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平成26年10月29日判決言渡
平成25年(行ウ)第126号行政機関保有個人情報不開示決定処分取消等請求
事件
主文
1本件訴えのうち,金融庁長官が原告に対して平成25年4月30
日付けでした行政機関保有個人情報一部不開示決定に係る不開示情
報の開示決定の義務付けを求める部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1金融庁長官が原告に対して平成25年4月30日付けでした行政機関保有個
人情報一部不開示決定(以下「本件一部不開示決定」という。)のうち,別紙
2~37の各文書について,別紙1「不開示部分目録」の「不開示部分」欄記
載の各部分に記載された情報(以下「本件不開示情報」という。)を不開示と
した部分を取り消す。
2金融庁長官は,原告に対し,本件不開示情報を開示する旨の決定をせよ。
第2事案の概要
1事案の骨子
本件は,原告が,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」
という。)に基づき,金融庁長官に対し,A株式会社(以下「A」という。)等
の保険会社に関する原告の苦情申出に係る個人情報の開示請求(以下「本件開
示請求」という。)を行ったところ,金融庁長官から本件一部不開示決定を受
けたため,本件一部不開示決定のうち,本件不開示情報を不開示とした部分が
違法であるとしてその取消しを求めるとともに,本件不開示部分を開示する旨
の決定の義務付けを求める事案である。
2法の定め
(1)個人情報等の定義
ア「個人情報」とは,生存する個人に関する情報であって,当該情報に含
まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することが
できるものをいう(法2条2項)。
イ「保有個人情報」とは,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した
個人情報であって,当該行政機関の職員が組織的に利用するものとして,
当該行政機関が保有しているものをいう(同条3項本文)。
ウ個人情報について「本人」とは,個人情報によって識別される特定の個
人をいう(同条5項)。
(2)開示請求
何人も,法の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の
保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる(法
12条1項)。
(3)開示義務
行政機関の長は,法12条1項の規定による保有個人情報の開示請求があ
ったときは,開示請求に係る保有個人情報に法14条各号に掲げる情報(以
下「不開示情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き,開示請求
をした者(以下「開示請求者」という。)に対し,当該保有個人情報を開示し
なければならない(法14条柱書き)。
(4)不開示情報
法14条各号に定められている不開示情報のうち,本件に関係する部分は
以下のとおりである。
ア開示請求者以外の個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,
生年月日その他の記述等により開示請求者以外の特定の個人を識別するこ
とができるもの(2号本文)。
イ法人その他の団体に関する情報又は開示請求者以外の事業を営む個人の
当該事業に関する情報であって,開示することにより,当該法人等又は当
該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
(3号イ)。
ウ国の機関,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人が行う
事務又は事業に関する情報であって,開示することにより,当該事務又は
事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあ
るもの(7号柱書き)。
3前提事実(証拠等により容易に認められる事実等)
(1)本件開示請求
原告は,平成25年2月18日,金融庁長官に対し,本件開示請求を行っ
た。なお,本件開示請求に係る保有個人情報開示請求書の「開示を請求する
保有個人情報」欄には,「私が金融庁に対し,A株式会社及びB株式会社に
ついて苦情を申立てた件で,保険課,金融サービス利用者相談室,企画課調
査室及び法令等遵守調査室が保有する文書(開示請求の決裁を含む)全て」
(原告が,金融庁からの補正要請に従い,当初の記載につき,補正した後の
もの)と記載されていた。(甲1,乙1)
(2)本件一部不開示決定
金融庁長官は,平成25年4月30日,原告に対し,別紙2から37の各
文書につき,別紙1「不開示部分目録」の「不開示部分」欄記載の各部分に
は,法14条2号,同条3号イ又は同条7号柱書きに該当する不開示情報が
記載されているとして,同各部分を不開示とし,これらを除く部分を開示す
る旨の本件一部不開示決定をした。(甲1)
(3)本件訴訟の提起
原告は,平成25年6月13日,本件訴訟を提起した。(顕著な事実)
4争点及び当事者の主張
本件の争点は,①別紙10~16及び26の各文書の不開示部分に記載
された情報が原告を本人とする保有個人情報か(争点1),②別紙10~2
0,22~24,26~29,31,32,34及び36の各文書の不開示部
分のうち黄色で着色された部分(以下「本件不開示部分1」という。)に記載
された情報が法14条2号本文に該当するか(争点2),③別紙2~9,15,
18~24,27~29,32,34及び36の各文書の不開示部分のうち,
赤色で着色された部分(以下「本件不開示部分2」という。)に記載された情
報が法14条3号イに該当するか(争点3),④本件不開示部分2と,別紙10
~37の各文書の不開示部分のうち青色で着色又は枠囲みされた部分(以下「本
件不開示部分3」という。)とに記載された情報が法14条7号柱書きに該当
するか(争点4)である。
これらの争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。
(1)争点1(原告を本人とする保有個人情報か)
(原告の主張)
別紙10~16及び26の各文書の不開示部分に記載された情報は,
原告を本人とする保有個人情報である。
(被告の主張)
別紙10~16及び26の各文書は,原告以外の者が行ったA等に関
する苦情申出に係る近畿財務局等作成の文書であるから,その不開示部
分に記載された情報は,原告を本人とする保有個人情報ではない。
(2)争点2(法14条2号本文該当性)
(被告の主張)
本件不開示部分1に記載された情報は,Aの担当者の氏名等,原告以外
の特定の個人を識別できる情報であるから,法14条2号本文に該当する。
(原告の主張)
上記(被告の主張)は争う。
(3)争点3(法14条3号イ該当性)
(被告の主張)
ア本件不開示部分2には,原告その他の者が行ったAに関する苦情申出の
具体的内容が記載されているところ,仮にこれが開示されると,当該申出
がなされた経緯や当該申出に係る事実の存否にかかわらず,Aに何らかの
業務運営上の問題があるとの憶測を招き,Aの社会的評価が低下して顧客
が減少するおそれがある。
また,本件不開示部分2には,上記申出についてのAの認識内容や対応
方針等も記載されているところ,これらは,Aが適正に業務運営を行うた
めに蓄積してきたノウハウに当たり,開示されれば,競合他社に当該ノウ
ハウが流用されるなどして,Aの競争力が低下するおそれがある。
イしたがって,本件不開示部分2に記載された情報は,開示によってAの
権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報であり,
法14条3号イに該当する。
なお,原告が引用する「ISO10002」は,苦情対応プロセスの
設計等について一般的な指針を提供するものにすぎず,同規格への適合
宣言をしていることをもって,Aのノウハウが流用されるおそれがない
とはいえない。また,「ISO10002」は,個別の苦情申出に対す
る対応方針等を公開すべきものとはしていない。
(原告の主張)
ア法が保有個人情報の開示を原則としていることに照らせば,法14
条3号イにいう「法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそ
れ」とは,一般的抽象的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性
を意味するところ,被告の主張は一般的抽象的な可能性を述べるもの
にすぎない。
また,Aやその競合他社は,いずれも,苦情対応に係る国際規格で
ある「ISO10002」への適合宣言をしており,同水準の苦情対
応システムを構築しているはずであるから,仮に苦情申出に対する認
識内容や対応方針等がAのノウハウに当たるとしても,競合他社がそ
れを流用するとは考え難い。さらに,「ISO10002」は苦情対
応の方針等の公開を原則としている。
イ以上に照らせば,本件不開示部分2に記載された情報が法14条3
号イに該当するとはいえない。
(4)争点4(法14条7号柱書き該当性)
(被告の主張)
ア本件不開示部分2について
上記(3)の(被告の主張)記載のとおり,本件不開示部分2には,開示に
よってAの正当な利益を害するおそれがある情報が記載されているところ,
当該情報は,公開されないとの前提の下に,Aから金融庁等に対して任意
に報告されており,他の保険会社からも同様の報告がされている。
したがって,仮に当該情報のような保険会社の報告内容が開示されるこ
とになれば,以後,A等の保険会社は,自社の利益が損なわれることを防
ぐため,金融庁等に対して任意の報告を行うことに消極的な態度をとるよ
うになり,金融庁等が迅速かつ的確に保険会社の業務実態を把握すること
が困難となる。
したがって,本件不開示部分2に記載された情報は,開示によって金融
庁等の保険会社に対する監督事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあ
る情報であり,法14条7号柱書きに該当する。
イ本件不開示部分3について
本件不開示部分3には,原告その他の者によるA等に関する苦情申出の
内容,当該申出に係るA等の近畿財務局等の監督行政庁への報告内容及び
それらに対する近畿財務局等の対応内容が記載されている。
このうち,苦情申出の内容や当該申出に係るA等の報告内容は,開示に
よってA等の正当な利益を害するおそれがある情報であり,公開されない
との前提の下に近畿財務局等に対して任意に報告された情報であるから,
上記ア同様,これを開示すれば,以後,A等の保険会社が任意の報告に消
極的な態度をとるようになって,近畿財務局等の監督事務の適正な遂行に
支障を及ぼすおそれがあり,法14条7号柱書きに該当する。
また,近畿財務局等の対応内容は,仮にこれが開示されると,保険会社
一般に対して監督行政庁の具体的な対応方針等が明らかとなり,保険会社
が規制を逃れるための対応策を講じることが可能になるから,開示によっ
て金融庁等の保険会社に対する監督事務に支障を及ぼすおそれがあり,法
14条7号柱書きに該当する。
したがって,本件不開示部分3に記載された情報は,法14条7号柱書
きに該当する。
(原告の主張)
ア本件不開示部分2について
本件不開示部分2に記載された情報は,開示によってAの正当な利益を
害するおそれがある情報ではないから,これを開示してもA等の保険会社
が金融庁等に対する任意の報告に消極的な態度をとるということはできな
い。
また,金融庁長官は保険会社に対してその業務等に関し報告又は資料の
提出を求める権限(保険業法313条1項,128条1項)を有しており,
この権限は罰金(同法317条2号)等の規定により担保されていること
からも,保険会社から任意の協力が得られなくなることはない。
したがって,本件不開示部分2に記載された情報は,開示によって金融
庁等の保険会社に対する監督事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあ
るとはいえず,法14条7号柱書きに該当しない。
イ本件不開示部分3について
本件不開示部分3に記載された情報のうち,A等に関する苦情申出の
内容や,当該申出についてのA等の報告内容は,開示によってA等の正当
な利益を害するおそれがある情報ではなく,これを開示してもA等の保険
会社が金融庁等に対する任意の報告に消極的な態度をとるようになると
いうことはできないから,法14条7号柱書きに該当しない。
また,本件不開示部分3に記載された情報のうち,近畿財務局等の対
応内容に係る情報は,その相手方である保険会社には既に知られている
情報である以上,もはや秘匿されるべき情報ではなく,法14条7号柱
書きに該当しない。
したがって,本件不開示部分3に記載された情報は法14条7号柱書
きに該当しない。
第3当裁判所の判断
1判断の基礎となる事実
証拠(乙2の1~3,3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
(1)金融庁等の保険会社に対する監督事務
ア保険会社の監督行政庁に当たる金融庁や近畿財務局は,保険会社との十
分な意思疎通を確保し,保険会社の自主的な努力を尊重することをその監
督事務の指針としており,保険会社から随時,任意に業務状況に係る報告
を受けることで,保険会社の業務実態を速やかに把握している。
イA等の保険会社は,上記アの指針を受け,顧客からの苦情申出やそれへ
の対応に係る情報について,金融庁等の監督行政庁に報告しており,後記
(3)ア・エ記載のAの報告も,その一環として行われたものである。
(2)原告とAとの関係等
ア原告は,自ら,Aとの間で火災保険契約を締結していたほか,その父や
原告が代表者を務める会社も,火災保険,自動車保険,介護費用保険等に
係る保険契約を締結していた。
イ原告は,平成19年6月,Aに対し,介護費用保険契約に係る保険金を
請求したが,同社は,約款所定の支払事由を欠くことを理由として,その
支払を拒否したことがあった。その後,原告は,平成23年4月,上記介
護費用保険契約や自動車保険契約について,Aの対応に問題があるとして,
Cに苦情申出をし,その頃から,Aや近畿財務局へも同様の問題等につい
て苦情申出をするようになり,Aに対する苦情申出は,遅くとも平成24
年6月頃まで,近畿財務局に対する苦情申出は,平成23年12月頃まで
続いた。その間,平成23年12月には,上記苦情申出に関連して,大阪
地方裁判所に対し,Aを被告として,上記介護費用保険契約の保険料の返
還を求める訴訟を提起した。同裁判所は,平成25年7月26日,原告の
請求を棄却する旨の判決を言い渡し,原告はこれを不服として控訴したが,
控訴審でも,平成26年1月24日,控訴棄却の判決が言い渡された。
(3)別紙2~37の各文書の概要
ア別紙2~9の各文書は,Aが,原告から受けた前記(2)イ記載の苦情申出
について,金融庁長官の保険会社に対する監督上参考になると考えられる
内容を記録し,金融庁監督局保険課に対して任意に提出した文書である。
イ別紙10~16及び26の各文書は,原告以外の者が行ったA等に関す
る苦情申出について,近畿財務局等が,当該申出の内容,当該申出に係る
A等の報告内容及びそれらに対する近畿財務局等の対応内容を記録した文
書である。
ウ別紙17,19~21,23,25,30,33,35及び37の各文
書は,近畿財務局が,前記(2)イ記載の原告のAに関する苦情申出を受けて,
当該申出の内容及びこれに対する対応等を記録した文書である。
エ別紙18,22,24,27~29,31,32,34及び36の各文
書は,Aの担当者が,近畿財務局を訪れて,同社に対する原告の苦情申出
に関する事項で,当局の保険会社に対する監督上参考になると考えられる
内容を任意に報告したことを受け,近畿財務局が,その報告の内容及びこ
れに対する近畿財務局の対応等を記録した文書である。
2争点1(原告を本人とする保有個人情報か)について
法12条1項によれば,同項に基づき開示を求めることができるのは,自己
を本人とする保有個人情報に限られるところ,原告が開示を求めることができ
るのは,原告を本人(個人情報によって識別される特定の個人〔法2条5項〕)
とする保有個人情報に限られる。
前記1(3)イの認定事実及び弁論の全趣旨によれば,別紙10~16及び2
6の各文書の不開示部分に記載されているのは,原告以外の者が行ったA等に
関する苦情申出の内容,当該申出に係るA等の報告内容及びそれらに対する近
畿財務局等の対応内容であると認められるところ,これらが原告を本人とする
保有個人情報でないことは明らかである。
したがって,本件一部不開示決定のうち,別紙10~16及び26の各文書
の不開示部分に記載された情報を不開示とした部分は,その余の点について判
断するまでもなく適法である。
3争点2(法14条2号本文該当性)について
前記2のとおり,別紙10~16及び26の各文書の不開示部分に記載され
た情報を不開示としたことは適法であるから,以下では,本件不開示部分1の
うち,別紙10~16及び26の各文書の不開示部分以外の部分(別紙17~
20,22~24,27~29,31,32,34及び36の各文書の不開示
部分のうち黄色で着色された部分。以下「本件不開示部分1-①」という。)
に記載された情報について,法14条2号本文該当性を判断する。
前記1(3)ウ・エの認定事実及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分1
-①には,Aの担当者の氏名が記載されていることが認められる。
そうすると,本件不開示部分1-①に記載された情報は,法14条2号本文
に該当し,原告はこれらの情報が同号ただし書イ~ハ所定の除外事由に該当す
ることについての主張立証をしないから,本件不開示部分1-①に記載された
情報は,同号本文所定の不開示情報に該当するものと認められる。
したがって,本件一部不開示決定のうち,本件不開示部分1-①に記載され
た情報を不開示とした部分は適法である。
4争点3(法14条3号イ該当性)について
本件不開示部分2のうち,別紙19~21,23の各文書の不開示部分(以
下「本件不開示部分2-①」という。)について,法14条3号イ該当性を検
討する(なお,本件不開示部分2のうち,上記各文書の不開示部分以外の部分
については,後記5〔争点4に係る判断部分〕において検討する。)。
前記1(3)ウの認定事実及び弁論の全趣旨によると,本件不開示部分2-①
には,原告が近畿財務局に対してしたAに関する苦情の申出の具体的内容が記
載されていることが認められる。
このような苦情申出の具体的内容が開示されれば,当該申出に係る事実の存
否にかかわらず(なお,前記認定のとおり,原告は,Aに関する苦情申出に関
連して,Aを被告として訴訟を提起しているが,第1審で請求棄却の判決を受
け,控訴も棄却されていることからすると,原告の苦情申出が果たして事実に
基づくものであるか疑問なしとしない。),Aに業務運営上の問題があるとの憶
測を招くなど,Aの信用に悪影響を与え,競争上の地位を害するおそれがある
ことは十分考えられ,本件不開示部分2-①に記載された情報は,法14条3
号イ所定の不開示情報に該当するものと認められる。
したがって,本件一部不開示決定のうち,本件不開示部分2-①に記載され
た情報を不開示とした部分は適法である。
5争点4(法14条7号柱書き該当性)について
(1)判断対象について
前記2のとおり,本件一部不開示決定のうち,別紙10~16及び26の
各文書の不開示部分に記載された情報を不開示とした部分は適法であり,ま
た,前記4のとおり,本件不開示部分2-①に記載された情報を不開示とし
た部分も適法である。そこで,以下では,本件不開示部分2のうち別紙15
の文書の不開示部分及び本件不開示部分2-①以外の部分(別紙2~9,1
8,22,24,27~29,32,34及び36の各文書の不開示部分の
うち赤色で着色された部分。以下「本件不開示部分2-②」という。)と,本
件不開示部分3のうち別紙10~16及び26の各文書の不開示部分以外の
部分(別紙17~25及び27~37の各文書に係る不開示部分のうち青色
で着色又は枠囲みされた部分。以下「本件不開示部分3-①」という。)とに
記載された情報について,法14条7号柱書き該当性を判断する。
(2)本件不開示部分2-②について
ア前記1(3)ア・エの各認定事実及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示
部分2-②には,Aが金融庁又は近畿財務局に対し,原告によるAに関す
る苦情申出の具体的内容や当該申出に係るAの対応について,報告した内
容が記載されていることが認められる。
イ(ア)前記1(1)ア・イの認定事実に照らせば,これらの情報は,保険会社
の監督行政庁である金融庁等の保険会社に対する監督事務に関する情報
であるから,法14条7号柱書き所定の「国の機関…が行う事務…に関
する情報」に該当するものと認められる。
(イ)そして,本件不開示部分2-②に記載された情報のうち原告による
苦情申出の具体的内容については,前記4のとおり,これが開示されれ
ば,当該申出に係る事実の存否にかかわらず,Aに業務運営上の問題が
あるとの憶測を招くなど,Aの信用に何らかの悪影響を与え,競争上の
地位を害するおそれがあることは否定できない。
また,証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば,①Aは,前記1(1)
イの監督行政庁への報告が公表されないとの前提の下に,当該情報が会
社にとって有利か不利かを問わず,ありのままの事象を迅速に報告して
いること,②同社は,個別の顧客対応事例を蓄積して顧客対応業務を行
うための非公開のノウハウを構築し,それが同社の市場における競争力
の源泉ともなっており,原告からの苦情申出についても,そのようなノ
ウハウに基づき対応し,監督行政庁にこれを報告しているものであり,
その報告内容には,苦情申出に対する同社の対応方針等の内部管理情報
が含まれているとの認識を有していること,③同社は,その報告内容が
開示されることになれば,競合他社によって上記ノウハウが利用され,
同社の市場での競争上の地位の優位性が損なわれるとの認識を有してい
ることがそれぞれ認められる。
そうすると,仮に本件不開示部分2-②に記載された情報が開示され
ることになれば,Aは,自社の信用への悪影響や顧客からの苦情対応に
係るノウハウの流出を危惧し,今後,金融庁等の監督行政庁に対する報
告に消極的な態度をとるようになり,ありのままの報告を避けたり,報
告内容の精査に時間をかけて迅速な報告を行わなくなったりするおそれ
も十分考えられ(なお,そのようなおそれは,Aだけでなく,他の保険
会社との関係でも,生じ得る。),それによって金融庁等の監督行政庁に
よる適正な監督事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるというべきであ
るから,本件不開示部分2-②に記載された情報は,法14条7号柱書
き所定の不開示情報に該当するものと認められる。
したがって,本件一部不開示決定のうち,本件不開示部分2-②に記
載された情報を不開示とした部分は適法である。
ウ(ア)なお,原告は,Aの競合他社は,Aと同水準の苦情対応システムを
確立していると考えられることから,Aの苦情申出についての対応方針
等を開示しても,Aのノウハウが流用されるとは考え難いし,そもそも,
苦情への対応方針等は公開されるべきものである旨主張する。
しかし,Aとその競合他社の苦情対応システムが同水準であることを
認めるに足りる証拠はないし,仮に同水準であったとしても,同一のも
のではなく,各会社が独自に改良を重ねて確立したものであると考えら
れるから,開示されることによって,Aのノウハウが競合他社により流
用される可能性は否定できない。保険会社の個別の苦情への対応方針等
が公開されるべきものであることを認めるに足りる証拠もない。そもそ
も,Aが,上記イ(イ)の③記載のような認識を有している以上,競合他
社の苦情対応システムの水準いかんにかかわらず,開示により,監督行
政庁への報告について消極的な態度をとるようになるおそれは否定でき
ないものといわざるを得ず,原告の上記主張は,採用することができな
い。
(イ)また,原告は,金融庁長官が保険会社に対して報告又は資料の提出
を求める権限(保険業法313条1項,128条1項)を有しており,
その違反に対して罰金が科されること(同法317条2号)等が定めら
れているから,保険会社から任意の協力が得られなくなる可能性はない
と主張する。
しかし,たとえ罰金等の定めによって任意の協力が促されるとしても,
保険会社からありのままの,また,迅速な報告がなされなくなることに
よって,監督行政庁の監督事務の適正な遂行に具体的な支障を及ぼすお
それがあることは否定できず,原告の上記主張は,採用することができ
ない。
(3)本件不開示部分3-①について
ア前記1(3)ウ・エの各認定事実及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部
分3-①には,原告のAに関する苦情申出や当該申出についてのAの報告
に係る近畿財務局の対応内容(以下「本件対応内容」という。)が記載され
ていることが認められる。
イ本件対応内容は,保険会社の監督行政庁である近畿財務局の保険会社に
対する監督事務に係る情報であるから,法14条7号柱書き所定の「国の
機関…が行う事務…に関する情報」に該当するものと認められる。
そして,本件対応内容からは,保険会社に関する苦情申出がされた場合
における近畿財務局の具体的な対応方針を読み取ることができるものと認
められるところ,これが開示されれば,A以外の保険会社が,明らかとな
った監督行政庁の具体的な対応方針を踏まえ監督行政庁の規制を逃れるた
めの対応策を講じることが可能となり,それによって,近畿財務局等の監
督行政庁による適正な監督事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるという
べきであるから,本件不開示部分3-①に記載された情報は,法14条7
号柱書き所定の不開示情報に該当するものと認められる。
したがって,本件一部不開示決定のうち,本件不開示部分3-①に記載
された情報を不開示とした部分は適法である。
ウなお,原告は,監督行政庁の対応に係る情報は既に相手方保険会社の知
るところとなっているから,これを公開することによって保険会社に対す
る監督事務に支障が出るおそれがあるとはいえない旨主張する。しかし,
当該対応に係る情報は保険会社一般には知られていない情報であり,これ
が公開されることによって上記のような弊害が生じるおそれがあると認め
られるから,原告の上記主張は,採用することができない。
6小括
以上によれば,本件不開示情報のうち,別紙10~16及び26の各文書の
不開示部分に記載された情報は原告を本人とする保有個人情報に該当せず,別
紙2~9,17~25及び27~37の各文書の不開示部分に記載された情報
は,法14条2号本文,同条3号イ又は同条7号柱書き所定の不開示情報に該
当するから,本件不開示情報を不開示とした本件一部不開示決定は,適法であ
ると認められる。
7本件不開示情報の開示決定の義務付けを求める訴えの適法性について
本件訴えのうち,本件不開示情報の開示決定の義務付けを求める部分は,
行政事件訴訟法3条6項2号所定の申請型の義務付け訴訟であるところ,
本件一部不開示決定が取り消されるべきものでないことは前示のとおりで
あるから,上記部分は,同法37条の3第1項2号の要件を満たさない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件訴えのうち
上記部分は,不適法なものとして却下を免れない。
8結論
以上によれば,本件訴えのうち,本件不開示情報の開示決定の義務付けを
求める部分は不適法であるから却下し,原告のその余の請求は理由がないか
ら棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西田隆裕
裁判官斗谷匡志
裁判官狹間巨勝

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