弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人本人の上告趣意について。
 所論は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由に当らな
い。
 弁護人安武宗次の上告趣意第一点について。
 所論は、原審が、公判期日の七日前に私選弁護人が辞任したため、弁護人の選任、
証拠の収集を理由として公判期日の変更を求めた被告人の求めに応じないで、第一
回公判を開き、さきに本件について国選弁護人を解任されたが、当日在廷していた
弁護士を再び国選弁護人として選任したうえ弁論させ、同弁護人請求の証拠を全く
取り調べずして結審したのは、被告人の弁護権を制限したもので、憲法三七条に違
反する、というのである。
 記録によると、検察官の控訴申立後、裁判所は、第一回公判期日を昭和四〇年九
月三日と指定し、被告人に対し弁護人選任に関する通知をなし、同年八月三日、国
選弁護人として弁護士小野原肇を選任した。同月一二日、検察官から控訴趣意書の
提出があり、右控訴趣意書の謄本は、国選弁護人および被告人に適法に送達された。
その後、同月三〇日、被告人から、弁護人との打合わせ及び証拠収集を理由として
公判期日の変更申請がなされ、裁判所は、第一回公判期日を同年一〇月一五日に変
更する旨の決定をしたが、被告人は、同年九月三日、弁護士林善助を弁護人に選任
届け出たので、裁判所は、同月七日、前記国選弁護人を解任した。同年一〇月四日、
被告人から、弁護人の選任および証拠の収集を理由として再び公判期日の変更申請
がなされ、同月七日、林弁護人が辞任したが、裁判所は、同月一五日公判を開き、
本件が必要的弁護事件であるため、当日在廷していた前記小野原肇を再び国選弁護
人として選任し、同弁護人から証拠請求がなされたが、裁判所は、これを却下した
うえ、異議なく弁論を終了したものである。
 ところで、憲法三七条三項前段所定の弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行
使すべきもので、同条項は、裁判所が被告人に対し国選弁護人の選任を請求し得る
旨を告知すべき義務を科したものではなく、裁判所は、被告人にこの権利を行使す
る機会を与え、その行使を妨げなければよいのであるから(昭和二四年(れ)第二
三八号、同年一一月三〇日大法廷判決参照)、以上のような本件の経緯にかんがみ
るときは、林弁護人が辞任した後、被告人において直ちに他の弁護人を選任するか、
または裁判所に対し国選弁護人の選任を請求しなかつたことは、むしろ被告人の懈
怠に基づくものというべきである。また、本件は、その内容がさほど複雑というわ
けでもないのであるから、第一回公判期日までの間、被告人が本件について前記国
選弁護人または私選弁護人と打合わせ、かつ証拠請求、弁論等の準備をするに必要
な時日の余裕がなかつたものとは認め難く、これと前記のような経緯とを合わせ考
えると、原審が被告人の再度の公判期日変更申請に応じなかつたことをもつて不当
とするのは当らない。さらに、さきに本件について、一ケ月以上の期間被告人の国
選弁護人の地位にあつた小野原弁護人としては、十分に事件の全貌を把握し得て、
被告人の弁護に欠くるところのないものと信じて、直ちに証拠調を請求し、結審に
ついて別段の異議を述べなかつたものと推断するのが相当であるから、このような
事情の下では、原審の手続は違法とはいえず、違憲の主張は、その前提を欠くもの
である。
 されば所論違憲の主張は採用し難い。
 同第二点について。
 所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
  昭和四一年二月二二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎

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