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       主   文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 被告が原告らに対して平成元年四月一五日付けでなした「八幡製鉄所労働部労働
人事室労働人事掛勤務を命ずる。社外勤務休職を命ずる(日鐵運輸株式会社〔以下
「日鐵運輸」という。〕へ出向)」との職務命令(以下「本件出向命令」とい
う。)はいずれも無効であることを確認する。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 当事者
(一) 原告ら
(1) 原告a(以下「原告a」という。)
 原告aは、昭和三六年三月七日、臨時作業員として旧八幡製鐵株式会社に雇用さ
れ、その後二か月を経て同年五月七日付けで同社の社員として採用され、八幡製鉄
所鋼材部鋼片課七分塊掛に配属となり、さらに、管理局生産管理部工程課分塊工程
掛、生産業務部工程課製鋼分塊工程掛、戸畑製造所生産業務部銑鋼調整課原料工程
掛、生産業務部流通管理室信号掛、同部輸送課銑鋼輸送掛、同部輸送室戸畑輸送
掛、同部輸送管理室戸畑輸送掛を経て、平成元年三月一日以降、本件出向命令発令
まで生産業務部輸送管理室輸送掛の職務に従事してきた者である。
(2) 原告b(以下「原告b」という。)
 原告bは、昭和三六年一二月一五日、臨時作業員として旧八幡製鐵株式会社に雇
用され、その後二か月を経て昭和三七年二月一五日付けで同社の社員として採用さ
れ、八幡製鉄所製銑部第二コークス課洞岡コークス炉掛に配属となり、さらに岡部
コークス技術課コークス技術掛、生産業務部工程課製銑工程掛、戸畑製造所試験分
析課機械試験掛、同所生産業務部銑鋼調整課原料工程掛、生産業務部流通管理室信
号掛、同部輸送室八幡輸送掛、同部輸送管理室八幡輸送掛を経て、平成元年三月一
日以降、本件出向命令発令まで生産業務部輸送管理室輸送掛の職務に従事してきた
者である。
(3) なお、原告らは、新日本製鐵八幡労働組合(以下「八幡労組」という。に
所属する組合員であるが、八幡労組は、その本部を北九州市に置き、平成元年四月
一日現在で、組合員数一万二二三二名を擁し、下部組織として五三の支部を有して
いるが、上部組織である新日本製鐵労働組合連合会(以下「連合会」という。)
は、被告の本社、製鉄所、製造所の各組合及ぴ新日鐵化学株式会社の組合を単位組
合とする連合体である。
(二) 被告
 被告は、昭和四五年三月三一日、旧八幡製鐵株式会社と旧富士製鐵株式会社との
合併により設立され、従来は鉄鋼の製造・販売を主たる事業としていたが、事業領
域を拡大し、現在では右のほか、非鉄金属、セラミックス及び化学製品の製造・販
売、製鉄プラント、化学プラント等の産業機械・装置及び鋼構造物の製造・販売、
建設工事の請負、都市開発事業及び宅地建物の取引・貸借、情報処理・通信システ
ム及び電子機器の製造・販売並びに通信事業、バイオテクノロジーによる農水産物
等の生産・販売、教育・医療・スポーツ施設等の経営、以上に係わる技術の販売及
び付帯する事業等を目的とする株式会社である。
2 出向に関する被告の規定
 就業規則に「社員に対しては、業務上の必要により社外勤務させることがあ
る。」(五四条)との規定があるほか、八幡労組の組合員に適用される労働協約に
おいても「会社は、業務上の必要により、組合員を社外勤務させることがある。」
(五四条)との規定がある。
 また、被告と連合会が締結した労働組合法上の労働協約である社外勤務に関する
協定(乙四。以下「社外勤務協定」という。)には、以下の諸規定がある。
(一) 社外勤務を分けて、出向及び派遣とし(二条一項)、出向とは、関係会
社、関係団体、関係官庁等に役員または従業員として勤務することをいう(同条二
項)。
(二)出向する組合員は社外勤務休職とする(三条)。
(三) 出向期間は原則として三年以内とする。ただし、業務上の必要によりこの
期間を延長し、またはこの期間を超えて出向を命ずることがある(四条一項)。出
向期間は当社動続年数に通算する(同条二項)。
(四) 出向者の就業時間、休日、休暇等就業に関しては出向先の規定による(六
条)
(五) 当社における考課、昇格、昇給及び賞与等の査定については、出向先にお
ける勤務成績を勘案の上、当社規定により社内勤務者と同一基準により行う(七
条)。
(六) 出向懲戒については、出向先の規定による。この場合の当社の取扱いにつ
いては、その都度定める。ただし、出向先の規定または当社の規定により解雇に該
当する場合は復職を命じた後、当社の規定を適用する(九条)。
 出向者の転勤、職場もしくは職務の変更及び出張は出向先の命ずるところによる
(一〇条)。
 出向者が出向先の規定により休職に該当する場合は、出向先の定めるところによ
る。この場合の当社の取扱いについては、その都度定める(一一条一項)。
 出向者が当社の社員在職年齢満限に達したときは当社を退職するものとする(一
三条)。
(七) 出向手当A(一時金五万円)の支給(一四条)
(八) 出向者の給与及び賞与は出向先の定めるところによる。ただし、出向先支
給額が当社規定による支給額に満たないときは当社の規定による支給額との差額を
支給する(一五条)。
(九) 右当社規定による支給額は、基準内給与及び出向手当B(出向先の年間所
定労働時間が当社年間所定労働時間を超える場合に右時間差に応じて支給。)と
し、出向先における所定就業時間外の就業または休日の就業に対する過勤務手当及
び深夜手当を一定の算式に従い支給するほか、その他諸手当は当社規定による(一
六条)。
(一〇) 賞与支給額は出向先における勤務に基づき当社基準により計算する(一
七条)。退職手当は出向期間を通算し当社規定により支給する(一八条)。
(一一)出向者は当社保有の病院等の厚生施設及び出張時の宿泊施設を利用でき、
出向先の社宅が利用できない場合に限り当社の社宅を利用できる(一九条)。
 出向者は、当社の貸付制度、財形制度を利用できる。ただし、出向先に当社制度
に準ずる貸付制度があり、これを利用できる場合はこの限りでない(二一条)。
(一二) 出向者の健康保険、厚生年金保険及び雇用保険は原則として当社におい
て加入し、労災保険は出向先において加入する。出向者の業務上及び業務外の災害
補償は出向先の規定による。ただし、出向先に定めがない場合、または出向先の定
める補償額が当社社員災害補償規程に定める補償額に満たないときは、その差額を
支給する(二三ないし二五条)。
(一三) 出向者が復職する場合は、その能力、経験等を勘案して配置職務を決定
する(二六条)。
3 本件出向命令の発令
 被告は原告らに対し、平成元年四月一〇日、輸送管理室長が、同年四月一五日付
けで出向を命じる旨予告した後、同月一四日、八幡製鉄所労働部労働人事室長が、
同月一五日付けの日鐵運輸への出向の通知文を交付し、原告らは、同月一七日、出
向に不同意のまま日鐵運輸へ赴任した。
 なお、本件出向の期間は、本件出向命令後、三年ごとに(平成四年四月一五日と
平成七年四月一五日)、「業務上の必要性がある」(社外勤務協定四条一項但書)
として、業務命令により二回延長された。
二 本件の争点
1 本件出向命令の根拠
 社外勤務に関する就業規則及び労働協約等の規定は本件出向命令の根拠となり、
原告らは出向に応じる義務があるか。それとも、本件出向命令は原告らの個別具体
的な同意を必要とするか。
2 本件出向命令は権利の濫用として無効か。
 被告が連合会に昭和六二年二月一三日に提案した「製鉄事業中期総合計画」及び
「複合経営推進の中長期ビジョン」(以下、まとめて「中期総合計画」とい
う。)、八幡労組に昭和六三年一二月二〇日に提案した「輸送・出荷部門の体質強
化を目的とした構内輸送体制の再構築計画」(通称P五五〇計画。以下「本件計
画」という。)及び日鐵運輸に対する後記本件業務委託が必要なもので、本件出向
命令に必要性があるか。
 本件出向は、原告らに不当な不利益を与えるものか。また、出向者の人選及び原
告らに対する説得経過等の手続が合理的なものか。
三 原告らの主張の要旨
1 本件出向の特徴
(一) 被告における出向の歴史
(1) 原告ら入社当時
 被告においては、原告ら入社当時、既に就業規則に「社外勤務」に関する規定が
存在していたが、原告らのような技術職社員(当時は作業職社員)に対しては、他
社への出向は予定されておらず、社外勤務休職を定めた五〇条の二に一「社員(作
業職社員を除く)」とあるように、作業職社員には社外勤務規定の適用が除外され
ていた。
(2) マスタープラン発表前後
 被告は、昭和四四年一月一四日に「八幡製鉄所マスタープラン」(以下「マスタ
ープラン」という。)を発表したが、これを境に出向事案は大きく変化した。
 それまでの出向事案は大きく分けて二つに分類でき、一つは、技術指導を目的と
した出向、即ち、関連会社の要請に基づいて作業職社員が同社の技術向上に貢献
し、復帰後の昇給・昇格が予定される事案であり、もう一つは、定年対策を目的と
した出向、即ち、被告の定年前に関連会社に出向し、定年になる年齢以降も働き続
けることが可能となる事案であり、いずれも、当該労働者にとって出向に応じる利
益が高く、出向が拒否されることがほとんど考えられないケースであった。
 しかし、マスタープラン以降は、従来の出向事案と異なり、直営事業を別会社に
委託し、当該事業所で働いていた労働者をそのまま別会社に出向させるという、い
わゆる「委託型出向」が出現したが、これは大幅な要員合理化を目的とする雇用調
整型出向であり、実質的には復帰を予定しておらず、労働者にとって不利益な出向
である。
(3) 中期総合計画下の出向
 被告は、昭和六二年二月、コストダウンによる国際競争力強化、生産設備の休廃
止及び人員合理化による労務費の削減を柱に収益の改善を図る目的で、中期総合計
画を発表したが、その具体的内容は、同年から平成二年度の四年間に、高炉一三基
のうち戸畑四号高炉を含む五基の休止、製鉄所の八幡・名古屋・君津・大分への集
約、鉄部門人員一万九〇〇〇人の削減であった。
 本件出向命令は、右計画に基づく大合理化の過程で行われたもので、八幡製鉄所
構内鉄道輸送作業及びその関連作業を平成元年三月一日付けで日鐵運輸へ一括して
業務委託した(以下「本件業務委託」という。)ことに伴ういわゆる委託型出向で
ある。
 そして、被告は、その後、①転籍などあり得ない・職場も変わることはない・賃
金の格差も補償するなどと宣伝して出向させ、②社外勤務休職にすることで出向先
の会社の社員であることの自覚を深めさせ、③出向手当AB等の新設によって出向
についての手当を削減し、出向していない従業員との格差を次第に広げてそれを定
着させ、④その上で、五七歳での転籍を導入し、⑤さらには新日鐵化学株式会社や
日鐵商事株式会社等の出向者全員の転籍事例を例外的措置であることを強調しなが
ら実施して、出向社員の転籍があり得ることを浸透させ、⑥平成六年には、社長が
鉄鋼新聞のインタビューで出向者全員を対象とする転籍に言及した上で、⑦同年の
「第三次中期経営計画」において、主務職社員四〇パーセント・四〇〇〇人、技術
職社員一五パーセント・三〇〇〇人の合計七〇〇〇人の人員削減を提案し、五五歳
以上の出向社員全員に対し転籍を要請するという提案がなされ、現在、この提案に
基づいて転籍措置を強力に進めている。つまり、被告は、右計画当初から、出向者
をいずれ転籍するよう計画していた。
(二) 本件出向の特徴
 このように委託型出向には復帰の目処がなく、定年まで会社から放遂され、実質
的には転籍であり、原告らに対する本件出向も、同様に将来の転籍への前段階とし
ての移行措置であり、転籍に近い出向である。
2 出向に対する個別・具体的な同意の必要性
(一) 三者間法律関係論
 そもそも、出向においては、出向元と労働者との間の権利義務関係の一部が、出
向先と労働者との間に移転することによって、出向元・出向先・労働者間の三者間
の労働法律関係へと変動するが、三者間の各権利義務関係は相互に依存し合ってい
るから、出向についての右三者の合意が成立して始めて出向法律関係が成立し、出
向元は労働者に対して出向を命じることができると解すべきである。
 また、特に、労務指揮命令権の行使に関する使用者の義務(例えば、休日、休
暇、年休の付与等)の移転については、出向元が出向先とともに指揮命令権を重畳
的に行使することはあり得ないから、免責的債務引受とみるべきであり、債権者で
ある労働者の同意が必要であるが、同意が必要とされるのは、債務を引き受けた者
の人格的信頼性・経済的能力等の属性から、債権者の地位を守ることにあるから、
同意は個別具体的なものでなければならない。
 出向を出向元(使用者)と労働者の二者間関係とし、専ら出向元の労務指揮権の
問題に帰着させることは、労働者の権利が出向先において保障されないという不当
な結果を生じ、各使用者が出向規定を設け、順次再出向が命令されることによっ
て、特定の使用者と雇用契約を締結したはずの労働者が、結果的に、使用者一般の
ために働くという不都合な結果を甘受させられることになる。
 本件出向について、原告ら・被告・日鐵運輸の三者の合意が成立していないこ
と、原告らが免責的債務引受部分に個別具体的に同意していないことは明らかであ
るから、本件出向命令は無効である。
(二) 本件出向について必要とされる合意の内容
 民法六二五条一項は、雇用契約における労務給付義務及びこれに対応する権利の
一身専属的な特質を考慮し、使用者が誰であるかは被用者にとって重大な利害関係
を有することから、その変更については被用者の同意を要件としている。
 したがって、いわゆる在籍出向においても、指揮命令者が変更し、労働契約の存
在形式が根本的に変更されるから、労働者と使用者の合意が必要となると解すべき
であるが、合意の内容については、出向が労働条件の重要な部分に重大な変更を生
じさせ、多くの場合不利益な労働条件の変更であるから、少なくとも、①出向する
こと自体、②具体的出向先、③出向中の労働条件、④出向期間、⑤復帰の際の条件
等について、真意に基づいた個別具体的な合意が必要であると解すべきである。
 ところが、本件では、原告らが入社に際し、被告から個別に出向についての説明
を受け、それを理解し、出向応諾義務を承諾して労働契約を締結したという事実は
なく、①の合意自体認められない。
 原告ら入社当時の新入社員研修は、数百人規模で講堂に集められて行われたもの
であり、就業規則については、逐条ごとに読み上げただけで、詳しく説明されてい
ない。しかも、当時、原告ら作業職社員に出向が命じられることは例外的ケースを
除いてなかったのであり、教官の説明においても社外勤務条項は飛ばされたりほと
んど説明されなかった。
 なお、原告らは、就業規則を遵守する旨の誓約書を提出したが、誓約書の抽象
性、片務性(労働者のみが提出)、画一性(会社所定のものに記名・押印)及びそ
の提出時期(契約締結時=採用時にではなく、契約の履行時=入社時に提出)など
から、右誓約書の提出は法的には無価値である。
 仮に、右誓約によって原告らが社外勤務応諾義務を負うとしても、当時は作業職
社員には出向が行われておらず、就業規則の「社外勤務」としては派遣しか念頭に
置かれていなかったのであるから、「出向」応諾義務を負ったことにはならない。
当時、例外的に存在した作業職社員の出向事例は、労働者に有利な技術指導型出向
ないし定年対策型出向であり、労働者に犠牲を強いる委託型出向について原告らが
応諾したとはいえない。
 また、前記②ないし⑤についての合意も全く存しない。
 さらに、仮に、原告らが労働契約締結時に出向に応諾する意思表示を行ったと認
められるとしても、本件出向命令は原告ら入社時から三〇年近く経てなされたもの
であって、出向合意は本来の労働契約の特約であるから、その効力の基礎は失われ
ている。
3 就業規則・労働協約について
(一) 就業規則
(1) 使用者が一方的に定める就業規則には、労働契約の中で就業規則よりも不
利な部分を無効にする効力しかなく、出向に関しては、当該出向措置ごとに不利益
を検討しなければならないから、労働条件の統一的・画一的処理になじまず、就業
規則の規定範囲に属さない。
(2) 就業規則には、「社員に対しては、業務上の必要により社外勤務をさせる
ことがある。」(五四条)という抽象的な規定があるだけで、出向先、出向中の労
働条件、出向期間、復帰の際の条件等についての定めがないから、右規定は、出向
命令の根拠にはならない。しかも、原告ら入社当時の就業規則には「社員(作業職
社員を除く。)が社外勤務を命ぜられた場合は、休職とすることがある。」との規
定があり、作業職社員は休職となる出向の適用が除外されることが明らかであっ
た。
 また、就業規則が出向応諾義務の根拠となるためには、当該出向条項が合理的な
ものでなければならないが、右のような抽象的規定では、およそ合理的な内容とは
いえない。
(3) 本件就業規則五四条の解釈運用
 被告においては、本件出向に至るまで、出向者の具体的同意を得るという運用が
定着していたので、右規定には「当該出向者の同意を得られた場合には」という制
限が付けられていたと解釈すべきであり、本件では、被告が右運用を一方的に変更
できる特段の事情もない。
(二) 労働協約
(1) 出向は、労働関係の基本構造を根本的に変更するものであり、出向対象者
とされた組合員とそうでない組合員とで質的に利害状況が異なり、労働協約ではこ
れを十分に調整できないから、出向に関する事項は協約自治の限界を超えている。
 したがって、本件において、労働協約は、「会社は、業務上の必要により組合員
を社外勤務させることがある」(五四条)と規定しているが、これをもって、労働
基準法一六条の規範的効力を認めることはできず、出向命令を法律上正当づける特
段の根拠にはならない。
(2) また、就業規則と同様、右のような抽象的な労働協約の規定を出向命令の
根拠とすることはできない。
 なお、本件においては、労使間で社外勤務協定が締結されているが、出向期間の
被告の勤務年数への通算、出向後の勤務条件等が規定されるにとどまり、出向先の
限定はなく、出向期間についても例外規定があって明確な規定とはいえず、復帰の
際の条件等の規定も全くないから、出向命令の根拠とは認められない。
(3) さらに、右のように、社外勤務協定を含む労働協約の内容は抽象的で、合
理的な内容とはいえないから、出向命令の根拠とは認められない。
(三) 本件出向の特殊性からの検討
 仮に、一般的に出向に関する就業規則あるいは労働協約の規定が出向の合意に代
わる法律上の根拠となるとしても、本件出向においては出向元への復帰が予定され
ておらず、従来の在籍出向とは別の類型に属し、実質的には転籍に近い類型である
から、転籍の場合と同様本人の同意が重視される必要があり、就業規則あるいは労
働協約の規定をもって出向の合意に代わる法律上の根拠とすることは許されない。
4 本件出向命令の合理性及び必要性
(一) 本件出向命令には高度の必要性・合理性が要求される。
 本件においては、就業規則五四条も労働協約五四条も「業務上の必要により」社
外勤務させることがあると規定しているから、業務上の必要性(合理性)が出向命
令権の要件事実であるが、出向は労働契約の根本的な事項を変更するから、労務指
揮権者が移らず、同一会社内での異動にすぎない配転とは異なる高度な合理性及び
必要性が要求されるべきである。
 また、原告ら入社当時は作業職社員には出向はなく、したがって「業務上の必要
性」など存在しなかったのに、その後、被告が、中期総合計画立案の時点で余力人
員の活用も含めるというように「業務上の必要性」の解釈を勝手に変更拡大してい
るが、もともと予定されていなかった事情を出向についての「業務上の必要性」の
理由とすることは許されないというべきである。仮に「業務上の必要性」の解釈を
変更拡大できるとしても、労働者は本人の同意なくして出向を強要されないとの期
待権を有していたから、高度な合理性及び必要性が要求されることは当然である。
 さらに、本件出向のような転籍的ないしは雇用調整型出向には合理性・必要性な
どないが、仮にあるとすれば、非常に高度なものでなければならない。
(二) 本件出向命令の合理性・必要性
(1) 中期総合計画の主体的要因
 他の先進諸国が粗鋼生産能力削減を行っていたにもかかわらず、わが国鉄鋼大手
各社は、石油ショック後の事態の変化を見落とし、過大な粗鋼生産見通しの下、大
型設備の導入と生産ライン技術の近代化への過剰投資を強め、膨大な過剰設備を抱
えた。
 鉄鋼大手各社は、大幅に拡大させた海外投資によって過剰資本の投資先を確保し
利益を手に入れたが、同時に国内生産の空洞化、また韓国などNEIS諸国からの
鋼材輸入による市場問題の逼迫という結果をもたらした。つまり、国内での生産と
市場の「危機」を招いたのは、被告ら鉄鋼大手各社自身である。
 産業構造の転換によって、かつてのような大規模な民間企業の設備投資はなくな
ったため、残る最大の内需は国民所得の大半を占める個人所得であったが、昭和五
〇年以降、鉄鋼大手各社が先頭に立って賃金抑制を強め、消費行動を物理的に抑制
する長時間・超過密労働の改善を見送り、国民の消費購買力を強く抑制した。
 これまでも、被告ら鉄鋼大手各社は、自らの経営判断の誤りを労働者の犠牲によ
る合理化で乗り切り、内部留保を拡大してきたが、被告についても、自らの無政府
的な超過剰設備・超過剰生産の誤りについて一切責任を取らず、戦後最大の合理化
計画である中期総合計画を打ち出した。
(2) 右計画の前提の誤り
 右計画は、①実質経済成長率は各年度二パーセント程度、②平成二年度の全国粗
鋼生産規模は九〇〇〇万トン程度(被告は二四〇〇万トン)を前提条件としていた
が、右計画期間中、一貫して右計画の前提は大きく想定を外れ、いずれも想定以上
の数字を残し、被告は、大幅な黒字を維持し、内部留保額を拡大し続ける一方で、
財務体質の改善と金融費用の削減を実行した。
 つまり、右計画は、「このまま推移すれば数年を経ずして経営の破綻を来すとの
存亡の岐路に立たされた」などと宣伝して危機感を煽り、合理化を進め、史上最高
の利益を生み出し財務体質を強化すねための積極的な計画であった。
(3) 本件出向命令当時の被告の経営状態
 本件出向命令が出された昭和六三年五月一五日ころは、既に景気は回復し、被告
の生産も増加の一途をたどり、経常利益も黒字に大きく転換していたのであり、全
く「存亡の危機」などという状況にはなかった。
(4) 中期総合計画の狙いと問題点
 被告は、計画の目的を、①韓国並みのコストにして世界でトップ・レベルの国際
競争力を確保する、②生産設備の休廃止と人員合理化によって労務費を削減し、収
益の改善を図る、③複合経営の実現を目指し、そのための資金源を製鉄事業から拠
出するとし、積極的な戦略の下、中期総合計画を立案した。
 したがって、中期総合計画は、人員削減を中心とする「合理化」にほかならず、
しかも、計画の実施を容易にするため、ことさら低い水準の予測を立て、労働者の
中に危機感を募らせた疑いが高く、計画後間もなく提案され実施された①旧出向手
当の廃止と出向手当Aの新設、過勤務手当の見直しと出向手当Bの新設、②出向に
伴い社外勤務休職とする等の出向条件の改悪措置と相まって、出向労働者への差額
補填の廃止、さらには転籍を目指した労務費軽減対策の布石として大量の出向を打
ち出したと考えられる。このような計画に合理性・必要性がないことは明らかであ
る。
(5) 本件業務委託の必要性
 被告は、①人員の弾力的な活用を図る、②鉄道車両の定期的な点検・整備作業に
対する作業管理面の重複を解消する、③今後の無軌道輸送と鉄道輸送の分担関係を
見直す上で、被告と協力会社とで分担する体制は最適ではないという。
 しかし、①については、本件業務委託後も、日鐵運輸に業務委託された鉄道輸送
部門には、被告からの出向社員のみが従事し、無軌道輸送作業と区別され、弾力的
運用は何ら図られておらず、鉄道輸送と無軌道輸送とでは、作業内容及び必要な資
格が異なり、実際上、両作業間での人員の弾力的運用は困難である。原告らの職場
は、被告にとって必要不可欠なもので、原告らは余剰人員ではなかった。
 また、原告aの信号業務(戸畑高炉北信号所)は一人業務であり、原告bの信号
列車整理業務(くろがね線)は二人作業であるため、いずれも他の職場への応援と
いう形での弾力的運用が不可能であり、原告らが休んだときに同じ鉄道部門の機関
車運転者等に応援してもらう程度のことは業務委託の実施とは関係がなく、仮に原
告らの職場のみを直営で残しても、既に出向している機関車運転者等を原告らの職
場に日鐵運輸から応援のために出張ないし派遣すれば足りる。
 しかも、被告は業務委託後も管理部門を直営のまま残し、鉄道輸送業務全般を計
画指揮しているのであるから、業務の一部が直営と協力関連会社に別れても業務に
は何の支障も生じず、現に信号保安設備整備作業は株式会社峰製作所(以下「峰製
作所」という。)に業務委託したから、原告らの職場を直営で残すことに支障はな
い。
 次に、②については、原告らは右作業に従事しておらず、原告らの職場を業務委
託することとは関係がない。
 さらに、③についても、業務委託後も、協力会社は被告が作成した輸送計画に従
って作業を進めているから、分担関係の見直しが、被告の意に反し円滑に進められ
ない事態など考えられない。
 また、戸畑地区の無軌道輸送には吉川工業株式会社等が下請けに入っており、全
ての無軌道輸送を一括して日鐵運輸に業務委託しておらず、八幡地区では無軌道輸
送は山九株式会社に業務委託され、鉄道のみを日鐵運輸に業務委託したにすぎない
のであるから、本件業務委託後も二社間の分担調整の問題が残ることに変わりはな
い。
(三) 本件出向命令の不合理性
(1) 人選の不合理性
 被告は、原告らの本件出向にあたって、エレクトロニクスや新たなシステムにつ
いての仕事については若年者でないと対応が難しいとして、三〇歳代以下の一〇名
を所内配転したが、実際の配転先はそのような職種ではなく、原告らでも十分対応
可能な職種であった。
 また、直営の輸送掛に残った三〇名には、原告aと同じ信号作業に従事していた
者も含まれ、高炉北信号所の作業ができる者が一〇名はいたので、仮に被告が十分
意向調査していれば、出向に同意した者がいたはずで、意向調査は容易であったに
もかかわらず、被告は、それを全くせずに原告らを出向予定者として人選した。
(2) 原告らに対する説明不足
 被告は原告らに対し、出向先における配転や懲戒権行使の主体等の労働条件を詳
細に説明しなかったばかりか、社外勤務協定の内容が不合理であるのに、原告らの
転籍や出向先からの再出向、配転の不安を「単なる不安」として取り合わなかっ
た。
(3) 原告らが本件出向命令により受けた不利益
① 懲戒規定
 社外勤務協定は、被告と日鐵運輸の両者が懲戒権を行使する可能性を否定してお
らず(九条)、原告らは、同一の非違行為について被告と日鐵運輸とから別個に懲
戒処分を受ける危険を負う。
② 配転規定
 社外勤務協定は、日繊運輸が職務内容・勤務地について配転権限を有すると定め
ている(一〇条)が、業務上の必要性を要件として認められる出向については、出
向目的により、出向中の職務内容、勤務地が特定されているから、出向先の包括的
な配転権限を認めることは、本件出向の出向目的に反するばかりでなく、実際上、
出向を業務上の必要性と無関係に許容するものであって、著しく合理性を欠く。
 実際、被告は他の職場には配転させないと約束して出向させたにもかかわらず、
平成六年三月、右規定を根拠に、配転や異動を認める取扱いに改める旨明言してお
り、右不利益が現実化している。
③ 出向延長措置
 原告らは右期間満了後、二度出向延長措置を受け、出向期間限定の利益を奪われ
ており、本件出向は復帰を前提としないもので不合理である。
④ 年間休日
 出向当時はなかった被告と日鐵運輸との年間休日日数差が、平成六年には一一日
に広がっており、国際的な労働時間短縮の流れに逆行している。
 また、社内勤務であれば当然に支払われるべき過勤務手当が支払われず、出向手
当Bが支給されることにより、休日就業手当について、平成六年においては、労働
基準法の改正により新設された休日就業手当による三五パーセントの割増しを考慮
すると、原告aの場合は年間七万五〇九六円、原告bの場合は年間八万二四二〇円
もの格差が生じている。
⑤ 本件出向による労働強化
 鉄道輸送作業の要員はピーク時には一二〇名必要であるにもかかわらず、本件出
向前の一三六名が平成六年九月時点で一〇〇名に削減され、実際には一〇二名しか
おらず、ピーク時には残業で補っている。
 年間残業時間としては、原告aの場合、出向前は昭和五九年の二七.五時間が最
長であったのに、平成三年には一一一.五時間にも及び、原告bの場合も、出向前
は昭和六三年の四七時間が最長であったのに、平成六年には一一六時間にも及んで
いる。
5 権利の濫用
(一) 出向回避策の欠如
 被告は、原告らが出向に同意しないことが明らかになった後も、出向対象者から
外さず、配転等によって出向を回避することは全く検討しなかったが、原告らわず
か二名(他の不同意者二名を合わせても四名)を配属する職場が八幡製鉄所に全く
なかったなどとは到底考えられず、被告は原告らに対する出向を回避する対策を怠
ったといわざるを得ない。
(二) そして、前述のとおり、原告らに出向を強制しなければならないような経
営上の必要性も、鉄道輸送業務及びその関連業務を日鐵運輸に一括して業務委託す
る必要性・合理性もなく、また、原告らを出向の対象者にした選定基準及び具体的
人選は不合理であった。
 また、出向の期間は形式上三年と定められているが、実質的には期間の定めも復
帰の目処もなく、出向者に対する転籍措置が強行されている。
(三) 以上のとおり、本件出向命令は、中期総合計画による人員削減の経営上の
必要性が薄弱となった時点で強行され、原告らに出向先での労働関係や転籍の不安
を十分説明せず、出向回避措置も全く検討せずに不合理な人選によって行われたの
であるから、出向命令権の濫用であり、無効である。
6 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関す
る法律(以下「労働者派遣法」という。)の脱法
(一) 本件出向と労働者派遣法にいう「派遣」との同質性
 本件出向命令においては、第一段階として、原告らを現職である八幡製鉄所生産
業務部輸送掛から労働部労働人事室労働人事掛に配転する命令とその履行、第二段
階として、同掛から日鐵運輸へ出向を命じる命令とその履行という各段階を経るこ
とになっている。
 ところで、第一段階においては、原告らには、被告の業務命令により他企業へ出
向する、つまり実質的に「派遣労働」に従事することだけが予定されている。
 また、本件出向は、第一に労務指揮権が出向(派遣)先の日鐵運輸に存在し、第
二に賃金は被告が支払い、第三に労働条件は出向(派遣)元の被告とそこでの労働
組合との協定による(被告との労働契約内容により、出向〔派遣〕先での労働条件
が基本的に決定される)という点で、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の
下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることを
いい、当該他人に対し、当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするもの
を含まない」という労働者派遣法二条一号の「労働者派遣」の定義に合致する。
(二) 本件出向の脱法行為性
 労働者派遣法は、一般労働者として雇い入れた者を労働者派遣の対象とする場
合、当該労働者の同意を要件とし(三二条二項)、同意なき派遣労働は業務命令と
して無効である。
 ところが、本件出向の場合、一般労働者として雇用せられていた原告らが労働部
労働人事室労働人事掛に配転させられた結果、事実上原告らは派遣労働者と同じ立
場に立たされ、出向名目で他企業へ同意を要件とすることなく「派遣」されるに等
しい状態となっており、これは、労働者派遣法が要求する同意を形骸化することを
狙った脱法措置というほかない。
 したがって、本件出向の実質は「派遣労働」であり、原告らの同意を欠く本件出
向は違法であり、無効である。
四 被告の主張の要旨
1 本件出向命令の法的根拠
(一) 出向命令は、出向させることが労働契約の内容となっていたり、就業規則
や労働協約に根拠規定があれば、当然発令でき、発令の際に労働者の個別的同意は
必要ではない。
 日本における終身雇用的労働契約にあっては、契約締結の際、労働者は将来にわ
たり包括的に労働力の処分を使用者に委ね、使用者はそれに基づき労働力配置権及
び配置変更権を取得するが、その範囲・内容は、就業規則や労働協約により規律さ
れるのが通常であり、特に労働契約に限定がない限り、出向も配転同様、いわゆる
人事権の行使として、就業規則や労働協約を根拠になし得ることは当然である。
 本件においても、原告らは被告に対し、就業規則を遵守する旨の誓約書を提出し
ており、本件出向命令時の平成元年七月一日施行の就業規則には「社員に対して
は、業務上の必要により社外勤務をさせることがある。」(五四条)と規定されて
いるが、採用当時交付され、同時に採用された他の従業員とともに逐一説明を受け
た就業規則にも同文の規定があった。
 また、被告は連合会との間にユニオン・ショップ協定を含む労働協約を締結し、
原告らも右協定に従い組合員となることを義務づけられ、右労働協約の適用を受け
るが、右労働協約も「会社は、業務上の必要により、組合員に社外勤務をさせるこ
とがある。」(五四条一項)と規定する。
 さらに、被告は連合会との間で右労働協約五四条二項に基づき社外勤務協定を締
結し、出向者の労働条件を明確にしている。
 したがって、被告と原告らとの労働契約の内容には、在籍出向として社外勤務さ
せることが含まれており、原告らもそれを承諾して被告と労働契約を締結したので
あるから、被告は原告らに対し出向を命じることができ、原告らはこれに従うべき
義務を負担する。
 なお、本件においては、転勤その他個々の人事に労働組合との協議や同意を要件
とする、いわゆる協議約款や同意約款を含む協定は存在しない。
2 本件出向の法的性質
 就業規則に「社員が第五四条により社外勤務を命ぜられたときには、休職とする
ことがある。」(五六条一項)、「前項の休職期間は勤続年数に通算する。」(同
条二項)とあり、実態的にも、給与・賞与等の支給が被告の規定に基づくこと等か
ら、本件出向はいわゆる在籍出向である。
3 八幡製鉄所における構内輸送体制の合理化(本件出向の必要性・その一)
(一) 八幡製鉄所の構内輸送作業の改善の歴史
 一般に、銑鋼一貫生産を行う製鉄所においては、製鉄所の構内輸送部門は、円滑
な鉄鋼生産活動を支える付帯部門として位置付けられるが、八幡製鉄所において
は、八幡、戸畑両地区での二元的生産体制、工場や倉庫の複雑な配置による構内輸
送経路の錯綜、輸送需要構成の多様化等、輸送作業の効率向上に対する多くの構造
的な制約要因が存在していたので、被告は、構内の各生産設備・倉庫等の集約統合
と配置の簡素化による物流経路の合理化を図り、蒸気機関車からディーゼル機関車
(以下「DL」という。)への切替え、トーピードカーの導入等の各輸送設備の改
善を図ってきた。
(二) 八幡製鉄所における構内輸送体制の問題点
 一般的に、構内輸送作業の作業量の変動に対しては、要員の弾力的運用によって
対処するのが最も有効であるが、被告にとって、輸送は専門分野ではないため、要
員の弾力的運用の実務や知識に乏しいにもかかわらず、鉄道輸送作業自体を直営で
行っており、国内鉄鋼各社の製鉄所においては、鉄道輸送から、近年の技術革新に
より進歩した無軌道輸送へと転換する傾向にあったが、八幡製鉄所においては、依
然として、無軌道輸送よりもコストと効率の点で劣る鉄道の占める割合が高く、独
自の輸送に関する情報の収集や伝達面におけるシステムはいまだ構築されていなか
った。
 この点、国内鉄鋼各社及び被告の他の製鉄所では、鉄道輸送を含めて構内輸送作
業をほぼ全面的に輸送の専門会社である協力会社に業務委託している例があり、八
幡製鉄所においても、鉄鋼各社の主力製鉄所の水準に遠く及ばない構内輸送作業の
労働生産性の改善に向け、構内輸送体制を抜本的に見直すことが急務となってい
た。
(三) 中期総合計画
 昭和六〇年秋の先進五ケ国蔵相会議における政策的合意以降、五〇パーセントに
も達する円高が進行し、被告ら高炉業界は国際競争力を根底から覆され、従来とは
質の異なる構造的苦境を強いられるに至り、国内の鉄鋼需要産業が生産拠点を海外
に移転し、資機材の調達先を海外に求めるなど、いわゆる産業の空洞化が急速に進
行し、わが国の製品輸入も拡大傾向にあり、国内の鉄鋼需要が中期的に大幅な減少
傾向にあった。
 こうした状況の下、被告の昭和六一年度の業績は極度に悪化したため、被告は連
合会に対し、昭和六二年二月一三日、中央経営審議会で、中期総合計画を発表した
が、右計画は、総固定費・総資産の削減、特に総固定費の二五パーセント以上の削
減を目標にしている。
 このように、中期総合計画が策定され、収益力維持のための総固定費削減に向け
て、製造部門のみならず輸送作業や試験分析作業等の付帯部門についても合理化が
一層強く求められ、被告は、八幡製鉄所における構内輸送作業体制の見直しを早期
に実施することを要請されることになった。
4 日鐵運輸への本件業務委託について(本件出向の必要性・その二)
(一) 業務委託の必要性
 そこで、被告は、八幡製鉄所における構内輸送体制を抜本的に見直し、これを再
構築して合理化するために、昭和六三年一二月二〇日、本件計画を発表し、①トラ
ック、トレーラー等の技術革新により進歩した無軌道輸送手段を採り入れ、鉄道と
無軌道の両輸送手段の分担関係を見直し、構内輸送全体の効率化を図り、②鉄道輸
送における総合運行管理システムを開発・導入して、設備・要員の合理化を図ると
ともに、③鉄道輸送及びその関連作業について、従来の被告と協力会社との作業分
担関係を見直し、協力会社を積極的に起用していくことにした。
(二) 本件業務委託
 そこで、被告は、平成元年三月一日、直営であった鉄道輸送に関するDL、電気
機関車(以下「EL」という。)の運転作業、信号作業、信号列車整理作業及ぴ鉄
道車両の日常点検補修作業並びに株式会社山本工作所が業務委託を受けていた貨車
の定期的点検整備作業について、協力会社として、八幡製鉄所戸畑地区における無
軌道輸送作業、堺製鉄所及び君津製鉄所における鉄道輸送作業等を受託するなど輸
送及び運輸の豊富な経験と高度な技術を有する日鐵運輸に業務委託し(本件業務委
託)、鉄道輸送作業量の変動への弾力的対応、車両整備の分野での重複業務の解消
を図り、将来的な更なる効率化を期待するこどにしたほか、信号所監視区域内の信
号保安設備整備作業については、峰製作所に対する業務委託を実施することにし
た。
(三) 業務委託に伴う出向措置の必要性
 本件計画に係わる諸施策のうち、鉄道から無軌道への輸送手段変更に伴う鉄道輸
送量の減少や「鉄道運行管理オンラインシステム」の導入による作業の効率化等に
よって、対象職場の要員四〇名、本件業務委託によって、対象職場の要員一四八名
が削減されることとなり、八幡製鉄所鉄道輸送部門に大量の人員余力が発生した
が、前記のとおり、被告は中期総合計画の推進過程で大量の人員余力を抱えてお
り、製鉄所内での余剰吸収には限界があることから、委託する業務に従事する従業
員の雇用確保の観点からは、委託先会社への出向措置を講じる必要があり、一方、
日鐵運輸及び峰製作所が鉄道輸送作業及びその関連作業の円滑な遂行に必要な人員
を直ちに確保・養成することも困難であるから、従前より当該作業に従事し、必要
な技能を有する者を対象に出向措置を講じる必要があった。
 そこで、被告は両会社と協議し、対象職場の稼働人員(在籍人員から、高齢者や
病気休職者等実際には作業に従事していない者を除いた人員)のうち、被告が引き
続き担当する輸送計画作業及び輸送設備管理作業に従事する者約三〇名を除き、本
件業務委託に伴い、日鐵運輸へ一三三名、峰製作所へ八名の合計一四一名の出向措
置を実施することとした。
5 八幡労組との折衝
(一) 中期総合計画に対する労働組合の態度
 前記のとおり、被告は連合会に対し、昭和六二年二月一三日、中期総合計画を発
表したが、その後、一五回に及ぶ中央経営審議会において連合会と折衝を重ねた結
果、同年五月二〇日、連合会から、中期総合計画について了解する旨の態度表明が
なされた。
(二) 本件業務委託の出向措置を含む人員措置についての労組の態度
 昭和六三年一二月二〇日、被告は八幡労組に対し、本件計画の実施及びこれに伴
う要員改訂と人員措置について提案し、その後、八幡労組と折衝を重ねたところ、
八幡労組から、同月二七日、被告の提案を了解する旨の態度表明がなされた。
6 本件出向命令に至る経緯
(一) 人選
 被告は、八幡労組の前記了解表明を受け、具体的な人選に入ったが、本件出向措
置の必要人員一四一名については、日鐵運輸及び峰製作所との協議に基づき、従前
より当該鉄道輸送作業あるいは車両の日常点検・補修作業等に従事していた者の中
から選出することとし、業務委託する作業のほかに被告が引き続き担当する輸送計
画作業等に関わる各人の知識・技能・経験を基本に、本人の適性や年齢等を勘案
し、高齢者の長期教育休業措置との関連から高齢者を除外して人選することにし、
原告らを該当者とした。
(二) 原告らに対する説得の経緯
 被告は、平成元年一月下旬以降、出向予定者と個別に話し合いを実施したとこ
ろ、原告らほか二名を除一三七名は出向に同意し、君津製鉄所応援中の一名(同年
四月一日付け)を除いて同年三月一日付けで日鐵運輸及び峰製作所へ出向したが、
原告らについては、出向に同意しないため発令を延期し、代替要員を応援派遣し、
原告らに対し、同年一月三〇日から同年四一三日までの間、上司である室長、掛
長、作業長らによって説得したが、結局、原告らは出向に同意しなかった。
 その間、原告らは、仕事面や家庭状況等の面での支障はない旨確認されたが、社
内勤務のまま定年退職したい、とにかく出向したくないなどと繰り返すのみであっ
た。
(三) 組合の態度
 同年四月七日、被告は八幡労組に対し、これ以上話し合いに進展は期待できない
ので、同月一五日付けをもって日鐵運輸への出向命令を発令する旨述べたところ、
八幡労組は、本問題について、これ以上被告と話し合いを持つことは考えていない
旨の態度を表明した。
(四) 本件出向命令の発令
 こうして、前記のとおり、同年四月一五日付けで本件出向命令が発令され、同月
一七日、原告らほか二名は日鐵運輸へ赴任した。
7 原告らの不利益について
(一) 職場の変化、職務の変化の有無
 本件出向においては、職場は変わらず、転勤による家庭生活への影響はなく、職
務も従前と同一で、新しい仕事を覚えることに伴う苦痛も生じないので、原告ら
は、仕事、通勤その他生活上の不利益を何ら受けない。
(二) 労働条件について
(1) 年間所定内労働時間の差
 本件出向後、被告がいわゆる時短を行った結果、日鐵運輸の方が年間所定労働時
間が多くなったが、これは、勤務時間は出向先の規定に従う(社外勤務協定六条一
項)ことによるものであって、出向後に原告らの労働条件が不利益に変更されたわ
けではなく、この差については、出向手当Bの支給により補填されている。
(2) 出向者の給与
 給与については、基本給(基準内給与)は、出向前と同額とし、被告が出向先支
給分に差額を加えて支給し(社外勤務協定一五条)、賞与についても、社内勤務者
と同じ計算式により、出向前と同額が支払われる。また、出向者は、出向に伴い出
向手当B(五万円)が支払われる。
(3) 動続通算
 出向先の動続年数は通算され、これを基準に退職金が計算されるから、原告らは
この点の不利益を受けない。
(4) 健康保険、社会保険の扱い
 健康保険、厚生年金等の社会保険は出向前と同じで、被告が保険料の会社負担分
を負担し、本人負担分を給与より源泉徴収するので、その点について特段の不利益
はない。
8 同意拒絶権の濫用(仮定的主張)
 被告は、人員に余力があり、人員に相応する職場を確保できず、人件費削減の必
要性から雇用確保のために出向を発令せざるを得なくなっており、就業規則、労働
協約に社外勤務のあることが規定され、社外勤務協定で社外勤務の条件が定めら
れ、原告らも就業規則遵守を誓い、かつ、労働組合も雇用確保のため出向措置を了
解し、現在三六パーセントにも上る従業員(組合員)が出向措置を了解して出向に
同意している状況の下、本件出向による不利益が極めて小さいにもかかわらず、原
告らが出向に対する同意権を主張するのは権利の濫用であって、原告らは同意を拒
絶できないと解すべきである。
第三 争点に対する判断
一 前提事実の認定(以下の認定に採用した証拠は、特に別個にあげたもののほ
か、証人c、同d及び同eの各証言、原告ら本人尋問における各供述、甲一、甲
二、甲六一、甲六二、甲九四、甲一三五ないし一四〇、乙二二の一及び二、乙二六
の一ないし四、乙二七の一ないし三、乙五五の一ないし三、乙五七及び五八の各一
ないし三、乙二二二ないし二二七の各一及び二である。)
1 就業規則
 原告ら入社以前の昭和二三年九月施行の就業規則において、業務上の必要により
従業員に社外勤務をさせることがある旨規定されていた(乙一三八)が、その後の
就業規則(乙一九二・昭和三一年一〇月一五日付け)、原告aが入社した当時の就
業規則(乙六八・昭和三四年四月三〇日付け)、原告bが入社した当時の就業規則
(乙四〇・昭和三六年一〇月六日付け)、原告らに対する本件出向命令当時の就業
規則(乙一・平成元年七月一日付け)のいずれにも、同旨の規定が存在する。
 原告らはいずれも、最初、期間二か月の臨時作業員(試用研修期間)として旧八
幡製鐵株式会社に雇用されたが、その際、臨時作業員として就業規則を遵守する旨
の誓約書(乙二の一の一、乙二の二の一)をそれぞれ提出し、就業規則や入社案内
の交付を受けた後、右二か月間の期間中に約一週間にわたり、講義形式で会社概要
の説明を受け、そのうち二日に分けて四時間程度就業規則の説明を受け(甲六六、
乙六九、乙七〇)、原告aは昭和三六年五月七日に、原告bは昭和三七年二月一五
日に、いずれも被告の正社員になったが、その際も右と同旨の誓約書(乙二の一の
二、乙二の二の二)をそれぞれ提出した。
 なお、原告らは、被告入社に際して、就業規則の交付を受けた記憶がない(原告
b)、新入社員教育において就業規則の説明は受けたが、社外勤務の部分について
の説明は省略されていた、あるいは、この部分は作業職社員には関係がないと言わ
れた(原告a)などと供述し、証人fもそれに沿う証言をするが、右研修の目的や
内容に照らし、説明が省略されたというのは不自然であり、当時においても社外勤
務が原告ら作業職社員に全く無関係であったとは考え難く、無関係との説明があっ
たというのも不自然であり、いずれも信用できない。
2 労働協約
 原告ら入社当時の労働協約には、社外勤務に関する規定は置かれていなかった
が、被告が昭和四四年一月に発表したマスタープラン(乙二〇〇の一及び二、乙二
〇一、乙二〇二)の実施によって、八幡製鉄所の生産設備の集約に伴い、要員が大
幅に合理化され、君津、大分製鉄所への転勤措置や新規採用の抑制とともに、従来
直営で行っていた付帯的事業の分離・別会社化、あるいは専門業者への委託化が推
進され、分離先会社や委託先会社への出向・派遣の事例が増加していった(甲四、
甲五)。
 そして、マスタープラン発表後の同年九月、それ以前は就業規則やその都度の取
り決めなどによって運用してきた社外勤務について、社外勤務協定が締結され、同
年一〇月一日から実施された(乙五九)が、内容的には、社外勤務を出向と派遣に
分け、出向については、出向先に役員または従業員として勤務することをいい、期
間は原則として三年以内であり、業務上の必要により期間が延長されることがある
が、出向期間は当社勤続年数に通算すること等を定めたものである。なお、出向関
係条項に関する労働協約本文との関係については、次期改定時に改定することとな
った。
 翌昭和四五年三月三一日、旧八幡製鐵株式会社と旧富士製鐵株式会社との合併に
より被告が設立されたが、その後、全社に統一的に適用される労働協約締結に向け
て、労使代表から構成される統一労働協約検討委員会が設置され、昭和四七年四月
三日以降、右委員会で労働協約の内容について論議され、「人事」の中の「社外勤
務」条項として「(1)業務上の都合により組合員を社外勤務させることがある旨
規定すること。(2)社外勤務に関しては別に協定すること」について労使双方の
見解が一致し(乙一四〇及び一四一の各一ないし三、乙一四二)、昭和四八年四
月、その旨の規定が合併後の新しい労働協約に置かれた。
 そして、その後の労働協約にも同様の規定が設けられ、本件出向命令当時は、ユ
ニオン・ショップ協定(二条)により管理職や特定の社員を除いた組合員全員に適
用される被告と連合会との間の労働協約(乙三)に、同旨の規定が存在する(五四
条一項、二項)。
 また、社外勤務協定については、前記昭和四四年九月締結のものから何回か更新
し(乙一四三)、本件出向命令発令時の社外勤務協定(乙四)に至っているが、内
容的には、後記のとおり改定された出向手当に関する点や出向する組合員を社外勤
務休職とする点を除いて、ほぼ同じである。
3 被告における社外勤務の事例
 原告ら入社当時、既に、昭和三三年ころから、ブラジルのウジミナス製鉄所へ技
術指導を目的として技術員が派遣され、その後、昭和三六年二月以降、作業職社員
についても同様の派遣が実施され(甲九三、乙一五一、乙一五二、乙一八二ないし
一八六)、昭和四一年には、マレーシアのマラヤ・ヤハタ製鉄所へ組合員が派遣さ
れた(乙一五三、乙一八七)が、ウジミナス製鉄所への「派遣」については、派遣
者の身分が、派遣と同時に日本ウジミナス株式会社の社員となるということもあ
り、実質は出向に近いものであった。
 その後、前記のように、昭和四四年九月に社外勤務協定が締結されてからは、八
幡製鉄所においても、昭和四五年四月の曳船業務の委託化に伴う製鉄曳船株式会社
への出向措置、昭和四六年四月の厚生課販売店業務の委託化に伴う八幡製鐵ビルデ
ィング株式会社への出向措置、同年七月の機関車点検・整備業務の委託化に伴う日
鐵運輸への出向措置、昭和四九年一月の緑化環境整備事業の委託化に伴う八幡製鐵
ビルディング株式会社への出向措置、昭和五三年四月の作業環境測定作業の委託化
に伴う株式会社九州環境技術センターへの出向措置、昭和五四年七月の計算機パン
チ・仕分作業の委託化に伴う八幡計算機株式会社への出向措置、昭和五五年一二月
の独身寮給食作業の委託化に伴う三和給食有限会社への出向措置及び昭和五六年四
月の戸畑地区コイル棟間自動車輸送業務の委託化に伴う日鐵運輸への出向措置がそ
れぞれ実施され、その後も、昭和五九年四月には中径管プレス・手入れ作業につい
て、昭和六一年一月には電磁鋼板製品の梱包・積出作業、亜鉛メッキ製品の梱包・
波付作業について、同年三月には地区機械緊急補修作業について、昭和六二年三月
にはアンローダー運転作業及ぴ電磁鋼板工場リフトカー運転作業について、同年七
月には整備資材倉庫受払作業について、昭和六三年三月には水質試験作業につい
て、平成元年二月には電磁スリット及び関連作業について、同年三月には条鋼精整
付帯作業及び鉄道輸送作業について、同年六月には試験片加工作業について、同年
九月には冷延ロール作業について、同年一〇月には小径SML精整作業について、
同年一一月には溶銑処理作業について、平成二年一月には条鋼製品出荷仕訳作業及
び水処理関連作業について、同年二月には薄板剪断関連作業について、同年五月に
は精整指令作業及び起重機運転作業について、同年八月には熱延精整作業につい
て、平成三年一月には小径SMLアップセット作業について、同年二月には亜鉛メ
ッキクレーン運転作業、自動面取機作業等及び圧延ロール整備作業について、それ
ぞれ委託化され、それに伴い、出向措置も実施され、平成三年四月現在で、出向者
は、被告全体で一万五八○八名(内技術職一万〇二九九名)、八幡製鉄所技術職社
員では二六五七名である(甲七ないし一〇、甲一四ないし二三、甲四五、甲六八、
甲一〇四、乙四三、乙四四、乙一三九、乙一五四ないし一五六、乙一六二、乙一七
六ないし一七八)。
4 出向に対する労働組合の対応
(一) 被告における労使交渉制度
 被告の労働協約において、労使交渉制度としては、経営審議会、労使委員会及び
団体交渉の三つがあり、それぞれ付議事項及び話し合いの程度が定められている
が、組合員の労働条件については、団体交渉付議事項と労使委員会付議事項とに分
けられ、賃金、労働時間、休日等は団体交渉付議事項として協議決定されるが、生
産計画に伴う重要な要員事項等は被告と労働組合の各一〇名以内の委員から構成さ
れる労使委員会(旧労働協約における「生産委員会」)付議事項として協議される
ことになっている(乙一七一ないし一七三、乙一九三)が、ここにいう「協議」と
は、「会社と連合会または組合双方誠意をもって合意に到達するよう努力すること
であるが、協議した結果、合意に到達できないからといって、会社が決定し実施で
きないということではない」(労働協約付則1(2))とされている。
 そして、前記ウジミナス製鉄所等への派遣ないし出向については、旧八幡製鐵株
式会社当時の労働協約に基づき、その都度、労使間で、「生産計画に伴う重要な要
員事項」(一九条二項五号)として、「生産委員会」において、必要要員数や取扱
い、派遣の条件等を協議し、労使合意の上で実施され(乙一五一、乙一五二、乙一
八二ないし一八四、乙一八六)、前記社外勤務協定締結後の委託化に伴う出向措置
についても、大量の人員措置を伴う要員改定であったことから、当時の労働協約に
基づき、その都度、労使間で、「生産計画に伴う重要な要員事項」(一九条二項五
号)(乙一七一、乙一九三)として「生産委員会」の場で、あるいは、「生産計画
の変更等に伴う重要な要員事項」(二二条一項二号)(乙三)として「労使委員
会」の場で、要員改定の必要性やその人員措置等について協議し、労使合意の上で
実施されている(乙一四八ないし一五〇の各一及び二)。
(二) 本人意思に対する組合の見解
 ところで、前記のとおり、マスタープラン実施後、委託化に伴う出向の事例が増
加していったが、八幡労組は、昭和四六年の第四九回定例大会議案書(甲三八)に
おいて、「委託化、出向に対する取組み」として「本人の意思を尊重させるととも
に労働条件の低下は認めない」との方針を打ち出した。
 そして、この出向措置に関する「本人意思尊重」の具体的内容については、昭和
四九年一月の緑化環境整備事業の委託化に伴う出向に関し、対象者が了解しないと
きはどうするのかとの質問に対し、「今回の出向については、生活環境、勤務地等
が全く変らないので従来の転勤で問題が起ったのとは、性格が違うと考えている。
従って、本人がただ単に出向したくないということでは、苦情として非常にとり上
げにくいという見解である。」(甲一〇)、あるいは、「大会で、本人意思の尊重
について一定の整理をした。その内容は、客観的に見て、労働条件、生活環境の低
下というような問題がある場合には、本人の立場に立って会社と交渉するが、理由
が客観的にみて適当と認められない場合には、その人達の立場に立ち得ない。」
(甲一一)と回答した。
 その後、昭和五四年の第五九回定例大会議案書(甲四五)においては、「出向の
必要性をはじめ、出向先の労働条件や作業環境などを十分調査し、納得できる内容
であることはもちろん、なお本人の将来性、復帰時の条件、出向先での話し合いの
場など、総合的に勘案し、組合として可否を判断したうえ、本人の合意を前提に対
処していく」と、従来の表現を改め、さらには、昭和六一年の第六七回定例大会議
案書(甲二三)においては、「出向措置については、余剰が拡大傾向にある中での
雇用確保という観点から、今後とも避けて通れない状況にある。従って、支部と連
携を密にし、案件ごとにその趣旨や必要性、出向先会社の労働条件、職場環境はも
とより、本人の技能・経験・適性などをキメ細かくチェックするとともに、組合と
して可否を判断したうえ、本人合意を踏まえて実施させることとする。」という方
針を打ち出すに至り、その後、本件出向前後を通じてこの方針が維持されている
(甲四六ないし五六、甲一三一、乙四八)。
5 中期総合計画
(一) 中期総合計画発表当時の被告の状況等
 昭和六〇年九月ころから昭和六一年九月ころにかけて、円が一ドル二四〇円から
一五〇円に急騰し、同年一月、被告を含め高炉九社は、国の円高不況雇用対策とし
て構造不況業種の指定を受け、同年二月一日から一年間、雇用調整助成金の交付を
受けることになり、高炉五社(被告、日新製鋼、住友金属工業、川崎製鉄、神戸製
鋼所)の九月中間決算は経常利益がいずれもマイナスとなる戦後最悪の状態に至
り、昭和六二年一月には、鉄鋼労連がベア要求を断念し、被告ら高炉各社は雇用調
整の一環として本格的な一時休業を開始し、労働省は、高炉各社の申請を受け、前
記雇用調整助成金の対象指定を一年延長し、同年九月には、高炉大手五社は、中間
配当の見送りを一斉に発表した(乙九七、乙九八、乙一〇〇、乙一〇二、乙二〇
五、乙二一〇ないし二一二)。
 また、被告は、昭和六二年三月期において、売上高は二兆一七八五億円と前期に
比べ五〇六一億円の大幅な減収となり、有価証券売却益九九六億円を計上したが、
経常損失は一二六億円を記録した(乙二〇八の一ないし四、乙二〇九)。
 昭和六二年三月、学者、鉄鋼経営者、鉄鋼産業労働者及びマスコミ等の代表者か
ら構成される「基礎素材産業懇談会」が通商産業省の諮問を受けて発足し、大幅な
円高を背景とした中長期的に厳しい経済情勢に対する鉄鋼業界の対応について検討
し、同年一〇月八日、今後の鉄鋼業の在り方を「新世代の鉄鋼業に向けて」と題
し、中間報告として答申した(乙四二)が、その内容は、いわゆる鉄鋼寡消費型の
経済構造への転換による国内鉄鋼需要の減少及び鉄鋼需要産業の現地海外生産の活
発化による鉄鋼純輸出の減少により、粗鋼生産の低下傾向は避けられないとの見通
しを前提に、鉄鋼業が、他産業に比しコスト構造において固定費が高比率にあるこ
とや円高による収益の悪化が予想されることを考慮し、人件費、減価償却費及び金
融費用等の固定費削減の必要性、高稼働率を保つための余剰設備削減の必要性、出
向の必要性を含む人員合理化の必要性等を示したものとなっている。
(二) 中期総合計画の概要
 こういつた状況下で、被告ら高炉大手五社は、対応策として要員削減を中心にし
た合理化計画としての中期的な経営計画を相次いで発表し(乙三一、乙四六の一の
一ないし三、乙四六の二の一及び二、乙四六の三の一ないし三、乙四六の四の一及
び二、乙四六の五、乙一六一)、被告も連合会に対し、昭和六二年二月一三日、中
央及び八幡製鉄所の経営審議会において、中期総合計画を提案した(乙三一)。
 被告は、右計画において、わが国の実質経済成長率が今後中期的に年二パーセン
ト程度であり、平成二年度における鉄鋼内需が粗鋼規模六九〇〇万トン程度まで減
少すると予想し、被告の粗鋼生産規模を販売シェアー維持を前提に年間二四〇〇万
トンと見込んだ上、製鉄事業部門の抜本的体質強化を実施し、内外最強鉄鋼メーカ
ーと対抗できるコスト競争力の実現、巨額の実質的赤字の解消と併せて、平成二年
度時点の健全経営の維持及び複合経営の推進等に必要な利益の確保を目指すととも
に、事業領域を拡大し、平成七年度には製鉄事業部門以外の分野で総売上高の五〇
パーセントを確保し、総売上高四兆円とすることを目標としている。
 そして、被告は、右計画において、総固定費・総資産の削減、特に総固定費を二
五パーセント以上削減することを目標に、要員については、生産設備体制の再編に
より約七〇〇〇名を、競争力強化の観点からの合理化により約一万二〇〇〇名を削
減し、平成二年度までに、鉄部門において合計約一万九〇〇〇名を削減する一方、
新規事業を積極的に拡大する中で、鉄部門から新規事業部門に約六〇〇〇名を転換
することとしたが、平成二年度末までの間に約九〇〇〇名程度の定年予定者や自己
都合退職者が見込まれるものの、人員余力がなお大量にのぼり、かつ、高炉休止対
象製鉄所に偏在すること、また、新規事業展開にも時間を要すること等から、全社
を対象とした人員対策を講じることとした(乙三〇、乙一二二、乙一二三)。
(三) 中期総合計画についての労使の折衝
 前記のとおり、被告の労働協約においては、労使交渉は、付議事項によって、話
し合いの場及びその程度が定められているが、中期総合計画については、経営審議
会の付議事項である「生産計画に関する重要事項」(労働協約一六条一項一号)等
に該当し、話し合いの程度としては、「会社はこれについて説明または報告し、連
合会または組合は意見を開陳」(同条二項)し、「労働条件に重大な影響があると
認められるものについては、双方慎重に意見の交換を行う。」(同条〔覚書〕)こ
とになっている。
 中期総合計画については、前記のとおり、大幅な要員削減を伴う計画であったの
で、連合会は、組合員の雇用確保を第一に考えることにして、右計画の背景や具体
的内容について、被告から何度も説明を受けるとともに、労働組合としての意見を
述べた(乙三二ないし三五)。
 そして、連合会は被告に対し、昭和六二年五月二〇日、中央臨時経営審議会にお
いて、わが国鉄鋼産業及び被告が、大きく変化した需給構造や急激かつ大幅な円高
等に伴って、生産量が大幅に低下し、円手取り額が大幅に減少する等、かつて経験
をしたことのない厳しい経営状況に置かれているということや、被告がこれを打開
し、企業基盤の安定・強化を図るために何らかの施策を必要としている背景や理由
については理解でき、厳しい実態や今後の見通し、これまでの話し合いの経緯を踏
まえて、組合員の雇用と労働諸条件確保の礎である被告の経営基盤確立・強化とい
う観点から、まさに断腸の思いで本計画について受け止めていかざるを得ないと判
断し、この計画の推進・実行によって、被告の経営基盤の安定強化が図られ、組合
員の雇用の安定、中長期的な労働諸条件の維持・改善と働き甲斐につながると確信
し、今後とも協力・努力を惜しむものではない旨述べて、右計画を了解する旨の態
度を表明し、併せて、設備休止等による具体的人員措置については、組合員の生活
実態や適性はもとより、本人の事情や意向なども可能な限り斟酌し、不安・問題を
生じないように十分話し合いをしなければならないことを強く要請した(乙三八、
乙三九)。
6 社外勤務協定の改定
 昭和六二年一一月五日、中央団体交渉において、被告は、中期総合計画における
約一万九〇〇〇人の要員減に対し、新規事業所への要員六〇〇〇人を見込んでも、
現状余力を加えた平成二年度末の人員余力が約六〇〇〇人と見込まれるので、雇用
確保維持のためには、出向措置を積極的に拡大し、少なくともその半数以上に出向
措置を講ずる必要があると同時に、今後は、これまでの関連・協力企業を中心とし
た地元地域での出向に加え、異業種・異業態の産業・企業等や遠隔地への出向の実
施、出向対象層の拡大、出向期間の長期化が避けられないが、給与・賞与について
差額補填した上、出向先実労働時間と被告所定内労働時間差を過勤務とみなして過
勤務手当を支給するという今までの扱いでは、今後の出向拡大や情勢変化により増
大する労務費負担に耐え得ないとともに、社内勤務者について、臨時休業や労働時
間管理等の諸施策を実施し、長期の業務応援派遣や所間応援、大量の転勤、配転を
実施しており、これら従業員全体の処遇バランスにも顧慮する必要があるとして、
連合会に対し、①社外勤務協定における月額四〇〇〇円の出向手当を廃止し、新た
に出向手当A(五万円)を出向発令時に一時金として支給する、②出向先実労働時
間と被告の所定内労働時間差の補填について、従来、被告規定の過勤務手当を支給
してきたが、これを所定内労働時間差と出向先での過勤務時間とに分け、前者につ
いては、出向先との年間所定内労働時間差に応じ、年二回に分けて出向手当Bを支
給し、後者については、出向先の割増率と過勤務手当算定の基礎単価を適用し、基
礎単価の計算については当社補填分を加えた出向先基準内賃金を出向先所定内労働
時間で除したものを適用する、③出向者の出向期間中の扱いについて、出向先従業
員との一体意識の醸成の要請から社外勤務休職とし、その期間を勤続年数に通算す
ることを提案した(乙七七)。
 これに対し、連合会は、「現下の雇用環境の厳しさと合後の見通しのもとでは、
基本的には、出向措置を雇用確保の施策として認めていかなければならないと考え
ている。」としながらも、被告が提案する「(右)措置はその影響等から容易に納
得できるものではない」として、全組合員の問題として慎重に検討し対処するとの
方針の下、各単位労働組合ごとに、機関・職場にこれを報告・討議を行い、その意
向や疑問点を把握し、これを踏まえて中央交渉に臨み、被告との間で、主に、①出
向手当については、これを出向手当Aとして見直すとしても、これが与える生活へ
の影響や負担等を考慮し、その支給方法と補償措置を別途検討すること、②所定内
労働時間差の補填については、その単価水準を引き上げ、月払いとした上で、これ
を諸手当の単価計算に関わる基準内賃金の中に算入するとともに、適切な移行措置
を検討すること、③過勤務・深夜就業に対する割増率については、これまでどおり
の扱いとすること、④社外勤務休職の扱いについては、今回の見直しの趣旨とは直
接的な関係がないこと等を勘案し、別途話し合うとの方針で交渉した(甲二四、甲
二六、甲九五ないし九七、甲一五二の一及び二、乙六二、乙六三、乙七七ないし八
三)。
 そして、被告と連合会との六回にわたる交渉の末、昭和六二年一二月二三日、第
七回交渉において、①及び④については会社提案どおりとするが、②の出向手当B
については、連合会の要求をいれて被告の提案を一部修正し、年間支給額(出向先
と被告との所定内労働時間差につき、区分に応じて二五時間ごとに年間三万円単
位。ただし、移行措置として一八か月間は、四万円を単位とする。)を月割で支給
し、これを過勤務及び深夜手当の単価算定の基礎給に含める、③の過勤務・深夜就
業に対する割増率についても、連合会の要求をいれて被告の提案を一部修正し、出
向先での過勤務手当、深夜就業手当の計算の単価算定基礎給に出向手当Bを含め、
割増率については従来どおり、被告の割増率を適用するということで合意し、昭和
六三年三月二日、社外勤務協定を改定し、同年四月一日から施行されることとなっ
た(甲二七、乙四、乙八二)。
7 八幡製鉄所の構内輸送体制について
(一) 構内輸送体制及び八幡製鉄所鉄道輸送部門の概要
 銑鋼一貫生産を行う八幡製鉄所においては、原料の揚陸から高炉、転炉、圧延等
の工程を経て、銑鉄から鋼そして製品へと移行する生産の流れに対し、構内輸送
は、輸入原燃料のクレーン揚陸作業を担当する原料揚陸部門、原料揚陸後から出荷
までを担当する構内輸送部門、倉庫からの払出作業を担当する倉庫部門、製品の出
荷を担当する出荷部門の四つに組織され、構内輸送部門は、他の三つの部門同様、
円滑な鉄鋼生産活動を支える付帯部門として位置付けられるが、大きく無軌道部門
と鉄道部門に分けられている(乙五、乙一二)。
 また、本件計画実施前は、被告の組織上、構内輸送は生産業務部の担当であり、
生産業務部のうちの輸送管理室が、荷役や構内外輸送等の流通全般に関する企画及
び総合調整、原燃料及び半製品の輸送作業、鉄道の信号作業及び信号保安設備整備
作業等を担当し、出荷室が、輸出及び国内向け出荷に関する企画及び総合調整、製
品の輸送作業を担当していた(乙一二)。
 そして、八幡製鉄所における鉄道輸送作業及び関連作業の具体的内容としては、
①構内の鉄道輸送を行うDL運転作業、②八幡地区と戸畑地区の間を結ぶ八幡製鉄
所専用鉄道である「くろがね線」におけるEL運転作業、③DL及びELの運行状
況、各製造工程における原燃料、半製品、製品及び発生屑等の輸送需要等を把握
し、鉄道の運行計画の作成及び総合調整、DL及びEL運転者への連絡等を行う輸
送計画作業、④戸畑地区における高炉工場から製鋼工場への溶銑輸送に関し、両工
場間の路線の錯綜箇所にある信号所における踏切の開閉、DL運転者への運行可否
の指示連絡、番線のポイントの切替え及び信号所監視区域内の列車運行監視等を行
う信号作業、⑤「くろがね線」の起点、終点及び操車場における信号作業並びに輸
送先や積荷の種類等による各貨車の編成作業を行う信号列車整理作業、⑥車両の定
期点検や整備等を行う鉄道車両整備作業、⑦電気転轍器や車上転換器の点検及び整
備、踏切にある警報機の整備作業等を行う信号保安設備整備作業、⑧DL及びE
L、貨車、信号保安設備等の輸送設備に関する予算の編成及び管理、同設備に係わ
る協力会社の定期的点検及び整備の検収、線路を含めたこれら輸送設備に係わる資
産管理を行う輸送設備管理作業があるが、このうち、原告aは④の信号作業に、原
告bは⑤の信号列車整理作業にそれぞれ従事している(乙一四、乙八の一ないし
九)。
(二) 構内輸送に係わる被告と協力会社の分担
 本件計画実施前は、八幡製鉄所の構内輸送作業は、被告が直営する業務と、協力
会社に委託して行っている業務とに分かれ、①鉄道輸送作業のうちのDL・EL運
転、輸送計画、信号及び信号列車整理の各作業、鉄道車両整備作業のうちの日常点
検及び補修作業、信号保安設備整備作業のうちの信号所監視区域内の複雑な作業に
ついては直営で行い、②戸畑地区における無軌道輸送作業及び鉄道車両整備作業の
うちの機関車の定期的な点検・整備作業は日鐵運輸に、③八幡地区における無軌道
輸送作業は山九株式会社に、④鉄道車両整備作業のうちの貨車の定期的な点検・整
備作業は株式会社山本工作所に、⑤信号保安設備整備作業のうちの信号所監視区域
外の比較的平易な作業は峰製作所に、それぞれ業務委託され、これらの協力会社が
それぞれの作業を担当していた(乙二三、乙一二七、乙一二八の一の一ないし三、
乙一二八の二の一及び二、乙一二八の三の一ないし三、乙一二八の四の一ないし
八、乙一二九の一ないし六、乙一六八の一ないし四、、乙一六九の一の一ないし
八、乙一六九の二の一ないし四、乙一六九の三の一ないし六、乙一六九の四の一な
いし九)。
(三) 八幡製鉄所の運輸部門の労働生産性
 被告は、古くは、昭和三〇年から昭和三九年にかけて一五〇台の蒸気機関車を全
てDLに切り替え、線路分岐部のポイント切替装置を転轍工による手動切替から電
動の車上転轍器に替えるなどして九〇〇人を合理化したほか、昭和四三年から昭和
六二年の過去二〇年間においても、遠隔無線を利用したDLのワンマン運転化、電
動の車上転轍器の設置範囲の拡大等の新設備の導入のほか、設備の統廃合や業務委
託を含む作業方法の改善を図り、一二二九名の合理化を実施した経緯がある(乙
六、乙七)が、昭和六〇年三月に日本鉄鋼協会における共同研究会の運輸部会労働
生産性調査ワーキンググループが発表した昭和五九年度の全国主要製鉄所における
運輸部門の労働生産性の調査結果によると、被告の名古屋製鉄所及び君津製鉄所に
ついては、他の鉄鋼会社の製鉄所に比べ、運輸部門における労働生産性が劣ってい
た(乙一八)。
 これに対し、被告も独自に、右調査と同時期に同じ方法で被告の全製鉄所の輸送
に関する労働生産性を調査したところ、①鉄道輸送部門の作業効率性の度合い、鉄
道輸送への依存度を示す粗鋼量生産性、②鉄道輸送部門従業員一人当たりの運搬量
を示す取扱量生産性、③取扱量生産性につき輸送対象物が異なることについて能率
も異なることがあることを考慮し、対象物の特性により一定の補正計数で補正した
換算取扱量生産性、④取扱量生産性のうち、運転工だけ取り上げて一人当たりの輸
送量をもって鉄道輸送の現場の効率性を端的に示す運転工取扱量生産性、⑤運転工
以外の管理的作業従事者、下回り作業従事者等物を運ばない従業員一人当たりの運
搬量によって、輸送付帯部門の合理化・効率化の度合いを示す非運転工取扱量生産
性のいずれにおいても、八幡製鉄所は、他社製鉄所だけでなく、被告の他製鉄所に
比べても労働生産性が劣っていた(乙二〇、乙二四)。
8 本件計画の概要及び日鐵運輸への業務委託
(一) 本件計画の概要
 そこで、被告は、昭和六一年三月、本社の生産技術部輸送管理室から被告全製鉄
所に対し、輸送出荷部門の粗鋼量生産性(一月当たりの粗鋼生産量を輸送にかかわ
る全作業要員〔運転工と非運転工〕の人員で除したもので、輸送出荷部門全体の効
率性を示し、当該製鉄所の競争力を表す。)の平均を月五五〇トンにすることを目
標とした合理化計画の作成を指示し、各製鉄所ごとに目標を設定させた。被告各製
鉄所が設定した目標値の平均は六八〇トンであったが、八幡製鉄所は五七〇トンで
あった。
 そして、被告は八幡労組に対し、昭和六三年一二月二〇日、八幡製鉄所の臨時経
営審議会及び労使委員会で本件計画を提案した(乙一〇の一)。
 本件計画の中で、被告は、八幡製鉄所の労働生産性が低い原因を、①他の製鉄所
に較べて輸送手段のうち鉄道輸送割合が六〇パーセント強と高いこと、②無軌道輸
送設備の機械化、大型化が遅れていること、③輸送作業量の変動に対応する要員の
弾力的運用が不十分であり、輸送独自の運行管理システムすら構築されていないこ
と、④八幡・戸畑両地区での二元的生産体制に伴う両地区間の半製品等の輸送作業
が不可避的に生じる上、工場・倉庫の複雑な配置によって構内の輸送経路が錯綜し
ていること(乙一五ないし一七)、⑤加工工程数が増加し輸送効率を低下させる高
級多品種の製品が生産されていることの五点にあると分析し、④及び⑤の構造的な
制約要因については、八幡地区は主として製品加工工場地域にし、戸畑地区は原
料、揚陸、高炉、転炉及び一部圧延として、工場の種類を類別集約し結集させると
ともに、工場の配置をできるだけ次の工程と直結するように変更して改善を計るこ
とにし、①ないし③については、八幡製鉄所の輸送部門の体制を抜本的に改める必
要があるとした。
 そして、①及び②については、当時、鉄道輸送部門は、関連設備として線路約一
四〇キロメートル、機関車約五〇台、貨車約八七〇台を保有していたが、トラッ
ク、トレーラー等の無軌道輸送手段に係わる近年の技術革新の成果を採り入れ、鉄
道と無軌道の両輸送手段の分担関係を見直し、無軌道輸送が可能なものば原則とし
て全て無軌道輸送に切り替え、鉄道輸送はその特性を生かせる大量・熱物・重量物
輸送に限定し、構内輸送全体の効率化を図ることにした。
 また、③については、通信装置とコンピューターシステムを利用した「鉄道運行
管理システム」を開発し(乙二五の一及び二)、鉄道車両及びその運転要員を削減
するほか、当時、原料揚陸部門は一〇〇パーセント、構内輸送部門のうちの無軌道
部門は九七パーセント、倉庫部門は七三パーセント、出荷部門は九一パーセントに
つき業務委託が実施されていたが、鉄道部門については、委託化は七パーセントで
あったので、他の製鉄会社及び被告の他の製鉄所のように、要員を弾力的に運用す
ることを目指し、鉄道部門を輸送の専門会社に業務委託することにした。
(二) 業務委託先である日鐵運輸について
 日鐵運輸は、昭和一七年一二月、旧日本製鐵株式会社八幡製鉄所の港湾運送に係
わる多数の会社を集約して設立され、昭和四五年七月、現在の商号に変更したが、
本店を北九州市<以下略>に、事務所を東京に、事業所を堺と君津に、営業所を福
岡に、出張所を光に置く、資本金五億円、従業員一五六四名の株式会社である。
 被告は、日鐵運輸の株式の約七六パーセントを保有し、全役員一〇名のうち社長
ほか八名を派遣し、平成元年四月一日当時、日鐵運輸の全従業員の約一八パーセン
トにあたる二七四名は被告からの出向社員である。
 日鐵運輸は被告から、関門港及び八幡製鉄所専用港における原料及び製品等の荷
役、艀運送等の作業のほか、戸畑地区の無軌道輸送作業、堺製鉄所及び君津製鉄所
の鉄道輸送作業、これら三製鉄所の機関車整備作業について業務委託を受け、機関
車整備工場を有していたが、君津製鉄所において、昭和六一年五月にコンピュータ
による情報処理を利用した運行管理の集中一元化を可能にする鉄道運行管理システ
ムを開発、導入するなどしたほか、自動車、重機、建設機械の販売、輸送警備、常
駐警備等の新規事業にも進出している(乙九、乙一六六、乙一七〇)。なお、前記
のとおり、昭和四六年七月に八幡製鉄所の機関車点検・整備作業が、昭和五六年四
月に八幡製鉄所戸畑地区の棟間無軌道輸送が、日鐵運輸に業務委託されているが、
いずれの場合も、当該作業の従事者について日鐵運輸への出向措置が実施されてい
る。
 そこで、被告は、協力会社であり、被告以上の構内輸送業務等の経験と技術を持
つ日鐵運輸に対し、直営であった八幡製鉄所の鉄道輸送に関するDL・EL運転作
業、信号作業、信号列車整理作業及び鉄道車両の日常点検・補修作業、株式会社山
本工作所が業務委託を受けていた貨車の定期点検・整備作業を業務委託することに
より、鉄道輸送作業量の変動への弾力的対応、車両整備の分野での重複業務の解消
を図り、八幡製鉄所における運輸部門の労働生産性の向上を目指すことにした。
9 本件出向措置の必要性
 本件計画実施前の平成元年二月二八日当時、鉄道部門全体の要員は二一一名であ
ったが、前記「鉄道運行管理オンラインシステム」の導入(乙二五の一及び二)及
び鉄道から無軌道への輸送手段の変更等による要員改定によって、四〇名が削減で
きたので、鉄道部門全体の要員は一七一名になった。そして、本件業務委託後も被
告が引き続き直営で行う輸送計画作業及び輸送設備管理作業の要員が二三名である
から、残一四八名が委託化対象要員とされた(乙五三、乙五四)。
 ところで、被告は、一方で、前記のとおり、中期総合計画の推進過程で大量の人
員余力を抱えざるを得ず、八幡製鉄所においても右委託化に伴い鉄道輸送部門での
大幅な余力が生じ、製鉄所内で余剰を吸収することにも限界があることから、従業
員の雇用確保の観点から、委託先会社への出向措置を積極的に講じる必要があり、
他方では、委託先会社である日鐵運輸及び峰製作所において、委託化される八幡製
鉄所の鉄道輸送作業及びその関連作業を円滑に遂行し得る人員を直ちに確保、養成
することは困難であった。
 そこで、被告は、これら委託先会社と協議した結果、右一四八名について、七名
の要員を削減し、日鐵運輸へ一三三名、峰製作所へ八名の合計一四一名について、
出向措置を講じることとした(乙一〇の一)。
10 本件業務委託に伴う人員措置についての労使の折衝
 また、本件計画に伴う要員改訂及び人員措置の基準方針については、労使委員会
の付議事項である「生産計画の変更等にともなう重要な要員事項」(二二条一項二
号)等に該当し、その話し合いの程度としては、「協議」(同条二項)するものと
なっているので、前記のとおり、昭和六三年一二月二〇日、被告は八幡労組に対
し、労使委員会において提案したが、その際、出向先である日鐵運輸及び峰製作所
の主要な就業条件として、年間所定内労働時間、年間休日日数、就業時間、実労働
時間及び交代者の勤務形態を説明した(乙一〇の一)。
 その後、同年一二月二七日、平成元年一月九日、同月一三日及び同月一九日と労
使の折衝が重ねられたが、委託化の必要性自体についての疑問のほか、出向者の人
選、出向者の異動や配転の有無等について疑問が出され、特に、出向者の勤務形態
が、被告の就業規則では四組三交代制であるのに、日鐵運輸では三組三交代個人指
定休日方式になる点について、鉄道輸送作業が厳しい作業環境である屋外での肉体
的負荷が高い作業であることや高齢者が多い職場であることを考慮して、四組三交
代制にできないかという要求が出された(乙一〇の二ないし四)。
 八幡労組の右要求に対し、被告は、当初、出向者が従うべき就業条件を決めるの
は日鐵運輸であって、今回の出向者だけを日鐵運輸の労働者と異なる勤務形態とす
ることは難しいとしていたが、労働組合の要求が強いことに対応して、日鐵運輸に
対し、鉄道輸送業務の実情を説明して交渉した結果、日鐵運輸において個別例外的
な運用の措置を講じることになった。すなわち、日鐵運輸は、鉄道輸送作業職場に
ついては四組編成とするが、この編制による年間非番日数九一日と日鐵運輸におけ
る当時の年間休日日数八五日との差については、予備直勤務配置日とし、これを
「調整休務日」として扱い、相当する労働時間は出向先の年間所定労働時間から控
除することとした。
 これに対し、八幡労組は、実質上は出向前と同様の勤務編制が維持されるととも
に、通常、予備直勤務配置日には、勤務の必要性が生じないので、年間休日日数と
しても実質九一日が確保できたとして、右の四組編成とした措置について「素直に
評価する」と述べた(乙一〇の四及び五)。
 そして、八幡労組は被告に対し、平成元年一月二七日、労使委員会において、構
内輸送体制の抜本的見直しが必要であることについては理解できるが、今回の措置
が当該職場組合員のみならず、協力会社・従業員及び関係工場等にも影響すること
から、慎重に検討したが、その結果、業務委託によって、高い専門性や生産変動に
対する弾力的な対応が可能となり、効率的な輸送体制の基礎が確立され、出向措置
についても、鉄道輸送作業、鉄道車両整備作業及び信号保安設備整備作業における
技術・技能の継承に加えて、委託後の業務の円滑な移行という観点からやむを得な
いと理解し、職場から強い要請のあった勤務形態等について、組合及び職場の要請
に沿った被告の見解が示されたこと等を総合的に判断して提案を受け止め、被告が
具体的な人選に入ることを了解する旨の態度を表明した(乙一〇の六、乙四七)。
11 本件出向命令に至る経緯
(一) 人選の経緯
 被告は、前記了解表明を受けて、出向者の人選を始めたが、まず、本件業務委託
後も引き続き直営で残る鉄道輸送計画作業及ぴ鉄道輸送設備管理作業について人選
を行い、次に、八幡製鉄所の技術職社員については、約七五パーセントが四五歳以
上で、平均年齢は四六歳を超え、三〇歳代以下が不足していたため、この三〇歳代
以下の技術職社員については、将来の基幹作業要員として貴重な存在であり、職種
転換への対応力もあるとして、所内配転を優先して本件出向措置の対象から外すと
ともに、病気等の理由から就業制限のある者については出向先との関係から、二年
以内に定年を迎える者については当時実施していた高齢者の長期教育休業措置との
関係から、いずれも本件出向措置の対象から外した。
 こうして、被告は、同月下旬から、日鐵運輸及び峰製作所において委託作業を円
滑に遂行するのに必要な技能や経験を保有する者であるかどうかという観点から、
従前より当該鉄道輸送作業あるいは車両の日常点検・補修作業等に従事していた者
の中から前記一四一名を人選することにした。
 ところで、平成元年二月二八日当時、原告bが従事していた八幡地区の信号列車
整理作業には二一名が、原告aが従事していた戸畑地区の信号作業には八名が、そ
れぞれ在籍していた。
 そして、被告は、二年以内に長期教育休業措置を受ける高齢者である八幡地区の
七名及び戸畑地区の一名、病気休職者である八幡地区の一名をいずれも出向措置の
対象外とするとともに、日鐵運輸から、本件業務委託に関して一〇〇名を超える機
関車等の運転要員の確保を要請されていたことから、本来DLないしELの機関車
運転作業に従事すべきところを臨時的に信号列車整理作業に応援者として配属され
ていた八幡地区の五名及び戸畑地区の三名については、機関車運転作業へ配置する
ため対象外とし、その結果残った八幡地区における原告bら八名及び戸畑地区にお
ける原告aら四名を人選した(乙五三、乙五四)。
 そこで、被告は、同月下旬以降、人選された一四一名に対し、個別に出向先であ
る日鐵運輸ないし峰製作所における労働条件を提示して話し合いを実施したとこ
ろ、原告らほか二名を除く一三七名が出向に同意し、君津製鉄所応援中の一名を除
いた一三六名は同年三月一日に、右一名については同年四月一日に、それぞれ出向
した。
(二) 原告らに対する説得
 被告は、平成元年一月三〇日から同年四月一三日までの間、出向に同意しなかっ
た原告ら四名に対し、出向命令の発令を猶予して、上司である室長、掛長、作業長
を通じて、本件出向においては職場や作業は変わらず、処遇についてもほとんど変
わらないので、出向に応じるよう説得するとともに、出向に応じない個人的事情の
説明を求めたが、原告らは、労働条件が悪くなること、被告に復帰できないこと、
定年まで被告の社員として働きたいこと、将来転籍になるおそれがあることなどを
反対理由にあげ、出向を拒否する家庭的事情等を説明せず、出向に同意しなかっ
た。
 なお、被告の原告らに対する右説得の経緯において、脅迫的な説得や強い圧迫感
を与える説得等の妥当性に欠ける説得が行われたと評価すべき事実を認めるに足り
る証拠はない。
(三) 原告らについての労働組合との交渉
 この間、被告は、同年二月二八日、業務委託開始後の作業に支障が生じないよう
にするため、八幡労組に対し、同年三月一日から同月三一日までの間、原告ら四名
の代替要員を日鐵運輸に一時的に業務応援派遣する措置を提案し、八幡労組からの
本件に関する対応経過や今後の方針についての質問に対し、現在まで数回にわたっ
て、出向に支障を来す個別事情の有無を確認し、出向に関する疑問点の解消を図る
などして説得を続けたものの、四名の納得は得ていない、しかし、出向したくない
理由が、いずれも出向に特段の支障を来すような個別事情に基づくものではないの
で、引き続き説得を継続する旨答えた(乙五〇の一及び二)。
 業務委託の実施間近になっても、原告らは出向に同意しなかったが、一方で業務
委託後の日鐵運輸での業務遂行に不可欠な人員の補充が必要となったため、被告は
八幡労組に対し、同月二三日の労使委員会において、業務応援派遣者四名のうち、
一名は同年四月一日から高齢者の長期教育休業措置の適用を受けるため、予定期日
の同年三月三一をもって業務応援派遣を打ち切らざるを得ないが、残る三名につい
ては、さらに同年四月二〇日まで派遣期間を延長することを提案するとともに、原
告らとの話し合いが進展しない場合、既に出向した者の心情や全体の公平感を考慮
して、四月下旬を目処に出向を発令せざるを得ない旨説明した。
 これに対し、八幡労組は、組合としても、原告らと話し合ったが、出向に応じた
くないとする客観的な理由は見出せないので、原告らの出向措置を認めないとする
理由・根拠はないと判断する旨述べて、右派遣期間の延長を了解する旨表明した
(乙一一の一、乙五一)。
 これを受けて、被告は、さらに、原告らとの話し合いを継続したが、やはり、原
告らの態度は変わらなかった。
 そこで、被告は八幡労組に対し、同年四月七日の労使委員会において、原告らと
の話し合いにはこれ以上の進展は期待できないと判断したので、原告ら四名に対し
て同月一五日付けで日鐵運輸への出向命令を発令する予定である旨説明したとこ
ろ、八幡労組は、そのような措置を講じたとしても、労使間の出向措置に関する取
扱い上、特段の問題はないと判断し、本件については、これ以上被告と話し合いを
持つことは考えていない旨の態度を表明した(乙一一の二、乙五二)。
(四) 出向命令の発令
 そこで、被告は原告ら四名に対し、同年四月一〇日、同月一五日付けで日鐵運輸
へ出向を命じる旨予告し、同月一四日、八幡製鉄所労働部労働人事室長が、同月一
五日付けの日鐵運輸への出向の通知文を交付し、原告らは、同月一七日、日鐵運輸
へ赴任した。
 右命令の内容は、いずれも「八幡製鉄所労働部労働人事室労働人事掛勤務を命ず
る。社外勤務休職を命ずる(日織運輸へ出向)。」というものであるが、原告らに
労働人事室勤務を命じたのは、被告における出向措置一般の取扱いとして、出向者
を元の職場に在籍したままにしておくと、出向後も、各職場管理者が、出向者に関
する人事管理、勤務管理、給与管理等の管理内容について、各出向先との間で個別
に連絡を取らねばならなくなり、事務処理が錯綜し、煩雑となることから、便宜上
の措置として、被告の労働人事室が各出向先との間でこれらの事務処理を一元的に
行うことを目的としたものである。
 なお、原告らに対する本件出向措置は、本件出向命令の発令から三年経過した平
成四年四月一五日、被告から原告らに対し、業務命令の形で、「業務上の必要性が
ある」(社外勤務協定四条但書)として出向期間を三年間延長され、さらに三年間
経過した平成七年四月一五日、同様に三年間、出向期間が延長されている。
二 本件出向命令の根拠について
1 一般に、出向とは、労働者が出向元の指揮命令から離れて、出向先の就労場所
において、その指揮命令を受けて労務の給付を行う労働形態のことをいうが、本件
出向は、社外勤務協定に、「出向する組合員は社外勤務休職とする」(三条)、
「この休職期間は当社の勤続年数に通算する」(四条二項)とあるように、出向元
である被告との間の労働契約を合意解約し、出向先である日鐵運輸との間で新たに
労働契約を締結するのではなく、被告の従業員の身分を維持したまま、原告を被告
の労働人事室に在籍させた上で、出向先である日鐵運輸の指揮命令の下にその業務
に従事することが出向元である被告に対する労務の給付になっている、いわゆる在
籍出向であると認められる。
2 ただ、本件出向は、その背景にある中期総合計画が大幅な要員削減を内容とす
るものであり、今後、被告に大量の要員補充の必要性が生じることは期待できず、
また、構内輸送部門を協力会社である日鐵運輸に全面的に業務委託することを内容
とする本件計画に基づくものであり、構内輸送部門は被告にとって付帯的事業であ
って、これを再び直営に戻す可能性はあまり考えられないから、実際に二度の出向
期間の延長措置がとられたように、出向期間が長期化する可能性が高かったもので
ある。
 したがって、本件出向は、被告との労働契約が合意解約されるいわゆる転籍出向
ではなく、在籍出向であり、出向期間の明示があり、社外勤務協定等によって社内
勤務者の労働条件と同様に扱われるよう保障され、出向先である日鐵運輸の業績悪
化等により就労の必要がなくなれば当然被告へ復帰するなど、被告の従業員として
の地位の保障があるとはいえ、実質的にみると、長期化することが予測できるとい
う意味では転籍出向に近いものがあるといわざるを得ず、本件出向命令の法的根拠
を検討する上で、この点を軽視することはできない。
3 そして、在籍出向といえども、出向によって労働者に対する指揮命令権が出向
先に変更するのであるから、民法六二五条の趣旨である労務給付義務の一身専属性
から、また、出向は一般に重要な労働条件の変更であるから、労働基準法一五条の
精神から、出向命令を正当とする根拠は労働者の同意に求められるべきである。
 ただ、労働者の同意を要するとした趣旨は、出向を命じられる労働者を保護する
ことにあるから、出向命令に応じて出向先に対しても労務に服するなどの義務を負
うことが労働契約の内容として含まれるか否かという観点から検討すべきである。
そして、わが国の慣行である終身雇用制を前提とする限り、労働契約は相当長期に
わたる継続的契約であって、締結後に事情が変更することによって、その内容が合
理的な限度で変更することは当然認められるべきであるから、労働契約締結時(入
社時)に出向に対する事前の包括的同意が認められるか否かだけではなく、締結時
及びその後の労使関係に関するすべての事情も考慮し、出向命令時において、右命
令に応じる義務が労働契約の内容となっていたか否かという観点から検討すべきで
ある。
 これに対し、原告は、出向を、出向元と出向先、出向者との三者間の法律関係と
捉える必要があるとか、出向は指揮命令権行使に関する義務の移転を伴うものであ
って、免責的債務引受を含むものであるなどとして、出向者の個別具体的同意の必
要性を主張するが、出向を三者間の法律関係として検討することと、出向者の個別
具体的同意が不可欠であるということは必ずしも結び付かないし、出向の内容とし
て労働者に対する指揮命令権の変更が含まれるとしても、出向義務の存否を決する
については、それのみならず出向者の労働条件全体の検討が重要であるから、形式
的に免責的債務引受の法理を適用するのは相当ではなく、出向法律関係の成立に当
該出向者の個別具体的同意が不可欠であるとの主張は失当というべきである。
4 そこで、本件について検討すると、前記認定のとおり、原告ら入社時の就業規
則には、業務上の必要により従業員を社外勤務をさせることがある旨規定されてお
り、原告らは、この就業規則を遵守する旨の誓約書を提出し、入社時に就業規則に
ついての一応の説明を受けたことが認められるから、出向を含む社外勤務を命じら
れることのあることが一般的に労働契約の内容として含まれていたものということ
ができる。原告らは、作業職社員は右規定の適用を除外されていたと主張し、作業
職社員につき休職規定の適用が除外されていたことを理由にあげるが、作業職社員
とその他の社員とで、社外勤務の内容を区分していないことは、その文言から明ら
かであって、作業職社員に休職措置がとられないからといって、作業職社員に命じ
られる社外勤務を派遣に限定していたと解することはできない。また、出向事例の
推移や労使交渉の経緯から、右の社外勤務規定が作業職社員につき派遣に限定する
ものであったとまで認めることはできない。
 ただ、被告における出向事例の推移をみれば、入社時の当事者の意思として、社
外勤務として、本件出向のように、業務委託に伴う出向であって、出向期間の長期
化が避けられない特殊な形態のものが含まれていたと解することは困難であるか
ら、本件出向についてまで原告ら入社時の事前の包括的同意を認めることはできな
い。
 しかし、原告らが被告に入社してから本件出向命令に至るまでの間に、被告と労
働組合との間で、昭和四四年九月に出向期間等出向者の処遇を定めた社外勤務協定
が締結されたこと、その後、労働協約の上でも、業務上の必要により会社は組合員
を社外勤務をさせることがある旨改定されるとともに、本件出向のような業務委託
に伴う出向の事例が増加していったこと、これに対し、労働組合は、その都度、該
当する職場の労働者の個別の意見に配慮しつつ、要員改定としての出向措置の必要
性やその人数、出向の際の労働条件等について被告と協議して内容を定め、労働組
合の了解の下に多くの出向が実施された経緯があること、また、その間、労働組合
は、出向者の同意について、労働条件、生活環境の低下というような客観的問題が
ある場合には、本人の立場に立って被告と交渉するが、単に出向したくないという
感情的理由だけの場合等、出向を拒否する理由が客観的に適当とは認められない場
合には、その立場に立ち得ない旨の見解であったことが認められる。
 そして、昭和六三年三月二日に改定された社外勤務協定についても、労使間でか
なり厳しい交渉の末、被告の提案が労働組合の要求により一部変更される形で合意
に至っており、本件計画に基づく日鐵運輸への業務委託及び本件出向についても、
その必要性や具体的な措置について労働組合の了解の下で行われ、特に、本件出向
における出向者の勤務形態については、原告ら職場の労働者の意見を背景に労働組
合が強く要求したことより、被告の勤務形態を維持できるように、出向先会社であ
る日鐵運輸の勤務形態とは異なる特例的な措置がとられていることが認められる。
 したがって、本件出向命令当時、出向を含めた社外勤務に関する就業規則、労働
協約及び社外勤務協定の規定を前提に、本件出向のような、業務委託に伴う期間が
長期化することが予想できる出向についても、その必要があり、出向者に労働条件
や生活環境の上で問題とすべき事情がなく、適切な人選が行われるなど合理的な方
法で行われる限り、出向者の個別具体的な同意がなくても、被告は出向を命じるこ
とができることが慣行として確立し、このことが被告と原告らとの間の労働契約の
内容として含まれていたと認めるのが相当である。
5 就業規則及び労働協約に関する原告の主張について
 原告らは、出向に関する事項は、使用者が一方的に定める就業規則の規定範囲に
属さず、また、協約自治の限界を超えているという。
 しかし、確かに、就業規則ないし労働協約に規定する内容は無制限ではなく、一
定の限界が存在するが、出向に関する事項については、労働契約の内容として、合
理的内容である限り当然定め得ると解するのが相当であるし、これを就業規則や労
働協約から一切切り離してしまうことが、労働者の権利保障につながるものである
か疑問というべきである。
 そして、原告らは、本件における就業規則や労働協約の規定は、出向先の限定が
なく、出向社員の身分・待遇等を明確にする規定もなく、出向期間についての規定
もなく、復帰の際の条件についても何らの規定が設けられておらず、およそ合理的
な内容とはいえず、このような抽象的な規定を出向命令の根拠とすることはできな
いなどと主張する。
 しかし、就業規則及び労働協約における社外勤務に関する規定自体は単純で抽象
的なものであるが、前記のとおり、労働協約の規定を受けて労使間で締結された社
外勤務協定が存在し、そこでは、出向期間等について具体的に定められており、ま
た、個々の出向に関しては、労使間で出向先や要員等について協議され、労働組合
の了解の下に実施されてきた慣行が存在するのであって、本件出向命令の法的根拠
を検討するにあたって、これらの点も総合的に考慮されるべきであるから、就業規
則及び労働協約の規定の形式的文言をことさら強調する原告らの主張は失当といわ
ざるを得ない。
6 出向命令の運用について
 さらに、原告らは、被告における出向命令の運用として、出向者の具体的同意を
得るという解釈・運用が定着していたと主張し、確かに、過去に同意しない者に出
向命令が発令されなかった事例が存在する。
 しかし、右事実を以て、出向者の具体的同意を得るという解釈・運用が定着して
いたとまで認めることは困難である上、かえって、前記のとおり、労働組合が、あ
らゆる場合に出向者の個別具体的同意がない限り、出向を認めないという立場では
なかったというべきであり、原告ら主張の運用を要求していたとの事実を認めるこ
ともできない。また、原告らが援用する出向合意確認報告書(甲一三)は、八幡労
組労働企画部宛のもので、組合として会社との対応のため作成しているものであっ
て、これがあるからといって出向者の個別具体的同意を必要とする運用があったと
認めることはできない。そして、他に右運用の事実を認めるに足りる証拠はなく、
原告らの右主張は採用できない。
三 本件出向命令の必要性について
1 中期総合計画発表当時、急激な円高ドル安が進行し、被告ら高炉五社が一斉に
中間配当の見送りを発表し、被告自身も巨額の経常損失を計上し、鉄鋼業界全体が
構造不況業種の指定を受け、雇用調整助成金の交付を受けるなど、被告にとって厳
しい経済情勢にあり、中長期的な鉄鋼業界の見通しとしても、学者や経営者だけで
なく、鉄鋼業界の労働団体の代表者も構成員として参加していた通商産業省の諮問
機関が固定費削減や余剰設備削減、さらには、出向の必要性を含む人員合理化の必
要性等を示唆する報告を出し、これを受けるような形で、被告だけではなく、他の
高炉大手各社が、対応策として要員削減を中心にした合理化を目指す中期的な経営
計画を相次いで発表する状況であった。
 さらに、八幡製鉄所における構内輸送部門の労働生産性は、被告の他の製鉄所や
他の大手製鉄会社の製鉄所に比べて低く、これを改善する必要に迫られていたこ
と、他の製鉄所においては、輸送を専門とする協力会社に全面的に構内輸送部門を
業務委託される傾向にあったのに対し、八幡製鉄所においては、構内輸送部門のう
ちの原告らが属していた鉄道輸送業務については、ほとんど従来からの被告の直営
体制が維持されていたことが認められ、このような状況の下で、被告が、当時、八
幡製鉄所における構内輸送体制を抜本的に改める必要性を感じていたことには十分
な理由があると認められる。
 したがって、このような状況下において、被告が本件計画の一環として八幡製鉄
所の鉄道輸送業務を日鐵運輸に業務委託し、それに伴う本件出向措置を実施しよう
としたことは、経営判断として合理的なものと認めることができ、労働組合として
も、十分検討し評価した上で、最も重視する組合員の雇用確保の要請と合致するも
のとして一連の施策それぞれについて、いずれもその必要性及び施策の内容の合理
性を了解する態度を表明したとみるべきであって、原告らが主張するような、被告
のその後の決算内容の改善の経過の事実を以て本件計画及びそれに伴う一連の施策
全体が労働者を犠牲にした攻撃的で恐意的な経営判断に基づくものであるとするこ
とは適当ではないというべきである。
 また、原告らは、従事する信号業務ないし信号列車整理業務だけを直営で行えば
よいというが、これが現実的でないことは明らかであるし、原告らは管理部門の輸
送計画作業が直営で残されたこともその理由にあげるが、本体的業務である生産工
程を管理する輸送管理部門を被告が直営で行う必要があることは明らかであり、そ
のことを理由に他の業務委託の必要性を論じることはできないというべきである。
 なお、原告らは、本件出向は雇用調整型の出向であって、整理解雇の法理に類似
した限定的な解釈が必要となるから、業務上の必要性を厳格に考えるべきであると
主張するが、そもそも業務委託に伴う出向が雇用調整のための整理解雇回避の措置
であるとすること自体が疑問である上、本件出向が実質的には整理解雇回避の措置
であると認めるに足りる事情は認められない。
四 本件出向命令の合理性について
1 本件出向は復帰の可能性がなく、不合理であるとの点について
 本件出向は付帯的事業である構内輸送部門の業務委託に伴うものであるため、出
向期間の長期化が避けられず、原告らについても、三年の出向期間が既に二度延長
されている。
 しかし、本件出向がいわゆる転籍出向ではなく、後記のとおり、本件出向が長期
化することによって原告らに相当の不利益が生じたと認めることはできないから、
出向期間の延長自体を特に強調することは適当ではないし、また、原告らに復帰の
可能性が全くないと断定できる事情は認められず、これを認めるに足りる証拠はな
い。
 もっとも、原告らが指摘するように、平成六年三月三〇日、被告が連合会に提案
した第三次中期経営計画及びそれに伴う人員措置の中で、五五歳以上の出向者を対
象に転籍が奨励されている事実が認められる(甲一一〇)が、本人の同意なしに業
務命令としての転籍命令が発令されているわけではなく、転籍者に対しては、六〇
歳までの給与の差額を退職金に上乗せする形で退職一時金として支払うなどの一定
の配慮が認められ、転籍が強要されていることを窺わせるに足りる事情は認められ
ない。
2 出向による原告らの不利益等
(一) 原告らは、①被告と日鐵運輸との年間休日差は、出向者にとって、国際的
な労働時間短縮の流れに逆行する著しい不利益である、②被告はこの差を「出向手
当B」によって補填しているというが、過勤務手当から出向手当Bへの不利益変更
自体が不当である上、原告らの格差が年々拡大している、③原告らの本件出向後の
残業時間が出向前にかなり増加し、本件出向により労働強化が進んでいるなどと主
張する。
(二) しかし、そもそも、出向において、出向元と出向先とで労働条件が全く同
一であることは通常考えられず、出向によって労働条件の一部に不利益が生じるこ
とは避けられないが、出向命令の合理性を判断する際は、労働条件の変化を形式的
に比較するだけでなく、当該出向措置の必要性の検討と合わせて労働者の生活環境
や労働環境にどのような影響が生じたかを総合的に考察すべきである。
 そうすると、出向者の労働条件については、社外勤務協定(乙四)に、「出向者
の就業時間、休日、休暇等就業に関しては出向先の規定による。」(六条一項)と
規定されているから、原告らは日鐵運輸の就業規則に従うことになるから、原告ら
が主張するとおり、現在は、日鐵運輸の方が所定休日日数が少ない事実が認められ
る。しかし、これは、本件出向後に、被告がいわゆる時短を実施したことによるも
ので、原告らの労働条件を切り下げたとみることはできない。また、休日日数につ
いては、被告における就業規則(乙一等)によれば、社内勤務者の間においても、
労働者全員に画一的に定められているわけではなく、勤務形態に対応して定められ
ており、勤務形態によって生じた格差は諸手当の支給によって補填される仕組みで
あるから(乙一三七の一ないし三)、この点をことさら強調することは相当ではな
い。
 そして、休日日数の格差については、昭和六三年四月一日から施行された新たな
社外勤務協定において、従来、過勤務手当により所定内労働時間差を填補してきた
扱いから、年間支給額(出向先と被告との所定内労働時間差につき、区分に応じて
二五時間ごとに年間三万円単位で支給するが、施行から一八か月間は、移行措置と
して四万円を単位とする。)を月割で支給し、これを過勤務及び深夜手当の単価算
定の基礎給に含めるという扱いに変更されており、この点だけをみれば、一定の不
利益が生じているといえるが、金額的にみて、原告の計算によっても年間数万円の
差が生じるにすぎず(甲一一二、一五二)、この程度の変更で労働条件に相当の不
利益を与えたものと認めることはできないし、この社外勤務協定の改定は、組合員
の意見を代表する連合会が被告との間で数回にわたり厳しい交渉を行った末、連合
会の要求を一部いれた形で修正がなされ、改定された事実が認められ、その経緯か
らみても相当な内容であったというべきである。
 なお、原告らは、被告勤務が続いていればそれだけの過勤務手当を貰えるはずだ
として休日日数差を問題としているが、これは仮定の主張にすぎず、被告において
は、本件出向前には雇用調整のために休業措置等も行われていた(乙一二三)ので
あるから、原告らの右主張は相当ではない。
 また、出向後の残業時間の増加の点については、確かに、本件計画が八幡製鉄所
の鉄道輸送部門におけるDL運転者等の余力人員の一掃を目指すものであったか
ら、余力人員がなくなったことによって、原告らの残業時間が増えた事実が認めら
れるが、本件出向前の被告においては、雇用調整のための休業措置等が行われてい
たのであるから、出向前後を単純に比較することが適当であるか疑問であるし、原
告らの主張を前提にしても、出向後の平均的残業時間は月七ないし八時間程度であ
ることが認められ(甲一一三、甲一五五)、これを不当な労働強化ということは困
難である。
 したがって、これらの点については、いずれも、ことさら出向によって不当な不
利益を受けたと強調すべきものではない上、原告らには、本件出向前後で、勤務場
所、職場環境及び職務内容に変化はなく、本件出向措置についての労使の折衝の中
で問題とされた勤務形態についても、日鐵運輸の就業規則とは異なる例外的な特例
措置がとられ、出向前の勤務形態がほぼ維持されていることが認められるので、原
告らには、新しい勤務につくことによる苦痛は生じず、通勤場所が変わることによ
る家庭生活等に対する影響もない。
 原告らの労働条件等について、右の点以外に出向前後で特に不利益が生じた点は
見当たらないので、原告らに相当な不利益が生じたと認めることはできない。
(三) なお、原告らは、日鐵運輸の原告らに対する配転命令ないし他の会社への
再出向命令の可能性を強調するが、現実に原告らに対する配転ないし出向が実施さ
れた場合に当該措置の有効性が問題になることは当然であり、本件においては、確
かに、平成六年三月、被告が八幡労働組合に対し、出向者に対する出向先での要員
の弾力的運用としての配転等を認めることを提案し、連合会がこれを了解した事実
が認められる(甲一〇一ないし一〇三、乙一三六、乙一七五)が、これを以て、原
告らに対する右可能性が現実化しているということはできないし、他にこれを認め
るに足りる証拠はないから、右可能性を否定できないからといって、本件出向命令
の合理性を否定するのは相当ではない。
3 要員設定、人選基準及び方法について
(一) 原告らは、①被告は三〇名を直営の輸送掛に残し、三〇歳代以下の若年者
一〇名を所内配転しだが、原告らを直営部門に残すことは十分可能であった、②出
向者の人選基準には合理性がない、③当該職場の全員に出向の打診をしていれば、
同意して出向する者だけで要員が確保できたなどとして、本件出向に関する人選が
不合理であったと主張する。
(二) しかし、①については、多数の従業員を擁する被告にとって、将来的な経
営計画において従業員の年令構成に配慮することは一定の経営裁量を有する企業と
して当然のことであり、これを非難することは相当ではない上、直営部門への配置
の点についても、業務の円滑な作業状況を確保するためには、それまでの各人の技
能や経験に応じて決定されるべきであることは当然であって、構内輸送作業全体を
管理する直営部門に、そのような作業経験のない原告らを配置することが適当であ
るとは認められない。
 次に、②については、原告らの職場においては、高齢者と病気休職者を除外した
残りの全員が出向しているのであって、出向者選択の公平性に特に問題とすべき点
は認められない。
 また、③については、出向に応じる者だけで必要な要員が確保できる可能性があ
ったとも考えられるが、業務委託の趣旨からすれば、出向に応じる者だけで要員を
確保すればよいというものでないことは明らかであり、業務委託実施後の円滑な作
業環境確保のためには適正な人選基準が必要なのであって、だからこそ、八幡労組
もそのような要求をしていないのであり、本件出向における人選基準には合理性が
認められるのであるから、原告らの右主張は失当である。
(三) なお、本件出向命令に至る、原告らに対する説得の方法等が脅迫等不当な
ものであるとは認められないことは前記のとおりである。
五 まとめ
 したがって、本件出向は、業務委託に伴う期間が長期化することが予想される出
向であるが、その必要があり、原告に労働条件や生活環境の上で問題とすべき事情
がなく、相当な要員設定と人選の下で行われるなど合理的な方法で行われたもので
あり、原告らの個別具体的な同意がなくても、被告は出向を命じることができたと
認められ、原告らは、労働契約上の義務として本件出向命令に従う義務があり、出
向法律関係が有効に成立しているものと認められる。
六 本件出向命令が権利濫用との主張について
 原告らは、本件出向措置ほ、背景となる本件計画及び中期総合計画の経営上の必
要性、日鐵運輸に対する業務委託の必要性及び合理性、出向者の選定基準及び具体
的人選の合理性がいずれも認められない上、およそ復帰の目処がない実質的には期
間の定めがない不合理な措置であるにもかかわらず、原告らに対し出向先での労働
関係や転籍の不安について十分に説明せず、出向回避措置を全く検討せずに強行さ
れたものであって、権利濫用であると主張する。
 しかし、出向回避措置の必要性については、出向一般にそれを要求すべきである
と解することは困難である上、前記のとおり、当時の経済情勢からすれば、本件出
向命令に至る一連の措置の必要性、合理性が認められ、連合会ないし八幡労組も、
当該職場の個々の労働者の事情を十分考慮し、それぞれの必要性及び合理性につい
てその都度検討した上で、被告に対し了解の態度を表明しているのであるから、特
に出向回避の措置が必要であったということはできないし、出向先での労働条件や
出向者の人選基準についても事前に当該職場の全員に対し情報が開示されていたの
であって、原告らへの説明に不足があったとはいえず、本件出向命令を権利の濫用
であると認めることはできない。
七 労働者派遣法の脱法行為との主張について
 原告らは、本件出向命令は、労働者派遣法が、一般労働者として雇い入れた者を
労働者派遣の対象とする場合に当該派遣対象労働者の同意を要件としている(三二
条二項)ことを脱法するもので無効であると主張する。
 しかし、本件出向が、前記のとおり在籍出向であり、原告らが、被告との労働契
約関係において出向の義務を負い、日鐵運輸の定める労働条件に従い、その利益の
ため、その指揮命令下において労務に服するものであり、契約関係の一部が日鐵運
輸に移転し、原告らと日鐵運輸との間に契約関係が存在するのに対し、「派遣」労
働者においては、派遣先の従業員としての地位を一切有することなく、派遣先の使
用者と契約関係にないのであり(労働者派遣法二条一号)、この点からすれば、本
件出向が労働者派遣法にいう「派遣労働」に該当しないことは明らかというべきで
ある。もっとも、原告らが指摘するように、本件出向が「派遣」に類似する点が認
められるが、それは外形的な形態だけを取り上げて指摘したにすぎず、被告が原告
らを労働部労働人事室労働人事掛に配転した措置についても、出向者に関する人事
管理、勤務管理、給与管理等の事務処理上の便宜のため、出向措置一般の取扱いと
して行っているものであって、出向に伴い必要な措置というべきであり、前記のと
おり、本件出向は、必要性、合理性に欠ける点はなく、適正に行われたものであ
り、実質的にみても「労働者派遣」に該当しないことは明らかであり、労働者派遣
法の脱法を目的としたものでないことも明らかである。
 したがって、原告らのこの点に関する主張は失当である。
第四 結論
 以上の次第で、原告らの請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民
事訴訟法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所小倉支部第二民事部
裁判長裁判官 山浦征雄
裁判官 犬飼眞二
裁判官 平島正道

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