転車を走行させていた可能性もなくはない
が,既に指摘した事情を併せ考慮すると,自転車の速度のみを根拠として,C
の飲酒程度が,アルコールの影響で正常な運転ができない酩酊状態にあった
とは認められない。被告の上記主張は,採り得ない。
 (2) 事故態様
  ア その後,Cは,自宅に向かって,自転車の前照灯を点灯して本件歩道を経て本
件溝蓋部分を北西から南東に向かい走行していたが,平成12年12月28日
未明,その途切れた部分(別紙現場見取図1記載の・印箇所)から,自転車と
ともに開渠となった本件水路に転落し,同日午前6時30分ころ,頭を北西側,
足を南東側にして仰向けに倒れ,その頭部に自転車(上下が反対になり車輪
が上になっていた。)のサドルが当たる状態になっていたところを発見された
が,その時には既に死亡していた。死亡したのは,転落した際,頭部を強打し
たことにより受けた頭部外傷に直接の原因がある可能性が高い。なお,Cら家
族は,平成12年4月のCの転勤でその当時の自宅に転居してきたものである
が,本件歩道は,Cが普段通勤に利用していた経路ではなかった。
イ 被告は,Cの死因につき,相当程度の酩酊状態かつ疲労状態にあったため
に身体の自由がきかず,凍死に至った可能性が高いと主張する。同人の死因
については,解剖が行われていないため必ずしも明らかではない。しかし,同
人が発見された際の上記状況に照らせば,自転車もろとも頭から転落し,そ
のまま一回転したものと認められる上,本件水路の水深はわずか5センチメー
トル程度しかないことに照らすと,コンクリート側溝に打ち付けられたCの頭部
には相当強い力が掛かったことが推認される。また,午前7時21分に救急車
で病院に搬送された際には既に死亡しており,死後2ないし5時間経過してい
ると診断されたが,診療録によると顔面に凝血塊が付着し(乙3の2),原告A
によれば,対面時,前頭部の中心に陥没したような外傷があったとのことであ
り(甲9),死体検案書においても直接死因は頭部外傷とされている(甲2)。こ
れらの事情に加えて,Cの飲酒程度は相当程度の酩酊状態とまではいえない
ものであったこと(前記(1)ア),Cは,本件事故当時,とりたてて疲労状態にあ
った様子はなかったこと(原告A本人)を併せ考慮すれば,Cの死亡は頭部外
傷に起因するものと認められる。
  また,被告は,本件歩道はCの通勤経路であったと主張するところ,たしか
に,自転車通勤への変更に伴う,平成12年10月31日付け通勤手当認定申
請書(甲23の3)には,自宅から勤務先までの略図として本件市道が記載さ
れている(甲17添付図面参照)。しかしながら,原告Aは,Cは本件市道はバ
ス停留所で待っている人がいると一旦自転車から降りて自転車を押したりしな
いといけないからバス通りは通らないと言って,実際には本件市道の一本北
を並行に走る道路を通勤経路としていたと述べているところ(甲17,原告A本
人),その内容は,前記のとおり,本件歩道のバス停留所付近は,幅員が狭く
なっており,バス停溝蓋部分が乗降客の待機場所等として歩道を補う役割を
果たしていたという状況に照らせば,通勤時間帯に本件歩道を自転車でスム
ーズに走行するのが困難であることは想像に難くなく,信用できる。車両によ
る通勤の場合,勤務先に申請した通勤経路と異なる経路を利用することはま
まあることであり,不自然な話でもない。こうした事情を考慮すると,本件歩道
は同人の通勤経路ではなかったと認めるのが相当である。
(3) 本件事故現場付近の状況
 ア 明るさ及び視認状況
(ア) 照明状況
  本件市道は,本件事故現場付近では,車道部分の幅員が約12メートルで
あり,同市道を挟んで本件事故現場の反対側(北東側)には,郊外型パチ
ンコ店及び駐車場があり,同市道に面してその南西側には,北西方面から
南東方面に向かって(Cが本件事故当時進行していた方向)順に,駐車場,
D株式会社事務所,同倉庫前駐車場,幅員約3.5メートルの道路を挟ん
で,自動販売機が設置されている建物前駐車場,レストラン,車両販売会
社展示場等が並び,さらに背戸川の流れる道路を1本挟んで,本件事故当
時はコンビニエンスストアがあった(口頭弁論終結時は閉店)。
  本件事故現場付近にある照明設備としては,本件事故現場の進行方向手
前から順に,別紙現場見取図2ア点に電柱の街灯が,ア点から約17メート
ル先のウ点に門灯,蛍光灯があるのみで,上記自動販売機は本件事故現
場から約23メートル先のエ点にあり,上記コンビニエンスストアは,本件事
故現場から110メートル以上先にあった。
なお,本件事故が発生した時刻を,Cが上記店から出発した時刻,同人
の死亡推定時刻から考えられる最も早い時刻である平成12年12月28日
(木曜日)午前1時45分ころと想定すると,そのころの月齢は,新月の同月
26日午前2時から約48時間経過した時間にあたり,天気は晴れであった。
(イ) 照度調査
  原告Aが依頼した調査会社が,平成14年8月10日(土曜日)午前0時50
分から午前1時20分までの間(新月から約21時間経過した時間にあたり,
天気は晴れで一部に雲があった。),本件事故現場付近の照度を測定した
結果によると,別紙現場見取図2のア点で5ルクス,A点で計測不能,イ点
で10ルクス,ウ点で5ルクス,B点で計測不能,C点で計測不能,自動販売
機の光源は580ルクス,その直近の水路上蓋上エ点で10ルクス,歩道中
央オ点で5ルクスであった。また,自転車の前照灯の明るさを光源に接して
測定した結果は,自転車の光源が1000ルクス,前輪先端から1.6メート
ル先の地面で10ルクスであった。なお,その前日である同月9日午後6時1
分から午後6時15分までの間に計測した昼間の照度は3400ないし3700
ルクスであった。
(ウ) 視認調査
  上記調査を実施した調査会社の職員Lは,「(別紙現場見取図2)B点に立
って見分したところ,転落地点C点方向は暗くて溝を確認できなかった。約4
0メートル先の自販機の明かりで先の歩道が確認された。」と述べている。
  また,被告職員4名が,平成13年1月29日午前2時10分から午前3時2
0分までの間(晴れ時々曇り),本件事故現場付近の視認状況について,自
転車に乗り,事故地点がどのくらい手前で確認できるかを測定した報告書
(乙6)によると,別紙現場見取図1へ点からホ点にかけて設置されたガード
パイプが,職員2名は約5メートル手前で,職員2名は約10メートル手前で
確認することができたとされている。
イ 本件市道の利用状況
    原告Aが依頼した調査会社の上記調査時において,本件市道の自動車の交通
量は,午前1時38分から1分間で,南側方向へ(福山港方面へ)タクシー2
台,代行運転普通乗用車1台であったが,歩行者,自転車の通行はなかっ
た。
また,被告職員の上記実験時において,本件市道の自動車の交通量は,
午前2時40分から午前3時20分の40分間で,南側方向へ26台,北側方向
へ15台,自転車の交通量は,南側方向へ1台,歩行者は北側方向へ1人で
あった。
ウ 本件事故前後の事故発生状況
  被告は,土木常設員設置規則に基づき,区域ごとに住民の中から委嘱される
土木常設員を通して,土木事業や水路改修事業等に関する地元住民の意向
を市に申し出る土木常設員制度を設けているところ,本件事故現場について,
本件事故前,被告に土木常設員を通じて防護施設の設置等の要望等がなさ
れたことはなかった。
  しかし,本件事故の4日後である平成13年1月1日にも本件事故現場におい
て転落事故があり,同月4日,F警察署から被告に対し,事故報告と目印があ
った方が望ましいとの意見具申があったのを受けて,同日,被告において,E
に相談することなく,別紙現場見取図1のハ,ヘの各点付近及びニ,ホの各点
付近の水路上のコンクリート部分に蛍光色を施したポストコーンを3本設置し
た。
 以上の前提となる事実(前記第2の2)及び認定事実(第4の1)を前提に,以下,
各争点について検討する。
 2 争点1(本件歩道,水路等の設置管理の瑕疵の有無)について
(1) 本件営造物の設置管理の瑕疵
前記認定の本件歩道及び水路の状況からすると,本件歩道を北西から南東
に向かって進行する場合,本件歩道のバス停留所設置により削られた部分は,
バス停溝蓋を除く本来の歩道部分に限っていえば,幅員が最も狭い箇所で約
0.9メートルと非常に狭くなっている上,電柱が設置されている部分において
は,本来の歩道部分は電柱の車道側に約0.5メートルを残すのみであり,自転
車等は当該箇所において本来の歩道部分を通行することはできず,それを避け
てバス停溝蓋部分を通行せざるを得ない。そして,当該箇所を通過後の本件歩
道及び水路の形状も,本件歩道は車道へと低く傾斜し,しかも車道との間には
縁石や段差もないことから,自転車運転者等において,車道側に降りないように
との意識から,傾斜のある本件歩道に進路を戻すことなく,バス停溝蓋部分をそ
のまま直進し,その結果,本件溝蓋部分を進行することが十分予想される構造
になっている。
そして,本件事故現場付近には街灯等の照明設備はなく,前記照度調査結果
によれば,本件事故現場手前の街灯や門灯,蛍光灯の直下では5ないし10ル
クスの照度があったものの,本件歩道からバス停溝蓋部分へと進路を変える上
記電柱付近や本件転落地点では計測不能であってほとんど照度がなかったも
ので,自転車の前照灯を使用してもその照度不足を十分に補うことはできない。
また,本件事故現場先の自動販売機も,設置付近の歩道でも5ルクスしかなく,
この明かりのために約23メートル手前の転落地点付近の構造を認識することが
可能になったとは考え難い。コンビニエンスストアに至っては転落地点から110
メートル以上も離れており,証人Iが証言するように,その明かりによって本件事
故現場付近の視認性が確保されていたとは直ちに認め難い(乙6号証添付の写
真は全てフラッシュをたいて撮影されているため,実際よりも明るく写っていると
考えられる。)。本件市道を挟んで反対側のパチンコ店の明かりについては,原
告A本人の供述によれば,午前0時ころには消灯していたものと認められる。ま
た,本件事故が発生した深夜においては,本件市道を通過する自動車はまばら
で,本件歩道を通行する自転車等が本件歩道や水路の構造を認識するのに役
立つものとは認められない。さらに,付近の信号機によって,本件事故現場の視
認性が有意に向上するとは考えられない。そうすれば,本件事故現場付近の明
るさは,上記のとおりの本件歩道及び水路の構造と本件溝蓋部分が途切れた先
が開渠の本件水路となっていることを,夜間に通行する自転車等に認識させる
には不十分であったといわざるを得ない。
これに対して,被告の前記視認調査に立ち会った証人Iは,本件事故後に設
置されたポストコーンを黒いビニール袋で覆って実験を行った結果,同ビニール
袋が本件溝蓋の端にかかっている状態でも,同ビニール袋の上から本件水路部
分と本件溝蓋部分の違いが認識できたと証言するが,乙6号証の報告書におい
ては,あくまでも「ガードパイプが確認できた」と表現されていること,水路の何が
見えたのかという問いに対して,同人は当初「水路の方向」が見えたと述べてい
たことなどに照らせば,上記実験において,当時の状況下で本件溝蓋と本件水
路もしくは水面との境目を認識できるかという点を意識的に調査できていたのか
疑問が残る。よって,視認状況についての同証言及び上記報告書の内容をその
まま信用することはできない。以上の照明状況に照らせば,本件転落地点付近
の視認状況は不良であったと認められる。
このように,本件事故現場においては,夜間,肉眼では本件溝蓋の途切れる
ところと,本件水路の開渠部分の境目を識別しにくく,そのまま本件溝蓋部分を
進行して本件水路に転落しかねない危険性を有している。そして,そのような場
合には,本件水路の深さが約1メートルで側溝及び底面の材質がコンクリート製
であることからすれば,転落した自転車運転者等が生命を失いかねない危険が
あることは当然予想されることである。この点,被告は,仮に転落しても途中で引
っ掛かって止まり,底部まで直下することはないと主張するが,最も狭い底部に
おいても幅員は約0.5メートルであるところ,本件自転車の幅は約0.54メート
ル(乙1)であり,容易に底面に到達するし,運転者においてはなおさらである。
そして,当事者双方の実験時においては,本件歩道を利用した歩行者及び自転
車はほとんどなかったものの,本件市道は,深夜でもまばらとはいえ自動車の通
行がある道路であることからしても,深夜における本件歩道の自転車等の通行
可能性は相応にあるものと推認される。
したがって,これらの事情を総合すれば,本件歩道及び水路は,深夜本件歩
道及び水路上の溝蓋を進行してきた自転車等が,本件溝蓋部分を経て本件水
路に転落する危険性を有しており,本件溝蓋の付近等には,夜間の通行者が誤
って本件水路に転落することのないように危険性を知らせる標識や転落防止措
置を設けたり,照明設備を設置するなどの事故防止措置をとることが必要であっ
たというべきである。
しかしながら,本件事故当時,そのような措置は何らとられていなかったもの
であるから,本件歩道及び水路は,営造物が通常有すべき安全性を欠いていた
ものというべきであり,その設置管理に瑕疵があったと認めるのが相当である。
これに対し,被告は,本件以前に本件事故現場での事故報告はなく,近隣住
民等から防護柵等の設置の要望もなかったから,本件歩道及び水路が通常有
すべき安全性を欠いていたとはいえないとの趣旨の主張をする。なるほど,被告
は,土木事業や水路改修事業等に関する地元住民の意向を市に申し出る土木
常設員制度を設けているところ,本件事故現場について,本件事故前,被告に
土木常設員を通じて防護施設等の設置の要望はなかった。しかし,証人H自ら,
被告福山市における他の水路転落事故についても,土木常設員から意見が上
がってきたことはないと証言していることをみると,そもそも被告の土木常設員制
度が,かかる水路転落事故発生の危険性の指摘という観点において十分に機
能していたものといえるのか疑問なしとしないことに加え,本件事故直後の平成
13年1月1日にも本件事故現場で転落事故が起きていること,それを踏まえて
警察の指摘を受けて上記ポストコーンが急遽設置されたこと,さらには,設置者
は明らかではないが,過去に本件溝蓋北西側端付近に歩行者止めが設置され
ていた痕跡があること(甲7,10,19)などに照らせば,本件事故現場の転落危
険性及び転落防止措置等の必要性があったものと十分に認められるのであり,
被告主張の事実をもって,本件歩道及び水路に瑕疵がなかったとはいえない。
また,被告が主張する水路管理上の開渠の原則については,本件溝蓋部分をE
に占用許可するにあたって,溝掃除を容易にするためのグレーチングをかけるこ
とを義務づけることで対処し,本件事故現場近くの水路においても同様のコンク
リート製溝蓋が多く見受けられること(甲35,乙4)などに鑑みると,必ずしも絶対
的な原則とは認め難い。そもそも被告が主張するような「開渠の原則」が存する
としても,転落事故発生の危険を放置してよいことにはならないのであり,転落
防止措置には溝蓋以外にも防護柵の設置等,より弊害の少ない種々の方法が
考えられるところである。清掃作業上の困難という理由も設置上さほど障害にな
るものとは認められない。結局のところ,この点についての被告の主張は理由が
ないというべきである。
なお,原告らは,本件歩道のバス停留所で削られた部分が,道路構造令第1
0条の2で最低限必要とされる自転車歩行者道としての幅員に満たず,同令違
反の道路構造であることも道路の設置管理の瑕疵であるなどと主張する。しか
し,同規定は,歩道通行者の通行の快適性を確保するための規定であるから,
本件市道が同規定に適合していないからといって,直ちに設置管理の瑕疵があ
ると断ずることはできず,少なくとも,そのことをもって本件事故と因果関係の認
められる設置管理の瑕疵とはいえない。したがって,この点についての原告らの
主張は採用できない。
(2) なお,原告らは,本件溝蓋も,本件歩道に含まれるなどとして,被告の管理す
る営造物である旨主張するが,本件溝蓋は,Eが被告の占用許可を得て倉庫へ
の進入路とするために設置したものであり,その後本件事故までの間,被告がこ
れを管理していたとの事実も認められないから,これを被告の管理する営造物と
いうことはできない。しかしながら,本件歩道及び水路の構造は,本件溝蓋を経
てではあるものの,自転車通行者等が水路に転落する危険性を有しており,本
件事故はその危険性が現実化したものであるから,被告は,本件溝蓋自体の管
理主体であるか否かに関わりなく,本件歩道及び水路の設置,管理者として責
任を負うものと認めるのが相当である。
(3) 被告の責任
  以上により,被告には,国家賠償法2条1項に基づき,本件事故により,原告ら
に生じた損害を賠償すべき責任がある。
3 争点2(損害額)及び争点3(過失相殺の可否及び過失割合)について
 (1) 逸失利益
   前記争いのない事実及び証拠(甲1,11)によれば,Cは,昭和41年7月21日
生まれで,死亡当時34歳であったこと,携帯電話会社に勤めていたCの平成12
年度の年収は,558万3652円であったことが認められる。そこで,これを基礎
年収とし,就労可能期間を33年間,生活費控除割合を30%とし,5%ライプニッ
ツ係数により中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると,6254万667
3円となる。原告らの相続分は各2分の1であるから,各3127万3336円(1円
未満切捨て)となる。
【計算式】
5,583,652×(1-0.3)×16.0025=62,546,673円
 (2) 慰謝料
本件事故の内容,Cの年齢,その他本件における一切の事情を考慮すると,
慰謝料は原告らそれぞれにつき1300万円と認めるのが相当である。
 (3) 葬祭費(原告A)
   本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては,120万円と認めるのが相当
である。
 (4) 過失相殺の可否及び過失割合
   本件事故当時の本件歩道及び水路の状況は前記認定のとおりであるが,本件
のように深夜自転車で本件歩道のような暗い水路沿いの歩道を通行する者に
は,進路の安全を十分確認しながら進行すべき注意義務があったというべきで
ある。しかるに,Cは,酩酊状態で自転車を運転していたものではないとはいえ,
本件事故当時,酒気を帯びた状態で自転車を運転していたために,飲酒の影響
で注意力散漫の状態となり,自転車運転者が当然払うべき上記注意義務を怠っ
た結果,前方注視不十分のまま進行したことにより,本件水路の開渠部分の存
在に転落地点の手前で気づかないまま,自転車もろとも転落したものと容易に
推認されるのであり,同人にはこの点において過失があるといわざるを得ない。
もっとも,前記1(2)ア認定のとおり,本件歩道はCの通勤経路ではなく,本件歩道
及び水路の状況等について同人が熟知していたものとまでは認められないこと
からすれば,本件歩道及び水路の状況に照らせば,本件溝蓋部分を走行中の
自転車等が,深夜,前記認定の明るさの下,本件溝蓋が途切れた先が開渠の
水路になっていることを認識し,転落を回避すべく,本来の歩道部分に進路を戻
すことは,相当程度困難なことであったと認められる。そして,Cの勤務による疲
労など,被告が主張するその他の過失は,これを認めるに足りる証拠はない。
   そうすると,本件事故は,Cの上記過失にも起因するものと認められるところ,既
に認定した本件事故発生の原因となった本件歩道及び水路の設置または管理
の瑕疵の内容と対比すれば,過失相殺として,原告らに生じた損害の4割を減ず
るのが相当と認められる。
   したがって,被告において賠償すべき金額は,原告Aの損害合計4547万3336
円のうち,その6割に相当する2728万4001円,原告Bの損害合計4427万3
336円のうち,その6割に相当する2656万4001円となる。
 (5) 弁護士費用
  本件事案の内容,審理経過,認容額等,諸般の事情を総合すると,相当因果関
係のある弁護士費用相当の損害額は,原告Aにつき270万円,原告Bにつき2
60万円と認めるのが相当である。
(6) 損害額合計
よって,原告Aの損害額は,合計2998万4001円,原告Bの損害額は,合計
2916万4001円となる。
第5 結論
   以上によれば,原告Aの請求は2998万4001円,原告Bの請求は2916万400
1円,及び原告らについて前記各金員に対する本件事故の日である平成12年12
月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
める限度で理由があるからこれを認容し,その余は失当であるからいずれもこれを
棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
広島地方裁判所福山支部
裁判長裁判官    森 一岳
裁判官    中島経太
裁判官    荒木美穂

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