弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人Xを懲役7年に,被告人Yを懲役5年に処する。
被告人両名に対し,未決勾留日数中各120日を,それぞれその刑に算入
する。
理由
(犯罪事実)
被告人両名は,共謀の上,平成15年1月31日午前3時ころ,神戸市中央区中
山手通a丁目b番c号Aビル3階にあるフードバー「B」西側通路において,
第1 V(当時37歳)に対し,その顔面を殴打し,同人を転倒させ,こもごもそ
の顔面及び頭部等を多数回足蹴にし,踏みつけるなどの暴行を加え,よって,同人
に約7か月間の通院加療を必要とする右眼窩底骨折,上顎骨骨折及び顔裂挫創等の
傷害を負わせた。
第2 W(当時31歳)に対し,同人を転倒させ,こもごもその顔面及び頭部等を
多数回足蹴にし,踏みつけるなどの暴行を加えて,同人に頭部・顔面打撲等の傷害
を負わせ,よって,同日午前5時7分ころ,同区G町d丁目e番H病院において,
同人を上記傷害に基づく急性外傷性脳腫脹により,死亡させた。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人の主張
被告人Yの弁護人は,被告人Yは,本件犯行について被告人Xと共謀していな
いし,被害者らに対して暴行も加えていない旨主張し,被告人Yも一貫してこれに
沿う供述をするので,以下検討する。
2 前提となる事実関係
被告人Xの捜査段階及び当公判廷における各供述を含む関係証拠によれば,以
下の事実が認められ,被告人Yもこれらの事実を争わない。
すなわち,被告人両名は,平成15年1月31日午前2時40分ころから45
分ころ,判示のフードバー「B」に行き,同所でCと落ち合って飲酒していたとこ
ろ,被告人Xが,相客のVからいきなり「知り合いか。」などと尋ねられ,「知ら
ん。」などと答えたことから険悪な雰囲気となった。
Vは,店長のDや連れのWらになだめられながら店外に連れ出されたが,なお
も店外で悪態をつくなどしていたところ,帰ろうとして店外に出てきた被告人Xと
Vが,突如,つかみ合いを始め,その後,上記両名を止めに入った被告人YとWを
加え,合計4名がもみ合う状態となった。
そして,上記4名は上記通路の南端付近までもみ合いながら移動し,なおも同
所でもみ合っていたが,被告人XはWに頭突きをし,その後,転倒したWを踏みつ
けるなどし,引き続いてVにも同様の暴行を加え,再び,W,Vの順に踏みつける
などの暴行を加えた。
なお,本件当時,被告人Xは黒のジャンパーに黒のセーターを着て,紺色のジ
ーパンをはき,黒のスニーカーを履いており,一方,被告人Yはハーフコートくら
いの長さの白のジャンパーで,その下にジーパンをはいていた。
3 関係各供述の信用性について
(1) 証人Eの公判供述(以下「E証言」という。)
本件当時,被害者らと同行していた証人Eは,Bの店外に出たVはひどく怒
っており,同店の入り口ドアを少し開けて店内に向かって何か言った,その後,店
から離れようとしたところ,店内から黒い服の男性らが出てきて,その男性はいき
なりVにつかみかかり,取っ組み合いになった,Eはとっさに頭をすくめて,中に
割り込むようにしてとめに入ったが,取っ組み合いはとまらなかった,その後,
V,W及び店内から出てきた男性2名でだんご状態のまま取っ組み合いが続き,気
が付くとVとWがぐったりとして床に倒れていた,そのとき,白い服の男性が,横
向きに倒れていたVの左側頭部を踏みつぶすようにしてけっていた,Eがとめても
やめないので,Vと白い服の男性の間に自分の体を入れるようにしてとめに入った
ところ,その男性は,す
ぐにVをけるのをやめ,続いてWの右側頭部を踏みつぶすようにしてけり始めた,
Wは全く抵抗していなかったので,EはWに覆いかぶさるようにしてとめたとこ
ろ,白い服の男性はけるのをやめたなどと証言する。
このE証言は,それまでに相当量の飲酒をしていたことなどから若干記憶が
あいまいな点がみられるものの,白い服の男性が被害者らに対して踏みつけるなど
の暴行を加えていたという点に関しては,一貫して明確に述べており,その証言内
容も,自らがVやWへの攻撃をかばった行動を含め,具体的で迫真性に富むもので
あって,何ら不自然,不合理な点はみられず,覚えていない点は覚えていないとす
るなどその証言態度は誠実であり,後記F証言とも相互に整合的である上,反対尋
問に何ら動揺していない。本件現場は,深夜ないし未明の時間帯とはいえ,繁華街
の一角で,本件当時,通路の照明や店舗の看板が点灯されており,色の識別が容易
にでき,顔もはっきりと分かる状況であったことに加え,被告人Xは黒いジャンパ
ー,同Yは白いジャン
パーという対照的な服装をしていたのであり,本件現場には,店長のDを除くと被
害者側の男性2名と女性2名,被告人側の男性2名と女性1名しかいなかったので
あるから,黒い服の男性が被告人X,白い服の男性が被告人Yであることが明らか
である。そして,E証人は,これを至近距離から目撃していたことからすると,同
証人の酔いの程度を考慮に入れても,その識別に誤りが生じるとは考え難く,これ
らの事情に照らすと,その証言は,十分信用することができる。
(2) 証人Fの公判供述(以下「F証言」という。)
本件当時,被害者と同行していたFは,酔って何か文句を言っていたVを,
Wと一緒に抑えるようにしてBの店外に出したが,Vは店の扉を開けて中に文句を
言った,その後,黒い服の男性が出てきて,Vとつかみ合いになった,そこでEが
Vと黒い服の男性の間にかがんで入り,その男の腕をつかんでとめようとしたがと
まらなかった,その後,気が付くと,VとWはB前通路の南の方に倒れていた,黒
い服の男性は,まだVとWの方に向かおうとしたので,前から両手で押さえてとめ
ようとした,そのとき,白い服の男性が,Vの顔あたりを右足のつま先でけってい
たなどと証言する。
このF証言は,証言内容が具体的である上,Vが倒れていた位置等について
E証言や客観的証拠(実況見分調書・検察官請求証拠番号甲20)と若干食い違う点
が見られるものの,格別不自然,不合理な点はない。そして,前記のとおり被害者
らに対して暴行を加えた犯人について人違いの可能性が考えにくい本件状況下にお
いて,白い服の男性が被告人Yであることは明らかであるところ,F証人は,被告
人YがVをけっていたという点については明確に供述する一方,同被告人のWに対
する攻撃については述べていないことから,その証言態度には,殊更同被告人に不
利益な供述をしようという姿勢はみられず,誠実であるということができ,前記E
証言と相互に整合的であることからしても,F証言は十分信用することができる。
(3) 証人Dの公判供述(以下「D証言」という。)
B経営者であり,本件を目撃したDも,被告人らとVらがつかみ合いのけん
かになった,Vらの連れの女性が止めに入ったが,転倒してとめることができなか
った,その後,倒れたVとWを別々の男がけっていたなどと証言する。
このD証言も,Dは,本件犯行まで被告人両名及び被害者らとは一面識もな
かったもので,被告人両名に対して殊更不利益な虚偽供述をするべき理由,動機が
全く見当たらない。そして,前記のとおり本件犯行現場の視認状況には何ら問題は
なく,被害者両名以外に男は被告人両名しかいないのであるから,別々の男が,そ
れぞれ被告人X及び同Yを指すことは明らかである。
(4) なお,被告人Yの弁護人は,これらの各証言は,被告人Yの靴からルミノー
ル反応が検出されなかった事実(鑑定書・同番号甲56)と矛盾し,信用できないと
主張する。しかしながら,被告人Yの靴は,本件犯行直後洗濯されていること(Y
の妻の警察官に対する供述調書・同番号甲78)からすると,被告人Yの靴から同反
応が検出されないことと,これらの各証言とは矛盾するものではないから,この主
張は採用し得ない。
4 小括
上記2で認定した前提となる事実関係に,上記3で検討したとおり十分信用す
ることができるE,F及びDの各証言から認められる事実を総合すると,被告人X
が被害者らに対して暴行を加えるのとほぼ同時に,被告人Yも,被害者らに対して
被告人Xと同様の踏みつけたり足蹴にするなどの暴行を加えていることが認められ
る。そして,被告人両名の関係,本件暴行に至る経緯や暴行の状況等からすると,
本件現場において,被告人両名の間に黙示の共謀が成立したことも明らかである。
5 被告人Yの弁解について
これに対し,被告人Yは,自分は,被告人Xとつかみ合っていたVの腕を振り
払いはしたが,その後,被告人Xをとめていただけで,自分は一切暴行を加えてい
ないなどと弁解する。
しかし,この弁解供述は,本件に至るまでの経緯等に関してはかなり具体的で
詳細であるのに比して,質問が本件罪体の核心部分である暴行行為の点に及ぶや,
にわかに,ただVの手を振り払った後は傍観していたのみで何ら暴行には加わって
いないなどとあいまいで具体性に乏しい漠然とした供述をするにとどまり,当時の
緊迫したけんか状況下における行動としてかなり不自然であること,前記のとおり
信用することができるEやFらの各証言と大きな相違が存することなどから,信用
することができない。
6 結論
以上のとおりであって,判示の傷害及び傷害致死の各事実は,これらを優に認
めることができる。
(累犯前科)
被告人Xは,平成12年1月14日神戸地方裁判所で傷害及び強要の各罪により
懲役3年に処せられ,平成14年9月15日その刑の執行を受け終わったものであ
って,この事実は検察事務官作成の前科調書(検察官請求証拠番号乙19)によって
認める。
(法令の適用)
被告人両名の判示第1の所為はいずれも刑法60条,204条に,判示第2の所
為はいずれも同法60条,205条にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪につ
いて所定刑中懲役刑を選択し,被告人Xには前記の前科があるので,同法56条1
項,57条により判示各罪についてそれぞれ再犯の加重(判示第2の罪の刑につい
ては同法14条の制限に従う。)をし,以上は同法45条前段の併合罪であるか
ら,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に同法14条の制限内で
法定の加重をした刑期の範囲内で被告人Xを懲役7年に,被告人Yを懲役5年にそ
れぞれ処し,同法21条を適用して,被告人両名に対し,未決勾留日数中各120
日を,それぞれその刑に算入し,被告人両名について生じた訴訟費用は,刑事訴訟
法181条1項ただし
書を適用して,被告人両名に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 事案の概要
本件は,飲食店で居合わせた被害者らとのささいな口論をきっかけとして,被
告人両名が共謀して,こもごも被害者らを足蹴にするなどの暴行を加え,被害者1
名に対して約7か月間の通院加療を必要とする傷害を負わせ,もう1名の被害者に
対し,頭部・顔面打撲等の傷害を負わせて死亡するに至らせたという傷害,傷害致
死の事案である。
2 量刑上考慮した事情
(1) 不利な事情
被告人両名は,飲食店で居合わせた被害者らと口論し,取っ組み合いとなっ
た末,その場に倒れ込んで何ら抵抗しなくなった被害者らに対して,こもごも頭部
を踏みつけたり,足蹴にするなどの暴行を加え,被害者らの頭部を床面のコンクリ
ートに打ち当てるなどしたもので,本件暴行態様は,凶器は使用していないもの
の,非常に危険性の高い悪質なものである。
そして,その結果,友人Vと被告人らのけんかを止めに入っただけの被害者
Wは,被告人らの強度の暴行を受け,交際相手や家族らを残し,約31年間の人生
をこのような無残な形で終えざるを得なくなったもので,Wが被告人両名から足蹴
にされるなどの暴行を受け続けていたときに抱いたであろう苦痛や屈辱感の大きさ
は計り知れず,Wの無念の心中は察するに余りある。また,被害者Vも,上記Wと
同様の暴行を受け,右眼窩底骨折等の約7か月間の通院加療を必要とする重傷を負
い,右眼陥凹変形,複視症状の固定等の後遺症が残ると予想され,今後の社会・職
業生活に支障を来すことも考えられる。本件各犯行の結果は極めて重大である。
加えて,被告人両名は,被害者VやWの遺族に対して,何らの被害弁償をし
ておらず,被害者Vの被害感情が厳しいのはもちろん,被害者Wの遺族の被害感情
はまことに峻烈である。
さらに,被告人Xは,平成8年ころから現役の暴力団構成員として活動し,
これまでに前掲の累犯前科を含む同種前科2犯のほか,公務執行妨害,傷害罪等に
よる前歴5回を数え,その粗暴癖には根深いものがあるばかりか,前刑から出所し
てわずか4か月余りで再び本件犯行に及んだものであって,その規範意識の鈍麻に
は甚だしいものがあり,その犯情は悪質である。
一方,被告人Yは,自ら被害者らに対して暴行を加えたことが明らかである
にもかかわらず,何ら暴行には関与していないなどと不合理な弁解に終始し,反省
の情は見られない。
(2) 有利な事情
しかしながら,他方,飲食店内において,泥酔した被害者Vから被告人Xに
対し絡んでいったことが本件の契機になったことは明らかであること,被告人Xは
犯行翌日に自首し,公判廷においても自己の行為に関しては事実を認め,被害者W
の遺族に対して謝罪文をしたためるなど一応の反省の情を示していること,被告人
Yには前科がないことなど各被告人にとって有利な事情も若干認められる。
3 結論
そこで,以上諸般の事情を総合して考慮し,各被告人に対して,それぞれ主文
の刑を科することとした。
(求刑・被告人Xについて懲役10年,被告人Yについて懲役7年)
平成15年9月11日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官   笹野明義
裁判官   浦島高広
裁判官   谷口吉伸

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