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裁判例


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主文
1本件訴えのうち,処分行政庁が平成24年12月27日付けで原告に
対してした原告を特定危険指定暴力団等として指定する処分が無効であ
ることの確認を求める訴えを却下する。
2本件訴えのうち,処分行政庁が平成25年12月25日付けで原告に
対してした特定危険指定暴力団等の指定の期限を延長する処分の取消し
を求める訴えを却下する。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)処分行政庁が平成24年12月27日付けで原告に対してした原告を特
定危険指定暴力団等として指定する処分(以下「本件処分」という。)が無
効であることを確認する。
(2)ア主位的請求
処分行政庁が平成24年12月27日付けで原告に対してした本件処
分を取り消す。
イ予備的請求
処分行政庁が平成24年12月27日付けで原告に対してした本件処
分のうち,警戒区域として豊前市,春日市,遠賀郡及び鞍手郡を指定し
た部分を取り消す。
(3)処分行政庁が平成25年12月25日付けで原告に対してした特定危
険指定暴力団等の指定の期限を延長する処分(以下「本件延長処分1」と
いう。)を取り消す。
(4)処分行政庁が平成26年12月25日付けで原告に対してした特定危
険指定暴力団等の指定の期限を延長する処分(以下「本件延長処分2」と
いう。)を取り消す。
2被告
(1)本案前の答弁
本件訴えのうち,本件処分が無効であることの確認を求める訴え及び本件
延長処分1の取消しを求める訴えをいずれも却下する。
(2)本案の答弁
原告の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」
という。)3条に基づき指定暴力団として指定されている原告が,処分行政庁
から平成24年12月27日付けで同法30条の8第1項に基づき特定危険指
定暴力団等として指定する処分(本件処分)を受けたため,被告に対し,①本
件処分は法主体性のない暴力団に対する処分であるから無効である等と主張し
て本件処分が無効であることの確認を求める(以下「本件無効確認請求」とい
う。)とともに,②暴対法及び同法の各条項は違憲であり,本件処分は違法で
ある等と主張して,主位的に本件処分の全部の取消しを求め(以下「本件処分
の取消請求」という。),予備的に本件処分のうち警戒区域として豊前市,春
日市,遠賀郡及び鞍手郡を指定した部分の取消しを求め(以下「本件予備的請
求」という。),さらに,③平成25年12月25日付けで暴対法30条の8
第2項に基づき特定危険指定暴力団等の指定の期限を延長する処分(本件延長
処分1)を,平成26年12月25日付けで同項に基づき特定危険指定暴力団
等の指定の期限を延長する処分(本件延長処分2)をそれぞれ受けたことから,
同項は違憲である上,本件延長処分1及び同2は同項の要件を満たしていない
から違法である旨主張して本件延長処分1及び同2の取消しを求めた(以下,
それぞれ「本件延長処分1の取消請求」,「本件延長処分2の取消請求」とい
う。)事案である。
2関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは別紙「関係法令の定め」のとおりである(同別
紙に定める略称等は,以下においても用いることとする。)。
3前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,各項末尾に記載の証拠及び弁論の
全趣旨により容易に認められる。
(1)原告は,肩書地に主たる事務所を設置し,代表者をCとする組織である
(争いのない事実,弁論の全趣旨)。
(2)原告に関する暴対法3条に基づく指定暴力団としての指定の経緯
原告は,以下のとおり,平成4年6月26日以降8回にわたり,処分行政
庁により,暴対法3条に基づく指定暴力団としての指定(以下「3条指定処分」
という。)を受けている(争いのない事実,乙44)。
ア第1回平成4年6月26日(福岡県公安委員会告示第78号)
イ第2回平成7年6月19日(福岡県公安委員会告示第78号)
ウ第3回平成10年6月24日(福岡県公安委員会告示第82号)
エ第4回平成13年6月19日(福岡県公安委員会告示第83号)
オ第5回平成16年6月21日(福岡県公安委員会告示第109号)
カ第6回平成19年6月21日(福岡県公安委員会告示第194号)
キ第7回平成22年6月22日(福岡県公安委員会告示第171号)
ク第8回平成25年6月20日(福岡県公安委員会告示第162号)
(3)本件処分
処分行政庁は,平成24年12月27日,原告に対し,暴対法30条の8
第1項に基づき,指定の期限を平成25年12月26日までとし,警戒区域
を北九州市,福岡市,行橋市,豊前市,中間市,春日市,宮若市,遠賀郡,
鞍手郡,京都郡及び築上郡の区域(島しょ部(架橋等により本土との陸上交
通が確保された島を除く。)の区域を除く。以下,一括して「本件各区域」
という。)と定めて特定危険指定暴力団等として指定する処分(本件処分)
をした(甲1)。
(4)本件延長処分1
処分行政庁は,平成25年12月25日,原告に対し,暴対法30条の8
第2項に基づき,特定危険指定暴力団等の指定の期限を平成26年12月2
6日までとする指定の期限の延長処分(本件延長処分1)を行った(乙48,
62)。
(5)本件延長処分2
処分行政庁は,平成26年12月25日,原告に対し,暴対法30条の8
第2項に基づき,特定危険指定暴力団等の指定の期限を平成27年12月2
6日までとする指定の期限の延長処分(本件延長処分2)を行った(乙63,
79)。
4争点及び当事者の主張
(1)本案前の争点
ア本件無効確認請求について
本件無効確認請求の訴えの利益の有無(本案前の争点1)
イ本件延長処分1の取消請求について
本件延長処分1の取消請求の訴えの利益の有無(本案前の争点2)
(2)本案の争点
ア本件無効確認請求について
本件処分の無効事由の有無(本案の争点1)
イ本件処分の取消請求及び本件予備的請求について
(ア)暴対法及び本件処分等の合憲性(本案の争点2)
(イ)本件処分の適法性(本案の争点3)
ウ本件延長処分1の取消請求及び本件延長処分2の取消請求について
(ア)暴対法30条の8第2項の合憲性(本案の争点4)
(イ)本件延長処分1の適法性(本案の争点5)
(ウ)本件延長処分2の適法性(本案の争点6)
5争点に対する当事者の主張
(1)本件無効確認請求の訴えの利益の有無(本案前の争点1)
(被告の主張)
本件無効確認請求は,本件処分の無効確認を求める無効等確認の訴え(行
政事件訴訟法[以下「行訴法」という。]3条4項)に該当するものと解され
るところ,処分の無効事由となる重大かつ明白な違法は処分の取消事由とな
る違法に包含される関係にあるから,特定の行政処分につきその取消しを求
める訴え(同法3条2項)を適法に提起することができる場合,その原告は,
当該取消しの訴えによって当該処分により生じる不利益についての権利救済
が図られ得る以上,これとは別に,同時に当該処分について無効確認を求め
る訴えの利益を有しないものというべきであり,かかる場合において,無効
確認の訴えは,同訴えによらなければ十分な救済を得られないような例外的
な場合にのみ許容されるというべきである。そして,このことは,行政処分
の効力を争ってその取消しの訴えと無効確認の訴えとを提起している原告が
主張する当該処分を取り消す理由となる違法事由と当該処分の無効原因とな
る違法事由とが異なることによって左右されるものではない。
本件において,原告は,既に本件処分の取消しを求めて本件処分の取消請
求に係る訴えを適法に提起している以上,原告は,これと並行して本件無効
確認請求を提起して,本件処分により生じる不利益について権利救済を求め
る利益を有しない。
したがって,本件無効確認請求に係る訴えは訴えの利益を欠き,不適法で
あるから,却下されるべきである。
(原告の主張)
争う。
行政処分に重大かつ明白な違法があったとしても取消事由となる違法に包
含されるために取消訴訟によって権利救済が図られる以上訴えの利益がない
という被告の主張を前提とすると,あらゆる場合に無効等確認の訴えを提起
することができなくなり,行訴法において無効等確認の訴えを明文上定めた
意義が失われるのであり,取消訴訟を提起することができる場合であっても,
無効等確認の訴えを提起する訴えの利益がある。
(2)本件延長処分1の取消請求の訴えの利益の有無(本案前の争点2)
(被告の主張)
暴対法30条の8第2項は,特定危険指定処分について,その期限が経過
する際に当該処分の対象となった指定暴力団等についておそれ要件が存続し
ていることを改めて確認することとし,おそれ要件が存続していることが確
認された場合には,当初の指定処分の内容の一部である指定の期限を延長す
ることによって,当初の指定処分の効力を存続させるという立法政策を採用
したものである。
上記の暴対法の趣旨からすれば,本件延長処分1の取消しを求める訴えに
ついては,同処分によって延長された後の指定の期限(平成26年12月2
6日)の経過により,同処分によって当初の指定処分(本件処分)の効力が
維持されているという状態は既に解消されているのであるから,原告に本件
延長処分1の取消しを求める訴えの利益はない。
したがって,本件延長処分1の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠く
不適法なものであるから,却下されるべきである。
(原告の主張)
争う。
(3)本件処分の無効事由の有無(本案の争点1)
(原告の主張)
行政処分は,重大かつ明白な違法が認められる場合には,当然無効となる
ところ,3条指定処分,暴対法30条の8第1項に基づく特定危険指定処分
はいずれも行政行為(行政処分)であり,かかる処分の効果を受ける主体は
法人格を有していなければならないが,同法には暴力団にその法律効果を受
ける法主体性を認める条項等は存在しない。同法の存在それ自体によって当
然に法主体性が認められるわけではないのであり,原告は,3条指定処分の
際においても本件処分の際においても,行政処分の要件となる法主体性がな
いことは客観的に明白であり,本件処分は,法主体性がない「暴力団」に対
して行ったものであるから,法主体性の欠缺を見逃したものとして重大かつ
一見明白な違法があるし,処分行政庁が上記各処分時にその職務の誠実な遂
行として当然要求せられる程度の調査によって判明すべき原告の法主体性の
欠缺があることからすれば,これらの処分には重大かつ客観的に明白な違法
があるのであり,本件処分は当然無効である。
(被告の主張)
原告が主張する「法主体性」が何を意味するか必ずしも明らかではないが,
暴対法は,その立法政策として,特定危険指定暴力団等の指定(同法第30
条の8第1項)について処分性を付与しているから,同法によって,原告は
同指定処分の対象となる法的地位に置かれる反面,同指定処分を争うことが
できる法的地位を有するものと解される。したがって,原告は,少なくとも
この意味における訴訟の当事者性を有するものとされるものであるから,原
告の上記主張は失当であり,本件無効確認請求には理由がない。
(4)暴対法及び本件処分等の合憲性(本案の争点2)
(原告の主張)
ア暴対法及び同法の各条項の違憲
以下のとおり,暴対法は,法律全体として暴力団及び暴力団員の権利
の侵害を定める体系的な法律であり,暴対法及び同法の本件処分に関連
する規定は違憲であり,本件処分は違憲である。なお,被告は,暴対法
30条の8第2項,第3項,同法30条の11,同法49条等について
原告に違憲を主張する適格がない等と主張するが,下記のとおり,各規
定は本件処分ないし本件処分の根拠規定である暴対法30条の8第1項
と非常に強い内部的関連性を有し,法律全体で暴力団及び暴力団員の権
利侵害を定めるものであるから,原告に違憲主張をする適格があること
は明らかであるし,暴対法30条の11,同法49条について行訴法1
0条1項による違法事由の制限を受けないことは明らかである。
(ア)暴対法の立法目的,制定過程等の違憲
a立法目的の違憲
(a)暴対法は1条に定める目的を立法目的とするものではなく,暴力
団又は暴力団員というカテゴリーを創設し,一般の刑罰法令とは異
なる行政刑罰法令を創出し,一般社会とは異なった法体系を適用す
るという特殊社会的秩序を作り出して暴力団,暴力団員を差別化す
るものであり,社会の誰もがその壊滅に賛成する暴力団を対象とし
た差別立法であり,これを利用して同法を所掌する官庁の利益を図
ることを目的とし,憲法14条1項の「社会的身分」による差別を
するものであり,法の下の平等に反する差別立法である。暴対法に
より「暴力団」のレッテルを貼られれば,自分の力ではそこから脱
却することができず,事実上「暴力団は悪い集団」,「反社会的勢
力」などとの社会的評価を伴うものであり,「暴力団員」というレ
ッテルを貼られた者については暴力団を脱退しても「元暴力団員」
というレッテルが貼られるものであるから,「暴力団」と称する地
位は「社会的身分」に該当する。
(b)法律を制定する場合には法律の基礎にあってその合理性を支える
社会的,経済的,文化的な一般的事実としての立法事実が存在する
必要があるところ,被告の指摘する立法事実は暴力団員の行為に対
する規制を支える立法事実にもなり得ない上,組織としての暴力団
対策を基礎付ける立法事実とはなり得ないし,仮に暴力団員の行為
に対する何らかの取締りの必要性を示すものであったとしても,そ
の目的を達成するための手段の合理性を基礎付けるものではなく,
立法事実とはなり得ない。
(c)また,暴対法は暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な
規制を行い,市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を
講じること等により市民生活の安全と平穏の確保を図り,国民の自
由と権利を保護することを目的とする旨規定するが(同法1条),
ここにいう暴力的要求行為等は従来違法行為とされず刑罰の対象と
ならない行為や従来存在した刑罰法規により処罰されてきた行為で
あって,これに対する必要な規制は行われ,市民生活に対する危険
を防止し,市民生活の安全と平穏を確保し,国民の自由と権利を保
護することができていたのであるから,どのような暴力的要求行為
が法制定の基礎事実となったのか,従来の法律が適用されなかった
のかが明らかでない限り,立法を基礎付ける事実を欠き,立法目的
を欠くものである。市民生活の安全と平穏の確保という暴対法に規
定する保護利益自体は個々の暴力団員の犯罪行為の防止が図られれ
ば足りるところ,犯罪防止という観点からは,従来の刑法等の法律
の適用によりその目的を十分に達成することができる。
(d)したがって,暴対法は,立法目的を欠くものであり,憲法13条,
14条1項,21条1項に反する。
b個別具体的法規範であることによる違憲
憲法41条が規定する国会の立法権の「立法」の意義は,一般的抽
象的法規範(受範者が不特定多数であり[一般性],規律の及ぶ場合が
不特定多数であること[抽象性])を意味し,特定の人や特定の事件を
名指しした法律は国民の権利,自由を不安定なものにし,平等原則に
違反するところ,暴対法は暴力団員の行う暴力的要求行為等について
の規制を行う法律であり,一般性はないから,一般的抽象的法規範を
制定する立法権により制定された法律ではない。したがって,暴対法
は,憲法41条に違反するし,憲法14条の平等原則にも違反する。
c暴対法の立法過程,運用の違憲
暴対法は平成3年の制定過程,平成24年の改正過程における審議
時間が極めて短く,十分な審議がされておらず,各条文の解釈上問題
となる点のみならず立法事実の存否等の基礎事実の十分な検討が行わ
れていない重大な欠陥があり違憲である。
すなわち,平成3年の暴対法制定過程においては,①警察庁が法案
を提出する際に,衆議院及び参議院において物理的に審議の日程の確
保が困難な時期に上程しており,審議時間が極めて短いこと,②暴対
法の立法に向けた作業が警察庁内部で開始された後,国民的な議論に
必要な時間的余裕や場を提供することなく法案を作成し,国会に提出
したこと等から暴対法の制定の拙速さ,立法事実の把握の稚拙さ,各
条文の審議が存在しないことは明らかである。
また,平成24年の暴対法改正時においても,平成3年の暴対法制
定時と同様,警察庁が改正法案を作成し,内閣による閣議決定の後国
会に提出されたが,国会における審議時間は約5時間半にとどまり,
このような短い審議時間では改正を根拠付ける立法事実の存否等の審
議を行うことができず,審議において平成24年の改正における大き
な改正点の一つである特定危険指定処分に関する暴対法30条の8及
びその関連規定に関する十分な審議,議論は存在しないのであり,各
条文の審議が存在しないこと,立法事実の把握の稚拙さは明らかであ
る。
(イ)3条指定処分に関連する規定の違憲
a暴対法3条柱書
暴対法3条柱書は,暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行
為等を行うことを助長する「おそれ」があるだけで指定暴力団として
の「指定」を受け,暴対法に定める行動の制約を課すものであり,指
定を受ける暴力団の要件該当性を曖昧にし,憲法31条に違反するも
のであるし,憲法21条1項の結社の自由を侵害し,また,憲法13
条の幸福追求権を侵害するものである。
また,暴対法3条柱書は,任侠道を信奉する団体が結集した団体で
ある原告及びその構成員を暴力団と指定して任侠道を信奉する団体で
あることを理由に社会的に差別するものであり,憲法19条,14条
に違反し,13条の幸福追求権を侵害する。
b暴対法3条1号
暴対法3条1号の目的要件は,「目的」という主観的要素を指定暴
力団の指定要件として規定しており,公安委員会が実質的には何の客
観的基準もなく恣意的に要件該当性を判断することになり,憲法21
条1項の結社の自由を侵害し,憲法31条に反する。
c暴対法3条2号
(a)暴対法3条2号は,「暴力団の幹部である暴力団員の人数のうち
に占める犯罪経歴保有者の人数の比率」又は「当該暴力団の全暴力
団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率」が一定の
比率を超えることを3条指定処分の要件としているが,「犯罪」,
「経歴」,「保有」の意味が不明確であり,このような曖昧な文言
を不利益処分の要素とすることは,憲法31条に違反する。
(b)暴対法3条2号は,暴力団の幹部又は構成員の中に一定比率を超
える犯罪経歴保有者がいる団体であることを要件とし,当該「比率」
を「政令で定める」としているが,3条指定処分の要件を政令に白
紙委任することになり,憲法31条に反する。
(c)暴対法3条2号は,「犯罪経歴保有者」を社会的身分により差別
するものであり憲法14条に違反する。
(d)暴対法3条2号の「幹部」という概念は不明確であり,団体の定
める幹部とは無関係に「幹部」とされ,これにより「犯罪経歴保有
者」の比率が判断されることは,憲法14条に違反し,憲法21条
1項の結社の自由を侵害する。
(e)暴対法3条2号は,その属する集団の人数の多少により犯罪経歴
保有者比率の区分を設けているが,このような区分を設けること自
体その根拠も関連性も合理性もなく,犯罪経歴保有者の多少により
区別することになり,憲法14条1項に違反し,憲法21条1項の
結社の自由を侵害するし,犯罪経歴保有者の少ない団体を良い団体
とし,多い団体を悪い団体とすることを前提とするものであり,判
断基準が曖昧であり,憲法21条1項に違反する。
(f)暴対法3条2号は,恩赦の場合や刑の執行猶予期間が経過した者
等刑の言渡しの効力が消滅した者を「犯罪経歴保有者」であるとす
るものであり,憲法14条1項に違反する。
d暴対法3条3号
暴対法3条3号は,「運営を支配する地位にある者」を要件として
定めるが,その定義は不明確であるから憲法31条に違反するし,憲
法21条1項の結社の自由を侵害する。
e暴対法5条
暴対法5条は,3条指定処分を行う際に,処分行政庁に指定の要件
該当性があることを根拠づける資料の提出を求めておらず,同条が告
知聴聞の機会を設けているものであるとした場合であっても,要件該
当性の検討の機会,反論の機会を奪うものであるから,憲法31条に
違反する。
f暴対法9条
暴対法9条は,3条指定処分による効果として,暴力的要求行為の
禁止を定めるが,その特質として私人の経済活動の自由の全ての分野
に及ぶものであり,同条は,「威力を示して」行った行為を対象とし
ているものの,この文言によっては適法行為の外延が不明確であり,
日常生活にまで過度の委縮を及ぼすものであって,漠然性ゆえに無効
の理論,過度に広汎ゆえに無効の理論が妥当し,罪刑法定主義に違反
し,かつ憲法21条1項にも違反する。
(ウ)暴対法30条の8に基づく処分に関する違憲
a暴対法30条の8第1項
(a)明確性の原則違反等
①暴対法30条の8第1項による特定危険指定処分は,3条指定
処分と同様に団体に対して暴力的行為を常習する者の団体である
というレッテルを貼るものであり,その効果は,究極的には任侠
団体を旨とする団体構成員の思想良心を弾圧するもので,結社の
自由を制限するものである。また,単に3条指定処分がされたに
とどまる暴力団よりも一層高いレベルでその指定された団体が法
に抵触し,存在を許されないという印象を与え,その指定された
団体の構成員がいわば暴力的行為を常習する者であるとの印象を
与えるものであり,団体活動に対する事後規制の制限であるから,
明確な要件及び慎重な手続が定められている必要があるし,その
自由については必要最小限の規制しか許されないというべきであ
る。
しかしながら,暴対法30条の8第1項は,特定危険指定処分
の要件の一つとして「更に反復して同様の暴力行為を行うおそれ
があると認めるとき」と規定し,「おそれがある」という漠然と
した要件の下で司法機関等の第三者機関ではない公安委員会に特
定危険指定処分の権限を与え,恣意的運用がされる可能性も十分
にあるのであり,学説の通説上違憲であるとされている破壊活動
防止法と比較しても構成要件が不明確であるから,明確性の原則
に反するし,憲法上規制されるべきではない行為も包括的に含む
形で規制対象を定めるものであるから,過度の広汎性理論からも,
憲法21条1項,31条に違反する。
②また,暴対法30条の8第1項は,公安委員会が人の生命又は
身体に重大な危害が加えられることを防止する目的の下に特に警
戒を要する区域(警戒区域)を定めることができる旨規定するが,
「警戒」という文言が不明確であり,さらに,警戒を「要する」
か否かや上記の目的の判断を全面的に公安委員会に委ねて白紙委
任をするものであるから,構成要件が漠然不明確であり,明確性
の原則に反し,憲法21条1項,31条に違反する。
(b)結社の自由侵害
結社の自由は,多数の人々がある共同目的(思想良心の自由等)
を達成するために任意にかつ継続的に結合する行為の自由であり,
団体を結成する自由,団体に参加する自由,団体自体が存続する権
利が含まれており,①人が団体の結成・不結成,団体への加入・不
加入,団体の構成員の継続・脱退につき公権力による干渉を受けな
いこと,②団体が団体としての意思を形成し,その意思実現のため
の諸活動につき公権力による干渉を受けないことを保障するもので
あるところ,特定危険指定処分は,結成された団体の弱体化を招来
する行為を含むものであり,団体が団体としての意思を形成し,そ
の意思実現のための諸活動につき公権力による干渉を受けない権利
が直接制約され,団体自体が存続する権利への直接的制約になるこ
とは,その指定効果の重大性(直罰化,面会要求等の禁止,事務所
の使用制限)に鑑みれば明らかである。
そして,結社の自由の侵害についての違憲審査基準は,最高裁判
所平成7年3月7日判決(民集49巻3号687頁)が採用する明
白かつ現在の危険の原則によるべきであり,規制を行うには明らか
な差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であり,
そのような事態の発生が客観的な事実に照らして具体的に明らかに
予測される場合でなければならない。
本件についてみるに,憲法21条1項が保障する結社の自由の重
大性や上記(a)のとおり,暴対法30条の8第1項が定める「おそ
れ」要件の漠然不明確性に鑑みれば,明白かつ現在の危険の原則に
より違憲審査がされるべきであるところ,同項が「おそれ」という
可能性を根拠に憲法上優越的地位にある結社の自由を侵害するもの
であるから,憲法21条1項に違反し違憲であることは明らかであ
る。
したがって,暴対法30条の8第1項による特定危険指定処分は,
結成された団体の弱体化を招来する行為として,結社の自由に対す
る侵害行為であり,同法30条の9ないし11等に定めるとおり,
団体自体に対して半永久的に処分の効果が残るものであるし,構成
員に対しても多方面に波及する過度な人権侵害を内包するものであ
るにもかかわらず,漠然不明確な要件と公安委員会による主観的な
手続が採用されている点で必要最小限の規制として到底首肯し得る
ものではなく,団体構成員の結社の自由ひいては思想良心の自由を
著しく侵害し,憲法21条1項に違反する。
b暴対法30条の8第2項
暴対法30条の8第2項は,公安委員会が「更にその指定の必要が
あると認めるとき」には,特定危険指定処分の要件該当性ないし要件
充足性を問題とすることなく,同処分により定められた期限を延長で
きる旨規定しており,延長処分の可否を「必要があると認めるとき」
という公安委員会の恣意的な判断に委ね,具体的要件を必要とせず,
その主観的判断により延長する権限を認めるものであり,憲法21条
1項の結社の自由を侵害し,憲法31条に違反する。
なお,暴対法30条の8第2項は,特定危険指定処分の実質的な自
動更新条項であり,特定危険指定処分ないし同条1項と非常に強い内
部的関連性を有しており,原告は,同条2項についての違憲を主張す
る適格がある。
c暴対法30条の8第3項
暴対法30条の8第3項は,同条1項により定めた警戒区域を「必
要と認めるとき」に変更することができる旨規定しており,必要性以
外に何らの基準もなく公安委員会の恣意的な判断により変更すること
ができるものであり,憲法31条に違反する。
なお,暴対法30条の8第3項は,特定危険指定処分における警戒
区域の変更に関する規定であり,特定危険指定処分と不即不離の関係
にあるから,同条1項と非常に強い内部的関連性を有しており,原告
は,同条3項についての違憲を主張する適格がある。
d暴対法30条の8第4項
暴対法30条の8第4項が準用する同法5条は,上記(イ)eのとおり,
公安委員会に要件該当性があることを根拠づける資料の提出を求めて
いないから,上記(イ)eと同様憲法31条に違反する。
e暴対法30条の8第7項
暴対法30条の8第7項は,同法3条及び4条の指定(旧指定)の
有効期間が経過した場合において,引き続き同法3条及び4条に基づ
く指定(新指定)がされたときは,同法30条の8第1項の規定によ
り旧指定にかかる指定暴力団等について公安委員会がした指定は,新
指定に係る指定暴力団等について引き続きその効力を有する旨規定す
るところ,かかる規定は,同項による要件該当性の審査を行うことな
く特定危険指定暴力団として扱うものであるから,憲法21条1項,
31条に違反する。
f暴対法30条の9及び30条の10
(a)暴対法30条9及び30条の10の各規定が不明確であること
暴対法30条の9は,特定危険指定暴力団等の指定暴力団員が暴
力的要求行為を行う目的で警戒区域において,その相手方に対し,
面会を要求し(1号),電話をかけ,ファクシミリ装置を用いて送
信し,又は電子メールを送信し(2号),つきまとい,居宅又は事
業所の付近をうろつくこと(3号)を禁止し,同法30条の10は,
これらの行為が行われたときには,公安委員会は中止命令を発する
ことができるほか,「必要な事項」を命じることができる旨規定し
ているが,同法30条の9は,「つきまとい」,「うろつく」等の
曖昧かつ不明確な概念により規制を行うものであるし,「目的」と
いう主観的要素の有無によって犯罪でない行為を規制の対象とする
ものであり,その判断が恣意的となり基準として曖昧であるから,
憲法21条,31条違反は明らかであるし,「必要な事項」を命じ
ることができる旨の規定(暴対法30条の10第2項)は,その内
容が全く明らかでなく,さらに,要件を政令等に完全に委ねている
から,憲法31条に違反する。
(b)暴対法30条の9第1号
暴対法30条の9第1号は,警戒区域内において相手方に対して
面会を要求することを禁止するものであるところ,誰と面会し交流
するかについて公権力による介入を受けない利益が憲法13条及び
21条1項により保障されていることは明らかであり,このような
個人の人格的生存に不可欠な核心的利益は個人の尊厳を規定する憲
法の下で制約されてはならないものであり,暴対法30条の9第1
号は,かかる権利を制約するものであるから,憲法13条及び21
条1項に違反する。
(c)暴対法30条の9第2号
暴対法30条の9第2号は,電話をかけ,ファクシミリ装置を用
いて送信し,又は電子メールを送信することを禁止しているもので
あるところ,かかる規定は表現の自由の一態様である通信の自由を
侵害するものであり,これを制約する規定の違憲審査においては上
記a(b)のとおり明白かつ現在の危険の基準によるべきであるところ,
同号が想定する立法事実には通信の自由を規制する明白かつ現在の
危険は存在しないことは明らかであるから,憲法21条1項に違反
する。
(d)暴対法30条の9第3号
暴対法30条の9第3号は,警戒区域内において相手方に対して
つきまとい,居宅又は事業所の付近をうろつくことを禁止している
ところ,憲法13条により保障される身体の自由の一態様である移
動の自由を侵害するものであり,これを制約する規定の違憲審査に
は上記a(b)のとおり明白かつ現在の危険の基準が採用されるべきで
あるところ,かかる明白かつ現在の危険は存在しないから,憲法1
3条に違反する。
g暴対法30条の11
暴対法30条の11は,特定危険指定暴力団等の事務所について,
3か月の期間を定めて使用を制限することができる旨定め(1項),
かかる期間が経過した後も「必要があると認められるとき」はさらに
延長することができる旨定める(2項)ところ,本来自ら所有又は管
理する建物等を事務所として使用することは自由であり,財産権とし
て保障されているのが原則であって,同条は実質的に事務所の使用を
禁止するという制限を課すとともに,一度使用制限の命令が出される
ことにより永遠に事務所を使用することができなくなる規定となって
おり,財産の没収,財産収用処分と実質的に同視することができる。
財産権に対する制約に関する審査基準について,規制の目的,必要性,
内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程
度等を比較考量して判断し,立法の規制目的が社会的理由ないし目的
に出たものといえないものとして公共の福祉に合致しないことが明ら
かであるか,又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規
制手段が目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠
けていることが明らかであってそのために立法府の判断が合理的裁量
の範囲を超えるものとなる場合に限り憲法29条2項に違反するもの
とするいわゆる森林法共有物分割制限規定違憲判決に照らしても,暴
対法30条の11は憲法29条に違反する。また,暴対法30条の1
1は,団体自体の活動を制限し,団体構成員の行為を制限するもので
あり,団体の行動に対する萎縮効果をもたらし,結成された団体の弱
体化を招来する規制であるから憲法21条の結社の自由,集会の自由
を制限するものであり,憲法21条に違反し,さらには,人格的権利
としての性格を有する居住の自由(憲法22条)をも制限するもので
あるし,「必要がある」ときであれば延長を行うことができる規定で
あるから憲法31条に違反する。
また,暴対法30条の11第3項は,同条1項に基づく使用制限命
令を受けた場合に,当該事務所の出入口の見やすい場所に当該命令を
受けている旨を告知する国家公安員会で定める標章を貼り付けること
を強制するものであり,不利益処分を受けていることの表示を強制す
るものであるから,不利益供述の強要として,憲法38条に違反する。
なお,暴対法30条の11第1項及び2項による事務所に対する規
制は暴力団に対する規制の本質であるし,同条3項は実質的には特定
危険指定処分の標章を定めるものでもあり,特定危険指定処分の本質
的要素であるから,同法30条の8第1項と非常に強い内部的関連性
を有しており,原告は,同項についての違憲を主張する適格があるし,
原告の利害と関連性を有する規定であり,同法30条の11に関する
違法事由の主張が行訴法10条1項により制限されることはない。
(エ)その他罰則等の暴対法の各条項の違憲
a暴対法33条,49条の違憲
暴対法33条は,公安委員会が「この法律の施行に必要があると認
めるときは,国家公安委員会規則で定めるところにより,この法律の
施行に必要な限度において」指定暴力団員その他の関係者に対し報告
若しくは資料の提出を求め,又は警察職員に事務所に立ち入り,物件
を検査させ若しくは指定暴力団員その他の関係者に質問させることが
できる旨定めるところ(以下,一括して「立入検査等」という。),
公安委員会が立入検査等を行うことができる場合の要件につき,国家
公安委員会規則に一般的包括的に委任するものであり,憲法41条,
73条6項但書に違反する。
また,上記規定に基づく立入検査は,その内容も定められておらず,
刑事訴訟法上の捜索差押え等令状が必要な強制処分と同様のことを令
状無しに行うものであり(暴対法49条において同法33条の立入検
査を拒んだ者に対する罰則が定められていることからすれば上記立入
検査が強制処分であることが裏付けられる。),令状主義を保障する
憲法35条に違反する。
さらに,暴対法49条は,同法33条1項の規定による公安委員会
による指定暴力団員その他の関係者に対する質問に対して当該暴力団
員等が陳述しない場合に罰則を科す旨定めるが,これは陳述の強制に
当たり,憲法38条1項の黙秘権侵害である。
なお,暴対法33条及び49条は,同法30条の8第1項と非常に
強い内部的関連性を有しており,原告は,同法33条及び49条につ
いての違憲を主張する適格があるし,原告の利害と関連性を有する規
定であり,同各条に関する違法事由の主張が行訴法10条1項により
制限されることはない。
b中止命令違反等に係る罰則規定の違憲
刑事罰,行政刑罰は犯罪構成要件ないし効果発生のための要件を法
により定めることが必要であり,かかる立法事項を委任する場合であ
っても一般的包括的な委任は禁止されているところ,暴対法は第8章
において中止命令等に違反する者に対して罰則を科しているが,同法
46条3号,49条,50条2号,51条を除く同法第8章(罰則)
の全ての条文は中止命令等に違反したことを要件に罰則を科す旨定め
ており,その具体的な構成要件は明らかにされておらず,その要件は
中止命令等の内容によって異なることとなるものであって,刑罰の具
体的構成要件を中止命令等を発する行政庁に白紙委任するものである
から,立法の委任の限界を超えるものであり,憲法41条,73条6
号に違反し,また,罪刑法定主義を定める憲法31条に違反する。
c直罰規定(暴対法46条3号)の違憲
暴対法46条3号は,同法30条の2に定める「つきまとい」行為
や「請求者に不安を覚えさせるような方法で妨害」した場合の直罰規
定を定めるものであるところ,同じく「つきまとい」行為について規
制するストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第8
1号)(以下「ストーカー規制法」という。)等と比較すると罪刑の
均衡を失しており,憲法31条に違反するし,その構成要件となる「つ
きまとい」の意義も不明確であり,また,特定危険指定暴力団の構成
員のみがそれ以外の指定暴力団の構成員と同様の暴力的要求行為等を
行った場合に直罰を受けるものであり,他の暴力団の構成員との間で
身体の自由という重要な権利,利益について不合理な差別的取扱いを
受けるものとして憲法14法1項に違反する。
イ本件処分が違憲であること
(ア)山口県においては原告以外に原告よりも活動拠点や構成員等が多く
勢力が大きい暴力団が存在するにもかかわらず,原告のみに対して本
件処分を行ったのであり,原告と原告以外の山口県下に存在する指定
暴力団との関係で特に原告に対して特定危険指定処分を行う合理的根
拠がないにもかかわらず本件処分を行ったものであるから,結社の自
由の保障について差別的な扱いをするものであり,憲法14条1項に
違反し,違憲,違法である。
(イ)本件処分は,憲法21条1項が保障する優越的権利である結社の自
由,コミュニケーション行為の自由,通信の自由を侵害するものであ
るから憲法21条1項に違反し,また,憲法13条が保障する人格的
生存に不可欠な幸福的追求権,移動の自由を侵害するものであり,憲
法21条1項,13条に違反し違憲,違法である。
(被告の主張)
ア暴対法及び同法の各条項の違憲主張について
(ア)暴対法の立法目的,制定過程等の違憲主張について
a立法目的の違憲に関する主張について
暴対法は,広域暴力団の勢力の拡大や寡占化,暴力団員による民事
介入暴力行為の増加,暴力団相互間の対立抗争事件の多発,暴力団に
対する新たな規制法律制定や暴力団員の民事介入暴力行為の禁止等を
求める暴力団に対する厳しい世論等を背景として,必要な規制等を行
うことにより,市民生活の安全と平穏の確保を図る目的で制定された
ものであり,その立法目的は明確であって,暴対法1条に定めるとお
り合理的な立法目的によるものであるから憲法違反はない。
b個別具体的法規範であることによる違憲に関する主張について
暴対法は,暴力団,すなわちその団体の構成員(その団体の構成団
体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行
うことを助長するおそれがある団体やその構成員のうち,暴対法が規
定する要件を満たす団体やその構成員に対して等しく適用されるので
あり,当該適用の対象とされる団体や個人は特定の団体や個人ではな
いから,暴対法に一般性がなく憲法41条に反するとはいえず,原告
の主張は失当である。
c立法制定過程の違憲に関する主張について
法案の審議にどの程度の時間をかけるかは専ら各議院の判断による
べき事項であり,その時間の長短により公布された法律の効力が左右
されるものでないことはいうまでもなく,国会における審議時間が法
律の効力に影響を及ぼすものではない。
この点を措くとしても,平成3年の暴対法制定時及び平成24年の
改正時には,いずれも国会において十分な審議を経て可決・成立した
ものであるから,原告の主張には理由がない。
(イ)暴対法3条等の違憲主張(原告の主張ア(イ))について
a暴対法3条柱書に関する主張について
(a)暴対法3条柱書は,同条1号ないし3号のいずれにも該当すると
認められる暴力団について,「その暴力団員が集団的に又は常習的
に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団」,
つまり指定暴力団(同法2条3号)として指定する旨規定している
のであり,同法3条柱書自体は指定暴力団の指定要件を定める規定
ではないのであって,同条柱書につき上記の「おそれ」を指定暴力
団の指定要件とする規定であることを前提とする原告の主張は失当
である。
(b)また,上記(a)のとおり,指定暴力団の指定要件を定める規定は
暴対法3条1号ないし3号であり,同各号には,指定要件として暴
力団やその暴力団員が任侠道を信奉するか否かに関係する事項を定
めるものは全くないのであり,同条は,暴力団やその暴力団員が任
侠道を信奉することを理由にして指定暴力団と指定することを定め
ていないから,同法3条柱書が原告及びその構成員を,暴力団と指
定して任侠道を信奉する団体であることを理由に社会的に差別する
ものであることを理由とする原告の違憲主張は,その前提を欠く。
b暴対法3条1号に関する主張について
上記第2の2の関係法令の定めのとおり,暴対法3条1号は,「目
的」の内容につき具体性をもって規定しており,具体的場合に通常の
判断能力を有する一般人の理解において同号の「目的」に該当するか
どうかの判断をすることができるものであるから,同号は,何の客観
的基準もなく恣意的に要件該当性を判断することになる指定要件を定
めたものではないから,原告の違憲主張は,その前提を欠く。
c暴対法3条2号に関する主張について
(a)「犯罪経歴保有者」については,暴対法3条2号柱書において,
同号イないしヘのいずれかに該当する者をいうと規定し,同号イな
いしヘにおいて,個別具体的に犯罪経歴保有者に当たる者を定めて
おり,これらの規定中に抽象的ないし不確定概念はなく,この規定
内容により犯罪経歴保有者であるかどうかが一義的に判断できるも
のであるから,犯罪経歴保有者に関して同号が曖昧な文言をもって
不利益処分の要素としていることを前提とする原告の違憲主張は,
その前提を欠く。
(b)上記第2の2の関係法令の定めのとおり,暴対法3条2号は,同
号において,暴対法施行令1条に委任する犯罪経歴保有者の人数の
比率の内容,定め方について規定しており,当該比率は,いわゆる
二項分布という確率計算の方法に基づいて算定することとされてい
るから,暴対法3条2号は,同条の指定の要件となる犯罪経歴保有
者の人数の比率について政令に白紙委任するものとはいえず,同法
3条2号が同条の指定の要件を政令に白紙委任していることを前提
とする原告の違憲主張は,その前提を欠く。
(c)原告は,暴対法3条2号が「犯罪経歴保有者」をその社会的身分
により差別するものであり憲法14条に違反する旨主張するが,原
告の上記主張が,暴対法3条2号が犯罪経歴保有者である原告の構
成員に対する取扱いが当該構成員の利益を侵害する規定であるとい
う趣旨で憲法14条違反を主張するものであれば,原告の法律上の
利益に関係のない違法を理由とするものに当たり,行訴法10条1
項により本件において上記主張は許されない。また,原告の上記主
張が,暴対法3条2号が,暴力団について,その構成員の中に一定
の比率を超える犯罪経歴保有者を有する団体であるとし,他の団体
と区別して同条の指定の対象とすることが差別的取扱いに当たると
する趣旨で憲法14条違反を主張するものであるとしても,憲法1
4条は,国民に対する絶対的な平等の取扱いを保障したものではな
く,合理的な理由なくして差別することを禁止する趣旨であるから,
事実上の差異に相応して合理的に法的取扱いを区別することは,憲
法14条に反するものではないものであるところ,暴対法3条2号
は,同法による規制対象となるのが暴力団の構成員である暴力団員
であり,その暴力団員を特定する手法として採られた暴力団の指定
において,一般的に暴力団の構成員に暴力的不法行為等に係る犯罪
を犯した者が著しく多く含まれているという暴力団の特性に着目し,
これを要件として,同要件に該当する暴力団だけを指定することと
したものであり,このような取扱いには合理的な理由があるという
ことができるから,これが憲法14条に違反するものとはいえない。
(d)暴対法3条2号に規定する「幹部」とは,同条3号の要件とされ
ている階層的組織構成の上層部にある者を意味し,その範囲につい
ては,「国家公安委員会規則において定める要件に該当する者」と
し,その国家公安委員会規則である暴対法施行規則2条1号ないし
3号において,幹部に当たる者の要件を具体的に定めており,その
要件該当性は,通常の判断能力を有する一般人の理解において合理
的に判断できるものであるから,暴対法3条2号の「幹部」の要件
が不明確であるとはいえないのであり,同要件が不明確であること
を前提とする原告の違憲主張は,その前提を欠く。
(e)原告は,暴対法3条2号がその属する集団の人数の多少により犯
罪経歴保有者比率の区分を設けることは根拠も関連性も合理性もな
く,憲法14条1項,21条1項に違反する旨主張するが,原告の
主張は「根拠も関連性も合理性もない」という根拠が全く不明であ
る。暴対法3条2号は,上記(c)のとおり,暴力団の特性に着目し,
これを要件として,同要件に該当する暴力団だけを指定し,暴力団
以外の団体が指定されないようにするものであり,同号に定める犯
罪経歴保有者の比率の要件は,暴力団と暴力団以外の団体とを区別
する客観的かつ明確な基準を措定したものであるため,同号は,構
成員又は幹部の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者がいる団体
であることを要件とし,当該比率は,いわゆる二項分布という確率
計算の方法に基づいて算定することとされており,暴力団以外の集
団であれば,その構成員の犯罪経歴保有者の比率が同条に定める比
率以上になることが現実的にあり得ないといえるだけの確率を持っ
た比率を定めたものであるから,同号の犯罪経歴保有者比率の定め
には,暴力団と暴力団以外の団体との区別をする基準として客観的
な基準であり,同条の指定をする上で上記の区別をするための十分
な関連性,合理性が認められるものであるのであり,原告の違憲主
張は,その前提を欠く。
(f)原告は,暴対法3条2号は恩赦の場合や刑の執行猶予期間が経過
した者等刑の言渡しの効力が消滅した者を「犯罪経歴保有者」であ
るとするものであるから,憲法14条1項に違反する旨主張するが,
その根拠は不明である。仮に原告の上記主張が,犯罪経歴保有者で
ある原告の構成員に対する取扱いが構成員の利益を侵害するという
意味で平等原則違反である旨の主張である場合には,原告の法律上
の利益に関係のない違法を言うものであり,行訴法10条1項によ
り,本件において上記主張は許されない。この点を措くとしても,
犯罪経歴保有者の比率の要件は,暴力団の構成員には一定の犯罪行
為を行った者が著しく多いという事実に着目して,当該事実を暴対
法3条の指定の要件とするものであるから,その比率の算定に当た
り,恩赦や執行猶予期間の経過により刑の言渡しの効力が消滅した
者をも犯罪経歴保有者に含めることには十分に合理性があるのであ
り,同要件を定めていることが憲法14条に違反する理由となるも
のではない。
d暴対法3条3号に関する主張について
暴対法3条3号は,暴力団が,組長,総長,あるいは会長などの名
称で呼ばれる最上位に位置する者の統制の下に,様々な役職,地位が
定められ,そのうち同等の者の集団が一つの階層をなし,その他の階
級集団とそれぞれの地位に基づき段階的な階層をなして構成されてい
る団体であるという特徴を有する点を捉えて,この特徴を有すること
を要件とするものであり,「その運営を支配する地位にある者」とは,
その法文から明らかなとおり,団体を統制している者を意味するもの
であるから,同号の「その運営を支配する地位にある者」の意義は,
その規定自体から明確なものということができ,その者の該当性は,
通常の判断能力を有する一般人の理解において合理的に判断できるも
のである。したがって,同号の上記記載部分の規定が不明確であるこ
とを前提とする原告の違憲の主張は,その前提を欠く。
e暴対法5条は,行政処分の相手方に十分な事前の告知,弁解,防
御の機会を与える規定であり,憲法31条に違反するものではない。
f暴対法9条が違憲である旨の原告の主張はこれが本件訴訟との関
係でいかなる法的意味をもつ主張であるのか明らかでなく,この点
において既に主張自体失当であるが,この点を措くとしても,暴対
法9条においては,禁止される行為は飽くまで「指定暴力団等の威
力を示して」される反社会的な行為に限定されており,また,その
内容は同条各号に明確に規定されているのであるから,罪刑法定主
義や憲法21条1項に違反するものではない。
(ウ)暴対法30条の8の違憲主張(原告の主張ア(ウ))について
a暴対法30条の8第1項に関する主張について
(a)明確性の原則違反等の主張について
①原告は,暴対法30条の8第1項の「おそれ」の文言が不明確
であり,特定危険指定処分の構成要件が不明確である旨主張する
が,一般に,法律の規定が不明確であるか否かは,通常の判断能
力を有する一般人の理解において,具体的場合にその規定が適用
されて,そこで定める行為規制を受けるものかどうかの判断を可
能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによってこれを決
定すべきである。そして,特定危険指定処分の処分要件は,①暴
力行為要件と②おそれ要件とを満たす必要があるが,これらの処
分要件に関する規定は,その法文上具体的に定められているから,
通常の判断能力を有する一般人において,上記各要件を充足して
いるかどうかについて理解することは十分に可能である。「おそ
れ要件」についての処分行政庁の認定は,暴対法1条に定める目
的を踏まえ,必要かつ合理的な範囲で行われるべきものであって,
処分行政庁の恣意的運用を許すものではないし,特定危険指定処
分を行う場合は,意見の聴取を必要とするとして手続的保障規定
が設けられており(同法30条の8第4項,5条),公安委員会
が特定危険指定処分をするに当たって恣意的な運用を許すもので
はないから,原告の主張には理由がない。
②また,原告は,暴対法30条の8第1項の「警戒を要する区域」
の文言が不明確である旨主張するが,警戒区域は,おそれ要件を
充足する場合,すなわち,指定暴力団員等により一般市民の生命
身体に重大な危害が加えられるおそれがある場合にそのおそれの
ある区域として定めるものであり,かかる暴対法の目的や指定要
件との関係で必要的かつ合理的な範囲と認められる区域(具体的
には,当該区域について,暴力行為やその前提となる暴力的要求
行為等又は請求妨害行為を行った指定暴力団員及びその所属組織
の活動拠点や資金獲得活動等の状況,当該団体や組織が関与する
過去の同種事案の発生状況等に基づいて判断される。)が「警戒
区域」として定められるものであるから,警戒区域の指定に当た
って処分行政庁の恣意を許すものではない。また,警戒区域は特
定危険指定処分において定めるものであるから,上記①のとおり,
その定めをするに当たっては意見の聴取が必要的に行われること
になっており,この点においても,処分行政庁の恣意を許すもの
ではないから,原告の主張には理由がない。
(b)結社の自由侵害の主張について
特定危険指定処分は,暴力団としての活動一切を禁止したり,暴
力団という団体の解散を命令するものではなく,指定された暴力団
の構成員の行為のうち,一定の反社会的行為を禁止するにすぎない
から,結社の自由を直接制約するものではない。
また,特定危険指定処分を結社の自由に対する制約であると捉え
たとしても,憲法21条1項が保障する結社の自由は,あらゆる場
合に無制限に保障されるものではなく,公共の福祉による必要かつ
合理的な制限を受けることがあるのはいうまでもなく,このような
結社の自由に対する制約が必要かつ合理的なものとして是認される
かどうかは,制限が必要とされる程度と,制限される自由の性質及
び内容,これに加えられる具体的な制限の態様及び程度等を総合衡
量して決めるのが相当である(利益較量論)。そして,特定危険指
定処分による結社の自由に対する制約が必要かつ合理的なものかど
うかを見てみるに,まず,制限の必要性については,指定暴力団員
によるものと思われる一般市民の生命身体に対する重大な危害を及
ぼす危険な暴力行為が繰り返し発生していた状況において,一般市
民の生命身体を保護するため,特定危険指定処分により指定暴力団
に対してより強度の規制を行う必要が生じたというものである。ま
た,特定危険指定処分の効果は,①警戒区域において,暴対法9条
に定める暴力的要求行為又は同法30条の2の規定に違反する行為
を行った場合に当該指定暴力団の構成員は処罰される(同法46条
3号),②警戒区域において,暴力的要求行為を行う目的での面会
要求等を行うことが禁止され(同法30条の9),これに違反した
指定暴力団員に対しては中止命令等が発出される(同法30条の1
0),③警戒区域内における当該暴力団の事務所について一定の場
合に3月以内の期間を定めて使用制限命令を発出することができる
(同法30条の11)などというものである。これらの効果を結社
の自由に対する制限の関係で整理すると,①において禁止される指
定暴力団員の行為は,処罰に当たって中止命令を経ることが必要か
否かの差異はあるものの,特定危険指定処分の有無にかかわらず,
そもそも暴対法で禁止されている行為であるし,また,②において
禁止される指定暴力団員の行為は,特定危険指定処分に伴って禁止
される行為であるが,これに違反した場合,中止命令が発せられる
のであり,直ちに処罰されるわけではない上,③は特定危険指定処
分に伴う規制ではなく,同処分後に,特定危険指定暴力団等の事務
所を,同法30条の8第1項の暴力行為に関し,構成員の多数の集
合の用に供していたり,暴力行為のための謀議の用に供しているこ
となどを要件として行われる規制である。特定危険指定処分により
生ずる上記の規制は,その処分要件を充足すると認められる状況下
においては,警戒区域における一般市民の生命身体を保護するため
に必要なものであることは明らかというべきであり,また,規制の
態様及び程度は上記のとおりのものであり,これが一般市民の生命
身体を保護するという規制目的との関係で過度なものとは到底いえ
ず,合理的な規制の態様及び程度の範囲内のものである。したがっ
て,同法30条の8第1項の規定は憲法21条1項に違反するとは
いえない。
b暴対法30条の8第2項に関する主張について
本件処分は,暴対法30条の8第1項に基づく特定危険指定処分で
あり,同条2項の規定の違憲性は,本件処分の効力に何ら影響を及ぼ
すものではないから,原告の同項の違憲主張は,本件処分の適否に関
係しない暴対法の規定の違憲をいうものであり,主張自体失当である。
また,この点を措くとしても,下記(6)の被告の主張のとおり,原
告の暴対法30条の8第2項に関する憲法21条1項違反の主張,憲
法31条違反の主張には理由がない。
c暴対法30条の8第3項に関する主張について
本件処分は,特定危険指定処分として初めてされた処分であり,暴
対法30条の8第3項に基づく警戒区域の変更は何らされていないか
ら,同項の規定の違憲性は,本件処分の効力に何ら影響を及ぼすもの
ではなく,原告の同項の違憲主張は本件処分の適否に関係しない暴対
法の規定の違憲をいうものとして主張自体失当である。
暴対法30条の8第3項は,同条1項の特定危険指定処分を受けて
規定されているものであり,同条3項に規定する警戒区域変更の必要
性がある場合とは,同条1項に規定する警戒区域を定める場合におけ
るその区域に組み入れる範囲に係る判断と同様に解するものであるこ
とが明らかというべきである。そして,同項に規定する警戒区域を定
める場合におけるその区域に組み入れる範囲に係る判断が不明確なも
のでも恣意的になるものでもないことは,上記a(a)②のとおりである
から,同条3項は,警戒区域変更の必要性,すなわち変更する警戒区
域の範囲の判断をするについて,同条1項に定める警戒区域を定める
場合におけるその区域に組み入れる範囲の判断と同様に,処分行政庁
の恣意的判断を許すものではない。したがって,同条3項の警戒区域
の変更が公安委員会に恣意的判断をする権限を与えていることを前提
とする原告の上記違憲の主張は,その前提を欠く。
d暴対法30条の8第4項に関する主張について
暴対法5条2項は,同条1項の意見聴取を行う場合において,公安
委員会が,指定に係る暴力団を代表する者又はこれに代わるべき者に
対し,指定をしようとする理由等を相当の期間をおいて通知するなど
しなければならない旨定めているところ,この趣旨は,指定をしよう
とする理由等を相当の期間をおいて事前に通知することによって,3
条指定処分の適正を図る趣旨で設けられた意見聴取に向けて,同条各
号の要件該当性の有無について指定対象者に意見及び証拠提出の準備
をさせ,実質的に攻撃防御を行うことができるようにすることにある。
したがって,暴対法5条は,行政処分の相手方に十分な事前の告知,
弁解,防御の機会を与える規定であり,憲法31条に違反するもので
はないから,暴対法5条が憲法31条に違反するものであることを前
提として暴対法30条の8第4項が憲法31条に違反するとの原告の
主張は,その前提を欠く。
e暴対法30条の8第7項に関する主張について
原告の暴対法30条の8第7項の違憲主張は本件処分の適否に関係
しない法の規定の違憲をいうものとして主張自体失当である。
また,この点を措くとしても,暴対法30条の8第7項が予定して
いる事態が生じる場合には,新たに特定危険指定処分がされたものと
みなされるのではなく,既にされている有効な特定危険指定処分がそ
のまま効力を有することになるだけであるから,原告がいうように特
定危険指定処分の要件該当性の審査なく,特定危険指定暴力団等とし
て扱われるものではないのであり,原告の違憲の主張は,その前提を
欠く。
f暴対法30条の9及び30条の10に関する主張について
(a)暴対法30条の9及び30条の10の規定の明確性に関する主張
について
①原告は,暴対法30条の9の要件となる「目的」,「つきまと
い」,「うろつく」等の文言,同法30条の10第2項の「必要
な事項」の文言が不明確であるから,憲法31条に違反する旨主
張するが,同法30条の9柱書の「暴力的要求行為を行う目的」
については,その目的の内容となる「暴力的要求行為」の具体的
な内容が同法9条において法定されているのであるから,その目
的の有無についても,通常の判断能力を有する一般人の理解にお
いて合理的に判断できるものであり,不明確とはいえない。また,
暴対法30条の9は,一般市民の生命身体に対する重大な危害が
生じるおそれがあるという特定危険指定処分の処分要件を充足す
る状況下において同処分を受けた暴力団の構成員の一定の行為を
禁止するものであるところ,同条3号で使われている「つきまと
い」,「うろつく」は,ストーカー規制法,売春防止法(昭和3
1年法律第118号),軽犯罪法(昭和23年法律第39号),
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成
13年法律第31号)等において法律の文言として用いられてい
るものであって,一定の行為態様を表す用語であり,暴対法30
条の9柱書と併せて読めば,暴力的要求行為を行う目的で行うも
のに限定されたものとして,不明確なものということはできない。
また,同法30条の10第2項が規定する「必要な事項を命ずる」
とは,暴力団の構成員が行うおそれが認められる同法30条の9
各号の面会要求行為等とそれを防ぐという目的との関係で必要か
つ合理的な内容といえる事項が命じられるものであるから,内容
が明らかでないとはいえないし,特定危険指定処分を受けた暴力
団の構成員が同条各号に規定する行為に及ぶ方法は様々であって,
これを効果的に防ぐ方法もまた様々であることからすると,防止
方法をあらかじめ法律で画一的に定めておいたのでは,一般市民
の生命身体の保護という暴対法の目的を達成することは極めて困
難であるから,実際に暴力的要求行為を目的とする面会要求等の
行為が行われた状況に対応した措置を講じることができるような
立法をすることはやむを得ないというべきである。したがって,
暴対法30条の9及び30条の10の規定が不明確であるとはい
えず,憲法31条に違反するとはいえない。
②また,原告は,暴対法30条の9及び30条の10が憲法21
条1項に違反する旨主張するが,上記a(b)のとおり,結社の自由
に対する制約が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうか
は,制限が必要とされる程度と,制限される自由の性質及び内容,
これに加えられる具体的な制限の態様及び程度等を総合衡量して
決めるのが相当であるところ,暴対法30条の9及び30条の1
0は,特定危険指定処分に伴う措置であるところ,同処分がされ
る状況下(同法30条の8第1項参照)において,同処分の対象
となった暴力団の構成員が,同法30条の9に定める面会要求行
為等を行うことは,第三者の生命身体に重大な危害が生じるおそ
れが高く,そのような行為を禁止する必要性は高いことから,同
法30条の9及び30条の10の規定が設けられたものであり,
これらの規定が一般市民の生命等に重大な危害を加える暴力行為
を抑止するという立法目的との関係で合理的な関連性を有してい
ることは明らかである。そして,上記各規定による措置の効果と
しての上記行為の禁止の態様は,これに違反した場合,直ちに処
罰の対象とするのではなく,公安委員会による中止命令等の対象
にとどめ,同命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとする
事後的かつ段階的規制の手法を採っているのであり,これが一般
市民の生命身体を保護するという規制目的との関係で過度のもの
とは到底いえず,合理的な規制の態様及び程度の範囲内のもので
ある。したがって,暴対法30条の9及び30条の10の規定に
よる規制は憲法21条1項に違反するとはいえない。
(b)暴対法30条の9第1号に関する主張について
原告が主張する誰と面会し交流するかにつき公権力の介入を受け
ないという利益が憲法上保障される旨最高裁判決によって判示され
たわけではない。
この点を措くとしても,上記(a)のとおり,暴対法30条の9第
1号による暴力的要求行為を行う目的での面会要求の規制は,規制
の必要性が高い一方,このような面会を要求する行為自体,法的保
護に値するものとは言い難い上,その規制態様は,一般市民の生命
等に重大な危害を加える暴力行為を抑止するという規制目的との関
係で過度のものとは到底いえず,合理的な規制の態様及び程度の範
囲内のものであることからすれば,憲法13条及び21条1項に違
反するとはいえない。
(c)暴対法30条の9第2号に関する主張について
暴対法30条の9第2号による暴力的要求行為を行う目的での電
話をかけること等の規制は,規制の必要性が高い一方,このような
電話をかけること等は法的保護に値するものとは言い難い上,その
規制態様は,一般市民の生命等に重大な危害を加える暴力行為を抑
止するという規制目的との関係で過度のものとは到底いえず,合理
的な規制の態様及び程度の範囲内のものであることからすれば,原
告が主張するように「明白かつ現在の危険の原則」の判断基準が採
用されるべきものとはいえず,憲法21条1項に違反するともいえ
ない。
(d)暴対法30条の9第3号に関する主張について
暴対法30条の9第3号による暴力的要求行為を行う目的でのつ
きまとい等の規制は,規制の必要性が高い一方,このようなつきま
とい等は法的保護に値するものとは言い難い上,その規制態様は,
一般市民の生命等に重大な危害を加える暴力行為を抑止するという
規制目的との関係で過度のものとは到底いえず,合理的な規制の態
様及び程度の範囲内のものであることからすれば,原告が主張する
ように「明白かつ現在の危険の原則」の判断基準が採用されるべき
ものとはいえず,憲法13条に違反するともいえない。
g暴対法30条の11に関する主張について
(a)暴対法30条の11第1項及び2項に定める特定危険指定暴力団
等の事務所の使用制限,同条3項に定める標章の貼り付け義務は,
特定危険指定処分そのものによって生じるものではなく,同条1項
に基づく命令が別途公安委員会からされたことにより生じるもので
あり,同条2項の当該命令の期限の延長についても,同様であるか
ら,上記各項の規定の違憲性は,本件処分の効力に何ら影響を及ぼ
すものではなく,原告の暴対法30条の11の違憲主張は本件処分
の適否に関係しない同法の規定の違憲をいうものとして主張自体失
当である。
また,暴対法30条の11による規制の対象となるのは,特定危
険指定暴力団等の事務所に係る管理者又は当該事務所を現に使用し
ている指定暴力団員であって,原告自身ではないから,原告には同
条による規制の適法性を争う法律上の利益はなく,行訴法10条1
項により,原告の上記違憲の主張は,本件において主張することが
許されないものであり,失当である。
(b)上記(a)の点を措くとして,原告の暴対法30条の11に関する
憲法違反の主張を検討するに,原告は,暴対法30条の11が憲法
29条1項に違反する旨主張するところ,憲法29条1項で保障さ
れる財産権が公共の福祉による制約を受けるものであることは,同
条2項が明文で規定しており,財産権に対する規制が公共の福祉に
適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは,規制の
目的,必要性及び内容,当該規制によって制限される財産権の種類,
性質及び制限の程度等を比較衡量して判断すべきものであるとされ
ており,立法の規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかで
あるか,又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制
手段が目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠
けていることが明らかであって,そのため立法府の判断が合理的裁
量の範囲を超えるものとなる場合に限り,当該規制立法が憲法29
条2項に違背するものとして,その効力を否定されるものと解され
る。そして,暴対法30条の11第1項及び2項は,特定危険指定
暴力団等の指定暴力団員等が,暴力的要求行為を拒絶した相手方等
に対して危険な暴力行為を反復して行うおそれがある場合において,
特定危険指定暴力団等の指定暴力団員等が更なる暴力行為を行うこ
とを抑止し,人の生命及び身体を保護するための規制であり,この
目的は公共の福祉に合致するものといえ,他方,この規制は,上記
のような危険な暴力行為が反復して行われるおそれがある場合にお
いて,警戒区域内に在る事務所が,当該暴力行為の謀議等の用に供
され,又はそのおそれがあると認める場合に限り,当該事務所の使
用を制限するものであること,当該事務所の使用を一切禁止するも
のではなく,特定危険指定暴力団等の活動の用等に供することを禁
止するにすぎないこと,制限の期間も,延長の可能性はあるものの,
3月以内に限られていることなど,規制目的を達成するための手段
として過剰なものではなく,その必要性及び合理性が優に認められ
るものである。したがって,暴対法30条の11第1項及び2項に
規定する事務所の使用制限という財産権に対して加えられる規制は,
憲法29条2項の公共の福祉に適合するものとして是認されるべき
ものであり,同条に違反するとはいえない。
(c)また,原告は,暴対法30条の11が憲法21条1項の結社の自
由を侵害する旨主張するが,結社の自由に対する制約が必要かつ合
理的なものとして是認されるかどうかは,制限が必要とされる程度
と,制限される自由の性質及び内容,これに加えられる具体的な制
限の態様及び程度等を総合衡量して決めるのが相当であるところ,
上記(b)の規制の必要性,態様等に照らせば,暴対法30条の11
第1項及び2項に規定する事務所の使用制限は,集会の自由に対す
る必要最小限度の規制であり,公共の福祉による必要かつ合理的な
制限であるといえるものであるから,憲法21条1項に違反するも
のではない。
(d)さらに,原告は,暴対法30条の11第2項の「必要があるとき」
という要件が不明確であることを理由に憲法31条違反をいうもの
とも解されるが,この「必要があると認めるとき」とは,暴対法3
0条の11第1項の規定による命令をした場合においてその命令の
有効期間が経過した後も更にその命令の必要があると認められると
きということであることはその文言から明らかであって,同項に定
める使用制限の要件を満たすことが認められることを意味するもの
であり,その要件の充足性は,通常の判断能力を有する一般人の理
解において合理的に判断できるものであるから,不明確であるとは
いえない。したがって,暴対法30条の11第2項に定める要件が
不明確であることを前提とする原告の上記違憲の主張は,その前提
を欠く。
(e)原告は,暴対法30条の11第3項が,標章を貼り付ける旨規定
している点が不利益処分を受けていることの表示の強制であり,不
利益供述の強要であることから,憲法38条に違反する旨主張する
が,標章を貼り付けるのは公安委員会であり,この標章の貼り付け
行為が憲法38条1項にいう自己に不利益な供述の強要と解する余
地はなく,他に当該強要と評価し得る事情はないから,原告の上記
違憲の主張は理由がない。
(エ)その他罰則等の暴対法の各条項の違憲主張(原告の主張ア(エ))に
ついて
a暴対法33条及び49条の違憲主張について
(a)暴対法33条は,特定危険指定処分の手続上及び実体上の要件を
定める規定ではなく,同処分に係る法律関係とは別個のものである
し,同法49条の処罰規定は,本件処分である特定危険指定処分に
関する罰則を定めるものではないから,上記各条項の規定の違憲性
は,本件処分の効力に何ら影響を及ぼすものではないのであり,原
告の上記各条項の違憲主張は本件処分の適否に関係しない暴対法の
規定の違憲をいうものとして主張自体失当である。
また,暴対法49条の規定による罰則の対象となるのは,原告の
構成員であって,原告自身ではないから,原告には同条による罰則
の適法性を争う法律上の利益はないのであり,行訴法10条1項に
より原告の上記違憲の主張は,本件において主張することが許され
ないものであり,失当である。
(b)上記(a)の点を措くとして,原告の憲法違反の主張について検討
するに,暴対法33条は,公安委員会が立入検査等を行うことがで
きる場合の要件を,「この法律の施行に必要があると認めるとき」,
「この法律の施行に必要な限度において」と明確に規定した上で,
その具体的な定めを国家公安委員会規則に委任しているものであり,
個別的・具体的な委任であることから,憲法41条及び73条6号
に違反しない。
また,暴対法33条に基づく立入検査は,相手方の意思に反して
物理的実力をもって行い得るものではないのであって,その拒否等
を罰則の対象とすることにより,間接的にその実効性を担保してい
るにすぎないのであるから,憲法35条に違反するとの原告の主張
は,その前提を欠くものであって失当である。
(c)また,原告は,暴対法49条が憲法38条に違反する旨主張する
が,憲法38条による供述拒否権の保障は,純然たる刑事手続にお
いてばかりでなく,それ以外の手続においても,対象となる者が自
己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を求め
ることになるものであって,実質上刑事責任追及のための資料の収
集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には及ぶものと解され
るが,暴対法33条1項による質問は,他の一般的な行政目的によ
る質問の権限と同様に,犯罪捜査のために認められたものではなく,
同法の施行に必要があると認めるときに,同法の施行に必要な限度
において実施することができるものであり,それ以上に刑事責任を
問われるおそれのある事項についてまで報告を求めるものではない
し,刑事責任追及のための資料収集に直接結びつく作用を一般的に
有するものでもないから,暴対法33条1項の規定に違反した者を
処罰することを規定した同法49条は,憲法38条1項に違反する
ものとはいえない。
b中止命令等に係る罰則規定の違憲主張について
(a)原告が指摘する「命令に違反」を構成要件とする罰則は,暴対法
46条1号,47条各号,48条,50条1号に規定されているが,
これらの処罰規定は,特定危険指定処分に関する罰則を定めるもの
ではないもの,又は特定危険指定処分そのものによってその適用が
可能となるものではなく,別途の命令が公安委員会からされたこと
によりその適用が可能となるものであり,これらの規定の違憲性は,
本件処分の効力に何ら影響を及ぼすものではないから,これらの規
定が憲法に違反するとの原告の主張は,主張自体失当である。
また,暴対法第8章の規定による罰則の対象となるのは,原告の
構成員等であって,原告自身ではないから,原告には同法の罰則規
定の適法性を争う法律上の利益はなく,行訴法10条1項により,
原告の上記違憲の主張は,本件において主張することが許されない
ものであり,失当である。
(b)上記(a)の点を措くとして,原告の違憲主張について検討するに,
原告が指摘する暴対法の各罰則規定は,禁止される行為の内容を政
令等の下位法令において定めることとしているものはないから,委
任立法の限界を超えるとして憲法41条及び73条6号ただし書に
違反する余地はなく,原告の主張は失当である。
さらに,この点を措くとしても,暴対法は,公安委員会が行い得
る命令の内容を明確に規定しており,犯罪構成要件は法律上明確に
定められていることから,原告が指摘する憲法の各条項との抵触が
問題となる余地はない。
c暴対法46条3号の違憲主張について
(a)原告は,暴対法46条3号が罪刑の均衡を失していること等を理
由として憲法31条に違反し違憲である旨主張するが,刑罰法規が
罪刑の均衡を失していることなどを理由として違憲となるかどうか
については,刑罰規定が罪刑の均衡その他種々の観点からして著し
く不合理なものであって,到底許容し難いものであるときは,違憲
の判断を受けなければならないとされているところ,特定危険指定
処分がされる危険な状況下において,危険な暴力行為の原因となる
おそれがある請求妨害行為を抑止するため,これを刑罰の威嚇力に
よって禁止することについては,その必要性が認められる一方,請
求妨害行為が罰則をもって禁止されるのは当該行為が警戒区域にお
いて行われた場合等に限られており,当該行為が禁止される期間も
法定され,また,特定危険指定暴力団等の指定を受けた指定暴力団
等が,その構成員が危険な暴力行為を行うおそれを消滅させれば,
当該指定は取り消され(暴対法30条の12),請求妨害行為が罰
則をもって禁止されることもなくなることとされている。このよう
な規制の必要性,規制される行為の内容,規制の態様等に照らせば,
暴対法46条3号が合理性を欠くとはいえないから,憲法31条に
違反するものではない。
(b)また,原告は,暴対法46条3号が憲法14条1項に違反する旨
主張するが,特定危険指定暴力団等として指定されることは,人が
社会において占める継続的な地位であるとはいえないことから社会
的身分には当たらず,そもそも憲法14条1項違反が問題となる余
地はないのであるから,原告の主張は失当である。この点を措くと
しても,区別が合理性を有する限り,憲法14条1項に反するもの
ではないが,特定危険指定処分の暴力行為要件及びおそれ要件を充
足して特定危険指定処分を受けた指定暴力団等の構成員が,他の指
定暴力団等の構成員とは異なる規制を受けることとなったとしても,
それは合理的な理由に基づいて法的取扱いが区別されるに至ったも
のであり,合理的な理由のない差別的取扱いではないから,憲法1
4条1項に違反するものではない。
イ本件処分の違憲主張(原告の主張イ)について
(ア)憲法14条違反の主張について
特定危険指定処分をされたことは社会的身分には当たらず,憲法14
条1項との関係が問題となる余地はないことから,原告の主張は失当で
あるし,この点を措くとしても,暴対法30条の8第1項の要件を満た
す指定暴力団等に対して特定危険指定処分がされた結果として,当該指
定暴力団等の構成員が他の指定暴力団等の構成員とは異なる規制を受け
ることとなったとしても,それは合理的な理由に基づいて法的取扱いが
区別されるに至ったものであり,合理的な理由のない差別的取扱いでは
ないから,憲法14条1項に反するものではない。
(イ)憲法21条1項,13条違反の主張について
原告の主張は特定危険指定処分が基本的人権の制約であることないし
特定危険指定暴力団等の構成員が受けることとなる規制が基本的人権を
制約するものであることを理由に,本件処分が違憲である旨を述べてい
るものと解されるが,上記アの被告の主張のとおり,特定危険指定処分
の制度は,憲法13条や21条に違反するものではないから,原告の主
張は失当である。
(5)本件処分の適法性(本案の争点3)
(被告の主張)
ア処分要件該当性
(ア)指定暴力団であること
原告は,平成4年6月26日から団体としての同一性を維持しつつ暴
対法3条に基づく指定暴力団としての指定を受けている。原告は,これ
らの3条指定処分が違法である旨主張するが,原告に対する直近の3条
指定処分は,平成25年6月20日に官報公示され,同月26日からそ
の効力が生じており,既に出訴期間が経過しているから(行訴法14条
1項),同指定処分は,原則として有効に確定し,原告はこれを争うこ
とはできず,3条指定処分の違法は,本件処分の違法を構成しないので
あり,暴対法3条に基づく指定の違法性に関する主張は全て失当である。
(イ)暴力行為要件を満たすこと
以下のaないしgの各事案は,いずれも暴対法30条の8第1項の暴力
行為要件に該当する暴力行為であることは明らかである。
a第1事案
原告の幹部構成員であるDは,原告の構成員による利用を拒絶して
おり,かつ,上記Dが原告の幹部構成員であることを知っていたゴル
フ場の幹部職員に対し,「じゃあ,わしらはゴルフはできないとか。」
などと言って原告の構成員による同ゴルフ場の利用を要求したが,こ
れを拒絶されたことから,これに対する報復等のため,原告の構成員
であるE及びFらが,共謀の上,平成12年10月22日,福岡県京
都郡a町内の同ゴルフ場の支配人方において,支配人に対し,殺意を
もって,短刀様の刃物でその胸部を突き刺したが,支配人を死亡させ
るに至らなかった(以下,この事案を「第1事案」という。)。
第1事案は,原告の構成員である上記Dが,不特定の者が利用する
施設であって,暴力団の示威行事の用に供されるおそれが大きいもの
として暴対法施行規則で定められている施設(同規則13条)である
ゴルフ場の幹部職員(管理者)であり,上記Dが原告の幹部構成員で
あることを知っている者に対して同ゴルフ場の利用を要求した行為は,
指定暴力団たる原告の威力を示して同ゴルフ場を利用させることを要
求する行為として,暴対法9条18号の暴力的要求行為に該当すると
ころ,かかる上記Dの行為に対して,上記ゴルフ場の幹部職員が,同
ゴルフ場の利用を拒絶したこと(同法30条の8第1項1号)に関連
して,原告の構成員であったE及びFらが同ゴルフ場の支配人に対し,
凶器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を加える方法による暴
力行為を行ったのであるから,第1事案の事実が暴対法30条の8第
1項における暴力行為要件に該当することは明らかである。
b第2事案
組合の代表者が,競売により同組合が所有権を取得したビルを原告
らの下部組織である工藤會大東亜組が利用していたことから,弁護士
に法的手続を依頼し,平成12年12月20日,所有権に基づき,大
東亜組に対して同ビルからの退去を求めていたところ,原告の構成員
であるGは,平成13年2月18日,北九州市b区内において,所有
するビルからの原告の事務所の撤去を請求した同組合に対し,その報
復のため,同組合の理事長が管理する店舗に普通乗用自動車を突入さ
せた(以下,この事案を「第2事案」といい,上記行為を第2事案の
記述において「突入行為」という。)。
第2事案は,暴対法30条の2第2号に定める請求を行った請求者
(同条本文)である組合の代表者に対して,退去請求し,立ち退かせ
たことへの報復を目的として,上記Gが「請求者に不安を覚えさせる
ような方法」で同代表者の請求を「妨害」するものということができ,
「当該指定暴力団等の指定暴力団員がした第30条の2の規定に違反
する行為」に該当する(同法30条の8第1項2号)。そして,突入
行為は,同法30条の2第2号の規定に違反する妨害行為そのものと
して敢行されたものであり,その関連性についても明らかであるから,
突入行為は,指定暴力団員が当該行為に関連して凶器を使用して人の
生命又は身体に重大な危害を加える方法による暴力行為を行ったもの
として,第2事案の事実が暴対法30条の8第1項における暴力行為
要件に該当することは明らかである。
c第3事案
原告の構成員であるHは,北九州市c区内のビルにおいて,同ビル
のオーナーと賃貸借契約を締結した上でエステ店を営んでいる被害者
に対し,「工藤會の方針だから中国人は出てくれ。」などと言って同
ビルからの立ち退きを要求したが,被害者がそれに応じることなく同
店の営業を続けたことから,これに対する嫌がらせ等のため,平成1
4年9月18日,他者と共謀の上,同店が入居する同ビル内に設置さ
れているエレベーター内の床にガソリンを散布の上,所携のライター
で点火した紙片を燃え移らせ,現に従業員のいる建造物を焼損した(以
下,この事案を「第3事案」といい,第3事案の記述において上記行
為を「放火行為」という。)。
上記Hの立ち退き要求行為は,正当な権原に基づいて建物又はその
敷地を事業の用に供している者に対して,原告の威力を示して,被害
者の意思に反して明渡しを要求する行為であり,暴対法9条13号に
規定する暴力的要求行為に該当するところ,被害者が立ち退き要求を
拒絶したこと(同法30条の8第1項1号)に関連して,原告の構成
員であるHが他の者と共謀の上,ガソリン等の凶器を使用して人の生
命又は身体に重大な危害を加える方法による暴力行為(放火行為)を
行ったのであるから,第3事案の事実が暴対法30条の8第1項にお
ける暴力行為要件に該当することは明らかである。
d第4事案
福岡市d区内に新規ぱちんこ店の営業を開始した被害会社が,原告
の構成員から新規開店の挨拶に来るよう要求されたにもかかわらず,
開店時に当該地域を縄張とする原告(工藤會石田組)に挨拶に行かな
かったことから,原告の構成員であるIが,その報復等のため,平成
15年5月1日,普通貨物自動車を運転し,同ぱちんこ店の建物壁面
ガラスに向けて同車を後退させ,荷台の後部パワーゲートを水平にし
た同車後部を約6回にわたり建物壁面ガラス等に衝突させた上,同車
を同建物内に突入させた。
その後,上記突入行為にもかかわらず,上記被害会社が原告の構成
員によるみかじめ料名下の金銭を支払わなかったことから,同年7月
12日及び同月17日,大阪市内等において,氏名不詳者が,上記被
害会社の代表取締役に対し,「工藤會は人を殺す。」,「店舗の天井
にけん銃を撃ち込む用意,準備が正に今出来ているらしい。」,「(新
規ぱちんこ店の台数が)1000台あると言っている。」,「100
0台あれば2億円が必要だ。」,「今返事をして下さいよ。」,「工
藤會はまさに第二段の攻撃をすると言うてます。」,「工藤會は何を
するか判らないですよ。」などと申し向けてみかじめ料を要求したも
のの,被害会社は工藤會にみかじめ料を支払わなかった。
原告の構成員であるJ,K,L及びMらは,上記みかじめ料の支払
に応じなかったことに対する報復のため,同年7月29日,共謀の上,
大阪府東大阪市内の上記被害会社が経営するぱちんこ店内において,
拳銃を発射し,さらに,原告の構成員であるNが,福岡市d区内の同
被害会社が経営するぱちんこ店内において,威迫のために拳銃を発射
した(以下,この事案を「第4事案」という。)。
上記の原告の構成員によるみかじめ料の要求は,いずれも,原告の
威力を示してみだりに金品等の贈与を要求したものとして,暴対法9
条2号の暴力的要求行為に該当するものであり,その相手方が拒絶し
たもの(同法30条の8第1項1号)であるところ,原告の構成員が,
従業員の存在する上記被害会社が経営するぱちんこ店の壁面ガラス等
に車両後部を約6回にわたり衝突させ,同車を同建物内に突入させた
行為,同被害会社が経営する大勢の来客が遊技中のぱちんこ店内にお
いて天井に向けてけん銃を発射した行為は,いずれも上記の暴力的要
求行為に関連して,凶器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を
加える方法による暴力行為に該当するから,第4事案の事実が暴対法
30条の8第1項における暴力行為要件に該当することは明らかであ
る。
e第5事案
原告の構成員であるOは,平成16年12月22日,北九州市b区
内にあるホテルの土地・建物の不動産競売に関し,原告の意に反して
同不動産を競落した会社の実質的経営者であり,上記Oが原告の構成
員であることを知っていた者に対し,「あんまり動かない方がいい」,
「それに関与すると大変なことになります」,「上の方から言われて
おります」などと申し向けて脅迫し,同ホテルの経営から撤退するこ
とを要求したが,同経営者がこれに応じないことから,報復のため,
原告の構成員であるP及び同Qらが,共謀の上,平成17年8月29
日,同市c区内において,殺意をもって,同経営者に対し,同人が通
勤に使用し,その時は同人の運転手が一人で運転していた普通乗用自
動車内の同運転手を目掛け,続いて同車から降車して後方に逃走した
同運転手を目掛け,それぞれ拳銃を発射した(以下,この事案を「第
5事案」という。)。
上記経営者が実質的に経営する会社が上記不動産を競落により取得
したものであるから,同経営者は,暴対法9条13号の「正当な権原
に基づいて建物又はその敷地を事業の用に供している者」に該当する
ところ,上記Oによる上記各発言には,土地,建物の明渡しを直接的
に要求する文言は含まれていないが,上記各発言を合理的に解釈すれ
ば,上記Oが被害者に対して本件ホテルの土地,建物を不動産競売に
より取得することを断念するよう要求したことは明らかであることか
ら,上記各発言は,原告の威力を示して,被害者の意思に反して上記
ホテルの土地,建物の明渡しを要求することと同視することができ,
上記Oの上記行為は,原告の暴対法9条13号の暴力的要求行為に該
当する。そして,上記暴力的要求行為について,その相手方が拒絶し
たもの(同法30条の8第1項1号)であるところ,上記P及びQが
暴力的要求行為に関連して凶器である拳銃を使用して人の生命又は身
体に重大な危害を加える方法による暴力行為を行ったのであるから,
第5事案の事実が暴対法30条の8第1項における暴力行為要件に該
当することは明らかである。
f第6事案
原告の構成員であるRらは,北九州市e区内の土地を購入してぱち
んこ店の出店を計画していた会社(以下,この事案の記述において「被
害会社」という。)の代表取締役に対し,平成19年9月20日,ぱ
ちんこ店の新規開店に伴うみかじめ料名下に「この土地には工藤會が
絡んでおり,工藤會はぱちんこ台1台当たり10万円出すように言っ
ている」,「ぱちんこ台1台当たり10万円を出すことを承諾されな
いと大変なことになりますよ」,「工藤會は一銭もまからんと言って
いる」などと申し向け,同年10月12日,「あの店をやるんだった
ら,組への支払はどう考えているんですか。組への支払をされないと
大変なことになりますよ」,「息子さんが大変なことになると言って
いるんですよ。それでも良いのですか。社長をやっても金にならない。
息子をやられたくなかったら金を出せと言っているんですよ」,「私
への仲介料を足して,工藤會に支払うものを支払われたらどうですか」
などと申し向けて脅迫し金銭の支払を要求したが(以下「恐喝行為1」
という。),被害会社がぱちんこ店の建設を断念して上記要求に応じ
なかった。その後,被害会社が再度ぱちんこ店を建設し始めたことか
ら,Rらは,平成21年9月30日,被害会社の代表者に対し,「工
藤會から呼ばれて,『工事が始まっているではないか,どうなってい
るんだ,お前たちも知っていたんだろう』と言われた。『即刻工事を
中止させろ』と言われているが,どうされるんですか」,「工藤會か
ら台当たり10万円はどうなっているのかと聞かれている」などと申
し向けて脅迫し,再度みかじめ料名下に金銭の支払を要求したが(以
下「恐喝行為2」という。),同被害会社がこれに応じなかった。こ
のように,被害会社が2度にわたるみかじめ料の要求を受けたにもか
かわらず,その支払に応じなかったことから,Rは,その報復及び嫌
がらせの目的で,同年11月14日,原告の構成員及び原告の親交者
と共謀の上,山口県防府市内の被害会社が経営するぱちんこ店(2階
には従業員の居室を有する。)の1階床面にガソリンを流出させた上,
ガソリンを染み込ませた布片をライターで点火して投棄して火を放っ
た(以下,この事案を「第6事案」といい,第6事案の記述において
「放火行為」という。)。
Rらの恐喝行為1及び恐喝行為2は,原告の威力を示してみだりに
金品等の贈与を要求するものであり,暴対法9条2号の暴力的要求行
為に該当するものであるところ,被害会社が上記Rらの要求を拒絶し
た(同法30条の8第1項1号)ところ,Rらは,原告に対するみか
じめ料の支払に応じなかったことに対する報復・いやがらせのために
放火行為を行ったのであり,暴力要求行為に関連して,ガソリン等の
凶器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を加える方法による暴
力行為を行ったものであるから,第6事案の事実が暴対法30条の8
第1項における暴力行為要件に該当することは明らかである。
g第7事案
原告の構成員であるSは,同人らとともに貸金業を営むための出資
を断った者に対し,平成22年2月末頃,「今更,そんなこと出来る
わけないやろうが」,「俺は兄弟に何て説明すればいいとか」,「ケ
ジメ取ってもらうぞ」,「もしかしたら,お前を殺すことになるかも
しれんぞ」などと語気鋭く申し向けて金銭の支払を要求したが,被害
者がその支払に応じなかったことから,原告の構成員であるT及びS
は,共謀の上,被害者を畏怖させて当該要求に応じさせるため,同年
8月18日頃から同年9月27日頃までの間,被害者に対し,「お前,
北九のヤクザおちょくっとったら殺すぞ」,「750万はちゃんと払
ってもらう」,「金払うか殺されるかは自分で選べ」,「750万の
借用書を書け」などと語気鋭く申し向けて脅迫するなどし,被害者か
ら合計41万円を喝取した。同年8月30日頃の脅迫の際には,Sは,
福岡市f区内において,被害者の頸部にアイスピック様の物を突き付
けるなどの暴行も行った(以下,この事案を「第7事案」といい,上
記行為を第7事案の記述において「恐喝行為」という。)。
Sは,同人及びTが原告の構成員であることを認識している被害者
に対して原告の威力を示して金銭の支払を要求したものであり暴対法
9条2号の暴力的要求行為に該当するものであるが,被害者は金銭の
支払に応じず,暴力的要求行為を拒絶した(同法30条の8第1項1
号)ものであるところ,S及びTは,上記行為に関連して同様の名目
で更に要求行為を繰り返し,アイスピック様の物という凶器を使用し,
人の生命又は身体に重大な危害を加える方法による暴力行為(恐喝行
為)を行ったのであるから,第7事案の事実が暴対法30条の8第1
項における暴力行為要件に該当することは明らかである。
(ウ)おそれ要件
下記のa及びbの事情に照らせば,原告について,暴力行為要件に該当
する暴力行為(以下「要件該当暴力行為」という。)を行うおそれがある
ことは明らかであるし,このことに疑いがないことは下記cの事情に鑑
みても明らかである。
a要件該当暴力行為の敢行
おそれ要件とは,暴力行為要件に該当する行為が繰り返されるおそ
れないし可能性をいうものであり,要件該当暴力行為が反復して敢行
されている場合には更なる要件該当暴力行為の発生が強く推認される
ことから,要件該当暴力行為を行うおそれがあることを示すものであ
るところ,上記(イ)のとおり,原告の構成員等によって行われた要件該
当暴力行為が検挙されているものだけでも少なくとも7事案あり,こ
れらは反復して敢行されたものであるから,原告について要件該当暴
力行為を行うおそれが強く推認されるというべきである。
b暴力的要求行為等及び請求妨害行為の敢行
指定暴力団である原告の構成員による要件該当暴力行為が発生した
場合において,当該構成員以外の構成員が原告の縄張において暴力的
要求行為を再び行ったり,又は市民の損害賠償請求等を妨害する行為
を行ったりしているような状況は,原告の構成員が,今後もこれらの
暴力的要求行為等又は請求妨害行為を敢行し,これに関連して要件該
当暴力行為を行う可能性があることを示すものといえるものであると
ころ,本件処分の指定通知書(甲1)に例示列挙した下記(a)から(c)
の暴力的要求行為を含め,対象期間内に,原告の構成員により,少な
くとも合計108件(年間平均8件)の暴力的要求行為等及び3件の
請求妨害行為が反復して敢行されている。なお,このうち,最近敢行
された要件該当暴力行為である平成21年11月に発生した第6事案
の事件以降においても30件,平成22年8月に発生した第7事案の
事件以降においても24件,暴力的要求行為等が敢行されている。
(a)原告の構成員であるUは,平成21年5月11日,山口市内にお
いて,同人が原告の構成員であることを知っている被害者に対し,
失業保険の手続に関する紹介料名下に,「今日のことは人まで使う
ちゃったんぞ。誠意を見せえ。紹介料を出せ。わしはお前のために
動いちょるんぞ。来月から失業保険が入ったら半分よこせ。」など
と申し向け,原告の威力を示して,みだりに金員の支払を要求した。
(b)原告の構成員であるVは,平成22年10月下旬頃,福岡県行橋
市内において,同人が原告の構成員であることを知り,かつ,同人
から金銭を借り入れている被害者に対し,既に利息制限法の制限を
超える元利金の支払を受けているにもかかわらず,更に利息等の支
払を請求していたところ,被害者から債務の履行の猶予を求められ
るや,「何で返済せんのか。俺はヤクザやけん,そんなんじゃ話は
通らん。俺等は,これで飯食っていきよるんぞ。」などと申し向け,
原告の威力を示して,みだりに金員の支払を要求した。
(c)原告の構成員であるWは,平成24年5月29日,福岡県遠賀郡
g町内において,同人が原告の構成員であることを知っている建築
リフォーム業者に対し,損害賠償名下に,「どがんして払うか。5
0万円を一括して払わんか。どがんするとや。」などと申し向け,
念書を書かせるなどして,原告の威力を示して,みだりに金員の支
払を要求した。
cその他の事情
①原告の構成員等によって行われた暴力的要求行為等に関連した暴
力行為その他の報復,要求貫徹等を目的とした暴力行為(以下「報復
等目的の暴力行為」という。)は,検挙されているものだけで少なく
とも32件(要件該当暴力行為9件を含む。)あり,これらは反復し
て敢行されたものであるし,この32件のうち,27件(84%)は
凶器が使用されたものであり,21件(66%)は人の生命等に重大
な危害を加える方法が執られたものである上,原告の構成員が敢行し
た銃器,手りゅう弾その他高度の殺傷能力のある凶器等の所持又は使
用に係る事件は,検挙されているものだけで少なくとも29件に達し
ていて,ほぼ毎年認知されているという暴力行為における凶器の使用
実態があること,また,②本件処分直前の時点における原告の代表者
等14名のうち,上記(イ)の7事案(9件)の要件該当暴力行為の際に
原告の代表者等であった者は約78%に達し,また,敢行された報復
等目的の暴力行為32件(うち要件該当暴力行為9件)に関与し,本
件処分直前の時点において生存している構成員38名のうち,当該暴
力行為直後の指定暴力団としての指定時にも引き続き原告の構成員で
あったものは37名(97%)に達し,そのうち32名(84%)は,
本件処分直前の時点においても引き続き構成員であることが判明して
いることは,原告の要件該当暴力行為を行う危険性を徴表しているも
のといえるものであり,原告に認められるこれらの諸事実を含む事情
等に鑑みれば,原告には要件該当暴力行為を行うおそれが認められる
というべきである。
(エ)指定期間
原告については,①要件該当暴力行為や暴力的要求行為等が長期にわ
たって敢行されている実態,②要件該当暴力行為が敢行された際に代表
者等であった者が平成24年11月15日時点の代表者等の多数を占め
ている実態及び③要件該当暴力行為その他の報復等目的の暴力行為に関
与した構成員が引き続き構成員である実態があるところ,上記記載の各
事情に照らし,これらが1年未満で解消される見込みがあるとは到底認
められないことから,指定期間を1年間とすることが必要である。
(オ)警戒区域について
本件各区域については,原告の事務所の所在地,要件該当暴力行為,
暴力的要求行為等の発生場所等を考慮して,要件該当暴力行為により人
の生命等に重大な危害が加えられることを防止するため特に警戒を要す
る区域であると認められる。
なお,原告は,事務所所在地,構成員の住所地等を裏付ける書証とし
て被告が提出する福岡県内の原告事務所等の設置場所の一覧表である乙
33の1,原告構成員の居宅の一覧表である乙33の2について,黒塗
りされている等と主張するが,被告は,上記各書証について,事務所名
や所在地の詳細,原告構成員の具体的氏名を黒塗りしているものの,事
務所が所在している詳細な番地を明らかにすることや,各市町村に居住
しているのがどの構成員であるのかを明らかにすることは,警察による
情報収集活動の状況を原告に知らしめる結果となるおそれがあり,警察
が把握している事務所の名称やその所在地を具体的に明らかにした場合,
当該暴力団としては,当該事務所から暴力団としての活動に関する資料
を全て搬出した上で,暴力団事務所としての最低限の外観のみを整え,
当該場所が当該暴力団の実質的な拠点であると見せかけた上で,実際に
は,他の場所に真の活動拠点を設けて暴力団としての活動を行うといっ
た規制逃れの措置を講ずるおそれがあるほか,警察が事務所として把握
していない場所が当該暴力団に対して明らかになり,対立抗争に伴う暴
力行為や一般人に対する襲撃事件等に関する謀議や凶器隠匿を行う場所
を選定するための一つの判断材料を与えることにもなりかねない。さら
に,警察が把握している暴力団の構成員の氏名や住所を暴力団に明らか
にした場合,当該暴力団としては,当該構成員の破門状を発出して破門
を偽装するなどして,当該構成員が当該暴力団から離脱したかのような
外観を作出した上で,実質的には引き続きその構成員を当該暴力団の活
動に従事させることにより,暴対法に基づく規制から逃れようとするこ
とが予想されるし,警察が暴力団の構成員として把握していない者を当
該暴力団に示す結果となり,当該暴力団に対し,対立抗争に伴う暴力行
為や一般人に対する襲撃事件等を実行させる者の選定についての判断材
料を与えることにもなりかねない。このような事情に加え,原告の構成
員及びその家族等へのプライバシー保護の必要性もあることから,これ
を証拠として提出することは相当ではない。警戒区域の設定に当たって
は,暴力行為やその前提となる暴力的要求行為等又は請求妨害行為を行
った指定暴力団員及びその所属組織の活動拠点や資金獲得活動の状況,
当該団体や組織が関与する過去の同種事案の発生状況等を総合的に考慮
するものであるところ,乙33の1及び2の記載部分のみで,それぞれ
の市町村に原告の事務所が所在していることや,原告の構成員が居住し
ていることは明らかであるから,各市町村が警戒区域に該当することの
立証としては十分であり,黒塗り部分を証拠として提出する必要はない。
a北九州市
①本件処分の直前の時点において,原告は,北九州市内において本
部事務所を含む34か所の事務所を設置しているほか,原告の構成員
325名が同市内に居住するなどしていること,②平成12年以降に
発生した暴力的要求行為等に係る中止命令及び再発防止命令(以下「中
止命令等」という。)のうち,当該要求行為が北九州市で行われるな
ど同市に関係する中止命令等が34件発出されていること,③平成1
2年以降に検挙された暴力的要求行為に該当する恐喝事件等のうち,
当該暴力的要求行為等の発生場所が北九州市であるものが14件ある
こと,④平成12年以降に第2事案を含む3件の請求妨害行為が北九
州市で発生していること,⑤平成12年以降に敢行された報復等目的
の暴力行為の検挙事案のうち要件該当暴力行為3件を含む18件が北
九州市内で発生していること,⑥原告は,何ら正当な権限がないにも
かかわらず,北九州市について「縄張」すなわち原告の権益の対象範
囲であると主張していること,⑦福岡県警察と自治体との協定に基づ
き,平成22年以降に原告と密接な関係を有するとして福岡県警察か
ら自治体に通報され公表された企業のうち17社が北九州市に所在し
ていること,⑧平成12年以降北九州市において原告の構成員が拳銃
7丁を適合する実包79発と共に保管し所持していたことがあり,人
の生命又は身体に重大な危害が加えられる高度の危険性が認められる
ことに照らせば,要件該当暴力行為により人の生命等に重大な危害が
加えられることを防止するため特に警戒を要する区域であると認めら
れる。
b福岡市
①本件処分直前の時点で,原告は,福岡市内に4か所の事務所を設
置しているほか,原告の構成員47名が同市内に居住するなどしてい
ること,②平成12年以降に発生した暴力的要求行為等に係る中止命
令等のうち当該要求行為が福岡市で行われるなど同市に関係する中止
命令等が4件発出されていること,③平成12年以降に敢行され検挙
された暴力的要求行為に該当する恐喝事件等のうち,当該暴力的要求
行為等の発生場所が福岡市であるものが1件あること,④平成12年
以降に敢行された報復等目的の暴力行為の検挙事案のうち,要件該当
暴力行為3件(第4事案,第7事案)を含む4件が福岡市内で発生し
ていることに照らせば,要件該当暴力行為により人の生命等に重大な
危害が加えられることを防止するため特に警戒を要する区域であると
認められる。
c行橋市
①本件処分直前の時点で,原告は,行橋市内に1か所の事務所を設
置しているほか,原告の構成員19名が同市内に居住するなどしてい
ること,②平成12年以降に発生した暴力的要求行為等に係る中止命
令等のうち,当該要求行為が行橋市で行われるなど同市に関係する中
止命令等が3件発出されていること,③平成12年以降に敢行され検
挙された暴力的要求行為に該当する恐喝事件等のうち,当該暴力的要
求行為等の発生場所が行橋市であるものが1件あること,④平成12
年以降に敢行された報復等目的の暴力行為の検挙事案のうち,2件が
行橋市内で発生していること,⑤原告は,何ら正当な権限がないにも
かかわらず,行橋市について「縄張」すなわち原告の権益の対象範囲
であると主張していること,⑥原告は,上記aのとおり,北九州市に数
多くの拠点を設けて活発に活動しているところ,行橋市は,北九州市
に隣接している上,同市中心部から約25キロメートルの距離にある
ため,古くから同市との間で人・物の行き来が盛んであり,北九州空
港開港以後,両市の結び付きがさらに強くなっていることからすると,
同市との地理的,経済的,社会的一体性のある地域であると認められ
ること,⑦東九州自動車道建設工事については,大規模事業である上,
原告の構成員が,平成20年2月頃,平成23年9月及び同年10月,
同工事の一部を請け負った建設会社に対し,不当下請要求等を繰り返
したことからすると,今後も原告の構成員によって同工事に関連して
不当下請要求等が敢行されるおそれが認められるところ,行橋市内に
は,同自動車道建設工事の未完成区間が存在し,原告の構成員により,
不当下請要求等の暴力的要求行為等が行われるおそれが認められるこ
と等に照らせば,要件該当暴力行為により人の生命等に重大な危害が
加えられることを防止するため特に警戒を要する区域であると認めら
れる。
d豊前市
①本件処分直前の時点で,原告の構成員1名が豊前市内に居住する
などしていること,②原告は,何ら正当な権限がないにもかかわらず,
豊前市について「縄張」すなわち原告の権益の対象範囲であると主張
していること,③東九州自動車道建設工事については,上記cのとお
り,原告の構成員によって不当下請要求等が敢行されるおそれが認め
られるところ,豊前市内には,同自動車道建設工事の未完成区間が存
在し,原告の構成員により,不当下請要求等の暴力的要求行為等が行
われるおそれが認められることに照らせば,要件該当暴力行為により
人の生命等に重大な危害が加えられることを防止するため特に警戒を
要する区域であると認められる。
e中間市
①本件処分直前の時点で,原告は,中間市内に1か所の事務所を設
置しているほか,原告の構成員18名が同市内に居住するなどしてい
ること,②平成12年以降に敢行された報復等目的の暴力行為の検挙
事案のうち,1件が中間市で発生していること,③原告は,何ら正当
な権限がないにもかかわらず,中間市について「縄張」すなわち原告
の権益の対象範囲であると主張していることが認められること,④原
告は,上記aのとおり,北九州市に数多くの拠点を設けて活発に活動し
ているところ,中間市は北九州市に隣接している上,各行政機関の管
轄区域の多くを同市と同一としているなど,同市と地理的,経済的,
社会的一体性のある地域であると認められることに照らせば,要件該
当暴力行為により人の生命等に重大な危害が加えられることを防止す
るため特に警戒を要する区域であると認められる。
f春日市
①本件処分直前の時点で,原告の構成員9名が春日市内に居住する
などしているほか,原告の構成員が頻繁に使用している実態が認めら
れる原告の関連施設1か所が同市内に設置されていること,②平成1
2年以降に発生した暴力的要求行為等に係る中止命令等のうち,当該
要求行為が春日市で行われるなど同市に関係する中止命令等が4件発
出されていること,③平成12年以降に敢行されて検挙された暴力的
要求行為に該当する恐喝事件等のうち,当該暴力的要求行為等の発生
場所が春日市である事案が1件あること,④原告は,上記bのとおり福
岡市内に4か所の事務所を設置するなどして活動しているところ,春
日市は福岡市に隣接している上,同市中心部から約10キロメートル
程度の距離にあるなど,同市との地理的一体性が認められることに照
らせば,要件該当暴力行為により人の生命等に重大な危害が加えられ
ることを防止するため特に警戒を要する区域であると認められる。
g宮若市
①本件処分直前の時点で,原告は,宮若市内に1か所の事務所を設
置しているほか,原告の構成員4名が同市内に居住するなどしている
こと,②平成12年以降に敢行された報復等目的の暴力行為の検挙事
案のうち,1件が宮若市で発生していること,③原告は,何ら正当な
権限がないにもかかわらず,宮若市について「縄張」すなわち原告の
権益の対象範囲であると主張していることに照らせば,要件該当暴力
行為により人の生命等に重大な危害が加えられることを防止するため
特に警戒を要する区域であると認められる。
h遠賀郡(芦屋町,水巻町,岡垣町及び遠賀町)
①本件処分直前の時点で,原告の構成員12名が遠賀郡内に居住す
るなどしていること,②平成12年以降に発生した暴力的要求行為等
に係る中止命令等のうち,当該要求行為が遠賀郡で行われるなど同郡
に関係する中止命令が2件発出されていること,③平成12年以降に
敢行され検挙された暴力的要求行為に該当する恐喝事件等のうち,当
該暴力的要求行為等の発生場所が遠賀郡であるものが1件発生してい
ること,④原告は,何ら正当な権限がないにもかかわらず,遠賀郡に
ついて「縄張」すなわち原告の権益の対象範囲であると主張している
こと,⑤原告は,上記aのとおり,北九州市に数多くの拠点を設けて活
発に活動しているところ,遠賀郡は,同市に接しているほか,同市西
部は以前遠賀郡に属していたなど,同市と地理的,経済的,社会的に
密接な関係を有する地域であると認められること,⑥平成12年以降
遠賀郡において,原告の構成員が,手りゅう弾2発,拳銃2丁を適合
実包24発と共に保管し所持していたということがあり,人の生命又
は身体に重大な危害が加えられる高度の危険性が認められることに照
らせば,要件該当暴力行為により人の生命等に重大な危害が加えられ
ることを防止するため特に警戒を要する区域であると認められる。
i鞍手郡(小竹町及び鞍手町)
①本件処分直前の時点で,原告は,鞍手郡内に1か所の事務所を設
置しているほか,原告の構成員3名が同郡内に居住するなどしている
こと,②平成12年以降に敢行され検挙された暴力的要求行為に該当
する恐喝事件等のうち,当該暴力的要求行為等の発生場所が鞍手郡で
あるものが1件あること,③原告は,何ら正当な権限がないにもかか
わらず,鞍手郡について「縄張」すなわち原告の権益の対象範囲であ
ると主張していること,④原告は,上記aのとおり,北九州市に数多く
の拠点を設けて活発に活動しているところ,鞍手郡は,同市と近接し
た地にあり,同市と密接な関係にある地域であると認められることに
照らせば,要件該当暴力行為により人の生命等に重大な危害が加えら
れることを防止するため特に警戒を要する区域であると認められる。
j京都郡(苅田町及びみやこ町)
①本件処分直前の時点で,原告の構成員13名が京都郡内に居住す
るなどしていること,②平成12年以降に発生した暴力的要求行為等
に係る中止命令等のうち,当該要求行為が京都郡で行われるなど同郡
に関係する中止命令等が3件発出されていること,③平成12年以降
に敢行された報復等目的の暴力行為の検挙事案のうち,要件該当暴力
行為1件(第1事案)を含む2件が京都郡内で発生していること,④
原告は,何ら正当な権限がないにもかかわらず,京都郡について「縄
張」すなわち原告の権益の対象範囲であると主張していること,⑤原
告は,上記aのとおり,北九州市に数多くの拠点を設けて活発に活動し
ているところ,京都郡は,同市に接しているほか,同市と多くの行政
機関の管轄区域を同じくし,北九州工業地帯の一部として自動車工場
等を多数有するなど,同市と地理的,経済的,社会的一体性のある地
域であると認められること,⑥平成12年以降,京都郡において,原
告の構成員が,拳銃3丁を適合実包41発と共に保管し所持していた
ことがあり,人の生命又は身体に重大な危害が加えられる高度の危険
性が認められること,⑦東九州自動車道建設工事については,上記c
のとおり,原告の構成員によって不当下請要求等が敢行されるおそれ
が認められるところ,京都郡内には,同自動車道建設工事の未完成区
間が存在し,原告の構成員により,不当下請要求等の暴力的要求行為
等が行われるおそれが認められること,⑧福岡県警察と関係自治体と
の協定に基づき,平成22年以降に原告と密接な関係を有するとして
福岡県警察から自治体に通報され公表された企業のうち1社が京都郡
に所在していること等に照らせば,要件該当暴力行為により人の生命
等に重大な危害が加えられることを防止するため特に警戒を要する区
域であると認められる。
k築上郡(吉富町,上毛町及び築上町)
①本件処分直前の時点で,原告は,築上郡内に1か所の事務所を設
置しているほか,原告の構成員4名が同郡内に居住するなどしている
こと,②平成12年以降に発生した暴力的要求行為等に係る中止命令
等のうち,当該要求行為が築上郡で行われるなど同郡に関係する中止
命令が1件発出されていること,③原告は,何ら正当な権限がないに
もかかわらず,築上郡について「縄張」すなわち原告の権益の対象範
囲であると主張していることが認められること,④原告は,上記aの
とおり,北九州市に数多くの拠点を設けて活発に活動しているところ,
築上郡は,同市と多くの行政機関の管轄区域を同一とすることなどか
ら,同市と地理的,経済的,社会的一体性のある地域であると認めら
れること,⑤東九州自動車道建設工事については,上記cのとおり,
原告の構成員によって,不当下請要求等が敢行されるおそれが認めら
れるところ,築上郡内には,同自動車道建設工事の未完成区間が存在
し,原告の構成員により,不当下請要求等の暴力的要求行為等が行わ
れるおそれが認められること,⑥福岡県警察と関係自治体との協定に
基づき,平成22年以降に原告と密接な関係を有するとして福岡県警
察から自治体に通報され公表された企業のうち1社が築上郡に所在し
ていることに照らせば,要件該当暴力行為により人の生命等に重大な
危害が加えられることを防止するため特に警戒を要する区域であると
認められる。
(カ)処分要件該当性に関する原告の主張に対する反論
原告は,平成24年の暴対法改正前に発生した上記第1事案ないし第
7事案について,本件処分の根拠とすることは憲法39条前段による法
の不遡及原則に違反する旨主張するが,原告のいう「法の不遡及原則」
とは,遡及処罰の禁止(憲法39条前段)をいうものと解されるところ,
特定危険指定処分は,その処分時において,相手方に拒絶された暴力的
要求行為等に関連して凶器を使用した人の生命等に重大な危害を加える
方法による暴力行為が行われるおそれが存在し,そのようなおそれが将
来にわたって継続すると見込まれることを理由としてされるものであり,
原告が指摘する「相手方に拒絶された暴力的要求行為等に関連した暴力
行為」はそのようなおそれの存在の有無等の判断に当たって斟酌される
べきである事情であり,特定危険指定処分の対象とされるものではない
から,上記おそれの有無の判断に当たってこれを斟酌することが法の不
遡及原則に反するものではない。そして,上記おそれの有無の判断につ
いては,過去の事実を含めて,処分時において認定できる全ての事実を
基礎として行う必要があることから,平成24年改正以前の事実を基礎
として特定危険指定処分を行ったことはむしろ当然であり,法の不遡及
原則違反をいう原告の主張は失当である。
イ手続違背がないこと
(ア)原告の主張イ(ア)について
原告は,暴対法30条の8第4項において準用する同法5条の意見聴
取において,実質的には告知聴聞の機会すら与えられなかったという結
論を述べるにとどまり,その具体的な根拠,理由を何ら主張していない
から,原告の上記主張は失当というべきである。
処分行政庁は,原告に対し,本件処分である特定危険指定処分を行お
うとする理由を付記した意見聴取通知書を送付した後,原告の代理人で
ある原告幹事長X及び補佐人である原告理事長補佐Yの出席の下,意見
聴取を行ったものであり,同手続(以下「本件意見聴取手続」という。)
においてXらが述べた原告の意見を踏まえ,暴対法30条の8第1項の
規定により原告を特定危険指定暴力団等として指定することとしたもの
であり,本件処分に関する意見聴取は実質を伴って暴対法及び意見聴取
規則の規定に従い,適正に行われており,原告の主張には理由がない。
(イ)原告の主張イ(イ)について
暴対法及び意見聴取規則においては,意見聴取の通知の際に同通知の
「指定をしようとする理由」に記載された事実を裏付ける資料・証拠を
呈示しなければならない旨の規定は存在しない。また,意見聴取は,指
定をしようとする理由についてその相手方から意見を聴取することによ
り,その処分の適正を図ることを目的とするものであるところ,意見聴
取通知書に「指定をしようとする理由」が記載されていれば,これを裏
付ける資料・証拠の呈示がなくとも,相手方はこれに対して意見を述べ
ることが可能なのであるから,意見聴取の通知の際におけるそのような
資料・証拠の呈示が必要であるとはいえず,意見聴取において,指定を
裏付ける資料等の提示を行う必要はないのであるから,原告の上記主張
は理由がなく失当である。
(ウ)原告の主張イ(ウ)について
意見聴取の通知を受けた者は,病気その他のやむを得ない理由がある
場合には,公安委員会に対し,意見聴取の期日又は場所の変更を申し出
ることができ,公安委員会は,申出により又は職権で,意見聴取の期日
又は場所を変更することができるところ(意見聴取規則16条),本件
意見聴取手続において,原告からは,意見聴取の期日又は場所の変更の
申出はされておらず,また,職権で期日又は場所を変更すべき事情の説
明もなかった上,原告側の出席者である上記代理人及び補佐人において
も,原告代表者の不在につき何ら異議等を述べておらず,主宰者におい
ても,かかる代理人が原告代表者の代理人であることを確認した上で本
件意見聴取手続を行っているのであるから,同委員会が同手続の期日又
は場所を変更しなかったことに何ら違法な点はなく,原告の主張は失当
である。
(エ)原告の主張イ(エ)について
暴対法及び意見聴取規則においては,指定をしようとする理由や警戒
区域を告げる際に,これを裏付ける資料・証拠の呈示や朗読をしなけれ
ばならない旨の規定は存在しないのであるから,上記(イ)の主張と同様そ
のような資料・証拠の呈示や朗読がなかったからといって,意見聴取の
手続が違法となることはない。
(オ)原告の主張イ(オ)について
原告の代理人は,本件意見聴取手続において,持参した意見書記載の
事項を全て読み上げて詳細にその意見を述べているのであり,代理人の
意見陳述が妨害されたという事実は存在しない。なお,本件意見聴取手
続において,聴取官が原告が主張する発言をした事実はあるが,原告の
代理人が持参した意見書を読み上げてその意見を述べた後,原告の意見
の内容を確認するために質問を行う旨を説明したものであって,聴取官
の当該発言によって原告の代理人の意見陳述が妨害されたとはいえない。
(カ)原告の主張イ(カ)について
原告の主張は,手続上の違法を基礎付ける事由となるものではない。
(キ)原告の主張イ(キ)について
原告の代理人は,本件意見聴取手続の場において,持参した意見書記
載の事項を全て読み上げ,事務所使用制限に関する原告の主張を明確に
述べているのであって,この点に関する原告の意見陳述が妨害されたと
いう事実はない。なお,本件意見聴取手続において,聴取官が原告が主
張する発言をした事実はあるが,原告の代理人が持参した意見書を読み
上げてその意見を述べた後,これに対する聴取官の見解を説明したもの
であって,聴取官の当該発言によって原告の代理人の意見陳述が妨害さ
れたとはいえない。
(ク)原告の主張イ(ク)について
暴対法及び意見聴取規則においては,意見聴取の場において相手方か
ら述べられた意見について聴取官が応答しなければならない旨の規定は
存在しないのであるから,原告の代理人が述べた意見に聴取官が応答し
なかったからといって,そのことを捉えて意見聴取の手続が違法と評価
されることはない。相手方は,意見聴取手続において,聴取官の応答の
有無にかかわらず,指定をしようとする理由についての自己の意見を述
べることが可能なのであるから,相手方から述べられた意見について聴
取官が応答することが必要であるとはいえない。
(ケ)原告の主張イ(ケ)について
意見聴取は,特定危険指定処分を始めとする暴対法の規定が憲法に違
反するか否かを議論する場ではないから,これを議論しようとすること
が意見聴取規則22条3項の「事案の範囲を超えて発言するとき」に該
当することは明らかであり,聴取官が「本意見聴取は憲法議論をする場
ではございません。」などと述べたとしても,何ら違法ではない。
(コ)原告の主張イ(コ)について
暴対法及び意見聴取規則においては,証拠調べの開始後に提出された
物件は全て証拠として扱わなければならない旨の規定は存在しない。ま
た,証拠とは,証明しようとする事実の裏付けとなる資料をいうもので
あるところ,原告の代理人が提出した意見書は,原告の代理人が意見を
述べるに当たって読み上げた内容が記載されている書面であって,原告
が証明しようとする事実そのものが記載された書面にすぎないのである
から,証明しようとする事実の裏付けとなる資料であるとはいえず,そ
もそも「証拠」には当たらない。また,本件意見聴取手続において,主
宰者は,証拠調べに当たり,証拠の有無を代理人に尋ねたものにすぎず,
意見聴取規則28条の規定に基づき代理人に対して証拠の提出を求めた
という事実はない。仮に意見書が「証拠」に当たるとしても,証拠の提
出を申し出ようとするときは,証拠及びその内容と証明しようとする事
実との関係を具体的に明らかにして行わなければならず(意見聴取規則
32条),この方式によらない証拠の申出は却下できることとされてい
るところ(同規則33条),本件意見聴取手続において,原告の代理人
は,意見書と証明しようとする事実との関係について何ら言及していな
いのであるから,原告の代理人による意見書の提出は,暴対法及び意見
聴取規則において定められた方式に従った適式な証拠の申出ではなかっ
たことが明らかである。
これらの点を措くとしても,本件意見聴取手続の経過に照らせば,原
告の代理人は,証拠調手続が終了する時点において,意見書を証拠とし
て提出する意思を有していなかったことも明らかである。さらに,本件
意見聴取手続においては,原告から証拠として提出された物件は存在し
ないのであるから,証拠がない旨の記載は虚偽ではなく,原告の主張は
失当である。そして,暴対法及び意見聴取規則においては,証拠調べに
おいて,主宰者側が,相手方に対して,書面を証拠として提出すること
と意見陳述書として提出することの差異を説明しなければならない旨の
規定は存在しないから,そのような説明がなかったからといって意見聴
取の手続が違法となることはない。
(サ)原告の主張イ(サ)について
原告が指摘する部分は,意見聴取調書(乙37)において,「この指
定をする理由に書いてある5つの暴力行為の事件と3つの暴力的要求行
為の事件は,間違いなく工藤會の組員がやったということでよろしいで
すか。」という聴取官の問いに対し,「はい,よろしいです。」と代理
人が回答した問答部分の要旨を記載したものであるところ,ここでいう
「工藤會の犯行」とは,工藤會の構成員による犯行という意味で記載さ
れたものであることは明らかであって,かかる趣旨で記載された上記代
理人の発言要旨の記載に何ら誤りとなる点はない。
ウ書証の成立の真正について
原告は,被告が本件訴訟に提出した作成者氏名を黒塗りした各報告書
(乙46の1ないし3において引用された各報告書。以下「本件各報告
書」という。)について,名義人不明の怪文書であるとして書証の成立
を争っている。しかしながら,文書が真正に成立したとは,文書が挙証
者の主張する作成者(特定人)の意思に基づいて作成されたことを意味
するものであり,公文書はその方式及び趣旨により公務員が職務上作成
したものと認めるべきときは真正に成立したものと推定される(民訴法
228条2項)ところ,被告は,本件各報告書について,その作成者を
福岡県警察本部組織犯罪対策課所属の警察官等であると主張しているも
のであり,作成者である同警察官の官職氏名が明確に記載されている原
本についてその氏名のみが黒塗りされたものであることはその体裁から
明らかであって,同警察官が本件各報告書を作成したことは,本件各報
告書の記載や内容から明らかである上,同警察官の上司の作成した報告
書(乙46の1ないし3)によって,同警察官が本件各報告書を作成し
たものであることが立証されているから,本件各報告書が挙証者の主張
する作成者である警察官(特定人)の意思に基づいて作成されたことは,
上記のとおり推定され,立証されている。
(原告の主張)
ア指定要件について
(ア)指定暴力団であること
原告が暴対法3条による指定を受けている事実は認めるが,指定の適
法性については争う。
原告がいかなる証拠によって暴力団であると認定されたのか証拠上明
らかではないし,原告は,任侠団体であり,綱領にもそのことが記載さ
れており,組員が何らかのきっかけで暴力行為に及ぶことがあったとし
ても個々の組員はそれぞれの個人的な動機,背景から非違行為に及ぶの
であり,その際原告がこれを助長したり,組員が原告の威力を示して暴
力行為を実行しているとは限らないのであり,原告が暴力団であるとい
うことはできず,指定暴力団とはなり得ない。
また,原告は,指定暴力団としての指定処分を受けているが,かかる
指定処分は,その意見聴取に際し,証拠が事前にも意見聴取時にも全く
示されておらず,結局,証拠が存在するのかしないのか不明なまま処分
がされたものであり,また,いかなる証拠によっていかなる事実が認定
された結果,指定要件が充足されたのかの判断がまったく示されていな
いのであるから,かかる意見聴取手続は,暴対法5条に違反する。すな
わち,同条は,意見聴取に際して有利な証拠を提出することができる旨
定め(同条3項),暴対法の規定に基づく意見聴取規則20条は証拠調
べを義務的なものとし,同規則の27条,28条は当事者等に証拠の提
出権限を認めているところ,上記の有利な証拠であるか否かは相手方が
所持ないし提出しようとする証拠を検討しなければ判断することができ
ないのであって,暴対法5条3項及び上記規則20条,27条,28条
は公安委員会の原告に対する証拠の提出,原告による閲覧が前提となる
規定であり,本件意見聴取手続はかかる規定に違反するものであるから,
暴対法5条に違反し,原告に対する3条指定処分は違法である。
(イ)暴力行為要件について
a第1事案ないし第7事案については,下記bの各事案に関する主
張のほか,「原告の指示の存在」,「原告の威力を示して」等と被
告が主張する事実については否認し,第1事案ないし第7事案がい
ずれも暴対法30条の8第1項の要件該当暴力行為であることにつ
いては争う。
第1事案ないし第7事案を裏付ける書証の中核は,各事案について
の警察内部の調査報告書であり,各事案の訴訟記録等を添付し,①当
該事案における行為者の属性(当該指定暴力団等の指定暴力団員)を
記載した上で②暴力要件該当性を認定している点に特質があるが,こ
れらの調査報告書等(乙14の1,15の1,16の1,17の1等)
は,各報告書に添付された判決書にも認定されていない事実を漫然と
認定する書面であるし,その基礎資料としての各事件の訴訟記録もプ
ライバシー保護その他重大な法益保護の理由も示さず随所に黒塗りが
されており,反証等による真実性を吟味し難い不可解な資料であり,
その証拠としての信用性は認められるべきではないし,そもそも下記
ウのとおり,上記書証のうち作成名義人が記載されていない書証は成
立の真正が否定されるべきである。
また,暴対法30条の8第1項の暴力行為要件は同項1号又は2号
のいずれかに掲げる行為が行われた場合に当該行為に「関連して」「凶
器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を加える方法による暴力
行為」が行われたことが必要であり,これらの行為が重なったり,呼
応したりしてつながっていることが必要であるところ,下記のとおり
かかる関連性は認められない。
第1事案ないし第7事案は平成12年から平成22年までに発生し
たものであり,これを要件該当暴力行為の判断の基礎とすることは憲
法39条前段の法の不遡及原則違反の疑義がある。
b第1事案ないし第7事案に関する個別の認否,主張
第1事案に記載の事実のうち,Dが暴力行為当時に原告の幹部,構
成員であったことについては否認する。
第2事案に記載の事実については,Gが第2事案の後に原告から除
籍処分を受けており,当該行為が原告の意に明確に反するものであり,
原告がその威力を暴力団員に利用させたり,暴力団員が利用すること
を容認していないことが明らかであり,原告との関連性はない。
第3事案に記載の事実については,「工藤會の方針だから」と述べ
た事実については警察の「暴力団関係者検挙連絡」という内部報告書
の中に見受けられるのみであり,第3事案に係る判決書に記載された
事実を歪曲するものであり,被告の主張するGの行為は,原告の名称
を示して威力を示す行為であるとはいえない。
第4事案に記載の事実については,「工藤會は」という明確かつ具
体的な表現を使用したという事実は第4事案の起訴状及び判決におけ
る認定には認められず,証拠による裏付けはなく,被告が主張するよ
うに原告の名称を示して威力を示す行為とは到底いえない。Iの行為
についての証拠は調書判決しかなく,その量刑理由においても,工藤
會という名称は具体的に認定されていないのであるから,暴力行為要
件該当性の根拠となり得ない。
第5事案については,Oは原告の専務理事の地位にあった者である
が,第5事案の被害者とは知人であり,同事件後も関係を維持してい
ることは同事件の判決(乙19の2)においても認定されているとこ
ろであり,上記Oは,被害者の身を案じた上で助言をしたにすぎない
のであり,脅迫的文言は一切述べておらず,原告の威力を示したもの
ではない。被告は,相手方が上記Oを原告の構成員であることを再認
識することは明らかである旨主張するが,暴対法9条柱書は行為者が
具体的に文言を言わないにもかかわらず相手方が再認識するというこ
とまでをもその対象として予定しているとはいえない。被害者が競落
した不動産について開業準備をすることについて,上記Oが「あまり
動かない方がいい」と助言したことは争わないが,知人による助言に
すぎない事実であり,被害者の意思に反して「明渡しを要求すること」
(暴対法9条13号)と同視することはできないから,暴力的要求行
為に該当する事実がなく,第5事案は暴対法30条の8第1項1号の
暴力行為要件該当性が認められない。
第6事案の恐喝行為1は,原告の構成員ではない不動産業者(親交
者か否か不明である。)が実質的には単独で実行して働きかけた事案
であり,原告自体とは何ら関係ないのであり,それ自体は,当該指定
暴力団等の指定暴力団員がした暴力的要求行為(暴対法9条2号)で
あって,その相手方が拒絶したもの(同法30条の8第1項1号)で
あるということはできない。
第7事案の被害者は,そもそもSを利用してきたいわゆる暴力団関
係者であり,同事案は単なる内輪もめの事案にすぎないのであって,
内輪もめにおいて原告の威力を示す余地はない。
(ウ)おそれ要件について
a要件該当暴力行為の反復に関する被告の主張について
上記(イ)の第1事案ないし第7事案の要件該当暴力行為が反復され
たものであるという被告の主張は争う。第1事案ないし第7事案はい
ずれも過去に存在した事案にすぎず,独立した事案であり,相互の関
連性,原告との関連性についての主張立証はなく,反復性(相互の関
連性,上位者と当該当事者との関連性)が明らかではない。特に第1
事案については上記(イ)bのとおりDを原告の幹部構成員とする根拠は
明らかでないし,第5事案についてもOによる恐喝事件とP及びQら
による発砲行為とは関連なく行われたものであり,Pらの事件が報復
のために行われたという根拠はない。本件処分は,大幅な人権制限が
可能となるものであるから,反復して敢行されたという認定は厳格に
行われるべきである。反復とは「同じことを何度も繰り返すこと」を
いうところ,被告の主張は「反復」であるか否かの判断基準をどのよ
うにとらえるのか明らかではなく,判断の客観性が担保されていない。
b暴力的要求行為等及び請求妨害行為の敢行に関する被告の主張に
ついて
被告の主張ア(ウ)b(a),(b)及び(c)の事実は認めるが,その余の主
張については否認ないし争う。
cその他の事情に関する被告の主張について
被告の主張ア(ウ)cの①及び②に係る事実は認めるが,これらが,
原告の要件該当暴力行為を行う危険性を徴表しているものといえるも
のであり,原告には要件該当暴力行為を行うおそれが認められること
については争う。
(エ)指定期間について
指定期間に関する被告の主張ア(エ)の②の実態については認めるが,①
及び③の実態については否認する。①の実態については,被告が主張す
る暴力的要求行為等の中止命令等に関する事案は,日常の経済的行為に
対する中止命令等としか評価し得ない場合も存在する。また,③の実態
については,暴力行為に関与した構成員の中には除籍又は破門処分とさ
れた者も存在する。
暴対法30条の8の要件該当性に関する被告主張の事実的基礎は曖昧
で雑ぱくなものである上,指定期間の合理性の根拠が乏しく,そもそも
指定自体を行うことができないだけではなく,指定期間を定めた処分行
政庁の裁量権の逸脱濫用がある。
(オ)警戒区域について
以下のとおり,被告が警戒区域として指定した本件各区域は,特に警
戒を要する区域であることの主張立証がないから,その指定には根拠が
ない。特に豊前市,春日市,遠賀郡及び鞍手郡においては原告の事務所
も存在せず,原告は,要件該当暴力行為あるいは暴力的要求行為の存在
を把握していないのであり,本件処分のうち少なくとも警戒区域として
豊前市,春日市,遠賀郡及び鞍手郡を指定した部分はその理由がなく,
必要もないのであり,少なくとも上記部分は裁量権の逸脱濫用として違
法であるから,仮に本件処分の取消請求が認められないとしても本件予
備的請求は認められるべきである。
a北九州市
被告の主張ア(オ)a①に関する事実については不知。北九州市内の原
告の事務所数は原告の把握する限りでは32か所である。特に被告が
原告の事務所所在地及び原告の構成員の居住地に関する被告の主張を
裏付ける証拠として提出する乙33の1及び2は,下記ウのとおり,
作成名義人,事務所名,氏名,住所等が黒塗りにされており,いずれ
も事務所の所在地,構成員の氏名,住所との関連性が明らかにされて
おらず,証拠能力のない証拠として証拠から排除されるべきである。
被告の主張ア(オ)a②の事実は不知。中止命令に係る事実について「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。被告の上記主張
を裏付けるものとして提出する乙24の1及び6は,同書証の裏付け
となる資料が存在しない。
被告の主張ア(オ)a③の事実について,被告の同主張に係る事実が「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)a④の事実は不知。被告が主張する請求妨害行為に
は処分の根拠とすることができないものや,威迫の対象とされている
請求者が特定されていないものがあるし,本件処分から10年以上も
前の事案を請求妨害行為として挙げる根拠はない。
被告の主張ア(オ)a⑤の事実は不知。被告が主張する行為には処分の
根拠とすることができないものも含まれるし,本件処分から10年以
上も前の事案を請求妨害行為として挙げる根拠はない。
被告の主張ア(オ)a⑥の事実は不知。被告の主張の根拠として被告が
提出する乙34の1及び2は下記ウの主張のとおり作成名義人のない
文書であるし,同書証は「四代目工藤會縄張り一円」と題する書面で
あり,原告の書面ではない上,これが原告の事務所に掲示されていた
か否かは明らかではない。
被告の主張ア(オ)a⑦の事実は不知。被告の同主張を裏付ける証拠と
して被告が提出する乙35はその表題が「工藤會に係る密接交際企業」
とされているにもかかわらず,企業名,所在地等が明らかではなく,
警戒区域の指定との関係が明らかではない。
被告の主張ア(オ)a⑧の事実は不知。被告の同主張を裏付ける証拠と
して被告が提出する乙27の1及び16はいずれも作成名義人の記載
がない文書であるし,裏付け資料等がない。
b福岡市
被告の主張ア(オ)b①に関する事実については不知。この点に関して
被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様である。福岡
市内の原告の事務所数は2か所である。
被告の主張ア(オ)b②の事実は不知。中止命令に係る事実について「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。被告が主張する
中止命令等が発出された4件のうち3件はZにより,うち1件はAA
により行われたものであるが,これに関しては,本件処分前の平成2
4年5月10日に絶縁処分が行われている上,現在まで6年間福岡市
において中止命令が発出されたことはない。
被告の主張ア(オ)b③の事実について,被告の主張に係る事実が「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)b④の事実について,被告の主張に係る事実が「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。
c行橋市
被告の主張ア(オ)c①に関する事実については不知。この点に関し
て被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様である。な
お,行橋市内の原告の事務所数は2か所である。
被告の主張ア(オ)c②の事実は不知。中止命令に係る事実について
「原告の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)c③の事実について,被告の主張に係る事実が「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)c④の事実は不知。被告の主張に係る事実が報復
等の目的で行われたものであるか明らかではない。
被告の主張ア(オ)c⑤の事実は不知。被告の主張の根拠として被告
が提出する乙34の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)c⑥の事実は不知。北九州市と行橋市が地理的,
経済的,社会的に一体であるとして警戒区域指定の理由とすることに
ついては争う。
被告の主張ア(オ)c⑦の事実は不知。被告の同主張を裏付ける乙3
6の1ないし3はいずれも作成名義人のない文書であるし,東九州自
動車道建設工事の仕組みや不当下請要求の態様が明らかではない。
d豊前市
被告の主張ア(オ)d①に関する事実については不知。この点に関して
被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)d②の事実は不知。被告が同主張の根拠として提出
する乙34の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)d③の事実は不知。上記cの主張と同様,被告の同
主張を裏付ける乙36の1ないし3はいずれも作成名義人のない文書
であるし,東九州自動車道建設工事の仕組みや不当下請要求の態様が
明らかではない。
e中間市
被告の主張ア(オ)e①に関する事実については不知。この点に関して
被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)e②に関する事実については不知。この点に関して
被告が提出する乙26の1,26の4の1及び4の2は作成名義人の
ない怪文書である。
被告の主張ア(オ)e③の事実は不知。被告が同主張の根拠として提出
する乙34の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)e④の事実は不知。北九州市と中間市が地理的,経
済的,社会的に一体であるとして警戒区域指定の理由とすることにつ
いては争う。
f春日市
被告の主張ア(オ)f①に関する事実のうち原告の構成員が9名春日市
内に居住している事実については認め,その余の事実については不知。
被告の主張する原告の「関連施設」の定義が明らかではない。この点
に関して被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様であ
る。
被告の主張ア(オ)f②の事実は不知。中止命令に係る事実について「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)f③の事実について「原告の威力を示して」行われ
たものであることは争う。
被告の主張ア(オ)f④の事実は不知。そもそも一体性が何を意味する
のか明らかではない上,被告は,春日市と福岡市の地理的一体性を指
摘するにとどまり,一体性が希薄であることを自認している証左であ
る。
g宮若市
被告の主張ア(オ)g①に関する事実については不知。この点に関して
被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)g②の事実は不知。同事案は「原告の威力を示して」
行われたものであるとはいえないし,被告が主張する事案に関する判
決書及び供述調書には報復等目的であることについて具体的に記載さ
れていない。
被告の主張ア(オ)g③の事実は不知。被告が同主張の根拠として提出
する乙34の1及び2については上記aと同様である。
h遠賀郡
被告の主張ア(オ)h①に関する事実については不知。この点に関して
被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様である。なお,
遠賀郡における原告の事務所の数は2か所である。
被告の主張ア(オ)h②の事実は不知。中止命令に係る事実について「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)h③に関する事実について「原告の威力を示して」
行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)h④の事実は不知。被告が同主張の根拠として提出
する乙34の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)h⑤の事実は不知。被告の同主張は遠賀郡を警戒区
域として指定する理由とはならない。
被告の主張ア(オ)h⑥の事実は不知。被告が主張する同事案について
の判決書は,被告人が暴力団構成員であることを指摘するにとどまり,
原告との関係について明らかにしていない。
i鞍手郡
被告の主張ア(オ)i①に関する事実については不知。この点に関して
被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)i②の事実について,被告が主張する事案が「原告
の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)i③の事実は不知。被告が同主張の根拠として提出
する乙34の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)i④の事実は不知。被告が主張する「密接な関係」
の趣旨が明らかではない。
j京都郡
被告の主張ア(オ)j①に関する事実については不知。この点に関して
被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)j②の事実は不知。中止命令に係る事実について「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)j③の事実について,被告が主張する事案が「原告
の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)j④の事実は不知。被告が同主張の根拠として提出
する乙34の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)j⑤の事実は不知。被告の同主張は京都郡を警戒区
域として指定する理由とはならない。
被告の主張ア(オ)j⑥の事実は不知。被告が同主張の根拠として提出
する乙27の1の1及び27の16はいずれも怪文書であるし,被告
がいう「高度の危険性」は,拳銃及び実包の所持・保管の態様等の十
分な検討なくして直ちに危険性を肯定することはできないというべき
である。
被告の主張ア(オ)j⑦の事実は不知。上記cの主張と同様,被告の同
主張を裏付ける乙36の1ないし3はいずれも作成名義人のない文書
であるし,東九州自動車道建設工事の仕組みや不当下請要求の態様が
明らかではない。
被告の主張ア(オ)j⑧の事実は不知。被告が同主張を裏付ける証拠と
して提出する乙35は「密接交際企業」の表題の下に固有名詞なく記
載するものにすぎない。
k築上郡
被告の主張ア(オ)k①に関する事実については不知。この点に関して
被告が提出する乙33の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)k②の事実は不知。中止命令に係る事実について「原
告の威力を示して」行われたものであることは争う。
被告の主張ア(オ)k③の事実は不知。被告が同主張の根拠として提出
する乙34の1及び2については上記aと同様である。
被告の主張ア(オ)k④の事実は不知。被告の主張を警戒区域指定の根
拠とすることについては争う。
被告の主張ア(オ)k⑤の事実は不知。上記cの主張と同様,被告の同
主張を裏付ける乙36の1ないし3はいずれも作成名義人のない文書
であるし,東九州自動車道建設工事の仕組みや不当下請要求の態様が
明らかではない。
被告の主張ア(オ)k⑥の事実は不知。被告が同主張を裏付ける証拠と
して提出する乙35は「密接交際企業」の表題の下に固有名詞なく記
載するものにすぎない。
イ手続上の違法について
本件意見聴取手続は,以下のとおり,憲法31条,暴対法5条その他
下記の各規則に違反するものであり,違法である。
(ア)本件処分に際して行われた暴対法30条の8第4項において準用す
る同法5条の意見聴取について,実質的にはこれが行われたといえる
ような実態はなく,実質的には「告知聴聞の機会」すら与えられずに
本件処分を受けたことになるから,憲法31条に違反する。
(イ)本件意見聴取手続に先立ち原告に送達された本件意見聴取通知書
(乙37)には,「指定をしようとする理由」,「警戒区域として定
めようとする地域」が別紙として添付されているが,本件処分の原因
となる事実を裏付ける資料ないし証拠が添付されておらず,原告は,
いかなる資料及び証拠により上記事実が認定されているのか検討する
ことができないのであり,暴対法により意見を述べる権利や原告に有
利な証拠を提出することが定められているとしても,その実質が伴っ
ていない。暴対法43条は,行政手続法の適用を排除しているが,そ
の趣旨を及ぼしたり,類推適用することを排除していないことは明ら
かであり,不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求める
ことができる旨定める行政手続法15条2項2号,聴聞の通知を受け
た場合に当事者に行政庁が保有する不利益処分の原因となる事実を証
する資料の閲覧を求めることができる旨定める行政手続法18条の趣
旨を極めて大きな不利益処分である特定危険指定処分にも及ぼし,同
処分を行うにあたっては資料の閲覧を行わせる必要があるというべき
である。意見の形成はそれを形成する前提としての事実の摘示が必要
であり,意見聴取通知書に資料,証拠が提示されていない本件意見通
知書自体,実質的に通知の体をなしていないし,意見を形成する機会
を奪うものであり,違法である。
(ウ)処分行政庁は,原告代表者本人の出席を十分に確保する必要がある
ところ,本件意見聴取手続において,原告代表者であるCが出席でき
なかった理由につき,代理人が多忙により出席不可能である旨回答し
ているにもかかわらず,同代表者が出席できるように手続を行った形
跡がなく,意見聴取手続を強行している。暴対法における意見聴取手
続に関する被告の捉え方は,いわば職権主義的手続を本質とするもの
であるから,原告の代表者の出席を確保すべき職権主義的手続を尽く
す必要があるというべきであり,本件意見聴取手続には代表者の出席
確保に問題があり,違法である。
(エ)本件意見聴取手続において,主宰者が指定しようとする理由及び警
戒区域として定めようとする区域を聴取官に朗読させる際に,これら
の事実を裏付ける証拠の提示あるいは朗読がされた形跡がない。職権
主義的な意見聴取手続において意見を聴取することにより処分の適正
を図る目的を達成するためには裏付け資料の提示等は必須であり,か
かる手続がされていない以上,朗読手続にも瑕疵があり,違法である。
(オ)本件意見聴取手続において,原告の代理人が意見陳述を始めたとこ
ろ,聴取官が「今回の意見聴取の場は,特定危険指定暴力団に工藤會
を指定する理由についていう場であり,代理人の長い話はそれに当て
はまらない部分も多々ありましたので,こちらから何点か質問させて
もらいます。」と述べて同代理人の意見陳述を妨害したのであり,同
聴取官は同代理人に何も聴いていないのであって,まさに意見陳述妨
害であり,違法である。
(カ)本件意見聴取手続において,聴取官は,「5年以内の事件は1件し
かなく,それより前の事件も入れているのはおかしいという主張です
が,今回の暴対法30条の8第1項による指定については,指定の段
階において,それ以前の行為の要件該当性を判断するものであり,期
限は定めておりません」と述べているが,際限なく事案を選択するこ
とができるものであり,基準が存在しないのであって,このような処
分行政庁による事案の選択は違法である。
(キ)本件意見聴取手続において,聴取官は,「事務所の使用制限につい
ては,そもそも,指定をする理由についての意見聴取ですから,この
場では言えないということです。」と自らの意見を述べているが,事
務所の使用制限については意見聴取規則22条3項の「事案の範囲」
の発言であり,聴取官がこれに関する意見陳述を妨害することは,意
見聴取権の侵害であり,違法である。
(ク)本件意見聴取手続において,聴取官は,「他団体との比較ですが,
この場は五代目工藤會についての意見聴取ですから他団体のことはお
答えできません。」と述べているが,他団体との比較において五代目
工藤會に特定危険指定処分をすることの是非を意見として述べている
のであるから,意見聴取規則22条3項の「事案の範囲」内の発言で
ある。被告による処分の適正を目的とする意見聴取手続においては当
事者に対して適切な手続の説明と意見に対する応答が行われなければ
ならないことは手続の性格上当然であるから,聴取官にはこれに対す
る応答義務があり,これを拒否することは違法である。
(ケ)本件意見聴取手続において,聴取官は,「本意見聴取は憲法議論を
する場ではございません。」と述べているが,原告の代理人の憲法的
な疑問については,意見聴取規則22条3項の「事案の範囲」内にあ
るから,当然ながら上記(ク)と同様これに対する応答義務があるので
あり,聴取官には応答義務に違反した違法がある。
(コ)本件意見聴取手続の主宰者は,証拠調べを開始する際に,原告の代
理人に対して意見を裏付ける証拠の有無を尋ね,同代理人は意見書を
提出したが,委員長は,これを証拠として扱うべきであったにもかか
わらず,証拠として扱わず,意見陳述書として扱ったものである。意
見聴取規則28条により代理人に対して証拠の提出を求め,代理人が
これを提出し,同規則33条の却下事由が存在しないにもかかわらず
これを証拠として採用していない。主宰者は当事者に対して証拠の申
出の意義等を説明する義務があるにもかかわらずこれを怠り,意見聴
取の結果を記載した調書(乙37)に提出された証拠について「なし」
と記載したことは虚偽であり,証拠提出の機会を奪った違法がある。
(サ)本件意見聴取手続において,原告の代理人は,指定しようとする理
由の事件について工藤會の犯行に間違いない旨述べたことはないにも
かかわらず,同手続の結果を記載した調書(乙37)には原告の代理
人の意見としてその旨述べたことが記載されており,同規則36条の
調書作成に際して虚偽の記載を行った違法があり,実質的に原告の意
見を聴取していなかったものといわざるを得ないし,同手続はわずか
39分間しか行われておらず,実質的に意見聴取が行われたとはいえ
ない。
ウ書証の成立の真正について
被告が本件処分を基礎付ける証拠として提出した書証のうち,作成名
義人が黒塗りであるもののすべて,その内容が黒塗りであるものの一部
については成立の真正を否認する。具体的には乙14の1及び2,15
の1~15の4,16の1及び2,17の1~17の3,18の2,1
9の1及び2,20の1~20の3,21の1~21の4,22の1~
22の3(枝番を含む。ただし,22の2の3,22の3の5を除く。),
23の1及び2,24の1~24の6,25の1及び2(枝番を含む。),
26の1~26の25(枝番を含む。ただし,26の23の1を除く。),
27の1~27の23(枝番を含む。),28の1~28の3,29,
33の1及び2,34の1,35,36の1~36の3についての成立
の真正を否認する。
被告は,上記各書証について公文書であるから民訴法228条2項に
より成立の真正が推定される旨主張するが,同項の趣旨は,公務員がそ
の職務権限に基づいて職務上作成する公文書には官公署の用紙が用いら
れ,作成者である官公署あるいは作成者の官職氏名が明確にされた上,
官公署の調印が押されるのが原則であるという経験則に基づくものであ
るところ,本件において被告が提出した上記各書面は通常のコピー用紙
を用いて作成された写しにすぎず,官職は記載されているものの作成名
義人が黒塗りにされて不明であり,写しに現れている記載内容が黒塗り
にされているものがあるのであり,組織犯罪対策課の警察官によって作
成されたか明らかではなく,このような状態の書面が民訴法228条2
項による成立の真正の推定を受けることはない。文書が作成名義人の意
思に基づくものであるか否かは,当該名義人が明示され特定されている
か否かによって決まるのであり,挙証者の主張により定まるものではな
い。
そもそも黒塗りによる証拠と称するものを提出することは原告の主張
立証の妨害である。
(6)暴対法30条の8第2項の合憲性(本案の争点4)
(原告の主張)
ア暴対法30条の8第2項は,公安委員会が「必要と認めるとき」に指
定期限の延長処分を行うことができる規定であり,延長の要否の判断は
公安委員会により行われることとなるのであり,暴対法3条の指定の要
件,同法30条の8第1項の特定危険指定の要件該当性を認定しないま
ま同法3条に基づく指定要件,同法30条の8第1項に基づく特定危険
指定の要件を擬制して期限の延長をするものであり,期限の延長により
結社の弱体化を招来するものであるから,憲法21条1項の結社の自由
を侵害する。
イまた,行政行為(処分)の必要性の判断は,三権分立の下,裁判官に
よる司法的チェックが必要であり,暴対法30条の8第2項に基づく指
定期限の延長処分においてもかかる司法的チェック及び当事者である特
定危険指定処分を受けている暴力団の手続への関与が必要とされるとこ
ろ,このような手続が規定されておらず,単に「必要と認めるとき」と
規定し,その判断を公安委員会のみの判断に委ねているのであるから,
憲法31条が規定する適正手続条項に違反する。
(被告の主張)
ア憲法21条違反の主張について
(ア)暴対法30条の8第2項は,特定危険指定処分の指定の有効期間が
経過した後において,「更にその指定の必要があると認めるとき」に
指定期限延長処分を行うことができる旨定めるものであり,同条項に
いう「その指定」とは特定危険指定処分を意味するから,「更にその
指定の必要があると認めるとき」とは,指定の有効期間が経過した後
においても,特定危険指定処分の要件が満たされていると認められる
場合を意味する。そして,特定危険指定処分の要件は,①「暴力行為
要件」及び②「おそれ要件」であり(暴対法30条の8第1項),こ
のうち,①は過去の事実であって,時間の経過に伴って変動すること
はあり得ないから,指定期限延長処分の際にその存否を改めて確認す
る必要はない一方,上記②については,時間の経過に伴って変動する
ことがあり得ることから,指定期限延長処分の際にはその存否を改め
て確認する必要があり,「更にその指定の必要があると認めるとき」
とは,指定の有効期間が経過した後においても,上記②の要件が満た
されると認められる場合を意味する。
したがって,指定期限延長処分は暴対法30条の8第2項の要件を満
たした場合に行われるものであるから,同法30条の8第1項の特定危
険指定処分の要件を擬制するものではない。
また,暴対法3条による指定は指定期限延長処分とは別個に処分行政
庁による判断が行われることが予定されているのであるから(同法8条
1項,30条の8第7項),指定期限延長処分をすることにより同法3
条に基づく指定が自動的に継続されるという関係にはなく,同法3条の
指定の要件を擬制するものではない。
したがって,暴対法30条の8第2項は,原告が主張するような同法
3条に基づく指定及び同法30条の8第1項に基づく特定危険指定の自
動更新条項であるとはいえず,原告の主張はその前提を欠く。
(イ)上記(ア)の点を措くとしても,最高裁判例は,基本的人権を規制す
る規定等の合憲性を審査するに当たっては,表現の自由を中心とする
精神的自由の制約につき厳格な審査基準が妥当する二重の基準の理論
の考え方に基礎を置いているが,具体的な違憲審査の方法ないし基準
としては,それを明示するかどうかは別にして,一定の利益を確保し
ようとする目的のために制限が必要とされる程度と,制限される自由
の内容及び性質,これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を具
体的に比較衡量するという利益衡量論を採用しているところ,暴対法
30条の8第2項について見るに,指定期限延長処分は,特定危険指
定暴力団等の指定暴力団員等が暴力的要求行為等に関連して凶器を使
用して人の生命又は身体に重大な危害を加える方法による暴力行為を
更に反復して行うおそれがあることが要件となり,このようなおそれ
があるという緊迫した状況下においては,一般市民の生命身体が害さ
れることを防止するため,指定暴力団に対して3条指定処分よりも強
度の規制を行う必要性が極めて高いことは明らかである。
他方で,指定期限延長処分の効果は,特定危険指定処分の効力が継続
されるというものであり,特定危険指定処分の効果は,上記(4)の被告の
主張ア(ウ)a(b)のとおりであり,さらに,おそれ要件が消滅すれば,特定
危険指定処分は取り消されることとされている(暴対法30条の12第
1項)。
特定危険指定処分により制限される権利利益の内容及び性質は,そも
そも要保護性が認められないか,認められたとしても極めて低いもので
ある。そして,規制の態様及び程度は上記のとおりであり,警戒区域に
おける一般市民の生命身体を保護するという規制目的との関係で過度な
ものとは到底いえず,合理的な規制の態様及び程度のものである。した
がって,暴対法30条の8第2項の規定は,憲法21条1項に違反しな
い。
イ憲法31条違反の主張について
指定期限延長処分においては,事前に原告のいう「司法的チェック」
及び指定暴力団等の手続への関与はないが,このことにより憲法31条
に違反することはない。すなわち,憲法31条が定める法定手続の保障
と行政手続との関係については,一般に,行政手続は,刑事手続とその
性質においておのずから差異があり,また,行政目的に応じて多種多様
であるから,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与え
るかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制
限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性
等を総合較量して決定されるべきものであって,常に必ずそのような機
会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である(最
高裁平成4年7月1日大法廷判決)とされている。
これを暴対法30条の8第2項について見るに,指定期限延長処分に
より制限される権利利益の内容,性質は,上記アのとおりであり,そも
そも要保護性が認められないか,認められたとしても極めて低いもので
あり,他方,指定期限延長処分により達成しようとする公益の内容,程
度,緊急性等は,暴力的要求行為等に関連して凶器を使用して人の生命
又は身体に重大な危害を加える方法による暴力行為を行うおそれがある
という緊迫した状況下における一般市民の生命身体であって,これが極
めて重要なものであることは明らかである。また,上記のおそれが存在
する緊迫した状況下においては,一般市民の生命身体を保護するため,
特定危険指定処分の効力を切れ目なく存続させる必要がある。加えて,
上記の達成しようとする公益の重要性及び暴対法30条の8第2項が指
定の期限の延長について定めていることに鑑みれば,特定危険指定処分
の制度は,特定危険指定処分を受けた指定暴力団等について前述したお
それが存続する限り,同処分の効力を存続させることが制度上当然に予
定されており,このことは,同処分の名宛人である指定暴力団等におい
ても当然に予測し得る事柄である。そして,このような制度であること
を前提として,特定危険指定処分を行う際には,公開による意見聴取を
行うことが要求されており(暴対法30条の8第4項,5条),これに
より処分の名宛人の手続的権利を保障しているところである。
したがって,以上の事情を総合衡量すれば,特定危険指定処分を行う
際に加えて,指定期限延長処分をする都度,その相手方に事前の告知,
弁解,防御の機会を与えることが必要であるとはいえないのであるから,
かかる機会を保障していないとしても,憲法31条に違反するものでは
ない。
(7)本件延長処分1の適法性(本案の争点5)
(被告の主張)
暴対法30条の8第2項による指定期限延長処分の要件は上記(6)の被告の
主張のとおりであるところ,以下のアないしウの事情によれば,本件処分の
指定期限である平成25年12月26日以降においても原告の構成員による
更なる要件該当暴力行為が繰り返されるおそれがあり,本件処分の効力を存
続させる必要があることが明らかであるから,「更にその指定の必要がある
と認めるとき」(暴対法30条の8第2項)との要件を満たし,かかる実態
が1年未満で解消される見込みがあるとは認められないから,指定の期限の
延長期間を1年間として行った本件延長処分1は適法である。
ア本件処分後の事情変更がないこと
上記(5)の被告の主張のとおり,原告は,平成12年1月から本件処
分直前までの間,原告の構成員が長期にわたって反復して要件該当暴力
行為を敢行し,また,銃器,手りゅう弾等の高度の殺傷能力のある凶器
で武装している実態が認められ,さらに,暴力的要求行為等及び請求妨
害行為を継続的反復的に敢行していたなどの事情が認められ,かかる事
情に鑑みれば,原告の構成員が要件該当暴力行為を行うおそれについて
事情の変更がないと認められるのであれば,本件処分の有効期間が経過
した後も原告の構成員が要件該当暴力行為を行うおそれが高いと考えら
れるところ,本件処分以降,そのような事情の変更がない。
イ本件処分以降の要件該当暴力行為及び暴力的要求行為の敢行
原告の構成員であるABは,平成25年2月7日午前零時15分頃,
上記ABが原告の構成員であることを知っており,原告の縄張内である
北九州市b区内で飲食店を営んでいた被害者に対し,「おまえ,けつ持
ち変えたらしいな。」,「何で田口組にけつ持ちをさせないのか。」,
「半分は親方に払うのが筋やないか。」,「20万でも30万でも絶対
払えよ。」などと申し向け,さらに,同月8日午後7時2分頃,同市内
又はその周辺で,被害者に対し,電話で,「頭の顔潰すんか。」,「俺
たちにけつ持ちさせろ。」,「半分でも入れるのが筋やろが。」などと
申し向け,上記ABが指定暴力団員であることを認識している被害者に
対して上記ABが暴力団員であることを再認識させて「原告の威力を示
し」,「縄張内で営業を営む者に対し,その営業を営むことを容認する
対償として金品等の供与を要求」したものであり,上記ABの行為は,
暴対法9条4号の暴力的要求行為に該当するところ,被害者は要求に応
じなかったから,同法30条の8第1項1号の要件に該当する。
そして,上記要求行為から約4時間後という極めて近接した時間帯で
ある同日午後11時頃,上記ABは,北九州市b区内の駐車場において,
原告の構成員であるACが乗車する自動車の後部座席に被害者を乗車さ
せ,被害者の顔面を1回蹴り,さらに,翌9日午前零時頃,上記AB及
び上記ACは,同市h区内の民家の南方にある共用階段踊り場付近にお
いて,被害者の全身を木製バットや拳で多数回殴る暴行をそれぞれ加え
て,被害者に加療約102日間を要する左尺骨骨折,頭部・顔部打撲,
左眼瞼挫創の傷害を負わせたのであるから,指定暴力団員が暴力的要求
行為に関連して凶器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を加える
方法による暴力行為を行ったものに該当し,暴対法30条の8第1項の
暴力行為要件に該当することは明らかである。
ウ暴力的要求行為の敢行状況
要件該当暴力行為が発生した場合において,当該指定暴力団等の他の
構成員がその暴力団の縄張において暴力的要求行為を行ったりしている
状況は,今後もこれらの暴力的要求行為等を敢行し,これに関連して要
件該当暴力行為を行うおそれがあることを示すものといえるところ,本
件処分から本件延長処分1の直前までの間に,上記イのABによる暴力
的要求行為のほか,①原告の構成員であるADは,平成25年7月10
日午後零時30分頃,福岡県京都郡i町において,上記ADが原告の構
成員であることを知っていた被害者に対し,「俺は今,情けない事にヤ
クザしてます。だから,俺の様な者が仲々顔も出しにくい。」,「私達
の様な世界は今とても厳しです。」,「お金を借して下さい。金額が一
○○万円と大きいのでサラリーマンでは無理ですからネ!」,「私この
一○○万円がないと生きる事が出来ないのです。」,「返済は一月一○
万の十回払いと言う事にして呉れれば助かります。」,「十一日は私当
番となってますので十日か十二日都合の良い日に連絡呉れたら私がiに
出て行きます。」などと記載した手紙1通を,自己の配下である原告の
構成員を介して手渡し,もって,原告の威力を示して,金銭貸付業者以
外の者に対してみだりに金銭の貸付けを要求するという暴対法46条3
号違反で検挙された暴力的要求行為を敢行している上,②原告の構成員
に対して暴力的要求行為に係る中止命令が2件発出されているし,③原
告の構成員であるAEがAEが原告の構成員であることを知っていた被
害者に対して原告の威力を示してみだりに金品等の供与を要求した暴力
的要求行為に該当する恐喝事件及び原告の構成員であるAFがAFが原
告の構成員であることを知っていた被害者らに対して原告の威力を示し
てみだりに金品等の供与を要求した暴力的要求行為に該当する恐喝事件
の2件の暴力的要求行為に該当する恐喝事件が敢行されている。
エその他の事情
(ア)本件処分から本件延長処分1までの間に原告の構成員であるAEに
よる報復等目的の暴力行為により被害者に傷害を負わせるという事案
が発生しており,かかる事実は原告の構成員がその要求を貫徹するた
めには人の身体を負傷させてもかまわないという傾向を有しているこ
とを示しており,原告において繰り返し要件該当暴力行為を行うおそ
れがある一事情と評価することができる。
(イ)また,本件延長処分1の直前の時点における原告の代表者等15名
のうち14名は平成12年1月から本件処分直前までに発生した要件
該当暴力行為の際にも原告の代表者等であること,15名は上記イの
暴対法30条の8第1項の暴力行為要件に該当する行為が行われた際
にも原告の代表者等であったこと,平成12年1月から本件延長処分
1の直前までの間に発生した要件該当暴力行為を含む報復等目的の暴
力行為34件に関与し,本件延長処分1の直前の時点において生存し
ている40名のうち,33名(約83%)は,同時点においても引き
続き構成員であったこと等,原告の代表者等にほぼ変更がなく,かつ,
要件該当暴力行為に関係した者のほとんどが引き続き構成員であると
いう事実等に照らせば,原告において繰り返し要件該当暴力行為を行
うおそれを示しているものといえる。
(原告の主張)
本件延長処分1は,暴対法30条の8第2項の「更にその指定の必要
があると認めるとき」の要件を満たさないから,本件延長処分は違法で
ある。
原告に対して本件延長処分1がされた時点においては,本件処分時と
比較して明らかに事件数は減少しており,本件延長処分1の時点におい
て特定危険指定処分を維持する必要性は認められない。
また,本件延長処分1の原因とされた上記被告の主張イの原告の構成
員であるAB及びACによる暴力的要求行為を拒絶した飲食店経営者に
対する殴打行為,上記被告の主張ウの原告の構成員であるADによる金
銭貸付けの要求行為は,単純なしのぎの問題にすぎず,原告による指示
があったり原告が何らかの関与をしたわけではなく,組織関与や名称利
用はないのであり,原告の威力を示したという要件に該当せず,上記各
事案を本件延長処分1の原因とすることは失当であり,同処分はその必
要性がないから,違法である。
(8)本件延長処分2の適法性(本案の争点6)
(被告の主張)
暴対法30条の8第2項が憲法21条1項及び31条に違反するものでは
ないことは上記(6)の被告の主張のとおりであるし,指定期限延長処分の要件
は,「当該指定の有効期間が経過した後において更にその指定の必要がある
と認めるとき」であり(暴対法30条の8第2項),上記(6)の被告の主張の
とおり,その意義は,指定の有効期間が経過した後においても,おそれ要件
が満たされると認められる場合を意味するところ,原告については,下記ア
ないしウの事情を総合すると,本件延長処分1によって延長された指定の期
限である平成26年12月26日以降においても,原告の構成員による更な
る要件該当暴力行為が繰り返されるおそれがあり,本件処分の効力を存続さ
せる必要があることが明らかであるから,本件延長処分2は,指定期限延長
処分の要件を満たし,かかる実態が1年未満で解消される見込みがあるとは
認められないから,指定期限の延長期間を1年間として本件延長処分2を行
ったのであり,同処分は適法である。
ア上記(7)の被告の主張のとおり,本件延長処分1以降,原告の構成員
が要件該当暴力行為を行うおそれについて事情の変更がない。
イ本件延長処分1以降の暴力的要求行為の敢行
本件延長処分1から本件延長処分2の直前までの間に①原告の構成員
に対して暴力的要求行為に係る中止命令が1件発出されているほか,②
原告の構成員であるAGが,被害者に携帯電話機等を購入させた上,そ
れらを同人から脅し取ろうと考え,平成26年8月9日,福岡市j区内
の公園において,被害者に対し,「自分はヤクザで工藤會の者です。」,
「こういうのも彫っています。」などと言い,同人に対し,着衣の胸元
から入れ墨を示した上,「今から○○行けますか。」,「携帯電話を契
約して欲しいんですよ。」などと言い,さらに,福岡市f区内において,
同人に対し,「自分の知り合いのところで売れるんですよ。」,「終わ
ったら渡して下さい。」などと申し向けて携帯電話機等の交付を要求し
て携帯電話機等4点を喝取し,もって,原告の威力を示して,人に対し
てみだりに金品等の贈与を要求したという暴力的要求行為に該当する恐
喝事件が1件敢行されている。
ウその他の事情
(ア)本件延長処分1から本件延長処分2までの間に原告の構成員である
AHによる報復等目的の暴力行為により被害者に傷害を負わせるとい
う事案が発生しており,かかる事実は原告の構成員がその要求を貫徹
するためには人の身体を負傷させてもかまわないという傾向を有して
いることを示しており,原告において繰り返し要件該当暴力行為を行
うおそれがある一事情と評価することができる。
(イ)また,本件延長処分1から本件延長処分2までの間の平成26年9
月1日,北九州市b区内において,原告の構成員であるAIが,自動
装てん式けん銃1丁をこれに適合する火薬類であるけん銃実包26発
と共に保管して所持した原告の構成員が敢行した銃器,手りゅう弾そ
の他高度の殺傷能力のある凶器等の所持又は使用に係る事件が1件発
生しており,本件延長処分1以降も,原告の構成員が高度な殺傷能力
のある凶器を所持して武装している上記事実は,このような凶器を使
用して敢行される要件該当暴力行為が繰り返し行われるおそれを推認
させるものである。
(ウ)さらに,本件延長処分2の直前の時点における原告の代表者等15
名のうち全員が平成12年1月から本件延長処分2の直前までに発生
した要件該当暴力行為の際にも原告の代表者等であること,本件延長
処分2の直前の時点における原告の代表者等15名のうち全員が,本
件延長処分1の時点にも原告の代表者等であったこと,平成12年1
月から本件延長処分2の直前までの間に発生した要件該当暴力行為を
含む報復等目的の暴力行為35件に関与し,本件延長処分2の直前の
時点において生存している原告の構成員41名のうち,33名(約8
0%)は,同時点においても引き続き構成員であったこと等,原告の
代表者等にほぼ変更がなく,かつ,要件該当暴力行為等に関係した者
のほとんどが引き続き構成員であるという事実等に照らせば,原告に
おいて繰り返し要件該当暴力行為を行うおそれを示しているものとい
える。
(エ)さらに,①平成10年2月18日に暴対法9条2号又は5号に該当
する暴力的要求行為を被害者の親族等が拒絶したことから北九州市b
区内において拳銃を使用した殺人事件が敢行されており,要件該当暴
力行為に該当するものであるところ,平成26年10月2日に原告の
総裁であるC及び原告の会長であるAJが同事件の共犯として起訴さ
れており,原告の代表者等が過去に要件該当暴力行為を敢行した者で
あることが認められたほか,②平成25年1月28日に福岡市f区内
において発生した刃物使用の殺人未遂事件について,上記C及びAJ
らがいわゆる組織的な殺人罪(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規
制等に関する法律違反4条,3条1項7号)により起訴されていると
ころであるが,かかる事実は,原告が一般市民に対して凶器を用いて
生命身体に対する重大な加害行為を行うことを裏付けている。
(原告の主張)
上記(6)の原告の主張のとおり,本件延長処分2の根拠となる暴対法30条
の8第2項は憲法21条及び31条に違反する上,本件延長処分2の要件で
ある暴力的要求行為の該当性については,原告の指示があったり,原告が何
らかの関与をしたり,原告の威力を示す等の要件該当性はなく,本件延長処
分2の必要性は認められないから,同処分は違法である。
第3当裁判所の判断
1認定事実
証拠(各項目末尾掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認
めることができる。
(1)暴対法の制定及び改正経緯等
ア暴対法の制定経緯
(ア)広域暴力団の拡大,寡占化
全暴力団の構成員及び準構成員(暴力団の構成員ではないが,暴力団
と関係を持ちながら,その組織の威力を背景として暴力的不法行為等を
行う者,又は暴力団に資金や武器を供給するなどして,その組織の維持
運営に協力若しくは関与する者をいう。)のうち主要な広域暴力団であ
る山口組,稲川会及び住吉連合会(現住吉会)の3団体の構成員等が占
める割合は昭和56年においては約2割であったが,その後,上記3団
体を始め広域暴力団の勢力の拡大が著しく,全暴力団勢力がほぼ横ばい
状態あるいは微減ないし微増傾向で推移しているにもかかわらず,これ
らの団体による暴力団の寡占化が急速に進行し,全暴力団の構成員等の
数の約半数を占めるに至り,上記3団体にその余の広域暴力団を含めた
構成員等の数は全暴力団の構成員等の数の80%を上回った。
広域暴力団の勢力の拡大は,主に,地方の中小の暴力団を系列下に収
め,又はその構成員を吸収することによって行われ,地方の中小の暴力
団は,広域暴力団の傘下に入らなければ容易に資金を獲得できない状態
に陥り,他方,広域暴力団にとっては,勢力を拡大し,組織の威力を増
大させて更に資金獲得活動等を活発化させ得るという点において,双方
の利害が一致し,この相乗的効果により,広域暴力団の拡大,寡占化が
一層進行し,広域暴力団の組織の威力が増大するという状況にあり,暴
力団の社会,経済に与える影響は大きくなった。
(乙1の14頁ないし16頁,143頁,2の9頁ないし12頁,25
頁,26頁,弁論の全趣旨)
(イ)暴力団員による民事介入暴力行為の増加
上記(ア)の広域暴力団の勢力の拡大,寡占化により,構成員が,暴力団
の威力を背景にこれを利用し,民事上の権利者や一方当事者,関係者の
形を採って一般市民の日常生活又は経済取引に介入,関与して違法,不
当な利益の獲得を図ろうとするいわゆる民事介入暴力を行うこと(民事
介入暴力行為)が容易になった。暴力団員による民事介入暴力行為に関
して都道府県警察が受理した相談件数は,昭和56年には9665件(う
ち検挙件数は1207件)であったが,平成2年には相談受理件数は2
万2844件(うち検挙件数3052件)に増加しており,これらの民
事介入暴力行為は手口が巧妙になっていることから,検挙による被害の
拡大防止の対象とならない事例が多く,一般市民がこれらによる被害を
甘受せざるを得ない状況となっていた。そして,暴力団員から民事介入
暴力行為を受けた被害者は執拗に要求・暴行を受けるなどし,家族に累
が及ぶことや要求が際限なく続くこと,将来にわたる暴行・脅迫等の不
安を感じる等の精神的な苦痛を受けていた。
一方で,暴力団の威力を利用することにより民事問題の解決を図ろう
として,暴力団員に対し,債権取立て,交通事故の示談交渉,不動産賃
貸借のトラブルの解決等の日常生活に身近な事項を依頼する者も少なか
らず存在し,暴力団の活動が一般市民にまで及ぶなどしていた。
(乙1の19頁ないし26頁,144頁ないし149頁,150頁,2
の12頁ないし17頁,3の116頁,117頁,4,弁論の全趣旨)
(ウ)暴力団間の対立抗争事件の多発
暴力団は,その組織の拡大又は縄張・資金源の拡大・維持のために,
他の暴力団との間の対立抗争を引き起こしてきており,単に暴力団相互
間における殺傷被害の発生にとどまらず,一般市民に対する多大の恐怖
感や不安感を与えてきたが,上記(ア)の広域暴力団の拡大,寡占化の結果,
これらの団体間において抗争が発生した場合には,その対立抗争は全国
的かつ長期間にわたるだけでなく,続発する危険性を伴う状況になって
いた。
暴力団の対立抗争は,昭和60年に全国的な規模で多発した山口組と
一和会との対立抗争(同年の対立抗争の総発生回数293回)が終結し
た後においても,平成元年には156回,平成2年には146回も発生
する等毎年頻繁に発生していた。当時の対立抗争は,80%を超える抗
争事件で拳銃等の銃器が使用されており,組員1人につき拳銃1丁とい
われるほどに,暴力団の間に大量の拳銃が普及している状況にあったた
め,暴力団事務所付近の住民に多大な不安を与えるとともに,児童の通
学路の変更,商店街の客足の減少等,市民の日常生活に甚大な影響を与
えていた。また,暴力団事務所付近の民家に銃弾が撃ち込まれる事件が
多数発生し,対立抗争の巻き添えにより市民が死傷する事件も昭和60
年から平成2年までの間に8件発生する(うち平成2年に発生した3件
は,暴力団員により一般市民が対立抗争の巻き添えにより射殺された死
亡事件)等市民の対立抗争の巻き添え被害も発生していた。
さらに,暴力団相互間の対立抗争が発生した場合,警察による構成員
の検挙,暴力団に対する警告等,警察官による暴力団事務所周辺の警戒
等を行うものの,必ずしも対立抗争を終結させることはできず,長期間
にわたり対立抗争が続くことも少なくなかった。一方,暴力団は,対立
抗争に参加した構成員を賞揚する措置を執っているため,対立抗争が発
生した場合には,服役することになっても,対立抗争に参加するという
考えの構成員がほとんどであり,このことが対立抗争の激化,長期化の
一因となっていた。
(乙1の23頁ないし26頁,163頁,164頁,2の13頁,16
頁,弁論の全趣旨)
(エ)暴力団に対する世論
警察庁が民間調査機関に委託して,平成元年に一般市民3000人を
対象に行ったアンケート調査(有効回答数2163人)の結果では暴力
団が社会的に必要がないと回答した者が全体の81.6%,暴力団を作
ることを法律により規制することを望む者が全体の73.9%を占めて
いた。また,平成3年2月から3月に行ったアンケート調査の結果でも,
暴力団に対する新たな規制法を制定する必要があるとした者及び国・自
治体への要望として暴力団員の民事介入暴力行為を禁止してほしいとす
る者が,いずれも90%を超えていた。(乙1の31頁,32頁,16
5頁ないし171頁,2の50頁ないし57頁,弁論の全趣旨)
(オ)暴対法の制定経緯及び審議の経過
a暴対法の制定経緯
警察による暴力団取締りに対し,暴力団は,民事介入暴力行為や企
業対象暴力行為等により暴対法制定前の法令では必ずしも犯罪として
検挙し得ないようなグレーゾーンでの資金獲得を図るなどの対抗手段
を執るなどしていた上,広域暴力団の拡大,寡占化に伴う対立抗争に
よる一般市民の不安等も増大した。このような暴力団情勢の変化,変
質に鑑み,新たな暴力団対策の必要性が行政及び国民の双方に認識さ
れるようになり,警察庁においては,暴対法制定前の法令では規制対
象とならなかった暴力団員による各種の不当な行為を規制していくべ
きであるとの結論に達し,①暴力団員による非犯罪的不当行為を行政
命令によって規制すること,②警察としての治安責任を果たすために,
暴力団相互間の対立抗争が発生した場合に,現在の緊急事態に対処す
る最低限度の対策を行政的手法によって行うこと,③民間における暴
力団追放運動の促進を図る機構(暴力団追放運動推進センター)を整
備することを基本的な内容とする新法案を作成し,その成立を図るこ
ととした。(乙1の37頁ないし40頁,弁論の全趣旨)
b審議の経過
上記aの内容の暴対法の法案は,閣議決定された後,第120回国
会において,衆議院に提出されて,衆議院地方行政委員会に付託され,
平成3年4月19日,審査の上,同委員会において採決され,同月2
3日,衆議院本会議において全会一致で可決され,参議院に送付され
た。上記委員会においては,「暴力団の不法,不当な行為による国民
の権利,自由への侵害はいまや放置することができない実情にあるこ
とに鑑み,関係機関の協力を緊密にし,暴力団の壊滅のための総合的
かつ有効な対策を確立することに努めるとともに,本法の的確な運用
を含めて暴力団の不当行為及び犯罪の摘発,取締りを強化し,その解
体と団員の更生を推進すること」等を政府の留意事項とする附帯決議
が付された。また,参議院においては,同院の地方行政委員会に付託
され,同月26日,審査の上,同委員会において採決され(衆議院地
方行政委員会と同内容の附帯決議が付された。),同年5月8日,参
議院本会議において全会一致で可決されて成立し,暴対法は,同月1
5日に公布され,平成4年3月1日に施行された。(乙5の1~5の
6,弁論の全趣旨)
c暴対法の内容
(a)暴対法は,一定の要件を満たす暴力団について,その暴力団の構
成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長す
るおそれが大きい暴力団として指定し(同法3条),指定された暴
力団(指定暴力団等(同法2条5号))(指定暴力団(同条3号)
又は指定暴力団連合(同条4号)をいう。)の構成員(指定暴力団
員(同法9条柱書))に対し,暴対法による規制が及ぶものとして
いる(同法3条及び4条)。そして,暴対法3条は,暴対法の規制
対象となる暴力団員(指定暴力団員)を特定するために,社会的に
暴力団と認められている団体の特性を要件化し,①同条1号で団体
の実質的目的についての要件を定め,②同条2号で暴力団には暴力
団員が犯すことの多い犯罪等の行為を行った経歴のある者が著しく
多く含まれている事実に着目し,構成員又は幹部の中に一定の比率
を超える犯罪経歴保有者がいる団体であることを要件とし,③同条
3号で暴力団を組長等の統制を受けて階層的に構成されている団体
であることを要件として定めた。
(b)指定暴力団員は,暴対法9条(暴力的要求行為の禁止),12条
の3(準暴力的要求行為の要求等の禁止),16条(加入の強要等
の禁止),17条(加入の強要の命令等の禁止),20条(指詰め
の強要等の禁止),21条(指詰めの強要の命令等の禁止),24
条(少年に対する入れ墨の強要等の禁止),25条(少年に対する
入れ墨の強要の要求等の禁止),29条(事務所等における禁止行
為)及び30条の2(損害賠償請求等の妨害の禁止)の各規定に定
める行為等を行うことが禁止され,指定暴力団員がかかる禁止行為
を行った場合には,都道府県公安委員会は,当該行為を中止するこ
と(又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項)
や再発防止等を命ずること等ができるとしている(暴対法11条,
12条の2,12条の4,18条,19条,22条,23条,26
条,27条,30条,30条の3及び4)。
イ特定危険指定暴力団等の指定等に関する規定の制定経緯
(ア)暴対法改正前の暴力団の情勢
平成24年の暴対法改正前においては,暴力団との関係の遮断を図る
ため,暴力団からのみかじめ料の要求を拒絶した事業者等に対して構成
員がその報復として拳銃の発砲,手りゅう弾の投てき,放火といった危
険な暴力行為を行う事案(①原告の構成員らが,平成21年11月,原
告によるみかじめ料要求に応じなかった山口県内のぱちんこ店に対して
ガソリンをまいて放火した下記の第6事案,②暴力団構成員らが,平成
22年9月,当該暴力団による不当要求に応じなかった名古屋市内の飲
食店に対してガソリンをまいて放火し,従業員を死亡させた事件等)が
相次いで発生しており,このような暴力団の危険な行為が,事業者等に
対する大きな脅威となっていた。暴力団によるとみられる事業者襲撃等
の事件は平成19年から平成24年6月までの間に全国で105件発生
しており,特に福岡県においては,上記期間に全国で発生した暴力団構
成員等による襲撃事件全体の約6割が集中して発生しており,平成22
年に発生した事案11件のうち少なくとも3件,平成23年に発生した
事案27件のうち少なくとも14件がいずれも同県で発生している。
平成24年6月19日の第180回国会参議院内閣委員会において,
平成23年11月に福岡県内で発生した建設会社役員射殺事件,平成2
4年4月に同県内で発生した元警察官銃撃事件について,いまだ市民が
活動している時間帯である夕刻過ぎや通学時間帯である早朝に,住宅街
で発生しており,地域住民の生活が不安と恐怖にさらされていること,
平成15年に同県内において,暴力団追放運動に積極的に関わっていた
飲食店経営者の店に手りゅう弾が投げ込まれて従業員ら11名が重軽傷
を負った事案が発生したこと,平成22年から平成23年にかけて,同
県内において,暴力団撤去運動のリーダーの自宅に銃弾6発が撃ち込ま
れるという事案が発生したこと,上記の名古屋市内の飲食店の事件が発
生したことなど,市民生活が脅威にさらされている状況やかかる暴力団
の凶悪化の傾向が企業による健全な経済活動をも脅かすものであり,暴
力団による凶悪な行為の規制について,多くの企業や住民が切実に願っ
ていることなどが指摘された。また,平成24年6月20日の参議院内
閣委員会においても,資金獲得を図ろうとする暴力団の意向に沿わない
事業者に対する報復などを目的とした暴力行為が多発し,拳銃のほか,
手りゅう弾等の殺傷能力の高い武器が使用されるようになった傾向があ
り,平成23年3月にはガス会社社長宅,電力会社会長宅に対して,平
成24年2月には建設会社事務所に対して,手りゅう弾が投てきされる
事件が発生したこと,平成23年から平成24年5月末までの間に33
件の暴力団などによると見られる事業者襲撃などの事件が発生し,うち
27件が九州で発生したことや,これらの犯行に拳銃や手りゅう弾など
が用いられたことが指摘されている。
(乙8~10,11の1及び2,26の8の1及び8の2,弁論の全趣
旨)
(イ)平成24年改正前の暴対法の問題点
平成24年改正前の暴対法においても,みかじめ料要求を始めとする
暴力団の威力を示して行う不当な要求行為(暴力的要求行為・暴対法2
条7号)については,同法9条により禁止されてはいたものの,違反し
た者に対して中止命令等を発出することができるのみであって,命令違
反者には罰則があるものの,危険な暴力行為に発展するおそれのある暴
力的要求行為等の抑止としては不十分であるという問題があった。また,
中止命令等は個別の組員に対して発出されるものであることから,異な
る組員によって次々と暴力的要求行為等が行われた場合に対処すること
が困難であるという問題があった。(乙10の4頁,12の4頁,弁論
の全趣旨)
(ウ)暴対法の改正による特定危険指定暴力団等の指定に関する規定の制
定に至る経緯等
a暴力団の資金獲得行為に伴う市民に対する危害行為が生じている
状況の下,福岡県知事,同県公安委員会,北九州市長及び福岡市長
は,平成23年4月,警察庁及び国家公安委員会に対して,民間事
業者等を襲撃する指定暴力団事務所の使用制限強化等の暴対法の抜
本的改正を含む暴力団対策の強化を要請した。警察庁は,これを受
けて,暴対法の改正も視野に入れて,有効かつ強力な暴力団対策の
在り方を検討するため,憲法,刑法,行政法や民事訴訟法等の関係
学界,法曹界,言論界,関係業界のほか,関係地方公共団体からの
有識者合計13名により構成される「暴力団対策に関する有識者会
議」(以下「有識者会議」という。)を開催し,上記のような暴力
団情勢及び危険な暴力行為に発展するおそれのある暴力的要求行為
の抑止が十分でないこと等の平成24年改正前の暴対法の問題点を
踏まえ,資金獲得行為等に伴う市民への危害行為を防止するための
規制の強化として,指定暴力団員が暴力的要求行為等を行うについ
て人の生命又は身体に重大な危害を加える方法により暴力行為を行
い,さらに同様の暴力行為を行うおそれがあると認められる場合に
は,都道府県公安委員会がその指定暴力団員が所属する指定暴力団
等を特定危険指定暴力団等として指定するとともに,人の生命又は
身体を保護するため特に警戒を要する区域を指定するものとし,特
定危険指定暴力団の構成員が警戒区域内の事業者等に暴力的要求行
為等を行った場合は,命令の発出を待たずにこれを直ちに処罰する
ことができるようにすることなどを内容とする暴対法の改正骨子案
を作成した。
有識者会議は,平成23年10月28日,11月25日及び12月
16日の3回にわたり,警察庁から示された上記改正骨子案について
検討,議論し,平成24年1月5日,同骨子案について,必要かつ目
的にかなったもので,内容も妥当であり,基本的に了承するとして,
有識者会議の意見を踏まえて立案されることとなる暴力団対策法の一
部を改正する法律案が速やかに成立することを期待する旨記載した報
告書を取りまとめた。
(乙10の2頁ないし5頁,14頁,15頁,11の1,12,弁論
の全趣旨)
b上記の経過を経て,警察庁は,①暴力団員が暴力的要求行為等を
拒絶した相手方等に対して危険な暴力行為を反復して行うおそれが
ある場合において,そのような暴力行為に発展する危険性のある暴
力的要求行為に対する抑止力を高めることにより暴力行為の発生を
防止する必要があり,上記のようなおそれがある状況下においては
当該暴力団員の所属する暴力団の危険性が市民に認識され,暴力的
要求行為そのものが市民に対してより強度の不安と困惑を与える法
益侵害性の高いものとなる等といった事情に鑑み,指定暴力団員が
暴力的要求行為に関連して危険な暴力行為を行い,かつ,その所属
する指定暴力団等の指定暴力団員により更に反復して同様の暴力行
為が行われるおそれがあると認められるときなどには,当該指定暴
力団等を特定危険指定暴力団等として指定すること(暴対法30条
の8)や同指定において警戒区域として定められた区域内で行われ
る当該指定暴力団等の指定暴力団員による暴力的要求行為等を直ち
に処罰の対象とすること(同法46条3号),②暴力的要求行為が
行われること自体を抑止する必要性が高まっていることに鑑み,暴
力的要求行為の前段階の行為である暴力的要求行為を行う目的で警
戒区域内で行われる面会要求等の行為についても規制の対象とする
こと(同法30条の9),③指定暴力団員が暴力的要求行為を拒絶
した相手方等に対して更なる暴力行為を行うことを抑止するため,
当該特定危険指定暴力団等の事務所が暴対法30条の8第1項の暴
力行為に関し,多数の指定暴力団員の集合の用等に供されており,
又はそのおそれがあると認めるときに3か月以内の期間を定めて使
用制限命令を発出することができること(同法30条の11)によ
り,当該特定危険指定暴力団等の指定暴力団員への規制を強化する
ことを内容とする暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律
の一部を改正する法律案を作成した。(弁論の全趣旨)
c上記bの法律案は,閣議決定された後,第180回国会に提出さ
れ,参議院内閣委員会に付託され,平成24年6月20日,審査の
上,同委員会において採決され,同日,参議院本会議において可決
された後,衆議院に送付された。そして,同法律案は,衆議院内閣
委員会に付託され,同年7月20日,審査の上,同委員会において
採決され,同月26日,衆議院本会議において可決され,成立した。
その後,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を
改正する法律(平成24年法律第53号)は,同年8月1日に公布
され,一部を除き,同年10月30日から施行された。(乙11の
1~11の5,弁論の全趣旨)
(2)原告に対する3条指定処分,活動拠点等
ア原告に対する3条指定処分等
原告は,平成4年6月26日,二代目工藤連合草野一家として3条指
定処分を受けた後,三代目工藤會,四代目工藤會,五代目工藤會に順次
名称を変更しながら,8回にわたり3条指定処分を受けており,平成2
2年6月22日に7回目,平成25年6月20日に8回目の3条指定処
分をそれぞれ受けている。Cは,遅くとも平成12年3月1日以降原告
の代表者となっており,本件処分,本件延長処分1及び同2の際にも原
告の代表者であった。(乙14の1及び2,弁論の全趣旨)
イ原告の活動拠点等
原告は,本件処分直前の平成24年11月2日時点において,本件各
区域内において,北九州市内に本部事務所を含む,少なくとも32か所
の事務所を,福岡市内に4か所の事務所を,行橋市内に少なくとも1か
所の事務所を,中間市内に1か所の事務所を,宮若市内に1か所の事務
所を,鞍手郡内に1か所の事務所を,遠賀郡内に2か所の事務所を,築
上郡内に1か所の事務所を設置している。
また,同月16日時点において,福岡県内の原告の構成員の居住者数
は福岡県警察本部暴力団対策部において507名と把握されており(他
県居住者数は65名,居宅が判明しなかった者は18名),本件各区域
における原告の構成員の居住者について,北九州市内が325名,福岡
市内が47名,行橋市内が19名,豊前市内が1名,中間市内が18名,
春日市内が9名,宮若市内が4名,遠賀郡内が12名,鞍手郡内が3名,
京都郡内が13名,築上郡内が4名である。
原告は,平成15年から平成24年までの間,上記の平成23年の四
代目工藤會から五代目工藤會への組織名称の変更前後を通じ,原告傘下
の組事務所において,北九州市(門司区,若松区,戸畑区,小倉北区,
小倉南区,八幡東区,八幡西区),行橋市,豊前市,中間市,宮若市,
遠賀郡(芦屋町,水巻町,岡垣町,遠賀町),鞍手郡(小竹町,鞍手町),
京都郡(苅田町,みやこ町),築上郡(吉富町,上毛町,築上町)を原
告の「縄張り」であることを示す「四代目工藤會縄張り一円」と題する
資料(地図)を掲示する等している。
(乙13の2,14の1及び2,33の1及び2,34の1及び2,4
4,58,弁論の全趣旨)
(3)本件処分時までの原告の構成員等による暴力行為等の敢行
ア原告の構成員による第1事案ないし第7事案の敢行
(ア)第1事案
原告の構成員であるDは,原告の構成員による利用を拒絶しており,
かつ,同人が原告の構成員であることを知っていたゴルフ場の幹部職員
に対し,「じゃあ,わしらはゴルフはできないとか。」などと言って原
告の構成員による同ゴルフ場の利用を要求したが,これを拒絶されたこ
とから,これに対する報復等のため,原告の構成員であるE及びFらが,
共謀の上,平成12年10月22日,福岡県京都郡a町内の同ゴルフ場
の支配人方において,支配人に対し,殺意ないし傷害を負わせる意図を
もって,短刀様の刃物でその胸部を突き刺したが,支配人を死亡させる
に至らなかった。(乙15の1~15の4,弁論の全趣旨)
なお,原告は,Dが原告の構成員であったことを否認するが,証拠(乙
15の2,64,65)及び弁論の全趣旨によれば,Dは,平成12年
当時,福岡県警察本部暴力団対策部組織犯罪対策課において工藤會田中
組内田上組相談役として把握されていたこと,同人が平成21年11月
13日にb区役所に生活保護(原則として暴力団員が受給することはで
きない。)の申請を行った際,上記田中組の若頭の地位にあったAK名
義の,上記Dが過去に上記田中組の構成員であったが現在は同組に在籍・
活動していないことを証明する旨の文書を提出したことが認められ,こ
れらの事実に照らせば,第1事案を敢行した際にDが原告の構成員であ
ったものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ)第2事案
北九州市b区所在のビルの所有権を競売により取得した特定の組合が,
原告の下部組織である工藤會大東亜組が同ビルを組事務所として利用し
ていたことから,弁護士に法的手続を依頼して平成12年12月20日
に所有権に基づいて大東亜組に対して同ビルからの退去を求めたところ,
原告の構成員(工藤會大東亜組)の組員として活動していたGは,上記
組合の退去要求に対する報復のため,平成13年2月18日,北九州市
b区内において,同組合の理事長が管理する店舗に普通乗用自動車を突
入させ,同店舗出入口シャッターを破損させるなどした。(乙16の1
及び2,弁論の全趣旨)
(ウ)第3事案
原告の構成員であるHは,北九州市c区内のビルで同ビルのオーナー
と賃貸借契約を締結した上でエステ店を営んでいる被害者に対し,同ビ
ルからの立ち退きを要求したが,被害者がそれに応じることなく同店の
営業を続けたことから,これに対する嫌がらせ等のため,平成14年9
月18日,原告の親交者であってHから指示を受けた者と共謀の上,同
店が入居する同ビル内に設置されているエレベーター内の床にガソリン
を散布の上,所携のライターで点火した紙片を投じてガソリンに引火さ
せ,現に従業員のいる建造物を焼損した。(乙17の1~17の3,弁
論の全趣旨)
なお,被告は,第3事案につき,Hが被害者に対して「工藤會の方針
だから中国人は出てくれ。」と述べて同ビルからの立ち退きを要求した
旨主張するが,上記文言を述べたことを裏付ける証拠として被告が提出
する乙17の2には,福岡県警察本部暴力団対策部組織犯罪対策課の警
部補が部下に作成させたとされる「暴力団関係者検挙連絡」と称する文
書において,Hが上記の文言による立ち退き要求の犯罪事実を認めてい
たことを示す記載があるものの,これを裏付けるHの供述調書等の証拠
はない上,乙17の2には,同警部補による第3事案の当時の捜査担当
者であるとされる福岡県南警察署の警部補に対する聞取り調査において,
同警部補が上記の犯罪事実の脅迫文言等については被害者調書等に基づ
き記載したので間違いない旨述べたことが記載されているものの,第3
事案の被害者の調書(乙17の3)には被害者がそのような文言による
要求を受けた旨の記載がないこと,その他これを裏付ける証拠はないこ
とに照らせば,被告の主張は採用することができない。
(エ)第4事案
原告においては,その縄張りとする地域にパチンコ店等が新規に開店
される場合,開店の挨拶としてみかじめ料を支払わせることを慣例とし
ているところ,福岡市d区内に新規ぱちんこ店の営業を開始し,暴力団
に対するみかじめ料支払の慣例を承知していた被害会社が,原告の構成
員から新規開店の挨拶に来るよう要求されたにもかかわらず,開店時に
当該地域を縄張とする原告(工藤會石田組)に挨拶に行かなかったこと
から,原告の構成員であるIが,その報復等のため,平成15年5月1
日,普通貨物自動車を運転し,従業員の存在する同ぱちんこ店の建物壁
面ガラスに向けて同車を後退させ,荷台の後部パワーゲートを水平にし
た同車後部を約6回にわたり建物壁面ガラス等に衝突させた上,同車を
同建物内に突入させた。
その後,上記突入行為にもかかわらず,上記被害会社が原告の構成員
によるみかじめ料名下の金銭を支払わなかったことから,同年7月12
日及び同月17日,大阪市内等において,原告が氏名不詳者をして,上
記被害会社の代表取締役に対し,「工藤會は人を殺す。」,「店舗の天
井にけん銃を撃ち込む用意,準備が正に今出来ているらしい。」,「(新
規ぱちんこ店の台数が)1000台あると言っている。」,「1000
台あれば2億円が必要だ。」,「今返事をして下さいよ。」,「工藤會
はまさに第二段の攻撃をすると言うてます。」,「工藤會は何をするか
判らないですよ。」などと申し向けてみかじめ料を要求したものの,被
害会社は工藤會にみかじめ料を支払わなかった。
原告の構成員であるJ,K,Mらは,共謀の上,上記みかじめ料の支
払に応じなかったことに対する報復のため,同年7月29日,大阪府東
大阪市内の上記被害会社が経営する来客が遊技中のぱちんこ店内におい
て,拳銃を発射し,さらに,原告の構成員であるNが,福岡市d区内の
同被害会社が経営する来客が遊技中のぱちんこ店内において,威迫のた
めに拳銃を発射した。
(乙18の1及び2,弁論の全趣旨)
なお,原告は,「工藤會は」という明確かつ具体的な表現を使用した
事実は,第4事案の起訴状及び判決書に記載がなく,証拠による裏付け
がない旨主張するが,判決書等に記載がないからといって直ちに上記の
事実がないということはできないし,上記認定の「工藤會」という文言
を含む文言によりみかじめ料の要求を受けた旨の供述を内容とする平成
15年8月4日付けの被害者の警察官に対する供述調書が存在し(乙1
8の2),これを覆すに足りる証拠がないことに照らせば,原告の主張
を採用することはできない。
(オ)第5事案
原告の構成員であるOは,平成16年12月22日,北九州市b区内
にあるホテルの土地・建物の不動産競売に関し,原告の意に反して同不
動産を競落した会社の実質的経営者であり,Oが原告の構成員であるこ
とを知っていた者に対し,「あんまり動かない方がいい」,「それに関
与すると大変なことになります」,「上の方から言われております」な
どと申し向けて脅迫し,同ホテルの経営から撤退することを要求したが,
同経営者がこれに応じないことから,報復のため,原告の構成員である
P及び同Qらが,共謀の上,平成17年8月29日,同市c区内におい
て,殺意をもって,同経営者に対し,同人が通勤に使用し,その時は同
人の運転手が一人で運転していた普通乗用自動車内の同運転手を目掛け,
続いて同車から降車して後方に逃走した同運転手を目掛け,それぞれ拳
銃を発射した。(乙19の1及び2,弁論の全趣旨)
(カ)第6事案
原告の構成員であるRらは,北九州市e区内の土地を購入してぱちん
こ店の出店を計画していた会社(被害会社)の代表取締役に対し,平成
19年9月20日,ぱちんこ店の新規開店に伴うみかじめ料名下に「こ
の土地には工藤會が絡んでおり,工藤會はぱちんこ台1台当たり10万
円出すように言っている」,「ぱちんこ台1台当たり10万円を出すこ
とを承諾されないと大変なことになりますよ」,「工藤會は一銭もまか
らんと言っている」などと申し向け,同年10月12日,「あの店をや
るんだったら,組への支払はどう考えているんですか。組への支払をさ
れないと大変なことになりますよ」,「息子さんが大変なことになると
言っているんですよ。それでも良いのですか。社長をやっても金になら
ない。息子をやられたくなかったら金を出せと言っているんですよ」,
「私への仲介料を足して,工藤會に支払うものを支払われたらどうです
か」などと申し向けて脅迫し,金銭の支払を要求したが(恐喝行為1),
被害会社がぱちんこ店の建設を断念して上記要求に応じなかった。その
後,被害会社が再度ぱちんこ店を建設し始めたことから,Rらは,平成
21年9月30日,被害会社の代表者に対し,「工藤會から呼ばれて,
『工事が始まっているではないか,どうなっているんだ,お前たちも知
っていたんだろう』と言われた。『即刻工事を中止させろ』と言われて
いるが,どうされるんですか」,「工藤會から台当たり10万円はどう
なっているのかと聞かれている」などと申し向けて脅迫し,再度みかじ
め料名下に金銭の支払を要求したが(恐喝行為2),同被害会社がこれ
に応じなかった。Rは,被害会社が2度にわたるみかじめ料の要求を受
けたにもかかわらず,その支払に応じなかったことから,その報復及び
嫌がらせの目的で,同年11月14日,原告の構成員及び原告の親交者
と共謀の上,山口県防府市内の被害会社が経営するぱちんこ店(2階に
は従業員の居室を有する。)の1階床面にガソリンを流出させた上,ガ
ソリンを染み込ませた布片をライターで点火して投棄して火を放った(放
火行為)。(乙20の1~20の4,弁論の全趣旨)
なお,原告は,第6事案の恐喝行為1について,原告の構成員ではな
い不動産業者が実質的には単独で実行した事案である旨主張するが,恐
喝行為1について上記認定のとおり原告の構成員であるRらが行ったも
のであるとして同人につき恐喝未遂罪による有罪判決が確定していると
ころ(乙20の3),これを覆すに足りる証拠がないから,原告の主張
は採用することができない。
(キ)第7事案
原告の構成員であるSは,同人及びTが原告の構成員であることを認
識し,同人らとともに貸金業を営むための出資を断った者に対し,平成
22年2月末頃,「今更,そんなこと出来るわけないやろうが」,「俺
は兄弟に何て説明すればいいとか」,「ケジメ取ってもらうぞ」,「も
しかしたら,お前を殺すことになるかもしれんぞ」などと語気鋭く申し
向けて金銭の支払を要求したが,被害者がその支払に応じなかったこと
から,原告の構成員であるT及びSは,共謀の上,被害者を畏怖させて
当該要求に応じさせるため,同年8月18日頃から同年9月27日頃ま
での間,被害者に対し,「お前,北九のヤクザおちょくっとったら殺す
ぞ」,「750万はちゃんと払ってもらう」,「金払うか殺されるかは
自分で選べ」,「750万の借用書を書け」などと語気鋭く申し向けて
脅迫するなどし,被害者から合計41万円を喝取した。同年8月30日
頃の脅迫の際には,Sは,福岡市f区内において,被害者の頸部にアイ
スピック様の物を突き付けるなどの暴行も行った。(乙21の1~21
の4,弁論の全趣旨)
イ原告の構成員による暴力行為の敢行等
(ア)原告の構成員による暴力行為,暴力的要求行為等の敢行状況
Cが原告の代表者となった平成12年以降本件処分時直前の平成24
年11月15日までの間に,原告の構成員に対して暴力的要求行為等に
係る中止命令等(中止命令及び再発防止命令。以下,同じ。)が少なく
とも71件発出されているほか,原告の構成員により32件の報復等目
的の暴力行為(第1事案ないし第7事案を構成する9件の事件を含み,
被疑者死亡の1件を除く31件について有罪判決が確定している。)が
敢行されている上,同期間中の原告の構成員による恐喝,恐喝未遂,脅
迫等の事件について21件の有罪判決が確定している。これらの事件の
うち,原告の構成員により敢行され中止命令等が発出された暴力的要求
行為(暴対法9条2号)としては以下のような事案がある。(争いのな
い事実,乙23の1及び2,24の1~24の6,25の1~25の2
2の3,26の1~26の25の2,弁論の全趣旨)
a原告の構成員であるUは,平成21年5月11日,山口市内にお
いて,同人が原告の構成員であることを知っている被害者に対し,
失業保険の手続に関する紹介料名下に,「今日のことは人まで使う
ちゃったんぞ。誠意を見せえ。紹介料を出せ。わしはお前のために
動いちょるんぞ。来月から失業保険が入ったら半分よこせ。」など
と申し向け,原告の威力を示して,みだりに金員の支払を要求した。
b原告の構成員であるVは,平成22年10月下旬頃,福岡県行橋
市内において,同人が原告の構成員であることを知り,かつ,同人
から金銭を借り入れている被害者に対し,既に利息制限法の制限を
超える元利金の支払を受けているにもかかわらず,更に利息等の支
払を請求していたところ,被害者から債務の履行の猶予を求められ
るや,「何で返済せんのか。俺はヤクザやけん,そんなんじゃ話は
通らん。俺等は,これで飯食っていきよるんぞ。」などと申し向け,
原告の威力を示して,みだりに金員の支払を要求した。
c原告の構成員であるWは,平成24年5月29日,福岡県遠賀郡
g町内において,同人が原告の構成員であることを知っている建築
リフォーム業者に対し,損害賠償名下に,「どがんして払うか。5
0万円を一括して払わんか。どがんするとや。」などと申し向け,
念書を書かせるなどして,原告の威力を示して,みだりに金員の支
払を要求した。
(イ)原告の構成員による暴力行為等における凶器使用の実態
上記(ア)の原告の構成員により敢行,検挙された報復等目的の暴力行為
32件のうち,27件(84%)は凶器が使用されたものであり,21
件(66%)は人の生命等に重大な危害を加える方法が執られたもので
あり,また,平成12年以降本件処分の直前の平成24年11月15日
時点までに原告の構成員が敢行した銃器,手りゅう弾その他高度の殺傷
能力のある凶器等の所持又は使用に係る事件は,検挙されているものだ
けで少なくとも29件に達していて,ほぼ毎年認知されているという暴
力行為における凶器使用の実態がある。(争いのない事実,乙26の1
~26の25の2,乙27の1の1~27の23,弁論の全趣旨)
(ウ)原告の代表者等及び暴力行為等に関与した構成員の変動状況
本件処分直前の時点における原告の代表者等(暴対法3条3号)14
名のうち,第1事案ないし第7事案(9件)が敢行された際に原告の代
表者等であった者は約78%であり,また,上記(ア)の報復等目的の暴力
行為32件(第1事案ないし第7事案の9件を含む。)の敢行に関与し,
本件処分直前の時点において生存している構成員38名のうち,当該暴
力行為直後の指定暴力団としての指定時にも引き続き原告の構成員であ
った者は37名(97%)に達し,そのうち32名(84%)は,本件
処分直前の時点においても引き続き構成員である。(争いのない事実,
乙28の1~28の3,弁論の全趣旨)
ウ本件各区域に係る中止命令等の発出及び原告の構成員による暴力行為
等の敢行状況
(ア)北九州市
a平成12年以降平成24年11月15日までの北九州市を発生場
所とする暴力的要求行為等に係る中止命令等が34件発出されてお
り,これらの中止命令等に係る事案の内容の例としては以下のもの
がある。(乙23の1,24の1及び6,弁論の全趣旨)
(a)平成24年4月1日,同市において,原告の構成員であるALが,
性風俗店経営者に対し,原告の威力を示して,同風俗店事務所の不
当な明渡しを要求した。
(b)平成23年2月28日,同市において,原告の構成員であるAM
が,飲食店従業員に対し,原告の威力を示して,同店が営業を営む
ことを容認する代償として金員の供与を要求するとともに,同店に
おける用心棒その他これに類する役務の有償の提供を受けることを
要求した。
(c)平成22年12月21日,同市において,原告の構成員であるV
が,返済過払の債務者に対し,原告の威力を示して,利息制限法に
規定される利息以上の高利債権を取り立てるとともに,みだりに金
員の贈与を要求した。
(d)平成22年9月15日,同市において,原告の構成員であるAN
が,自動車整備業経営者に対し,同市内において営業を営むことを
容認する代償として金員の供与を要求した。
b上記イ(ア)の原告の構成員による平成12年以降平成24年11
月15日までの間の恐喝,恐喝未遂,脅迫等に係る有罪判決が確定
した21件のうち北九州市が発生場所である事案が14件存在して
おり,かかる事案の例としては以下のものがある。(乙23の1,
25の1~25の7の3,25の9の1~25の9の3,25の1
1の1~25の12の4,25の14の1~25の14の3,25
の17の1~25の17の3,25の20の1~25の20の3,
25の21の1~25の22の3,弁論の全趣旨)
(a)平成23年12月26日,同市内路上に停車中の普通乗用自動車
内において,原告の構成員であるAOが,被害者に対し,「上の方
の人から俺とお前の2人で50万円用意しろと言われた。」,「俺
は上の方の人から目を付けられとる。お前も一緒ぞ。」,「金がな
いと,俺は耳をそぎ落とされる。」などと申し向けて,現金19万
7590円を脅し取った。
(b)平成21年5月頃,同市において,原告の構成員であるAPらが,
被害者に対し,「AQさんの名前を勝手に出しとるやろ。」,「勝
手に工藤會の看板使うていいんか。」,「うちの看板はブランドや
け,安うないぞ。どうするつもりなんや。」などと申し向けて,原
告の構成員の名前を使ったと因縁を付けて,被害者から現金計20
0万円を脅し取った。
(c)平成21年2月10日頃,同市において,原告の構成員であるA
Rが,同人が取立てを依頼された債権の債務者側代理人である被害
者に対し,「俺はヤクザしとるんぞ,ASの者じゃ。」,「金すぐ
作ってこい。」などと申し向けて,同債権に係る紛争解決の謝礼名
目に金員を喝取しようとした。
(d)平成20年7月20日,同市において,原告の構成員であるAT
らが,カラオケ店の店長に対し,「いくらでもいい。」,「この地
区は昔からうちが面倒を見ている。何かあったら困るやろ。」など
と申し向けて,みかじめ料名下に金員を喝取しようとした。
(e)平成19年12月18日頃,同市において,原告の構成員である
AUが,被害者に対し,「200万円でよいぞ。」,「金を出さん
なら,嫁さんも家もガチャガチャにしちゃるぞ。」,「ヒネに言っ
たとしても,俺はヤクザやけん,何ともないけんな。」などと申し
向けて,同人の兄の行動に因縁を付け,同月25日頃,平成20年
1月30日頃及び同年2月24日頃,計154万円を脅し取った。
c上記イ(ア)の原告の構成員により平成12年以降平成24年11
月15日までに敢行された32件の報復等目的の暴力行為のうち以
下の事案を含む18件(第3事案,第5事案を含む。)が北九州市
内において敢行されている。(乙23の1,26の1,26の5~
26の12の2,26の14の1及び14の2,26の15の1及
び15の2,26の17の1及び17の2,26の18の1及び1
8の2,26の20の1及び20の2,26の24の1及び24の
2,26の25の1及び25の2,弁論の全趣旨)
(a)平成22年11月25日,同市において,原告の構成員であるA
Vが,企業舎弟の態度や同人が期待どおりに恐喝をしないことなど
に制裁を加える目的で,同人の頭部,左上腕部等を木刀で数回殴る
暴行を加え,同人に加療約18日間を要する左上腕打撲等の傷害を
負わせた。
(b)平成22年5月23日,同市において,原告の構成員であるAN
が,覚せい剤の購入要求を拒絶した者に腹を立て,購入要求を貫徹
する目的で,同人の左襟をつかんで左脇腹を1回足蹴にした上,同
人を引っ張って地面に転倒させる暴行を加えた。
(c)平成21年2月28日,同市において,原告の構成員であるAW
が,原告の構成員らとの縁を切るため電話に出なくなった者に制裁
を加える目的で,同人の頭部を缶ビールで1回殴打する暴行を加え,
さらに顔面等を2回足蹴にするなどの暴行を加え,同人に加療約1
6日間を要する右眼瞼皮下出血の傷害を負わせた。
(d)平成20年4月8日,同市において,原告の構成員であるAXら
が,暴力団の意向に沿わない者を畏怖させその意向に従わせる目的
で,同人方の居宅外壁等に向けて,拳銃で弾丸5発を発射し,外壁,
門柱,塀,窓ガラス,室内の座椅子等に命中させてこれらを損壊し
た。
(e)平成19年12月29日,同市において,原告の構成員であるA
Yが,被害者の被害申告により原告の構成員が服役させられたこと
への報復の目的で,殺意をもって,被害者の右臀部,左胸部等を穴
あき包丁で数回突き刺したが,同人に加療約3週間を要する右臀部
刺創,左胸部刺創等の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂
げなかった。
(f)平成18年1月中旬頃,同市において,原告の構成員であるAZ
らが,金員の交付要求を拒絶した者にその要求を貫徹する目的で,
マンションの一室に同人を正座させて周囲を取り囲み,ガラス製の
灰皿を投げつけ,アイスピック様のものを同人の大腿部寸前まで振
り下ろして止めるなどし,数人共同して同人に暴行を加えるととも
に,凶器を示して脅迫した。
(イ)福岡市
a平成12年以降平成24年11月15日までの福岡市を発生場所
とする暴力的要求行為等に係る中止命令等が4件発出されており,
これらの中止命令等に係る事案の内容の例としては以下のものがあ
る。(乙23の1,24の1及び6,弁論の全趣旨)
(a)平成19年10月25日頃,同市において,原告の構成員である
AAが,エステティックサロンの従業員に対し,原告の威力を示し
て,みだりに金員の贈与を要求した。
(b)平成19年6月8日頃,同市において,原告の構成員であるZが,
知人に対し,原告の威力を示して,みだりに金銭の貸付けを要求し
た。
(c)平成19年5月20日頃,同市において,原告の構成員であるZ
が,かねてから原告に加入するように勧誘をしていた一般人に対し
て,原告の威力を示して,みだりに金銭の貸付けを要求した。
b上記イ(ア)の原告の構成員による平成12年以降平成24年11
月15日までの間の恐喝,恐喝未遂,脅迫等に係る有罪判決が確定
した21件のうち福岡市が発生場所である事案として,平成21年
3月23日,福岡市周辺等において,原告の構成員であるBAらが,
同人の実父と養子縁組をしており,以前上記BAが所属している原
告の傘下組織と同じ組織に所属し,同人が原告の構成員であること
を認識している相手方に対し,相手方が消費者金融等からの借金の
返済を滞らせていたことに因縁を付けて金員を喝取しようと企て,
同人に対し,「お前がBBの名前で借金したのは必ず返さなつまら
んぞ。返さんかったら分かっておろうが。」,「組からはお前に何
もせんようにするけど,その代わり,お前が作った借金は,全部払
わんとつまらんぞ。」,「けじめとして150万円払え。」などと
申し向けて金員の支払を要求した事案が1件ある。(乙23の1,
25の1,25の16の1~25の16の4,弁論の全趣旨)
c上記イ(ア)の原告の構成員により平成12年以降平成24年11
月15日までに敢行された32件の報復等目的の暴力行為のうち,
平成12年6月12日,原告の構成員であるEが,原告の関係者が
被害会社の関係者から暴行を受けたことへの報復等の目的で,拳銃
を発射して被害会社の建物表出入口のガラス製外壁等を損壊した事
案を含む4件(第4事案,第7事案を含む。)が福岡市内において
敢行されている。(乙23の1,26の1,26の3の1及び3の
2,弁論の全趣旨)
(ウ)行橋市
a平成12年以降平成24年11月15日までの行橋市を発生場所
とする暴力的要求行為等に係る中止命令等が3件発出されており,
これらの中止命令等に係る事案の内容の例としては以下のものがあ
る。(乙23の1,24の1及び6,弁論の全趣旨)
(a)平成22年10月下旬頃,同市において,原告の構成員であるV
が,知人に対し,原告の威力を示して,みだりに金員の贈与を要求
した。
(b)平成22年10月下旬頃,同市において,原告の構成員であるB
Cが,知人に対し,原告の威力を示して,みだりに金員の贈与を要
求した。
b上記イ(ア)の原告の構成員が平成12年以降平成24年11月1
5日までの間の恐喝,恐喝未遂,脅迫等に係る有罪判決が確定した
21件のうち行橋市が発生場所である事案として,平成20年1月
14日,同市内を走行中の軽四輪乗用自動車内において,原告の構
成員であるBDが,同人と縁を切りたがっている者に対し,「俺も
堅気やないけの。縁を切るなら,それなりのけじめをつけてもらわ
なの。」,「サラ金にでも行って金を作れ。」などと申し向けて同
日及び同月17日,計40万円を脅し取り,さらに,同年2月19
日,BDが,原告の下部組織である川谷組事務所において,同人に
対し「俺も堅気やないんやけ,何らかの責任をとってもらわなな。」,
「俺と縁を切りたいんやったら50万円払え」などと申し向けて,
現金50万円を脅し取るなどした事案1件がある。(乙23の1,
25の1,25の8の1~25の8の3,弁論の全趣旨)
c上記イ(ア)の原告の構成員により平成12年以降平成24年11
月15日までに敢行された32件の報復等目的の暴力行為のうち,
平成22年3月23日,原告の構成員であるBEらが,金員の交付
要求を拒絶した者に対する要求貫徹の目的で,同市内を走行中の普
通乗用自動車の後部座席に被害者を監禁した事件を含む2件が行橋
市内において敢行されている。(乙23の1,26の1,26の1
9の1及び19の2,26の23の1及び23の2,弁論の全趣旨)
(エ)中間市
上記イ(ア)の原告の構成員により平成12年以降平成24年11月15
日までに敢行された32件の報復等目的の暴力行為のうち,平成13年
12月10日,原告の構成員であるBFらが,原告の活動の妨げとなる
暴力追放運動を萎縮させ,排除するために被害者を襲撃する目的で,金
属製の懐中電灯で同人の頭部,顔面等を多数回殴打し,折りたたみ式ナ
イフで同人の頸部,背部等を切り付けるなどの暴行を加え,同人に加療
約111日間を要する頭頂部挫創,右眼球破裂,右脈絡膜剥離等の傷害
を負わせた事案1件が中間市において敢行されている。(乙23の1,
26の1,26の4の1及び4の2,弁論の全趣旨)
(オ)春日市
a平成12年以降平成24年11月15日までの春日市を発生場所
とする暴力的要求行為等に係る中止命令等が4件発出されており,
これらの中止命令等に係る事案の内容は以下のとおりである。(乙
23の1,24の1及び6,弁論の全趣旨)
(a)平成24年7月,同市等において,原告の構成員であるBGが,
知人に対し,原告の威力を示して,みだりに金員の贈与を要求した。
(b)平成21年8月中旬頃,同市において,原告の構成員であるBH
が,同人に現金30万円を貸与した知人に対し,原告の威力を示し
て,債務の全部又は一部の免除又は履行の猶予をみだりに要求した。
(c)平成21年5月18日,同市において,原告の構成員であるBI
が,眼鏡の訪問販売業者に対し,原告の威力を示して,みだりに金
品等の贈与を要求した。
(d)平成19年10月18日頃,同市において,原告の構成員である
BIが,飲食店の店長に対し,原告の威力を示して,みだりに金品
等の贈与を要求した。
b上記イ(ア)の原告の構成員が平成12年以降平成24年11月1
5日までの間の恐喝,恐喝未遂,脅迫等に係る有罪判決が確定した
21件のうち春日市が発生場所である事案として,平成21年5月
10日頃から同月27日頃までの間,同市等において,原告の構成
員であるBJが,同人から不正電子部品の製造資金の提供を受けて
いた被害者に対し,「金の作り方はいろいろあろうが。」,「やく
ざのやり方で社長を追い込むようなことをさせんな。」,「家の権
利証で,金融屋を探しとるから,権利証をはよ持ってこい。」など
と申し向けて,提供資金の返済名目で実際の提供資金を超える金員
を脅し取ろうとした事案1件がある。(乙23の1,25の1,2
5の18の1~18の3,弁論の全趣旨)
(カ)宮若市
上記イ(ア)の原告の構成員により平成12年以降平成24年11月15
日までに敢行された32件の報復等目的の暴力行為のうち,平成16年
6月2日,原告の構成員であるBKが,下請参入要求に応じなかったぱ
ちんこ店経営者への報復目的で,同人が経営するぱちんこ店の出入口に
普通貨物自動車を衝突させ,出入口シャッター,出入口自動ドア等を損
壊し,威力を用いて業務を妨害した事案1件が宮若市において敢行され
ている。(乙23の1,26の1,26の13の1及び13の2,弁論
の全趣旨)
(キ)遠賀郡(芦屋町,水巻町,岡垣町及び遠賀町)
a平成12年以降平成24年11月15日までの遠賀郡を発生場所
とする暴力的要求行為等に係る中止命令等が2件発出されており,
これらの中止命令等に係る事案の内容は,いずれも,平成24年5
月29日,同郡において,原告の構成員であるWが,建築リフォー
ム業者に対し,原告の威力を示して,みだりに金員の贈与を要求し
たというものである。(乙23の1,24の1及び6,弁論の全趣
旨)
b上記イ(ア)の原告の構成員による平成12年以降平成24年11
月15日までの間の恐喝,恐喝未遂,脅迫等有罪判決が確定した2
1件のうち遠賀郡が発生場所とされている事案として,平成20年
9月7日頃,同郡等において,原告の構成員であるBLが,クリー
ニングを依頼した衣類を破損されたなどと因縁を付け,同人が原告
の構成員であることを認識しているクリーニング店の工場長等に対
し,「ボタンが無かろうが。」,「こんな事されたら,あんたんと
この工場やら家とかに火を付けたくなるの分かろうもん。」,「5
万円でいいよ。」,「あんたも家族がおるやろ。こっちもやりたく
ないことせないかんごとなるやろうが。」などと申し向けて,上記
工場長の上司から5万円を脅し取った事案1件がある。(乙23の
1,25の1,25の11の1~11の5,弁論の全趣旨)
c平成16年10月25日,原告の構成員であるBMが,遠賀郡内
の倉庫において,対人攻撃用破片型手りゅう弾2発を保管した凶器
保管の事案,平成17年10月28日,原告の構成員であるBNが,
遠賀郡内の飲食店において,自動装てん式拳銃1丁をこれに適合す
る実包13発とともに保管し,また,回転弾倉式拳銃1丁をこれに
適合する実包11発とともに保管したという凶器保管の事案につい
ての有罪判決が確定している。(乙27の1の1,27の11,2
7の17,弁論の全趣旨)
(ク)鞍手郡(小竹町及び鞍手町)
上記イ(ア)の原告の構成員が平成12年以降平成24年11月15日ま
での間の恐喝,恐喝未遂,脅迫等に係る有罪判決が確定した21件のう
ち発生場所が鞍手郡である事案として,平成21年10月15日頃,原
告の構成員であるBOが,同人を原告の構成員と知悉している被害者に
対し,被害者方の一室で,正座した被害者の面前の畳に洋包丁を突き立
て「お前,俺に出張の給料隠しとろうが」,「ちゃんと俺に渡さんか」
などと申し向けて,同年11月10日頃,債権取立名下に5万円を脅し
取った事案1件がある。(乙23の1,25の1,25の19の1~1
9の5,弁論の全趣旨)
(ケ)京都郡(苅田町及びみやこ町)
a平成12年以降平成24年11月15日までの京都郡を発生場所
とする暴力的要求行為等に係る中止命令等が3件発出されており,
これらの中止命令等に係る事案の内容の例としては以下のものがあ
る。(乙23の1,24の1及び6,弁論の全趣旨)
(a)平成19年6月29日頃,同郡において,原告の構成員であるB
Pが,譲り受けた債権の債務者に対し,原告の威力を示して,みだ
りに金員の贈与を要求した。
(b)同年5月下旬頃,同郡において,原告の構成員であるBPが,譲
り受けた債権の債務者に対し,原告の威力を示して,みだりに金員
の贈与を要求した。
b上記イ(ア)の原告の構成員により平成12年以降平成24年11
月15日までに敢行された32件の報復等目的の暴力行為のうち,
第1事案のほか,平成22年3月23日,原告の構成員であるBQ
らが,金員の交付要求を拒絶した者に対する要求貫徹目的で,同郡
内を走行中の普通乗用自動車の後部座席に被害者を監禁した事案
(上記(ウ)c)の2件が京都郡において敢行されている。(乙15
の1~15の4,23の1,26の1,26の23の1及び23の
2)
c平成17年6月27日,京都郡において,原告の構成員であるB
Rが,拳銃3丁を適合実包41発と共に保管し所持していた凶器保
管の事案について有罪判決が確定している。(乙27の1の1,2
7の16,弁論の全趣旨)
(コ)築上郡(吉富町,上毛町及び築上町)
平成12年以降平成24年11月15日に築上郡を発生場所とする暴
力的要求行為等に係る中止命令等として,平成23年10月29日,同
郡において,原告の構成員であるBSらが,建設会社役員に対し,原告
の威力を示して,不当に下請参入を要求した事案に係る中止命令1件が
発出されている。(乙23の1,24の1及び6,弁論の全趣旨)
(4)本件処分後本件延長処分1までの原告の構成員による暴力行為等の敢行
状況
ア原告の構成員による暴力行為の敢行
原告の構成員であるABは,平成25年2月7日午前零時15分頃,
上記ABが原告の構成員であることを知っており,原告の縄張内である
北九州市b区内で飲食店を営んでいた被害者に対し,「おまえ,けつ持
ち変えたらしいな。」,「何で田口組にけつ持ちをさせないのか。」,
「半分は親方に払うのが筋やないか。」,「20万でも30万でも絶対
払えよ。」などと申し向け,さらに,同月8日午後7時2分頃,同市内
又はその周辺で,被害者に対し,電話で,「頭の顔潰すんか。」,「俺
たちにけつ持ちさせろ。」,「半分でも入れるのが筋やろが。」などと
申し向け,被害者が原告の縄張内で営業を営むことを容認する対償とし
て金銭の供与を要求したが,被害者は要求に応じなかった。同日午後1
1時頃,上記ABは,北九州市b区内の駐車場において,原告の構成員
であるACが乗車する自動車の後部座席に被害者を乗車させ,被害者の
顔面を1回蹴り,さらに,翌9日午前零時頃,上記AB及び上記ACは,
同市h区内の民家の南方にある共用階段踊り場付近において,被害者の
全身を木製バットや拳で多数回殴る暴行をそれぞれ加えて,被害者に加
療約102日間を要する左尺骨骨折,頭部・顔部打撲,左眼瞼挫創の傷
害を負わせた。(乙50の1~50の4,弁論の全趣旨)
イ原告の構成員による暴対法46条3号の暴力的要求行為に関する有罪
判決の確定
原告の構成員であるADは,平成25年7月10日午後零時30分頃,
本件処分による警戒区域内である福岡県京都郡i町において,上記AD
が原告の構成員であることを知っていた被害者に対し,「俺は今,情け
ない事にヤクザしてます。だから,俺の様な者が仲々顔も出しにくい。」,
「私達の様な世界は今とても厳しです。」,「お金を借して下さい。金
額が一○○万円と大きいのでサラリーマンでは無理ですからネ!」,「私
この一○○万円がないと生きる事が出来ないのです。」,「返済は一月
一○万の十回払いと言う事にして呉れれば助かります。」,「十一日は
私当番となってますので十日か十二日都合の良い日に連絡呉れたら私が
iに出て行きます。」などと記載した手紙1通を,自己の配下である原
告の構成員を介して手渡したという事案を敢行し,同事案につき,原告
の威力を示して,金銭貸付業者以外の者に対してみだりに金銭の貸付け
を要求したとして暴対法46条3号違反による有罪判決が確定している。
(乙52の1,52の3の1及び3の2,弁論の全趣旨)
ウ原告の構成員に対する中止命令等の発出
本件処分時から平成25年12月2日までの間に原告の構成員に対し
て以下の内容に係る2件の中止命令等が発出されている。(乙53の1
及び2,弁論の全趣旨)
(ア)原告の構成員であるBTは,平成25年3月23日,福岡県田川郡
k町内において,上記BTが原告の構成員であることを知っており,
上記BTに金銭を貸し付けていた被害者に対し,「組長の運転で朝か
ら晩まで忙しくて,返しに行く暇がない。しのぎが少なくて,まとま
ったお金は返せない。」等と申し向け,もって,原告の威力を示して,
上記BTが被害者に対して負う債務の全部又は一部の免除又は履行の
猶予をみだりに要求した。
(イ)原告の構成員であるBUは,平成25年5月28日,北九州市b区
を中心に商品の配送を行っている被害者の支店長から電話で,上記B
Uがインターネットオークションにおいて5250円で落札した商品
の紛失及び代替品若しくは品代と送料で示談したい旨を告げられるや,
上記支店長に対し,「今後どうしてくれるのか。納得は出来ない。電
話で話しても話にならない。本日は当直である為,現在いる場所から
動けない。コンビニのある信号を○○の方に曲がり,大きな建物の前
に来い。」などと告げて,上記支店長に対して原告の本部事務所であ
る工藤會会館の前に来るように認識させ,更に,翌29日,上記支店
長に対し,電話で「品物はネットで買えば20万~30万,定価やっ
たら40万~50万円する。責任限度額が30万円あるならば,29
万9999円まで補償できるだろう。」などと告げ,更に同日,上記
支店長に架電し,支店長から落札価格と送料の返金で補償する旨を告
げられるや,「そっちがそのような対応をするのであれば,明日,明
後日で解決する話ではなく,1か月,2か月,半年,1年でもとこと
ん話をする。責任者だったら,会社のルール,規則等を一辺倒に貫く
のではなくて責任者らしい対応の仕方があるのでは。下の者の責任は
上の者が見るのは当然だろう。自分たちもそうだ。」などと申し向け,
もって,原告の威力を示して,上記商品紛失事故による損害の程度を
誇張して,損害賠償その他これに類する名目で金品その他の財産上の
利益の供与を要求した。
エ原告の構成員により敢行された恐喝等に係る事件
本件処分後平成25年12月2日までの間の原告の構成員により敢行
された恐喝,恐喝未遂に係る事件について以下の2件の有罪判決が確定
している。(乙54の1~54の3の4,弁論の全趣旨)
(ア)原告の構成員であるAEは,貸金の担保名下に被害者から金品を喝
取しようと企て,平成25年4月7日午後9時20分頃,福岡県嘉麻
市内の駐車場に停車中の普通乗用自動車内において,上記AEが原告
の構成員であることを知っていた被害者に対し,「月末までに5万円
を払え。月初めの3日まで待ってやるき,それまでに5万つけろ。3
日までに5万払いきれんやったら,車は俺の物にするき。親なり親戚
なりに相談して,早く50万を持ってこい。」,「もし警察とか親と
かに言ったら,どうなるか分かるやろ。俺はパクられることは別に怖
くないき。ただ,パクられたら,俺の組には人間がいっぱいおるき,
俺が動けんでも,そいつらが家とか会社とかに行って,何するか分か
らんぞ。俺のためにやりに行く奴がいっぱいおるきの。ヤクザ相手に
警察にチンコロしたら,どうなるか分かるやろ。」,「俺を裏切った
りしたら家や会社に行って,ガチャガチャにするきの。」などと語気
鋭く申し向けて,自動車1台の交付方を要求してこれを喝取し,もっ
て,人に対してみだりに金品等の供与を要求した。
(イ)原告の構成員であるAFは,被害者Aに対する貸金の弁済金名下に
同人及び被害者Bから現金を脅し取ろうと企て,平成25年3月31
日午前2時前後頃から同日午前2時56分頃までの間,北九州市b区
内に駐車中の自動車内において,上記AFが原告の構成員であること
を知っていた被害者Aに対し,40万円の返済をどうするのかと迫り,
「北九州を出て行くか。」,「ぼこぼこにされるがいいか。」,「お
金を返すか。」と,さらに,上記AFが原告の構成員であることを知
っていた被害者Bに対し,被害者Aの支払を肩代わりするように迫り,
払わなかったら被害者Bの勤務先を潰す旨を,いずれも強い口調で告
げた上,「お前,こいつの面倒見とるんやったら,肩代わりして払え。
払わんかったら,仕事もなくなるようにしてやるけの。」などと告げ,
「うちのカシラじゃ。」などと告げながら携帯電話機を差し出し,さ
らには「こいつら俺の名前とか兄弟の名前とかだしよるんよ。だけん,
今からヤキ入れちゃらないけん。」などと語気鋭く申し向けるなどし
て現金の支払を要求し,もって,人に対してみだりに金品等の供与を
要求した。
オその他原告の構成員による報復等目的暴力行為の敢行
本件処分時から本件延長処分1までの間に,原告の構成員であるAE
らが,同人らが関与する別件恐喝事件を警察に通報した者の友人である
被害者と連絡が取れなくなったことから,被害者が上記通報者と連絡を
取り合い,上記AEから逃亡しているものと考え,これに対して制裁を
加えるとともに,上記通報者が警察に申告した内容を聞き出すことを企
て,平成25年9月15日,飯塚市内の居宅等において被害者を監禁し
た上,上記AEが,被害者に対し,その後頭部を持っていたバッグで1
回殴り,その顔面等を足で多数回蹴るなどの暴行を加え,よって,被害
者に加療約2週間を要する顔面打撲,右肩打撲,右腹部・腰臀部打撲の
傷害を負わせるという報復等目的暴力行為が1件敢行されている。(乙
54の2の4,55の1~55の2の3,弁論の全趣旨)
カ原告の構成員,代表者等の変動状況
本件延長処分1の直前の時点における原告の代表者等15名のうち1
4名は,平成12年1月から本件処分直前までに発生した第1事案ない
し第7事案発生の際にも原告の代表者等であり,上記代表者等15名は,
上記アの行為の際には,全て原告の代表者等であり,また,本件延長処
分1の直前の時点における原告の代表者等15名のうち,14名(約9
3%)は,本件処分時にも原告の代表者等である。さらに,平成12年
1月から本件延長処分1直前までの間に発生した要件該当暴力行為を含
む報復等目的の暴力行為34件に関与し,本件延長処分1直前の時点に
おいて生存している40名のうち,33名(約83%)は,同時点にお
いても引き続き構成員であった。(乙56の1~56の3,弁論の全趣
旨)
(5)本件延長処分2までの原告の構成員による暴力行為等の敢行状況
ア原告の構成員に対する中止命令の発出
本件延長処分1から本件延長処分2の直前の平成26年12月5日ま
での間に,原告の構成員であるAGが,同年5月上旬頃,同人が原告の
構成員であることを知っていた被害者に対し,銀行のネットバンキング
口座を被害者名義で契約することを要求した上,同月18日,同人に対
し,電話で,「おどれ,このガキは。また嘘つきやがって,待っとんぞ。
なんで,おどれはいつも適当にするんか。だいたいいつになったらネッ
トバンキングの口座作るんか。俺は,委員長にも口座開設させるって言
っとんぞ。どうしてくれんるんじゃ,また,俺の顔に泥塗るんか。お前
は,委員長の顔に泥塗っとんぞ。おどれ,こっちが優しくしとけば,こ
のガキが,殺すぞ。おどれの家族とか男も殺すぞ。おどれの会社にも行
ったるけんな。この辺,歩けんようにしちゃるけんな。おどれが変わっ
ても,俺は何も得をせん。そんなのどうでもいいわ。金じゃ,迷惑料払
わんかい。責任の取り方も知らんのか。誠意を見せんか。このアバズレ
が。100万円たい。」等と申し向け,もって原告の威力を示して,金
品その他の財産上の利益の贈与をみだりに要求したとする暴力的要求行
為に係る中止命令が1件発出されている。(乙68の1及び2,弁論の
全趣旨)
イ原告の構成員による恐喝事件の敢行
本件延長処分1から本件延長処分2の直前までの間に,原告の構成員
である上記AGが,被害者に携帯電話機等を購入させた上,それらを同
人から脅し取ろうと考え,平成26年8月9日,福岡市j区内の公園に
おいて,被害者に対し,「自分はヤクザで工藤會の者です。」,「こう
いうのも彫っています。」などと言い,同人に対し,着衣の胸元から入
れ墨を示した上,「今から○○行けますか。」,「携帯電話を契約して
欲しいんですよ。」などと言い,さらに,福岡市f区内において,同人
に対し,「自分の知り合いのところで売れるんですよ。」,「終わった
ら渡して下さい。」などと申し向けて携帯電話機等の交付を要求して携
帯電話機等4点を喝取し,もって,人に対してみだりに金品等の贈与を
要求したという恐喝事件が1件敢行されている。(乙69の1~69の
2の3,弁論の全趣旨)
ウ原告の構成員による報復等目的の暴力行為の敢行
本件延長処分1から本件延長処分2の直前の平成26年12月1日ま
での間に,原告の構成員であるAHが,被害者と第三者が喧嘩をしてい
た際,これを止めるよう要求するも,被害者がこれを拒絶し,さらに上
記AHに対して「お前ヤクザやけん何もできんやろうが。」,「何かし
たら刑務所いきぞ。」,「しきるもんならしてみろ。」等と挑発的な言
動をしたことから,これに対する報復等の目的で,平成26年8月26
日,福岡県直方市内において,被害者に対し,所携の金属バットで同人
の左側頭部を1回殴打する暴行を加え,よって,同人に加療1ヶ月を要
する右側頭葉挫傷,左急性硬膜外血腫,外傷性くも膜下出血,左側頭骨
骨折,右側頭骨骨折の傷害を負わせたという事案が1件敢行されている。
(乙70の1~70の2の4,弁論の全趣旨)
エ原告の構成員による凶器等の使用,保管
本件延長処分1から本件延長処分2までの間の平成26年9月1日,
北九州市b区内において,原告の構成員であるAIが,自動装てん式け
ん銃1丁をこれに適合する火薬類であるけん銃実包26発と共に保管し
て所持したという凶器の所持に係る事案が1件敢行されている。(乙7
1の1~71の2の3,弁論の全趣旨)
オ原告の構成員,代表者等の変動の状況
本件延長処分2の直前の時点における原告の代表者等15名のうち全
員が,平成12年1月から本件延長処分2の前までに発生した第1事案
ないし第7事案及び上記(4)アの事案の際にも原告の代表者等であり,
また,本件延長処分2の直前の時点における原告の代表者等15名のう
ち全員が,本件延長処分1の際にも原告の代表者等である。さらに,平
成12年1月から本件延長処分2の直前までの間に発生した要件該当暴
力行為を含む報復等目的の暴力行為35件に関与し,本件延長処分2の
直前の時点において生存している原告の構成員41名のうち,33名(約
80%)は,同時点においても引き続き構成員であった。(乙72の2
及び3,弁論の全趣旨)
(6)本件各処分に至る経緯
ア本件処分に至る意見聴取手続等
処分行政庁は,平成24年11月22日,原告に対し,指定をしよう
とする理由並びに意見聴取の期日及び場所について,意見聴取通知書を
送達して通知し,併せて意見聴取の期日及び場所を公示し,同年12月
5日午後1時10分から午後1時49分までの間に,福岡県警察本部1
階の意見聴取会場において,主宰者である処分行政庁の公安委員会委員
(2名),聴取官(2名)ら,原告の代表者の代理人であるX(以下「X
代理人」という。)及び補佐人であるYが出席して本件意見聴取手続が
行われた。
本件意見聴取手続において,主宰者は,意見聴取の開始を宣言し,X
代理人が,原告を代表する者又はこれに代わるべき者の代理人として意
見聴取に出席していることを確認し,その後,指定をしようとする理由
及び警戒区域として定めようとする区域を聴取官に朗読させてこれを告
知し,X代理人は,持参した意見書(乙37添付書類第4号)の記載を
全て読み上げて意見を陳述し,同意見書の読み上げが終了した後,主宰
者は,X代理人にその他の意見がないことを確認した上で,意見陳述の
手続を終了した。
その後,主宰者は,証拠調べを行う旨を宣言し,X代理人に意見を裏
付ける証拠の有無を尋ねたところ,同代理人は,「一応,意見書を持っ
てきましたので,よかったらどうぞ。後は公安委員会の方でご判断頂け
れば。」と述べ,意見書を提出したが,主宰者が,「このペーパーは,
代理人の方が読み上げた意見の内容と一緒ですか。」と尋ねたところ,
X代理人が「一緒です。」と答えたことから,「これについては意見陳
述書としてお預かりします。その他意見や証拠はありませんでしょうか。」
と尋ね,X代理人の「別に。」との回答を受けて,その他に提出する証
拠がないことを確認した上で,証拠調べの手続を終了した。
主宰者は,その他に意見の陳述及び証拠の提出がない旨を確認の上,
意見聴取の終結を宣言した。
(乙37,弁論の全趣旨)
イ本件処分
処分行政庁は,平成24年12月27日,原告に対し,指定の期限を
平成25年12月26日までとし,警戒区域を本件各区域と定めて特定
危険指定暴力団等として指定する本件処分をした。(甲1)
(7)本件延長処分1
処分行政庁は,平成25年12月25日,原告に対し,本件処分(特定危
険指定暴力団等の指定)の期限を平成26年12月26日までとする指定の
期限の延長処分(本件延長処分1)を行った。(乙48,62)
(8)本件延長処分2
処分行政庁は,平成26年12月25日,原告に対し,本件処分(特定危
険指定暴力団等の指定)の期限を平成27年12月26日までとする指定の
期限の延長処分(本件延長処分2)を行った。(乙63,79)
(9)書証の成立の真正等に関する原告の主張について
ア原告は,上記(2)及び(3)の認定に係る書証のうち,乙14の1及び2,
15の1~15の4,16の1及び2,17の1~17の3,18の2,
19の1及び2,20の1~20の3,21の1~21の4,23の1
及び2,24の1~24の6,25の1~25の22(枝番を含む。),
26の1~26の25(枝番を含む。),27の1~27の23(枝番
を含む。),28の1~28の3,33の1及び2,34の1について
は成立の真正を否認し,上記各書証は,通常のコピー用紙を使用して作
成された写しにすぎず,作成名義人の記載もなく,記載内容が黒塗りに
されているものもあるから,作成名義人が特定されておらず,民訴法2
28条2項による成立の真正の推定を受けることはない旨主張する。
しかしながら,上記各書証のうち乙15の3,16の1,21の4は
作成名義人が記載されている。また,その余の書証については,これら
の各書証の存在と証拠(乙46の1~46の3,58の1及び2,59
~61)及び弁論の全趣旨によれば,上記各書証は,所属を福岡県警察
本部暴力団対策部組織犯罪対策課(以下「組織犯罪対策課」という。),
官職名を警部補,巡査部長ないし巡査長として,当該所属及び官職の特
定の警察官が,当時の組織犯罪対策課長のBV(乙46の1作成時は,
福岡県警察本部暴力団対策部副部長。)に宛てて作成したものであり,
BVは,これらの報告書の提出を受けた際,所属及び官職名とともに各
報告書の作成名義人である部下の警察官の記名押印が存在することを確
認したこと(ただし,乙14の2及び23の2については,組織犯罪対
策課長警視BWに宛てて作成,提出され,同課長が作成名義人の警察官
の記名押印があることを確認しており,乙24の4及び5,乙25の1
0の2及び10の3,乙25の13の2及び13の3,乙27の3につ
いては,山口県警察本部刑事部組織犯罪対策課に所属する特定の警察官
[警部補]が,当時の山口県警察本部刑事部組織犯罪対策課長のBX(乙
46の3の作成時は,同刑事部参事官。)に宛てて作成し,提出したも
のであり,同課長が提出を受けた際,作成名義人の警察官の記名押印が
存在することを確認している。),これらの報告書は,上記(2)及び(3)
の認定事実に関して,警察官が職務上の調査を行った結果を報告したも
のであり,これらの報告書には,当該警察官が調査の過程で得た情報の
他に,刑事判決書,供述調書,起訴状,送致書等の刑事記録,中止命令,
新聞記事等の各写しが報告書の一部をなすものとして添付されているこ
と,被告は,本件訴訟において,これらの報告書を証拠として提出する
ために,組織犯罪対策課所属の警部BYが,部下の警察官2名に指示し
て,福岡県警察本部内に保管されていた原本を同本部内のコピー機で複
写させて写しを作成した上で,被害者や関係者等のプライバシーの保護
や報復のおそれ等からの保護の観点,立証上の必要性等を考慮しつつ,
その一部(各報告書の作成名義人の記名押印部分を含む。)を黒塗り(マ
スキング)した上で,さらに,部下の警察官に指示して同本部内に設置
されていたコピー機でそれらを複写させて写しを作成し,これらの書証
をその原本の作成者を上記記名押印に係る警察官(ただし,所属と官職
名のみを主張している。)であるとして,提出したこと(ただし,乙2
4の4及び5,乙25の10の2及び10の3,乙25の13の2及び
13の3,乙27の3については,山口県警察から入手した原本の写し
に基づいて,上記作業を行っている。)が認められる。これらの事実に
照らせば,上記各書証の原本の作成者は,所属及び官職が特定された組
織犯罪対策課(乙24の4及び5,乙25の10の2及び10の3,乙
25の13の2及び13の3,乙27の3については山口県警察本部刑
事部組織犯罪対策課)に所属する特定の警察官であるという限度におい
て特定されており,作成者の特定に欠くことはなく,これらの文書の原
本が存在し,かつ,同原本が被告が主張する特定の所属及び官職の警察
官により作成されたものであることが認められる(写しの作成に関して
は上記認定のとおりである。)。そして,これらの各書証の黒塗り部分
に照らすと,これらの黒塗りが上記認定の目的に基づくものであること
が首肯されるから,これらの黒塗り部分が存在するからといって,文書
の成立の真正が否定されるということはできない。したがって,原告の
主張を採用することはできない。
イまた,原告は,第1事案ないし第7事案を裏付ける各書証(乙14の
1,15の1,16の1,17の1等)は,随所に黒塗りがされており,
反証等による真実性を吟味し難いから信用性が認められるべきではない
し,このうち作成名義人が記載されていない書証の成立の真正は否定さ
れるべきである旨主張するが,上記アのとおり書証の成立の真正が認め
られるし,上記第1事案ないし第7事案の認定に係る各書証の内容に照
らし信用性を否定する事情は認められないから,原告の主張は採用する
ことはできない。
ウさらに,原告は,上記(2)イの認定に係る乙33の1(「工藤會事務
所等の設置場所一覧表の作成に関する報告書」と題する書面)及び乙3
3の2(「工藤會構成員の居宅一覧表作成に関する調査報告書」と題す
る書面)について,作成名義人,事務所名(乙33の1),氏名(乙3
3の2),住所等の記載事項が黒塗りにされており,事務所の所在地,
構成員の氏名,住所との関連性が明らかにされていないから証拠能力が
なく,証拠から排除されるべきである旨主張する。しかしながら,上記
各書証について真正に成立したものと認められることは上記アのとおり
であり,原告が主張する事項について黒塗り(マスキング)されている
からといって直ちに証拠能力が否定されるものと認めることはできない
し,乙33の1及び2によれば,本件各区域内の原告の事務所数及び原
告の構成員の居住者数が明らかにされており,原告は,これらの事実に
ついて十分に把握しており,少なくとも把握し得るにもかかわらず,上
記各書証に基づく上記(2)イの認定に反する主張をしていないことに照
らせば,上記の黒塗り(マスキング)の存在によって,乙33の1及び
2に基づく上記(2)イの認定が覆されることはない。
2争点に対する判断
(1)本案前の争点1(本件無効確認請求の訴えの利益の有無)について
本件において,原告は,本件処分の取消請求に係る訴えを適法に提起した
上で,本件無効確認請求の訴えを併合提起しているところ,これらの両訴訟
は本件処分の瑕疵を理由としてその効力を争う点に差異はないし,処分に重
大かつ明白な瑕疵があることを前提とする処分の無効事由は原則として取消
訴訟においても主張し得るものである上,本件において本件処分の取消請求
に係る訴えに加えて本件無効確認請求の訴えによることが必要であると認め
るべき事情も見当たらないことに照らせば,本件無効確認請求について訴え
の利益を認めることはできない。
(2)本案前の争点2(本件延長処分1の取消請求の訴えの利益の有無)につ
いて
暴対法30条の8第2項による特定危険指定暴力団等の指定の期限の延長
の処分は,特定危険指定暴力団等の指定の効力を継続させる処分であるとこ
ろ,上記第2の3(4)のとおり,本件延長処分1による本件処分(特定危険指
定暴力団等の指定)の期限の延長の期限は平成26年12月26日であり,
同日の経過によって本件延長処分1により本件処分の効力を継続させるとい
う効果は消滅したのであるから,原告に本件延長処分1の取消しを求める訴
えの利益を認めることはできない。
したがって,本件延長処分1の取消請求は不適法である。
(3)本案の争点2(暴対法及び本件処分等の合憲性)について
ア暴対法及び同法の各条項の違憲主張について
(ア)暴対法の立法目的,制定過程等の違憲主張
a立法目的の違憲主張
原告は,上記第2の5(4)ア(ア)aの原告の主張のとおり,暴対法は,
立法事実が欠如し,立法目的を欠くものであるから,憲法13条,1
4条1項,21条1項に違反する旨主張する。
しかしながら,上記1(1)認定の暴対法の制定経緯,同法1条の定
め及び同法の規定の内容に照らせば,暴対法は,同法制定時までに,
広域暴力団の勢力の拡大や寡占化が進み,暴力団員による民事介入暴
力行為の増加や暴力団相互間の対立抗争が多発する等の事情が存在し,
一般市民にもこれらの行為による被害が発生する等していたところ,
暴対法制定以前の法令によっては必ずしも犯罪として検挙し得ない暴
力団員による各種の不当な行為を規制する必要が生じたことから,こ
のような行為等に関する規制等を行うことにより市民生活の安全と平
穏を確保することを目的として制定されたものであると認められる。
したがって,暴対法につき原告の主張するように立法事実,立法目的
が欠如するものであると認めることはできないし,同法が暴力団のみ
を差別したり,これを利用して同法を所掌する官庁の利益を図ること
を目的とするものであると認めることはできないし,その規制も合理
的なものであり,この点に関する原告の違憲主張はその前提を欠き,
採用することができない。
b個別具体的法規範であることによる違憲主張について
原告は,暴対法は暴力団員の行う暴力的要求行為等についての規制
を行う法律であり,一般的抽象的法規範ではないから,平等原則に違
反するし,立法権により制定された法律ではなく,憲法14条,41
条に違反する旨主張する。
しかしながら,暴対法は,その団体の構成員が集団的に又は常習的
に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある暴力団及びそ
の構成員に対して,一般的に等しく適用されるものであり,特定の団
体をその規制対象とするものではなく,一般性を欠くものではないこ
とは同法の内容に照らし明らかであり,この点についての原告の主張
は採用することができない。
c暴対法の立法過程,運用の違憲に関する主張について
原告は,平成3年の暴対法制定過程及び平成24年の同法改正過程
において審議時間が短く十分な審議が行われておらず,立法事実の存
否等の基礎事実の十分な検討が行われていないこと等から暴対法には
重大な欠陥があり違憲である旨主張する。
しかしながら,上記1(1)ア(オ)b及びイ(ウ)のとおり,平成3年の暴
対法の制定及び平成24年の同法改正に係る法案が衆議院及び参議院
でそれぞれ可決され,公布されたものであるところ,法案の審議にど
の程度の時間をかけるかは専ら各議院の判断によるものであり,その
時間の長短により公布された法律の効力が左右されるものでないこと
は明らかであるし,その審議の状況に照らして,立法事実の存否等の
基礎事実に十分な検討が行われていないと認めることもできないから,
原告の主張は採用することができない。
(イ)3条指定処分に関する違憲主張について
a暴対法3条柱書
(a)原告は,暴対法3条柱書について,暴力団員が集団的に又は常習
的に暴力的不法行為等を行うことを助長する「おそれ」があること
により「指定」をし,暴対法に定める規制を行うものであるから,
指定を受ける暴力団の要件該当性を曖昧にするとして,憲法13条,
21条1項,31条に違反する旨主張する。
しかしながら,暴対法3条柱書は,同条1号ないし3号のいずれ
の要件も満たす暴力団につき,「その暴力団員が集団的に又は常習
的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団」
として指定する旨を定めるものであり,暴力団に対する指定の要件
自体を定めたものではないから,同条柱書が指定暴力団の要件該当
性を曖昧にする旨の原告の主張はその前提を欠き,採用することが
できない。
(b)また,原告は,暴対法3条柱書は任侠道を信奉する団体を暴力団
として指定し,そのことを理由に社会的に差別するものであり,憲
法13条,14条,19条に違反する旨主張する。
しかしながら,上記のとおり,指定暴力団の指定の要件は暴対法
3条1号ないし3号に定められており,その要件が任侠道を信奉す
る団体であるか否かに関わるものではないことは明らかであるから,
原告の主張はその前提を欠き,採用することはできない。
b暴対法3条1号
原告は,暴対法3条1号について,「目的」という主観的要素を指
定暴力団の指定の要件としており,公安委員会が何の客観的基準もな
く恣意的に指定の要件該当性を判断することになるから,憲法21条
1項の結社の自由を侵害し,憲法31条に違反する旨主張する。
しかしながら,暴対法3条1号は,指定暴力団の指定の要件の一つ
として,「名目上の目的のいかんを問わず,当該暴力団の暴力団員が
当該暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成又は事業の遂行
のための資金を得ることができるようにするため,当該暴力団の威力
をその暴力団員に利用させ,又は当該暴力団の威力をその暴力団員が
利用することを容認することを実質上の目的とするものと認められる
こと」として,その要件となる目的の内容を具体的に規定しており,
社会通念に照らせば,通常の判断能力を有する一般人の理解において,
いかなる場合に上記の「目的」に該当するか判断することができるも
のというべきであるから,公安委員会に何の客観的基準もなく恣意的
な判断を行うことを許す規定であると認めることはできず,原告の主
張は採用することはできない。
c暴対法3条2号
(a)原告は,暴対法3条2号の要件の「犯罪経歴保有」者の意味が不
明確であるから,憲法31条に違反する旨主張する。
しかしながら,上記第2の2の関係法令の定めのとおり,暴対法
3条2号は,「犯罪経歴保有者」について,同号イないしへのいず
れかに該当する者である旨定めており,その規定内容に不明確な点
は認められず,通常の判断能力を有する一般人の理解において,い
かなる場合に「犯罪経歴保有者」に該当するか否かを判断すること
ができるものというべきであるから,原告の主張は採用することが
できない。
(b)原告は,暴対法3条2号が一定の比率の「犯罪経歴保有者」がい
る団体であることを要件とし,当該比率について政令に白紙委任し
ているから,憲法31条に違反する旨主張する。
しかしながら,上記第2の2の関係法令の定めのとおり,暴対法
3条2号は,政令に委任する「比率」について,「当該区分ごとに
国民の中から任意に抽出したそれぞれの人数の集団において,その
集団の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が当該政令
で定める比率以上となる確率が10万分の1以下となるものに限る。」
旨定めており,政令により定める比率の内容について具体的に暴対
法により規定しているから,上記比率につき政令に白紙委任してい
ることを前提とする原告の主張は採用することができない。
(c)また,原告は,暴対法3条2号は,「犯罪経歴保有者」を社会的
身分により差別するものであり,憲法14条に違反する旨主張する。
しかしながら,そもそも原告の主張は原告ないし原告の構成員の
いずれの権利につきいかなる点において差別扱いをする旨主張する
のか明らかではない。この点を措くとしても,憲法14条は,国民
に対する絶対的な平等の取扱いを保障したものではなく,合理的な
理由なくして差別することを禁止する趣旨であるから,事実上の差
異に相応して合理的に法的取扱いを区別することは,憲法14条に
反するものではない(最高裁昭和39年5月27日大法廷判決・民
集18巻4号676頁,同昭和41年7月20日大法廷判決・民集
20巻6号1217頁,同昭和60年3月27日大法廷判決・民集
39巻2号247頁参照)ところ,上記1(1)ア(オ)のとおり,暴対
法3条2号において,構成員又は幹部に占める犯罪経歴保有者の比
率を基準とする要件を3条指定処分の要件とした趣旨は,暴力団に
は暴力団員が犯すことが多い犯罪等を行った経歴のある者が著しく
多く含まれている事実に基づき,これを要件として暴対法による規
制対象とする者を特定するというものであり,このような犯罪経歴
保有者が構成員に一定の比率を超える団体のみを暴力団として指定
するという取扱いには合理的な理由があるから,憲法14条に違反
するものであるということはできない。
(d)原告は,暴対法3条2号の「幹部」の概念が不明確であり,団体
の定める幹部とは無関係に「犯罪経歴保有者」の比率が判断される
ことは憲法14条に違反し,憲法21条1項の結社の自由を侵害す
る旨主張する。
しかしながら,暴対法3条2号は「幹部」について「主要な暴力
団員として国家公安委員会規則で定める要件に該当する者をいう。」
と定めているところ,同号及び同条3号の規定の内容に照らせば,
暴力団における主要な暴力団員は同条3号に定める階層的組織構成
の上層部にいる者であることは明確であるし,その具体的な範囲に
ついては同号により委任された暴対法施行規則2条1号ないし3号
に定められており,これらの定めに不明確な点は認められない。ま
た,原告が主張するとおり,団体が幹部として定める者と暴対法2
条3号の「幹部」に該当する者が異なったとしてもこのことがいか
なる意味において憲法14条に違反し,又は憲法21条1項の結社
の自由を侵害するのか明らかではなく,原告の主張は採用すること
ができない。
(e)また,原告は,暴対法3条2号がその属する集団の人数の多少に
より犯罪経歴保有者比率の区分を設けていること自体,その根拠も
関連性も合理性もなく,犯罪経歴保有者の多少により区別するもの
で憲法14条1項に違反し,憲法21条1項の結社の自由を侵害す
るし,判断基準が曖昧であるから憲法21条1項に違反する旨主張
する。
しかしながら,暴対法3条2号において,構成員又は幹部に占め
る犯罪経歴保有者の比率を基準とする要件を3条指定処分の要件と
した趣旨は,上記(c)のとおりであり,合理的な根拠を有している
し,当該比率は,上記(b)のとおり定められ,集団の人数の区分に
応じて,国民の中から任意に抽出した集団における犯罪経歴保有者
の占める比率が暴対法施行令1条で定める比率以上となる確率が1
0万分の1以下となる比率を算出することとしたものであり,その
判断基準が曖昧であるということはできない。したがって,原告の
違憲主張は採用することができない。
(f)原告は,暴対法3条2号が大赦や刑の執行猶予期間が経過した者
等刑の言渡しの効力が消滅した者を「犯罪経歴保有者」であるとす
るものであるから,憲法14条1項に違反する旨主張する。
しかしながら,原告がいかなる点において憲法14条1項に違反
する差別扱いがある旨主張するのか不明であるし,この点を措くと
しても,暴対法3条2号の要件を定めた趣旨は上記(c)のとおりで
あるところ,刑の言渡しの効力が消滅した者についても上記の犯罪
等を行ったことには変わりがないのであるから,この者も含めて「犯
罪経歴保有者」とすることには合理性があるというべきであり,か
かる基準を用いることが憲法14条1項に違反する根拠はない。し
たがって,原告の違憲主張は採用することができない。
d暴対法3条3号
原告は,暴対法3条3号が「運営を支配する地位にある者」を要件
として定めるところ,その定義が不明確であるから憲法31条に違反
し,憲法21条1項の結社の自由を侵害する旨主張する。
しかしながら,上記1(1)ア(オ)のとおり,暴対法3条3号は,暴力
団が組長等の統制を受けて階層的に組織構成されている団体であると
いう特徴を有することから,これを要件として暴対法による規制対象
とする者を特定するというものであり,「運営を支配する地位にある
者」はその規定に照らせば当該団体を統制している者を意味すること
は明確であり,通常の判断能力を有する一般人の理解において合理的
に判断することができるものであるから,その定義が不明確であるこ
とを前提とする原告の違憲主張は採用することができない。
e暴対法5条
原告は,暴対法5条は3条指定処分を行う際に処分行政庁に指定の
要件該当性があることを基礎付ける資料の提出を求めておらず要件該
当性の検討,反論の機会を奪うものであるから憲法31条に違反する
旨主張する。
しかしながら,上記第2の2の関係法令の定めのとおり,暴対法5
条は,3条指定処分の際に公開による意見聴取を行わなければならな
い旨(同法5条1項),意見聴取を行う場合において公安委員会は指
定に係る暴力団を代表する者又はこれに代わるべき者に対して指定し
ようとする理由並びに意見聴取の期日及び場所を相当の期間をおいて
通知する等すること(同条2項),意見聴取に際しては当該指定に係
る暴力団を代表する者若しくはこれに代わるべき者又はこれらの代理
人が当該指定について意見を述べ,かつ,有利な証拠を提出すること
ができること(同条3項)を定めているところ,かかる規定は,3条
指定処分を行うに先だって,指定をしようとする理由等を事前に通知
することにより,指定に係る暴力団を代表する者等に指定の要件該当
性について意見陳述及び証拠提出の機会を与えるとともにその準備を
行うことを可能とするものであり,これに加えて処分行政庁に要件該
当性を基礎付ける資料の提出等を求めないことが直ちに処分を受ける
者の要件該当性の検討,反論の機会を奪うものと認めることはできず,
これを前提とする原告の違憲主張は採用することができない。
f暴対法9条
原告は,暴対法9条につき,同法3条による指定の効果として,「威
力を示して」行った暴力的要求行為の禁止を定めるものの,「威力を
示して」の文言によっては適法行為の外延が不明確であるから,罪刑
法定主義,憲法21条1項に違反する旨主張する。
しかしながら,暴対法9条は,同条各号において暴力的要求行為に
該当する行為を定めており,これらの規定が不明確であるということ
はできないし,また,これらの行為につき「威力を示して」行うこと
を禁止するものであるところ,「威力」はその文言に照らせば人の意
思を制圧するに足る勢力を意味するものであると解され,通常の判断
能力を有する一般人の理解において,その要件を充足しているか否か
判断することができるというべきであるから,かかる要件についても
不明確であるということはできず,原告の違憲主張は採用することが
できない。
(ウ)暴対法30条の8第1項に基づく特定危険指定処分に関する違憲主
張について
a特定危険指定処分に関する規定の明確性の原則違反,結社の自由
侵害等に関する主張について
原告は,特定危険指定処分の根拠規定及び同処分による規制等に係
る規定につき,①過度の広汎性理論,明確性の原則に違反するから憲
法21条1項ないし憲法31条に違反する旨,②結社の自由等を侵害
するものであるから憲法21条1項に違反する旨主張して本件処分が
違憲である旨主張するので,以下検討する。
(a)特定危険指定処分による規制の内容
上記第2の2の関係法令の定めのとおり,特定危険指定処分は,
指定暴力団等について,暴力行為要件及びおそれ要件を満たす場合
に,警戒区域を定めて行うこととされている。
特定危険指定処分を受けた特定危険指定暴力団等の指定暴力団員
は,暴力的要求行為を行う目的で,警戒区域内において又は警戒区
域における人の生活若しくは業務の遂行に関して,その相手方に対
し,①面会を要求すること,②電話をかけ,ファクシミリ装置を用
いて送信し,又は電子メールを送信すること,③つきまとい,又は
その居宅若しくは事務所の付近をうろつくことが禁止され(暴対法
30条の9),これに違反した特定危険指定暴力団等の指定暴力団
員には中止命令等が発出され(同法30条の10),中止命令に違
反した者に対しては罰則が定められている(同法47条16号)。
また,特定危険指定処分を受けた特定危険指定暴力団等の指定暴
力団員で,警戒区域において又は警戒区域における人の生活若しく
は業務の遂行に関して,暴力的要求行為又は暴対法30条の2の規
定に違反する行為をした者に対しては罰則が定められている(同法
46条3号)。
なお,警戒区域内に在る特定危険指定暴力団等の事務所が,暴対
法30条の8第1項の暴力行為に関し,特定危険指定暴力団等の指
定暴力団員により①多数の指定暴力団員の集合の用,②当該暴力行
為のための謀議,指揮命令又は連絡の用,③当該暴力行為に供用さ
れるおそれがあると認められる凶器その他の物件の製造又は保管の
用に供されており,又は供されるおそれがあると認めるときは,当
該事務所に係る管理者又は当該事務所を現に使用している指定暴力
団員に対して3か月以内の期間を定めて当該事務所を上記の用又は
当該特定危険指定暴力団等の活動の用に供してはならない旨を命ず
ることができる旨(同法30条の11)が定められているが,かか
る規制は特定危険指定処分に伴う規制ではなく,同処分を受けた後
に上記要件を満たした場合において使用制限命令という新たな命令
により行われる規制である。
(b)規制に関する明確性の原則違反等の主張について
法令の規定の文言が漠然,不明確であり,当該規定が不明確のゆ
えに文面上違憲無効となるものであるか否かについては,通常の判
断能力を有する一般人の理解において,具体的場合にその規定が適
用され,そこで定める行為規制を受けるものかどうかの判断を可能
ならしめるような基準が定められているか否かによって判断するの
が相当である(最高裁昭和50年9月10日大法廷判決・刑集29
巻8号489頁参照)。
この点,原告は,暴対法30条の8第1項が特定危険指定処分の
要件として「おそれがある」という漠然とした文言を定めているし,
また,警戒区域について「警戒」の文言が不明確であり,警戒を「要
する」か否かについての判断を公安委員会に白紙委任するものであ
るから明確性の原則に違反し,過度の広汎性の理論からも憲法21
条1項,31条に違反する旨主張する。しかしながら,上記の「お
それ」は,暴力行為要件が認められる場合において,指定暴力団員
又はその要求若しくは依頼を受けた者がさらに反復して同様の暴力
行為を行う可能性をいうものであり,暴力行為の発生頻度,当該暴
力行為に関する構成員の言動,暴力行為における凶器の使用状況,
暴力的要求行為等又は請求妨害行為(暴対法30条の2)の発生状
況等に照らしてかかる要件を満たすか否かについて客観的に判断す
べきものであるというべきであるから,公安委員会による恣意的な
運用を許すものではなく,通常の判断能力を有する一般人の理解に
おいて,具体的場合にその規定が適用されるか否かの判断を行うこ
とができない不明確なものであると認めることはできないし,上記
文言が不明確であることによりその規制が過度に広汎なものになる
と認めることはできない。また,「警戒」区域についても,上記の
暴力行為要件及びおそれ要件が認められる場合において,「当該暴
力行為により人の生命又は身体に重大な危害が加えられることを防
止するために特に警戒を要する区域」を定めるものであり,その規
定に照らせば,通常の判断能力を有する一般人の理解において具体
的場合にその規定が適用されるか否かの判断を行うことができない
不明確なものであると認めることはできない。
また,原告は,本件処分による規制の内容として定められる暴対
法30条の9及び10の各規定の文言に関し,「目的」(同法30
条の9柱書),「つきまとい」,「うろつく」(同法30条の9第
3号),「必要な事項」(同法30条の10)の各文言がそれぞれ
不明確である旨主張する。しかしながら,暴対法30条の9柱書の
「暴力的要求行為を行う目的」については,その目的の内容となる
「暴力的要求行為」の内容が同法9条において具体的に定められて
いるのであるから,その目的の有無について,通常の判断能力を有
する一般人の理解において判断することができるものであり,不明
確であるとはいえない。同じく,「つきまとい」,「うろつく」(同
法30条の9第3号)についても,社会通念上いかなる行為がこれ
に該当するのか通常の判断能力を有する一般人の理解において判断
することができるものであるというべきである。さらに,暴対法3
0条の10第2項は,暴力行為要件及びおそれ要件という特定危険
指定処分の要件を満たす状況下において,同処分を受けた暴力団の
構成員が,暴力的要求行為を行う目的で同法30条の9各号に規定
する面会要求行為等をした場合に,更に同様の面会要求行為等をす
るおそれがあると認めるときに,暴力団の構成員がかかる行為に及
ぶことを防ぐ目的で「必要な事項」を命じることができる旨規定す
るものであって,暴力団の構成員が行うおそれが認められる面会要
求行為等とそれを防ぐという目的との関係で必要かつ合理的な内容
といえる事項が命じられるものであることはその文言に照らせば明
らかであるから,「必要な事項」の内容が不明確であるとはいえな
い。
したがって,本件処分が明確性の原則等の違反により憲法21条
1項,31条に違反する旨の原告の主張は採用することができない。
(c)規制内容についての結社の自由等の侵害に関する主張について
憲法21条1項は結社の自由を保障するものであるが,結社の自
由は,あらゆる場合に無制限に保障されるものではなく,公共の福
祉による必要かつ合理的な制限を受ける。そして,このような結社
の自由に対する制約が必要かつ合理的なものとして是認されるかど
うかは,制限が必要とされる程度と,制限される自由の内容及び性
質,これに加えられる具体的な制限の態様及び程度等を総合衡量し
て決めるのが相当である(最高裁平成4年7月1日大法廷判決・民
集46巻5号437頁参照)。
これを本件についてみると,平成24年改正前の暴対法において
も,暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行うこ
と等により市民生活の安全と平穏を図り国民の自由と権利を保護す
ることを目的として(同法1条),暴力的要求行為等が禁止されて
いたが,上記1(1)認定のとおり,かかる規制によっては違反者に
対して中止命令等を発出することができるにとどまり,命令違反者
には罰則が適用されるものの,一般市民の生命身体を侵害する危険
な暴力行為に発展するおそれのある暴力的要求行為等の抑止として
は不十分である上,中止命令等は個別の暴力団構成員に対して発出
されるものであるため,異なる構成員により暴力的要求行為等が敢
行されることの抑止も不十分であり,現に暴力団により一般市民の
生命身体を侵害する暴力行為が多数発生していたことから,そのよ
うな危険な暴力行為に発展する危険性のある暴力的要求行為等に対
する抑止力を高めることにより暴力行為の発生を防止し,危険な暴
力行為から一般市民の生命身体を保護するために特定危険指定処分
が定められたものである。
そして,特定危険指定処分による規制の内容及びその性質は,上
記(a)のとおり,団体自体の結成を禁止したり,団体の意思形成や
活動を制限したりするものでなく,個々の構成員の行為のうち一定
の行為を禁止ないし制限するものであり,その禁止ないし制限され
る行為は,①暴力的要求行為を行う目的で,警戒区域において行う
暴対法30条の9各号に定める行為,②警戒区域において行う暴力
的要求行為及び同法30条の2の規定に違反する行為(同法46条
3号)である。①の規制の対象となる行為は,同法30条の8第1
項に規定する暴力行為要件及びおそれ要件を満たし,一般市民の生
命身体に対する重大な危害が生じるおそれのある状況において,暴
力的要求行為を行うための反社会的な不当な目的で行われる行為で
ある上,暴力的要求行為,ひいては,第三者の生命身体に対して重
大な危害を生じさせる暴力行為に発展するおそれがある行為である
し,これに対する規制の態様は中止命令等の発出を行った上でこれ
に従わない場合にはじめて罰則規定が適用されるというものであり,
違反行為が直ちに処罰されるわけではない。また,②の規制につい
ては,これに違反した場合に違反行為が直ちに処罰されることとさ
れているものの,そもそもこれらの行為については特定危険指定処
分の有無にかかわらず暴対法において指定暴力団員等が行うことを
禁止されているし,特に特定危険指定処分の要件として定められた
暴力行為要件及びおそれ要件を満たす状況の下において行われるか
かる行為は,単に反社会的性格のある不当な行為であるというにと
どまらず,一般市民の生命又は身体に重大な危害を加える暴力行為
に発展するおそれが高い行為である。そして,①及び②の規制は,
いずれも当該行為が警戒区域において行われる場合等に限られてお
り,禁止期間も法定されている。
そうすると,暴対法が特定危険指定処分によって保護しようとす
る利益は,一般市民の生命身体であり,従前の規制によっては暴力
団によるこれらの利益の侵害行為を十分に防止することができず,
これを抑止するための新たな規制の強い必要性が認められる一方,
当該規制は団体の結社そのものに対する規制ではなく,構成員によ
る反社会的な行為又は反社会的な目的を有する行為に対する規制に
すぎないし,暴対法30条の8第1項の要件を満たし,一般市民の
生命又は身体に重大な危害を加える方法による暴力行為が行われる
おそれがあるという状況下においては,上記の態様による規制につ
いては,公共の福祉の観点から必要かつ合理的なものであり,結社
の自由を侵害するものということはできない。
これに対し,原告は,結社の自由に関する違憲審査基準について,
最高裁平成7年3月7日第3小法廷判決(民集49巻3号687頁)
が採用する明白かつ現在の危険の基準によるべきであり,規制を行
うには,明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されること
が必要であり,そのような事態の発生が客観的事実に照らして具体
的に明らかに予測される場合であることが必要である旨主張するが,
上記は,公の施設を集会のために利用しようとしたところこれを拒
否されたという集会の自由一般に関する制限が問題となった事案に
ついての判例であり,上記(a)のとおり,人の生命又は身体に重大
な危害が加えられるおそれがある危険な状況下において,その規制
対象となる行為も限定されている本件とは事案を異にするから,原
告の主張は採用することができない。
また,原告は,上記規制が結社の自由のみならず,思想良心の自
由を侵害する旨主張するが,既に説示したところに照らせば,原告
の主張は採用することはできない。
bその余の本件処分に関する違憲主張について
(a)暴対法30条の9
原告は,暴対法30条の9について,①警戒区域内における面会
の要求を制限する同条1号は誰と面会し交流するかについて公権力
による介入を受けない利益を制約するものとして憲法13条,21
条1項に違反し,②電話等を禁止する暴対法30条の9第2号は通
信の自由を侵害するものとして憲法21条1項に違反し,③つきま
とい,うろつく行為を禁止する暴対法30条の9第3号は移動の自
由を侵害するものとして憲法13条に違反する旨主張する。
しかしながら,上記aのとおり,憲法上の人権の保障は無制限の
ものではなく,公共の福祉による制限を受けるところ,暴対法30
条の9により禁止される行為は暴力的要求行為を行うという反社会
的な目的で行われる行為であり,その規制目的,規制内容等に照ら
してこれらの制約が憲法の上記各条項に違反するものと認めること
はできない。
(b)暴対法46条3号
原告は,暴対法46条3号について,同法30条の2に違反する
行為について直罰規定を定めるが,同法30条の2違反の要件とな
る「つきまとい」行為について規制するストーカー規制法等と比較
して罪刑の均衡を失し,「つきまとい」の意義も不明確であるから
憲法31条に違反する旨主張する。
しかしながら,上記aのとおり,「つきまとい」の意義が不明確
であるとはいえないし,暴対法46条3号に該当する行為は,暴力
的要求行為等に関連して人の生命身体に重大な危害を加える方法に
よる暴力行為が行われるおそれがある場合に行われる,同行為に発
展するおそれが高い行為であり,その規制目的,内容,これによる
罰則との関係において合理性を欠くと認めることはできず,ストー
カー規制法に基づく規制(同法5条)とはその規制目的,規制の前
提となる状況,要件等が異なる以上,同法の定める刑罰と暴対法4
6条3号の刑罰が異なるからといって直ちに憲法31条に違反する
ものと認めることはできない。
また,原告は,暴対法46条3号は,特定危険指定暴力団の構成
員のみについて直罰規定を定めるものであるから,他の指定暴力団
の構成員との比較において不合理な差別的取扱いをするものであり,
憲法14条1項に違反する旨主張する。
しかしながら,仮に特定危険指定暴力団ないしその構成員である
ことが憲法14条1項の「社会的身分」該当するとしても,上記の
とおり,同項は,国民に対する絶対的な平等の取扱いを保障したも
のではなく,合理的な理由なくして差別することを禁止する趣旨で
あるから,国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別す
ることは,その区別が合理性を有する限り,憲法14条1項に違反
するものとはいえない。そして,上記aのとおり,特定危険指定処
分の要件を満たす場合においては暴力的要求行為等に関連して人の
生命身体に重大な危害を加える方法による暴力行為が行われるおそ
れがあるのであるから,その規制の必要性が高く,かかる場合にそ
のような行為を抑止するために上記処分を受けていない指定暴力団
員と同処分を受けた指定暴力団員について異なる取扱いをすること
は,合理的な理由に基づくものであり,憲法14条1項に違反する
と認めることはできない。
(c)暴対法30条の8第2項
原告は,本件処分の取消請求との関係において,暴対法30条の
8第2項が違憲である旨主張するが,下記(6)のとおり,同法30
条の8第2項に関する原告の違憲主張は採用することができない。
(d)暴対法30条の8第4項
原告は,本件処分に至る手続を定めた暴対法30条の8第4項に
ついて,同法5条の場合と同様に公安委員会に要件該当性を根拠付
ける資料の提出を求めていないから,憲法31条に違反する旨主張
する。
しかしながら,暴対法5条は,上記(イ)eのとおり,特定危険暴力
団の指定を受ける者に対して事前の告知をした上,聴聞の機会を付
与するものであり,要件該当性を根拠付ける資料の提出を公安委員
会に求めていないことが憲法31条に違反する旨の主張は採用する
ことができない。
(e)中止命令違反に係る罰則規定に関する主張のうち暴対法47条の
違憲主張について
原告は,暴対法第8章に規定される中止命令違反に係る罰則規定
が中止命令等に違反したことを構成要件とするもので,その要件は
中止命令等の内容によって異なるものであり,刑罰の具体的構成要
件を中止命令等を発する行政庁に白紙委任するものであるから,憲
法41条,73条6号但書に違反する旨主張するところ,上記aの
とおり,暴対法30条の10による中止命令に違反した者に対する
罰則を定める同法第8章(罰則)の各条文のうち,同法47条16
号のみが本件処分に直接関連する規定であるが,同号はその要件を
明確に定めており,構成要件の定めを政令等の下位規範に委任する
ものではないから,憲法41条,73条6号に違反することはない
し,中止命令の内容についても上記aのとおり不明確なものという
ことはできないから,原告の主張は採用することができない。
(f)暴対法30条の8第7項
原告は,暴対法30条の8第7項は,同条1項による要件該当性
の審査を行うことなく,同法3条及び4条に基づく新指定がされた
ときに特定危険指定暴力団として扱うものであるから,憲法21条
1項,31条に違反する旨主張する。
しかしながら,暴対法30条の8第7項は,既にされている有効
な特定危険指定処分がそのまま効力を有することになるだけであり,
特定危険指定処分の要件該当性の審査なく,特定危険指定暴力団等
として扱うものではないから,原告の主張はその前提を欠き,採用
することができない。
(エ)その他の違憲主張について
原告は,上記第2の5(4)ア(ウ)の原告の主張のとおり,暴対法30条
の8第3項,同法30条の11,同法33条,同法49条,中止命令違
反等に係る罰則規定のうち同法47条16号以外の規定についても憲法
の各条項に違反する旨主張するが,上記各規定は,本件処分の要件とな
るものではなく,同処分による直接の効果を定めたものでもないから,
本件処分に係る法律関係を構成するものであるということはできず,こ
の点に関する違憲主張を理由として本件処分に係る法律関係の違憲無効
ないし本件処分の違法を主張することはできないというべきであり,原
告の主張は採用することができない。
イ本件処分の違憲主張について
(ア)原告は,本件処分について,原告と原告以外の山口県下に存在する
指定暴力団について結社の自由の保障に関して差別的な扱いをするも
のであるから,憲法14条1項に違反する旨主張するが,上記ア(ウ)b(b)
のとおり,特定危険指定処分の要件を満たす団体について他の指定暴
力団との区別取扱いを行うことが合理的な根拠を欠くということはで
きず,原告の主張は採用することができない。
(イ)また,原告は,上記第2の5(4)イ(イ)の原告の主張のとおり,本件
処分が結社の自由等を侵害するものであり,憲法21条1項,13条
に違反する旨主張するが,かかる主張に理由がないことは上記アのと
おりである。
ウ以上によれば,原告の本件処分に関する違憲主張はいずれも採用する
ことができない。
(4)本案の争点3(本件処分の適法性)について
ア指定要件について
(ア)指定対象
特定危険指定暴力団等の指定は,「指定暴力団等」(暴対法2条5号)
に対して行われるものであるところ,原告は,上記第2の3(2)のとおり,
本件処分前の平成22年6月22日に3条指定処分を受けているから,
原告は指定暴力団等に該当するものと認められる。
これに対し,原告は,上記第2の5(5)ア(ア)の原告の主張のとおり,
原告に対する指定暴力団としての指定の適法性を争うが,上記の3条指
定処分は公定力により同処分が取り消されない限り有効であり,同処分
が取り消されたという事実は認められない。したがって,原告が指定暴
力団等に該当し,特定危険指定暴力団等の指定の対象となるものである
ことは明らかであるから,原告の主張は採用することはできない。
(イ)暴力行為要件について
a上記第2の2の関係法令の定めのとおり,暴対法30条の8は,
特定危険指定暴力団等の指定要件として,①指定暴力団等の指定暴
力団員がした暴力的要求行為又は当該指定暴力団等の指定暴力団員
がした暴対法12条の3の規定に違反する行為に係る準暴力的要求
行為(暴力的要求行為等)であって,その相手方が拒絶したもの(1
号),②当該指定暴力団等の指定暴力団員がした暴対法30条の2
の規定に違反する行為(請求妨害行為)(2号)のいずれかの行為
が行われた場合において,指定暴力団員又はその要求若しくは依頼
を受けた者が当該行為に関連して凶器を使用して人の生命又は身体
に重大な危害を加える方法による暴力行為を行ったこと(暴力行為
要件)を定めている。
そして,上記①の「暴力的要求行為」とは,暴対法9条の規定に違
反する行為をいい(同法2条7号),「準暴力的要求行為」とは,一
の指定暴力団等の暴力団員以外の者が当該指定暴力団等又は同法9条
に規定する系列上位指定暴力団等の威力を示して同条各号に掲げる行
為をすることをいう(同法2条8号)ところ,暴力的要求行為等の要
件を定める暴対法9条本文にいう「指定暴力団等の威力を示し」とは,
指定暴力団等の威力(人の意思を制圧するに足りる勢力)を相手方に
認識させる一切の行為をいうものであり,必ずしも相手方に畏怖,困
惑,不安又は迷惑の感を生ぜしめる程度のものであることを要しない。
被告は,第1事案ないし第7事案につき暴力行為要件に該当する旨
主張するところ,以下,要件該当性について検討する。
b第1事案
上記1(3)ア(ア)認定のとおり,原告の構成員であるDが,同人が原
告の構成員であることを知っていたゴルフ場の管理者が原告の構成員
によるゴルフ場の利用を拒絶しているにもかかわらず,原告の構成員
によるゴルフ場の利用を要求しており,その要求文言に照らせば,D
が原告の構成員であることを認識するゴルフ場の管理者に対してその
ことを再認識させるものであると認められるから,Dの上記のゴルフ
場の利用を要求した行為は,指定暴力団である原告の威力を示して行
われた暴対法9条18号の暴力的要求行為に該当するものと認められ
る。そして,上記1(3)ア(ア)の認定によれば,Dの暴力的要求行為の
相手方である上記のゴルフ場の管理者がこれを拒絶したものと認めら
れるところ(同法30条の8第1号),原告の構成員であるE及びF
は,これに対する報復のために,平成12年10月22日,同ゴルフ
場の支配人に対し,殺意ないし傷害の意図で刃物でその胸部を突き刺
したのであるから,上記の暴力的要求行為に関連して凶器を使用して
人の生命,身体に重大な危害を加える方法による暴力行為を行ったも
のと認められ,第1事案は暴力行為要件に該当するものと認めるのが
相当である。
c第2事案
上記1(3)ア(イ)認定のとおり,競売によりビルを取得した組合が,
同ビルを組事務所として利用していた原告の下部組織である工藤會大
東亜組に対して,所有権に基づき,同ビルからの退去を求めたもので
あるから,同組合の代表者は,「指定暴力団員の所属する指定暴力団
等の事務所の用に供されている建物の所有権を有する者で当該指定暴
力団等の指定暴力団員の行為により当該権利を害されているものが当
該事務所に係る管理者に対してする当該事務所を当該指定暴力団等の
指定暴力団員に使用させないこととするための請求」(暴対法30条
の2第2号)を行った「請求者」(同条柱書)に該当するものと認め
られる。そして,上記1(3)ア(イ)の認定によれば,原告の構成員であ
るGは,原告の事務所の撤去を請求した組合に対し,その報復のため,
平成13年2月18日,同組合の理事長が管理する店舗に普通乗用自
動車を突入させたのであるから,「請求者に不安を覚えさせるような
方法」で上記組合の代表者の請求を「妨害」するものとして,暴対法
30条の2に違反する行為に該当し(同法30条の8第1項2号),
かつ,かかる妨害行為として,普通乗用自動車を凶器として使用して,
同ビルの従業員や付近の通行人等の人の生命又は身体に重大な危害を
加える方法による暴力行為を行ったものと認められるから,第2事案
は暴力行為要件に該当する。
原告は,第2事案についてGが同事案後に除籍処分を受けており,
同事案が原告の意思に反し,原告の威力を暴力団員に利用させる等し
ていないことは明らかであり,原告との関連性がない旨主張するが,
暴力行為要件は,指定暴力団員が暴力行為を行ったことが要件となる
ものであり,暴力行為を行った指定暴力団の構成員がその後に除籍処
分を受けたか否かによって要件該当性の判断に影響を与えるものでは
ないから,原告の主張は採用することはできない。
d第3事案
被告は,第3事案において原告の構成員であるHがエステ店を営ん
でいる被害者に対し「工藤會の方針だから中国人は出てくれ。」と述
べてビルからの立ち退きを要求したことが,原告の威力を示して被害
者の意思に反して明渡しを要求する行為に当たり,暴対法9条13号
の暴力的要求行為に該当する旨主張する。しかしながら,上記1(3)
ア(ウ)のとおり,Hが上記発言をしたと認めることはできず,その他同
人が「指定暴力団等の威力を示して」被害者に対して明渡しを要求し
たと認めるに足りる事実を主張立証していないから,暴対法9条13
号の暴力的要求行為に該当するものと認めることはできない。したが
って,上記行為が暴力的要求行為に該当することを前提として第3事
案が暴力行為要件を満たす旨の被告の主張は採用することができない。
e第4事案
上記1(3)ア(エ)認定のとおり,原告の構成員がぱちんこ店新規開店
の際に暴力団に対する開店の挨拶と称するみかじめ料の支払が慣例と
なっていることを承知していた被害会社に対してみかじめ料を要求す
る等しており,その内容に照らせば,指定暴力団である原告の威力を
示してみだりに金品等の贈与を要求する暴対法9条2号に該当する暴
力的要求行為が行われたものと認められる。そして,上記1(3)ア(エ)
の認定によれば,暴力的要求行為の相手方である上記の被害会社がこ
れを拒絶したものと認められるところ(同法30条の8第1号),原
告の構成員が,これに対する報復等のために,平成15年5月1日に
上記被害会社が経営する従業員が存在するぱちんこ店の壁面ガラス等
に車両後部を約6回にわたり衝突させて同車を同建物内に突入させた
行為,同年7月29日に同被害会社が経営する来客が遊技中のぱちん
こ店内において拳銃を発射した行為は,いずれも上記暴力的要求行為
に関連して凶器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を加える方
法による暴力行為に当たるものと認められ,第4事案は暴力行為要件
に該当するものと認められる。
f第5事案
被告は,第5事案について原告の構成員であるOがホテルの土地・
建物の競売に関し,原告の意に反し同不動産を落札した会社の実質的
経営者に対してホテルの経営から撤退することを要求したことが被害
者の意思に反して同ホテルの土地・建物の明渡しを要求することと同
視することができるから暴対法9条13号の暴力的要求行為に該当す
る旨主張する。しかしながら,上記1(3)ア(オ)認定のOの被害者に対
する脅迫文言の内容に照らしても,被告も自認するとおり上記各不動
産の明渡しを求めることまで含む趣旨と解することはできず,Oが被
害者に対して建物の明渡しを要求したものと認めることはできないし,
これと同視し得るとして同号の要件に該当する旨の被告の主張は暴対
法9条ひいては同条所定の暴力的要求行為を要件とする同法30条の
8第1項の適用範囲を不明確にするものであり,採用することができ
ない。
g第6事案
上記1(3)ア(カ)の認定によれば,原告の構成員であるRらによる恐
喝行為1及び恐喝行為2はいずれも原告の名前を明示して一方的に金
銭を要求する行為であると認められ,その内容に照らせば,指定暴力
団である原告の威力を示してみだりに金品等の贈与を要求する暴対法
9条2号に該当する暴力的要求行為が行われたものと認められる。そ
して,上記1(3)ア(カ)の認定によれば,暴力的要求行為の相手方であ
る上記の被害会社がこれを拒絶したものと認められるところ(同法3
0条の8第1号),Rらが,これに対する報復及び嫌がらせのために,
平成21年11月14日,ガソリン等の凶器を用いて従業員の居室が
ある上記被害会社が経営するぱちんこ店に放火した行為は上記暴力的
要求行為に関連して凶器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を
加える方法による暴力行為に当たるものと認められ,第6事案は暴力
行為要件に該当するものと認められる。
h第7事案
上記1(3)ア(キ)の認定によれば,原告の構成員であるSらは,原告
の構成員であることを認識する被害者に対して金銭の支払を要求した
ものであるところ,その要求文言に照らせば,指定暴力団である原告
の威力を示してみだりに金銭の支払を要求するものであり,暴対法9
条2号の暴力的要求行為に該当するものと認められる。そして,上記
1(3)ア(キ)の認定によれば,暴力的要求行為の相手方である被害者が
これを拒絶したものと認められるところ(暴対法30条の8第1号),
Sらは,さらに上記要求に応じさせるために平成22年8月30日頃
にはアイスピック様の凶器を用いて被害者の首筋に押し当てる等の行
為を行ったものであるから,かかる行為は上記暴力的要求行為に関連
して凶器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を加える方法によ
る暴力行為に当たるものと認められ,第7事案は暴力行為要件に該当
するものと認められる。原告は,第7事案につき,被害者も暴力団関
係者であり,内輪もめの事案にすぎないから,原告の威力を示したも
のとはいえない旨主張するが,上記認定,判断に照らして,原告の主
張は採用することはできない。
i以上によれば,第1事案,第2事案,第4事案,第6事案及び第
7事案については暴力行為要件に該当するものと認められる。
原告は,上記各事案は平成12年から平成22年までに敢行された
ものであるから,暴力行為要件の判断の基礎とすることには憲法39
条前段違反の疑義がある旨主張するが,特定危険指定暴力団等の指定
は,その処分の際に相手方に拒絶された暴力的要求行為等に関連して
凶器を使用して人の生命等に重大な危害を加える方法による暴力行為
が行われるおそれが存在するか否かによるものであり,かかる要件の
判断の前提として,過去に行われた暴力行為要件に該当する事案を考
慮することが遡及処罰の禁止を定める憲法39条前段に該当するもの
と認めることはできず,原告の主張を採用することはできない。
(ウ)おそれ要件
a上記第2の2の関係法令の定めのとおり,特定危険指定暴力団等
の指定要件として,「指定暴力団員の所属する指定暴力団等の指定
暴力団員又はその要求若しくは依頼を受けた者が更に反復して同様
の暴力行為を行うおそれがあると認めるとき」(おそれ要件)と定
めている(暴対法30条の8第1項本文)。そして,おそれ要件は,
暴力行為要件に該当する行為が繰り返されるおそれないし可能性を
いい,上記の「おそれ」は客観的に認められる必要があるところ,
かかる要件の有無を判断するに当たっては,要件該当暴力行為の発
生頻度,当該暴力行為に関する構成員の言動,暴力行為における凶
器の使用状況,暴力的要求行為等又は請求妨害行為の発生状況等の
事情を総合的に勘案して判断するのが相当である。
bこれを本件についてみると,①上記(イ)のとおり,Cが原告の代
表者となった平成12年以降本件処分時までの間に,原告の構成員
により第1事案,第2事案,第4事案,第6事案及び第7事案の少
なくとも5件の要件該当暴力行為が複数年にわたり反復して敢行さ
れており,本件処分時の直近の第7事案は本件処分の約2年前とい
う時間的にも近接した時期に敢行されたものであること,②上記1
(3)イ(ア)のとおり,平成12年以降本件処分時までの間において,
原告の構成員により32件の報復等目的の暴力行為(うち第1事案
ないし第7事案を構成する事件が9件。)が敢行されており(うち
被疑者死亡の1件を除き,有罪判決が確定している。),このうち
27件(84%)は凶器が使用されたものであり,21件(66%)
は生命身体に重大な危害を加える方法が執られたものであること,
③上記1(3)イ(ア)のとおり,原告の構成員に対して少なくとも71
件の暴力的要求行為等に係る中止命令等が発出されていること,上
記1(3)イ(ア)aないしcの,平成21年5月11日から平成24年
5月29日までの間に原告の構成員により敢行され中止命令等が発
出された暴力的要求行為の内容,④上記1(3)イ(イ)のとおり,平成
12年以降本件処分時までの間において,原告の構成員が敢行した
銃器,手りゅう弾その他高度の殺傷力のある凶器等の所持又は使用
に係る事件は,検挙されているものだけで少なくとも29件に達し
ており,ほぼ毎年認知されているという暴力行為における凶器使用
の実態があることに加え,⑤上記1(3)イ(ウ)のとおり,上記第1事
案ないし第7事案の際に原告の代表者等であった者の大半(78%)
が本件処分直前においても原告の代表者等であり,上記の32件の
報復等目的の暴力行為に関与した者の大半(84%)が本件処分直
前においても原告の構成員であることに照らせば,原告の構成員等
が更に反復して要件該当暴力行為を行うおそれがあるものと認めら
れるから,おそれ要件の存在が認められる。
(エ)指定期間について
暴対法30条の8第1項は,特定危険指定暴力団等としての指定に当
たり,1年を超えない範囲内の期間を定めるものとしているところ,か
かる期間は,要件該当暴力行為が行われるおそれがあると認められる期
間をいうものと解するのが相当である。
これを本件についてみると,上記(イ)及び(ウ)のとおり,平成12年以
降本件処分時までの間,長期にわたり,多数の要件該当暴力行為及び暴
力的要求行為,報復等目的の暴力行為等が敢行されており,要件該当暴
力行為が敢行された際の原告の代表者等やこれらの行為に関与した構成
員について本件処分時にも大きな変動がないことに照らせば,上記のお
それが1年未満の間に解消する見込みがあると認めることはできず,本
件処分における指定期間を1年間とした処分行政庁の判断に誤りがある
と認めることはできない。
(オ)警戒区域について
a特定危険指定暴力団等の指定に当たり,暴力行為により人の生命
又は身体に重大な危害が加えられることを防止するために,特に警
戒を要する区域を警戒区域として定めるものであるところ,警戒区
域は,暴力的要求行為等又は請求妨害行為に関連して危険な暴力行
為が行われるおそれのある区域をいう。そして,かかるおそれが認
められるか否かは,当該区域について,暴力行為やその前提となる
暴力的要求行為等又は請求妨害行為を行った指定暴力団員及びその
所属組織の活動拠点や資金獲得活動等の状況,当該団体や組織が関
与する過去の同種事案の発生状況等に基づき判断するのが相当であ
る。
以下,本件各区域について,警戒区域に該当するか否かを検討する。
b北九州市
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記1(2)イのとおり,原告は,
本件処分の直前の時点において,北九州市内に本部事務所を含む少な
くとも32か所の事務所を設置し,同市内には325名の原告の構成
員が居住していること,上記1(3)ウ(ア)のとおり,平成12年以降平
成24年11月15日までの間に原告の構成員に対して北九州市を発
生場所とする暴力的要求行為等に係る中止命令等が34件発出されて
いること,原告の構成員につき同期間における恐喝,恐喝未遂,脅迫
等の事実により14件の有罪判決が確定しており,このうち上記1(3)
ウ(ア)bに例示した事実はその内容に照らせばいずれも原告の威力を示
した暴力的要求行為(暴対法9条2項)に該当するものと認められる
こと,同期間に原告の構成員により同市内において報復等目的の暴力
行為が18件敢行されていること(第2事案,第3事案及び第5事案
を含む。)及びその行為の内容に照らせば,同市は,暴力的要求行為
等又は請求妨害行為に関連して危険な暴力行為が行われるおそれのあ
る区域に該当するものと認められる。
c福岡市
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,原告
は,本件処分の直前の時点において,福岡市内に4か所の事務所を設
置し,同市内には47名の原告の構成員が居住していること,上記1
(3)ウ(イ)のとおり,平成12年以降平成24年11月15日までの間
に原告の構成員に対して同市を発生場所とする暴力的要求行為等に係
る中止命令等が4件発出されていること,原告の構成員につき同期間
における恐喝,恐喝未遂,脅迫等の事実により1件の有罪判決が確定
しており,上記1(3)ウ(イ)bの同事実の内容に照らせば,原告の威力を
示した暴力的要求行為(暴対法9条2号)に該当するものと認められ
ること,同期間に原告の構成員により同市内において報復等目的の暴
力行為が4件敢行されていること(第4事案及び第7事案を含む。)
及びその行為の内容に照らせば,同市は,暴力的要求行為等又は請求
妨害行為に関連して危険な暴力行為が行われるおそれのある区域に該
当するものと認められる。
d行橋市
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,原告
は,本件処分の直前の時点において,行橋市内に少なくとも1か所の
事務所を設置し,同市内には19名の原告の構成員が居住しており,
原告は,平成15年から平成24年までの間原告傘下の組事務所にお
いて同市につき原告の縄張りであることを示す地図を掲示する等して
いたこと,上記1(3)ウ(ウ)のとおり,平成12年以降平成24年11
月15日までの間に原告の構成員に対して同市を発生場所とする暴力
的要求行為等に係る中止命令等が3件発出されていること,原告の構
成員につき同期間における恐喝,恐喝未遂,脅迫等の事実により1件
の有罪判決が確定しており,上記1(3)ウ(ウ)bの同事実の内容に照らせ
ば,原告の威力を示した暴力的要求行為(暴対法9条2号)に該当す
るものと認められること,同期間に原告の構成員により同市内におい
て報復等目的の暴力行為が2件敢行されていること及びその行為の内
容,同市は,上記bのとおり本部事務所が設置され,暴力行為等が多数
敢行されている北九州市に隣接しており,同市中心部から約25km
の距離にあり(弁論の全趣旨),地理的にも人,物の行き来が容易で
あるものと認められることに照らせば,行橋市は,暴力的要求行為等
又は請求妨害行為に関連して危険な暴力行為が行われるおそれのある
区域に該当するものと認められる。
e豊前市
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,本件
処分の直前の時点において,豊前市内には1名の原告の構成員が居住
していること,原告は,平成15年から平成24年までの間原告傘下
の組事務所において同市につき原告の縄張りであることを示す地図を
掲示する等していたことに照らせば,同市は,暴力的要求行為等又は
請求妨害行為に関連して危険な暴力行為が行われるおそれのある区域
に該当するものと認められる。
f中間市
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,原告
は,本件処分の直前の時点において,中間市内に1か所の事務所を設
置し,同市内には18名の原告の構成員が居住しており,原告は,平
成15年から平成24年までの間原告傘下の組事務所において同市に
つき原告の縄張りであることを示す地図を掲示する等していたこと,
上記1(3)ウ(エ)のとおり,平成12年以降平成24年11月15日ま
での間に原告の構成員により同市内において報復等目的の暴力行為が
1件敢行されていること及びその行為の内容,同市は,上記bのとおり
本部事務所が設置され,暴力行為等が多数敢行されている北九州市に
隣接しており(弁論の全趣旨),地理的にも人,物の行き来が容易で
あるものと認められることに照らせば,中間市は,暴力的要求行為等
又は請求妨害行為に関連して危険な暴力行為が行われるおそれのある
区域に該当するものと認められる。
g春日市
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,本件
処分の直前の時点において,同市内には9名の原告の構成員が居住し
ていること,上記1(3)ウ(オ)のとおり,平成12年以降平成24年1
1月15日までの間に原告の構成員に対して同市を発生場所とする暴
力的要求行為等に係る中止命令等が4件発出されていること,原告の
構成員につき同期間における恐喝,恐喝未遂,脅迫等の事実により1
件の有罪判決が確定しており,上記1(3)ウ(オ)bの同事実の内容に照ら
せば,原告の威力を示した暴力的要求行為(暴対法9条2号)に該当
するものと認められること,同市は,上記cのとおり暴力行為等が多
数敢行されている福岡市に隣接しており同市中心部から約10kmの
距離にあり(弁論の全趣旨),地理的にも人,物の行き来が容易であ
るものと認められることに照らせば,春日市は,暴力的要求行為等又
は請求妨害行為に関連して危険な暴力行為が行われるおそれのある区
域に該当するものと認められる。
h宮若市
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,原告
は,本件処分の直前の時点において,宮若市内に1か所の事務所を設
置し,同市内には4名の原告の構成員が居住しており,原告は,平成
15年から平成24年までの間原告傘下の組事務所において同市につ
き原告の縄張りであることを示す地図を掲示する等していたこと,上
記1(3)ウ(カ)のとおり,平成12年以降平成24年11月15日まで
の間に原告の構成員により同市内において報復等目的の暴力行為が1
件敢行されていること及びその行為の内容に照らせば,同市は,暴力
的要求行為等又は請求妨害行為に関連して危険な暴力行為が行われる
おそれのある区域に該当するものと認められる。
i遠賀郡(芦屋町,水巻町,岡垣町及び遠賀町)
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,原告
は,本件処分の直前の時点において,遠賀郡内に2か所の事務所を設
置し,同郡内には12名の原告の構成員が居住しており,原告は,平
成15年から平成24年までの間原告傘下の組事務所において同郡に
つき原告の縄張りであることを示す地図を掲示する等していたこと,
上記1(3)ウ(キ)認定のとおり,平成12年以降平成24年11月15
日までの間に原告の構成員に対して同郡を発生場所とする暴力的要求
行為等に係る中止命令等が2件発出されていること,原告の構成員に
つき同期間における恐喝,恐喝未遂,脅迫等の事実により1件の有罪
判決が確定しており,上記1(3)ウ(キ)bの同事実の内容に照らせば,原
告の威力を示した暴力的要求行為(暴対法9条2号)に該当するもの
と認められること,同郡は,上記bのとおり原告の本部事務所が設置さ
れ,暴力行為等が多数敢行されている北九州市に接しており,北九州
市西部は従前遠賀郡に属していたこと(弁論の全趣旨)等によれば,
地理的にも人,物の行き来が容易であるものと認められること,平成
16年の原告の構成員が手りゅう弾を保管した事案,平成17年の原
告の構成員が拳銃及びこれに適合する実包を保管した事案についてい
ずれも有罪判決が確定していることに照らせば,同郡は,暴力的要求
行為等又は請求妨害行為に関連して危険な暴力行為が行われるおそれ
のある区域に該当するものと認められる。
j鞍手郡(小竹町及び鞍手町)
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,原告
は,本件処分の直前の時点において,鞍手郡内に1か所の事務所を設
置し,同郡内には3名の原告の構成員が居住しており,原告は,平成
15年から平成24年までの間原告傘下の組事務所において同郡につ
き原告の縄張りであることを示す地図を掲示する等していたこと,上
記1(3)ウ(ク)認定のとおり,原告の構成員につき平成12年以降平成
24年11月15日までの間における恐喝,恐喝未遂,脅迫等の事実
により1件の有罪判決が確定しており,上記1(3)ウ(ク)の同事実の内
容に照らせば,原告の威力を示した暴力的要求行為(暴対法9条2号)
に該当するものと認められること,同郡は,上記bのとおり原告の本部
事務所が設置され,暴力行為等が多数敢行されている北九州市に接し
ており(弁論の全趣旨),地理的にも人,物の行き来が容易であるも
のと認められることに照らせば,同郡は,暴力的要求行為等又は請求
妨害行為に関連して危険な暴力行為が行われるおそれのある区域に該
当するものと認められる。
k京都郡(苅田町及びみやこ町)
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,本件
処分の直前の時点において,京都郡内には13名の原告の構成員が居
住しており,原告は,平成15年から平成24年までの間原告傘下の
組事務所において同郡につき原告の縄張りであることを示す地図を掲
示する等していたこと,上記1(3)ウ(ケ)認定のとおり,平成12年以
降平成24年11月15日までの間に原告の構成員に対して同郡を発
生場所とする暴力的要求行為等に係る中止命令等が3件発出されてい
ること,上記1(3)ウ(ケ)のとおり,同期間に原告の構成員により同郡
内において報復等目的の暴力行為が2件敢行されていること(第1事
案を含む。)及びその行為の内容,同郡は,上記bのとおり原告の本部
事務所が設置され,暴力行為等が多数敢行されている北九州市に接し
ており(弁論の全趣旨),地理的にも人,物の行き来が容易であるも
のと認められること,平成17年に原告の構成員が拳銃及びこれに適
合する実包を保管した事案について有罪判決が確定していることに照
らせば,同郡は,暴力的要求行為等又は請求妨害行為に関連して危険
な暴力行為が行われるおそれのある区域に該当するものと認められる。
l築上郡(吉富町,上毛町及び築上町)
上記(イ)及び(ウ)のとおり原告については暴力行為要件,おそれ要件
に該当することが認められるところ,上記認定1(2)イのとおり,原告
は,本件処分の直前の時点において,築上郡内に1か所の事務所を設
置し,同郡内には4名の原告の構成員が居住しており,原告は,平成
15年から平成24年までの間原告傘下の組事務所において同郡につ
き原告の縄張りであることを示す地図を掲示する等していたこと,上
記1(3)ウ(コ)認定のとおり,平成23年10月29日に原告の構成員
に対して同郡を発生場所とする暴力的要求行為等に係る中止命令が1
件発出されていること,同郡は,上記bのとおり原告の本部事務所が設
置され,暴力行為等が多数敢行されている北九州市に近接しており(弁
論の全趣旨),地理的にも人,物の行き来が容易であるものと認めら
れることに照らせば,同郡は,暴力的要求行為等又は請求妨害行為に
関連して危険な暴力行為が行われるおそれのある区域に該当するもの
と認められる。
m以上によれば,本件各区域はいずれも警戒区域の要件を満たすも
のと認められる。
イ手続違背の有無について
(ア)特定危険指定処分をしようとするときには,公安委員会は,指定を
しようとする理由並びに意見聴取の期日及び場所について意見聴取通
知書を送達して通知する等した上で,意見聴取を行わなければならな
い旨定められているところ(暴対法30条の8第4項,5条1項,2
項),上記1(6)の認定によれば,処分行政庁は,原告に対して指定
をしようとする理由並びに意見聴取の期日及び場所について意見聴取
通知書を送達して通知する等した上で,本件意見聴取手続を行い,そ
の後,本件処分を行ったのであるから,その手続が違法であると認め
ることはできない。
(イ)これに対し,原告は,本件意見聴取手続において,実質的には告知
聴聞の機会が与えられず本件処分を受けたから,憲法31条に違反す
る旨主張するが,上記(ア)のとおり採用することはできない。
(ウ)また,原告は,行政手続法15条2項2号及び同法18条の趣旨に
照らせば,本件処分に当たり,処分の原因となる資料の閲覧を行わせ
る必要があるところ,本件意見聴取通知書には,指定をしようとする
理由,警戒区域として定めようとする地域が記載されているものの,
本件処分の原因となる事実を裏付ける資料が添付されていないから,
本件意見聴取手続は違法である旨主張する。
しかしながら,特定危険指定処分については,行政手続法15条2項
2号,同法18条の適用を除外する旨定められており(暴対法43条),
暴対法及び意見聴取規則には意見聴取の通知において同通知の「指定を
しようとする理由」に記載された事実を裏付ける資料を開示ないし添付
することについての法律上の根拠はない。そもそも特定危険指定処分を
しようとする際に意見聴取を行うこととされた趣旨は,指定をしようと
する理由についてその相手方に意見の陳述及び証拠の提出の機会を与え
ることによりその処分の適正を図るものであり,指定をしようとする理
由を示すことによりかかる事実に関する意見を述べ,証拠を提出するこ
とができるのであるから,意見聴取ないしその前提としての意見聴取の
通知において,上記の理由を裏付ける資料を開示することまで求めるも
のであると解することはできない。したがって,原告の主張は採用する
ことはできない。
(エ)また,原告は,処分行政庁は本件意見聴取手続において原告代表者
本人の出席を十分に確保する必要があったにもかかわらず,同手続に
おいて原告代表者であるCが出席できるように手続を行った形跡がな
く意見聴取手続を強行しているから,代表者の出席確保に問題があり,
違法である旨主張する。
しかしながら,意見聴取手続において代表者の出席が必要的である旨
定める規定はないし,意見聴取の通知を受けた者は,病気その他のやむ
を得ない理由がある場合には,公安委員会に対し,意見聴取の期日又は
場所の変更を申し出ることができる旨定められているところ(意見聴取
規則16条),原告からかかる申出が行われたと認めるに足りる証拠は
ないし,上記1(6)認定のとおり,本件意見聴取手続には原告の代理人及
び補佐人が出席しており,原告代表者が出席することなく意見聴取手続
が行われることについて異議等を述べた事実はうかがわれないことに照
らせば,原告代表者が出席することなく行われた本件意見聴取手続に違
法があると認めることはできない。したがって,原告の主張は採用する
ことができない。
(オ)原告は,本件意見聴取手続において主宰者が指定をしようとする理
由及び警戒区域として定めようとする区域を聴取官に朗読させる際に,
これらの事実を裏付ける証拠の提示あるいは朗読がされた形跡がない
ことから,本件意見聴取手続が違法である旨主張する。
しかしながら,上記(ウ)で説示したとおり,意見聴取手続において指定
をしようとする理由を裏付ける証拠の提示等を行わなかったことが違法
であると認めることはできず,原告の主張は採用することができない。
(カ)原告は,本件意見聴取手続において原告の代理人が意見陳述を始め
たところ,聴取官が意見陳述を制限してこれを妨害した旨主張する。
しかしながら,上記1(6)認定のとおり,X代理人は意見書を全て読
み上げており,主宰者は意見聴取手続を終了する際に聴取官がX代理
人に対してその他の意見がないことを確認した上で意見陳述の手続を
終了していることに照らせば,本件意見聴取手続において聴取官が意
見陳述の妨害をしたものと認めることはできず,原告の主張は採用す
ることができない。
(キ)原告は,処分行政庁による本件処分の理由となる事案の選択が違法
である旨主張するが,かかる主張は,本件意見聴取手続の手続上の違
法を基礎付ける事由であると認めることはできないし,この点を措く
としても,既に上記アで説示したとおり,本件処分は処分要件を満た
すものであるから,本件処分が違法であるということはできず,原告
の主張は採用することができない。
(ク)原告は,事務所の使用制限に関する原告の意見陳述は意見聴取規則
22条3項の「事案の範囲を超えて発言するとき」に該当しないにも
かかわらず,これを妨害されたことが違法である旨主張する。しかし
ながら,上記1(6)認定のとおり,本件意見聴取手続においてX代理
人は持参した意見書の記載事項を全て読み上げて意見を陳述し,同意
見書には事務所使用制限に関する意見が記載されていること(乙37),
主宰者は本件意見聴取手続を終了する際に聴取官がX代理人に対して
その他の意見がないことを確認した上で意見陳述の手続を終了してい
ることに照らせば,本件意見聴取手続において事務所の使用制限に関
する原告の意見陳述が妨害されたものと認めることはできず,原告の
主張は採用することができない。
(ケ)原告は,本件意見聴取手続において,他の団体との比較において原
告に特定危険指定処分を行うことの是非や憲法上の問題については意
見聴取規則22条3項の「事案の範囲を超えて発言するとき」には該
当せず,聴取官には応答義務があるにもかかわらず,これに対する回
答を拒否したことは違法である旨主張する。しかしながら,暴対法及
び意見聴取規則には相手方から述べられた意見について聴取官が応答
する義務を定めた規定は存在しないから,原告の代理人が述べた意見
について聴取官が応答しなかったからといって,本件意見聴取手続が
違法であるということはできず,原告の主張は採用することができな
い。
(コ)原告は,本件意見聴取手続の主宰者は,意見聴取規則28条に基づ
き証拠の提出を求め,証拠調べを開始する際に原告の代理人が意見書
を提出したが,委員長が同規則33条の却下事由が存在しないにもか
かわらずこれを証拠として扱わず,意見陳述書として取り扱ったこと,
主宰者には当事者に対して証拠の申出の意義等を説明する義務がある
にもかかわらずこれを怠ったこと,意見聴取の結果を記載した調書に
提出された証拠について「なし」と記載したことが虚偽であることに
よれば,本件意見聴取手続は違法である旨主張する。
しかしながら,主宰者が同規則28条に基づき証拠の提出を求めたも
のと認めるに足りる証拠はない。また,意見聴取手続において,証拠の
申出を行う場合には証拠及びその内容と証明しようとする事実との関係
を具体的に明らかにして行わなければならないこととされているところ
(同規則32条),上記1(6)の認定によれば,X代理人は,主宰者が証
拠調べを行う旨宣言した後に意見書を主宰者に対して提出したものの,
証拠及びその内容と証明しようとする事実との関係を具体的に明らかに
して同意見書を提出したものと認めることはできないし,主宰者が意見
陳述書として同意見書を預かる旨述べたことに対して,X代理人が特に
異議を述べず,また,主宰者がその他に証拠はないか質問したところ,
同代理人が「別に。」と回答したことに照らせば,上記の意見書の提出
が証拠の申出に当たるものと認めることはできず,主宰者がこれを意見
陳述書として取り扱い,同手続の調書において証拠につき「なし」と記
載したことが虚偽であると認めることもできない。さらに,暴対法及び
意見聴取規則には,証拠調べにおいて,主催者が相手方に対して書面を
証拠として提出することと意見陳述書として提出することの差異等の証
拠申出の意義を説明する義務は定められておらず,かかる説明を主宰者
が行わなかったことが違法であると認めることはできない。したがって,
原告の主張は採用することができない。
(サ)さらに,原告は,本件意見聴取手続において,指定しようとする理
由の事件について工藤會の犯行に間違いない旨述べたことはないにも
かかわらず,同手続の調書にその旨記載したことは違法であり,また,
同手続が39分間しか行われていないことからすれば実質的に意見聴
取が行われたものとはいえない旨主張する。
しかしながら,証拠(乙37)及び弁論の全趣旨によれば,本件意見
聴取手続の意見陳述の際に,聴取官の「この指定をする理由に書いてあ
る5つの暴力行為の事件と3つの暴力的要求行為の事件は,間違いなく
工藤會の組員がやったということでよろしいですか」との質問に対して
X代理人が「はい,よろしいです」と回答したこと,かかる意見陳述の
要旨として上記の手続調書の意見陳述の要旨欄に同代理人の意見として
「指定をしようとする理由の事件は工藤會の犯行に間違いない。」旨記
載されていることが認められ,同調書に記載された内容は原告の構成員
の犯行であることを認める旨の上記のX代理人の回答が要約されたもの
と認められるから,同調書の記載に誤りがあると認めることはできない。
また,本件意見聴取手続の時間の長短によって実質的に意見聴取が行わ
れていないものと認めることはできない。したがって,原告の主張は採
用することができない。
ウまとめ
以上によれば,本件処分は適法であり,本件処分の取消請求及び本件
予備的請求には理由がない。
(5)本案の争点4(暴対法30条の8第2項の合憲性)について
ア原告は,特定危険指定処分の指定の期限の延長について定める暴対法
30条の8第2項について,公安委員会が「必要があると認めるとき」
に暴対法3条の指定要件及び同法30条の8第1項の特定危険指定の要
件該当性を認定しないままこれらの要件を擬制して期限の延長をするこ
とにより結社の弱体化を招来するものであるから,憲法21条1項の結
社の自由を侵害する旨主張する。
しかしながら,暴対法30条の8第2項は,同条1項の指定をした場
合において,当該指定の有効期間が経過した後において「更にその指定
の必要があると認めるとき」に特定危険指定処分の指定の期限を延長す
ることができる旨定めるところ,上記(4)のとおり,特定危険指定処分
の要件は①暴力行為要件及び②おそれ要件であり,①は過去に行われた
行為をいい,同処分の有効期間が経過した後においてもこの事実が存在
することには変わりないのに対し,②については時間の経過に伴って変
動し得るものであるから,「更にその指定の必要があると認めるとき」
とは,指定の有効期間が経過した後においても,なお上記②のおそれ要
件を満たすことを意味するものと解するのが相当である。
したがって,暴対法30条の8第2項に基づく特定危険指定処分の指
定の期限の延長の際には,おそれ要件の有無について処分行政庁による
判断が行われることとなるのであるから,同法30条の8第1項の要件
該当性を認定しないままその要件を擬制するものであるということはで
きない。また,暴対法3条による要件該当性については同法30条の8
第2項による延長処分とは別個に行われるものであり(同法30条の8
第7項,8条),延長処分によってその要件が擬制されるわけではない
から,原告の憲法21条1項違反に関する主張はその前提を欠くもので
あり,採用することはできない。
イまた,原告は,暴対法30条の8第2項に基づく特定危険指定処分の
指定の期限の延長処分について,「必要があると認めるとき」に該当す
るか否かの判断を公安委員会に委ねており,司法的なチェックや当事者
である暴力団の手続への関与に関する規定がないから,憲法31条が定
める適正手続条項に違反する旨主張する。
しかしながら,憲法31条の定める法定手続の保障については,一般
に,行政手続は,刑事手続とその性質においておのずから差異があり,
また,行政目的に応じて多種多様であるから,行政処分の相手方に事前
の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を
受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しよう
とする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定されるべきもの
であって,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものでは
ないと解するのが相当である(前掲最高裁平成4年7月1日大法廷判決・
民集46巻5号437頁参照)。
これを本件についてみると,指定期限延長処分により制限される権利
利益の内容,性質は,上記(4)のとおりであり,規制の対象となる行為
は反社会的な行為ないし反社会的な目的を有する行為である一方,指定
期限延長処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等は,
暴力的要求行為等に関連して凶器を使用して人の生命又は身体に重大な
危害を加える方法による暴力行為を行うおそれがあるという緊迫した状
況下における一般市民の生命身体という極めて重要な利益である。
このような事情に加え,特定危険指定処分を行う際には,暴対法30
条の8第2項による延長処分が予定されていることを前提として,公開
による意見聴取を行うことが要求されており(同法30条の8第4項,
5条),これにより処分の名宛人の手続的権利を保障していること等の
事情をも併せ考慮すれば,上記のようなおそれが存在する緊迫した状況
下において,一般市民の生命身体を保護することを目的として,特定危
険指定処分の効力を維持,存続させるため,指定期限延長処分をする際
に,その都度,相手方に再度事前の告知,弁解,防御の機会を与えるこ
とが必要であると認めることはできないというべきであり,上記機会を
付与しないことが憲法31条に違反するものであると認めることはでき
ない。
また,憲法31条は,行政処分に当たり事前の司法的な確認まで予定
した規定であると認めることはできないから,憲法31条違反に関する
原告の主張は採用することができない。
ウ以上によれば,暴対法30条の8第2項に基づく延長処分が違憲であ
ると認めることはできない。
(6)本案の争点6(本件延長処分2の適法性)について
ア上記(5)のとおり,暴対法30条の8第2項の「更にその指定の必要
があると認めるとき」とは,時間の経過に伴って変動することがあり得
るおそれ要件を指定の有効期間が経過した後においても満たしているこ
とを意味するものと解するのが相当である。
イこれを本件についてみると,上記(4)のとおり,本件処分時までの間
も原告の構成員により要件該当暴力行為,暴力的要求行為,報復等目的
の暴力行為が繰り返し敢行され,銃器,手りゅう弾等の凶器を保管する
等の実態が認められるところ,本件処分の有効期間が経過した後本件延
長処分1までの間においても,上記1(4)アないしオ認定のとおり,①
原告の構成員であるABが金品等の供与の要求行為を行っており,その
要求文言に照らせば,原告の威力を示して行う暴対法9条4号の暴力的
要求行為に該当するものと認められるところ,被害者がこれを拒絶した
ため(同法30条の8第1項1号),ABらがこれに関連して木製バッ
トという凶器を用いて被害者の全身を殴打する等凶器を使用して人の生
命又は身体に重大な危害を加える方法による暴力行為を行ったものと認
められるから,暴対法30条の8第1項の要件該当暴力行為を敢行した
ものと認められること,②原告の構成員であるADが警戒区域において
暴力的要求行為を行った同法46条3号違反の行為についての有罪判決
が確定していること,③原告の構成員に対して暴力的要求行為に係る中
止命令が2件発出されていること,④原告の構成員らについて恐喝,恐
喝未遂の有罪判決が確定しているところ,その内容に照らせば原告の威
力を示した暴力的要求行為であると認められること,⑤原告の構成員に
よる報復等目的の暴力行為が1件敢行されていることに鑑みれば,本件
延長処分1までの間においても原告の構成員が要件該当暴力行為を行う
おそれが継続していたものと認められ,本件延長処分1によって延長さ
れた指定の期限が経過した後本件延長処分2の時点までにかかるおそれ
が減殺される事情は認められない。
また,本件延長処分1後本件延長処分2までの間においても,上記1
(5)アのとおり,原告の構成員に対して暴力的要求行為に係る中止命令
が1件発出されていること,上記1(5)イのとおり,同構成員はみだり
に金品等の贈与を要求する恐喝事件を敢行しているものであるところ,
その行為の内容に照らせば原告の威力を示してみだりに金品等の贈与を
要求する暴力的要求行為(暴対法9条2号)に該当するものと認められ
ること,上記1(5)ウのとおり,原告の構成員により報復等目的の暴力
行為が敢行されていること,上記1(5)エのとおり原告の構成員が拳銃
及びこれに適合する実包を保管して凶器を所持した事案が敢行されてい
ること等の暴力的要求行為,暴力行為の敢行状況及び凶器使用の実態に
加え,上記1(5)オのとおり,本件延長処分2より前の時点における原
告の代表者等全員が平成12年以降本件延長処分2の直前までに発生し
た要件該当暴力行為の際にも原告の代表者等であり,平成12年以降本
件延長処分2の直前までの間に発生した報復等目的暴力行為35件に関
与した原告の構成員のうち大半(約80%)が本件延長処分2の直前の
時点においても引き続き原告の構成員である等暴力行為に関与した構成
員,行為が敢行された際の代表者等に変動も少ないことに鑑みれば,本
件延長処分2の時点においてもおそれ要件が認められる。
したがって,本件処分の有効期間が経過した後においても,同処分の
要件が満たされていると認められる。そして,上記各事情に照らせば,
1年未満の期間に上記のようなおそれが解消される見込みがあると認め
ることはできないから,本件処分の指定の期限の延長期間を1年間とし
て行った本件延長処分2は,暴対法30条の8第2項に定める特定危険
指定の延長処分の要件を満たしており,適法であり,本件延長処分2の
取消請求には理由がない。
第4結論
以上によれば,本件訴えのうち,本件処分が無効であることの確認を求める
訴え及び本件延長処分1の取消しを求める訴えは不適法であるから,いずれも
却下し,原告のその余の請求は理由がないから,いずれも棄却することとし,
訴訟費用の負担については,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用し
て,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官高橋亮介
裁判官貝阿彌千絵子
裁判官渡部みどり
別紙関係法令の定め
第1暴対法の定め
(目的)
第1条この法律は,暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行
い,及び暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するため
に必要な措置を講ずるとともに,暴力団員の活動による被害の予防等に資
するための民間の公益的団体の活動を促進する措置等を講ずることにより,
市民生活の安全と平穏の確保を図り,もって国民の自由と権利を保護する
ことを目的とする。
(定義)
第2条この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号
に定めるところによる。
(1)暴力的不法行為等別表(略)に掲げる罪のうち国家公安委員会規則
で定めるものに当たる違法な行為をいう。
(2)暴力団その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)
が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれ
がある団体をいう。
(3)指定暴力団次条の規定により指定された暴力団をいう。
(4)指定暴力団連合第4条の規定により指定された暴力団をいう。
(5)指定暴力団等指定暴力団又は指定暴力団連合をいう。
(6)暴力団員暴力団の構成員をいう。
(7)暴力的要求行為第9条の規定に違反する行為をいう。
(8)準暴力的要求行為一の指定暴力団等の暴力団員以外の者が当該指
定暴力団等又はその第9条に規定する系列上位指定暴力団等の威力を示
して同条各号に掲げる行為をすることをいう。
(指定)
第3条都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は,暴力団が次の
各号のいずれにも該当すると認めるときは,当該暴力団を,その暴力団員
が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが
大きい暴力団として指定するものとする。
(1)名目上の目的のいかんを問わず,当該暴力団の暴力団員が当該暴力団
の威力を利用して生計の維持,財産の形成又は事業の遂行のための資金
を得ることができるようにするため,当該暴力団の威力をその暴力団員
に利用させ,又は当該暴力団の威力をその暴力団員が利用することを容
認することを実質上の目的とするものと認められること。
(2)国家公安委員会規則で定めるところにより算定した当該暴力団の幹部
(主要な暴力団員として国家公安委員会規則で定める要件に該当する者
をいう。)である暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者(次の
いずれかに該当する者をいう。以下この条において同じ。)の人数の比
率又は当該暴力団の全暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の
人数の比率が,暴力団以外の集団一般におけるその集団の人数のうちに
占める犯罪経歴保有者の人数の比率を超えることが確実であるものとし
て政令で定める集団の人数の区分ごとに政令で定める比率(当該区分ご
とに国民の中から任意に抽出したそれぞれの人数の集団において,その
集団の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が当該政令で定
める比率以上となる確率が十万分の一以下となるものに限る。)を超え
るものであること。
イ暴力的不法行為等又は第八章(第50条(第2号に係る部分に限る。)
及び第52条を除く。以下この条及び第12条の5第2項第2号にお
いて同じ。)に規定する罪に当たる違法な行為を行い禁錮(こ)以上
の刑に処せられた者であって,その執行を終わり,又は執行を受ける
ことがなくなった日から起算して十年を経過しないもの
ロ暴力的不法行為等又は第八章に規定する罪に当たる違法な行為を行
い罰金以下の刑に処せられた者であって,その執行を終わり,又は執
行を受けることがなくなった日から起算して五年を経過しないもの
ハ暴力的不法行為等又は第八章に規定する罪に当たる違法な行為を行
い禁錮以上の刑の言渡し及びその刑の執行猶予の言渡しを受け,当該
執行猶予の言渡しを取り消されることなく当該執行猶予の期間を経過
した者であって,当該刑に係る裁判が確定した日から起算して十年を
経過しないもの
ニ暴力的不法行為等又は第八章に規定する罪に当たる違法な行為を行
い罰金の刑の言渡し及びその刑の執行猶予の言渡しを受け,当該執行
猶予の言渡しを取り消されることなく当該執行猶予の期間を経過した
者であって,当該刑に係る裁判が確定した日から起算して五年を経過
しないもの
ホ暴力的不法行為等又は第八章に規定する罪に当たる違法な行為を行
い禁錮以上の刑に係る有罪の言渡しを受け,当該言渡しに係る罪につ
いて恩赦法(昭和二十二年法律第二十号)第2条の大赦又は同法第4
条の特赦を受けた者であって,当該大赦又は特赦のあった日(当該日
において当該言渡しに係る刑の執行を終わり,又は執行を受けること
がなくなっている場合にあっては,当該執行を終わり,又は執行を受
けることがなくなった日)から起算して十年を経過しないもの
ヘ暴力的不法行為等又は第八章に規定する罪に当たる違法な行為を行
い罰金以下の刑に係る有罪の言渡しを受け,当該言渡しに係る罪につ
いて恩赦法第2条の大赦又は同法第4条の特赦を受けた者であって,
当該大赦又は特赦のあった日(当該日において当該言渡しに係る刑の
執行を終わり,又は執行を受けることがなくなっている場合にあって
は,当該執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日)から
起算して五年を経過しないもの
(3)当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者(以下
「代表者等」という。)の統制の下に階層的に構成されている団体であ
ること。
(意見聴取)
第5条公安委員会は,前二条の規定による指定(以下この章において「指定」
という。)をしようとするときは,公開による意見聴取を行わなければな
らない。ただし,個人の秘密の保護のためやむを得ないと認めるときは,
これを公開しないことができる。
2前項の意見聴取を行う場合において,公安委員会は,指定に係る暴力団
を代表する者又はこれに代わるべき者に対し,指定をしようとする理由並
びに意見聴取の期日及び場所を相当の期間をおいて通知し,かつ,意見聴
取の期日及び場所を公示しなければならない。
3意見聴取に際しては,当該指定に係る暴力団を代表する者若しくはこれ
に代わるべき者又はこれらの代理人は,当該指定について意見を述べ,か
つ,有利な証拠を提出することができる。
4公安委員会は,当該指定に係る暴力団を代表する者若しくはこれに代わ
るべき者若しくはこれらの代理人が正当な理由がなくて出頭しないとき,
又は当該指定に係る暴力団を代表する者若しくはこれに代わるべき者の所
在が不明であるため第2項の規定による通知をすることができず,かつ,
同項の規定による公示をした日から起算して三十日を経過してもこれらの
者の所在が判明しないときは,第1項の規定にかかわらず,意見聴取を行
わないで指定をすることができる。
5前各項に定めるもののほか,第1項の意見聴取の実施について必要な事
項は,国家公安委員会規則で定める。
(指定の公示)
第7条公安委員会は,指定をするときは,指定に係る暴力団の名称その他の国
家公安委員会規則で定める事項を官報により公示しなければならない。
2指定は,前項の規定による公示によってその効力を生ずる。
3公安委員会は,指定をしたときは,当該指定に係る指定暴力団等を代表
する者又はこれに代わるべき者に対し,国家公安委員会規則で定めるとこ
ろにより,指定をした旨その他の国家公安委員会規則で定める事項を通知
しなければならない。
4第1項の規定により公示された事項に変更があったときは,公安委員会
は,その旨を官報により公示しなければならない。
(指定の有効期間及び取消し)
第8条指定は,三年間その効力を有する。
2公安委員会は,前項の規定にかかわらず,指定暴力団等が次の各号のい
ずれかに該当することとなったときは,当該指定暴力団等に係る指定を取
り消さなければならない。
(1)解散その他の事由により消滅したとき。
(2)第3条各号又は第4条各号のいずれかに該当しなくなったと明らかに
認められるとき。
(暴力的要求行為の禁止)
第9条指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は,その者
の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団
等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり,又は
指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係
をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以
下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。
(1)人に対し,その人に関する事実を宣伝しないこと又はその人に関する
公知でない事実を公表しないことの対償として,金品その他の財産上の
利益(以下「金品等」という。)の供与を要求すること。
(2)人に対し,寄附金,賛助金その他名目のいかんを問わず,みだりに金
品等の贈与を要求すること。
(4)縄張(正当な権原がないにもかかわらず自己の権益の対象範囲として
設定していると認められる区域をいう。以下同じ。)内で営業を営む者
に対し,名目のいかんを問わず,その営業を営むことを容認する対償と
して金品等の供与を要求すること。
(6)次に掲げる債務について,債務者に対し,その履行を要求すること。
イ金銭を目的とする消費貸借(利息制限法(昭和二十九年法律第百号)
第5条第1号に規定する営業的金銭消費貸借(以下この号において単
に「営業的金銭消費貸借」という。)を除く。)上の債務であって同
法第1条に定める利息の制限額を超える利息(同法第3条の規定によ
って利息とみなされる金銭を含む。)の支払を伴い,又はその不履行
による賠償額の予定が同法第4条に定める制限額を超えるもの
ロ営業的金銭消費貸借上の債務であって利息制限法第1条及び第5条
の規定により計算した利息の制限額を超える利息(同法第3条及び第
6条の規定によって利息とみなされる金銭を含む。以下この号におい
て同じ。)若しくは同法第9条に定める利息の制限額を超える利息の
支払を伴い,又はその不履行による賠償額の予定が同法第7条に定め
る制限額を超えるもの
ハ営業的金銭消費貸借上の債務を主たる債務とする保証(業として行
うものに限る。)がされた場合における保証料(利息制限法第8条第
7項の規定によって保証料とみなされる金銭を含み,主たる債務者が
支払うものに限る。以下この号において同じ。)の支払の債務であっ
て当該保証料が同条第1項から第4項まで及び第6項の規定により支
払を受けることができる保証料の上限額を超えるもの
(8)人に対し,債務の全部又は一部の免除又は履行の猶予をみだりに要求
すること。
(9)金銭貸付業務(金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引,売
渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付又はこれらの
方法によってする金銭の授受の媒介を含む。以下この号において単に「金
銭の貸付け」という。)をいう。)を営む者(以下「金銭貸付業者」と
いう。)以外の者に対してみだりに金銭の貸付けを要求し,金銭貸付業
者に対してその者が拒絶しているにもかかわらず金銭の貸付けを要求し,
又は金銭貸付業者に対して当該金銭貸付業者が貸付けの利率その他の金
銭の貸付けの条件として示している事項に反して著しく有利な条件によ
る金銭の貸付けを要求すること。
(13)正当な権原に基づいて建物又はその敷地を居住の用又は事業の用に
供している者に対し,その意思に反して,これらの明渡しを要求するこ
と。
(14)土地又は建物(以下この号において「土地等」という。)について,
その全部又は一部を占拠すること,当該土地等又はその周辺に自己の氏
名を表示することその他の方法により,当該土地等の所有又は占有に関
与していることを殊更に示すこと(以下この号において「支配の誇示」
という。)を行い,当該土地等の所有者に対する債権を有する者又は当
該土地等の所有権その他当該土地等につき使用若しくは収益をする権利
若しくは当該土地等に係る担保権を有し,若しくはこれらの権利を取得
しようとする者に対し,その者が拒絶しているにもかかわらず,当該土
地等についての支配の誇示をやめることの対償として,明渡し料その他
これに類する名目で金品等の供与を要求すること。
(18)集会施設その他不特定の者が利用する施設であって,暴力団の示威
行事(暴力団が開催する行事であって,多数の暴力団員が参加すること
により,当該施設の他の利用者又は付近の住民その他の者に当該暴力団
の威力を示すこととなるものをいう。)の用に供されるおそれが大きい
ものとして国家公安委員会規則で定めるものの管理者に対し,その者が
拒絶しているにもかかわらず,当該施設を利用させることを要求するこ
と。
(暴力的要求行為の要求等の禁止)
第10条何人も,指定暴力団員に対し,暴力的要求行為をすることを要求し,
依頼し,又は唆してはならない。
2何人も,指定暴力団員が暴力的要求行為をしている現場に立ち会い,
当該暴力的要求行為をすることを助けてはならない。
(暴力的要求行為等に対する措置)
第11条公安委員会は,指定暴力団員が暴力的要求行為をしており,その相手
方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には,
当該指定暴力団員に対し,当該暴力的要求行為を中止することを命じ,
又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項
を命ずることができる。
2公安委員会は,指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において,
当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要
求行為をするおそれがあると認めるときは,当該指定暴力団員に対し,
一年を超えない範囲内で期間を定めて,暴力的要求行為が行われること
を防止するために必要な事項を命ずることができる。
第12条公安委員会は,第10条第1項の規定に違反する行為が行われた場合
において,当該行為をした者が更に反復して同項の規定に違反する行為
をするおそれがあると認めるときは,当該行為をした者に対し,一年を
超えない範囲内で期間を定めて,当該行為に係る指定暴力団員又は当該
指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員に対して暴力
的要求行為をすることを要求し,依頼し,又は唆すことを防止するため
に必要な事項を命ずることができる。
2公安委員会は,第10条第2項の規定に違反する行為が行われており,
当該違反する行為に係る暴力的要求行為の相手方の生活の平穏又は業務の
遂行の平穏が害されていると認める場合には,当該違反する行為をしてい
る者に対し,当該違反する行為を中止することを命じ,又は当該違反する
行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。
(準暴力的要求行為の要求等の禁止)
第12条の3指定暴力団員は,人に対して当該指定暴力団員が所属する指定
暴力団等若しくはその系列上位指定暴力団等に係る準暴力的要求行為を
することを要求し,依頼し,若しくは唆し,又は人が当該指定暴力団員
が所属する指定暴力団等若しくはその系列上位指定暴力団等に係る準暴
力的要求行為をすることを助けてはならない。
(損害賠償請求等の妨害の禁止)
第30条の2指定暴力団員は,次に掲げる請求を,当該請求をし,又はしよう
とする者(以下この条において「請求者」という。)を威迫し,請求者
又はその配偶者,直系若しくは同居の親族その他の請求者と社会生活に
おいて密接な関係を有する者として国家公安委員会規則で定める者(第
30条の4及び第30条の5第1項第3号から第5号までにおいて「配
偶者等」という。)につきまとい,その他請求者に不安を覚えさせるよ
うな方法で,妨害してはならない。
(1)当該指定暴力団員その他の当該指定暴力団員の所属する指定暴力
団等の指定暴力団員がした不法行為により被害を受けた者が当該不法
行為をした指定暴力団員その他の当該被害の回復について責任を負う
べき当該指定暴力団等の指定暴力団員に対してする損害賠償請求その
他の当該被害を回復するための請求
(2)当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の事務所(事務所とする
ために整備中の施設又は施設の区画された部分を含む。以下この号,
第32条の3第1項第2号及び第2項第6号並びに第32条の4第1
項及び第2項において同じ。)の付近の住民その他の者で当該事務所
若しくはその周辺における当該指定暴力団等の指定暴力団員の行為に
よりその生活の平穏若しくは業務の遂行の平穏が害されているもの又
は当該事務所の用に供されている建物若しくは土地(以下この号にお
いて「建物等」という。)の所有権その他当該建物等につき使用若し
くは収益をする権利若しくは当該建物等に係る担保権を有する者で当
該指定暴力団等の指定暴力団員の行為により当該権利を害されている
ものが当該事務所に係る管理者に対してする当該行為の停止又は当該
事務所の使用の差止めの請求その他当該事務所を当該指定暴力団等の
指定暴力団員に使用させないこととするための請求
(特定危険指定暴力団等の指定)
第30条の8公安委員会は,次の各号のいずれかに掲げる行為が行われた場合
において,指定暴力団員又はその要求若しくは依頼を受けた者が当該行
為に関連して凶器を使用して人の生命又は身体に重大な危害を加える方
法による暴力行為を行ったと認められ(以下,本判決書においてはこれ
を「暴力行為要件」という。),かつ,当該指定暴力団員の所属する指
定暴力団等の指定暴力団員又はその要求若しくは依頼を受けた者が更に
反復して同様の暴力行為を行うおそれがあると認めるときは(以下,本
判決書においてはこれを「おそれ要件」という。),一年を超えない範
囲内の期間及び当該暴力行為により人の生命又は身体に重大な危害が加
えられることを防止するため特に警戒を要する区域(以下この章におい
て「警戒区域」という。)を定めて,当該指定暴力団等を特定危険指定
暴力団等として指定(以下,本判決書においてはこれを「特定危険指定
処分」という。)するものとする。
(1)当該指定暴力団等の指定暴力団員がした暴力的要求行為又は当該
指定暴力団等の指定暴力団員がした第12条の3の規定に違反する行
為に係る準暴力的要求行為であって,その相手方が拒絶したもの
(2)当該指定暴力団等の指定暴力団員がした第30条の2の規定に違反
する行為
2公安委員会は,前項の規定による指定をした場合において,当該指定の
有効期間が経過した後において更にその指定の必要があると認めるときは,
一年を超えない範囲内で期間を定めて,その指定の期限を延長することが
できる。当該延長に係る期限が経過した後において,これを更に延長しよ
うとするときも,同様とする。
3公安委員会は,必要があると認めるときは,警戒区域を変更することが
できる。
4第5条及び第7条の規定は,第1項の規定による指定について準用する。
この場合において,第5条第1項ただし書中「個人の秘密」とあるのは「第
30条の8第1項各号に掲げる行為又は同項の暴力行為の相手方に係る個
人の秘密又は事業上の秘密」と,第7条第1項中「その他の」とあるのは
「,第30条の8第1項に規定する警戒区域その他の」と,同条第4項中
「事項」とあるのは「事項(第30条の8第1項に規定する警戒区域を除
く。)」と読み替えるものとする。
5第5条の規定は第3項の規定による警戒区域の変更(当該変更により新
たな区域が当該警戒区域に含まれることとなるものに限る。)について,
第7条第1項から第3項までの規定は第3項の規定による警戒区域の変更
について,それぞれ準用する。この場合において,第5条第1項ただし書
中「個人の秘密」とあるのは「第30条の8第1項各号に掲げる行為又は
同項の暴力行為の相手方に係る個人の秘密又は事業上の秘密」と,第7条
第1項中「その他の」とあるのは「,第30条の8第1項に規定する警戒
区域その他の」と読み替えるものとする。
6第1項の規定により特定危険指定暴力団等として指定された指定暴力団
連合が第3条の規定により指定暴力団として指定された場合において,当
該指定暴力団連合に係る第四条の規定による指定が第8条第3項の規定に
より取り消されたときは,第1項の規定により当該指定暴力団連合につい
て公安委員会がした指定は,同項の規定により当該指定暴力団について当
該公安委員会がした指定とみなす。
7第1項の規定により特定危険指定暴力団等として指定された指定暴力団
等に係る第3条又は第4条の規定による指定(以下この項において「旧指
定」という。)の有効期間が経過した場合において,当該指定暴力団等に
ついて引き続き第3条又は第4条の規定による指定(以下この項において
「新指定」という。)がされたときは,第1項の規定により旧指定に係る
指定暴力団等について公安委員会がした指定は,新指定に係る指定暴力団
等について引き続きその効力を有する。
(特定危険指定暴力団等の指定暴力団員の禁止行為)
第30条の9特定危険指定暴力団等の指定暴力団員は,暴力的要求行為を行う
目的で,警戒区域において又は警戒区域における人の生活若しくは業務の
遂行に関して,その相手方に対し,次に掲げる行為をしてはならない。
(1)面会を要求すること。
(2)電話をかけ,ファクシミリ装置を用いて送信し,又は電子メール(特
定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六
号)第2条第1号に規定する電子メールをいう。)を送信すること。
(3)つきまとい,又はその居宅若しくは事業所の付近をうろつくこと。
(特定危険指定暴力団等の指定暴力団員の禁止行為に対する措置)
第30条の10公安委員会は,特定危険指定暴力団等の指定暴力団員が前条の
規定に違反する行為をしており,その相手方の生活の平穏又は業務の遂行
の平穏が害されていると認める場合には,当該指定暴力団員に対し,当該
行為を中止することを命じ,又は当該行為が中止されることを確保するた
めに必要な事項を命ずることができる。
2公安委員会は,特定危険指定暴力団等の指定暴力団員が前条の規定に違
反する行為をした場合において,当該指定暴力団員が更に反復して同条の
規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは,当該指定暴力団
員に対し,一年を超えない範囲内で期間を定めて,同条の規定に違反する
行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。
(特定危険指定暴力団等の事務所の使用制限)
第30条の11公安委員会は,警戒区域内に在る特定危険指定暴力団等の事務
所が,第30条の8第1項の暴力行為に関し,当該特定危険指定暴力団等
の指定暴力団員により次の各号に掲げる用に供されており,又は供される
おそれがあると認めるときは,当該事務所に係る管理者又は当該事務所を
現に使用している指定暴力団員に対し,三月以内の期間を定めて,当該事
務所を当該各号の用又は当該特定危険指定暴力団等の活動の用に供しては
ならない旨を命ずることができる。
(1)多数の指定暴力団員の集合の用
(2)当該暴力行為のための謀議,指揮命令又は連絡の用
(3)当該暴力行為に供用されるおそれがあると認められる凶器その他の物
件の製造又は保管の用
2公安委員会は,前項の規定による命令をした場合において,当該命令の有
効期間が経過した後において更にその命令の必要があると認めるときは,三
月以内の期間を定めて,その命令の期限を延長することができる。当該延長
に係る期限が経過した後において,これを更に延長しようとするときも,同
様とする。
3公安委員会は,第1項の規定による命令をしたときは,当該事務所の出入
口の見やすい場所に,当該管理者又は当該事務所を現に使用していた指定暴
力団員が当該事務所について同項の命令を受けている旨を告知する国家公安
委員会規則で定める標章を貼り付けるものとする。
4公安委員会は,前項の規定により標章を貼り付けた場合において,第1項
の規定による命令の期限(第2項の規定によりその延長が行われたときは,
その延長後の期限。以下この条において同じ。)が経過したとき,第30条
の8第3項の規定による警戒区域の変更により当該標章を貼り付けた事務所
の所在地が警戒区域に含まれないこととなったとき,又は当該期限内におい
て当該標章を貼り付けた事務所が第1項各号の用に供されるおそれがなくな
ったと認めるときは,当該標章を取り除かなければならない。
5何人も,第3項の規定により貼り付けられた標章を損壊し,又は汚損して
はならず,また,当該標章を貼り付けた事務所に係る第1項の規定による命
令の期限が経過し,第30条の8第3項の規定による警戒区域の変更により
当該標章を貼り付けた事務所の所在地が警戒区域に含まれないこととなり,
又は次条第1項の規定により当該特定危険指定暴力団等に係る第30条の8
第1項の規定による指定が取り消された後でなければ,これを取り除いては
ならない。
(特定危険指定暴力団等の指定の取消し)
第30条の12公安委員会は,第30条の8第1項の規定による指定をした場
合において,当該指定の期限(同条第2項の規定によりその延長が行われた
ときは,その延長後の期限)を経過する前に同条第1項に規定するおそれが
ないと認められるに至ったときは,その指定を取り消さなければならない。
2第7条第1項から第3項までの規定は,前項の規定による指定の取消しに
ついて準用する。
(報告及び立入り)
第33条公安委員会は,この法律の施行に必要があると認めるときは,国家公
安委員会規則で定めるところにより,この法律の施行に必要な限度において,
指定暴力団員その他の関係者に対し報告若しくは資料の提出を求め,又は警
察職員に事務所に立ち入り,物件を検査させ若しくは指定暴力団員その他の
関係者に質問させることができる。
2前項の規定による立入検査をする職員は,その身分を示す証明書を携帯し,
関係者に提示しなければならない。
3第1項の規定による立入検査の権限は,犯罪捜査のために認められたもの
と解釈してはならない。
第46条次の各号のいずれかに該当する者は,三年以下の懲役若しくは五百万
円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
(3)特定危険指定暴力団等の指定暴力団員で,第30条の8第1項に規定す
る警戒区域において又は当該警戒区域における人の生活若しくは業務の遂行
に関して,暴力的要求行為又は第30条の2の規定に違反する行為をしたも

第47条次の各号のいずれかに該当する者は,三年以下の懲役若しくは二百五
十万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
(1)第12条の規定による命令に違反した者
(2)第12条の2の規定による命令に違反した者
(3)第12条の4第1項の規定による命令に違反した者
(4)第12条の6の規定による命令に違反した者
(5)第15条第1項(同条第3項において準用する場合を含む。)の規定に
よる命令に違反した者
(6)第18条の規定による命令に違反した者
(7)第19条の規定による命令に違反した者
(8)第22条の規定による命令に違反した者
(9)第23条の規定による命令に違反した者
(10)第26条の規定による命令に違反した者
(11)第27条の規定による命令に違反した者
(12)第30条の規定による命令に違反した者
(13)第30条の3の規定による命令に違反した者
(14)第30条の4の規定による命令に違反した者
(15)第30条の5第1項の規定による命令に違反した者
(16)第30条の10の規定による命令に違反した者
(17)第30条の11第1項の規定による命令に違反した者
第48条第30条の7第1項から第3項までの規定による命令に違反した者は,
一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
第49条第33条第1項の規定に違反して報告をせず,若しくは資料を提出せ
ず,若しくは同項の報告若しくは資料の提出について虚偽の報告をし,若しく
は虚偽の資料を提出し,又は同項の規定による立入検査を拒み,妨げ,若しく
は忌避し,若しくは同項の規定による質問に対して陳述をせず,若しくは虚偽
の陳述をした者は,一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第50条次の各号のいずれかに該当する者は,六月以下の懲役又は五十万円以
下の罰金に処する。
(1)第30条の7第4項の規定による命令に違反した者
第2暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令(以下「暴対法施行
令」という。)の定め
(指定暴力団の要件に係る犯罪経歴保有者の比率)
第1条暴対法第3条第2号の政令で定める集団の人数の区分は,次の表の上欄
に掲げるとおりとし,当該区分に係る同号の政令で定める比率は,それぞれ同
表の下欄に定めるとおりとする。
集団の人数の区分比率
三人又は四人六六・六七パーセント
五人又は六人六〇・〇一パーセント
七人から九人まで四二・八六パーセント
一〇人から一四人まで三〇・七七パーセント
一五人から一九人まで二六・六七パーセント
二〇人から二四人まで二五・〇一パーセント
二五人から二九人まで二四・〇一パーセント
三〇人から三四人まで二〇・〇一パーセント
三五人から三九人まで一七・一五パーセント
四〇人から四四人まで一五・〇一パーセント
四五人から四九人まで一三・三四パーセント
五〇人から五四人まで一二・〇一パーセント
五五人から五九人まで一一・〇〇パーセント
六〇人から六四人まで一〇・〇一パーセント
六五人から六九人まで一〇・〇一パーセント
七〇人から七四人まで一〇・〇一パーセント
七五人から七九人まで九・三四パーセント
八〇人から八四人まで八・七六パーセント
八五人から八九人まで八・三四パーセント
九〇人から九四人まで八・三四パーセント
九五人から九九人まで八・三四パーセント
一〇〇人から一〇九人まで八・〇一パーセント
一一〇人から一一九人まで七・二八パーセント
一二〇人から一二九人まで七・〇九パーセント
一三〇人から一三九人まで六・九三パーセント
一四〇人から一四九人まで六・四三パーセント
一五〇人から一五九人まで六・二九パーセント
一六〇人から一六九人まで六・二六パーセント
一七〇人から一七九人まで五・八九パーセント
一八〇人から一八九人まで五・六五パーセント
一九〇人から一九九人まで五・六五パーセント
二〇〇人から二〇九人まで五・五一パーセント
二一〇人から二一九人まで五・二四パーセント
二二〇人から二二九人まで五・一六パーセント
二三〇人から二三九人まで五・一六パーセント
二四〇人から二四九人まで五・〇一パーセント
二五〇人から二五九人まで四・八一パーセント
二六〇人から二六九人まで四・七八パーセント
二七〇人から二七九人まで四・七八パーセント
二八〇人から二八九人まで四・六五パーセント
二九〇人から二九九人まで四・四九パーセント
三〇〇人から三四九人まで四・四五パーセント
三五〇人から三九九人まで四・二九パーセント
四〇〇人から四四九人まで四・二六パーセント
四五〇人から四九九人まで四・二三パーセント
五〇〇人から五四九人まで四・二一パーセント
五五〇人から五九九人まで四・一九パーセント
六〇〇人から六四九人まで四・一七パーセント
六五〇人から六九九人まで四・一六パーセント
七〇〇人から七四九人まで四・一五パーセント
七五〇人から七九九人まで四・一四パーセント
八〇〇人から八四九人まで四・一三パーセント
八五〇人から八九九人まで四・一二パーセント
九〇〇人から九四九人まで四・一二パーセント
九五〇人から九九九人まで四・一一パーセント
一,〇〇〇人以上四・一一パーセント
第3暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則(以下「暴対法施
行規則」という。)の定め
(暴力団の幹部の要件)
第2条暴対法第3条第2号の国家公安委員会規則で定める要件は,次の各号の
いずれかに該当することとする。
(1)当該暴力団(法第2条第2号に規定する暴力団をいう。以下同じ。)を
代表する地位にあること。
(2)当該暴力団の運営を支配する地位にあること。
(3)前2号に掲げるもののほか,当該暴力団の活動に係る事項について当該
暴力団の他の暴力団員(法第2条第6号に規定する暴力団員をいう。以下同
じ。)に対し指示若しくは命令をすることができる地位の階層(当該暴力団
が階層的に構成されている団体である場合における当該暴力団の暴力団員が
それぞれ属する地位の階層をいう。以下この号において同じ。)又はこれに
相当する地位の階層であって当該階層に属する当該暴力団の暴力団員の人数
を当該階層より上位の階層に属する当該暴力団の暴力団員の人数に加えた場
合においてその合計数が当該暴力団の全暴力団員の人数の五分の一を超える
こととなるものより上位の階層に属していること。
第4暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に基づく意見聴取の
実施に関する規則(以下「意見聴取規則」という。)の定め
(意見聴取の期日及び場所の変更)
第16条1項第14条第1項から第5項までの通知を受けた者(第23条第
2項の通知を受けた者を含む。)は,病気その他のやむを得ない理由がある
場合には,公安委員会に対し,別記様式第五号(略)の意見聴取期日(場所)
変更申出書により,意見聴取の期日又は場所の変更を申し出ることができる。
(冒頭手続)
第19条主宰者は,意見聴取の冒頭において,当事者又はその代理人に対し,
指定等若しくは命令をしようとする理由又は仮の命令をした理由を告げなけ
ればならない。
2当事者又はその代理人は,前項の規定により告げられた理由に関し,意
見を述べることができる。
(証拠調)
第20条1項主宰者は,前条の手続が終わった後に,次節に定めるところに
より,証拠調を行うものとする。
(意見聴取における発言等)
第22条3項主宰者は,意見聴取において発言する者が事案の範囲を超えて
発言するとき,その他意見聴取における審理の適正な進行を図る必要がある
と認めるときは,その発言を制限することができる。
(証拠書類等の提出)
第27条当事者又はその代理人は,主宰者に対し,証拠書類又は証拠物を提
出することができる。
(物件の提出要求)
第28条主宰者は,当事者若しくはその代理人の申出により又は職権で,書
類その他の物件の所持人に対し,その物件の提出を求めることができる。
(証拠調の申出の方式)
第32条当事者又はその代理人が第27条,第28条及び前3条の規定によ
り証拠調を申し出ようとするときは,証拠及びその内容と証明しようとする
事実との関係を具体的に明らかにして行わなければならない。
以上

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