弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 申請人が被申請人に対し雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。
2 被申請人は申請人に対し、金三三万三〇〇〇円ならびに昭和四六年三月以降本
案判決確定に至るまで毎月二一日限り金三万二九〇〇円を仮に支払え。
3 訴訟費用は被申請人の負担とする。
       事   実
第一、申立
一、申請人
 主文同旨。
二、被申請人
 本件申請を棄却する。
 訴訟費用は申請人の負担とする。
第二、申請人の主張
一、被申請人は、岩手県内の農業協同組合をその会員とし、会員およびその組合員
の経済的利益の追求を目的として事業を行う連合会である。
 申請人は、昭和三六年六月一日に長期(雇傭期間の定めのない)臨時職員として
被申請人に就職し、同四〇年四月一日に被申請人が後記准職員制度を設けた際に自
動的に同制度の准職員の事務雇員となり、以来被申請人の従業員としてその職務に
従事してきた。
二、被申請人は昭和四五年四月三〇日申請人に対し、申請人がその前日の四月二九
日に満三一才に達したので、准職員就業規則一五条一号に定める停年により退職す
べき場合に該当するとして退職辞令を交付し、以降申請人を従業員として扱わず、
五月分以降の賃金を支払わない。しかし、右停年制は後記六に述べるように無効で
ある。
三、申請人は昭和四五年四月までは、被申請人から月額二万八九〇〇円の賃金の支
払いを受けていたが、同年五月二日に申請人が加入している岩手県経済農業協同組
合連合会労働組合(以下労組という)と被申請人との間に賃金に関する協約が締結
されたことにより、同年四月より月額三万二九〇〇円の賃金を支給されることとな
つた。(したがつて被申請人が申請人に支払うべき賃金は同年四月分の差額四〇〇
〇円と同年五月分以降の賃金月額三万二九〇〇円である。)
 なお被申請人は毎月二一日を給料支給日としている。
四、申請人はその夫といわゆる共働きをしており、被申請人から支払いを受ける賃
金が申請人とその家族の生活を支えるために重要な部分を占めている。そこで目下
準備中の本案訴訟の判決確定まで賃金の支払いを受けることができないとすれば、
その生活を脅かされるおそれがあるので主文同旨の裁判を求める。
五、被申請人の主張二(停年退職制度の主張)に対する答弁と反論
1 (答弁)被申請人の主張二の1の事実(准職員制度の採用)のうち、被申請人
の職場には従来一般職員と臨時職員がいたこと、被申請人は昭和四〇年四月一日准
職員制度を採用し、その結果従来の臨時職員が准職員となり、准職員就業規則の適
用を受けることとなつたことは認めるが、その余の事実は否認する。
 同2(准職員制度採用の理由)および同3(准職員制度の内容)の主張は争う。
 同4の事実中、准職員就業規則一五条の規定及び被申請人と労組との協約締結の
事実は認めるが、その余は争う。
 同5の、右一五条が職種別停年制を定めたものである旨の主張は争う。
2 (反論)
(一) 被申請人は従前、従業員の雇傭制度に「通常の雇傭関係」と「長期(期間
の定めのない)臨時雇傭関係」とを併用し、一般職員については、定期採用による
場合のほか長期臨時職員の中から適宜登用するという方法をとつていたが、前記昭
和四〇年四月一日に同一事業場内に従前からの「従業員就業規則」があつたにもか
かわらず、さらに「准職員就業規則」を制定するという形で准職員制度を採用し
た。
 被申請人が准職員制度を採用したのは、従来の長期臨時職員を、より労務管理を
容易にし、経費の格安な別格の労働力に再編成する意図によるものである。
(二) 被申請人は准職員就業規則一五条は職種別停年制を定めたものである旨主
張するが、准職員の事務雇員(以下単に事務雇員という)と一般職員の事務職員
(以下単に事務職員という)とは職務分掌に区別はなく、現に事務雇員が事務職員
と同種の職務を遂行している事実があるから、右条項を職種別停年制を定めたもの
ということはできない。
 右条項は次に述べるとおり、実質的に女子の三一才停年という若年停年制を定め
たものである。
(1) 被申請人において准職員制度が制定された後に、女子の准職員から一般職
員に登用された例はまつたくなく(なお准職員就業規則および従業員が就業規則の
いずれにも准職員から一般職員に登用される手続規定はない)、また一般職員の定
期採用(形式としては見習職員の採用)に際しても女子は応募資格者から除外され
ている。したがつて、准職員制度設置後、被申請人において女子が一般職員に採用
される途は完全に閉されている。
(2) これを男子についてみるに、被申請人において准職員制度が設けられた当
時長期臨時職員であつた男子の事務系および技術系の従業員は、一応その職種別の
准職員となつたが、その後格別の手続もなしに例外なく一般職員に登用されてい
る。
 また定期採用によらず、年度の途中でいわゆる随時採用される事務系、技術系の
男子従業員は採用時から一定期間は准職員の事務雇員、技術雇員とされるが、長く
も一年未満で准職員をいつたん退職の形をとり、同時に一般職員として採用されて
いる(この場合には准職員在職期間を一般職員になるまでの見習職員期間と同視し
ていることになる。)。
 以上のとおりであるから被申請人においては女子従業員(准職員制度採用以前に
一般職員に登用された女子を除く)のみが准職員就業規則一五条一号の適用を受け
る結果となり、したがつて右条項は実質的に女子の三一才停年という若年停年制を
定めたものであることが明白である。
六、右のような、実質的に女子の三一才停年という若年停年制を定めた准職員就業
規則一五条一号は次に述べる理由により無効である。
1 右条項は女子職員に対し、同種の職務を遂行する男子職員の五五才停年と比し
て三一才停年を定め、明らかに女子を女性であるが故に差別待遇するものであつ
て、憲法一四条、労働基準法三条、四条に違反するので無効である。
2 仮に右に該当しないとしても、右条項は、男子の五五才停年に対して女子を三
一才で停年にする旨を定めたものであるから、女子を性別によつて著しく差別して
いる。また事務職に従事する女子職員が三一才以上になると、男子に比して殊に被
申請人に対する貢献度が低くなるとは考えられず、したがつて特にかかる差別を設
けることにつき、社会通念上是認しうる合理的根拠のない本件停年制は公序良俗違
反となり無効である。
3 さらに停年制とは一定年令に達することによつて画一的に当然雇傭関係終了の
結果を生ずるものであるから、職員にとつては実質上解雇と異ならない。したがつ
て解雇について厳格な解釈がとられ、解雇権の濫用が許されないのと同様、停年制
についても、社会通念上是認しうる強い合理的根拠がない場合には企業経営権の濫
用として右規定の如き停年制採用は許されないものである。
第三、被申請人の主張
一、申請人の主張一ないし四に対する答弁
 申請人の主張一の事実のうち申請人が被申請人に就職した日時および申請人が准
職員の事務雇員となつたのが自動的であるとの点を否認し、その余の事実を認め
る。
 申請人が被申請人に就職したのは昭和三六年一月であり、また申請人は自己の意
思により被申請人との間で新たに雇傭契約を締結して准職員の事務雇員となつたも
のである。
 申請人の主張二、三の事実は認めるが、同四の事実は否認する。
二、申請人は被申請人を停年退職したものである。
1 准職員制度の採用
 従来、被申請人の職場には通常の雇傭関係にある一般職員のほかに臨時雇傭の職
員がおり、その職務に従事していたが、被申請人は昭和四〇年四月一日准職員制度
を採用し、従来の臨時職員は本人の意思によつて被申請人との間に雇傭契約を締結
して准職員となり、従前から従事していた職種により「事務雇員」「タイピスト」
「事務オペレーター」等に区分されて新たに設けられた准職員就業規則の適用を受
けることとなつた。
2 准職員制度を採用した理由
(一) 被申請人は設立以来多種多様の事業を行なつてきたが、その後の事業等の
拡張に伴ない業務の内容が非常に多様化してきた。そのため被申請人は従前からあ
つた一個の就業規則(従業員就業規則)のみでは従業員全体を律することが困難と
なり実情に即しないこととなり、その結果「職種区分とこれに適応する就業制度の
設定」と「事業場の実態により適応する勤務条件の設定」の必要を生じた。
(二) 被申請人の職場における従来の臨時的業務の内容は簡易事務、労務的業務
が多かつたが、(一)に述べたように被申請人の業務内容が多様化してきたことか
らこれが拡大固定化の傾向を生じ、その結果従来臨時職員をもつて充当していた職
務について雇傭条件を安定させそれに相応した給与の改善等を図る必要を生じた。
3 准職員制度の内容
 右に述べた理由により、被申請人は概ね熟練度を中心とする比較的単純な事務、
キーパンチヤー、および主として体力に依存する作業職(以上はそれまで臨時職員
が担当していたものである)、これに寮母、給仕等を包含してこれら職種に適応す
る新たな就業制度(准職員就業規則)を制定した。これによつて臨時職員から准職
員となつた従業員の労働条件は安定し、それに相応した給与の引上げ、臨時手当の
支給、退職給与金の支給などの改善が行なわれた。
 なお申請人は、被申請人は従来「通常雇傭」と「長期臨時雇傭制度」とを併用し
ていたというが、制度としては「長期臨時雇傭制度」はなかつた。被申請人におい
て、業務繁忙の時期に随時雇傭を続けたことはあるが、それは「長期臨時雇傭制
度」ではない。
 また申請人は、被申請人は従来一般職員については定期採用による場合のほか長
期臨時職員の中から適宜登用するという方法をとつていたというが、一般職員の採
用の場合は定期採用が主体で、そのほかは臨時雇傭を経ないで直ちに本採用する場
合と、採用を前提として若干の試用期間をおいて採用する場合とがあつて、長期臨
時雇傭者の中からの適宜登用ということではなかつた。
4 准職員就業規則一五条は准職員の停年を職種別に次のとおり規定している。
(一) 事務雇員、タイピスト、事務オペレーター 満三一才
(二) 技術雇員、家庭薬配置販売員、作業雇員、運転士、工員、用務員、寮母 
満五〇才
(三) 給仕 満二〇才
 (なお准職員就業規則制定当初(一)の事務雇員等の停年は満三〇才となつてい
たが、その後被申請人は労組との交渉を経たうえ、昭和四四年三月二五日に右
(一)の事務雇員等の停年を満三一才とする旨の協約を締結している。)
 しかして准職員の事務雇員であつた申請人は昭和四五年四月二九日に満三一才に
達したので右条項により同年四月三〇日をもつて停年のため当然退職したこととな
つたものである。
5 准職員就業規則一五条は職種別停年制を定めたものである。
 申請人は右条項が職種別停年制を定めたものではない旨主張し、その根拠として
「事務雇員と事務職員とは職務分掌に区別がなく、現に事務雇員が事務職員と同種
の職務を遂行している」旨主張する。
 しかし被申請人の事業の内容は購買、販売、畜産、共同利用関係等と範囲が広汎
であるが、近時の農業技術の進歩、農村生活の多様化に伴なつて被申請人の業務は
ますます専門分化し、その処理には高度の技術と能力とが要求されるようになつて
きている。
 このため被申請人は、高度の知識を有する「事務職」および「技術職」(例えば
経営管理、税務会計、労務管理、プログラマー、システムプランナー、施肥技術、
農薬、店舗経営指導、生活改善、自動車技術および整備、水稲栽培、米保管管理、
果樹、園芸技術、畜産、酪農技術など)、あるいは「有資格者」(例えば危険物、
毒物取扱主任者、農機指導師、整備士、建築士、獣医師など)を多く必要としてお
り、これらの職員を基幹職員として採用してきている。
 そして事務職員は起案、指導、総括、改善などにあたり、支所にあつては現業担
当員の不在時の業務処理や業務の一部推進にあたつており、一方事務雇員は記録、
計算、照合等単純もしくは補助的事務を担当しており、両者の職務は明確に区分さ
れている。
 もつとも男子の一般職員はある期間、ある職種について准職員と同種の仕事を担
当する場合もあるが、それは基幹職員になるための経過として担当するものであつ
て、そのような場合でも一般職員には能力と責任を強く求めているものであり、担
当する業務に同一同種の面があるとしてもその職務は同一ではない。
 また申請人は准職員就業規則一五条は実質的に女子の若年停年制を定めたもので
ある旨主張し、その根拠として「女子の准職員からは一般職員に登用された例がま
つたくないのに、男子の事務系、技術系の准職員は格別の手続もなしに例外なく一
般職員に登用されていること、さらに一般職員の採用に際し女子は応募資格から除
外され男子のみを採用していること、したがつて女子のみが右条項の適用を受ける
ことになる」旨主張する。
 しかしながら被申請人が必要とする能力、技術を有する者は必要があれば採用す
ることとしており、現に女子であつても准職員制度発足後、一般職員の規定を適用
のうえ一般職員として雇傭している実例がある。
 また男子の准職員のうち申請人主張のような経緯で一般職員に登用された者はた
だ一人あつただけであり、しかもその者は技術者としての資格を取得した結果一般
職員に採用されたものである。
 さらに被申請人は申請人が主張するように男子のみを一般職員に採用することと
しているが、その理由は左記のとおりである。
(1) 被申請人の業務内容は前記したとおり専門分化してきており、その業務処
理には高度の能力、技術や資格が要求され、特別な場合以外は女子では困難な実態
にあること。
(2) 被申請人の職場は、単なる事務所ばかりでなく、多くの事業場を有してお
り、事務所形態をとつている本所あるいは支所にあつても、いわゆる事務的な仕事
というよりも、連合会としての立場から会員組合に赴き接衝し、あるいは指導、連
絡等対人接触業務が主体であり、特に現在においては会員組合の業務をカバーする
面が相当に多く、直接農家に接触し指導するなど、行動力も要求されていること。
(3) 被申請人の仕事の相手先は主としていわゆる農協系統の組織であつて、農
業経営、農家経済、系統組織各段階経営体相互関連の合理化を目標とするものであ
り、かつ一方日常の仕事においても、理論づけられた仕事の運びが重視される状況
もあつて、系統下部からかなり強い要請(ツキ上げ)等があり、これらの対応面が
多く、理論性、農政感覚を必要とし、また強じんな精神力と交渉力、指導力を要求
されている実態にあること。
 (なお、現在事務職員の中に女子が一六名いるが、そのうち五名は被申請人が発
足する以前の団体から引き続き勤務している者であり、他の一一名は被申請人発足
後准職員制度が制定される前に本人の能力認定と被申請人の必要によつて採用され
たものである。)
以上のとおりであるから准職員就業規則一五条は女子の若年停年制を定めたもので
ある旨の申請人の主張は失当である。
三、申請人の主張六について
 1ないし3の主張はすべて争う。
 被申請人が事務雇員の停年を三一才としたのは左記理由によるものである。
 前記のとおり事務雇員が担当する業務と事務職員が担当する業務は明確に区別さ
れており、したがつてこのことから事務雇員に対する雇傭条件や労務管理が一般職
員に対するそれと異なつてくるものであることは当然であり、このように扱うこと
が社会常識に背馳するとは考えられない。
 ところで、被申請人は将来電算機の導入によつて、現在事務雇員が担当している
単純、補助的業務を殆ど解消してしまうことを目標としている。そこで被申請人は
事務雇員を、将来他の事務補助職(例えば事務オペレーター等)に配置転換できる
ことを前提として事務雇員に対する採用管理等を行なうこととしている。したがつ
て事務雇員に対する停年の基準についても事務オペレーター等他の事務補助職への
配置転換が可能とみられる範囲で定めているものである。このことは適正人員の確
保と業務能率の維持上、経営の立場からは絶対守らなければならないことである。
第四、証拠関係(省略)
       理   由
一、次の事実は当事者間に争いがない。
1 被申請人は岩手県内の農業協同組合をその会員とし、会員およびその組合員の
経済的利益の追求を目的として事業を行う連合会である。
2 被申請人は従前からその事業所、事務所等に通常雇傭の一般職員と臨時雇傭の
臨時職員を配置して業務を執行してきたが、昭和四〇年四月一日に准職員制度を採
用し、従前からあつた「従業員就業規則」のほかに新たに「准職員就業規則」を設
けた。
3 その結果、従来の臨時職員は従前から従事していた職種により、「事務雇員」
「タイピスト」「事務オペレーター」等に区分されて准職員となり、右准職員就業
規則の適用を受けることとなつた。
4 申請人は昭和三六年以来臨時職員として被申請人に勤務していたが、前記准職
員制度が設置された際、准職員の事務雇員となりその職務に従事してきた。
5 被申請人は昭和四五年四月三〇日申請人に対し、同人がその前日の四月二九日
准職員就業規則一五条一号に定める満三一才の停年に達したとして退職辞令を交付
し、以降申請人を従業員として扱わず、かつ同年五月分以降の賃金を支払わない。
二、准職員就業規則一五条一号には当初事務雇員の停年を三〇才とする旨規定され
ていたが、昭和四四年三月二五日に被申請人と労組との間に右停年を三一才とする
旨の協定が締結されたため、就業規則もそのように改められたことは当事者間に争
いがなく、成立に争いのない甲八号証によれば一般職員の停年はその職種を問わず
五五才とされていることが認められる(被申請人の従業員就業規則七一条)。
 申請人は「右准職員就業規則一五条一号の規定は実質的に女子の三一才停年とい
う若年停年制を定めたものである」と主張し、被申請人は「右規定は職種別停年制
を定めたものである」と主張して争うので、以下判断する。
1 (右条項は職種別停年制を定めたものであるか否かについて)
 まず右一五条は単に「准職員の停年は職種により次のとおりとする云々」と規定
している。したがつて同条は准職員について職種別に停年を定めた規定のようにみ
える。
 しかしながら成立に争いのない甲一五号証、同一九号証、証人Aの証言によつて
真正に成立したものと認められる甲二号証、同一八号証、申請人本人尋問の結果に
より真正に成立したものと認められる甲一号証、証人Aの証言ならびに申請人本人
尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(一) 被申請人には昭和四五年五月以降約二六〇名の事務職員(うち一六名は女
子)と約六〇名の女子事務員が勤務しているが、そのうちの一部の事務雇員は左記
のように事務職員と同一内容もしくは同種の業務を担当している。
(1) 遠野支所勤務の事務雇員Bは次表のとおり北上支所勤務の事務職員Cと同
一内容もしくは同種の業務を分担している。
<17888-001>
(2) 一関支所勤務の事務雇員Dは次表のとおり花巻支所勤務の事務職員Eと同
一内容もしくは同種の業務を分担している。
<17888-002>
(3) 本所経理課所属の事務職員Fは「自主流通米の精算に関する業務」を担当
しているが、同課所属の事務雇員Gは「園芸農林関係および畜産関係の精算に関す
る業務」を担当している。(両者はいずれも精算に関する業務で取扱品目が異なる
だけである。)
(4) 本所経理課所属の事務職員H、同Iはそれぞれ入力に関する業務、取扱品
目の棚卸業務、関係帳票の整理保管の業務(Hは生活関係、Iは農業機械、設計建
築、燃料、運輸車輛関係)を担当しているが、同課所属の事務雇員Jは飼料関係の
入力に関する業務、同品目の棚卸業務、関係帳票の整理保管業務を担当している。
(両者は取扱品目が異なるだけで業務内容はまつたく同一である。)
(5) 本所畜産技術課所属の事務職員Kは乳牛登録に関する業務、証明書の発行
および事故処理に関する業務を担当しているが、同課所属の事務雇員Lは和牛登録
に関する事務、証明書の発行および事故処理に関する業務を担当している。(両者
は取扱う牛の種類が異なつているだけで業務の内容はまつたく同一である。)
(二) また被申請人の職場内においては、左記のとおりそれまで事務職員が担当
していた業務を事務雇員が引継いで担当する例と、逆にそれまで事務雇員が担当し
ていた業務を事務職員が引継いで担当する例とがある。
(1) 遠野支所勤務の事務職員Mが他に転出したあと、それまで同人が担当して
いた業務を事務雇員のBが引継いで担当している。
(2) 申請人は昭和三九年四月(当時は臨時職員であつた)、本所財務課に配置
されたが、その際それまで事務職員のNが担当していた現金出納業務を引継ぎ、以
後三年間位担当した。
(3) さらに申請人は昭和四二年四月本所米麦課に配置替えになつたが、その
際、それまで男子の事務職員が担当していた業務の一部を引継いで担当した。
(4) 事務職員のOは昭和四四年頃本所財務課から本所農業機械課へ配置替えに
なつたが、その際それまで事務雇員のPが担当していた業務を引継いで担当してい
る。
(5) 本所財務課所属の事務職員Qは昭和四五年春頃、それまで自分が担当して
いた借入事務、手形授受、小払資金、積立金に関すること等の業務を事務雇員のR
に引継いでいる。
 以上(一)、(二)の認定を覆すにたりる証拠はない。
 右のとおりであるから事務職員と事務雇員の職務は明確に区分されている旨の被
申請人の主張はとることができず、したがつて、前記准職員就業規則一五条一号の
「事務雇員は三一才をもつて停年とする」旨の規定は職種別停年制を定めたもので
あるとの被申請人の主張もまたとることができない。
 なお、被申請人は右の点に関し、「事務雇員と事務職員とが同一内容もしくは同
種の業務を担当する場合があるとしても事務職員のほうが事務雇員よりも重い責任
を負わされている」旨主張し、証人S、Tの各証言中には右主張に副う部分がある
けれども、前記認定のとおり事務雇員は事務職員と同一内容もしくは同種の業務を
一人で担当する場合があるほか、事務職員との間で相互に担当事務の引継ぎをする
場合もあるのであるから、右のような場合に被申請人が事務職員に対して事務雇員
より重い責任を負わせているものとはとうてい認めることができず、したがつて前
記各供述部分は採用することができない。
2 (准職員就業規則一五条一号は女子を対象とした若年停年制を定めたものであ
るか否かについて)
(一) まず、被申請人は毎年春定期的に新学卒者を対象として事務職員等一般職
員の募集(形式としては見習職員の募集)を行なつているが、その際応募資格者か
ら女子を除外していることは当事者間に争いがない。(したがつて女子が被申請人
に雇傭されるのは准職員として採用される場合に限られることとなる。)
(二) そして前掲1掲記の各証拠と証人Uの証言によれば、次の事実が認められ
る。
 被申請人において准職員制度が採用されて以来、女子の准職員(事務雇員を含
む)が一般職員(事務職員を含む)に登用された例はまつたくなく(被申請人は登
用した例がある旨主張するが本件全証拠によつても認めることができない)、これ
に反して准職員制度採用時事務雇員となつた男子はその後例外なく全員が事務職員
となつており、また右制度設置後事務雇員として採用された男子は採用時から一年
未満で例外なく全員が事務職員に登用されている。
 右認定を覆すにたりる証拠はない。
 右(一)、(二)のとおりであるから男子の事務雇員が准職員就業規則一五条一
号の適用を受けることはなく、結局右条項の適用を受ける事務雇員は女子に限られ
ることになる。
 右のようにその運用の実態によつてみれば、右条項は実質的には女子の事務雇員
等に限り三一才をもつて停年とする旨のいわゆる女子の若年停年制を定めたもので
あると認めざるをえない。
三、次に右認定のとおり実質的に女子の若年停年制を定めた准職員就業規則一五条
一号の規定の効力について判断する。
 申請人は前記条項は女子を女性なるが故に差別待遇するものであつて憲法一四
条、労働基準法三条、四条に違反するので無効であり、仮にそうでないとしても右
条項は公序良俗違反となり無効である旨主張する。
1 まず憲法一四条一項は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、
性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別さ
れない」と規定している。しかして右規定は国家と国民との関係における法の下の
平等を規律するものであり、本件のような私人間の法律関係を直接規律するもので
はないから右規定は本件には適用がないと解するのが相当である。
2 次に労働基準法三条は国籍、信条または社会的身分を理由とする差別を禁止
し、同法四条は性別を理由とする賃金の差別を禁止している。
 しかして右労働基準法三条、四条が前記憲法一四条一項の規定を受けて私人間の
法律関係をも規律するために設けられた規定であることからすれば、本件について
右労働基準法三条、四条を適用する余地がありそうに思われる。しかしながら同法
一一九条は同法三条、四条違反の使用者に対する罰則を定めているのであるから、
罪刑法定主義の建前からして右条項を拡張して解釈することは許されないものとい
うべきである。してみると労働基準法三条、四条は性別を理由に賃金以外の労働条
件について差別することを直接禁止の対象とはしていないものと解するのが相当で
ある。
3 ところで前記のように憲法一四条一項は私人間の法律行為を直接規律するもの
ではないけれども、私人間相互の関係において性別を理由とする合理性のない差別
を禁止することは憲法を初めとする法の基本理念であるといわなければならない。
 右のような観点に立つて労働基準法をみるに、前記の同法三条、四条は性別を理
由に賃金以外の労働条件について差別することを直接禁止しておらず、却つて同法
一九条、六一条ないし六八条等は女子の保護のため、男子と異なる労働条件を定め
ていることが認められる。しかして右のような労働基準法上の諸規定を斟酌する
と、同法は性別を理由とする労働条件の合理的差別を許容し、その反面前記したよ
うな法の基本理念に鑑み、性別を理由とする合理性を欠く差別を禁止しているもの
と解される。そしてこの禁止は労働法上公の秩序を構成するものと解されるから、
労働条件について性別を理由とする合理性を欠く差別を定める就業規則は民法九〇
条に違反し無効となるというべきである。
 これを本件についてみるに、本件の停年制の内容は一般職員(事務職員を含む)
の停年が五五才であるのに対して、女子の事務雇員の停年は三一才と著しく低いも
のであり、かつ三一才以上の女子であるということから当然に企業に対する貢献度
が低くなるとは言えないから、他にこの差別を正当づける特段の事情のない限り著
しく不合理なものとして民法九〇条違反として無効となると解すべきである。
 被申請人は差別を正当づける特段の事情として(一)事務雇員はもつぱら単純、
補助的業務を担当し、専門的知識や経験を必要とする業務を担当する事務職員と職
務において明確に区別されているからその雇傭、管理が事務職員のそれと異なるこ
とは当然であるし、被申請人においては現在事務雇員が担当している単純補助的な
業務を将来電算機を導入することにより解消してしまうことを目標とし、現在の事
務雇員を将来事務オペレーター等の補助職に配置転換することを前提として労働条
件等を定めており、停年の基準についても右のような補助職への配置転換が可能な
範囲で定めているものである旨主張する。
 しかし事務雇員でありながら事務職員と同一もしくは同種の業務を分担している
例のあること(したがつて両者の担当する業務が明確に区分されているとは言えな
いこと)は前記認定のとおりであるから、被申請人の右主張はその前提を欠き、と
うてい採用することができない。のみならず、証人Uの証言によれば、被申請人は
女子事務雇員についてはその潜在能力に期待していないうえ、その能力開発も考え
ていないことが認められ、しかも、三一才を越える女性(事務雇員たる場合)がそ
の能力において低下をきたすということは何ら合理的根拠を見出しえないものであ
る(被申請人はこの点については何らの資料を提出していない)。以上の点を考え
合わせると、被申請人は女子の若年労働力のみを低賃金で使用するという考え方が
根底にあつて、本件三一才停年制を定めたものといわざるをえない。
 以上の次第であるから、女子事務雇員の停年を三一才とし、一般職員(事務職員
を含む)五五才停年と差別する准職員就業規則一五条一号の規定は著しく不合理な
ものであり、民法九〇条に違反して無効であるといわなければならない。なお、事
務雇員等の停年を三一才と定めた昭和四四年三月二五日の被申請人と労組との間の
協定も同様に無効である。
 そうするとその余の申請人の主張について判断するまでもなく申請人はなお被申
請人に対し雇傭契約上の権利を有することが明らかである。
四、しかして被申請人が申請人を従業員として扱わず、かつ申請人に対し昭和四五
年五月分以降の賃金の支払をしないことは前示のとおりであり(なお賃金の額が被
申請人と労組との間の昭和四五年五月二日締結の協約により同年四月分以降月額三
万二九〇〇円となつていること被申請人における賃金支払日は毎月二一日であるこ
とは当事者間に争いがない。)、また申請人本人尋問の結果によれば申請人の夫は
現在会社員として一カ月四万五〇〇〇円程度の収入を得ているが、長男(三才)の
ほかに、病弱な夫の姉をも扶養していること、したがつて申請人の本件賃金の収入
がなければ申請人とその家族の生活を支えることが困難な状況にあることが認めら
れるので、申請人の賃金全額について保全の必要性があるものと認める。
 よつて、本件申請は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担に
つき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石川良雄 片岡正彦 鈴木勝利)

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