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平成14年(ワ)第21051号 損害賠償請求事件
(口頭弁論終結の日 平成15年1月23日)
             判    決
       原     告      X
       被     告      国
       代表者法務大臣      森 山 真 弓
       被告指定代理人      千 葉 俊 之
       同            田 中 均 弥
       同            小 林   進
       同佐 藤 一 行
             主    文
     1 原告の請求を棄却する。
     2 訴訟費用は原告の負担とする。
             事実及び理由
第1 原告の請求
   被告は,原告に対し,7万8200円を支払え。
第2 事案の概要
   本件において,原告は,原告の2つの実用新案登録出願(昭和61年実用新
案登録願第103974号及び昭和61年実用新案登録願第192393号)につ
き,①特許庁審査官が,拒絶理由通知書に記載されたのと異なる新たな拒絶理由を
見つけたにもかかわらず,再度の拒絶理由通知をせずに拒絶査定をした,②特許庁
側の不誠実な対応により,審判請求の機会を奪われたなどと主張して,被告に対
し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,7万8200円(実用新案登録
出願料7100円及び出願審査請求料3万2000円の各2件分)の支払を求めて
いる。
 1 争いのない事実
  (1) 原告は,昭和61年7月7日に,名称を「歯ブラシ」とする考案につき実
用新案登録出願(昭和61年実用新案登録願第103974号。以下「本件A出
願」という。)をし,同年12月16日に,名称を「歯ブラシ用キャップ」とする
考案につき実用新案登録出願(昭和61年実用新案登録願第192393号。以下
「本件B出願」といい,本件A出願及び本件B出願を併せて「本件各出願」とい
う。)をした。
  (2) 本件各出願については,特許庁審査官乙(以下「乙審査官」という。)が
審査をし,平成元年4月24日付けで,それぞれ拒絶理由を通知(同年5月30日
発送)したところ,原告から同年7月19日付けでそれぞれ意見書及び手続補正書
が提出された。
  (3) これを受けて,乙審査官は,本件各出願について再度審査をしたが,前記
各意見書及び各手続補正書によっても拒絶理由は解消されていないと判断し,本件
A出願については平成2年4月17日付けで拒絶査定(以下「本件A拒絶査定」と
いう。)をし,本件B出願については同年5月7日付けで拒絶査定(以下「本件B
拒絶査定」といい,本件A拒絶査定と併せて「本件各拒絶査定」という。)をし
た。
    本件各拒絶査定の謄本は,いずれも同年6月19日に原告あてに発送さ
れ,翌20日に送達された。
  (4) 原告は,上記各謄本の送達があった日(平成2年6月20日)から30日
以内に審判の請求をしなかったので,本件各拒絶査定はいずれも確定した。
第3 当事者の主張
 1 原告
  (1) 本件A拒絶査定に係る「拒絶査定の謄本」(甲2)は,その備考欄に,同
査定に先立つ「拒絶理由通知書」(甲1)に記載されたのと全く異なる拒絶理由を
掲げている上に,根拠となる刊行物を示さず,あいまいな表現で拒絶している。
    また,本件B拒絶査定に係る「拒絶査定の謄本」(甲4)は,その備考欄
に,同査定に先立つ「拒絶理由通知書」(甲3)に引用されたのと別の刊行物を引
用して,拒絶している。
    すなわち,乙審査官は,本件各出願のいずれについても,拒絶理由通知書
に記載した拒絶理由と異なる新たな拒絶理由を見つけたものであるが,それにもか
かわらず,再度の拒絶理由通知をすることなく,直ちに拒絶査定としている。上記
各行為は,出願人である原告の意見陳述等の機会を失わせるものであり,裁判例
(東京高等裁判所平成2年(行ケ)第228号同4年5月26日第6民事部判決)
に照らし,違法というべきである。
  (2) 乙審査官が発した拒絶理由通知書や拒絶査定の謄本には,出願人である原
告の名前を間違えた訂正の跡があったり(甲3),定型文言の「意見書及び手続補
正書」の「手続補正書」の部分が一度削除された上,手書きで書き足してあったり
した(甲4)ので,原告は,本件各拒絶査定についても,審査手順上のミスがある
のではないかと考えた。そこで,平成2年6月24日付け「〈拒絶査定の謄本につ
いての質問〉」と題する書面(甲5)を送付し,上記拒絶査定に関する疑問点を質
した。審査料金を支払っている以上,審査上の疑問を質すことは,出願人の正当な
権利であり,特許庁は,これに対して誠実に答える義務があったというべきであ
る。さらに,同書面には,特許庁側のミスに起因して審判請求費用4万4000円
の出費を余儀なくされるのは納得いかないので,上記疑問が解消されるまでは,た
とえ査定に不服があったとしても,審判請求することはできない旨を明記しておい
た。
    ところが,特許庁は,審判請求ができる期間を過ぎてから,平成2年8月
7日付けのはがき(甲6)を郵送してきた。このはがきには,電話で説明したいの
で連絡いただきたい旨の記載があるが,この程度の内容ならば,上記書面を受け取
って直ちに返事できたはずである。
    しかるに,特許庁はそれをせず,そのことによって,上記のとおり,審判
請求のできる期間が徒過してしまったのだから,原告は,特許庁の不誠実な対応に
より,審判請求の機会を奪われたことになる。これは,故意にしろ,過失にしろ,
公務員による違法な行為というべきである。
  (3) 原告が本件各拒絶査定の謄本を受け取ったのは,平成2年6月20日のこ
とであるが,この時点では,各拒絶査定があった事実を知っただけで,「損害及び
加害者を知った」とはいえない。その後の原告と特許庁のやり取りにおいても,特
許庁が違法な行為のあった事実を認めなかったので,被害者である原告としては,
「損害及び加害者を知った」とはいえない状況であった。
    原告が,損害賠償請求権を行使できるほどの現実的認識を持ったのは,平
成14年5月23日に,文献(甲10はその抜粋。)により,前掲東京高等裁判所
平成2年(行ケ)第228号同4年5月26日第6民事部判決の存在を知った時で
あり,この日が消滅時効の起算日になると解すべきである。したがって,消滅時効
はまだ完成していない。
 2 被告
  (1) 原告は,乙審査官が,本件各出願につき,いずれも新たな拒絶理由を発見
したことを前提に,本件各拒絶査定が違法である旨を主張するが,原告の上記主張
は,そもそもその前提において誤っている。
    すなわち,本件各出願に係る考案は,平成5年法律第26号による改正前
の実用新案法(以下「旧実用新案法」という。)の下においては,同法3条2項の
規定により実用新案登録を受けることができないものであったことから,本件各拒
絶査定がされたのであり,そのことは,各拒絶理由通知書(甲1,3)及び各拒絶
査定謄本(甲2,4)にその旨明示されていることに照らし,明らかである。しか
るところ,上記各拒絶査定謄本の備考欄の記載は,いずれも,本件各出願時におけ
る技術常識を明らかにし,これら各出願に係る考案が既に周知技術になっているこ
とを分かりやすく説明することによって,これら各考案がきわめて容易に考案でき
たものであることを具体的に説示したものであって,先に通知された各拒絶理由を
変更したものでもなければ,新たな拒絶理由を追加したものでもない。したがっ
て,乙審査官が新たな拒絶理由を発見したことを前提とする原告の上記主張は,そ
の前提を欠くものとして,失当というべきである。
    なお,特許庁の実務における上記の扱いは,判例においても支持されてお
り,例えば,東京高等裁判所平成2年(行ケ)第186号同3年10月31日第1
8民事部判決(乙1)は,審決において周知例が付加されたとしても,「周知例は
単に本願考案の技術的意義を把握するため,出願前における技術常識を明らかにし
たにすぎないものであるから,これが新たな拒絶理由に当たるものではない」と判
示しているし,また,東京高等裁判所平成3年(行ケ)第49号同4年3月25日
第13民事部判決(乙2)は,審決が,一定の技術的事項を出願前周知であると認
定した上,参照例として特定の刊行物を挙げたことにつき,「それらの事項が周知
であることについて単に参考までに示したにすぎない」から,「前記周知技術の提
示あるいは該周知技術の参照例の提示については,実用新案法第41条で準用する
特許法第159条2項に基づく拒絶理由を通知し,意見陳述の機会を与える必要は
認められない」と判示している。
    ちなみに,原告は,東京高等裁判所平成2年(行ケ)第228号同4年5
月26日第6民事部判決を引用し,自らの主張を根拠付けようとしているが,同判
決は,審判官が査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に,再度拒絶理由を通
知することを要するか否かは,出願人の防御権行使の機会を奪い,その利益保護に
欠けることになるかどうかにより判断すべき旨判示したものであって,拒絶査定の
備考欄に示した内容が新たな拒絶理由に該当するかどうかを判断した事例ではな
い。したがって,本件とは事案を異にしており,この点においても,原告の主張は
失当というべきである。
  (2) 審査官の処分である拒絶査定については,審査過程において出願人に意見
書等を提出する機会を与えることにより,その適正化が図られているが(旧実用新
案法13条,特許法50条),そのようにして行われた最終処分であっても,万が
一過誤がある場合には,これを是正しなければならないことはいうまでもない。そ
こで,旧実用新案法は,このような場合の救済措置として,拒絶査定を受けた者
は,その査定に不服があるときは,査定の謄本の送達があった日から30日以内に
審判を請求することができるとしている(旧実用新案法35条)。そして,審判請
求に係る手続については,3人又は5人の審判官の合議体によって民事訴訟手続に
準じた審理がされ,最終的な審決がされるものであり(旧実用新案法41条,特許
法136条,157条),審決に対して不服であれば,さらに,その取消を求めて
東京高等裁判所に訴えを提起することもできる(旧実用新案法47条)。
    本件においても,原告は,本件各出願についてそれぞれ拒絶査定を受けた
のであるから,審判を請求して再度審査の見直しを求めることができたものであ
る。しかるに,本件各拒絶査定の謄本の送達があった日から30日以内に,原告が
審判を請求した事実はなく,特許庁が原告の審判請求を妨げた事実もない。
   すなわち,原告は,自らの判断により審判を請求せず,本件各拒絶査定を
確定させたものであって,特許庁側の不誠実な対応により審判請求の機会を奪われ
た旨の原告の主張は,失当である。
  (3) 国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権は,被害者又はその法定代理
人が損害及び加害者を知った時から3年間で時効消滅するところ(国家賠償法4
条,民法724条),「損害を‥‥‥知った」というためには,損害の程度や数額
を正確・具体的に知ることまでは必要なく,違法な行為によって損害の発生した事
実を知ることで足りると解されている。そして,違法な行為の認識についても,加
害行為が,因果関係,責任能力,過失,違法性等あらゆる点で不法行為を成立させ
るに十分なものであるとの認識まで必要とは解されておらず,一般に,加害行為が
違法と評価される可能性があることの認識で足りると解されている。なぜなら,不
法行為の成否は,最終的には訴訟によって公権的に確定されるものであり,消滅時
効は当該訴訟の時間的限界にかかわるものであるところ,違法な行為の認識につ
き,仮に当該行為があらゆる点で不法行為を成立させるに十分なものであるとの認
識まで必要であるとの見解に立つならば,訴訟が確定するまで違法な行為であると
の認識を持ち得ないことになり,消滅時効の制度が事実上無意味になるからであ
る。
    これを本件についてみると,原告主張に係る加害行為は,審査官が新たな
拒絶理由を発見したにもかかわらず,拒絶理由を通知しないまま拒絶査定をした行
為であるから,被告の公務員である審査官がかかる行為をしたことを認識できれ
ば,その時点で損害発生の蓋然性が高く,当該公務員の行為が違法と評価される可
能性があることを認識するのは容易だったということができる。そして,甲5号証
によれば,原告が,遅くとも平成2年6月24日までに,被告の公務員である審査
官の行為が違法と評価される可能性があるとともに,かかる行為により自らに損害
が生じた旨の認識を有していたことは明らかである。
    したがって,原告は,この時点で「損害及び加害者を知った」(民法72
4条)ということができ,この時点をもって消滅時効の起算点と解するのが相当で
ある。よって,本訴提起(平成14年6月20日付け)の時点で,原告主張に係る
損害賠償請求権は,すでに時効により消滅していたことが明らかである。被告は,
上記消滅時効を援用する。
第4 当裁判所の判断
 1 旧実用新案法の下での実用新案登録出願手続においては,出願人は,審査過
程において意見書等を提出する機会を与えられているほか(旧実用新案法13条,
特許法50条),拒絶査定に不服がある場合には,査定の謄本の送達があった日か
ら30日以内に審判を請求することにより,その是正を求めることができるものと
されている(旧実用新案法35条)。そして,審判手続においては,3人又は5人
の審判官の合議体による民事訴訟手続に準じた審理を経て審決がされるものであり
(旧実用新案法41条,特許法136条,157条),審決に対して不服であれ
ば,さらに,東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起することもできる(旧実用新案
法47条)。
   旧実用新案法の下での実用新案登録出願手続において,このように,出願人
に,拒絶査定に対して民事訴訟類似の手続によりその判断を争う手続が設けられて
いる点に照らせば,審査手続における判断の誤りや手続の過誤については,本来同
法の定める不服申立手続により救済を求めるべきものであるから,単に拒絶査定に
上記不服申立手続により是正されるべき瑕疵が存在するというだけでは,直ちに国
家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったということはできない。
   そこで,本件において原告の主張する違法行為のうち,特許庁審査官が,拒
絶理由通知書に記載されたのと異なる新たな拒絶理由を見つけたにもかかわらず,
再度の拒絶理由通知をせずに拒絶査定をしたという点について,単に不服申立手続
による救済の対象とするのみでは足りず,国家賠償法1条1項の規定にいう違法行
為と評価すべき事情が存在するかどうかについて,検討する。
 2 本件各出願及び本件各拒絶査定に関し,原告が本訴を提起するに至るまでの
経緯を認定すると,前記争いのない事実と証拠(甲1~9)及び弁論の全趣旨を総
合すれば,次の各事実が認められる。
  (1) 原告は,昭和61年7月7日に,名称を「歯ブラシ」とする考案につき実
用新案登録出願(本件A出願)をし,同年12月16日に,名称を「歯ブラシ用キ
ャップ」とする考案につき実用新案登録出願(本件B出願)をした。
  (2) 本件各出願については,乙審査官が審査をし,平成元年4月24日付け
で,それぞれ拒絶理由を通知(同年5月30日発送)した。
    本件A出願に対する拒絶理由通知書(甲1。以下「A拒絶理由通知書」と
いう。なお,同通知書の写しを本判決末尾に別紙1として添付した。)には,同出
願に係る考案は,出願前に国内で頒布された①実公昭7-15205号公報,②実
開昭58-14732号公報及び③実開昭58-55630号公報に基づいて,当
業者がきわめて容易に考案することができたと認められるから,実用新案法3条2
項の規定により実用新案登録を受けることができない旨が記載されている。そし
て,上記①公報の公報番号が記載された右横には,手書きで,「(突出した点)」
と記載され,上記②及び③の各公報の公報番号が記載された右横には,手書きで,
「(カットの点)」と記載されている。
    また,本件B出願に対する拒絶理由通知書(甲3。以下「B拒絶理由通知
書」という。なお,同通知書の写しを本判決末尾に別紙2として添付した。)に
は,同出願に係る考案は,出願前に国内で頒布された④実開昭49-97069号
公報,⑤実開昭58-139936号公報及び⑥実公昭38-206号公報に基づ
いて,当業者がきわめて容易に考案することができたと認められるから,実用新案
法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない旨が記載されてい
る。そして,上記④~⑥の各公報の公報番号が記載された下には,手書きで,「上
記のものもフタを有している。」と記載されている。
  (3) 上記の各拒絶理由通知に対し,原告は,平成元年7月19日付けで,それ
ぞれ意見書及び手続補正書を提出した。
  (4) これを受けて,乙審査官は,本件各出願について再度審査をしたが,前記
各意見書及び各手続補正書によっても拒絶理由は解消されていないと判断し,本件
A出願については平成2年4月17日付けで,本件B出願については同年5月7日
付けで,それぞれ拒絶査定をした(本件A拒絶査定及び本件B拒絶査定)。
  (5) 上記各拒絶査定の謄本は,いずれも同年6月19日に原告あてに発送さ
れ,翌20日に送達された。
    本件A拒絶査定に係る拒絶査定の謄本(甲2。以下「A拒絶査定謄本」と
いう。なお,同謄本の写しを本判決末尾に別紙3として添付した。)によれば,意
見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせ
ず,本件A出願は,A拒絶理由通知書記載の理由によって拒絶すべきものとされて
いる。そして,同謄本の備考欄には,「歯ぐき等を痛めないように,本願考案のよ
うに弾性材のクッションの上に毛を配設することは,ごく普通になされている。」
と記載されている。
    また,本件B拒絶査定に係る拒絶査定の謄本(甲4。以下「B拒絶査定謄
本」という。なお,同謄本の写しを本判決末尾に別紙4として添付した。)によれ
ば,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見
いだせず,本件B出願は,B拒絶理由通知書記載の理由によって拒絶すべきものと
されている。そして,同謄本の備考欄には,「ブラシが内側へ補正させるように歯
ブラシキャップの壁面を内方に傾斜させることは周知であり(例えば,実公昭55
-5060号公報,実開昭47-20471号公報,実開昭57-154331号
公報参照)本願考案は,先に示した引用例に上記周知の技術を適用することによっ
てきわめて容易になしうるものと認められる。」と記載されている。
  (6) 原告は,上記各拒絶査定謄本の送達を受けて,平成2年6月24日付け
「<拒絶査定の謄本についての質問>」と題する書面(甲5。以下「本件質問書」
という。)を特許庁あてに送付した。
    原告は,本件質問書において,A拒絶査定謄本の備考欄における前記「歯
ぐき等を痛めないように,本願考案のように弾性材のクッション上に毛を配設する
ことは,ごく普通になされている。」との記載につき,「これは何を引用して『…
ごく普通になされている。』と断定されたのでしょうか?もっと具体的に,公知,
公用,刊行物などを示して頂かないと理解のしようがありません。」,「更に,備
考の欄で述べている内容は,拒絶理由になった『突出した点』及び『カットの点』
とは全く別の内容です。意見書や手続補正書は拒絶理由に対して行うものですか
ら,拒絶理由とは別の理由を根拠に拒絶されてしまっては納得がいきません。も
し,私の提出した意見書及び手続補正書に対して根拠が見いだせないというのな
ら,この備考の欄に拒絶理由(突出した点,カットの点)に対する審査官の意見を
出願人が理解できるように具体的に述べるべきではないでしょうか?」と述べてい
る。
    また,原告は,同質問書において,B拒絶査定謄本の備考欄における前記
「ブラシが内側へ補正させるように歯ブラシキャップの壁面を内方に傾斜させるこ
とは周知であり」との記載につき,これは,B拒絶理由通知書における前記「上記
のものもフタを有している。」との記載とは,全く異なる内容のものであるとした
上で,B拒絶査定謄本は,これを理由のひとつとして,拒絶理由を覆すに足りる根
拠が見いだせないとしているが,「こういう事をするなら,なぜ初めから拒絶理由
通知書の段階で,引用文献とともに拒絶理由の一つとして指摘しなかったのか…?
もしこれが成されていれば,私は意見書及び手続補正書を提出する時に,この引用
文献に対して意見が言えたはずです。」と述べている。
    そして,上記に引き続き,原告は,「これらは明らかに審査官側のミスで
はないでしょうか?」,「もし審査官のミスで意見書及び手続補正書が認められ
ず,審判請求の段階で認められた場合,この審判請求にかかった手数料は返金され
るのでしょうか?又,今回のような場合は,たとえ認められなかったとしても,本
来は拒絶理由に対する意見書の段階で方が付いた事柄ですから,審判請求は不必要
だった事になります。この場合も手数料は返金されるのでしょうか?更に,審査や
審判が正当に行われているかを監査する機関はあるのでしょうか?」,「これらの
疑問が解消されるまでは,たとえ査定に不服があったとしても審判請求をすること
はできません。」などと述べている。
  (7) 原告は,A拒絶査定謄本及びB拒絶査定謄本の送達があった日(平成2年
6月20日)から30日以内に審判の請求をしなかった。よって,本件各拒絶査定
はいずれも確定した。
  (8) その後,特許庁は,本件質問書に対し,同庁審査第3部応用機器審査長丙
名で平成2年8月7日付けのはがき(甲6)及び同年9月付けの書簡(甲7)を,
さらに,同部応用機器審査長丁名で平成3年1月21日付けの書簡(甲8)を,そ
れぞれ原告に送付した。
    上記はがきには,「御質問の件について」と題した上,「手紙ではなかな
か説明しにくいので電話で説明したいと思いますので御連絡下さい。」と記載され
ている。
    上記平成2年9月付け書簡においては,制度上,拒絶査定の内容に不服が
ある場合には,審判請求を行うべきものであるので,本件質問書のような質問に対
しては,拒絶査定を行った審判官は,自ら原則として対応できない運用になってい
る旨の前置きがされた上,①周知慣用の技術については,文献の引用等を省略する
場合のあること,及び,②拒絶理由書において審査官が付するコメントは,審査官
が引用例のどこに重点を置いて引用したか等を示すにすぎず,引用例としては,あ
くまでそこに開示された技術全体が引用されたものであることが,本件各出願の内
容に即して詳細に説明されている。すなわち,上記①の点については,特許庁審査
官は,拒絶理由の開示に伴い先行技術を提示することがあるが,特に例示するまで
もなく,よく知られ,広く用いられている技術(周知慣用技術)については,文献
の提示やコメントを省略することもあるところ,A拒絶理由通知書においても,周
知慣用技術に関する文献の提示等が省略され,それ以外の拒絶理由通知が記載され
たが,A拒絶査定謄本の段階では,手続補正書記載に係る補正を経たとしても,周
知慣用技術との抵触を免れない旨審査官が判断し,その趣旨を備考欄に記載したに
すぎない旨の説明がされている。また,上記②の点については,拒絶理由通知書に
おいて審査官がコメントを付することは,審査官が引用例のどこに重点を置いて引
用したか,特許性の判断根拠はどこにあるかなどを出願人に分かりやすく伝え,意
思疎通を図り,もって行政処分を円滑に行えるようにとの配慮から行われている運
用であり,A拒絶理由通知書及びB拒絶理由通知書における括弧書きのコメント
(前記各備考欄の記載)も,引用例のどこに重点を置いて審査官が引用したかを示
すものにすぎず,引用刊行物としてはあくまで刊行物全体が引用されたものであっ
て,例えば,B拒絶理由通知書には,確かに「上記のものもフタを有している。」
とのコメント(備考欄の記載)があるが,同通知書で引用された実公昭38-20
6号公報には,歯ブラシの屈曲を矯正するための内向き突起部を設けた側壁よりな
る蓋付キャップが開示されており,引用例としては,当該技術的事項全体が引用さ
れたものである旨の説明がされている。
    上記平成3年1月21日付け書簡においては,本件各出願につき,それぞ
れの出願の内容,拒絶理由通知書,拒絶査定,意見書及び手続補正書を詳細に検討
したが,審査官の判断や拒絶理由通知書及び拒絶査定に過誤があるとは認められな
い旨,及び,拒絶理由通知書及び拒絶査定の謄本に書き損じの訂正のあることは原
告指摘のとおりであるが,単なる誤記を訂正したものであり,審査官は上記出願の
内容,意見書,手続補正書を十分吟味した上で拒絶理由通知書及び拒絶査定を起案
しており,それらの内容に不備はない旨が記載されている。
  (9) 平成14年に至り,原告は,平成14年4月23日付け通知書(甲9)を
特許庁長官あてに送付した。同通知書には,本件各出願の審査において,不法行為
があったので,それに対する謝罪及び損害賠償等を求める旨記載されている。
    また,原告は,同年5月23日,国を相手方として,東京簡易裁判所に調
停を申し立て,この調停が同年6月19日に調停不成立で終了すると,同年6月2
0日付けをもって,東京簡易裁判所に本件訴訟を提起した(なお,同年9月3日,
東京簡易裁判所は,本件を東京地方裁判所に移送する旨の決定をしたことから,そ
の後,本件訴訟は当庁に係属している。)。
 3(1) 本件A出願に関する拒絶理由について
    前記2(2),(5)において認定したところによれば,A拒絶理由通知書にお
いては,本件A出願に係る考案は,①実公昭7-15205号公報,②実開昭58
-14732号公報及び③実開昭58-55630号公報に基づいて,当業者がき
わめて容易に考案することができたと認められるから,実用新案法3条2項の規定
により,実用新案登録を受けることができないものとされており,それとともに,
上記①公報の公報番号が記載された右横には,手書きで,「(突出した点)」と記
載され,また,上記②,③の各公報の公報番号が記載された右横には,やはり手書
きで,「(カットの点)」と記載されている。
    A拒絶査定謄本には,なるほど,その備考欄には,「歯ぐき等を痛めない
ように,本願考案のように弾性材のクッションの上に毛を配設することは,ごく普
通になされている。」との記載があるが,同謄本には,本文において,本件A出願
は,A拒絶理由通知書記載の理由によって,拒絶すべきものと認める旨が明記され
ている。そして,本件における各証拠及び弁論の全趣旨によれば,歯ぐき等を痛め
ないように弾性剤のクッションの上で歯ブラシの毛を配設することは周知慣用の技
術であると認められることに照らせば,特許庁審査官は,A拒絶理由通知書に記載
された拒絶理由に基づき,本件A拒絶査定をしたものと認められ,原告が主張する
ように,A拒絶査定謄本の備考欄に記載された拒絶理由に基づき拒絶査定をしたも
のとは認められない。
    上記によれば,原告が主張するように,特許庁審査官が,A拒絶理由通知
書に記載されておらず,かつ,A拒絶査定謄本に初めて記載された拒絶理由(すな
わち,上記備考欄記載に係る拒絶理由。)に基づき,本件A拒絶査定をしたと認め
ることはできない。したがって,この点に関する乙審査官の行為の違法性をいう原
告の主張は,理由がない。
  (2) 本件B出願に関する拒絶理由について
    前記2(2),(5)において認定したところによれば,B拒絶理由通知書にお
いては,本件B出願に係る考案は,④実開昭49-97069号公報,⑤実開昭5
8-139936号公報及び⑥実公昭38-206号公報に基づいて,当業者がき
わめて容易に考案することができたと認められるから,実用新案法3条2項の規定
により,登録を受けることができないものとされており,それととともに,上記④
~⑥の各公報の公報番号が記載された下には,手書きで,「上記のものもフタを有
している。」と記載されている。
    B拒絶査定謄本には,なるほど,その備考欄には,「ブラシが内側へ補正
させるように歯ブラシキャップの壁面を内方に傾斜させることは周知であり(例え
ば,実公昭55-5060号公報,実開昭47-20471号公報,実開昭57-
154331号公報参照)本願考案は,先に示した引用例に上記周知の技術を適用
することによってきわめて容易になしうるものと認められる。」との記載がある
が,同謄本には,本文において,本件B出願は,B拒絶理由通知書記載の理由によ
って,拒絶すべきものと認める旨が明記されている。そして,本件における各証拠
及び弁論の全趣旨によれば,ブラシが内側へ補正されるように歯ブラシキャップの
壁面を内方に傾斜させることは周知慣用の技術であると認められることに照らせ
ば,特許庁審査官は,B拒絶理由通知書に記載された拒絶理由に基づき,本件B拒
絶査定をしたものと認められ,原告が主張するように,B拒絶査定謄本の備考欄に
記載された拒絶理由に基づき拒絶査定をしたものとは認められない。
    上記によれば,原告が主張するように,特許庁審査官が,B拒絶理由通知
書に記載されておらず,かつ,B拒絶査定謄本に初めて記載された拒絶理由(すな
わち,上記備考欄記載に係る拒絶理由。)に基づき,本件B拒絶査定をしたと認め
ることはできない。したがって,この点に関する乙審査官の行為の違法性をいう原
告の主張も,理由がない。
 4 上記によれば,本件において原告の主張する違法行為のうち,特許庁審査官
が,拒絶理由通知書に記載されたのと異なる新たな拒絶理由を見つけたにもかかわ
らず,再度の拒絶理由通知をせずに拒絶査定をしたという点は,いずれもその前提
を欠くものであり,理由がない。
 5 また,原告は,本件質問書(甲5)を送付し,本件各拒絶査定に関する疑問
点を質すとともに,特許庁側のミスに起因して審判請求費用の出費を余儀なくされ
るのは納得いかないので,疑問が解消されるまでは,たとえ査定に不服があったと
しても,審判請求することはできない旨を通知したにもかかわらず,特許庁は,審
判請求のできる期間が徒過した後に,前記平成2年8月7日付けはがき(甲6)を
郵送してきたものであり,このような特許庁の不誠実な対応により,原告の審判請
求の機会を奪われたと主張している。
   たしかに,特許庁が本件質問書に初めて応答したのは,本件各拒絶査定に対
して不服を申し立てる審判の申立期間(A拒絶査定謄本及びB拒絶査定謄本が原告
に送達された日から30日以内)の経過後であるが,そもそも,本件質問書をもっ
て,本件各拒絶査定に関する疑問が解消されるまでは審判請求しない旨を一方的に
通知したからといって,特許庁が上記審判申立期間内に原告の疑問に答えるべき法
律上の根拠が発生するということはできないから,上記の点をとらえて,被告の公
務員による不法行為の成立をいう原告の主張は,失当というほかない。
   また,本件各拒絶理由通知から本件各拒絶査定の謄本送達に至るまでの経緯
に,違法と評価される要素が存在しないことは,既に判示したところから明らかで
あり,その後の本件質問書に対する特許庁の応答(前記2(8)))及び原告とのやり
取りを仔細に検討しても,違法行為をうかがわせる事情は見当たらない。その他,
本件における全証拠に照らしても,特許庁が故意又は過失により原告の審判請求を
妨げたことをうかがわせる事情は何ら認められない。
   上記によれば,原告は,自らの判断により本件各拒絶査定につき審判請求を
しないまま不服申立期間を経過したものであって,特許庁の違法行為により審判請
求の機会を奪われた旨の原告の主張は,理由がない。
 6 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求は理由が
ない。
   よって,主文のとおり判決する。
   東京地方裁判所民事第46部
         裁判長裁判官   三 村 量 一
            裁判官   青 木 孝 之
   裁判官村越啓悦は,転任のため,署名押印することができない。
         裁判長裁判官   三 村 量 一

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