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裁判例


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平成13年(行ケ)第215号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告 小岩金網株式会社
 訴訟代理人弁理士 山口朔生、河西祐一
 被 告  特許庁長官 及川耕造
 指定代理人 伊勢孝俊、藤木和雄、林栄二
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成11年審判第15618号事件について平成13年3月26日にした審
決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成10年8月10日、意匠に係る物品を「金網」とし、形態を次頁本願意匠
に示す意匠(本願意匠)につき意匠登録出願をしたが(平成10年意匠登録出願第2
3046号)、平成11年8月20日拒絶査定があったので、平成11年9月20日審判請
求をしたが(平成11年審判第15618号)、平成13年3月26日、本件審判請求は成
り立たないとの審決があり、その謄本は同年4月11日原告に送達された。
 本願意匠
 2 審決の理由の要点
 本願意匠は、縦横それぞれ10本の細幅な相対する帯板を平行に、それぞれ平行する帯板をほぼ等
間隔に編組みしていわゆる「四つ目編み」とし、各交差部は、編組みしたときに上側を構成する部位を
凸状に、下側を構成する部位を凹状に、各々帯板の半分程度の厚さを高さあるいは深さとして、扁平
なほぼ倒「コ」の字状に交互に折り曲げて、該凸凹状を一対に接合し、正背面側それぞれに四角形状
を呈する隆起部分を形成した態様としたものである。
 審査において「本願意匠は、複数本の帯状体を縦、横に組んで周知の四つ目編み(例えば、書籍
「木竹工芸の事典」第491頁にもみられる。)にし、その重合部(交叉部)を単に凹凸に形成し嵌め合
わせたとするまでのものにすぎないから、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有
する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に
意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定に該当する。」として平成11年
4月15日拒絶の理由を通知し、その後平成11年8月20日拒絶の査定がなされた。
 原告(審判請求人)は、審判請求の理由として、本願意匠は、通常使用する丸鋼線を、帯板状の鋼
材に置き換えた点、帯鋼材を単に四つ目編み状に編み込むだけでなく、各帯鋼材を嵌め合い構造に
して、交差部に四つの四角い隆起部を形成した点において創作性の高い二段階の変形が成されてお
り、周知の四つ目編みの単なる商業的変形ではなく、容易に意匠の創作をすることができたものでは
ないから、意匠法第3条第2項の規定には該当しない旨主張した。
 そこで、本願意匠を意匠全体として考察すると、まず、金網の素材について、この種物品分野におい
ては、本件出願前より、金網の素材として線材ばかりでなく、板材のものも使用することが広く知られ
ていることは、例えば、昭和59年11月5日特許庁総合情報館受入れの理工学社1984年4月25日
発行の「建築用語図解辞典」の「かなあみ(金網)」に「針金又は薄鉄板を加工した網」の記述があるこ
とからも、また、実用新案出願公開昭和63年2531号、考案の名称「平角線による金網」の第1図及
び第3図に帯状板を使用して金網を製造する考案が記載されていることからも明らかである。
 さらに、板様のものを使用して、四つ目編みに編組みをすることも、この種物品分野に限らず、例え
ば、笊、篭等の各種竹製品にみられる幅の広いいわゆる「へね竹」を素材として亀甲編み、四つ目編
み等の編組みをすることが広く知られているところである。
 したがって、金網の素材として帯板を使用して、四つ目編みに編組みしたことを、本願意匠のみの特
徴とすることができず、この点に意匠の創作があったものとは認められない。
 次に、金網の交差部について、本願意匠が隆起部分を四角形に表した点及び正背面側に四角形の
隆起部分を形成するように嵌め合わせた点については、この種物品分野に限らず金属等の帯板を編
組みして隆起部分を形成する場合に従来よりごく普通にみられる態様であるので原告が主張するよう
に、該部に格別の創作があったものとは認められない。
 そうすると、本願意匠について、前記創作性に係わる原告のいずれの主張も採用することができず、
本願意匠は、織金網の素材として細幅な帯板を使用して広く知られた四つ目編みに編組みし、その各
交差部が正背面側に隆起部分を形成するように単に嵌め合わせたものといわざるを得ない。
 以上のとおり、本願意匠は、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日
本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創
作をすることができたものであると認められる。
 したがって、本願意匠は意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができ
ない。
第3 原告主張の審決取消事由
 別紙(原告主張の審決取消事由)に記載のとおり、本願意匠は周知形状から容易
に創作することができたものでなく、これに反する審決の認定、判断は誤りである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 別紙(審決取消事由に対する被告の反論)に記載のとおり。
第5 当裁判所の判断
 1 原告が取消事由として主張するところは、要するに、本願意匠は以下の点に於
いて、従来の金網にはない斬新な、装飾性の極めて高い、新しい金網であって、意匠
法第3条第2項に該当しないとするものである。
 ①「四つ目編み」ではない。
 ②曲線が存在しない。代わって直線だけで構成してある。
 ③一定間隔で素材の幅に変化が見られる。
 ④特異な隆起部が一定間隔で存在する。
 2 上記①の点について判断するに、乙第2号証(「竹編組デザイン資料」(通商産
業省工業技術院産業工芸試験所 工芸連合部会編組研究会。昭和42年5月26日
特許庁意匠課資料係受入)の第13頁に表された「四つ目」の図、乙第3号証(「建築
大辞典第2版」(株)彰国社1993年発行)の第1708頁の「よつめあみ(四つ目編み)」
の項の記載、及び乙第1号証(審決引用の「木竹工芸の事典」((株)朝倉書店1985
年発行)第491頁によれば、四つ目編みとは、縦横の複数本の編竹を平行に相対
し、その間隔を等しくして編んだものをいい、竹製品の基本的な編み方の一つとされ
るものであることが認められる。
 このように、四つ目編みの形状あるいは模様は、従来から様々な分野において、応
用することが広く知られていることが明らかであり、乙第4号証(実開昭56-87235号)
の第1図ないし第5図、及び乙第5号証(実開昭59-109827号)の第1図ないし第4図並
びにこれに関連する記載によれば、金網や鋼材等の物品分野においても、四つ目編
みの形状あるいは模様を応用することが、ごく普通に行われているものと認めること
ができる。
 本願意匠は、意匠に係る物品を「金網」とするものであり、その形態から素材として
金属製の帯板を用いていることが明らかであるが、この種物品の属する分野におい
ては、使用の目的に応じて素材を適宜変更することが、従来よりごく普通に行われて
いるところであることは、審決で示されているように、「建築用語図解辞典」の241頁
(甲第1号証の3)の「かなあみ(金網)」の項の記載(針金又は薄鉄板を加工した網)
及び実開昭63-2531号(甲第1号証の4)の第1図と第3図及びこれに関連する記載
(帯板を使用して金網を製造する考案が記載されている。)によって、認めることがで
きる。したがって、金網の素材として金属製の帯板を用いたことに、本願意匠の格別
の特異性があるとはいうことはできない。
 そうすると、本願意匠は、縦横の複数本の帯板を平行に相対し、その間隔を等しくし
て編んだものであって、金網とするために、ありふれた手法により、帯板を素材に用
いて周知の四つ目編みに基づいた編み目を形成した程度のものということができ、そ
の全体の構成、その編まれた態様をみれば、周知の四つ目編みに基づいたものと認
識するのが自然であって、本願意匠は四つ目編みではないとする原告の主張は、理
由がない。
 3 上記1の②の曲線か直線かの点について判断するに、本願意匠は、素材の厚
みは薄く、縦横材が密着して交差している態様のものであり、交差部は、形態全体か
ら観ると、その部分を特に注視してみた場合にようやく気付く程度であって、格別目立
つものとは認め難い。そして、本願意匠の交差部はより直線的な態様のものであると
いうことができるが、乙第6号証(実開昭55-23751号)の第2図ないし第4図及びこれ
に関連する記載、並びに乙第7号証(実開昭55-60234号)の第2図ないし第5図及び
これに関連する記載によれば、曲線的な態様のものも直線的な態様のものも既に知
られていることが認められるのであり、本願意匠の交差部の態様は、ごく普通に知ら
れた範囲内の一態様の範囲内のものであると認めることができ、この態様において、
本願意匠が顕著な特徴を有するものということはできない。
 4 上記1の③及び④の素材の幅及び隆起部の点について判断するに、本願意匠
の正面図において、縦材と横材が交差する部分ごとに素材の幅に変化が見られる
が、これは、作図上における線の表現であり、縦横材の幅そのものに変化はないこと
が、本願意匠の「分解した状態の参考図」から明らかである。したがって、本願意匠
のその態様は、顕著な特徴を有するとはいい難く、格別創作を必要とするほどの特
異性はない。
 原告は、本願意匠の交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与え、また、卍模
様あるいは風車のような模様を表出させて格子模様+卍模様の印象を与えるなどと
し、交差部に特異な隆起部が観られるとも主張するが、この主張は、上記のような交
差部を別の視点から述べたものにすぎず、本願意匠に格別創作を必要とするほどの
特異性がないとの上記判断を左右するものではない。
 原告は、本願意匠について、素材間の間隔が素材より広い旨主張するが、これは、
金網の目の大きさに関するものであり、前記乙第6号証の第3図、乙第4号証の第3
図、第5図及び乙第5号証の第1図によれば、これを大きくしたり小さくしたりすること
は使用の状況に応じて適宜行われるところであるものと認められる。本願意匠の金
網の目の大きさが、この適宜行われるところを凌駕して顕著な特徴のある大きさとも
いうことは到底できず、この点において格別創作を必要とするほどの特異性はない。
 5 その他、本願意匠には、周知形状から容易に創作することができたものでないと
すべき形態上の特異性は認めることはできず、その出願前にその意匠の属する分野
における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しく
は色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであ
り、意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない
ものというべきであり、これと同旨の審決の判断に誤りはない。
第6 結論
 よって、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべ
きである。
(平成14年2月7日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永   井   紀   昭
            裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   古   城   春   実
                       別紙(原告主張の審決取消事由)
 1 周知形状とは?
 (1) 拒絶の理由
 本件出願の拒絶の理由は、「その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者
が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作を
することができたものであると認められる。したがって本願意匠は、意匠法第3条第2項に規定する意
匠に該当し、意匠登録を受けることができない。」というものであった。
 そして「日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」(「周知形状」と略
称されている)の例として「木竹工芸の事典」491頁における竹で編んだ「四つ目編み」の図を根拠とし
ている。
 (2) 「周知形状」とは?
 ではここでいう「周知形状」とはどの程度のものであるか?
 平成10年、特許庁発行の「意匠審査基準」では、周知形状の例として、三角形、四角形、二重丸、
三角柱、多角柱、多角筒、あるいは円錐、角錐、球体などがあげられている。このような形状を「周知
形状」と称することに異存はない。
 (3) 「周知形状」の幅は?
 審決では「四つ目編み」もここでいう「周知形状」であると判断している。
 審査基準で示された、円柱や角錐などであれば、図面がなくともその形状のイメージは容易に想像
できる。
 そうすれば、どの程度の変形が「周知形状」か、「創作された意匠」か、そのラインはある程度予想す
ることができる。
 しかし「四つ目編み」にあっては、審査基準に示されたような具体的なイメージは形成できない。
 その結果、どの程度の変形が「周知形状」であり、どの程度の変形が「創作された意匠」であるの
か、そのラインは当業者が予想することができない。
 「周知形状」であるとしてもその変形は無限に存在するものであり、変形の幅を特定することができな
いからである。
 したがって、原告は抽象的な「四つ目編み」に対して反論することができない。
 そこで原告は抽象的な「四つ目編み」のイメージに対する反論ではなく、例示された「木竹工芸の事
典」491頁の図Ⅳ.214「四つ目編み」を対象とし、これを「引用例」、又は「周知の四つ目編形状」とし
て取消事由を記載する。
 2 「四つ目編み」であるか?
 (1) 「四つ目編み」ではない。
 本願意匠は「四つ目編み」の変形ではなく、その下位概念でもない。
 「四つ目編み」とは引用例にあるように、竹製品において、帯状の竹を交互に密に編んだもの。
 「幅が同一の素材」による「曲線の連続」で構成してある。
 審決では本願意匠を『縦横それぞれ10本の細幅な帯板を〈中略〉それぞれ平行する帯板を略ぼ等
間隔に編組していわゆる「四つ目編み」とし、』として、まず「四つ目編み」の一種類と認定している。
 しかし本願意匠は元来「四つ目編み」ではなく、したがって「四つ目編み」の一部を変形させたもので
はなく、その下位概念の形状ではない。
 (2) 「四つ目編み」とは別のカテゴリー
 なぜ、四つ目編みの一種ではなく、別の概念に属するもの、といえるか?
 審決引用文献(「木竹工芸の事典」490頁、491頁)の記載で明らかなように、「四つ目編み」とは、
「六つ目網」、「笊目編み」、「網代編み」などと並ぶ、編み方の一種である。
 上記のような「編み」はいずれも、幅が同一の素材による、曲線の連続で構成してある。
 これに対して本願意匠は、「四つ目編み」に変形を加えたものではない。
 なぜなら、①素材の幅に外見上の変化を与えてあり、②曲線部は全く存在しないからである。
 なぜ、素材の幅に外見上の変化が与えてあり、曲線部が全く存在しないのか?
 創作者は、古来の「四つ目編み」の存在などを全く意識していなかったからである。
 「四つ目編み」を全く意識していなかったから、その創作の成果物には、極端な変形が行われてお
り、その結果興味深いリズム感を生み出すことができたのである。
 このように本願意匠は、従来の竹製品の概念には含まれない、全く別個の独立したカテゴリーを形
作っているということができる。
 (3) 審決の誤解
 この点審決では次のように判断している。
 『本願意匠は、織金網の素材として細幅な帯板を使用し、これを広く知られた四つ目編に編組したも
のといわざるを得ない』。
 すなわち、まず竹製品の分類である「四つ目編み」の中に含めている。そして、本願意匠はこの「四
つ目編み」の交差部に変形を与えただけである、と判断している。
 しかし上記したように本願意匠の創作者は、「四つ目編み」の存在を全く意識していないのだから、
本願意匠は元来「四つ目編み」ではなく、「四つ目編み」のカテゴリーに属するものではない。
 したがって、上記審決のような認定は誤りである。
 3 「曲線」部分が存在するか?
 (1) 曲線が一切存在しない
 本願意匠には「曲線」が一切存在しない。
 すべて「直線」の組み合わせである。
 すべて直線の組み合わせであるために、本願意匠は「男性的」「剛直さ」「力強さ」を感じさせる。
 (2) 周知の「四つ目編み」形状は「曲線」のみ
 「四つ目編み」形状は「曲線」だけによって構成してある。
 本願意匠とは全く反対に、「直線」部分は一切存在しない。
 すべて「曲線」の組み合わせである。
 すべて曲線の組み合わせであるために、「四つ目編み」形状は「女性的」「柔軟さ」「優しさ」を感じさ
せる。
 4 素材の幅は同一か?
 (1) 本願意匠の素材の幅
 本願意匠の素材の幅は同一には見えない。
 実際の素材の幅は同一なのであるが、一定の間隔をおいて幅の広い部分が形成してあるように見
える。これが交差部である。
 交差部が幅広に見えるのは、なぜか?
 交差部において素材を、素材の厚さに等しい深さで直角に折り曲げ、四角い隆起部を形成してある
からである。
 この隆起部の外幅は、素材の幅に素材の板厚の2倍を加えた寸法である。
 そのために隆起部には顕著な寸法差、「ずれ」が生じるのである。
 (2) 周知の「四つ目編み」形状の幅は一定
 「四つ目編み」形状の素材の幅はすべて一定である。どこにも幅の変化する部分は見られない。
 その結果、「四つ目編み」形状は見るものに対して、極めて単調で、淡白な印象を与えることになる。
 (3) 幅の変化が与える印象
 本願意匠では、素材の交差部において、顕著な寸法差、「ずれ」が存在する。
 この「ずれ」が、交差部ひとつ置きに、縦横交互に一定の間隔で連続している。
 その結果、本願意匠は見るものに対してダイナミックで心地よいリズム感を与えることになる。
 殊に実際の立体物品となると「ずれ」部が光陰で強調され、より強いリズム感を見るものにもたらす。
 5 隆起部の特異性
 (1) 本願意匠の隆起部
 (1)-1 帯板の交差状態をカモフラージュ
 本願意匠には多数の「隆起部」が等間隔で分散してある。
 木製品、竹製品の網において「隆起部」が形成できないことはもちろん、金属の網においても、無駄
に「隆起部」を形成したような物品は存在しない。
 これを外部から見ると、縦横の帯板の交差部に、長方形の鋼板を溶接で取り付けたような印象を与
える。
 あたかも、交差部に別の鋼板を取り付けたような構成であるから、その結果、交差部の交差状態が
隆起部の存在によってカモフラージュされ、覆い隠されてしまったように見える。
 (1)-2 カモフラージュの効果
 それでは、交差部における帯板の交差状態がカモフラージュされることによっていかなる効果がもた
らされるのか?
 それは見るものをして「編み込んでいる」という印象を払拭させる効果である。
 「編み込んでいる」という印象があると、だれしも素材を曲げて組み合わせていることを想定するのが
普通であるところ、それを見るものは柔和で、曲線的な印象を受けるのである。
 そうでなくても直線的な本願意匠は、帯板の交差状態を覆い隠すことで、結果として、更に直線的な
イメージを増幅させることになる。
 したがって,交差部が曲線になっている引用例との、見るものに与える印象、美感の差はますます歴
然となるのである。
 (1)-3 隆起部があやなす模様
 本願意匠の、一組四箇所の隆起部を見ると、前記の特徴はより明確顕著となる。
 本願意匠の長方形の隆起部は隣接する隆起部と縦横を違えて並んでいる。
 隆起部が縦横二つずつ四方に、交互に並ぶことで、卍模様のような、あるいは風車のような模様を
表出させる。
 このことは見るものに、「格子模様+卍状模様」の印象を与え、それがもたらす美感は引用例を遥か
に凌ぐ。
 しかも、当該隆起部の本願意匠に占める割合は高いので、全体として意匠性が高く、結果として見る
ものをして、明白に他との区別を付けさせることになる。
 (2) 「四つ目編み」形状の交差部
 (2)-1 引用例の交差部は編込み
 「四つ目編み」形状の交差部は、だれが見ても、素材が縦横に組み合わされていることが明白であ
る。
 全く交差部を隠しておらず、そこに意匠的な装飾は施されていない。
 なおかつ、編み込んでいることがわかるので、ただでさえ交差部分が曲線になっている引用例は、更
に曲線的な印象を増幅させることになる。
 (2)-2 隆起部の施されていない引用例
 引用例の交差部には、何の装飾も施されていない。ただ緩やかに盛り上がっているのみである。
 本願意匠のような角張った隆起部を持たない引用例は、全体の印象が扁平であり、かつ緩やかに曲
線的で、柔和なものである。
 また、本願意匠のような全体を貫き、連続するアクセントもなく、平凡である。
 このように、見るものにとって本願意匠の「隆起部」の特異性は際立っているのであり、この隆起部を
『隆起部分を形成することもしないことも、ごく普通に行われていること』とした審決は誤解である。
 (2)-3 実物の特異性
 意匠に係る物品は実物として市場に流通する。
 本願意匠は隆起部が施されている。
 その結果、斜め方向から光りが当たると際立って突出した印象を与える。
 これに対して引用例の「四つ目編」は曲線の連続である。
 そのために陰影は徐々に変化することになる。
 したがって、際立って突起、突出した感じは生じない。
 意匠が実際に物品として流通に置かれた場合には、様々な角度から観察される。よって、本願意匠
の特異性は流通過程においては更に顕著となる。
 6 空間対素材のバランス。
 (1) 本願意匠の素材の間隔は?
 本願意匠と引用例とでは、隣接する素材間の間隔が大きく異なる。
 本願意匠の素材の間隔は、[素材の幅]対[素材の間隔]は1:3である。
 すなわち本願意匠では、素材の幅1に対して、素材の幅よりも相当広い間隔3のリズムを、見るもの
に与えることができる。
 (2) 引用例の素材の間隔は?
 引用例ではどうか?
 素材間の間隔は、素材の幅の約1/2である。
 すなわち引用例では、素材の幅1に対して、素材の幅よりも狭い間隔のリズムを、見るものに与え
る。
 間隔の違いは縦横に影響するから、面積が相当に変化する。
 その結果、わずかな寸法の違いでも、大きな面積差となって現れ、見るものに大きな印象の違いを
与える。
 (3) 間隔の違いは重要か?
 引用例は「四つ目編み」の一例であり、そこから生じるリズムは印象の違いには問題にならないと考
えるかもしれない。
 しかし、網目の間隔はその物品の需要者にとっては重要な問題である。
 どんな用途に使用するにせよ、網の目の間隔が目的に合致していなければその用途に適さない。
 米を入れる容器の網の目が大きく開いていたら、全部漏れてしまう。
 魚を取る網の目があまり狭かったら水が排出しないから魚を取り込めない。
 このように素材の間隔は需要者にとって、物品との関係で極めて重要な要素を占めている。
 そうであれば、本願意匠と、引用例とは需要者にとって明確に区別して認識されるものである。
 7 結論
 以上検討したように、本願意匠は意匠登録を受けることができるものである。
 すなわち、本願意匠は
 ①「四つ目編み」ではない。
 ②曲線が存在しない。代わって直線だけで構成してある。
 ③一定間隔で素材の幅に変化がある。
 ④特異な隆起部が一定間隔で存在する。
 このように、本願意匠は従来の金網にはない斬新な、装飾性の極めて高い、創作性のある意匠であ
る。
                   別紙(審決取消事由に対する被告の反論)
 1 周知形状について
 原告は、審決においていわゆる四つ目編みの一例として示した、「木材工芸の事典」の第491頁の
「四つ目編」の項の記載の内容(乙第1号証)により表された図(原告は、「引用例」又は、「周知の四つ
目編形状」と称す)を捉えて、直接本願意匠と比較し縷々相違している旨主張するが、本件は、本願意
匠と前記の「引用例」における意匠の類否を問題とするものではないから、その主張は失当である。
 2 四つ目編みについて
 原告は、本願意匠について、素材の幅に外見上の変化を与えてあり、曲線部は全く存在しないか
ら、四つ目編みではない旨主張する。
 しかしながら、四つ目編みとは、例えば、「竹編組デザイン資料」の第13頁に表された「四つ目」の図
(乙第2号証)、また、「建築大辞典第2版」の第1708頁の「よつめあみ(四つ目編み)」の項の記載の内
容(乙第3号証)、さらに、乙第1号証のように、縦横の複数本の編竹を平行に相対し、その間隔を等し
くして編んだものをいい、竹製品の最も基本的な編み方の一つとされるものである。
 すなわち、四つ目編みの形状あるいは模様は、従来より様々な分野において、応用することが広く知
られているところであり、この種物品の属する分野においても、例えば、特許庁発行の実開昭
56-87235号(乙第4号証)の第1図ないし第5図及びこれに関連する記載の内容、また、実開昭
59-109827号(乙第5号証)の第1図ないし第4図及びこれに関連する記載の内容に見られるように、四
つ目編みの形状あるいは模様を応用することが、ごく普通に行われていることは明らかである。
 また、本願意匠は、素材として金属製の帯板を用いているが、この種物品の属する分野において
は、使用の目的に応じて素材を適宜変更することが、従来よりごく普通に行われているところであり、
例えば、審決で示したように、「建築用語図解辞典」の241頁の「かなあみ(金網)」の項の記載の内容
(甲第1号証の3)によっても、また、特許庁発行の実開昭63-2531号(甲第1号証の4)の第1図と第3図
及びこれに関連する記載の内容にも、帯板を使用して金網を製造する考案が記載されていることによ
っても明らかであるから、金網の素材として金属製の帯板を用いたことに、格別の特異性があるとは
いい難い。
 そうとすると、本願意匠は、縦横の複数本の帯板を平行に相対し、その間隔を等しくして編んだもの
といわざるを得ず、結局のところ、金網とするために、ありふれた手法により、帯板を素材に用いて周
知の四つ目編みに基づいた編み目を形成した程度にすぎないものというほかなく、それは本願意匠の
後面の態様からも明白なことである。
 さらに、原告は、四つ目編みを全く意識していなかったことをいうが、その主観的な意図の有無によ
り、その客観的評価及び認定が左右されるものではないことはいうまでもない。
 以上のとおり、本願意匠は、その全体の構成、その編まれた態様をみれば、周知の四つ目編みに基
づいたものと認識するのがごく自然であって、原告のいう四つ目編みではないとの主張は失当であ
る。
 3 曲線について
 原告は、本願意匠について、曲線は存在せず直線だけで構成してある旨主張する。
 しかしながら、縦横材がかなりの厚みのものであったり、交差部の隆起部分がかなり高いものであっ
たりした場合はともかく、本願意匠のように、厚みの薄い素材のものであって、縦横材が密着して交差
している態様のものであれば、その交差部は、形態全体から観ると、その部分を特に注視してみた場
合に、ようやく気付く程度であって、格別目立つとはいい難いところであり、また、その交差部を厳密な
直角に成形することが、技術的にも難しいことも勘案すると、結局のところ、より曲線的な態様か又は
より直線的な態様かどうかであって、例えば、特許庁発行の実開昭55-23751号(乙第6号証)の第2図
ないし第4図及びこれに関連する記載の内容、さらに、実開昭55-60234号(乙第7号証)の第2図ないし
第5図及びこれに関連する記載の内容に見られるように、曲線的な態様のものも直線的な態様のもの
も既に知られていることからも、本願意匠のその態様は、ごく普通に知られた範囲内の一態様にすぎ
ないといわざるを得ず、顕著な特徴を有するとはいい難いものであって、格別創作を必要とするほど
の特異性はないものであるから、その主張は失当である。
 なお、付け加えれば、実質上同一の意匠を表していると思われるところの、「本願意匠を掲載したカ
タログ(甲第3号証)」の第2頁左側の図、並びに、「本願意匠を写した写真(甲第4号証)」によっても、
交差部に曲線が全く存在しないとはいい難いから、原告の主張には整合性がない。
 また、原告は、本願意匠と「周知の四つ目編形状」について、その直線と曲線の違いを理由に、美感
の相違を主張するが、本件は、前記のとおり、本願意匠と「周知の四つ目編形状」の類否を問題とする
ものではないから、その主張自体失当であり、さらにまた、前記のとおり、格別創作的なものではない
から、原告の主張は、その前提においても失当である。
 4 素材の幅について
 原告は、本願意匠について、一定の間隔で素材の幅に変化が見られる旨主張する。
 しかしながら、それは縦材と横材が交差した帯板の板厚程度の交差部(原告は、「ずれ」と称す)を、
作図上、線として表しているまでにすぎないものであって、縦横材の幅そのものに変化はなく、また、
原告が殊更強調する図面上の「ずれ」も、もう一方(縦材においては横材、横材においては縦材)の幅
のせいぜい10分の1程度のものであって、形態全体から観れば、極微細なものにすぎないから、本願
意匠のその態様は、顕著な特徴を有するとはいい難く、格別創作を必要とするほどの特異性はないも
のであるから、その主張は失当である。
 なお、付け加えれば、本願意匠の立体的態様である甲第3号証及び甲第4号証を参酌しても、その幅
の変化はそれほど意識されないものであり、また、例えば、同様な交差部を有する乙第6号証の第3
図、乙第7号証の第4図のいずれにも、原告の主張する「ずれ」が、作図上、線として表されていないこ
とからも、本来、立体的な交差部を、正面図という平面的な図によって強調している感があるといわざ
るを得ない。
 5 隆起部について
 原告は、本願意匠について、交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与え、また、卍模様あるい
は風車のような模様を表出させて格子模様+卍模様の印象を与え、さらに、斜め方向から光が当たる
と際立って突出した印象を与えるから、特異な隆起部が一定間隔で存在する旨主張する。
 しかしながら、交差部に別の鋼板を取り付けたような印象を与えるという点、及び、格子模様+卍模
様の印象を与えるという点については、帯板の板厚程度の部分が隆起していることに変わりはなく、そ
の交差部は、前記のように、格別目立つとはいえないものであって、ごく普通に見た場合にはそのよう
な印象を与えるとは想定し難く、また、その主張は交差部の傾斜の程度に帰着するところでもあり、さ
らに斜め方向から光が当たると際立って突出した印象を与えるという点については、光の効果であり
形状自体の態様ではなく、いずれにしても格別創作を必要とするほどの特異性はないものであるか
ら、その主張は失当である。
 6 素材間の間隔について
 原告は、本願意匠について、素材間の間隔が素材より広い旨主張する。
 しかしながら、それは言い換えれば、いわゆる金網の目の大きさのことであって、金網の目を大きくし
たり小さくしたりすることは、例えば、乙第6号証の第3図、乙第4号証の第5図のように、その目の大き
さを各種表したものが知られており、使用の状況に応じて適宜行われるところでもあって、本願意匠の
その目の大きさも、顕著な特徴のある大きさともいい難いものであり、ごく普通に知られた範囲内にお
ける一態様にすぎず、格別創作を必要とするほどの特異性はないものであるから、その主張は失当で
ある。
 7 結論について
 原告は、本願意匠について、周知形状から容易に創作できたものでなく、意匠法第3条第2項に該
当するとして拒絶されるものでないから、本件審決は全体として事実誤認の違法があり取り消される
べきである旨主張する。
 しかしながら、本願意匠は、願書の記載及び願書に添付の図面を、立体的かつ総合的に捉えて形
態全体から観れば、前記のとおり、極普通の帯板を素材に用いて、周知の四つ目編みに基づき、あり
ふれた手法により、金網の意匠を表した程度にすぎないものというほかないから、その出願前にその
意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しく
は色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条
第2項に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。

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