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平成21年8月31日判決言渡
平成20年(行ケ)第10345号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年6月8日
判決
原告株式会社フジ医療器
訴訟代理人弁護士辻本希世士
同笠鳥智敬
同松田さとみ
訴訟代理人弁理士辻本一義
同窪田雅也
同神吉出
同上野康成
同森田拓生
被告ファミリー株式会社
訴訟代理人弁理士角田嘉宏
同古川安航
同山田久就
主文
1特許庁が無効2006−80229号事件について平成20年8月
19日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要等
本件は,特許第3806396号の特許(発明の名称:手揉機能付施療機。
以下「本件特許」という。)の無効審判請求(無効2006−80229号。
以下「本件無効審判請求」という。)において特許庁が平成20年8月19日
にした,同特許を無効とするとの審決(以下「本件審決」ないし「審決」とい
う。)の取消しを求めるものである。
1特許庁における手続の経緯等
特許庁における手続の経緯等に係る事実は,次のとおりである(当事者間に
争いがない。)。
(1)出願・登録
原告は,平成14年11月28日,本件特許に係る特許出願(特願200
2−344827号)をし,平成18年5月19日,本件特許の設定登録を
受けた(登録時の請求項の数は6である。)。
(2)第1次審決等
被告は,平成18年11月2日,本件特許について本件無効審判請求をし
た。これに対し,原告は,平成19年1月22日付けで請求項2を削除する
等の内容の訂正請求をしたが,同年4月10日付けで訂正拒絶理由が通知さ
れ,同年8月24日,「特許第3806396号の請求項1ないし6に係る
発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」とい
う。)がされた。原告は,第1次審決について,審決取消請求の訴え(平成
19年(行ケ)第10333号)を提起し,知的財産高等裁判所は,平成2
0年4月24日,訂正を認めないことを前提として本件特許を無効であると
した第1次審決を取り消す旨の判決をし,同判決は確定した。
(3)本件審決等
特許庁は,本件無効審判請求に対して,平成20年8月19日,「訂正を
認める。特許第3806396号の請求項1ないし5に係る発明についての
特許を無効とする。」との審決(本件審決)をし,その謄本を,平成20年
8月29日,原告に送達した。
2特許請求の範囲
本件審決により訂正が認められた後の明細書(以下,願書に添付した図面を
含めて「訂正明細書」という。訂正により,請求項2が削除され,請求項3な
いし6が請求項2ないし5に繰り上げられた。)における特許請求の範囲は,
次のとおりである(以下,請求項1の発明を「本件発明1」,請求項2の発明
を「本件発明2」のようにいう。)。
「【請求項1】椅子本体の両肘掛部の上面適所に人体手部を各々載脱自在でこ
れらに空圧施療を付与し得るよう,椅子本体の両肘掛部に膨縮袋を各々配設
し,且つ各膨縮袋に圧縮空気給排装置からの給排気を伝達するホースを各々
連通状に介設してなる圧縮空気給排気手段を具備させた手揉機能付用施療機
であって,該手揉機能付用施療機の各肘掛部は,肘幅方向外側に弧状形成さ
れた立上り壁を立設して,肘掛部の上面をこの弧状の立上り壁で覆って人体
手部の外面形状に沿う形状の肘掛部に各々形成されており,且つ,前記立上
り壁の内側部には膨縮袋を配設すると共に,前記肘掛部の上面に二以上の膨
縮袋を重合させた膨縮袋群を配設して,前記肘掛部の上面に配設した膨縮袋
群は,圧縮空気給排装置からの給気によって膨縮袋の肘幅方向の外側一端よ
りも内側他端が立ち上がるように配設され,前記膨縮袋群の内側他端の立ち
上がりによって肘掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させて肘掛部上に
人体手部を安定的に保持させて,立上り壁内側部に配設された膨縮袋と肘掛
部の上面に配設された膨縮袋群とを対設させた膨縮袋間で人体手部に空圧施
療を付与させるようにした事を特徴とする手揉機能付施療機。
【請求項2】前記立上り壁の内側部に配設される膨縮袋が,二以上の膨縮袋を
重合させた膨縮袋群である事を特徴とする請求項1に記載の手揉機能付施療
機。
【請求項3】前記両肘掛部に配設される膨縮袋の人体手部当接側に,膨縮施療
を強度に付与し得る施療突起を配設した事を特徴とする請求項1又は請求項
2記載の手揉機能付施療機。
【請求項4】前記両肘掛部の適所に,両肘掛部上面を振動させる振動部材を配
備させた事を特徴とする請求項1記載の手揉機能付施療機。
【請求項5】前記肘掛部の人体手部指先対応位置或いは指先近郊の上面適所
に,圧縮空気給排装置に接続される外部電源を配備させた事を特徴とする請
求項1記載の手揉機能付施療機。」
3本件審決の理由
(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,①本件発明1(別紙・訂正
明細書【図9】【図10】参照)の構成は,本件特許の出願前に頒布された
刊行物である特開2001−204776号公報(以下「引用例1」とい
う。別紙・引用例1【図1】。甲6)に記載された発明(以下「引用発明
1」という。)及び同じく本件特許の出願前に頒布された刊行物である特願
昭49−43458号(特開昭50−136994号)のマイクロフィルム
(以下「引用例2」という。別紙・引用例2第2図,第3図参照。甲8)に
記載された発明(以下「引用発明2」という。)を適用することによって,
また,引用発明1に特開平10−118143号公報(以下「周知例1」と
いう。甲12),特開2002−301125号公報(以下「周知例2」と
いう。甲17),及び特開平10−263029号公報(以下,「周知例
3」という。甲22)等に示された周知技術を適用することによって,当業
者が容易に想到し得るものであり,②本件発明2ないし5は,いずれも本件
発明1をその構成の一部として含むものであるから,本件発明1を含む部分
については,上記①の判断が当てはまるほか,本件発明2については,引用
発明1において膨縮袋を二以上の膨縮袋群とすることは周知技術であるか
ら,当業者であれば適宜なし得るものであり,本件発明3については,引用
発明1に膨縮施療を強度に付与し得る施療突起を配設することは,特開20
02−28208号公報(甲10)及び特開平11−128291号公報
(甲11)等に示された周知技術を適用して当業者が容易に想到し得ること
であり,本件発明4については,引用発明1において肘掛部に振動部材を配
備することは,特開平5−285182号公報(甲15)及び特開平10−
179675号公報(甲16)等に示されている周知技術を適用するなどし
て当業者が容易に想到し得ることであり,本件発明5については,外部電源
を配備することは当業者が容易に想到し得ることであり,本件発明1ないし
5は,引用例発明1,2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明するこ
とができたものであるというものである。
(2)上記判断に際し,審決が認定した本件発明1と引用発明1の一致点及び
本件発明1ないし5と引用発明1との相違点は,以下のとおりである。
ア本件発明1と引用発明1との一致点
本件発明1と引用発明1は,本件発明1の用語により表現すると,次の
点で一致する。
「椅子本体の両肘掛部の上面適所に人体手部を各々載脱自在でこれらに空
圧施療を付与し得るよう,椅子本体の両肘掛部に膨縮袋を各々配設し,且
つ各膨縮袋に圧縮空気給排装置からの給排気を伝達するホースを各々連通
状に介設してなる圧縮空気給排気手段を具備させた手揉機能付用施療機で
あって,該手揉機能付用施療機の各肘掛部は,肘幅方向外側に形成された
外側壁を立設して,外側壁に対向する対向面を各々形成されており,且
つ,前記外側壁の内側部には膨縮袋を配設すると共に,前記外側壁に対向
する対向面に膨縮袋を配設して肘掛部上に人体手部を安定的に保持させ
て,外側壁内側部に配設された膨縮袋と外側壁の対向面に配設された膨縮
袋間で人体手部に空圧施療を付与させるようにした手揉機能付施療機。」
(審決書17頁31行∼18頁2行)
イ本件発明1と引用発明1との相違点
(ア)相違点1
「本件発明1では,外側壁及び外側壁に対向する対向面は,弧状形成さ
れた立上り壁及び肘掛部の上面であり,各肘掛部は,肘掛部の上面をこ
の弧状の立上り壁で覆って人体手部の外面形状に沿う形状に形成されて
いるのに対して,引用発明1では,外側壁(保持壁部24b)及び外側
壁と対向する対向面(保持壁部24aの内側部)は,略垂直に立設され
ている点。」(審決書18頁5行∼9行)
(イ)相違点2
「本件発明1では,外側壁に対向する対向面に配設されている膨縮袋
は,二以上の膨縮袋を重合させた膨縮袋群であり,圧縮空気給排装置か
らの給気によって膨縮袋の肘幅方向の外側一端よりも内側他端が立ち上
がるように配設され,前記膨縮袋群の内側他端の立ち上がりによって肘
掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させて肘掛部上に人体手部を安
定的に保持させて,立上り壁内側部に配設された膨縮袋と肘掛部の上面
に配設された膨縮袋群とを対設させた膨縮袋間で人体手部に空圧施療を
付与させるようにしているのに対し,引用発明では,外側壁に対向する
対向面に配設した膨縮袋は膨縮袋群ではない点。」(審決書18頁10
行ないし18行)
ウ本件発明2ないし5と引用発明1との相違点
(ア)本件発明2と引用発明1との相違点(相違点1,2及び3)
相違点1,2に加え,「立ち上がり壁の内側部に配設される膨縮袋
が,本件発明2では,二以上の膨縮袋を重合させた膨縮袋群であるのに
対して,引用発明1では,膨縮袋群でない点。」(相違点3。審決書2
1頁6行∼8行)
(イ)本件発明3と引用発明1との相違点(相違点1,2及び4)
相違点1,2に加え,「本件発明3では,両肘掛部に配設される膨縮
袋の人体手部当接側に,膨縮施療を強度に付与し得る施療突起を配設し
たのに対して,引用発明1では,膨縮袋に施療突起を配設していない
点。」(相違点4。審決書21頁20行∼22行)。
(ウ)本件発明4と引用発明1との相違点(相違点1,2及び5)
相違点1,2に加え,「本件発明4では,両肘掛部の適所に,両肘掛
部上面を振動させる振動部材を配備させたのに対して,引用発明1で
は,そのような振動部材が配備されていない点。」(相違点5。審決書
22頁4行∼6行)。
(エ)本件発明5と引用発明1との相違点(相違点1,2及び6)
相違点1,2に加え,「本件発明5では,肘掛部の人体手部指先対応
位置或いは指先近郊の上面箇所に,圧縮空気給排装置に接続される外部
電源を配備させたのに対して,引用発明1では,その点が明らかでない
点。」(相違点6。審決書22頁20行∼22行)。
第3取消事由に係る原告の主張
審決は,本件発明1ないし5の容易想到性の判断を誤った違法があるから,
取り消されるべきである。
1取消事由1(相違点1についての容易想到性判断の誤り)
相違点1について,引用発明1の「外側壁24b」を引用発明2「湾曲状に
形成された立上り壁」とすると共に,引用発明1の外側壁に対向する「対向面
(内側壁24a)」を引用発明2の「肘掛部上面」とすることは容易であると
した審決の判断は,以下のとおり,誤りである。
(1)容易想到性判断の前提としての引用発明2の認定の誤り
審決は,引用発明2の内容について,以下のとおり認定した。
「一対の抱持枠27,27に指圧筒28,29を各々配設し,指圧筒28,
29に空気圧生成装置によつて生成された空気圧が導管32を介して給排で
きるようになつている指圧装置であつて,各抱持枠27,27は,大腿部イ
幅方向外側に半多角形状に形成された可動枠25,25を立設して,固定枠
24,24の上面をこの半多角形状の可動枠25,25で覆って大腿部イの
外面形状に沿う形状の抱持枠27,27に各々形成されており,且つ,可動
枠25,25の内側部には先端に指圧頭31が固設された指圧筒29を配設
すると共に,固定枠24,24の上面に先端に指圧頭30が固設された指圧
筒28を配設し,抱持枠27,27上に大腿部イを保持させて,指圧頭31
と指圧頭30との間で大腿部イを握持して指圧する指圧装置。」(審決書1
6頁22行∼31行)
しかし,審決の上記認定は,以下のとおり,誤りである。
ア引用発明2について,「固定枠24の形状が半多角形状」との構成を看
過した点に,審決の認定に誤りがある。
すなわち,審決は可動枠25の形状を半多角形状であると特定する一
方,固定枠24の形状は一切特定していない。しかし,引用例2に記載の
包持枠27は,「従来の指圧装置にあっては単に指圧頭を身体に向けて間
歇的に押圧するようにしているだけなので,身体が指圧力の作用方向に逃
げてしまい指圧効果が損われ,特に腕部,脚部のように体重をかけにくい
部分ではその傾向が大きく,実質的な指圧効果が得られない欠点」(甲
8,1頁右欄3行∼8行)を解決するために,一方(可動枠25)の指圧
筒及び指圧頭に他方(固定枠24)の指圧筒及び指圧頭を相対向させると
いう技術的手段を開示しているため,一方の可動枠25を「半多角形状」
とし,固定枠24についても「半多角形状」とすることによってのみ,指
圧筒及び指圧頭を相対向させることができるのであるから,審決のよう
に,固定枠24の形状のみを特定しないのは(すなわち,可動枠25の形
状のみを特定するのは),一体不可分の構成ないし技術的思想として把握
されるものを分断・細分化してその一部を抽出して認定するものであって
誤りである。
イ引用例2には,以下のとおり,「肘掛部」は開示されていない。
肘掛部とは,「ひじを曲げてもたせかける所」の意味を有する語であり
(「広辞苑(第5版)」参照),本件発明の「肘掛部」も,ひじを曲げて
もたせかける部分を意味する(訂正明細書の【図12】,【図13】参
照)。
本件発明1の「肘掛部」は,「ひじを曲げてもたせかける所」であるの
に対して,引用例2に記載の寝台で仰向けに横になった被施療者は,図1
に示された足の状態と同じく,腕を伸ばした状態で指圧を受けることか
ら,本件発明1の「肘掛部」には相当するとはいえない。
(2)引用発明1に引用発明2を適用することの困難性
ア審決は,引用発明1に引用発明2を適用することが容易であることの根
拠として,「どちらも肘掛部上に人体手部を保持させて空圧施療を付与さ
せる点で機能が共通している」(審決書20頁8行∼9行)点を挙げる
が,引用発明2における「抱持枠27,27」に本件発明1の「肘掛部」
は存在せず,両者は共通しない。したがって,引用発明1に引用発明2を
適用することはできない。
イ引用発明2を適用するに当たり,以下の阻害要因がある。
マッサージ機は医療機器であり,危険を防止して安全性を確保する観点
からの基準が定められている。当業者は,緊急事態に配慮した構造ないし
機能を採用するようにマッサージ機を設計・製造している。
引用発明2は,緊急事態に対応できる構造ではない。すなわち,甲8の
3頁左上欄7行ないし16行や第1図に示されるように,開放している包
持枠27内に大腿部を挿入した後,流体圧シリンダ43が伸長作動させて
可動枠25を回動させて包持枠27を閉成し,第2図ないし第4図の実線
の状態で固定される。この閉成状態では,その第2図から分かるように,
多角形状の固定枠及び可動枠が向かい合って接近して開口を閉鎖するた
め,包持枠27の開口幅は大腿部の幅よりも小さくなり,包持枠27の開
口から大腿部を離脱し難い状態となる。したがって,マッサージを一旦開
始すると,指圧筒28,29の伸縮のいかんにかかわらず,マッサージが
終了するまで,被施療者は寝台から離れることができない。
引用発明2は,緊急事態に対応した設計がされていないので,引用発明
1に引用発明2を適用することには,阻害要因があるというべきである。
(3)相違点1に係る構成に到達することの困難性
審決は,引用発明2の内容を引用発明1の用語に置き換えた上で,引用発
明1の「外側壁」を引用発明2の「湾曲状に形成された立上り壁」とすると
共に,引用発明1の外側壁に対向する「対向面(内側壁)」を,引用発明2
の「肘掛部上面」とすることは容易である,と判断したが,以下のとおり誤
りである。
アまず,肘掛部は,一対の対称部材の間に人体手部等を挟持して施療する
ための形状からなる構成を有する(甲6,8)。したがって,当業者が引
用発明1に引用発明2を適用して引用発明1を改変する行為が容易である
か否かを判断する場合には,引用発明1における「一対の対称壁(保持壁
部24a,24b)からなる腕保持部24」の構成と,引用発明2におけ
る「一対の対称枠(固定枠24と可動枠25)からなる抱持枠27」の構
成とを対比させた上で,「一対の対称壁」を「一対の対称枠」に置き換え
ることが容易であるか否かを判断すべきである。
換言すれば,引用例発明1,2は,同形状の部材を対設ないし連結させ
て保持部を形成するという点で共通の構成を有しているが,仮に,当業者
が引用発明1に引用発明2を適用しようとした場合,「同形状の部材」同
士を対比して,前者を後者に置き換えることが容易か否かを判断するのが
相当であって,対応しない部材同士について,新たに創作して改変するこ
とが容易か否かを判断の対象とすることは相当でない。
したがって,当業者が引用発明1に引用発明2を適用して引用例1の一
対の対称壁(腕保持部24a,24b)を引用例2の一対の対称枠(抱持
枠27〔可動枠25,固定枠24〕)に変更したとしても,肘掛部上面の
肘幅方向外側に立設された単一の弧状形成された壁を有する肘掛部に至る
ことはない。
イ本件発明1と引用発明2の指圧装置とは,技術的思想の観点からみて異
質なものであり,引用発明1に引用発明2を適用したとしても,相違点1
に係る構成に到達することはない。
すなわち,引用例2の指圧装置は,大腿部に対する指圧効果が損なわれ
ないように,大腿部を包持する手段として,固定枠24と可動枠25とを
開閉可能に対設してなる抱持枠27を基本構成とする。水平板体の内端側
から45°方向に立設された傾斜板体を有する固定枠24において,傾斜
板体の内面に伸縮可能な指圧筒28を固着し,水平板体の上面の外側端付
近に取付片35を回動可能に立設して保持アーム37とフランジ33とを
固定枠24に取り付けたものであり,保持アーム37は水平板体と対向す
る板体であって且つ取付片35の上端に回動可能に連結されたものであ
り,フランジ33は傾斜板体と対向する板体であって且つ保持アーム37
の一端に回動可能に連結されたものである。このように,引用例2の指圧
装置は,大腿部に対する指圧効果が損なわれないようするために,指圧筒
に給排気して施療を行う前から一対の対称枠からなる抱持枠27によって
大腿部を安定的に保持するものであり,大腿部の外側側面から内側側面ま
でを覆って抱持するこの抱持枠27の形状自体に創意工夫が存在する。
これに対して,本件発明1は,人体施療部を安定的に保持するとの作用
効果を奏する点で引用発明2と共通する。しかし,同発明は,人体施療部
の外側面に沿う傾斜板体等を有する多角形状の固定枠24等の複雑な構成
は採用せず,(a)肘掛部の上面に二以上の膨縮袋を重合させた膨縮袋群
を配設し,(b)この膨縮袋群は,圧縮空気給排装置からの給気によって
膨縮袋の肘幅方向の外側一端よりも内側他端が立ち上がるような態様とさ
れ,(c)この膨縮袋群の内側他端の立ち上がりによって肘掛部上面の肘
幅方向内側の先端部を隆起させる手段を講じて,人体部を安定的に保持す
る,ものとされている。これに対して,引用例2に示された傾斜板体及び
フランジ33などを用いた複雑な形状ないし構造を採用することなく,人
体手部の下側外面形状に可及的に沿いながら人体手部を立上り壁方向に押
圧する膨縮袋群を用いることにより(訂正明細書の【図9】参照),人体
手部が肘掛部から脱落することを防止し,人体手部を安定的に保持する作
用効果を奏するものである。このように,本件発明1の前記(a)ないし(
c)の膨縮袋群に表れる創意工夫と,甲8の抱持枠27の形状に表れる創
意工夫とは,人体施療部を安定的に保持するという作用効果においては近
似しているが,それを実現する手段たる発明すなわち技術的思想は異質な
ものである。
以上の理由により,審決の相違点1に関する認定判断は誤りであり,審
決は違法であって取り消されるべきある。
2取消事由2(相違点2について容易想到性判断の誤り)
審決は,「膨縮袋を二以上の膨縮袋を重合させた膨縮袋群とし,圧縮空気給
排装置からの給気によって膨縮袋の幅方向の一端よりも他端が立ち上がるよう
に配設され,膨縮袋群の他端の立ち上がりによって他端側の先端部を隆起させ
て被施療部を安定的に保持させる」ことは,甲12,17,22等に記載され
ているように周知技術であり,これを引用発明1の外側壁と対向する対向面に
配設した膨縮袋に代えて採用する程度のことは当業者であれば適宜なし得るこ
とであると判断する。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり,誤りである。
(1)本件発明1の「肘掛部上面に配置された膨縮袋群の内側他端の立ち上が
りによって肘掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させた技術」は,周知
技術ではない。
すなわち,甲12は,主に寝台に用いられる技術であって,椅子に用いら
れることが示唆されているにすぎず,甲17は,人体の脚を施療する脚載台
に関する技術であって,そもそも「肘掛部」に関する技術ではなく,甲22
は,椅子式マッサージ機の肘掛部に用いる技術ではあるものの,「肘掛部上
面の肘幅方向内側の先端部を隆起させた技術」を開示するものではない。
したがって,引用発明1に上記各先行技術を適用したとしても,本件発明
1の「肘掛部上面に配置された膨縮袋群の内側他端の立ち上がりによって肘
掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させた技術」に至ることはない。
(2)本件発明1の相違点2に係る構成は,膨縮袋群に対して給気を開始する
前段階の人体手部の挿入・離脱時(施療前と施療後)には,膨縮袋群の肘幅
方向内側他端を立ち上がらせて肘掛部の肘幅方向内側の先端部を隆起させな
いため,人体手部の挿入・離脱を阻害する構成がなく,前記挿入・離脱が容
易でありながらも,膨縮袋群に対して給気して施療する際には人体手部の外
面を全体的に包み込んで圧迫する施療を行うことができるという作用効果を
奏するのに対し,引用発明2では,「水平板体の内端側から45°方向に立
設された傾斜板体を有する固定枠24」のように,人体手部の挿入・離脱を
阻害する。
また,本件発明1の相違点2は,膨縮袋群に対して給気を行わない平常時
(椅子式マッサージ機のマッサージ機能を使用せず,椅子として使用する
時)において,同様に肘幅方向内側を隆起させることがないので,両手を内
側方向に近接させて両手を協働させる作業ないし姿勢が比較的容易であると
いう作用効果をも奏するのに対し,引用発明1,2では,肘掛部の間隔だけ
両手が離反するため,両手を協働させる作業ないし姿勢は困難である。
本件発明1は,上記のような特有の作用効果を奏するから,公知技術の組
み合わせとは評価することはできない。
したがって,審決の相違点2に関する認定判断は誤りであり,審決は違法
であって取り消されるべきある。
3取消事由3(本件発明2ないし5についての容易想到性の判断の誤り)
上記1,2で述べたとおり,本件発明1が容易想到であるとした審決の判断
は誤りであり,本件発明1の構成要件をすべて含む本件発明2ないし5につい
ても,それらの発明が容易想到であるとした審決の判断は誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1(相違点1についての容易想到性判断の誤り)に対し
(1)容易想到性判断の前提としての引用発明2の認定の誤りに対し
ア引用例2(甲8)には,固定枠24の半多角形の形状が記載されてい
る。しかし,同部材は,いかなる形状を有していても,「半多角形状の固
定枠」の上位概念である「固定枠」である以上,「固定枠24」と認定し
た審決に誤りはない。
また,仮に,「固定枠24」を「半多角形状の固定枠24」と認定した
としても,審決の結論に影響を与えるものではない。審決において,
「『固定枠24,24の上面』が『肘掛部の上面』に・・・相当する。」
と判断したが(審決書18頁33行,34行),それに変わって,「半多
角形状の固定枠24,24の上面」が「肘掛部の上面」に相当すると判断
することができるから,結論を左右するものではない。上記の原告の主張
には理由がない。
イ原告は,引用例2には,「肘掛部」は開示されておらず,本件発明1の
「肘掛部」には相当するものはないと主張する。
しかし,原告の主張は,失当である。
すなわち,本件発明における「発明の詳細な説明」欄の記載を参酌して
も「肘掛部」が,使用の際にひじを曲げるものに限定すべきとする記載は
ない。
審決では,引用発明2における「抱持枠27,27」が,本件発明1に
おける「肘掛部」であると認定したのではなく,本件発明1における「肘
掛部」に相当すると判断したものである。そして,「抱持枠27」と「肘
掛部」は,いずれも人体手部を置く部分であるという機能において共通す
るから,「抱持枠27」が「肘掛部」に相当するとした審決に認定,判断
に誤りはない。
(2)引用発明1に引用発明2を適用することの困難性に対し
ア原告は,引用発明2の「抱持枠27,27」に本件発明1の「肘掛部」
は存在しないから,引用発明1に引用発明2を適用することは容易でない
旨主張している。
しかし,前述のとおり,「抱持枠27」が「肘掛部」に相当するから,
原告の主張は誤りである。
イ原告は,家庭用マッサージ器については,危険防止の観点から基準が定
められているから,引用発明1に引用発明2を適用するに当たり,阻害要
因があると主張する。
しかし,原告の主張は理由がない。すなわち,家庭用マッサージ器につ
いて,危険防止の観点から基準が設けられているが,JIS規格において
も,危険を回避する方法は多様であり,危険か否かは施療部分の構造のみ
によるのではなく,制御方法による等多様であることに照らすならば,引
用発明1に引用発明2を適用することに阻害要因があるとはいえない。
(3)相違点1に係る構成に到達することの困難性に対し
ア原告は,引用発明1を改変する行為が容易であるか否かを判断する場合
には,引用発明1における「一対の対称壁(保持壁部24a,24b)か
らなる腕保持部24」の構成と,引用発明2における「一対の対称枠(固
定枠24と可動枠25)からなる抱持枠27」の構成とを対比させた上
で,「一対の対称壁」を「一対の対称枠」に置き換えることが容易である
か否かを判断すべきであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,「対称」
の意味を肘掛部上面に対する関係で「対称」であると解釈しさえすれば,
引用例2(甲8)の抱持枠27は「非対称な部材」ということができる。
したがって,「非対称な部材」を新たに創作するという改変行為を伴うわ
けではないから,対応しない部材同士を対比したことにはならない。
また,肘掛部と立ち上がり壁が非対称な部材か否かという点と本件発明
の作用効果とは直接的な関係はない。例えば,マッサージ機が,肘掛部と
立上り壁が一対の同じ形状を有していたとしても本件発明の効果を奏する
ことはできる。
イ原告は,本件発明1と引用発明2の指圧装置とは,技術的思想の観点か
らみて異質なものであるから,引用発明1に引用発明2を組み合わせて
も,相違点1に至ることがないと主張する。しかし,原告の主張は,引用
発明2のうち,組合せの対象とした部分と直接関係のない部分を取り上げ
て,両者は異なる内容の発明であることを根拠としているから,失当であ
る。
2取消事由2(相違点2についての容易想到性判断の誤り)に対し
原告は本件発明1の「肘掛部上面に配置された膨縮袋群の内側他端の立ち上
がりによって肘掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させた技術」は,周知
技術ではないと主張する。
しかし,審決は,上記事項が周知技術であると判断したものでない。
審決には,「膨縮袋を二以上の膨縮袋を重合させた膨縮袋群とし,圧縮空気
給排装置からの給気によって膨縮袋の幅方向の一端よりも他端が立ち上がるよ
うに配置され,膨縮袋群の他端の立ち上がりによって他端側の先端部を隆起さ
せて被施療部を安定的に保持させること」が周知技術であることを認定した上
で,「これを引用発明1の外側壁と対向する対向面に配置した膨縮袋に代えて
採用する程度のことは当業者であれば適宜なし得ることであり,その際に人体
手部が安定的に保持できるように立ち上がる側を考慮することは当然のことで
あるから肘幅方向の外側一端よりも内側他端が立ち上がるように配設した点
は,当業者にとって設計的事項にすぎないというべきである。」と判断した
(審決書20頁23∼35行)。以上のとおり,審決では,周知技術の対象
は,「一端よりも他端が立ち上がる膨縮袋群」の存在することのみであるか
ら,原告の主張は,その前提を欠き失当である。
また,原告は,本件発明が特有の作用効果を奏すると主張する。しかし,原
告の主張に係る作用効果はいずれも技術水準から予測される範囲を超えた顕著
なものであるとはいえず,発明の容易性を左右するものではない。よって,上
記の原告の主張には理由がない。
3本件発明2ないし5についての容易想到性の判断の誤りに対し
争う。
第5当裁判所の判断
1取消事由2(相違点2についての容易想到性判断の誤り)について
事案にかんがみ,訂正事項に関連性を有する争点である相違点2に係る容易
想到性の判断の当否を先に検討することとする。
審決は,相違点2について,「膨縮袋を二以上の膨縮袋を重合させた膨縮袋
群とし,圧縮空気給排装置からの給気によって膨縮袋の幅方向の一端よりも他
端が立ち上がるように配設され,膨縮袋群の他端の立ち上がりによって他端側
の先端部を隆起させて被施療部を安定的に保持させること」が,周知事項であ
るとした。
しかし,審決の判断には誤りがある。その理由は,以下のとおりである。
(1)本件発明1の肘掛部の上面に配設された膨縮袋群の意義等について
ア訂正明細書の記載
本件発明1の肘掛部上面に形成された膨縮袋群の意義,機能について,
訂正明細書には次の記載がある。
「【請求項1】・・・前記膨縮袋群の内側他端の立ち上がりによって肘掛
部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させて肘掛部上に人体手部を安定的
に保持させて,立上り壁内側部に配設された膨縮袋と肘掛部の上面に配設
された膨縮袋群とを対設させた膨縮袋間で人体手部に空圧施療を付与させ
るようにした事を特徴とする手揉機能付施療機。」
「【0010】また本発明の手揉機能付施療機は,前記圧縮空気給排気手
段を,両肘掛部の各立上り壁に配設される膨縮袋と,各膨縮袋に各々ホー
スを介して連通される圧縮空気給排装置とで構成し,肘掛部の人体手部指
先対応位置或いは指先近郊の上面適所に,圧縮空気給排装置に接続される
外部電源を配備させて,人体手部を両肘掛部上面に安定的に保持させて立
上り壁側の膨縮袋により手部側方を効率良く空圧施療を行なわせる事がで
きるようにした事を特徴とするものである。」
「【0012】更にまた本発明の手揉機能付施療機は,前記立上り壁の内
側部に配設される膨縮袋が,二以上の膨縮袋を重合させた膨縮袋群に構成
し,手部に強度な空圧施療を効率良く行なわせる事ができるようにした事
を特徴とする。」
「【0015】よって,本発明の手揉機能付施療機は,上記のように構成
することにより次のような作用をもたらす。
先ず,本発明の手揉機能付施療機においては,肘幅方向一側の肘幅方向
外側に弧状形成された立上り壁を設け,肘掛部の上面をこの弧状の立上り
壁で覆って人体手部の外面形状に沿う形状の肘掛部に各々形成された肘掛
部を両側に設けた椅子本体の上面適所に,人体手部を各々載脱自在で該人
体手部に膨縮施療を付与し得る圧縮空気給排気手段を配設している為,施
療者は着座状態で人体手部を両肘掛部上面に安定的に保持させて,人体手
部及び腕部の上側面から効率よく空圧施療する事ができる。
【0016】また,本発明の手揉機能付施療機は,圧縮空気給排気手段
を,両肘掛部の肘幅方向外側に立設された弧状の立上り壁と,これに配設
される膨縮袋と,各膨縮袋に各々ホースを介して連通される圧縮空気給排
装置とで構成している為,立上り壁側の膨縮袋により人体手部及び腕部を
上側面から効率良く空圧施療を行なわせる事ができる。」
「【0022】すなわち,本発明の手揉機能付施療機1は,図10及び図
11に示したように,肘幅方向外側(肘幅方向一側)に弧状形成された立
上り壁211を設けた肘掛部21を椅子本体2の両側に設けており,その
肘掛部21の上面に人体手部3を各々載脱自在で該人体手部2に膨縮施療
を付与し得るよう,圧縮空気給排気手段(膨縮袋12と,各膨縮袋12・
12に各々ホース13・13を介して連通される圧縮空気給排装置14)
を配設して成り,施療者が着座状態で人体手部3を両肘掛部21・21上
面に安定的に保持させて,人体手部3及び腕部の上側面から効率良く空圧
施療する事ができるよう構成したものである。」
「【0024】そして,前記図1で示した固定板11の一側を弧状に曲折
して肘掛部21の上面をこの弧状の立上り壁211で覆って人体手部の外
面形状に沿う形状の空間部を有する釣針形状に立設させた状態にして,こ
れを肘掛部21に内装させる事で,図10及び図11のような外形状に形
成できるものであり,このような状態にする事で施療者は図12及び図1
3に示したような着座状態で両肘掛部21・21上の人体手部3をその上
側面から空圧施療行なうようにする事ができるのである。」(判決注段
落番号については,審決で訂正される前の番号で表記した。)
イ上記記載によれば,肘掛部上面に形成された膨縮袋群は,内側他端の立
ち上がりによって肘掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させて肘掛部
上に人体手部を安定的に保持させること,また,膨縮袋を対設して配置
し,両側から挟持して圧迫感のある施療を実施できることが,その機能と
して示されており,上記の膨縮袋群は,そのような意義を有するものと認
められる。
(2)周知例について
ア周知例1(甲12)の記載
周知例1(甲12)には,次の記載がある。
「【0004】しかし,このエアーマッサージ機では,椅子やベッドに配
備された拡縮袋が膨縮することで使用者の施療部を押し上げるようにして
マッサージするものであるため,その拡縮袋の膨張時に,施療部が前方へ
押し出されると共に人体全体が前方へ押し動かされ,施療部を挟持してマ
ッサージを得る程度までの,適度な揉み効果が得られないという問題があ
る。」
「【0007】【課題を解決するための手段】本発明のエアーマッサージ
用拡縮袋構造は,椅子やベッドの施療部対応位置に配置される拡縮体に給
排気制御手段を介して圧縮空気を給排気し,拡縮体を膨縮させて施療部を
マッサージし得るエアーマッサージ機において,該拡縮体を,施療部に対
応する位置の左右両側にそれぞれ分割配置される第一拡縮袋と,各第一拡
縮袋に重合させて配置される第二拡縮袋とで構成する事を特徴とするもの
である。」
「【0012】すなわち,該拡縮体を,施療部に対応する位置の左右両側
にそれぞれ分割配置される第一拡縮袋と,各第一拡縮袋に重合させて配置
される第二拡縮袋とで構成しているため,コンプレッサー等により供給さ
れる空気を,先ず第一拡縮袋を膨張させた後,更に第二拡縮袋を膨張させ
ることができ,これにより,拡縮体の膨張度を高めることができ,使用者
の施療部に対する挟持効果のあるエアーマッサージが行える。
【0013】また,各拡縮体は,施療部に対応する位置の左右両側にそれ
ぞれ分割配置される第一拡縮袋と各第一拡縮袋に重合させて配置される第
二拡縮袋とで構成すると共にこれら各拡縮体と給排気制御手段間にマイコ
ン制御装置を介設して,各拡縮体への給排気順を自由に選択できるよう構
成しているため,コンプレッサー等の給排気制御手段により供給される空
気を,例えば左右の第一拡縮袋に供給した後,左右の第二拡縮袋に供給
し,次に左右の第一拡縮袋の排気を行った後左右の第二拡縮袋を排気する
という給排気を選択したり,またこれらをアトランダムに行ったりするこ
とができ,使用者の好みや施療位置に応じて自由に選択ができる。
【0014】更に本発明では,上記のような拡縮体に限らず,複数の拡縮
袋を重合させた,例えば左右の第一拡縮袋と第二拡縮袋及び第三拡縮袋の
各一対や,これに加えて第四拡縮袋の一対等,任意の数を設けた拡縮袋群
で構成する事により,その各拡縮体の膨張度を適宜に高めることができ,
使用者の施療部に対する挟持率を任意に設定できる。
【0015】更にまた本発明のエアーマッサージ用拡縮袋構造は,施療部
に対応する位置の両側にそれぞれ分割配置される拡縮体を,双方が同調し
て拡縮するよう構成する事により,使用者の施療部に対する挟持を左右か
ら均等に行わせることができ,施療部に対する矯正を行い得る。
イ周知例2(甲17)の記載
周知例2(甲17)には,次の記載がある。
「【0008】以上要するに,先行文献1及び先行文献2のいずれにおい
ても,リラックス感を維持しつつ左右両側側壁に設けられたエアセルによ
るマッサージを効果的に行うことはできなかった。本発明は,かかる問題
に鑑みてなされたものであって,本発明の課題は,先行文献1における分
離丘のような邪魔になる部材を設けることなく,左右両側壁に設けられた
エアセルによるマッサージを効果的に行えるようにすることにある。
【0009】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために,
本発明は次の技術的手段を採用した。すなわち,本発明の特徴は,底面と
底面の左右両側から立設された側壁とを備えた1つの凹状脚収納部内に使
用者の両脚を左右方向に並べて収納でき,空気の給排により膨張収縮して
前記凹状脚収納部内に収納された両脚の側部を押圧する側面エアセルが前
記両側壁の内面に設けられた脚用空気マッサージ機において,前記底面に
は,空気が供給されると底面から突出状に膨張し,排気されると収縮する
底面エアセルが設けられ,前記底面エアセルは,底面の左右中央寄りの部
分が側壁寄りの部分よりも底面からの突出量が大きくなるように膨張する
ように構成された袋体であることである。」
「【0018】図2及び図3にも示すように,側壁12a,12bの内面
(他方の側壁との対向面)と底面11aには,エアセル8a,8b,9
a,9bが設けられている。左右の側壁内面16,16に設けられたエア
セル8a,8b(以下,「側面エアセル」ともいう)は,図示しない空気
給排装置と配管18を介して接続されている。これらの側面エアセル8
a,8bは,空気が給排されることにより膨張収縮し,側壁内面16から
突出状に膨張することによって凹状脚収納部15に収納された両脚L1,
L2の外側の部位を押圧する。つまり,一方の側壁12a(図2及び図3
において左側の側壁)の内面16に設けられた第1側面エアセル8aは,
他方の側壁12b側に突出状に膨張し,他方の側壁12b(図2及び図3
において右側の側壁)の内面16に設けられた第2側面エアセル8bは,
一方の側壁12a側に突出状に膨張する。
【0019】また,底面11aに設けられたエアセル9a,9b(以下,
「底面エアセル」ともいう)は,図示しない空気給排装置と配管19を介
して接続されている。これらの底面エアセル9a,9bは,空気が給排さ
れることにより膨張収縮し,底面11aから突出状に膨張することによっ
て凹状脚収納部15内に収納された両脚の裏側の部位を押圧する。底面エ
アセル9a,9bとしては,底面11aの左右一方側(図2及び図3にお
いて左側)に設けられた第1底面エアセル9aと,底面11aの左右他方
側(図2及び図3において右側)に設けられた第2底面エアセル9bとが
具備されている。
【0020】第1側面エアセル8a及び第1底面エアセル9aは,一方の
脚L1を押圧するためのものであり,第2側面エアセル8b及び第2底面
エアセル9bは,他方の脚L2を押圧するためのものである。なお,側面
エアセル8a,8bと底面エアセル9a,9bとは同時に膨張収縮させる
こともできるし,個別に膨張収縮させることもできる(後略)」
「【0025】さらに,第1及び第2底面エアセル9a,9bについて
は,それらの底面11aの左右中央11b寄りの部分24,24が大きく
膨張して,底面11aからの突出量が大きくなる。これに比べ,第1及び
第2底面エアセル9a,9bの側壁12a,12b寄りの部分23,23
は小さく膨張し,底面11aからの突出量は小さい。したがって,図7に
示すように,第1及び第2底面エアセル9a,9bは,各脚L1,L2を
側壁12a,12b側に押し付けつつ脚L1,L2の裏側を押し上げるよ
うに押圧することができる。」
ウ周知例3(甲22)の記載
周知例3(甲22)には,次の記載がある。
「【0013】また,本発明の手用空気圧マッサージ機は,前記圧縮空気
吸排気手段を,固定板の上部左右に膨縮袋を一定間隔を存して対設してこ
れを圧縮空気吸排気装置で互いに膨縮するよう吸排気させる構成にしてい
るため,使用者の手部及び下腕部を両側から挟持してマッサージすること
ができる。」
「【0016】前記手用空気圧マッサージ機1は,例えば図2に示したよ
うに椅子本体2の両肘掛部21の上面適所に,固定板11の上部左右に一
定間隔を存して対設される膨縮袋12・12を各々内装しており,椅子本
体2の座部下部に外部電源(図示せず)に接続される圧縮空気給排装置1
4を配設し,該装置14と各膨縮袋12・12間に各々ホース13・13
を介設して,圧縮空気給排装置14からの吸排気をホース13・13を介
して各膨縮袋12・12に連繋させ,各膨縮袋12・12を所定の時間毎
のサイクルで繰り返し膨縮させることができるのである。
【0017】また,椅子本体2の両肘掛部21の上面適所に配設される膨
縮袋12は,図3及び図4に示したように,固定板11の上部左右に一定
間隔を存して重合状に膨縮袋12・12・12・12をそれぞれ対設させ
ることで,これらを圧縮空気吸排気装置で順次膨縮するよう吸排気させ,
使用者の人体手部3及び下腕部を両側から順次挟持して,圧迫感のあるマ
ッサージを実施することができる。」
エ上記各記載によれば,周知例1ないし3においては,いずれも膨縮袋に
より手又は足の両側から挟持して空圧施療するために膨縮させる事項が開
示されている。しかし,各周知例は,いずれも,肘掛部上面に形成された
膨縮袋群は,内側他端の立ち上がりによって肘掛部上面の肘幅方向内側の
先端部を隆起させて肘掛部上に人体手部を安定的に保持させるとの構成は
示されていない。すなわち,
(ア)周知例1(甲12)は,従前のマッサージ機では施療部を押し上げ
るようにしてマッサージし,拡縮袋の膨張時に施療部が前方へ押し出さ
れるという課題があったため,拡縮体を施療部の左右両側に分割配置し
てこの課題を解決しようとするものであり,被施療部を安定的に保持さ
せるという課題は存在しない。
(イ)周知例2(甲17)は,底面と底面の左右両側から立設された側壁
を備えた1つの凹状脚収納部内に使用者の両脚を左右並べて収納し(脚
の後方部が底面と接し,脚の両外側が左右両面と接する),空気の給排
により膨張収縮して凹状脚収納部に収納された両脚の側部を押圧する側
面エアセルが両側壁の内面に設けられた脚用空気マッサージ機に関する
ものであって,底面に設けられた底面エアセルの膨張収縮により両脚の
後方側を押圧してマッサージするものである。周知例2は,側面エアセ
ルからの押圧は脚の形状に沿って側方から押圧し,底面エアセルの押圧
は,脚の形状に沿って後方から押圧する構成が採用されている。両脚
は,一つの凹状収納体に,縦方向に収納されるため,底面エアセルによ
って,安定的に保持して脱落を防止するという技術的課題はない。
(ウ)周知例3(甲22)は,使用者の手部及び下腕部を両側から挟持し
てマッサージするものであって,被施療部を安定的に保持させるという
技術的課題に対応しようとするものではない。
(3)小括
以上の検討によれば,引用発明1と引用発明2の組合せに周知技術を考慮
したとしても,本件肘掛部上面に膨縮袋からなるマッサージ部を配置し,膨
縮袋により肘掛け部全面を持ち上げてマッサージし,かつ,手部を立上り壁
に配置された膨縮袋との間で挟持して保持する構成とすることには想到し得
たとしても,膨縮袋を手部の安定的保持の機能のための構成とし,「肘掛部
の上面に配設した膨縮袋群は,圧縮空気給排装置からの給気によって膨縮袋
群の肘幅方向の外側一端よりも内側他端が立ち上がるように配設され,前記
膨縮袋の内側他端の立ち上がりによって肘掛部上面の肘幅方向の先端部を隆
起させて肘掛部上に人体手部を安定的に保持させ」る構成とすることには当
業者が容易に想到し得ないものというべきである。
したがって,相違点2について当業者が容易に想到し得るものとした審決
の判断には誤りがある。
2取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)について
当裁判所は,以下の理由により,審決が,引用発明1に引用発明2を適用し
て相違点1に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易であると
結論づけたことには誤りがあると判断する。
すなわち,容易想到性があると判断するためには,引用発明1と引用発明2
の組み合わせによって,本件発明の引用発明1との相違点に係る構成に到達す
ることが容易であったことを論証することが必要となる。審決は,引用発明1
に引用発明2を適用することの容易性を判断する前提として,引用発明2の内
容を認定したが,本件発明の用語を使用したこともあり,引用発明2の内容の
認定に誤りが認められる。その点の審決の誤りは,引用発明1に引用発明2を
適用することの容易性の判断に影響を及ぼすものと解されるので,取消事由に
該当すると判断した。以下,詳細に述べる。
(1)審決の認定,判断
まず,審決の理由(引用発明の認定,容易想到性の判断)を転記する。
ア引用発明2についての審決の認定
引用発明2についての審決の認定は,以下のとおりである。
なお,引用例2は,いわゆる副引用例であるが,審決は,その技術内容
について,記載に基づいて客観的に事実認定するのではなく,本件発明1
と対比して,判断(主観的な評価)を加えた上で認定している。
「引用発明2における『抱持枠27,27』は,その構成又は機能からみ
て,本件発明1における『肘掛部』に相当し,以下同様に,『空気圧生成
装置によつて生成された空気圧が導管32を介して給排できるようになつ
ている』が『圧縮空気給排装置からの給排気を伝達するホースを各々連通
状に介設してなる圧縮空気給排気手段を具備させた』に,『大腿部イ幅方
向外側』が『肘幅方向外側』に,『固定枠24,24の上面』が『肘掛部
の上面』に,『大腿部イ』が『人体手部』に,それぞれ相当する。
引用発明2の抱持枠27における半多角形状の可動枠25は,甲第8号
証の第3図を参酌すると全体的に湾曲した形状といえ,本件発明1におけ
る『弧状』も全体的に湾曲した形状といえるから,引用発明2の『半多角
形状』と本件発明1の『弧状』はどちらも『湾曲状』と称することがで
き,さらに,引用発明2の『可動枠25』は,甲第8号証の第2図,第3
図を参酌すると,抱持枠27の幅方向外側に立設して,固定枠24の上面
を覆って大腿部イの外面形状に沿う形状の立上り壁といえるから,本件発
明1における『各肘掛部は,肘幅方向外側に弧状形成された立上り壁を立
設して,肘掛部の上面をこの弧状の立上り壁で覆って人体手部の外面形状
に沿う形状の肘掛部に各々形成』とは『各肘掛部は,肘幅方向外側に湾曲
状に形成された立上り壁を立設して,肘掛部の上面をこの湾曲状の立上り
壁で覆って人体手部の外面形状に沿う形状の肘掛部に各々形成』している
点で共通している。
また,引用発明2における『先端に指圧頭31が固設された指圧筒2
9』及び『先端に指圧頭30が固設された指圧筒28』は『空気圧生成装
置によつて生成された空気圧が導管32を介して給排できるようになつて
いる』のであるから,本件発明1における『膨縮袋』及び『膨縮袋群』と
は,人体手部に対する接触面積の違いに起因する『指圧』か『圧迫』かの
施療の種類の違いはあるものの,どちらも空気圧の給排によって伸縮作動
して人体手部を押圧し人体手部に空圧施療を付与するものであり,どちら
も『押圧部材』と称することができる。そうすると,引用発明2の『可動
枠25,25の内側部には先端に指圧頭31が固設された指圧筒29を配
設すると共に,固定枠24,24の上面に先端に指圧頭30が固設された
指圧筒28を配設』することと,本件発明1の『立上り壁の内側部には膨
縮袋を配設すると共に,前記肘掛部の上面に二以上の膨縮袋を重合させた
膨縮袋群を配設』することとは『立上り壁の内側部と肘掛部の上面に押圧
部材を配設』する点で共通している。
また,引用発明2の『指圧頭30と指圧頭31との間で大腿部イを握持
して指圧する』のは,指圧頭30,31が固設された指圧筒28,29に
空気圧生成装置によつて生成された空気圧が導管32を介して給排するこ
とによるものであるから,引用発明2の『指圧頭30と指圧頭31との間
で大腿部イを握持して指圧する』ことと,本願発明1の『立上り壁内側部
に配設された膨縮袋と肘掛部の上面に配設された膨縮袋群とを対設させた
膨縮袋間で人体手部に空圧施療を付与させるようにした』こととは『立上
り壁内側部に配設された押圧部材と肘掛部の上面に配設された押圧部材と
を対設させた押圧部材間で人体手部に空圧施療を付与させるようにした』
点で共通している。
さらに,引用発明2の『指圧装置』と本件発明1の『手揉機能付施療
機』とは,どちらも『施療機』である点で共通する。
してみると,引用発明2は,本件発明1の用語を用いて表現すると,
『各押圧部材に圧縮空気給排装置からの給排気を伝達するホースを各々連
通状に介設してなる圧縮空気給排気手段を具備させた施療機であって,施
療機の各肘掛部は,肘幅方向外側に湾曲状に形成された立上り壁を立設し
て,肘掛部の上面をこの湾曲状の立上り壁で覆って人体手部の外面形状に
沿う形状の肘掛部に各々形成されており,且つ,前記立上り壁の内側部と
肘掛部の上面に押圧部材を配設して,肘掛部上に人体手部を保持させて,
立上り壁内側部に配設された押圧部材と肘掛部の上面に配設された押圧部
材とを対設させた押圧部材間で人体手部に空圧施療を付与させるようにし
た施療機。』と言い換えることができる。」(審決書18頁28行∼20
頁6行)
イ相違点1の容易想到性についての審決の判断
次に,相違点1の容易想到性についての審決の判断は,以下のとおりで
ある。
「そして,引用発明1と引用発明2とは,どちらも人体手部を空圧施療す
る施療機であって技術分野が同一であり,どちらも肘掛部上に人体手部を
保持させて空圧施療を付与させる点で機能が共通しているから,引用発明
1に引用発明2を適用することは,当業者であれば容易に想到し得ること
である。即ち,引用発明1の外側壁を『湾曲状に形成された立上り壁』と
するとともに,外側壁に対向する対向面を『肘掛部の上面』とし,各肘掛
部を『肘掛部の上面をこの湾曲状の立上り壁で覆って人体手部の外面形状
に沿う形状に形成』することは,当業者が容易に想到できたことである。
そして,その際に,立上り壁の形状を湾曲状から弧状に変更することは,
人体手部の断面形状を考慮すれば適宜なし得ることであり,当業者にとっ
て設計的事項にすぎないというべきである。
したがって,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは,
当業者であれば容易に想到し得ることであるといわざるを得ない。」(審
決書20頁7行∼19行)
(2)引用例2の記載内容及び審決の認定の当否について
そこで,引用例2の記載内容について,検討する。
ア引用例2(甲8)の記載
引用例2には,次の記載がある(別紙・引用例2「第2図」,「第3
図」参照)。
(ア)特許請求の範囲(請求項1)
「身体の脚部腕部等を抱持し得るように形成される抱持枠27と,その
抱持枠27を開閉する開閉作動装置dと,前記抱持枠27の相対向する
内面に取付けられ,流体圧の給排により伸縮作動を繰り返すようにした
少なくとも一対の指圧筒28,29と,前記抱持枠27を支持する支持
部材15をその抱持枠27とゝもに,前記指圧筒28,29の伸縮方向
と略直交する方向に往復動させる抱持枠横往復動装置bとを少なくとも
有する指圧装置。」(1頁左下欄4行∼12行)
(イ)発明の詳細な説明
「本発明は身体,主として脚部,腕等の筋肉を効果的に指圧する指圧装
置に関するものである。」(1頁左下欄14行,15行)
「従来の指圧装置にあつては単に指圧頭を身体に向けて間歇的に押圧す
るようにしているだけなので,身体が指圧力の作用方向に逃げてしまい
指圧効果が損われ,特に腕部,脚部のように体重をかけにくい部分では
その傾向が大きく,実質的な指圧効果が得られない欠点があつた。」
(1頁右下欄3行∼8行)
「取付板23の両端にはそれぞれ本発明の要部をなす一対の指圧部a,
aが設けられているが,それらは全く同一の構造を有しているので,そ
の一つについて,その構造を以下に詳細に説明すると,前記取付板23
の端部には,これと一体的に固定枠24が形成されており,この固定枠
24の一端縁には,これと略同形の可動枠25が,その固定枠24に対
して開閉自在に蝶着26されており,前記固定枠24と可動枠25とに
よつて利用者2の大腿部イを抱持し得る半多角形状の抱持枠27を構成
する。固定枠24と可動枠25の相対向する内面には対をなす,蛇腹式
の指圧筒28,29が気密状態にして固着され,指圧筒28,29の上
端部には,指圧頭30,31がそれぞれ固設されている。指圧筒28,
29にはそれぞれ図示しない空気圧生成装置によつて生成された空気圧
が導管32を介して給排できるようになつており,指圧筒28,29を
伸縮作動させることができる。
各指圧筒28,29に設けられたフランジ33および34と固定枠2
4および可動枠25に固着した取付片35,36間は屈曲自在な指圧筒
保持アーム37,38によつて連結され,その指圧筒保持アーム37,
38の内面には指圧頭39,40が固着されている。尚,41および4
2は固定枠24,および可動枠25に固着したストツパで前記指圧筒保
持アーム37,38の不要な方向への回動を抑止するためのものであ
る。」(2頁右上欄16行∼右下欄9行)
「次に上記実施例の指圧装置を使用する場合について説明すると,本装
置の非作動状態では,流体圧シリンダ43は収縮状態にあつて可動枠2
5は,固定枠24に対して第2,4図鎖線に示すように開放状態にあ
る。こゝで第1図に示すように指圧台1上に利用者2が仰臥して自己の
脚の大腿部イを前記のように開放している抱持枠27内に挿入した後,
図示しない運転釦を押すと,流体圧シリンダ43が伸長作動して可動枠
25を蝶着部26まわりに閉じ方向に回動して第2∼4図に実線で示す
ように可動枠25を閉成し,固定枠24および可動枠25に固着した指
圧筒28,29の指圧頭30,31および指圧筒保持アーム37,38
に固着した指圧頭39,40を大腿部イに当接させる。タイマの作動で
数秒後,図示しない空気圧生成装置からの圧力空気が導管32,32を
通つて指圧筒28,29内に給排されて,指圧筒28,29は伸縮作動
を繰り返し数個の指圧頭30,31,39,40を間歇的に大腿部イに
押圧することができる。」(3頁左上欄3行∼右上欄4行)
「前記指圧筒28,29の伸縮作動と同時に前記抱持枠27の横移動装
置bが作動されるものであつて,すなわち原動機22が駆動されて偏心
ピン21と長孔19を介して支持部材15,16は軸支部17,18回
りに左右に揺動され,この支持部15,16に固着される抱持枠27は
振幅運動を繰り返し,指圧頭30,31,39,40はその伸縮方向と
略直行する方向に往復移動することができる。」(3頁右上欄9行∼1
7行)
「また特定個所の指圧を終つて指圧位置を変える場合には,指圧筒2
8,29への圧力空気の給排および原動機22の駆動を一旦停止した
後,他の原動機9を駆動し円盤10を所定角度だけ回転すれば,偏心ピ
ン11および長孔12を介して揺動杆7が揺動し,連杆6を介して移動
フレーム4が案内レール3,3上を走行し,これにより抱持枠27も支
持部材15,16とゝもに移動させることができ指圧位置の変更を行う
ことができる。」(3頁左下欄2行∼10行)
別紙引用例2第2図及び第3図には抱持枠27,27は大腿部イ幅方
向外側に半多角形状に形成された可動枠25,25を立設して固定枠2
4,24の上面をこの半多角形状の可動枠25,25で覆って大腿部イ
の外面形状に沿う形状の抱持枠27,27に各々形成されていることが
図示されている。また第2図及び第3図には一対の抱持枠27,27に
指圧筒28,29を各々配設し抱持枠27,27上に取付片37,38
を介して大腿部イを保持させた態様が図示されている。
イ審決の認定の当否
(ア)「抱持枠」に関する認定の当否
上記引用例2の記載によれば,固定枠24と可動枠25によって利用
者の身体の脚部腕部等を抱持し得るように半多角形状に形成される抱持
枠27の固定枠24,可動枠25の相対向する内面には,対をなす蛇腹
式の指圧筒28,29が固着され,指圧筒28,29の上端部には,指
圧筒30,31がそれぞれ固設されている。固定枠24及び可動枠25
に固着された取付片35,36には指圧筒保持アーム37,38が連結
され,指圧筒保持アーム37,38の内面には指圧頭39,40が固着
されている。指圧頭30,31,39,40は,空気圧の給排により伸
縮作動を繰り返して間歇的に大腿部イを押圧するとともに,抱持枠27
はそれ自身が振幅運動を繰り返すことで,大腿部イに振幅運動によるも
み作用を与えながら,間歇的な押圧による指圧を行うものであることが
認められる。すなわち,抱持枠27は,指圧頭を介して患部に指圧作用
ともみ作用を施すものである。また,抱持枠27は移動フレーム4が案
内レール3,3を走行し,抱持枠27が支持部材15,16とともに移
動することにより,指圧位置の変更を行う。すなわち,引用発明2の抱
持枠は,脚部や腕部を抱持するとともに,抱持枠自身も振幅運動して,
位置の移動を伴い,患部に指圧作用ともみ作用を施す。
これに対して,本件発明における「肘掛部」については,「椅子本体
の両肘掛部の上面適所に人体手部を各々載脱自在で」,「各肘掛部は,
肘幅方向外側に弧状形成された立上り壁を立設して」(請求項1),
「両肘掛部に配設される膨縮袋」(請求項3),「両肘掛部の適所に,
両肘掛部上面を振動させるに振動部材を配設」(請求項4)などと記載
されているように,「肘掛部」自体は,単に肘を載せる部分であって,
同部分に,立上り壁,膨縮袋,振動部材等を配設することによって,施
療機としての機能を付加させるものであると認められる。本件発明1の
肘掛部は,引用発明2の抱持枠27とは異なり,それ自体が膨縮や振動
を伴ったり,施療位置の変更や移動を伴うことはない。
そうすると,引用発明2の抱持枠と本件発明1の肘掛部は,その構成
を異にするというべきであり,審決が「引用発明2における『抱持枠2
7,27』は,その構成又は機能からみて本件発明1における『肘掛
部』に相当」すると認定した点は,誤りである。
(イ)「指圧頭」に関する認定の当否
引用発明2の指圧頭30,31は,固定枠24,可動枠25の相対向
する内面に対をなして固着された蛇腹式の指圧筒28,29上端部に固
設されたものであり,空気圧生成装置からの圧力空気が指圧筒28,2
9内に給排されて指圧筒28,29は伸縮作動を繰り返すことにより,
指圧頭30,31は間歇的に人体に押圧されて施療するものである。
これに対し,本件発明1の肘掛部上面に配設した膨縮袋群は,前記の
とおり,単に,膨縮袋を対設して配置し,両側から挟持して圧迫感のあ
る施療を実施できるものではなく,内側他端の立ち上がりによって肘掛
部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させて肘掛部上に人体手部を安定
的に保持させるものであるというべきである。
そうすると,引用発明2の固定枠24に設置された指圧頭30と本件
発明1の肘掛部上面に配設された膨縮袋群とでは,その機能を異にす
る。審決は,引用発明2の「指圧頭30と指圧頭31との間で大腿部イ
を握持して指圧すること」は,本件発明1と「立上り壁内側部に配設さ
れた押圧部材と肘掛部の上面に配設された押圧部材との対設させた押圧
部材間で人体手部に空圧施療を付与させるようにした」点で共通してい
るとのみ認定したことには,誤りがある。
(3)相違点1についての容易想到性の判断の誤りについて
審決の引用発明2の認定の誤りは,以下のとおり,容易想到性の判断に影
響を及ぼすものというべきである。
ア引用発明1について
(ア)引用例1の記載
引用例1(甲6)には,以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】【請求項1】座部,この座部の両側に設けられ,
上部に腕保持部が設けられた肘掛け部,及び前記座部の後端に設けられ
た傾斜可能な背凭れ部を備える椅子と,この椅子における前記座部の前
端に設けられ,前記椅子に腰掛けた人の脚を支持する脚保持部と,前記
脚の足部を乗せる足乗せ台とからなり,前記椅子の前記座部,前記背凭
れ部,前記肘掛け部に設けられた前記腕保持部,及び前記脚保持部に
は,圧縮空気給排気機構に連通する空気袋が内部に設けられ,更に前記
足乗せ台の内部には上下動可能な少なくとも2つの大きさの異なる押圧
突起部が設けられていることを特徴とするマッサージ機。」
「【0005】しかしながら,前述した椅子式エアーマッサージ機は,
上記特許公開公報の記載から明らかなように使用者の首部,背部,腰
部,尻部及び下腿部の筋肉を空気袋の膨張収縮による圧迫と解放の繰り
返しによってマッサージを行うものであり,足部や身体全体の血行促
進,更には現在の使用者の身体の状態を本人に確認させるような機能は
ない。」
「【0007】本発明の目的は,かかる従来の問題点を解決するために
なされたもので,従来の椅子式エアーマッサージ機を改良して,更に足
部や腕部の筋肉疲労も取り除き,同時に身体全体の血行促進を促し,付
加的に使用者の現在の身体の状態を本人に確認させ得るようなマッサー
ジ機を提供することにある。
【0008】【課題を解決するための手段】本発明はマッサージ機であ
り,前述した技術的課題を解決するために以下のように構成されてい
る。すなわち,本発明のマッサージ機は,座部,この座部の両側に設け
られ上部に腕保持部が設けられた肘掛け部,及び座部の後端に設けられ
た傾斜可能な背凭れ部を備える椅子と,この椅子における座部の前端に
設けられ,椅子に腰掛けた人の脚を支持する脚保持部と,脚の足部を乗
せる足乗せ台とからなり,椅子の座部,背凭れ部,肘掛け部に設けられ
た腕保持部,及び脚保持部には,圧縮空気給排気機構に連通する空気袋
が内部に設けられ,更に足乗せ台の内部には上下動可能な少なくとも2
つの大きさの異なる押圧突起部が設けられていることを特徴とする。」
「【0017】このような空気式マッサージ機構部の構造は,前述した
特開平10−118141号公報に開示されていて公知であると共に基
本的な点では実質的に同じであるので詳細な説明は省略する。本実施形
態のマッサージ機10では,更に肘掛け部22の上部に設けられた腕保
持部24を備えている。腕保持部24は,使用者の腕を両側から挟むよ
うにU字状の凹部25を形成する保持壁部24a,24bを備え,各保
持壁部内にも前述したと同様な空気袋(図示せず)が配置されている。
【0018】この腕保持部24でも,これを構成している各保持壁部2
4a,24b内の空気袋に圧縮空気を供給排気することにより膨張と収
縮を起こさせて保持壁部間の凹部25に入れられた使用者の腕を保持壁
部24a,24bの外装布を介して挟み込むようにして圧迫し,またこ
の圧迫を解放することによりマッサージを行うようにされている。」
(イ)引用発明1の内容
引用例1の上記記載によれば,引用発明1は椅子式マッサージ機に係
る発明であり,肘掛部を有するとともに,肘掛部には,U字状の凹部を
形成する保持壁部が形成されている。保持壁部内には空気袋が配置され
て,空気袋に圧縮空気を供給排気することにより空気袋が膨張,収縮
し,手部をマッサージする。
引用発明1の肘掛け部に設けられた腕保持部は,その実施形態におい
て,使用者の腕を両側から挟むようにU字状の凹部として形成されてお
り,腕を両側から挟む保持壁部の部内には空気袋が形成され,この空気
袋への給排気による圧迫,解放により手部をマッサージするものであ
る。
イ容易想到性の判断に対する影響の有無
本件発明1と引用発明1との相違点1に係る構成は,「外側壁及び外側
壁に対向する対向面は,弧状形成された立上り壁及び肘掛部の上面であ
り,各肘掛部は,肘掛部の上面をこの弧状の立上り壁で覆って人体手部の
外面形状に沿う形状に形成されている」点である。また,肘掛部の上面に
形成された膨縮袋群は,内側他端の立ち上がりによって肘掛部上面の肘幅
方向内側の先端部を隆起させて肘掛部上に人体手部を安定的に保持させ,
また,膨縮袋を対設して配置し,両側から挟持して圧迫感のある施療を実
施できるとの機能を有するものである。
前記のとおり,審決は,①本件発明1の肘掛部は,引用発明2の抱持枠
27とは異なり,それ自体が膨縮や振動を伴ったり,施療位置の変更や移
動を伴うことはないものであるにもかかわらず,「引用発明2における
『抱持枠27,27』は,その構成又は機能からみて本件発明1における
『肘掛部』に相当」すると認定した点,及び②本件発明1の肘掛部上面に
配設した膨縮袋群は,単に,膨縮袋を対設して配置し,両側から挟持して
圧迫感のある施療を実施できる機能のみを有するものではなく,内側他端
の立ち上がりによって肘掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させて肘
掛部上に人体手部を安定的に保持させる機能を有するものであるにもかか
わらず,「引用発明2の『指圧頭30と指圧頭31との間で大腿部イを握
持して指圧すること』は,本件発明1と『立上り壁内側部に配設された押
圧部材と肘掛部の上面に配設された押圧部材との対設させた押圧部材間で
人体手部に空圧施療を付与させるようにした』点で共通しているとのみ認
定した点で,認定を誤った。そして,審決は,その事実認定を前提とし
て,引用発明1の外側壁を『湾曲状に形成された立上り壁』とするととも
に,「外側壁に対向する対向面を『肘掛部の上面』とし,各肘掛部を『肘
掛部の上面をこの湾曲状の立上り壁で覆って人体手部の外面形状に沿う形
状に形成』することについて,容易に想到できたとの結論を導いたもので
あるから,その判断にも誤りがあるというべきである。
すなわち,審決は,相違点1に係る構成に関し,その機能について格別
の検討をすることなく,専ら,立上り壁と肘掛部上面の形状に着目して,
容易想到であると判断した。
この点,例えば,引用発明1において,肘方向外側に弧状形成された対
向壁に設けられた空気袋は,弧状の形状に沿って斜め上方から手部に押圧
力が加えられるのであるから,仮に,内側対向壁を肘掛部上面に置換した
たとするならば,外側弧状に形成された対向壁に設けられた空気袋によっ
て,手部が押圧方向と反対方向へ逃げることになり,さらに肘掛部から脱
落することが考えられる。したがって,そのような新たに発生する課題を
解決することは,必ずしも容易であるとはいえない。すなわち,対向壁を
肘掛部上面とした場合に,押圧によって発生し得る手部の「逃げ」や「脱
落」という課題を解決するための構成を想到することは,容易とはいえな
い。
以上のとおり,相違点1について,外側壁に対向する対向面を「肘掛部
の上面」とすることを当業者が容易に想到し得ることとした審決の判断に
は誤りがある。
3取消事由3(本件発明2ないし5の容易想到性判断の誤り)について
本件発明2ないし5は,いずれも請求項1の発明(本件発明1)をその構成
として含むものであり,審決も相違点1について容易想到であることを前提と
して,本件発明2ないし5の容易想到性を判断している。
そうすると,本件発明1の容易想到性についての審決の判断が誤っている以
上,その発明を構成に含む本件発明2ないし5についての審決の判断もまた誤
っていることになる。
第6結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理
由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
大須賀滋
裁判官
齊木教朗
(別紙)
訂正明細書
【図9】【図10】
引用例1
【図1】
引用例2

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