弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金千円に処する。
     右の罰金を完納することができないときは、金弍百円を壱日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
     この裁判の確定した日から弍年間右刑の執行を猶予する。
     原審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 論旨第三点について。
 しかし、原判決の挙示する証拠を綜合すれば、被告人が原判示のごとくA方墓地
の入口においてその内部に向い暫時放尿する格好をした事実を認めるのに十分であ
る。なるほど本件における重要な証人であるところのBの供述は捜査の段階におけ
ると原審におけると当審におけるとで若干ずつその内容が変つてきている。しかし
ながら、それにもかゝわらず同人の供述は少くとも被告人が前記のように放尿の姿
勢をしたのを目撃したという一点において信用するに値するものであり、しかも、
本件においてはさらに信憑力ある証人Cの供述がこれを裏付けているのである。こ
れに反し、被告人に有利な所論D、E、Fらの供述はにわかに措信し難く、その他
一件記録を精査検討してみても所論のように原判決が虚無の事実を認定したものと
は到底考えられないから、論旨は理由がない。
 論旨第一点について。
 論旨は、墓所に向つて現に放尿すれば格別、単に放尿するがごとき態度を示した
というだけでは刑法第百八十八条の礼拝等所不敬罪を構成しないと主張するのであ
る。思うに、同条は、国民の宗教的崇敬ないしは死者に対する尊敬の感情を害する
行為を処罰するものであつて、そのいかなる行為がこれに該当するかは時代によつ
<要旨>て同一ではないであろう。しかしながら、今日のわが国の公衆一般の感情と
しては、特に清浄を保つべき場所たる墓所の区画内において放尿するがごと
きはなお明らかに墓所の神聖を穢すものと観念されるのであつて、このことからさ
らに推して考えるならば、たとえ現実には放尿しなくとも、放尿するがごとき格好
をすること自体、見る者をしてその墓所に対する崇敬の念に著しく相反する感を与
えるものといわなければならない。ことに本件においては被告人はかねてからのA
一家に対する悪感情の発露として、「畜生意地がやけら、小便でもひつかけてや
れ」といいながら右の行為に及んだというのであつて、まさしく右墓所に対し侮辱
的行為をすることによりA一家に対する侮辱の念を表現しようとしてかかる動作に
出たものであること明白であるから、それだけに右の動作はその放言と相まつて一
層これを見る者の宗教的感情を傷けるに十分であつたと考えることができる。して
みれば、本件の行為は一般国民の宗教的感情を著しく害するものというべきであつ
て、原判決がこれを前記礼拝所不敬罪に問擬したのは正当だといわなければならな
い。論旨は、かかる行為まで処罰することはいわゆる神がかり的信仰を助長するも
ので民主主義に反するという趣旨の主張をしているが、いやしくも国民の正当な宗
教的感情一般を保護することは国家の任務であつて、民主主義国家においてもこの
ことはなんら異なるところがないのである。論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する)
 (裁判長判事 大塚今比吉 判事 山田要治 判事 中野次雄)

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