弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
一、当事者の求めた裁判
(控訴人の申立)
原判決を取消す。
被控訴人が控訴人に対してなしたA大学教育学部附属中学校への入学不許可処分を
取消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(被控訴人の申立)
主文同旨の判決。
二、当事者双方の主張並びに証拠関係に、控訴人において次のとおり主張を付加す
るほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の主張)
(一) A大学教育学部附属中学校は小学校履修者に対する中等普通教育を施すだ
けではなく、同教育学部の教員養成という要請に応ずるため生徒の教育の研究や教
育実習を行う等の固有目的のもとに設立されたものであるから、入学者の選抜手続
の選択に際してはかかる教育目的を達成するのに合理的であるや否やを基準とする
と同時に、憲法二六条や教育基本法三条の決意に則り最も教育目的に適する方法を
講ずるよう義務づけられているといわねばならず、かかる立脚点から綜合的に判断
し、合理性を欠く選抜手続は違法であるといわねばならない。
(二) 附属中学校の物的制約から入学者を限定する場合に、中等普通教育を施す
のに必要な素質を有する者を選抜することがよりその教育目的に適合するから、そ
の見地から個々の志願者につき、資質、心身の発達の程度、能力等に関しての主観
的判断を加え適否を綜合的に判定することが教育目的を達成するのに最も合理性を
有するところ、本件抽せんの選抜方法は極めて非科学的であるばかりか、人権を無
視し、人格を等閑視するものである。
教育される機会を与えられるかどうかということ、教育されるに価するかどうかと
いうこと、教育は創造される無形の文化であること等のように科学的要素を必要と
し、かつ入学者の資質や能力が一定の標準に達していることを前提とするような場
合には、それ自体抽せんになじまないものであり、抽せんは合理性を欠き適正とは
言い難い。
(三) 憲法二六条の「能力に応じて」とは、教育を受けるに適する能力に応じて
ということであつて、右能力と無関係な事情を理由として入学を拒否することは許
されないのであり、本件抽せんによる選抜方法は右許容されないものであり違法で
ある。
また、「能力に応じて」とは公開の競争試験による能力の実証以外の方法による差
別は許されないことを意味するところ、本件抽せんは手続上不明瞭であり、人種的
差別をする疑念を与えかねない原始的方法であり、能力の判定とは無関係な事情に
よつて差別しようというもので違法である。
○ 理由
当裁判所も控訴人の請求は理由がないと判断するもので、その理由は次のとおり付
加訂正するほか、原判決理由のとおりであるから、これを利用する。
(一) 国立大学附属中学校長のなす入学許否の処分は、原判決の説くとおりいわ
ゆる自由裁量行為に属し、したがつて同附属中学校の入学者選抜方法として抽せん
によるか、学力試験によるか或はその他の方法によるかは、当該年度の志願者数、
人的物的施設等諸般の状況を参酌したうえ、その裁量により自由に決定しうるとこ
ろであつて、その採用にかかる選抜方法が他の方法に比較してより合目的的である
か否かは司法裁判所の判断すべき事項ではなく、ただそれが憲法その他の法条に反
し、或は裁量権の濫用にわたる場合にのみこれを規制しうるにすぎない。
(二) この見地において、控訴人の挙げる憲法二六条の法意を考えると、同条に
いわゆる「その能カに応じて」とあるのは、能力以外の人種、性別、社会的身分、
経済的地位等によつて、教育上差別的待遇をうけないことを意味するにすぎず、被
控訴人が本件抽せんによる選抜方法を採用したからとて、右能力以外の事由により
差別的待遇をしたものというに当らず、また志願者の人権を無視し、その人格を等
閑視するものと見ることはできないのであつて、教育基本法にも何ら抵触するとこ
ろはない。
(三) 原判決の理由の内、「むしろ学力優秀な生徒のみを選抜する結果にならな
いことこそが肝要なのである。」との部分(理由六枚目裏二行目)は、当裁判所の
なすべき判断の範囲を超えているので、これを削除する。以上により、本件控訴を
棄却し、民訴法九五条、八九条により主文のとおり判決する。
(裁判官 沢井種雄 大野千里 中田耕三)

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