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平成15年(ワ)第19926号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年9月27日
判決
原       告     花王株式会社
同訴訟代理人弁護士     中島敏
被       告     川商事株式会社
                 (以下「被告川商事」という。)
被       告     有限会社吉川化学工業所
                 (以下「被告吉川化学」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士   畑井博
主文
1 被告らは,別紙物件目録記載の物件を生産し,譲渡し,譲渡の申出を
し,又は使用してはならない。
2 被告らは,保有する別紙物件目録記載の物件を廃棄せよ。
3 被告らは,原告に対し,各自金1億5229万9414円及び内金1
億2712万5879円に対する平成15年9月11日から,内金2517万35
35円に対する平成16年4月1日から各支払済みに至るまで年5分の割合による
金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被
告らの負担とする。
6 この判決は,第1項から第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項及び第2項と同旨
2 被告らは,原告に対し,各自金1億6000万円及びこれに対する平成15
年9月11日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 原告は,豆腐用凝固剤組成物についての特許権を有しているが,別紙物件目
録記載の物件(以下「被告各製品」という。)を被告吉川化学が製造し,被告川
商事が販売する行為が原告の有する特許権を侵害するとして,被告各製品の生産等
の差止め,廃棄並びに各自1億6000万円及び遅延損害金の支払を求めた。
 これに対し,被告らは,被告各製品は,原告の特許権に係る発明の技術的範
囲に属しない等と主張して争っている。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)
(1) 当事者
ア 原告は,食品,食品添加物及び飲料の製造及び販売等を業とする株式会
社である。
イ 被告川商事は,苦汁工業製品その他各種工業薬品,食品添加物の製造
及び売買並びに輸出入等を業とする株式会社である。被告吉川化学は,苦汁を原料
とするブロム,苦汁加里塩,その他の製造等を業とする有限会社である。
(2) 原告の有する特許権
 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その請求項1の発明
を「本件発明」という。)を有している。
 発明の名称   豆腐用凝固剤組成物
 特許番号    第2912249号
 出願年月日   平成8年8月20日
 登録年月日   平成11年4月9日
 特許請求の範囲(請求項1)
 無機塩系豆腐用凝固剤とポリグリセリン縮合リシノー
ル酸エステルと油脂とを含有することを特徴とする豆腐用凝固剤組成物。
(3) 本件発明の構成要件の分説
 本件発明の構成要件は以下のとおり分説できる(甲3,4)。
① 無機塩系豆腐用凝固剤と
② ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルと
③ 油脂とを含有することを特徴とする
④ 豆腐用凝固剤組成物
(4) 本件発明の作用及び効果
 本件発明の豆腐用凝固剤組成物は,これを使用することにより,低温の豆
乳を用いた凝固,高温の豆乳を用いた凝固のいずれにおいても,塩化マグネシウム
等の風味を損なわない濃度で十分な硬さを有し,風味にも優れた豆腐を製造するこ
とができるという効果を有する(甲4)。
(5) 被告らの行為
 被告各製品については,被告吉川化学が業として製造し,被告川商事が
業として販売を行っている。
 被告らは,①別紙物件目録記載1の製品(以下「被告製品A」という。)
について,平成10年5月ころから平成13年7月ころまで製造,販売をし,②別
紙物件目録記載2の製品(以下「被告製品B」という。)について,平成13年9
月ころから,製造,販売を開始し,③別紙物件目録記載3の製品(以下「被告製品
C」という。)について,同9月以降の時期から,製造,販売を開始した(なお,
被告らは,被告製品B及びCについて,いずれも「ミルキィニガリK」という商品
名を付していると主張する。しかし,食品衛生法に基づく表示によれば,両者は,
グリセリン脂肪酸エステルの含有量及びソルビタン脂肪酸エステルの含有の有無の
点で相違するので,別個の製品として,区別して検討する。)(甲5,6,2
8)。
(6) 被告各製品の概要
 被告各製品は,塩化マグネシウムと油脂を含む豆腐用凝固剤組成物であ
る。塩化マグネシウムは,無機塩系豆腐用凝固剤に該当する(甲4【0004】)
から,被告各製品は,本件発明の構成要件①,③及び④を充足する。
2 争点
(1) 被告各製品は,本件発明の構成要件②を充足するか(争点1)
(2) 原告の受けた損害はいくらか(争点2)
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点1(被告各製品は,本件発明の構成要件②を充足するか)について
(原告)
ア 被告各製品にはグリセリン脂肪酸エステルが含まれている。同グリセリ
ン脂肪酸エステルは,ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルであり,被告各製
品は,本件発明の構成要件②を充足する。
イ すなわち,被告各製品を加水分解し,これによって生じたリシノール酸
を定量し,ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルに換算した分析結果(甲2
0)によれば,被告各製品にはポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが含まれ
ている。前記分析結果によれば,被告各製品中のポリグリセリン縮合リシノール酸
エステルの含有量は,被告製品Aにおいて1.61重量パーセント,被告製品Bに
おいて0.34重量パーセント,被告製品Cにおいて0.22重量パーセントであ
る。
 上記分析結果は,被告各製品中に遊離のリシノール酸が存在しないこと
を示す分析結果(甲24,32)及び試料を加水分解することによってリシノール
酸を生じ得る食品添加物はポリグリセリン縮合リシノール酸エステルのみであるこ
とを示す文献(甲23,25)などにより,その正当性が裏付けられる。
(被告ら)
ア 被告各製品には,ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが含まれて
いない。被告各製品に含まれるポリグリセリン脂肪酸エステルは,ポリグリセリン
エルカ酸エステルである。
 甲20の分析結果により,被告各製品から検出されたリシノール酸は,
被告各製品において用いられているコーン油に由来するものであり,ポリグリセリ
ン縮合リシノール酸エステルに由来するものではない。
イ 被告各製品を加水分解してリシノール酸を定量し,ポリグリセリン縮合
リシノール酸エステルに換算した分析結果(甲20)は,以下のとおり,信頼性が
なく,これに基づいて,被告各製品にポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが
含まれているとすることはできない。
 すなわち,ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは,現在の分析技
術では,検出不可能である。また,リシノール酸は,コーン油や,その他高分子化
合物にも含まれているところ,同分析は,リシノール酸がポリグリセリン縮合リシ
ノール酸エステルにのみ含まれるという前提で換算している点で誤りがある。
(2) 争点2(原告の損害)について
(原告)
ア 特許法102条1項に基づく損害額
(ア) 被告各製品の販売額
 被告らは,以下のとおり,本件特許権の登録時である平成11年4月
から平成16年3月末までの間に,被告各製品を合計577.386トン製造,販
売し,その販売額は2億4786万2000円であった。
販売量(トン)       販売額
 平成11年度  98.154     4735万円
 平成12年度 128.394     5286万円
 平成13年度 125.640     5271万3000円
 平成14年度 129.762     5469万4000円
 平成15年度  95.436     4024万5000円
   合計   577.386   2億4786万2000円
 上記によれば,被告らのトン当たりの販売価格は42万9283円で
ある。
(イ) 原告の利益率,その他の事情
 他方,原告も,平成10年4月以降,本件特許製品である豆腐用凝固
剤組成物「マグネスファイン」(以下「原告製品」という。)を製造,販売してお
り,原告の製品と被告各製品は,市場において競合している。そして,大量の機械
的製造に適する豆腐用凝固剤組成物は,原告製品及び被告各製品以外の競合商品が
ほとんど存在せず,両製品で市場のほぼ9割を占めている。
 なお,原告による原告製品の製造及び販売の能力は,年間4000ト
ンの余力がある。
 原告製品の製造及び販売に関し,限界利益率は64.3パーセントで
ある。
(ウ) したがって,原告の損害は,1億5937万5266円となる。
イ 特許法102条2項に基づく損害額
(ア) 被告各製品の販売額
 平成11年4月から平成16年3月までの被告各製品の販売額は2億
4786万2000円である。
(イ) 被告各製品の経費率
a 原材料費(包装費等を含む)が,9056万8000円(36.5
4%)であり,運賃が1501万円(6.06%)であると推認されるので,これ
を基礎とすると被告らの経費率は42.60%となる。
b なお,ニガリ(塩化マグネシウム)は,被告吉川化学が自家製造し
ているので,ニガリの原価は,1キログラム当たり50円と推認される。仮に,自
家製造を前提として算定した場合には,原材料費は,7411万2499円(2
9.90%)となり,運賃(6.06%)を加算すると,被告らの経費率は35.
96%となる。
(ウ) 利益額
a 被告らの利益額は,販売額に利益率(57.40%)を乗じると,
1億4227万2788円となる。
b 仮に自家製造を前提として算定すると,被告らの利益額は,販売額
に利益率(64.04%)を乗じた,1億5872万6511円となる。
(エ) したがって,原告の損害は1億5872万6511円ないし1億4
227万2788円と推定される。
(被告ら)
ア 特許法102条1項に基づく損害額について
 原告製品や被告各製品のように,乳化型ニガリは豆乳凝固法の一部にす
ぎず,通電加熱法を用いていたり,自社製ニガリを用いている豆腐製造業者もいる
から,原告製品及び被告各製品で全国の9割を占めるということはない。
 そして,被告各製品の需要者は,これを用いた豆腐の風味が良いという
被告各製品の品質に着目する者,あるいは,被告らが卸売業者を通じて長年取引を
継続してきた豆腐製造業者などであり,原告製品の需要者とは需要層が異なる。
 さらに,被告川商事は,豆腐用凝固剤組成物を使用するための機械
(豆乳への添加機)の製造業者である株式会社星高に被告各製品を販売している
が,同社は,原告が取引を中止した取引先である。
 以上からすると,特許法102条1項ただし書に規定する事情があると
いうべきであり,原告には損害はない。
イ 特許法102条2項に基づく損害額について
 被告各製品の製造及び販売については,原材料を他社から仕入れている
こと,少量生産であること,単価の低い卸販売であること,豆腐業界の不況に伴う
取引先からの値引要求,品質保証期間が短期であること等の事情から,低収益とな
っており,原告が主張するような利益は発生していない。
第3 争点に対する判断
1 争点1(被告各製品は,本件発明の構成要件②を充足するか)について
(1) 甲20実験報告書の内容
 株式会社東レリサーチセンターの実施した実験結果(甲20)は,以下の
とおりである。
 すなわち,甲20の実験は,分析対象であるポリグリセリン縮合リシノー
ル酸エステルは,縮合リシノール酸とポリグリセリンのエステルであって,その重
合度,エステル化率などの異なる多数の成分の混合物であり,分析対象のみを的確
に分離できないことから,試料全体を加水分解し,リシノール酸を定量した後,標
準物質を用いてポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを算定する方法を採っ
た。
 被告各製品について,攪拌して上層,中層及び下層から試料を採取し,そ
れぞれ加水分解して脂肪酸を抽出し,抽出した脂肪酸をガスクロマトグラフィーに
より定性,定量分析を行い,平均値を計算した。その結果,リシノール酸につき,
以下のとおりの量が測定された。
 被告製品A  0.71重量パーセント
 被告製品B  0.15重量パーセント
 被告製品C  0.09重量パーセント
 被告各製品中のリシノール酸の定量結果を,SYグリスターCR-310
(ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル標準物質)のリシノール酸濃度に基づ
いて換算すると,被告各製品中のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは,以
下のとおりの算定結果が得られた(甲20)。
 被告製品A  1.61重量パーセント
 被告製品B  0.34重量パーセント
 被告製品C  0.22重量パーセント
 以上のとおりであり,被告各製品には,いずれも,ポリグリセリン縮合リ
シノール酸エステルを含有することが認められる。
(2) 甲20の実験結果についての評価
 甲20において,被告各製品から加水分解して得られたリシノール酸が,
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルに由来するものだけではなく,①遊離リ
シノール酸や②他の油脂由来のリシノール酸を含んでいる可能性があったか否かに
ついて検討する。
ア 遊離リシノール酸が含有される可能性の有無
 甲24,32によれば,被告各製品について,攪拌して上層,中層及び
下層から試料を採取し,それぞれ脂肪酸誘導体化試薬を加えて高速液体クロマトグ
ラフィーにより分析した結果,被告各製品中の遊離リシノール酸の含有量(上層,
中層及び下層の値の平均値)は,以下のとおりと測定された。
 被告製品A  0.004重量パーセント
 被告製品B  検出限界以下
 被告製品C  検出限界以下
(なお,同分析において,ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの標
準物質である「SYグリスターCR-310」に含まれる遊離リシノール酸の分析
も行われ,エステル化していない遊離リシノール酸が0.08ないし0.16重量
パーセント含有されていると測定されている。)。
 以上のとおり,被告各製品中の遊離リシノール酸の含有量は,無視でき
る程に微量であるといえる。
イ 他の油脂由来のリシノール酸が含有される可能性の有無
 被告は,被告各製品に含まれるリシノール酸は,コーン油に由来するも
のであると主張する。そこで,コーン油におけるリシノール酸の含有量について検
討する。この点,日清コーン油を対象とした分析(被告各製品中のリシノール酸含
有量の分析と同手法による分析)では,リシノール酸含有量は0.03重量パーセ
ントと測定された(甲20)。同結果によれば,コーン油由来のリシノール酸は,
無視できる程度の量であるといって差し支えない(被告吉川化学の依頼に係る乙1
2には,なたね油,ベニ花油,アマニ油,ごま油,しそ油,ひまわり油,コーン油
及びキャノーラ油を対象とした実験において,リシノール酸が,アマニ油において
100グラム中0.1グラム含まれると測定されたほかは,いずれも,検出限界以
下であると記載され,甲20とおおむね同様の結果が示されているともいえる。し
かし,同実験は,実験条件も明らかでなく,その信憑性は明らかでない。)。
 なお,リシノール酸を含む可能性のある油脂としては,リシノール酸の
トリグリセリドを主成分とするひまし油がある(甲21,22)。しかし,ひまし
油は強下剤としての作用から,食品添加物としての使用は認められていないので,
被告製品にひまし油が使用されていたと認めることは到底できない(甲23)。
ウ 以上によれば,①被告各製品中には,遊離リシノール酸はほとんど存在
しないこと,②食品に含まれ得る油脂には,リシノール酸はほとんど含有されてい
ないこと,③被告らが被告各製品に含まれていると主張するコーン油の種類は不明
であるが,コーン油にはリシノール酸がほとんど含まれていないことに照らすなら
ば,被告各製品から加水分解して得られたリシノール酸は,ポリグリセリン縮合リ
シノール酸エステル由来のものであると認めるのが相当である。
(3) 被告らの主張に対する判断
 被告らは,①ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの検出は現在の技
術水準では不可能であり,原告の依頼した分析結果(甲20)は信用できない,②
被告らの依頼した分析結果(乙3)によれば,被告各製品中にリシノール酸は検出
されていない,③被告各製品に含まれているのはポリグリセリンエルカ酸エステル
であるなどと主張する。
ア 被告らは,ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの検出は現在の技
術水準では不可能であると主張し,これに沿った文献として,乙2の3及び乙6を
提出する。
 しかし,甲20の実験は,ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル自
体を検出するというものではなく,前記のとおり,試料中のリシノール酸の定量分
析結果からポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含有量を換算するというも
のであるから,被告らの主張は採用の限りではない。また,乙2の3は,ポリグリ
セリン脂肪酸エステルの組成分析に関する文献であり,乙6は,食品中に添加され
たポリグリセリンエステルの分析について確立した手法はないとしつつも,種々の
分析手法を紹介しているところ,これらの文献においても,甲20のような加水分
解及びガスクロマトグラフィーによる分析の信頼性を疑問視するような記述は示さ
れていない。その他,被告らの主張を裏付ける証拠はない。
 したがって,被告らのこの点の主張は採用できない。
イ 被告らは,被告らの依頼に係る分析結果(乙3,7,9)によれば,被
告各製品中にはリシノール酸は含まれないとする。
 しかし,乙3には,分析実験結果の数値,ガスクロマトグラフ装置の条
件及びチャートのみ示されており,分析結果の信頼性を担保する,分析対象試料の
調整方法等の実験手法について,何らの記載もなく,基準試料の分析結果もない。
そして,分析対象試料の分析チャートには,リシノール酸を検出する(チャート上
でピークを示す)位置も示されていない。乙7,9においても,同様の問題点があ
る。
 そうすると,これらの分析結果をもって,被告各製品中のリシノール酸
の存在を否定する根拠とすることは困難であり,被告らの前記主張を採用すること
はできない。
ウ 被告らは,被告各製品に含まれているのはポリグリセリンエルカ酸エス
テルであると主張する。ポリグリセリンエルカ酸エステルの存在とポリグリセリン
縮合リシノール酸エステルの存在とは矛盾するものではなく,被告らのこの主張を
もって,被告各製品にポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが含有されること
を否定することにはならない。
エ なお,被告らは,甲20において採用しているポリグリセリン縮合リシ
ノール酸エステルの標準物質(SYグリスターCR-310)について,同実験で
採用したリシノール酸の濃度(44重量%)は,理論値(異議決定を参考にすれ
ば,せいぜい74から80重量%と考えられる。)と乖離しているので,信頼性が
ないと指摘する(乙47の1,47の2)。
 しかし,①甲20の実験における分析対象である被告各製品には,縮合
リシノール酸とポリグリセリンとの重合度,エステル化率などの異なる種々の成分
からなるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが含まれている可能性があるこ
と,②ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを加水分解する過程で,加水分解
が完了しなかったり,再縮合されたりする等,さまざまな反応が生じ得る可能性が
あること等から,分析で用いたリシノール酸の濃度が被告らの主張に係る濃度と整
合しないことをもって直ちに上記実験結果の信頼性が減殺されるとはいえないこ
と,③被告らにおいて,同一条件の下で追試し,その結果を検討するような分析を
一切行っていないこと等に照らすならば,この点の被告らの指摘は採用できない。
(4) 小括
 以上のとおりであって,ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは,グ
リセリン脂肪酸エステルの一つであり,食品添加物としての利用が認められている
こと(甲25)を併せて考慮すれば,被告各製品は,ポリグリセリン縮合リシノー
ル酸エステルを含有すると認められる。したがって,本件発明の構成要件②を充足
する。
2 争点2(原告の損害)について
(1) 弁論の全趣旨によれば,被告各製品については,被告吉川化学が製造し,
被告川商事が販売に関与しているが,両社は密接な関係を保ちつつ,被告各製品
を製造,販売しているとの事実がうかがえるので,被告らの行為は,本件特許権の
侵害行為の共同不法行為を構成する。
(2) そこで,原告の被った損害の額(特許法102条1項)について検討す
る。
ア 事実認定
(ア) 被告各製品の販売額
 被告各製品は,被告吉川化学が製造し,被告川商事が販売するとこ
ろ,本件特許が登録された平成11年4月9日から平成16年3月までの被告川
商事による被告各製品の販売量及び販売額は,以下のとおりであると認められる
(年度は同年4月から翌年3月までの期間である(乙16の1の注記))(乙16
の1)。
 販売量(トン)       販売額
 平成11年度   98.154     4735万円
 平成12年度  128.394     5286万円
 平成13年度  125.640     5271万3000円
 平成14年度  129.762     5469万4000円
 平成15年度   95.436     4024万5000円
   合計    577.386   2億4786万2000円
(イ) 乳化型ニガリ市場における被告各製品等の市場占有状況
 原告は,平成10年4月以降,本件発明の実施品として,豆腐用の乳
化型ニガリ「マグネスファイン」(以下「原告製品」という。)を製造,販売して
いるところ,豆腐の機械的な大量生産に適する乳化型ニガリの市場の90パーセン
トは,原告製品及び被告各製品で占められている(甲7,34)。
(ウ) 原告製品の単位数量当たりの利益
 原告製品の販売価格は,1トン当たり41万円であり,原材料費,包
装具,蒸気・電力費,製造委託費及び運賃の経費を控除した利益額は,1トン当た
り26万3774円である(甲34)。上記認定の利益額について,合理性を疑わ
せるに足りる他の証拠はない。
 なお,本件において,原告は当初,特許法102条2項に基づく損害
のみを請求していたが,被告らにおいて,被告各製品の利益率に関する裏付け資料
を提出することを拒否したため,原告は,やむを得ず,同法102条1項に基づく
損害を請求し,原告製品に関する利益率に関する証拠を提出した。甲34(原告製
品の販売価格の内訳等)には,営業上の秘密を含む事項が記載されているが,上記
の経緯に照らして,判決理由中で,甲34に関する詳細な認定判断をすることは差
し控えることとする。
(エ) 原告の実施能力
 豆腐用の乳化型ニガリの市場において,原告製品及び被告各製品が9
0パーセントを占めること(前記(イ)),被告各製品の購入先は10社程度である
こと(乙36)からすると,原告は,原告製品に関し,被告各製品の製造及び販売
数量に相当する需要に対応することができる製造及び販売能力を有していたと認め
られる。
(オ) 特許法102条1項ただし書に係る事情
 被告らは,特許法102条1項ただし書に係る事情として,①被告各
製品は製品自体の特性及び被告らの営業努力によって発生した需要がある,②被告
川商事は,原告が供給を止めた株式会社星高の販路にのみ被告各製品を供給して
いる,として,原告製品と被告各製品には相互の補完関係がないと主張する。
 しかし,本件全証拠によるも,株式会社星高と原告との取引に関する
事情を認めることはできないこと,豆腐用の乳化型ニガリ製品に対する需要は,平
成10年4月以降,大手の豆腐大量製造業者に急速に拡大していること(甲8の
1,8の2)等の事情に照らせば,原告製品と被告各製品に補完関係がないとはい
えず,その他,被告らの主張に沿う事実を認めるに足りる証拠はないから,被告ら
の主張は採用できない。
イ 損害額
 アで認定した各事実によれば,以下の計算式のとおり,本件特許権の侵
害により原告が平成11年4月から平成15年3月までの間に被った損害額は,1
億4871万7200円となる。
 481.95トン(被告各製品の総販売量)×26万3774円
(原告製品の1トン当たりの販売利益)=1億2712万5879円(円未満切り
捨て)
 同様に,平成15年4月から平成16年3月までの間に被った損害額
は,2517万3535円となる。
 95.436トン×26万3774円=2517万3535円
 なお,原告は,特許法102条2項に基づく損害額も主張するが,被告
各製品の販売により被告らが受けている利益が,前記金額を超えることを認めるに
足りる証拠はなく,前記金額以上の損害額を認めることはできない。
 また,原告は,上記損害金に対する訴状送達の日の翌日である平成15
年9月11日から年5分の割合による遅延損害金を請求しているが,被告らが平成
15年度(平成15年4月~平成16年3月)に販売した被告各製品95.436
トンの販売時期は証拠上不明であるから,平成15年度の販売による損害2517
万3535円については,平成16年4月1日を遅延損害金の起算日とする。
第4 結論
 以上の次第で,原告の請求は,被告ら各自に対し,①被告各製品の生産等の
差止め,②保有する被告各製品の廃棄及び③1億5229万9414円及びうち1
億2712万5879円に対しては平成15年9月11日から,うち2517万3
535円に対しては平成16年4月1日からそれぞれ支払済みに至るまで年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これらを認容し,そ
の余はいずれも理由がないので棄却する。
 なお,被告らは,原告の本件請求が権利の濫用である旨主張するが,これを
認めるに足りる証拠はないので,採用することはできない。
 よって,主文のとおり判決する。
     東京地方裁判所民事第29部
         裁判長裁判官       飯  村  敏  明
裁判官       榎  戸  道  也
裁判官       山  田  真  紀
(別紙)
物 件 目 録
1 被告ら製品  ミルキィニガリ 【ミルキィニガリ(A)】
  製 造 者  有限会社吉川化学工業所
  販 売 者  川商事株式会社
  食品衛生法に基づく表示
         20℃以下で保存
            食品添加物・豆腐用凝固剤
         塩化マグネシウム(ニガリ) 33.0%
         グリセリン脂肪酸エステル   2.2%
2 被告ら製品  ミルキィニガリ 【ミルキィニガリ(B)】
  製 造 者  有限会社吉川化学工業所
  販 売 者  川商事株式会社
  食品衛生法に基づく表示
         20℃以下で保存
            食品添加物・豆腐用凝固剤
         塩化マグネシウム(ニガリ) 33.0%
         グリセリン脂肪酸エステル   1.0%
         ソルビタン脂肪酸エステル   0.5%
3 被告ら製品  ミルキィニガリ 【ミルキィニガリ(C)】
  製 造 者  有限会社吉川化学工業所
  販 売 者  川商事株式会社
  食品衛生法に基づく表示
         20℃以下で保存
            食品添加物・豆腐用凝固剤
         塩化マグネシウム(ニガリ) 33.0%
         グリセリン脂肪酸エステル   1.3%
以上

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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シフトは週40時間以上
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経験不問です。

応募方法
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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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